ダンジョンに騎士王(憑依)が現れるのは間違っているだろうか   作:ヨーグ=ルト

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|o二話o
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|―u' 二話 <コトッ

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| ミ  ピャッ!
|    二話




 予想以上の人気に驚きです。




二話

 ――――俺の姿が騎士王になっている。

 

 もちろん冗談で言っているのではなく、大真面目だ。普通ならこんなことを誰かに話しても信じてもらうどころか馬鹿にされるだろうが、今の俺には証拠がある。

 即ち俺の存在そのもの。髪、声、顔の造形、体の大きさ。その全てがアニメに出てきていたセイバーに合致する。今の姿を誰かに見せたならFateを見ている人ならば誰もが声を揃えて俺のことをセイバーというだろう。

 セイバー。それはFateという作品の最重要人物といってもいい。セイバーなくしてはFateは始まらない、とまで言われている。いや、それは言い過ぎかもしれないが、その人気故に元祖セイバーといってもいい青セイバーの他にもバリエーションとしてセイバーオルタ、セイバーリリィ、顔が同じだけで真名は全く違うキャラとして赤セイバーなんてものもある。最近はセイバー系ヒロインの増加を憂い、ヒロインXというキャラがでているらしい……。

 

 まぁ、そんな事はおいといて。今、最大の問題は俺がセイバーになっているということだ。俺が住んでいた世界には魔術なんてものはないし、セイバーにいたっては創作の中の存在だ。仮に魔術や魔法があるとしても、創作の中のキャラクターになる、なんていかにも子供が考えそうな物まであるとは思えない。なら、どうやって俺がセイバーになったのかという疑問が出てくるが、それは考えても答えが出そうにないのでとりあえず置いておく。

 

 それに加え問題なのはそれだけではない。

 

 ここがどこか、という問題がある。

 

 俺が今いる場所はどこか、それが2つ目の謎だ。洞窟、ということはわかるが、それ以外の事は一切わからない。どこの洞窟なのか、大きさはどれくらいなのか、どこまで続いているのか。それらが一切わからない。いや、あんなミノタウロスなんて化け物が出てきたんだから俺が知っている洞窟、ひいては、現実に存在する洞窟じゃないことは確実か。それはそれでヤバイのだが。しかもこの洞窟に出てきたミノタウロスには仲間がいるかもしれない。いや、もしかすると他のモンスター、ゴブリンやトロール、さらにはドラゴンまで出てくるかもしれない。

 

「ヤバイなぁ……」

 

 改めて今の自分のいる立場のヤバさを確認する。助けは期待しないほうがいいだろう。どこにいるかもわからないし、仮に助けが来ても銃や剣を持っているくらいじゃあミノタウロス相手だとすぐに殺されそうだ。

 

 ヤバイ、詰んでいる。俺の冒険の書はここで終わるかもしれない。

 

 だがそれを覆す力はある。視線を目の前の壁に突き刺さっている剣に向ける。俺がセイバーになっているというのなら、この剣の名前は【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】のはず。ラノベやゲームでもよく使われる名前で、アーサー王伝説においてはアーサー王が持ち、魔法の力が宿るとされ、ブリテン島の正統な統治者の象徴ともされる剣だ。Fateの世界では聖剣の中でも頂点に立つ、最強の聖剣。真名解放をすることにより所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による斬撃として放つ事ができる。まぁ、わかりやすく言うと、ものすごいビームを出すことができると考えればいいだろう。

 

 これを上手く使えば出てくるモンスター達を倒し、ここから脱出できるかもしれない。なんといってもこの剣は武器としては一級品どころの話ではない程の物だろう。ミノタウロスの心臓を貫き、さらには、そのまま壁にぶつかっても折れることはなく、壁を貫いていることからもわかる。つまりこの剣は刃毀れすることもなく、ミノタウロスの体を簡単に切り裂くことができる。他のモンスター達も恐らく同じだろう。

 

 しかしそれにも問題が一つ。

 

 俺自身の技術だ。どれだけ剣が強くとも、それを使う人間の技術がなければなんの意味もない。生憎と俺は今までで本物の剣なんか持ったこともなく、剣道をやった経験もない。つまり剣に関しては全くの素人である。剣道経験者にこの剣を持たせて戦わせたほうがマシかもしれない。

 

 しかし、その問題はまたしてもセイバーの能力で解決できる。

 

 セイバーの保有スキルの中に【直感】というものがある。これは戦闘中に「自分にとっての最適な行動」を瞬時に悟るスキル。あの時ミノタウロスの攻撃を躱せたのも、鎧と武器を取り出せたのもこのスキルのおかげだろう。急に頭に浮かんできたことから間違いないと思う。【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】を出し、ミノタウロスに反撃を始めた時、動体視力が上がり攻撃を見ることができるようになった。だが、それだけではあのミノタウロスはああも上手くは倒せなかっただろう。それが出来たのは恐らくこの【直感】のおかげだ。ミノタウロスが拳を振りかぶった瞬間にどちらに避け、どんな反撃をすれば良いのかが一瞬だけ浮かんできた。それに加え攻撃を見る事によって回避し、反撃をすることが出来た。なのでこれを使えばボロボロにやられる、なんてことはないはずだ。

 

 身体能力の方も保有スキルにある【魔力放出】でなんとかなるだろう。実際ミノタウロスを倒す時は上手くいってたし。

 

「おお、こう考えてみると結構希望があるんもんだな」

 

 思いの外生き残る可能性があることに気づき、少しテンションが上がっていきながら、剣を引き抜き、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 「おらぁ!」

 

 軽い雄叫びと共に一歩を踏み出し、目の前にいるやけに筋肉のついてゴツゴツしている犬に向かって駆ける。その動作にはもちろん【魔力放出】が使われており、中学生くらいの少女という見た目とはかけ離れた身体能力であるため犬が何かしようとする前に目の前に辿り着き、顎を思い切り蹴り上げる。【魔力放出】により本来ならビクともしない、良くて少し顎が持ち上がる程度の蹴りは何倍もの威力を叩き出し、犬の体は宙を舞う。重力に従い地面に落ちた犬はすぐに起き上がり、こちらを睨みつける。それを見て油断せずに俺も剣を構え、すぐに剣を振るうことが出来るようにする。

 

『ガアアァァァァァァアアアァァァ!!!」

 

 雄叫びと同時に犬が飛びかかってくる。その口は大きく開かれ、俺の体を食いちぎらんとするのが分かる。それをくらってやるほど優しくない俺は身を屈めながら一歩を踏み出し犬の下をくぐって回避し、振り返られる前に振り返り剣を振りかぶり犬の背中を切り裂く。その背中は大きく切り裂かれ、血が吹き出す。明らかに致命傷で戦闘はできないような傷だ。犬は痙攣し、やがて動かなくなり絶命する。

 

「ふぅ、なんとか勝てたか」

 

 周りを見回し、犬、またはミノタウロスが居ないことを確認して、剣を下ろし、息をつく。移動を開始してからどれくらい経ったのかは携帯どころか時計すらないのでさっぱりわからないが、体感時間では三時間位歩いたのではないのだろうか。このセイバーの体は凄く、ずっと歩いているのにもかかわらず未だに息が切れない。セイバーになる前だったら倒れる、まではいかないが速度は落ちるだろう。まぁ、途中でさっきのように戦闘を挟んでいるので疲れている事はつかれているのだが。

 

 ここまで来るのに出会ったモンスターは、あの筋肉犬とミノタウロスだけだ。犬の方はもし見つかってしまった場合はすぐに倒してしまうが、ミノタウロスを見つけた時は隠れてやりすごすか即座に逃げることにしている。犬はともかくミノタウロスなんかと戦ってたら余計な体力を消費するし、魔力の方もいつまで持つかわからないためあまり無闇に消費するのは好ましくない。なのでここまで俺は、ほとんど隠れるか逃げるかしかしていない。そのお陰で【魔力放出】も最初のミノタウロスと途中で見つかった犬とさっき倒した犬で三回しか使っていない。俺の魔力がどれくらいなのかは分からないが今の所は魔力切れが起こる様子はない。まぁ、俺が魔力の量を確認できないだけかもしれないが。

 

「それにしても、この石なんなんだろうな」

 

 休憩を終え再び移動を開始する。その際に犬の死体から胸の近くにある石を取り出す。色は紫で大きさはあまり大きくない。こんな色をした石は見たことがない。知識としてはスギライトがあるが、あれはこんな所でとれるものじゃなかったような気がする。いや、モンスターから取れる石なんて俺が知っているようなものじゃないか。だが、モンスターを倒すと毎回出てくるのだから正体も気になるというものだ。

 

 これを見つけたのは、途中で出会った犬を倒した時にちょうど胸の中身が見えるように切り裂いてしまい、あまりのグロさに顔を顰めたのだが、偶然紫紺色をした石が見えた。そのまま放っておけばよかったのかもしれないが、なにかの重要アイテムか何かかと思った俺はそれを取ってみたのだ。すると、犬は灰になり消えていった。これには驚き、すぐにその場を離れ道を進んでしまったのがもう少し観察するべきだったろうか。

 

 今、思えばミノタウロスを倒した時もあったかもしれない。もしかすると剣で突き刺した時に一緒に砕いたかもしれないが。

 

 しかし、さっきの犬といいミノタウロスといい、どいつもこの石を持っている。もしかするとこの石はモンスター達の核、人間で言うところの心臓なのかもしれない。

 

 そう思いながら石でできている道を歩いていく。

 現在俺は、最初に居た場所から一つ上の場所、階層にいる。なんとか階段を見つけて上に登ったのだが、広がっているのが外の景色ではなくまたしても洞窟だったのには軽く絶望した。その後、気をなんとか取り直し上へと向かっているのだが、如何せん広くなかなか階段を見つけれないでいた。それに加えモンスターなんかが出てくるのだから堪ったものではない。まぁ、極力戦闘を避け、手短にモンスターを倒していけばなんとか外に出られるだろう。

 

「お、階段だ」

 

 そう思っていると上に向かう階段を見つける。思いの外戦闘も少なかったし、こりゃ楽勝かな、と楽観しながら俺は階段を登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ――――そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

 階段を登った俺は辺りが岩盤で構成されている道を歩いていたのだが、しばらく進んでいるとまたしても筋肉犬が現れた。それはまぁ、すぐに倒せたため良かったのだがその後が問題だ。筋肉犬を倒した俺はひと安心して息をついていたのだが、なんとその直後ウサギが現れたのだ。それもただのウサギではなく武器を持ったウサギ。それだけならなんとか対処出来たのだが、面倒なことに奴らは三匹でかかって来た。【魔力放出】で一体を難なく倒すことは出来たものの、その後残りの二体が手に持つ小型の斧で襲い掛かってくる。【直感】で来るのはわかっていたが、体がうまく動かずその攻撃をくらってしまった。鎧でダメージは軽減出来たもののダメージがあったのは間違いない。なんとかそのウサギ共を倒して安心していたのだが、どうやらこの洞窟は俺の事が大嫌いらしく、今度は壁からコウモリを出してくる。まともに取り合っていたらキリがない、と判断した俺はその場から【魔力放出】を使いその場から脱出した。そしてなんとか逃げ切ったので壁に寄りかかり休憩している。

 

「ま、まじかよ……ヤバ過ぎるぞ、ここ……」

 

 ミノタウロスが出た時からヤバイところだということは分かっていたが、まさか連続で襲ってくるとは思いもしなかった。ある意味ミノタウロスよりもヤバイかもしれない。この様子だとあの筋肉犬やミノタウロスも群れて出てくるかもしれない。そう考えると一刻も速くここから出る、せめて上の階層にいくべきだと思わされる。もちろんこの上が外に繋がっていれば一番だが、ミノタウロスがでない階層があるのならそこまで速く行くのが一番だ。

 

 仮にミノタウロス以上の存在が出てくるなんてことは―――

 

「考えたくもないな……」

 

 死ぬ。そうなれば間違いなく死んでしまうだろう。ドラゴンなんかが出てきたら俺はブレスで黒焦げになる自信がある。本物のセイバーならちょちょいと、とはいかないかもしれないがなんとか倒すだろう。だが、中身一般人の俺が、このセイバーボディを使ったとしても三秒で死ぬ。なので、あれ以上のモノが出てくるのは勘弁願いたいのだ。

 

 まぁ、俺に出来る事は祈ることくらいなものだ。せめて上の階層はゴブリン程度しかいませんように、と。

 

「っと、またかよ……!」

 

 心の中で祈っていると、上からバキバキと音がなりコウモリが生まれ、キィキィと耳障りな音を鳴らしながら、群れてこちらへ向かってくる。それを見た俺はすぐに壁から身を起こし、走りだす。【魔力放出】はなしだ。コウモリの数は五匹、たかだかこれだけの相手に使っていたら持たなくなるかもしれない。なので、ある程度走った俺は後ろを振り返りざまに剣を振るう。その一振りで三匹のコウモリは真っ二つになり灰となり消えていく。だが、まだ残りの二匹は残っており、殺された仲間の事など気にせず俺に襲い掛かってくる。【魔力放出】を使っていたのならばすぐさま剣を戻せただろうが、素の身体能力である今は剣を戻すことが出来ない。そのため、コウモリはこれ幸いと俺の顔に群がってくる。爪、あるいは牙で引っ掻いたり噛み付いたりしてくるため、顔は傷だらけになり血が流れでてくる。ここにきて初めての傷がつくが、そんな事を気にしている暇はない。

 

 痛みに顔をしかめながらも、その場から飛び、地面に転がる。その際にコウモリは俺の顔を傷つけることをやめ、一度空へと舞い上がる。すぐさま体を起こし剣を構えコウモリが来るのを待つ。だが、コウモリは依然として降りてこない。その様子に首をかしげるが、降りてこないのならわざわざ相手をする必要もない。思わぬ幸運に喜び、その場を後にする。

 

 と、その瞬間とても嫌な予感がした。

 

 その勘にしたがって後ろを見ると、今一番見たくない光景がそこにあった。

 

『キュイッ!』

『キュアァッ!』

『キィ、キイィッ!』

『オオオオォォォォォォ!』

 

 赤い瞳をした石でできた斧をもったウサギ、それに加えやけにでかいアルマジロ。さっきのコウモリも数を増やしている。それぞれがすでに戦闘準備を整えており、いつでも俺を攻撃できる状態にある。あれと戦おう、なんて考えるべきではないなんて事は戦闘の素人である俺にでも分かる。連携がやけいにうまいウサギ、当たればひとたまりもなさそうな鎧を持つアルマジロ、夥しい数を引き連れてきたコウモリたち。これを見て俺がすることなどただひとつ。

 

「逃げるしかねぇッ!!」

 

 そう決めるとともに、【魔力放出】を使う。出し惜しんでいた【魔力放出】もこんな状況では出さざるえない。後のことなど考えずにその場を即座に魔力で強化された脚を使い逃げる。地面には俺が思いっきり踏んだ時にできた砂埃が舞っているだろう。それが少しでも目眩ましになることを祈りながら、ただ前を見て逃げる。

 

『キュアアァァッ!』

『キュッウウウウッ!』

『キュウウアアアァァァァッ!!』

『オオオオオオオオオォォォ!』

 

 目眩ましは大した効果を得られず、モンスター達はこちらへ一直線に向かってくるのが分かる。そのことに焦りながらも後ろを見ることはせず脚を動かす。しかしその直後【直感】が発動したのか、次の行動を感じ取る。その勘に従い、すぐさま横に跳ぶ。すると、さっきまで俺が走っていた所を岩石を思わせる球体が通り過ぎ、球体は壁にぶつかり止まる。壁を破壊する、というおまけ付きで。

 

「まじかよ……」

 

 その威力に冷や汗を流し、すぐに方向転換し走りだす。だが、一瞬でも止まったのが悪かったのか、夥しい数のコウモリが一気に群がってくる。目の前をコウモリでいっぱいにした俺は軽く舌打ちをして、その場から逃げ出そうと脚に力をこめようとした瞬間、

 

『キュアッ!』

「グッ!」

 

 ウサギの攻撃をくらう。コウモリの体によって視界が埋め尽くされウサギの行動が見えなかったのが原因だ。背中と脚にくらったようでズキズキと痛みが走る。不意の攻撃により足がもつれその場に倒れる。それを好機と見たウサギとコウモリは一気に群がり、俺の体に引っ掻き、噛みつき、石斧による攻撃が襲いかかる。一度体勢を崩し、倒れたのに加え、一斉攻撃。それにさらされる俺は立つこともままならい。

 

「ぐっ、がああああぁぁぁぁぁッ!」

 

 その痛みは半端なものではなく、口からは絶叫があがる。しかし、それすらも悪手であったのか、その声がきっかけであったかのように、今度はアルマジロが起き上がる気配を感じる。恐らく次もあの転がる攻撃をしてくるのだろう。その証拠にアルマジロは俺を攻撃するのには加わらず、一体だけ離れていく。

 

 冗談じゃない、あんな壁を壊すような突進を受けたら今度こそ死んでしまう。ある意味ミノタウロスの攻撃に匹敵するだろう攻撃だ、受けたなら俺の内蔵は潰れ、骨は砕けてしまう。それをなんとか回避しようと体を起こし逃げようとするが、ウサギとコウモリの攻撃により立つことが出来ない。それに舌打ちをしたいが、それをすると口の中にまで入ってきそうなのでそれすらも出来ない。

 

 俺が転がっている間にアルマジロは十分な距離をとったのか、その場所から転がってくる。球体が転がる音が聞こえてくる。もはや時間はない。ここでなんとかしなければ俺は死ぬ。

 

 その一秒先の死を俺は―――――

 

「お、らああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 突風で辺りの物を全て吹き飛ばし、回避する。

 

 使ったのは【風王結界(インビジブルエア)】。本来なら風を幾重にも覆い、光を屈折させ剣を不可視にするものだが、今回はそこまでする必要はない。ただ、周りに群がっているモンスターどもを吹き飛ばすだけの風で十分だ。仮にミノタウロスが群がっていたならば即座に吹き飛ばすだけの風は集められなかっただろうが、今いるのはウサギやコウモリという小型のモンスターばかり。故に時間はそこまで掛けずに吹き飛ばすだけの風を集めることができた。

 

 そして、その剣に集まった風を一気に解放し、振るうことで、俺の周りには小規模の台風が吹く事となる。

 

 体が自由となった俺は即座に地面に手をつき、後転でその場から離れる。その直後、アルマジロが球体が通り過ぎる。なんとかそれを回避できた俺は安心して息をつくことはせず、アルマジロに向かって走りだす。アルマジロは俺を通り越したことに気づいたのか、Uターンをしてこちらに戻ってくる。その速度は依然変わりなく、逃げるのならばすぐに追いつかれるだろう。だが、今は逃げる事はせず、迎え撃つことだけを考えていればいい。向かってくるアルマジロを見ると、その場に止まり剣を上段に構える。

 

『オオオオオオオオオォォォ!』

 

 そして、アルマジロと俺の距離が零になる瞬間、アルマジロは跳ねた。顔面を狙って一撃必殺を狙うつもりだろう。だがそれに慌てることもなく、俺は剣を勢いよく振り下ろす。アルマジロは真っ二つに割れ、俺を通り過ぎていく。おそらく灰になって紫紺の石も落ちているのだろうが、それを確認することもなく、すぐさまウサギの位置を確認する。

 

 そして、まず一匹目のウサギを見つけ、斬りかかりに行く。全力で【魔力放出】を使い、一瞬で距離を詰めて剣を振り下ろし、灰に変え、そして、横に飛び二匹目のウサギの元に辿り着き、止まることなくその足でウサギの小柄な体躯を蹴飛ばす。防御をする暇もなく体全体で【魔力放出】の蹴りを受けたウサギは勢い良く宙を舞いながら灰になる。そして最後の一匹。そいつはすでに攻撃準備に入っており、俺に向かって走ってきているところだった。手に持つ石斧を構えながら俺を攻撃しようと迫ってくる。それに乗じるようにコウモリ共も数を揃え、ウサギと共に向かってくる。

 

「邪魔だァ!!」

 

 それを剣の一払いで全て殺す。技もなにもない、ただ横に振り払うだけの素人でもできる単純な動作。そこに剣の術理など一切なく、力任せに、それこそバットを振るうようなモノ。だがその単純な動作は全力の【魔力放出】を使うことで、その威力は通常のものとは別格のものとなる。

 

 コウモリは剣に当たった奴から血が舞って死んでいく。ウサギは胴体を薙ぎ払われ、真っ二つになりその体が落ちる前に灰となり、石を落として消えていく。単純な力だけの薙ぎ払い。それだけで、さっきまで俺が為す術もなくやられていたモンスター達を一掃できた。そのことに、驚きつつもここを移動しようとする。

 

 が、

 

「はぁっ、はぁっ、今のは、結構やばかったな……また、群れられる前に、ここを移動しないと……ぉ?」

 

 ガクリ、と膝が折れ曲がる。急に原因不明の倦怠感と疲労感、それに加え眠気までが襲い掛かってくる。まるで全力で走らされた後に、体全体に重りを付けて動かされているような感覚。初めて味わう感覚に驚愕しつつも、襲いかかる今強烈な眠気に身を任せてしまいたい衝動が湧き出る。その眠気に身を任せたならば、心地よい気分に埋もれることができ、この現実から逃げ出せるのだろう。

 

 だが、それは死神の誘い。ここでその感覚に身を任せてしまえば、この身はモンスターどもに喰われ、死んでしまうだろう。いくらセイバーの体とは言え、眠っている時に襲われたのならどうすることも出来ない。故に死にたくない一心で必死で落ちかかっている瞼を上げようとするのだが、そんな意志など知らぬとばかりに眠気は俺に襲いかかってきて、ついにはその瞼を閉じ―――

 

「――ふざけろっ!」

 

 ゴッ! と鈍い音が辺りに響き渡る。俺が近くの壁に頭突きをした音だ。壁にぶつけたせいで額から血が流れるが、そのおかげで眠気はいくらかマシになった。倦怠感と疲労感はそのままだが、眠ってしまうよりかはいいかと考え、壁に寄りかかりながら足を動かしながら、階段を探しに向かった。

 

 「くそ、これは……まずいな……」

 

 口から出る声もどこか弱々しい。幸運なことにモンスターは襲ってこず、障害なく進むことが出来ている。どうやらさっきのモンスターたちでとりあえずは終わりらしい。そのことに安心感を覚えつつも、いつ襲ってくるか分からない恐怖も同時に覚える。

 

 しかし、いくらセイバーボディとはいえ連戦に加えこの謎の疲労感は堪えたのか足が動かなくなる。少しの間は立つことが出来たが、ついに限界を迎え壁に背中を預けてズルズルと滑りながら座りこむ。

 

 仕方がない、と思い少しの間休憩を挟むことにする。モンスターがいつ襲ってくるかは分からないが、そんなに連続しては襲ってこないだろう。なのでせめて身を隠すくらいはしようと思い、近くにあった洞窟に体を引きずりながら入り込む。そして眠らないようにしながら、体を休める。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、くそったれ。なんなんだよ、この疲れは……」

 

 座り込みながらもこの疲れの原因について考える。いくらなんでもこの疲労感は異常すぎる。俺が連戦を経ていたとしてもまだまだ余裕があったはず。ならば、他に疲れる要素なんて――――

 

「――あ」

 

 一つ、原因に思い当たる。この謎の疲労感の原因に。今までの戦闘に使ってきたものはなんだっただろうか。この鎧、手に持つ【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】、そして最後に【魔力放出】。俺の身体能力を補うための生命線と言ってもいいスキルだ。そしてそれは名前から分かるように魔力を使う。もちろんできるだけ使わないようにはしてきたが、あの全力の【魔力放出】で限界を迎えたのだろう。それに加え、【風王結界(インビジブルエア)】も予想以上に魔力を使ったのだろう。

 

 つまりこの疲労感は魔力切れ。敵を倒す事を優先し、後の事を考えなかった結果だ。もちろんあの時の選択は間違ってなかったといえるが、筋肉犬との戦闘は全て避けるべきだったのかもしれない。

 

「クソっ……」

 

 壁を苛立ちのままに叩き、生命線である魔力を使いきったことに絶望するが、一つ可能性を思いつく。

 

 この体はおそらくサーヴァントではない。なぜなら、霊体化もできないし、どこかにパスがつながっている感覚もない。つまりは受肉をしており、その存在は生きているといってもいいだろう。それがどうした、と思うかもしれないがこれは結構重要なことである。セイバーはただの人間ではなく、魔法使いであるマーリンの手によりその体に竜の因子を埋め込まれている。そのため、莫大な魔力を持つのに加え、ただ息をするだけで魔力を生み出すという生きた魔力炉のような存在だ。本編ではサーヴァントという存在であったため魔力はマスターに依存していたが、生きていたならば宝具を使いまくるという反則じみたものになっていただろう。

 

 何が言いたいのかというと、生きているセイバーの体を使っている俺ならば息をするだけで魔力を精製しているのではないか、ということだ。

 

「これは……いけるか……?」

 

 僅かな希望が見えてきて体に活力が戻る。未だ疲労感は拭えないが、いずれ動けるようになるだろう。ならばその時までなんとか生き残るように気をつけよう。そして、魔力が戻り、動けるようになったのなら再び脱出を開始するとしよう。そう思い、辺りを警戒しつつも体を休めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 あれからどれくらい時間が経ったのかは分からない。

 あの後、洞窟で魔力が回復するのを待ち、動ける程度に回復したら移動を開始した。途中で再びモンスターが襲ってきたのだが、前回の反省を活かしてできるだけ一回の【魔力放出】で全て倒してきた。囲まれた時には戦うことはせずに逃げることに全力を使い戦闘を回避。さらにはこまめに休憩を取り魔力切れに陥ることはないようにしてきた。そのおかげか、最初に魔力切れになった時に襲いかかってきた疲労が再び襲ってくることはなかった。まぁ、これは上の階に行けば行くほど敵が弱くなってきたのと、鎧に使っていた魔力を全て【魔力放出】に使ったおかげだろう。

 

 そしてまた、何度目かになる階段を昇る作業をする。体は【魔力放出】による魔力切れ抜きで疲れきっており、壁に身を預けながら歩いている。さらには地面を転がることもあり着ているドレスは泥だらけ、しかも血も拭いたので血もところどころに付いている。それに加え、顔も泥だらけ、髪もボサボサで綺麗な金色の髪も泥で汚れているところがある。他の人が見たならば、ギョッとしてその場をそそくさと離れていくだろう。こんな姿になったのは子供の時に泥で遊んだ時以来だと思う。

 

 「あぁ……疲れた……帰りたい……陽の光を浴びたい……風呂に入りたい……ゲームしたい……」

 

 愚痴ばかり出る。こうでもしないとやってられないし、こうすることでなんとかここまでこれた。こう考えると結構俺の愚痴も捨てたもんじゃないな、なんてくだらない事を思う。

 そうしていると階段を登り切る。広がっているのは円型の空間。とても広く何千人もの人を入れることができそうな程広い。上には空と見紛うばかりの壁画、それも合わさりそこはまるで神殿のように感じる。

 

「まじでどこだよここ……」

 

 今どこにいるのかが本当に疑問になるが、そんな事はどうでもいい。今は一刻も速く外に出て、ここはどこなのかが知りたい。それを知らなければ俺は帰る手段さえわからないのだ。

 辺りを見回し出口がどこにあるのかを探し、ある方向に向かう。距離は長いが今となってはそう遠くは感じない。

 

 そして、出口を抜け外に出て見えたものは――――

 

 

「マジ、かよ……」

 

 

 完全無欠に異世界だった。

 

 

 

 

 

 




 主「中層の恐怖ならもう味わったぜ」
 ベル「なん……だと……」

 

 はい、すいません。中層のことなんかいいからさっさとファミリア入れや、と思った人がいると思います。一応理由としては仮にも中層なんだから飛ばしたら、なんか強すぎね? と思う人が出るかと思ったからです。

 恩恵なしで倒すのも強すぎんだろ、と言われるかもしれませんが、そこは魔力放出とエクスカリバーのおかげってことで。

 
 感想をくれると嬉しいです。

 
 
 




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