ダンジョンに騎士王(憑依)が現れるのは間違っているだろうか   作:ヨーグ=ルト

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一話

 ―――――目覚めたら洞窟の中に居た。

 

 

 な、なにを言ってるのかわからないと思うが、俺にもさっぱりわからん。本当に目が覚めたら洞窟の中にいたとしかいいようがない。まさかとは思うが誰かが俺を拉致して洞窟の中に放り込んだんだろうか。だとしたら俺は今、人生で最大級に危険な状況にあるのだが、周りを見回しても誰かがいる様子はない。

 

 ならば外にいるのか、と思い、辺りを探るために足を動かすが、俺の体は前に進むことはせずに足が動いた事を感じるだけだった。

 そこでようやく自分が横になっていることに気づく。辺りを見回した時に気づけよと思うが、どうも俺は寝ぼけていたようだ。もし誰かに見られていたら即効でその場から逃げ出すかもしれない。いや、確実に逃げる。

 赤面しながらも今度こそ立ち上がり、歩けるようになる――が、

 

「……あれ?」

 

 視界が低い?どうも今まで見てきた世界と高さが違う。俺の身長は175センチ位あり、かなり高いほうだと思っていたが、今見えている視界はかなり低い。というかこれは中学生女子くらいの身長ではないだろうか。しかも黒色だった俺の髪の毛は金色になっている。いや、前髪しか見えないからなんとも言えないけど、前だけ金色なんてことはないと思う。

 それに加え、今の声。俺の声は高校生にしては高い身長もあり声質は低い方だったが、今聞こえた声はかなり高く女性のようだった。俺には女の声真似なんて出来ないし、そんなことはしない。ならば、今聞こえた声はなんだ?俺の幻聴か?

 そう思い再び確認の為声を出してみることにした。

 

「あ、あーあー、あめんぼあかいなアイウエオ……」

 

 随分と可愛らしい声がでた。言っていることは自分でも意味のわからないと思うが、何を言えばよかったのかさっぱり思いつかなかったので仕方がない。左右を見回し、誰も居ないことを確認して人知れず安心する。なんかさっきから変なことばっかりしているな。

 

 まぁ、それは置いとくとしてだ。

 

「俺の声じゃない……よな、やっぱ……」

 

 自分の声ではない、そう考える。確認のため出した声は完全に女のもので、決して高校生男子に出せる声じゃなかった。なら誰の声なんだ、と思うが知り合いにこんな声を出せる奴はいない。いや、誰か知り合いにいたとしても問題はそれじゃない。問題は、

 

「俺の体じゃないのか……?」

 

 自分の声が違うなら、それを出す器官が違うということ。声帯の長さで声の高さは決まると聞いたことがある。つまり、今の俺の体は今までとは違い、こんな高い声を出せるほどの体の大きさになっているということ。それが視界の低さにも繋がっている。慌てて自分の手を見てみると、そこには自分の大きな手はなく、少女の、それこそ中学生くらいの少女の手があった。そのことを確認すると結構ヤバイことに気づいて、急いで頭を下に向け、手を自分の股間に持っていく。その際にいま着ている服がドレスという驚愕の事実に気づいてしまうが、今はそれどころではない。

 

「な、な、な、ない……!」

 

 息子が、十七年間苦楽を共にしてきた同胞が、跡形もなく消え去っていた。

 少女の声で言っているため可愛らしいのだが、言っている内容は最悪である。

 

「どどどど、どういうこっちゃ……!?」

 

 混乱が最高潮まで達し、口調がおかしなことになる。しかし考えてみて欲しい。十七年間男として過ごしていたのに、自分の家で眠り、目が覚めたと思ったら急に女の、しかも自分より年齢が下の中学生くらいの少女の体になっている。こんな事が起こったならば混乱して口調くらいおかしくなってもおかしくないのではないだろうか。むしろ泣き出さなかった事をほめてやりたい。泣いたら泣いたで情けないような気がするのだが。高校生だし。中身は。

 

 そんな事を考えつつ慌てていると急に嫌な予感がした。

 

 その予感に従い後ろを振り向くとそこには化け物が居た。自分よりも遥かに背が高く、その肉体は筋肉の鎧で覆われている。頭には角が生えており、目は赤く輝いている。その姿はアニメや神話などに出てくるミノタウロスそのものだった。こんな洞窟にいることもファンタジーそのものだが、あんな物が出てくるなんて予想外にも程がある。いつからこの世界はファンタジーに侵されたんだ。

 

 ミノタウロスの鼻息は荒く、その瞳には殺す、という殺意が浮かんでいる。身がすくむ。逃げろと本能が叫ぶ。分かってるよ、と本能に悪態をつきたいがそんな暇は与えられなかった。

 

『ヴモオオオオオオオォォォォォォ!!!』

 

 ミノタウロスが吠えた。

 

 そして、その瞬間跳ねるようにその場から逃げ出す。その咆哮は俺の恐怖を呼び覚まし、俺が女になったことや、こんな洞窟にいることを思考の中から消し飛ばし、ただ逃げる事を考えさせる。

 

 だが、やはりその身体能力は見た目通りの少女のもので遅く、ミノタウロスの速度には敵わない。がむしゃらに走るが後ろから聞こえてくる重い足音がさらなる恐怖を呼び起こし、肉体的な体力だけではなく精神的な体力までゴリゴリと削ってくる。もしかしたら、あのミノタウロスは遊んでいるだけではないのか?本当は簡単に追いついて殺す事ができるのではないか?そんな考えが浮かんでくる。

 

 「うわああああぁぁぁああああぁあぁぁっっ!!」

 

 叫び声を上げて自分が殺されるイメージをとにかく振り払う。逃げる最中に殺される事なんか考えていたら余計に疲れてしまう。

 

 しかし、現実というやつは非常でそんな考えなど関係ない、とでも言うようにミノタウルスの足音はすぐそこまで近づいてきている。おそらく次の一瞬後には俺の体はあの拳に殴られるか、足で蹴られるかして飛んでいるだろう。

 

 そう思ってどこか諦めの念が頭に浮かんで来た瞬間———

 

 

 —————右に避けろ。

 

 

 

「ッ!?」

 

 そう頭の中に浮かんでくる。それはおそらく直感であり、それに従うことに抵抗は一切感じず、俺はすぐさま右に飛ぶ。その次の瞬間、ミノタウロスの拳が放たれ、地面を揺らして俺の体を少し浮き上がらせる。一瞬の浮遊感を感じ、前方へゴロゴロと転がっていく。そして、かなりの距離を転がっていくと背中から壁にぶつかり、強制的に止められる。

 

「かはっ……」

 

 ぶつかった時の衝撃で肺にあった空気を無理矢理吐き出さしながらも、全身に感じる痛みで声を上げそうになる。それを気合いでなんとか押さえ込み、立ち上がり再び逃げようとする。だが、運の悪いことに俺が転がり込んだところは一方通行の場所だったようで、横にも後ろにも道はない。日頃から運が悪いと思っていたけどまさかこんなところで発揮されるとは。どうやら本当に俺はついてないようだ。現実を理解してしまった俺は気力がなくなりその場にへたり込んでしまった。

 

『ヴヴォオオオォォオオオォォ!!』

 

 少しするとミノタウロスが現れる。しかもミノタウルスはすでに俺を捕捉しており、今にも飛びかかろうとしている。ああ、クソったれ。今日はなんて日だ。目が覚めたらこんな意味の分からない洞窟の中に放置されてるし、しかも性別まで変わってると来た。挙句の果てにはいかにもファンタジーなモンスターまで出てくる始末。一部の人間にはラッキーな日になるのかもしれないが、俺にとっては不幸すぎて笑うしかない。ふざけた話だ。こんなところで訳のわからないまま、ミノタウルスに殺される。こんな話が現実にあるなんて信じたくもない。

 

 ああ、死んだな、と思った時、

 

 

 —————立ち上がり、魔力を使い鎧を纏え。それが終わればすぐさま己が武器を取り出し、敵の攻撃に備え、構えろ。

 

 再び、頭の中にそんなことが浮かんでくる。もちろん意味は分からない。俺には魔力なんて使えないし、武器の取り出し方なんてさっぱり分からない。故にこの直感は意味のないことで、俺は何もできずにこのままミノタウルスに殺される、そういう運命(fate)のはず。

 

 ————だが、俺の頭の中にはご丁寧に魔力を使って鎧を纏う方法も自分の武器の取り出し方まで教えてくれてやがる。

 

 ならばできないことはない。そこまで分かっているのならもはやためらう必要もなく、ただそれを実行するのみ。俺はすぐさま立ち上がり、頭の中にある方法を使い、鎧を纏い、さらに武器をその手に持つ。手には籠手が嵌められ、胸には胸当てがつけられ、腰にはウエストアーマー。そして足には銀の具足が付けられている。手に持つ武器は見るものを魅了する黄金の剣。それら全てを身に纏ったせいか、俺を中心として風が吹き荒れる。風の影響で金色の髪がたなびき、顔も心なしか引き締まっているような気がする。

 

 その姿は威厳に満ち溢れており、姿も合わさって騎士の中の王、まさしく騎士王と言える姿。向かってくる敵を全てその黄金の剣で打ち倒し、人々の希望となり得る理想の王。

 

 その名は———

 

『ヴヴォオオオオォォオオオォォオオオォォ!!!!』

 

 突然変わった俺の姿に驚いたのか、それとも恐怖したのかは分からないがミノタウルスが襲いかかって来る。地面を踏み砕き、雄叫びをあげ、拳を振り上げて俺の方へと距離を詰めて来ている。ああ、その拳には俺を打ち砕くほどの威力があるのだろう。さっきまでの逃げることしかできなかった俺ならばそのまま拳をくらい、体を破裂させながら吹き飛んでいただろう。だが、今は違う。

 

 手に持つ剣を頭の横辺りに構え、ミノタウルスの動きをよく観察する。後どれくらいの歩数で攻撃範囲に入るのか、どこを狙って攻撃をしてくるのか、それを見極める。そしてミノタウルスが俺を攻撃範囲に入れ、拳を振り下ろすのを認識する。その瞬間、俺はそれを防御するのではなく、逆にミノタウルスに向かって身を屈めながら踏み込む。拳は俺の頭の上を通過していき外れ、剣はすれ違いざまにミノタウルスの脇腹を切り裂いていく。以前の俺ならば踏み込む事すらできなかっただろうが、今は剣を使って反撃まで出来る。

 

 脇腹を切り裂かれたミノタウルスは痛みに絶叫をあげながらも振り返り、俺をめがけてふたたび拳を放つ。その攻撃を今度は相手よりも速く横に剣を振るい、横切りをすることでミノタウルスの胸に裂傷を与え、そのまま右に飛び、拳を回避する。背中を晒すことになったミノタウルスに止めを刺そうと剣を振るうが、それはミノタウルスが前に跳ぶことで避けられる。

 

『フゥーッ……!ヴヴォオオオオォォオオオォォオオオ!!』

 

 前に二十メートル程跳び、剣の一閃を避けたミノタウルスは振り返りこちらを向く。ミノタウルスは目をさらに赤く染め、両手を地面に着き、四つん這いになる。頭は低く構え、臀部の位置は高く保たれる。頭にある角の存在も合わさり、その姿はまさに猛牛。おそらく次に来る攻撃は突撃だろう。

 

「なるほど、奥の手か……。いいだろう、ならばこちらも迎え撃つッ!」

 

 それに相対するように剣を再び頭の横に構え、ミノタウルスの突撃に迎え撃つように魔力を高めていく。次第にそれは風となり剣に集っていく。そしてまた、ミノタウルスも全身に力を込め、その角で俺を刺し殺さんと殺意を高めていく。空気が次第に張り詰めていき、俺の眼光とミノタウルスの眼光がぶつかり合う。

 

 そして———

 

「はあああああああああああァァァァァ————!!」

『ヴヴォオオオオオオオオオオォォォォ————!!』

 

 突撃する。

 

 互いに乾坤一擲。この一撃に全力を尽くして、敵を討ち滅ぼさんと、その意のみを持ちながら地面を踏み砕き、剣を横に構え、突撃する。耳に風を切る音のみが聞こえ、他の音が一切入ってこない。突撃の速度はどちらも速いが、どちらかというと俺に軍配が上がっている。その速さにミノタウルスは目を剥き、俺との距離が想像以上に早く迫ってくることを認識すると、突撃の最大威力を発揮する助走をあきらめ、すぐさますくい上げを行う。

 

「————————————ッ!」

『————————————ッ!』

 

 その瞬間、目をめいいっぱい見開きすくい上げを見切り、身を屈め、躱す。そして、懐に入り、手に持つ剣をミノタウルスの心臓に突き刺す。剣は正確無比に胸の中心に突き刺さり、ミノタウルスの心臓を破壊する。しかし、俺の疾走の勢いがよすぎたのか俺の突撃は止まることをせず、ミノタウルスの巨体を持ち上げながら走っていく。

 

 二十メートル程進んでいくと壁にぶつかり止まる。しかし、剣はミノタウルスの体を縫い付けるように壁に刺さり、その壁はミノタウルスがぶつかった衝撃で低い音を鳴らしてヒビが入る。俺は衝撃に耐えられず剣から手を離し、尻餅をつく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、勝った……のか?」

 

 息を切らし、自分が勝ったのかどうかを確認する。目の前にいるミノタウルスがまだ生きており、胸に突き刺さっている剣を抜いて再びくるのではないかと、ありえないであろう未来を想像してしまう。もし、ここでまたミノタウルスが復活して戦いになったら間違いなく俺は死ぬだろう。故に、油断はせずにミノタウルスを睨むように見続ける。

 

 しかし、その予想に反して、ミノタウルスは次第に姿が崩れていき、灰となり落ちていく。その後も慎重にその灰の山を見続け、何もないことを確認してようやく一安心して、息を吐く。

 

「はっあああああああ〜〜〜。し、死ぬかと思った。というかなんなんだよあの不思議パワーは!?」

 

 生き残ったことの喜びとさっきから発揮していた不思議パワーへの疑問で思考がぐちゃぐちゃになる。だが、やはり疑問より生存したことの喜びが勝ったので、ここは素直に喜んでおく。

 

「ははは、はははははははは……!」

 

 どさり、と音を立てて横になり生きていることの喜びを噛みしめる。嬉しくて嬉しくて意味もないのに笑い声が出てくる。

 

 と、そこで自分の姿を思い出し、自分がさっきまで使っていた剣を体を起こして見る。そこにはもう黄金には輝いてはいないが、変わらずそこに突き刺さっている剣がある。それをしばらく眺め、そして今度は起き上がり自分の姿を見る。胸当て、籠手、ウエストアーマー、具足はなくなり青いドレスのみになっているが、重要なのはそこではない。このドレス。目覚めた時は分からなかったけど今見るととてつもなく見覚えがある。そして剣。これはドレスと同じくらい見覚えがある。さらに目覚めた時に確認した俺の身長、髪の色、声の高さ、これら全てを組み合わせると————

 

 

「お、俺……、もしかして、セイバーになってるのか……!?」

 

 Fate/stay.nightのヒロインの一人。真名はアルトリア・ペンドラゴン。伝説ではアーサー王。サーヴァントのクラスはセイバー。

 Fateを見ている人ならば絶対に知っているであろう存在に俺はなっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




急に頭に浮かんだネタ。

セイバーなのに弱すぎんだろ!?という事を突っ込まれそうなので言っとくと、ご都合主義です(キリッ

まぁ、本当の事をいうとセイバーの体を使ってるけど制限がすごいかかってて本来のスペックとはかけ離れているっていう設定。恩恵をもらってアビリティやレベルを上げていけばだんだん本来の、というよりサーヴァントクラスに近づいていく、っていう感じで考えてみました。
制限かかってるのにミノタウルス倒せたのは、魔力放出のおかげってことで。スキルは全部あるの?と聞かれると、直感と魔力放出だけ、それもランクが下がっているという設定。まぁ、ここら辺はご都合主義ですね。

気が向いたら続く、かも?

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