ダンジョンに騎士王(憑依)が現れるのは間違っているだろうか   作:ヨーグ=ルト

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四話

「こりゃ、また……」

 

 目の前には外見から予想できる光景が広がっていた。所々の壁は剥がれてボロボロになっており、床は石で出来ている。家具はソファとベット、それに加えて机があるだけで最低限のものしかない。なんというか、本当にホームという感じはせず秘密基地か何かのようだ。

 

「ま、まぁ住んでいればそのうち慣れるさ。ボクだってしばらく生活してるけど、最初のうちは辛かったけど今となっては慣れたもんさ」

「あ、そう……」

 

 予想できていたとはいえ、かなりボロボロなホームを見て唖然としている俺の様子に、少女は気まずく思ったのかフォローの言葉を入れる。それに生返事を返した俺にさらに気まずくなったのか、前を向いて歩き出し、ソファがある場所まで行く。それにいつまでも気にはしていられないか、と気を取り直した俺もその後に続き歩き、少女の近くまで行くが、どうすればいいのか分からず、その場で立ち尽くしてしまう。

 

「よっと」

 

 するとどこからか小さな木箱を取り出して来る。そして、そのままそれに座る。座った少女はこちらを見て、ソファを指差す。そこに座れ、という意味だろう。しかし、自分がこんなソファに座り、神である目の前の少女にあんな粗末な物に座らせていいのだろうかなどと思っていると少女が声をかけてくる。

 

「どうしたんだい? 早く座りなよ」

「い、いや。君がソファに座ったら? 俺がそっちの木箱でいいよ」

「なんだ、そんなことかい。別に気にしなくてもいいさ。そんなに時間もかからないから、そんなに長い間座るわけでもないし」

「いや、そうじゃなくて……」

「いいから座った座った」

 

 最後まで場所を変わろうと提案してみるが、自分が座る場所なんてどうでもいいらしく、少女は俺に早く座るように急かす。そこまで言うのならわざわざ変える必要もないか、と思い今度は素直にソファに座る。

 

「さて―――」

 

 そう、少女は切り出し、

 

「まずは、ボクの事からかな。ボクの名前はヘスティア、最近オラリオに来た神だよ。好きなもの、というより事は読書かな。来てしばらくは友達の所でやっかいになってたんだけどね、急に追い出されちゃったんだ。あそこにはいろんな本があっていいところだったんだけどなぁ。まったくヘファイストスめ、いくらボクがちょっとグータラしてたからってあんなに怒っておいだすことはないだろうに昔からそう———」

 

 自分の紹介を始めた。いくらファミリアに入るといっても、お互いの事を知らないのはやりづらいだろうと思ってのことだ。細かいことは一緒に暮らしている内に知っていけばいいが、最低限の事は知っておくべきだろう。そうでなければ一緒に暮らすのにはいろいろ不便だ。なので、あの礼拝堂でファミリアへの入団を伝えた後に目の前の少女に連れて行かれ、この隠し部屋に入り自己紹介を始めている、というわけだ。

 

 少女、いやヘスティアの自己紹介は簡潔なものだったが、途中で自分の紹介ではなく、やっかいになっていた友人への愚痴が飛び出てきている。しかも長い。それなのに言っていることは結構しょうもない。というか、話を聞く限りグータラしていたヘスティアが悪いのではないだろうか。なんというか、神という感じはせず、見た目も相まってただのぐーたら娘に見える。俺の中の神様のイメージがガラガラと崩れていく音がする。

 

「―――っと、まぁボクの話はこれくらいにしといて、君の事を聞かせてくれるかな?あ、それとボクが神だからってそんなに気を使う必要はないから、普通に話してくれていいよ」

「あ、うん」

 

 そんな事を考えていると愚痴が終わったようだ。意外と長かったため殆ど聞き流していた。というか内容がほとんど愚痴だった気がするのだが、終わったのならさっさとこちらもするべきだろう。

 さて、まずは何から言うべきだろうか、と思ったがとりあえず名前を言うべきだろう。そういえば自分の名前も言っていなかったな、そう思い俺の名前を口にしようとする。

 

「―――あれ……?」

 

 が、自分の名前が思い出せない。思い出せないため口にしようとしていた言葉は飲み込まれ、静寂な空間が取り残される。それを見たヘスティアさんもポカンとした顔をしてこちらをみている。それに気を配る事も出来ず、俺は必死で自分の名前を思い出そうとする。が、どんなに思い出そうとしても、名前は出てこない。その事に危機感を覚え、さらに必死に思い出そうとする。

 

 しかし、結果は変わらず自分の名前を思い出すことは出来ない。自分が日本にある高校生であり、家族の構成は自分を含め4人でである事は思い出せる。しかし、名前だけはどうしても出てこない。

 

「……む」

 

 首を捻る俺を見て、ヘスティアも何かを感じたのか心配そうな顔をこちらへ向けてくる。その様子を見て、仕方がなく名前を思い出すのは止め、何か適当な名前をつける事にする。

 

 アイネス、アギー、アグネス、アギネス、アイリーン、アラキナ、アラーナ、アルバ、アルバータ、アルダ………。

 

 即席で思いつくだけでもこれくらいはあるのだが、どれもしっくりこない。やっぱり偽名は上手く思いつかない。

 

 さて、どうしたものか、そう考えていると。

 

「ね、ねぇ、どうしたんだい? 調子が悪いんだったら今日は止めにして明日にしてもいいんだよ?」

 

 考える俺に見かねたのか、ついにヘスティアが声をかけてくる。その様子は俺のことを本当に心配している顔で、これ以上長引かせると本気でまずそうだ。早く考えないとな、と思っているとひとつ名前が思いついた。俺の容姿もそのままだし、他にしっくりくる名前も思いつかないためそれを名乗ることにした。

 

「いや、大丈夫だよ。実は今日いろいろあって、ちょっと混乱しててね」

「そ、そうなのかい? どこか痛いとかそういうのはないのかい? というかよく見たら顔が傷だらけじゃないか!?」

「い、いや。この傷は以前ついたものだから、今はそんなに痛くないから大丈夫だよ。えーと、それで俺の名前はね」

 

 慌てこちらに来ようとするヘスティアを手で静止する。

 

 そして、一拍開け、

 

「―――アルトリア。アルトリア・ペンドラゴンっていうんだ」

 

 そう、答えた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 結局あの後俺は名前を言った後は詳しいことは言わなかった。別に自分の好きなモノや嫌いなものが思い出せなかったというわけではない。そういった自分の嗜好は普通に思い出せたため、安心した。ならばなぜやめたかというと、単純に疲れていたのだ。今日は入団をさせてもらうために、この街のファミリアをたくさん訪れた。そのほとんどが門前払いをくらい、面接さえも受けさせてもらえなかったため、一日中歩きっぱなしだ。それに加え今の時間帯は夜。正確な時間は分からないが、日が完全に沈み、空は暗く星が見えるだけだったので間違いない。

 

 なので自分の紹介はまた今度ということにして、今日はもう寝させてもらった。

 

 ヘスティアは自分の名前を思い出す事に時間がかかったこともあり、それについて否はなくあっさりと了承してくれた。それに一言お礼を言い、ソファで寝ようとしたのだがここでストップがかかった。何事かと思い、ヘスティアを見るとなんとベットで寝させてくれるというのだ。たった一つしかないベットを自分ではなく俺に譲ってくれるとはなんて優しい人、いや神様だろうか。普段の俺ならそれを断って逆にヘスティアに寝るようにいったのだろうが、あの時の俺はとても疲れており、それに感謝してすぐにぐっすり寝てしまったのだ。

 

 ベットで寝ることを勧めた後、ヘスティアがなんと言ったのかを聞かずに――――。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 目を覚ます。ベットの上で瞼を開き、上を見る。視界に入ってくるのは自分の部屋の天井ではなく、朝日が隙間から漏れ出る木の天井だった。そんな天井に見覚えはなく、ここはどこだろうかという疑問が寝起きで微睡んでいる頭の中に出てくる。そんなことを考えていると次第に意識が覚醒してきて、その答えが出てくる、というより昨日あったことを思い出してくる。

 

 そうだ、俺は昨日ダンジョンから出てきて、所属出来るファミリアを探し、長い時間ファミリアを探し求めていた所にヘスティアという神のヘスティア・ファミリアに入ったんだった……。

 

 それでホームである教会の隠し部屋のベットで寝た、そこまで思い出した。なるほどそれなら天井が自分の部屋のものじゃないことも頷ける。まぁ、とりあえず何をするにしても起きてからだ。そう思い、体にかかっている毛布の暖かさを失うことを惜しく思いつつ、起きようとすると、

 

 『うーん』

 

 声がした。それも、ものすごく近くから。

 

 ギギギ、と首を下に向けて自分の毛布のかかっている体を見てみると、不自然なように膨らんであり何かが入っているのは明白だった。そして、体には何かが乗っている感覚がする。ものすごく見たくないが、それを確認するためにゆっくりと毛布を体からはがしていく。

 

 すると―――

 

「う、ん。ふわぁ……なんだい、もう朝かい?」

 

 毛布の下には黒い髪を持つ少女がいた。

 その少女は眠たげな目をこすり、訪れてきた朝を非難するような声を出している。その動作は容姿のこともあり、とても可愛らしく見える。そこいらの男たちが見たのなら、心臓が飛び跳ねるような感覚に襲われ、恋に落ちてしまうなんてことも有り得そうだ。

 その少女は次第に目が覚めてきたのか、はっきりとした目でこちらを見てくる。もちろん俺の体に乗ったまま、ものすごく近い距離で。

 

「やあ、おはようアルトリア君。いい朝だねっ!」

 

 笑顔で目覚めの挨拶をしてくるヘスティア。

 

 それに対し俺は、

 

「うわあぁぁぁあああ―――――――!?」

 

 思いっきり驚いてしまい、なんとも情けない声を隠し部屋に響かせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「まったく、あんなに驚かなくたっていいじゃないか」

「普通起きて目の前に人の顔があったら驚く」

 

 背中に乗っているヘスティアが軽く責めるような声で話しかけてくる。だが、起きて目を開けると、目の前に人の顔があったら誰でも驚くのではないだろうか。なので、責められるいわれはないと、反論する。うつ伏せになっているためヘスティアには見えないが、今の俺の目は不満を表すように半開きになっている。しかもこっちは余りの驚きでベットから落ちてしまったため、頭を打ったのだ。別にそんなに痛くはないが、反省してほしいものである。

 

 とはいえ、こうなったのは少なからず俺のせいでもあるため、そう強くは言えない。どうしてこうなったかというと、昨日俺が寝る前にヘスティアは『どうせならいっしょに寝ようよ!』と元気よく提案したらしいのだが、如何せん強い睡魔に襲われていた俺はその提案に適当に返事をしてベットに倒れ眠ってしまったのだ。適当な返事だったとはいえ、それを了承したと受け取ったヘスティアは笑顔で俺の隣に横になって眠ったらしい。まぁ、これならば俺にも非がないとは言えないだろう。

 

「で、終わったのか?」

「後ちょっとだから、もう少しまっておくれ」

 

 軽く溜息をついた後にヘスティアに問いを投げる。ヘスティアは指を俺の背中で何かを描くような動きをさせながら答える。いや、実際に描いているのだ。自身の血、神の血(イコル)を使い、俺の背中に神聖文字(ヒエログリフ)神の恩恵(ステイタス)を刻んでいる、らしい。昨日は自分の名前をいって寝てしまったため、ダンジョンに潜るのに重要な神の恩恵(ステイタス)を貰えなかった。そのため今の俺はまだヘスティア・ファミリアではないらしく、正式にファミリアに入るためにこうして刻んでもらっている。

 

「よしっ、これで終わりだ!」

 

 と、そんなことを考えていると終わったらしい。なんというか、背中で指を動かされるとくすぐったかったので速く終わって欲しかったのだ。

 ヘスティアは近くにあった机から紙を持ち出し、俺の背中に書いてある神の恩恵(ステイタス)を書き写している。

 

「はい、これが君のステータスだよ」

 

 そう言い、こちらへ写し終えた紙を渡してくる。

 それを受け取り、紙に書かれているアビリティを見る。

 

 アルトリア・ペンドラゴン

 

 Lv.1

 

 力 :I…0

 耐久:I…0

 器用:I…0

 敏捷:I…0

 魔力:I…0

 

 《スキル》

 【回帰(レグレシオン)

 ・回帰する。

 ・生きている限り効果持続。

 ・戦闘を行うことにより効果上昇。

 ・激しい戦闘を行うことによりさらに効果上昇。

 【魔力放出・B】

 ・魔力の瞬間的な放出によりアビリティに高補正。

 ・ランクにより威力上昇

 【直感・B】

 ・戦闘時における最適な展開を感じ取る。

 ・ランクにより精度上昇。

 《魔法》

 【風王結界(インビジブルエア)

 ・付加魔法(エンチャント)

 ・風属性

 

 

 渡された紙に書かれていたアビリティの数値は全て0で如何にも初期のステイタスといった感じだ。もらったばかりなのだから当然と言えば当然なのだが、ダンジョンであんな思いをしてきたのだから初期のステイタスにも少しくらいは反映されるかな、と淡い希望を持っていたのだがダメだったようだ。

 

 期待が外れていた事で肩を少し落とす。

 

「ま、誰だってアビリティに関しては、皆最初は同じ所からスタートなんだよ。これから頑張っていけばいいさ。それに魔法は一つあるし、スキルに至っては三つもあるじゃないか。こんなの普通じゃありえないんだぜ」

「そりゃそうか……」

 

 笑顔で慰めの声をかけてくるヘスティア。その言葉を聞いて少し気を取り直す。そうだ、誰だって最初は同じ所から始まっているのだから、俺だけ特別というわけにはいかないだろう。だからこれから上げていけばいい、そう考える。それに風王結界も使えるし、【魔力放出】と【直感】もある。よく知らないが、これは結構恵まれているのだろう。

 

 ちなみにアビリティを上げるにはその能力分野を使用しないと上がらないらしい。そのためダンジョンでミノタウロスに追いかけられたり、モンスターにリンチをくらったり、【魔力放出】を使ったりした体験をした事がアビリティにも反映されるかなと考えたのだが。

 で、スキルはというと、やはりというべきか【魔力放出】と【直感】がある。ダンジョンを脱出する際にとてもお世話になったからあるのは分かっていた。ただ、セイバーの使っていたこの2つのランクはどちらもAだった気がするのだが、この紙に書かれているのはどちらもBだ。それが気になるが置いておくとしよう。

 残るのがこの見覚えのないスキル、【回帰(レグレシオン)】だ。セイバーのスキルにこんなものはなかった気がするし、効果からしても戦闘向けではなさそうだ。回帰するとはどういうことだろうか。意味としては元に戻るという意味だろうが、どういう状態に戻るのだろう。戦っている時にいつでも無傷な状態に戻る、とか? それだったら俺はダンジョンで死ぬことはないかもしれない。

 まぁ、そんな都合のいい話があるはずがないのでヘスティアに聞いてみる。

 

「この回帰(レグレシオン)ってスキル、どういうものなのか分かるか?」

「うーん、こんなスキルは名前も聞いたこともないし、効果も聞いたこともないなぁ。もしかするとレアスキルかもしれないね」

 

 どうやらヘスティアも知らないものらしい。詳細不明のスキルに二人して首を捻るが、答えは出てこない。それもそうだろう、一人はこの街どころかこの世界に来たばかりの元高校生。もう一人はこの街に最近来た神。どちらの知識が多いかなど語るまでもないだろう。その詳しい方が知らないのだから、異世界の一高校生などに分かるわけがない。なので少し唸った後、考えを打ち切り、今日は何をしようかと考える。

  真っ先に思いつくのがダンジョンに潜ることだ。神の恩恵(ステイタス)なしで死にかけた俺だが、神の恩恵(ステイタス)もらった俺ならば死にかけることもなく余裕で潜って帰ってこれるのではないだろうか。そう思い、今日の予定を決めてヘスティアに伝える。

 

「ヘスティア、今日の予定だけどダンジョンに行こうと思ってるんだけど」

「ん? ああ、そうだね。君も冒険者になったんだからダンジョンに行くんだね。でもちゃんとギルドで登録をしてこないと駄目だよ」

「へ?」

 

 ダンジョンに潜るのに登録なんているのだろうか、なんとも面倒なことである。話を聞いてみると、ダンジョンというものはギルドというところが管理しているらしく、潜るのにはギルドに登録してから出ないといけないらしい。

 

「俺ギルドの場所分かんないんだけど」

「大丈夫さ、ボクもちょうどバイトで外に行かなきゃいけなかったから、連れてってあげるよ!  あ、でもその前にミアハのところに行かなくっちゃね! 女の子がいつまでも顔が傷だらけなのはいけないよ!」

「っと、おいおい引っ張るなって」

 

 ヘスティアはそう決めるとすぐさま立ち上がり、俺の手を取って外に向かって歩き出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 

 スキルは色々考えて見たんですけどこんな感じになりました。

 風王結界については魔法にするか宝具扱いでステイタスには表記されないようにするか迷ったんですけど、あれは確か魔術のような扱いをされてた気がするんで魔法に入れときました。
  
 書いている途中でアイズもその気になれば魔法を使って剣を隠す事が出来るのだろうかなんて考えてしまった。
 まぁモンスター相手にそんなことしても無駄な気がしますが。
 

-追記-

 感想でおかしいと指摘されたところを修正。指摘されて改めて見てみると、結構違和感がありました。

 スキルの名前を変更。あまり深く考えずにつけた名前でしたが、あまりにも効果が分かりやすいため変えました。
 
 






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