ダンジョンに騎士王(憑依)が現れるのは間違っているだろうか   作:ヨーグ=ルト

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 すいません、テストがあったのでだいぶ遅れてしまいました。


三話

 夜の街を歩く。昼は多くの人が歩いていただろう道は、時間が時間だけに余りに人がいない。その道を照らすのはところどころに建てられている外灯と夜遅くまで営業している酒場のあかりとその賑わいだけだ。その賑わいは活気で満ち溢れており、まさに夜の街と言った感じだ。俺は夜にそういうところに行ったところはないが、テレビでそういうコーナーをやっているのを見たことがある。一日の仕事をやりきったサラリーマンが疲れを癒やしたり、会社の社員がお互いの親睦を深め合うために夜、酒と料理を一緒に食べる。そんなことをしている人達にインタビューをする、といったものだっただろうか。出てくるどの居酒屋やスナックも賑やかだったのだが、ここらにある酒場はテレビで見た以上に賑やかだ。

 

 その賑やかさに見ているだけで活気を少しもらえる、なんて人も中にはいるのではないのだろうか。だが、今の俺はそれを見てもどこか沈んだ表情をして、夢心地で道を歩いている。人が見れば落ち込んでいる、と思われても無理はないかもしれない。

 

「はぁ……」

 

 口からは溜息が出る。仕方がない、こうでもしないとやっていられない。洞窟から出るときは愚痴が出ていたが、今となってはそれすらも出てこない。端的に言って気力がないのだ。これもそれも今、俺が置かれている現状のせいだ。

 

「まさか、異世界とはな……」

 

 異世界。俺が居た世界とは異なった世界。外国であれば飛行機に乗るなりなんなりしてどうにか帰ることは出来ただろうが、まさか世界が違うとは思いもしなかった。世界を移動する飛行機や船があるわけがないので、こうして途方にくれている。

 だが、幸運にも言語が通じるようで現地の人間に話を聞くことは出来た。今いる場所はどこかやあの洞窟は何かということを聞いたのだが、その結果俺はここが異世界だと判断した。

 

 話によるとここは迷宮都市オラリオという所で、『古代』という時代から存在し、世界有数の大都市であると同時に世界で唯一迷宮、もしくはダンジョンと呼ばれるあの洞窟がある場所なのだそうだ。ダンジョンに潜るにはファミリアに入り、そこの主である神に神の恩恵(ファルナ)と呼ばれるものを授けてもらわなければいけないらしい。『古代』には恩恵なしでダンジョンに潜っていたそうだが、恩恵を貰っていくのと貰わずに行くのとは全く違うそうだ。このセイバーの体でも軽く死にかけたのに、普通の人間があんなところに行くなんて、『古代』の人間は相当強かったらしい。

 とまぁ、こんな感じで俺のいた世界ではまずありえない常識や用語が聞けた。この世界では当然である常識を聞くものだから、聞かれた人は俺のことをものすごく怪しげな目で見ていたがそこはすごく田舎に住んでいたため分からない、といって誤魔化したのだが、すごく苦しい言い訳だったので即座に逃げてきた。後ろから呼び止める声が聞こえたが無視した。

 

 まぁ、それなりに重要な事は聞けたので良しとする。

 

 理解は出来ないが。

 

 そもそも神ってなんだ。神話に出てくるような、常識的に考えると頭のネジがかなり吹き飛んでる行動を平然と取る、あの神か。そんなのが跋扈しているなんて、ある意味この世界はあのダンジョンよりも危険かもしれない。仮にゼウスなんかが出てきたら、見た目はそこらの女性より綺麗なセイバーボディを使っている俺はナニかをされるかもしれない。いくら普通の人間より優れているセイバーボディとはいえ、本物の神に追われたらさすがにどうしようもないだろう。神話ではゼウスの持つ雷霆(ケラウノス)は地球どころか宇宙を焼き尽くすとまで言われている。戦う事になったのなり、そんなもので攻撃されたらこのセイバーの体でもひとたまりもないだろう。

 とはいえ、街の様子を見ても、普通の人間や頭に動物の耳を生やした獣人(?)達は活気に溢れ、支配されたりしているようには見えない。そもそも支配する気だったら恩恵、とやらは与えたりしないだろう。なので警戒を解く、まではいかなくても少しくらいは気を緩めてもいいのではないか、と思う。神話にも人に優しい神はいたと思うし。まぁ、俺の知らない全く違う神話の神とか出てきたらどうしようもないのだが。

 

 「これから、どうしよかなぁ……」

 

 帰る手段がない以上これからの事を考えなければいけない。しかし俺はこの世界で使えるお金なんか持っていないし、さらに言えば自分の容姿まで違うので身分が証明できない。ファミリアに入るのが一番いいのだろうが、仮に面接があり「どこから来たの?」なんて聞かれてしまえば「遠くから来ました」と答えるしかない。それを怪しんだ神が「怪しいからダメ」なんて理由で断るのであれば俺はファミリアに入れるまで野宿で暮らすはめになる。それだけは避けたいことだ。

 

 「よしっ、いくか!」

 

 ともあれファミリアに入れてもらえるか聞いてみる、話はそれからだ。そう思い気を撮り直し、ファミリアに入るために石畳の道を歩いて行く。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「俺のいるファミリアに入りたいだぁ? そうかそうか! なかなかいい目してるじゃねぇか、お嬢ちゃん。だけどなぁ、俺のいるファミリアはお嬢ちゃんみたいな弱そうなのは入れないんだよ、本当はな。だけど、お嬢ちゃんは可愛いから条件付きなら特別に俺が口を聞いてやって入れてやっても―――」

「いえ、結構です」

 

 バタンと、勢いよくドアを閉じる。その時にゲスな顔をしている強面の男とドアがぶつかった音がして、それと同時に男が痛みに声を上げる。両手で思いっきり閉めたためかなりの勢いがあったため、恐らく少しの間は悶絶しているのではないだろうか。しかしすぐに復活して追ってくる可能性も考慮して、きちんとその場から走って逃げ出す。少し離れた所まで行くと、後ろから大きな音がして男の野太い声が聞こえてくるが、それすらも無視して走り去る。

 それからかなり進んだ所でようやく止まり、後ろから誰も来ないことを確認して息をつく。そして、路地裏に入り人目につかない所まで来てようやく気を緩める。

 

「はぁ、今ので二十回目か……」

 

 ファミリアに入るために今まで十九回聞きに行ったのだが、その全てが断られている。もしくは自分で断っている。当然だ、あんないかにも下衆な事をしますよー、と顔に書いている奴がいるファミリアなんかには入りたくはない。全員がまともであれ、とは言わないがせめて貞操の危機を感じないところに入りたい。断られたところはお前みたいな弱そうな奴を入れてる余裕はねぇ、という理由が大半だった。しかもそういうところは面接をしてくれるどころか、門前払いをするというなんとも人情に欠けた事をしてくる始末だ。こんな見るからにか弱い美少女が傷を付けたままファミリアに入れてください、と言っているのだからそこは喜んで入れるところだろう。俺がそこのファミリアの主だったら即座に入れてるね、多分断った奴らはホモに違いない。

 ならもうちょっと調べてから行けよ、言われればその通りなのだが、俺が希望するような所を探すには噂なりなんなりで情報が必要だ。しかし、この世界に来たばかりの俺はそんなものを持っていない。なので片っ端からあたっていくしかないのだが、未だその成果は出ていないという現状だ。

 

「くそっ、この街には下衆とホモしかいないのか……!」

 

 我ながら酷いことを言ってるが、二十回も頼みに行って全てダメとなると少し心が折れそうになる。こうして頭を下げて頼み込むという経験がないせいか、断られる度に挫折感を味わう。社会に出ればこれが普通なのかもしれないが、今まで高校生であった自分は頭を下げるといったら謝る時くらいしかなかった。その時も一度下げればよかったため適当にやってた気がする。こんな事になるならもう少し真面目にやって耐性を付けておくべきだった、なんてくだらないことを考えながら歩く。

 しかし、ここまで断られるとなると、そろそろ本格的に今日の夜をどこで過ごすかを考えなければいけない。本当ならファミリアに入りアパートなどを都合してもらおうとでも思っていたが、その希望は潰れかかっている。仕方がないので最終手段として、道の端っこで寝ることも考慮しておかなければならないだろう、次の日には風邪をひいてそうだが。

 

「……ん?」

 

 今日の夜を過ごす場所を探していると建物がたくさん並んでいる、住宅街のような場所についた。ただ、その建物はどれもボロボロで、建てられてから長い年月が経っている事を感じさせる有様っだった。建物の数から昔は多くの人が居住して使っていたのだろうが、次第に他の場所に移り減っていったのだろうか、人が住んでいる様子もない。中には大きな塔のようなものまであり、ここが活気づいていたのを伝えてくる。

 だが、今重要なのはこれで今日の夜を過ごす事が出来るということだ。見る限り誰かが住んでいるというわけでもないし、俺が使っても大丈夫だろう。もし、あれで誰かが住んでいる普通の住宅街だったのなら、無断で入ると不法侵入の罪がついてくる事になる。無論ここにそんな法律があったならの話だが。

 確認の意も込めてとりあえず使えるかどうかを確認するため、所々に転がっている崩れた建物の一部をを避けながら歩く。歩きながら周りにある建物を見回すが、やはりどれも人が住んでいる様子はない。これだと無断で入っても特になにも言われないだろう、そう思いしばらく歩き続けると一つの建物が見える。

 

「教会、か」

 

 大きな教会。もちろんそれも他の建物と同じくボロボロであり、間違っても信仰を捧げたり懺悔を出来るような状態ではない。しかし夜を過ごすのには問題ない程度の損傷であるため、ここに入る事に反対するような理由はない。

 そういう訳で、今日はこの教会で過ごすことにした。

 

「……」

 

 教会に入るため、歩いている途中にふと考える。

 この教会はなんのために作られたのだろうか、と。それを聞いている人がいるならば呆れた顔をして、祈る場所、神の教えを伝える場所、と答えるだろう。もちろんそれは俺も知っている。だがそれは俺が居た世界の話であり、この世界の話ではない。

 この世界に神はいる。まだ実際に見たことはないが、聞いた話ではそれは世界の常識として知られている。それもファミリアという組織の主として。そうであるならば神と呼ばれるモノは一つの存在、生命としてこの世界にいるということだ。

 ならば、と思う。

 そういったモノを人は信じ、崇めようとするだろうか。神への信仰といったものはその信じるモノがあやふやで確定していないため信じられるものではないだろうか。仮に元の世界で神というものが急に現れても、人々は自分が想像しているものとは違う、などと言った理由で誰も見向きもせずに信じようとしないだろう。

 まぁ、なにが言いたいのかというと、はっきりと存在しているものに人は強い信仰を捧げたりしないのではないか、ということだ。

 もちろん中にはそれでも、と言って信じ、崇める者もいるだろうが、こんな教会は建てないだろう。ならばここの神々は何か人々に信仰をされるような功績を残しているのではないだろうか。

 俺は無神論者で神様なんて信じていなかったが、これから上手く行けば人々に信仰されるような事をした神と出会える。それは元いた世界ではあり得ない事。

 

 こんな異世界に来てしまったが、俺は心のどこかではその事を少しばかり楽しみにしていたのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ギィィイ、と年季を感じさせる音を鳴らしながら教会の扉は開く。教会の中は予想通り壁の一部が崩れており、長椅子の上に小さいガラスの破片や小さい石が落ちているところもある。この程度ならばベットにするのには少し上の物を片付けるだけでいいな、と思い適当な長椅子の元まで歩いて行き上にある破片を手でどけようとする。もちろんそのままだと傷がついてしまうため魔力でガントレットを付け、手の甲で押しのける。ガチャガチャとガラスの破片と小石がガントレットとぶつかる音がして、地面に落ちる。

 

 障害物をどけ、その長椅子にガントレットを消してからトスン、と軽い音を鳴らして座る。そしてだらりと体の力を抜き長椅子に体を預け、首も後ろの背もたれに乗せてぼんやりと天井を見上げる。

 

「あー……」

 

 一日の疲れを表すような声が出る。男が出すとおっさんくさいといわれそうだが、美少女であるセイバーが出すとおっさんくさいとは言えない……こともないか。

 とにかく疲れた。つまるところ今の状態はそれだ。ダンジョンから脱出したと思えば外に広がる風景は全く見知らぬもので、話を聞くと俺のいた世界とは違う異世界で、金もないし宿もない、それに加え唯一寝泊まりできる手段であるファミリアにも入れないときた。おかげでこんな廃教会で寝る事になってしまっている。人生初の廃教会での夜だ。実に嬉しくない。

 明日はファミリアに入れればいいなぁ、なんて思いながら瞼を閉じて疲れを癒やすために眠ろうとすると───

 

『あ~、今日もダメだった~。まったく下界の子供達は見る目がないねっ、僕の神の恩恵(ファルナ)だってロキやフレイヤのところと一緒なのに、僕の名前が知られてないからって断るなんて、下界の子は本当に見る目がないっ』

 

 声が聞こえてきた。疲労を感じさせる声で愚痴を言っている。何を言っているかは分からないが、何か疲れているようだ。どうしようか、と考える暇もなく再びギィィィイ、という音がして教会の扉が開かれる。

 そして、扉を開けた人物の姿が見えてくる。

 その姿は声に違わぬ容姿であった。身長は俺より低く、神はツインテールにしている。服は白いワンピースのような物を着ている。そして何より目を引くのは胸。その大きさといったらとても大きく、はっきりいって体の大きさと釣り合っていない。しかもその胸の下には謎の紐が体を巻きつけるように通してある。すごい胸器である。

 それにしても、どんな服装だ。こんな服装は俺のいた世界はもちろん、この世界でも見たことがない。いや、俺がこの世界のことを知らないだけで、本当はこの服装もこの世界ではおかしくはないのだろう。さすが、異世界人は未来に生きてんな。

 

「──────」

 

 それはともかくとしてだ。その未来に生きている少女が何故かは分からないが、俺の姿を見て目を丸くしている。どこかおかしな所があるだろうか? 今の姿は普通の金髪のドレスを着た少女のはずだが……?

 いや、もしかしたらここに人がいることに驚いているのではないだろうか? ここは廃教会であり、人なんか絶対に来やしない場所である。というか、そもそもこの教会が建っている場所からして人が来そうにないのだが。

 そこまで考えて待てよ、と思考を止める。この教会の建っている場所はかなり年季の入っている建物や柱があり、中には結構高い塔まである。なのでこんな崩れた建物しか立っていないようなところに来る人は殆ど、というより皆無といってもいいだろう。

 

 つまりこの場所は─────

 

 秘密基地を作るのにぴったりではないだろうか?

 

 人がこない、使わない建物がある。これほど秘密基地を作るのにぴったりなところはないだろう。俺の住んでいた街にこんな場所があったのなら、いろんな物を持ち込んで絶対に秘密基地を作っていただろう。つまりこの少女はこの廃教会を秘密基地として、日頃からうるさいであろう母親の目から逃れるためにここに来たのだろう。そして、いつもどおり廃教会に入ると見知らぬ男……いや、女が居たということだ。それは驚くだろう。自分だけ、あるいは自分と友達だけのものだと思っていた場所が知らない人間に使われていたのだから。

 仕方がない。再び今日の夜を過ごす場所を探さねばならないが、無垢な少女の秘密基地を占領するのも忍びない、ここは一言謝って出て行くとしよう。

 

「えーと、お嬢ちゃん。ごめんね? 勝手に入っちゃって。すぐに出て行くから許してくれないかな?」

「へ? いやいやいやいやっ、出て行かなくてもいいよ! むしろずっとここにいてくれていいからっ!」

「え、ええっ?」

 

 出ていこうと一言謝り、腰を上げると必死で俺を止めようとする少女。その様子に面食らい、驚きの声が上げてしまう。

 少女は俺の方へ大足で詰め寄ってくる。その顔には満面の笑みが浮かんでおり、俺の引かせるには十分すぎる程だった。

 少女はあっという間に距離を詰め、俺の目の前に立つ。ただ、困ったことにその距離が近すぎる。俺と少女の間に距離はほぼないと言ってもよく、俺を下から見上げている。こんな近くに異性を近づけてことがない俺は、それにタジタジになりながら顔を逸らす。

 

「君、ファミリアに入りに来たんだろう!? わざわざこんなところに来るんだからっ。いいよいいよっ、大歓迎だよっ! さっきまで他の子達を誘ってみたんだけど、どの子も僕の名前が広まってないってだけで皆断るんだ!! まったく酷いだろう? でもいいよ、君が入ってくれるなら、ボクの一日は報われた気分だよっ! さあ、ようこそヘスティア・ファミリアへっ!!」

「え、ええー?」

 

 興奮した様子でまくし立てる少女に更に気後れする。その勢いに負けて少しばかりのけぞっているくらいだ。

 出ていこうとするとここまで必死に止められるとは、こちらとしても予想外である。もしかしてボッチなのだろうか……?

 

「って、ちょっとまてよ……」

 

 今、なんといった? 俺の聞き間違いでなければファミリアと言わなかっただろうか? つまりこの少女はどこかのファミリアに所属しており、俺を誘っているのだろうか。おお、一日中街を歩き回って頼んでも入れなかったのに、こんな所で逆に勧誘されるとは。幸運のランクが実はA+だったとかいうことだろうか。

 何故こんな所にファミリアの勧誘に来るのかは分からないが、ともかくラッキーだ、ファミリアに勧誘されているのだったら入れてもらう事をためらう事はなにもない。

 

「それじゃあ、頼むよ。俺を君のいるファミリアに入れてくれないかな?」

「ほ、本当に入ってくれるのかいっ!?」

「ああ、本当に入れてくれるんだったらね」

「や、や、や、やった─────! ボクにもついに眷属ができたぞっ! ヘファイストスめ、どんなもんだい!ボクだってやれば出来るんだぞっ。それをあんなに馬鹿にして、今度会ったら自慢してやるっ!!」

 

 俺の返事を聞いた瞬間に両手を上げ、喜びながらそこらを回りながら走り回る少女。そんなにファミリアに入ってくれる人が居なかったのだろうか? まぁ、あんなに笑顔で喜んでくれるのなら、どちらにせよ入るつもりしかなかったが、入ると言ったかいがあったというものだ。俺の顔にも自然と笑顔が浮かぶ。

 お次はぴょんぴょんと跳びはねながら喜ぶ少女を見て、そろそろファミリアのホームに連れて行ってもらうことにする。まだ、ファミリアの主神に許可をもらった訳でもないので、ホームに行って許可をもらわなければならない。喜んでいる少女に水をさすのは気が引けるが、こちらとしても早いとこ体を休めたいところだ、我慢してもらおう。

 

「えーと、喜んでるところ悪いんだけど、君のファミリアのある所まで案内してくれないかな? 一応そこの主神にも許可を取らないといけないしね」

「へ、何を言っているんだい? ボクのファミリアのホームはここだけど?」

「はい?」

 

 少女の言っていることが意味不明で思わず聞き返す。俺が言ったことが不思議でならない、と言う顔で首を傾げている少女。不思議でたまらないのはこちらなのだが。

 気を取り直して、聞き間違いかと思いもう一度少女に尋ねる事にする。こんな所がホームってどんなファミリアだよ、ありえないだろ。俺が回ったファミリアは大小いろんな所があったけど、どれもそれなりに立派なところだったぞ。そもそも神と言われる人物、いや、神物がこんな廃教会にするわけがないだろう。まったくおもしろくもない冗談だ。

 

「あー、悪いけど俺は結構疲れてるんだ。冗談はそこまでにしてくれないかな」

「じょっ、冗談なんかじゃないよ!! ここが、ボクの、ヘスティア・ファミリアの、ホームだよっ!!」

 

 あー、もうそういうのいいから。

 

「じゃあ、ファミリアの主神のいるところに案内してくれないかな? 連れて行ってくれたら後は俺が話をするから」

「主神ならここにいるじゃないか! ボクだよ、ボクっ!! ボクがヘスティア・ファミリアの主神、ヘスティアだよっ!!」

 

 頬をぷくーとふくらませながら、異議を申し立てる少女。非常に可愛らしい姿だが、俺としてはさっきの言葉のほうが重要だ。

 主神? この少女が? この俺よりも背が低くて、そこら辺にいる中学、いや小学生くらいにしか見えない少女が? 

 ホーム? この見るからに家としては使えなさそうな教会が? そこいらに瓦礫やら何やらが落ちているこの廃教会が?

 

「あ、ありえねぇ……」

 

 余りのショックに頭を抱えてしまう。まさか、こんなファミリアが存在するとは……。神の間でも貧富の差は存在するようだ。

 とりあえず、この少女のいうことは本当なんだろう。こんな事で嘘をついたのならメリットがあるどころか、逆に勧誘した奴に逃げられてしまうだろう。なのでこの少女が言っている事は全て本当だと思う。

 ならば、どうする? このまま少女の勧誘を断ってまた新しいファミリアを探すか? いや、それは出来るだけ避けたい。今日回ってみてわかったのだが、ファミリアというものはどうも弱そうな奴は入れない風潮があるらしい。セイバーの体を使っている俺はそれなりに実力はあるのだが、如何せん見た目はただの金髪少女だ。実力があるなんて誰も思わないだろう。

 だったら、あの強面の男のような者がいるファミリアに入れてもらうか? ああいう男に何人か入れてくれるのを許可してくれる、主神に口を聞いてやると言われたことは何回かはある。もちろん変な事をされそうだったので全て断ったが。だが、そこならば入る事は確実に出来るだろう。下種な事をされる事が前提だが、それは避けたい。

 

 そう考えると、この少女のファミリアは結構いいところなのではないだろうか。寝る場所が廃墟である事と主神が威厳のかけらもない普通の少女に見える事に目を瞑れば、俺にとってはかなり好条件なファミリアである。

 この際、多少の不自由には目を瞑ることにした。とりあえずはファミリアに入る事が重要だろう。そう思い、再び目の前にいる不安そうにしている少女に向き直る。

 

「ね、ねぇ……やっぱりダメかい? た、確かに今はこんなボロボロなところがホームだけど、頑張ればそれなりにいいところにいけると思うんだ。だから───」

「いや、ぜひとも入れてくれないか? むしろ入れてください」

「───入ってくれないか……ほぇ?」

 

 こうして、俺はヘスティア・ファミリアに入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ファミリアに入るだけで9000文字もいくとは……。


-追記-

主人公が面接を受けていたのなら入団を断られるのはおかしい、とのご感想を頂いたため、断られたファミリアでは主人公は門前払いを受けていた、という文章を追加させてもらいました。
 




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