ダンジョンに騎士王(憑依)が現れるのは間違っているだろうか   作:ヨーグ=ルト

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六話

 道を歩く。

 

 時刻は朝の9時を過ぎた頃であり、街の住民も活動を開始している時間だ。飲食店などの店も朝食を取るために少ない人数ではあるが人が入っており、それなりに賑わっている。そして、道を歩く者の中で大多数を占めているのは、冒険者だ。武器を持ち、防具を身に纏い、ダンジョンに向かっている。本来なら俺も他の冒険者と同様にダンジョンに向かっていたのだが、今向かっているのはダンジョンではなくギルドである。

 

 何故かというと、昨日のダンジョンでモンスターから取ってきた魔石を換金して貰うためだ。昨日は魔石を取ってきたのはいいものの、出てきたのが夜遅くでヘスティアに言われた時間を完全に過ぎていたためギルドには行かずにそのまま帰ったため、昨日は収入はあれど得た金銭は未だゼロと言うわけだ。そのため昨日の手柄をきちんとした金銭に替えるためにギルドに向かっている。

 

 それならば、ダンジョンに潜って魔石を取ってきてから昨日の分も一緒に換金すればいいのではないか、と思うかも知れないがそう出来ない理由がある。

 

「ヘスティアめ……」

 

 今はここにいない、あの小さな女神に恨みがましい声を上げる。ダンジョンに行けない理由、それは今日の朝ヘスティアにダンジョン禁止令を出されてしまったのだ。理由は昨日の帰りがあまりにも遅かったからだろう。そのため今日はダンジョンに行くことが出来ず、換金をした後は何の予定もなくなるのだ。

 

「ふわぁ……」

 

 昨夜のヘスティアの長時間の説教のせいか、眠気がまだ残っている。本当ならこの時間もまだ寝ていたかったのだが、俺より先に目を覚ましたヘスティアがいつまでも寝ている俺に見かねたのか布団を引剥して起こしてきた。まだ眠かったのだが朝の気温は冷たく、仕方なしに起床したというわけだ。

 

「お、着いたか」

 

 いつの間にかギルドの近くまで来ていたようで、目の前には白い建物がある。それを見て今日の予定を決めながら中へ足を進めていった。

 

 

 

 

 

 ◼︎◼︎◼︎

 

 

「ごかぁいそうぅ~~~?」

 

 地の底から響くような声が聞こえてくる。その発生源は目の前で顔を顰めて怒気を漂わせている、俺の担当アドバイザーであるエイナさんからだ。

 

「いや、あの……」

「きぃみぃはぁ! 自分が昨日冒険者になったばっかりって事忘れてない!? 駆け出しの冒険者は初日から一階層から下の階層に行くなんて普通考えないよ!? いったいどんな神経してたらそんな事出来るのッ!?」

 

 昨日ヘスティアに言われたような事を再び言われる。しかもかなり大きな声で怒鳴っているため、回りにいる他の冒険者や受付の人達の注目を集めてしまう。しかし、エイナさんはそんな事など目に入っていないのか構わずに説教をヒートアップさせていく。

 

 彼女がこんなにも激怒している理由は言うまでもなく、昨日のことである。しかしヘスティアとは違い潜っていた時間ではなく、階層。俺が昨日五階層まで潜ったことにとてもご立腹のようだ。駆け出しの冒険者が五階層まで潜るなんて自殺行為だ、ダンジョンの地理を知らないでいくなんて迷ってしまったらどうするつもりだ、なんてことをさっきから俺に大声で言ってきている。

 

 その後もしばらく俺に向けて、俺が昨日したことがどれほど無謀で危険なことなのかを延々と怒鳴り聞かせてきた。しかし、そう言われても俺としては一階層や二階層で戦ってみて行けそうなので下の階層に降りたにすぎないので、無謀やら危険と言われても時に危険を感じなかった身としては実感することが出来ない。そんな事を言えば火に油を注ぐようなものなので口を閉じておく。

 

 それからしばらくマシンガントークは続き、数分程経つと一応言いたいことは言えたのかエイナさんは一度深呼吸をして再びこちらを半眼で睨みつけるように見る。どうやらまだ怒りが収まったというわけではないようだ。

 

 じっとこちらを見てくるエイナさんに嫌な予感がする。昨日冒険者登録が終わり、ダンジョンに行こうとした俺にエイナさんが提案をしてきた時のように。

 

「……勉強よ」

「へ?」

 

 そして、目の前の女性はその予感を裏付けるように呟く。

 

「これからダンジョンの講義をします。ちなみに拒否権はありません」

「え、い、いや。今日はダンジョンに行って魔石を取ってこないといけないから、残念だけどそれは―――」

「担当アドバイザーとして、あなたの知識不足はダンジョンに潜るのに致命的なものとみなし、最低限の知識をつけるまでダンジョンに潜るのを禁止します」

「ちょっ」

 

 こちらの必死の抵抗をばっさりと切り捨て、完全に講義をする気になっているエイナさん。心なしか彼女の眼鏡も一段と輝いている気がする。それに嫌な予感がして、他のギルドの職員が助けてくれることを期待して周りを見回してみるも、目があった職員は高速で顔をそらし自分の仕事に移っていく。

 

 そうしている間に手をがっしりと捕まれ、ずるずると怒り狂ったエイナさんに連れて行かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた」

 

 ぐったりとして机に突っ伏す。辺りには背の高い本棚で埋め尽くされており、重厚な柱は濃茶色で染められている。本棚の中にはダンジョンに出てくるモンスターの図鑑などが多く並べられており、図書館のような場所である。しかし、実際にはギルドに設置されている資料室であり、冒険者の姿はなく、ギルドの職員の姿も殆どいない。そんな中で俺はエイナさんのダンジョンの講義を受けていた。ダンジョンの構造から出てくるモンスターの名前、特徴、弱点までみっちりと教えこまれた。しかもエイナさんは見かけによらず意外とスパルタで、合格点を取れるまで再テストを繰り返すという鬼教師っぷりを見せてくれた。その証拠に、俺の左右に不合格のテストの答案が積んである。

 

「まぁ、ぎりぎり合格点かな」

「難しすぎる……」

「こんなのはダンジョンに潜る上では知っていて当然の知識。知識不足で命を落とすなんて嫌でしょ? しかも満点じゃないんだから、もっと勉強しなきゃだめだよ」

「ぐっ……」

 

 ダンジョンではなにが起こるか分からない。下へ潜れば潜るほどモンスターが生まれる間隔は短くなるし、構造は複雑になっていく。駆け出しの冒険者が調子に乗って下の階層に潜り、複雑な構造に迷ってモンスターの多さに対応しきれずに死んでしまうというのは割とよくある話らしい。

 なので最初のうちは一人で行かず、同じファミリアの先輩冒険者に教わりながらだんだんと慣れていくらしい。しかし、ヘスティア・ファミリアは構成員が俺一人しかいないため、ダンジョンの危険を懇切丁寧に教えてくれる人物はいない。そのため、ダンジョンに潜って実戦で学んで行くしかないのだ。まぁ、それでも事前に知識を得られるというのはありがたい。

 

「いい? ちゃんと最初のうちは一階層や二階層でアビリティを上げて、準備をちゃんとしながら到達階層を増やしていくんだよ?」

 

 ステイタスのアビリティというのは冒険者として重要なもので、アビリティのランクが低い者が下の階層に行くというのは自殺行為に他ならない。その理由はダンジョンのモンスターは下に行けば行くほど強くなっていくからである。俺が目覚めた階層、いわゆる中層と呼ばれるところは上層のゴブリンやコボルトといった雑魚モンスターが大勢いる所とは違い、ミノタウロスなどの大型のモンスターや殺傷力の強いモンスターが多々存在する。そういったモンスターは力も耐久も上層のモンスターとは桁外れのため、それに対抗出来るだけのアビリティが必要となるというわけだ。

 

 しかし、このアビリティというのは最初の内は個人の差はあれど上がりやすいが、ある程度の上がってしまうとなかなか上がりにくくなってしまう。なので一定の値までアビリティが上がるとランクが上る前にレベルが上昇するらしい。

 

 レベルの上昇というのはアビリティ以上に重要なもので、レベルが一つ違うだけで大人と子供くらいの力の差がでるらしい。例えばアビリティのランクが全てSまでのレベル1の冒険者が苦戦するようなモンスターでも同じランクのレベル2の冒険者なら楽々倒す事が出来るくらいの差が出るようだ。といってもレベルの上昇はアビリティを上げるよりも遥かに高難易度らしく、オラリオの冒険者の大半はレベル1で、第一級冒険者と呼ばれるレベル5などはほんの数人しかいないらしい。

 

 そして、オラリオで最高レベルである7に達しているのは【フレイヤ・ファミリア】の団長、オッタルのみだという。

   

 以上、エイナさんからダンジョンの知識と共に叩きこまれた冒険者知識。

 

「……って、もう夕方じゃん」

 

 ふと、壁にかけてあった時計を見てみると時刻はすでに五時を指していた。彼女の授業に必死になっていたため体感時間はそう長くなかったが、経過していた時間はそうではなかったようだ。

 

「あ、ほんとだ。いつのまにかこんなに時間経っちゃってたんだ。んー、じゃあ今日はこれくらいにしておこうか」

「よしっ! やっと終わった!」

 

 地獄のような勉強から開放されたと歓声を上げる。勉強はあまり好きな方ではないので、長時間モンスターの写真と特徴、ダンジョンの構造を暗記するのは苦痛以外の何物でもなかった。というか勉強が好きな高校生とかいるのだろうか。

 椅子から立ち上がり、資料室に別れを告げるために出口へと足を進める。今日は講義で一日が潰れてしまったが、これだけ覚えたのだから明日からはもうないだろう。そう思い聞いてみても明日はないと言っていたので、これからはダンジョンの方に力を入れる事が出来る。

 

 そして、資料室から出ようという時に、

 

「あ、この講義明日はやらないけど、たまにやるから呼んだらちゃんときてね」

 

 後ろから聞こえた声にこけそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません、今回全然話し進みませんでしたね。
たぶん次くらいにベルくんが出てくる、と思います。







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