止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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今回は、茨木華扇様が登場です。
華扇、華仙と表記がばらつくようですが、今回は『華扇』で統一です。
赤というよりピンクの仙人。
皆さんピンクって、どんなイメージですか?


師事せよ!!紅き色の仙人!!

皆さんどうも!こんにちは。

私の名前は詩堂(しどう) (ぜん)

偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。

 

目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!

毎日どんどん修業して、がんばって行きます。

 

……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……

けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……

俺は間違ってない……ハズ……

どうしよう、自信無くなってきた……

 

「あら~?私の修業が不満?」

 

「そんな事ありませんよ!!ははは!!」

 

 

 

 

 

「いただきます」

人里の中、とある人物が茶店で団子をほおばっている。

桃色の頭髪に俗に「お団子頭」といわれることもある髪型。

右手は包帯に覆われており、地肌が見えない。

一口食べて、お茶を飲み、また一口団子をパクリ。

幸せな気持ちが、彼女の中に満ちる。

 

「あら、華扇さん。こんにちは」

 

「貴方は……」

師匠が彼女――茨木 華扇の名を呼ぶ。

 

「偶然ですわね、修業の方はどうです?」

ナチュラルに微笑み、師匠が華扇の隣に座る。

 

「私は毎日、大変ですね」

露骨に困ったような顔をして、華扇がつぶやく。

師匠の言葉から分かる様に、華扇もまた仙人の一人だった。

 

「そうなんですの?私も最近ずっと、弟子の世話で忙しくて――」

 

「ぶっ!?で、弟子ぃ!?ごほっ!貴女弟子なんて、ゲホっ!いたんですか!?」

弟子という単語に華扇が飲んでいたお茶を噴き出す。

おかしな場所に入ったのか、咽て自身の胸を叩く。

 

「はぁ、はぁ……人里の子供を甘い言葉でだましたり――」

 

「なんて事はありませんわよ?

外界から来た所を、紆余曲折あって拾ったんですの。

とーっても手の掛かる子で大変ですわ」

師匠が楽しそうに話す。

その様子を見て華扇は心配した。

 

(……彼女が弟子を?

うーん、邪仙の弟子に成るなんて、一体何を考えているのかしら?

やはり、騙されて連れていかれた可能性が――)

師匠の態度を訝しがり、華扇がブラフをかけてみる事にした。

 

「そうなんですか。弟子をね。

手が掛かるなら、少しの間だけ家で預かりましょうか?

幸い部屋も空いてるし、動物以外に指導してみるのも面白ろいかもしれないわね」

 

「まぁ、本当?

願っても無いチャンスですわ。

なら、少しの間だけお願いできます?」

師匠の言葉は、華扇にとって少し意外だった。

この邪仙が気に入った物を一時といえど手放す性格で無い事は知ってるし、本当に弟子が居る言うのにも驚いた。

 

「では、明日の正午に妖怪の山に向かわせますわね」

華扇の思惑とは離れて、とんとん拍子に話は進んでいった。

 

 

 

 

 

翌日正午、約束の場所へ行くと数名の天狗が集まって河童と相撲を取っているのが見えた。

なぜか行者を、山の上のカエルの方の神様がしていた。

丁度勝敗が付いた様で、勝った方の河童がガッツポーズをする。

 

「……やっぱり、居ないじゃない」

どんな怪人が来るのか、若干不安だった華扇が安堵のため息を付くが――

 

「盟友モドキー、仙人さん来たみたいだよ?」

 

「モドキって……あ、仙人に近いイコール人間(盟友)じゃないって事か……

なんか、いやだなー」

丸く書かれた簡素な土俵の中から、負けた方の少年がこっちに向かって歩いてきた。

 

まさか――

 

「茨木 華扇様ですよね?

今回はありがとうございます」

少年――詩堂 善が笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

「ここを右です、しっかり付いて来なさい」

華扇が自身の修行場兼自宅へと善を案内する。

彼女の自宅は、特殊な結界が張られており、非常に濃い霧に覆われてる。

ある特定の順番で歩いていかないと、入り口に戻されてしまう作りなのだ。

 

(一体、どういう事?あの邪仙の弟子って言うのだからもっとこう、外界から逃げてきた凶悪犯や、屈強な大男なんかを想像していたんだけど――)

 

「おお、あとと!?」

華扇の目の前で、善が足元を木の根に取られ躓きそうになっている。

そして慌てたように、笑顔を向けて取り繕ってきた。

 

「…………足元に気をつけなさい」

 

「はい。華扇様!」

 

(どう見ても純朴そうな少年じゃないの!)

余りに普通過ぎる邪仙の弟子に、華扇が心の中で騒ぐ。

だが油断してはいけない!!どんなに普通に見えてもこの少年は邪仙の弟子。

一体何を仕掛けてくるのか、予想すらできない。

その瞬間、不意に霧が晴れた。

 

「さ、ここが貴方の修行場です。

部屋に案内するから――」

華扇が後ろを振り向くと――

 

「トラぁ?!」

善がトラに驚いていた。

 

「ああ、おかしなことをしなければ大丈夫ですから。

さっさと来てください」

 

「は、はい……華扇様……」

ひどく怯えた様子で、華扇のついていく善。

華扇は屋敷に入ると、善に一つの部屋をあてがった。

 

「さ、ここが貴方の部屋です。

基本は此処にいなさい。

勝手に屋敷の外に出ることは許しませんからね」

 

「はい、華扇様」

 

「うぐ、分かればよろしい……」

もう何度目かも分からない善の返事、なんというか非常にまっすぐした目で、つい気おされてしまう気がする。

 

「荷物を置いて、修業着に着替えたら庭に来なさい」

 

「はい、華扇様!」

 

ピしゃッ!と音がして、部屋の障子が閉まる。

 

「さーてと、修業修業!

師匠以外に稽古をつけてもらうなんて初めて――?

初めてだな!!」

一瞬脳裏に「我にお任せを!!」としゃべるまな板がよぎるが、何かの間違いだろう。

 

「さーて、と――あ”」

 

「ぷぅ!」

善がカバンを開けると、白い毛に包まれた2つの耳が揺れる。

カバンから出てきたのは、一匹のうさぎ。

輝夜が善に遣わしたうさぎのズーちゃんだ。

最近は家の近くの墓でたむろしているのだが――

 

「準備してたカバンの中で寝ちゃったのか……」

 

「(コクコク)」

昨日カバンの中に入って遊んでいた事を善が思い出した。

 

「困ったな……勝手に帰る訳にはいかないし、外にはトラが居るし……

大人しくしててね?」

善の言葉に再度ズーちゃんが頷いた。

 

「遅い!!一体何をしているの!?」

ちっとも来ない善にしびれを切らした、華扇が障子を開いた。

 

「す、すぐに行きます!!」

幸い着替えは終わってたため、ズーちゃんを隠すようにして善が庭へと飛び出した。

 

 

 

「さて、まずは組手ですよ。

仙人としてある程度の、手ほどきは受けていますよね?」

 

「は、はい!」

庭の真ん中で、華扇と善がそれぞれ構えをとる。

 

(この子、なるほど――弟子というのは嘘では無い様ね)

善が構えると同時に、体に気が纏わりついていく。

良くある一般的な、地脈(龍脈ともいう)からくみ上げた気を一度丹田に溜め、呼吸と同時に全身に行きわたらせていく。

確かのそれは仙人の力だが――

 

「行きます、よ!!」

善が地面を蹴り、右手の突きを華扇に向かってふるう!!

だが、華扇は自らの体を横にずらし、右手首で攻撃をいなそうとするが――

 

「なんの――ん!?」

突如見えた異質な、力に警戒してその場から飛びのく!!

善の拳が触れた右手の包帯の一部が、傷つきほどける。

自身の身を強化し支える力とは真逆の相手を傷つける力だ。

 

「なるほど、仙術以外にも力を持ってるようですね?」

 

「えっと、これは、なんというか……

自然についたものなので、力を使うと自然に出てしまって……」

困ったように、善が頭を掻く。

 

「なるほど」

一瞬、わずかな一瞬だが、この少年は妖力に酷似した力を使って見せた。

その瞬間だけ、この純粋無垢な少年は剥き身の刃物の様な気配を見せた。

 

(なるほど、これで確定、ね。

間違いなくこの子は邪仙のお気に入りって訳ね……)

自身の疑問が黒に確定したことで、彼の目標を今度は考え始める。

 

「どんどん行きますよ!華扇様!!」

 

「ええ、来なさい!!」

拳と拳、蹴りと蹴り、そして技と技を交わし、華扇が考える。

 

(彼の目的はなに?なんで、お気に入りの弟子を一時とは言え手放した?)

そんな考え事をしていた為か、華扇は善の下段の突きを躱し損ねた。

いや、正確には体は躱したのだが――

 

ビリィ!!

 

「――あ”!?」

 

「え?――きゃ!?」

善の拳が、華扇のスカートに際どい部分までスリットを入れてしまう!!

 

「ば、ばかものー!!仮とは言え、師事している師匠を辱めるとは何事ですかー!!」

 

「わざとではないんです!!すいませんでした!!」

必死にスカートを抑える華扇と、同じく必死に謝る善。

 

(まったく、一体どうしてこんなことに――はっ!?)

その時華扇に、天啓が来る。

 

(ひょっとしたら、彼の目的はこっち!?)

華扇の脳裏に、何かをたくらむ邪仙の子弟が浮かぶ。

 

……

…………

………………

 

「お師匠様ぁ……」

 

「どうしたのかしらぁ?」

 

「師匠って本当に美人ですよねぇ?

仙人ってみんなそうなんですかぁ?」

 

「うふふ、どうかしら?

そうだわ、里にもう一人居るから、確かめてきたらどうかしら?」

 

「ついでに邪仙堕ちさせましょうね~」

ゲスで好色な顔を浮かべた二人の影が絡み合う。

………………

…………

……

 

「わ、私は簡単に堕ちたりなんかしませんからね!!」

微妙にフラグっぽい事を言って、華扇が部屋の中へ引っ込んで入った。

 

「???」

突然の態度の変化に善が戸惑い立ち尽くす。

 

 

 

 

 

夕飯時。

机の上に、善の用意した料理が並んでいる。

里芋と椎茸の煮物と、かきたま汁、ホウレンソウのおひたし、そして焼き魚。

 

「はい、華扇様。ごはんですよ」

 

「あ、ありがと……」

善によって渡された、茶碗を華扇が受け取る。

弟子の仕事の多くは所謂雑用、掃除炊事洗濯は弟子がやって当然の事。

当然善が、華扇の為に夕食を作る事はおかしくないのだが……

 

(きっとこの料理のどれかに、媚薬が入ってるんでしょうね……)

華扇の脳裏に、ゲスな顔をして舌なめずりし善が浮かぶ。

 

『げっへへへへ!!どうですかぁ?

師匠お手製の媚薬はぁ?これ一滴でオカタイ仙人様も一匹のメスだぜ!!

ぐへ!ぐへ!ぐへへ!!』

 

 

 

「今回かきたま汁が自信作ですよ?

すごく良い感じに卵がふわふわなんです」

 

「いただくわ……(それに媚薬が入ってるのね)」

 

「いただきます。はぁ……温まりますね」

かきたま汁を飲んだ善がほっと一息つく。

 

(あったまる!?そろそろ体が熱く成って来たような……

し、仕掛けてくる気ね!?)

*暖かいモノを飲んだ効果です。

 

しかし、華扇の予想とは裏腹に――

 

「ふぅ、美味しかった。

食べ終わった食器片してきますね」

 

「え、ええ?」

善が襲い掛かってくると思っていた華扇には、あまりにあっさりして言葉に虚を突かれた。

 

 

 

カッポーン……!

 

食事の後、風呂を沸かし華扇が浸かる。

「なぜ何も仕掛けてこないんでしょう……

まさか、焦らして?

い、いやいや。別に仕掛けて欲しい訳では――」

 

「華扇様ー湯加減はどうですかー?」

 

「ひゃい!?」

突如かけられる言葉に、華扇が不意を突かれる。

 

(お、お風呂!?そうです!お風呂は合法的で全裸!?

もし、もし此処で「熱い」なんて言ったら……)

……

…………

………………

「え?お風呂の、温度が悪い?これは直に入って確かめるしかないですねぇ(ゲス顔)」

 

「ちょっと、なんで入って――」

 

「さぁ!!お風呂で楽しい事しましょうねぇ!!

ぐへ、ぐへへへへ!!」

 

「いやぁあああ!!」

………………

…………

……

 

ゴクリと華扇がつばを飲む。

 

(こ、ここは、先輩仙人として、彼の歪んだ心を矯正しなくては!!

決して、決して下心がある訳では、ありません!!)

 

「すこし、熱いですかねぇ?」

 

「じゃ、薪を入れるの止めますね」

 

「え?(入ってこない?)」

善の普通過ぎる言葉に、肩透かしを食う。

その後熱くしても、何もしてこなかった。

 

 

 

 

 

「さてと、俺もお風呂入ってくるから。

コレでも食べてて?」

カバンの中に隠れていた、ズーちゃんに台所からひっそりとくすねた人参を渡す。

 

「おー!」

大好物を貰ったズーちゃんは大喜びでかじり始める。

その様子をみて、善が風呂場へ向かう。

食事を済ませると、再びカバンの中に入っていく。

 

「詩堂くん、明日ですが――」

善の入れ違いで華扇が部屋に入ってくる。

当然善はおらず、カバンからズーちゃんの耳が出ている。

 

「うさ耳!?」

……

…………

………………

 

「ゲヘへ!華扇様のバニー姿似合ってますよぉ?

うさぎみたいに年中発情してそうですねぇ?」

 

「くっ……なぜ、私がこんな格好を……」

 

「違うだろぉ!?華扇様は今うさぎだから、語尾は『ぴょん』だろ!?

俺にまたがってぴょんぴょん(意味深)するんだよ!!」

 

「ぴょ、ぴょんぴょ~ん!!」

………………

…………

……

 

「来るわね、寝静まった頃に……!!

来なさい!!返り討ちにしてやるんだから!!

バニー服なんかに負けない!!」

再度フラグっぽい事を言って自室の布団の中に、潜り込んだ。

 

1時間後……

 

「寝るのを待ってるのよね?

今頃欲望の駆られて――」

 

一方善は……

 

「ふぅ、何とか一日が終わったぞ。

明日も早いだろうし、もう寝ようか?」

 

「おー……」

 

 

 

2時間後……

 

「そろそろね。今にもきっと全裸で扉を開けて……

!?――足音が!!こっちに……あ、とおりすぎた……」

 

 

side善

 

「ZZ……ZZ……ZZ……むにゃ……

ドレミーさん……お久しぶりです……むにゃ……」

 

ガラッ

「ふぅあ……」

トイレに行った来たズーちゃんが善の布団に潜り込む。

 

 

 

3時間後……

 

「なんで、なんで来ないんですか!?

邪仙の弟子でしょ!?夜這いは普通でしょうが!!」

余りに待たされた華扇が遂に部屋を飛び出し、善の部屋へ向かう!!

 

 

 

「何時まで寝てるんですか!?早く起きなさい!!」

 

「うぇ!?華扇様!?」

 

「くぶー!?」

善の部屋を開けると、大きく盛り上がった布団。

そして、一緒に寝る善と、うさ耳を付けた幼子!!

 

「よ、幼女連れ込んでるぅううう!!!???」

朝も近い華扇の家、珍しい華扇の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

「で、家から連れてきてしまったと?」

 

「は、そうです……」

華扇の前、善が座りズーちゃんについての説明をする。

 

「ご、ごほん。別に動物を連れてきたことを責めたりはしません。

ワザとでは無いでしょうし、他の動物たちに危害が及ぶような存在でもないでしょうし……」

わざとらしくせき込んで、華扇が善を許した。

 

「本当ですか!?よかったね、ズーちゃん」

 

「おおー!」

善の言葉に本当にうれしそうに、うさ耳の少女が喜ぶ。

その様子をみて、華扇がふっと笑う。

 

(邪仙の弟子だからといって、私は色眼鏡で彼を見ていた様ね。

こんなに、うさぎの子も喜んで……

彼は、本当に純粋な子なのね)

自身の勝手な思い込みを反省して、華扇が笑う。

 

「さ、今日も修業ですよ?

朝一番は目を覚ます意味を含めて滝行ですからね?」

 

「はい、華扇様!!」

 

 

 

ざざー、ざざー

華扇の家の近くにある滝で、薄着の華扇と善が滝に打たれる。

 

(ハッ!?詩堂君から、邪気が……

い、いえ。まだ疑っているの?彼はそんな子じゃないわ!)

その身に感じた、邪気を間違いだと断じて再び目を閉じて集中する。

その隣では――

 

(やべぇ……でかい……マジで巨乳(でか)い!!

しかも、滝行の服って白い上に薄いから――

ああっ!肌に張り付いて布地の上から肌色が見えるのが良い!!

あれぇ!?しかも、胸のアレが見えて、いや、見えない?どっち!?どっちなの!?)

煩悩100000%!!

しかしそれでも華扇は善を信じ続ける!!

 

 

 

 

 

「そろそろ、善が帰ってくる頃かしら?」

冬も近い墓場の真ん中で師匠が、散歩をしている。

今日は善が華扇の元から帰ってくる日だ。

時間にして1週間ほど、だがずいぶん久しぶりな気がする。

 

ガサッ――

 

「あら、善おかえり」

枯れ葉を踏む音に振り返ると、そこに善が立っていた。

 

 

 

「結構楽しかったな……はぁ、また明日から師匠の理不尽に付き合うのか……」

そんな事を考えながら、善が墓場を歩く。

視線の先に師匠が立っている。

 

がさっ――

 

枯れ葉を踏み、善が歩いていくと師匠が振り返る。

 

「あら、善おかえ――」

 

「お前、誰だ?」

 

バッチィン!!

 

墓の真ん中、師匠の手刀とそれを握って止めた善の右手が、お互いの力をスパークさせ音を立てる。

 

「まさか、瞬時に見破られるとはな!!」

師匠の顔をした誰かが、声を上げる。

その声はしわがれた男の様な声だった。

 

「毎日顔を合わせているんですよ!!」

 

「お前の師匠は、そうでもなかったぞ?」

声のしわがれた男が、指さす先。

そこに善にとって良く見慣れた青髪を美女が、落ち葉に埋もれる様に倒れていた。

 

「な――」

信じられない光景に善が目を見開く――!!

 

 

 

「ごふっ……え?」

師匠が自身の胸から生える、刃物に困惑する。

 

「なんで……?」

剥き身の刃の持ち主が自身の弟子、しかしその弟子が今までに見たことのない顔でこちらを嘲笑う。

 

一瞬、ほんの一瞬だけ自身の弟子の裏切りを考えるがすぐにやめる。

()()()()()()。そう、()()()()()

 

「死神ね――」

答えにたどり着き、師匠が静かに目を閉じる。

 

 

 

「起きてくださいよ!!ねぇ!!師匠!!!

死ぬなんて嘘ですよね!?からかってるだけですよね!!

ねぇ、起きてくださいよ!!俺、まだ未熟なんですよ!?

まだ、成りそこないなんですよ!?言ったじゃないですか!!

俺の面倒を見てくれるって!!師匠の全部の技術をくれるって!!

まだ、1000分の1も貰ってないじゃないですか!!

止めてくださいよ!!質の悪い冗談ですよね!?

死んだふりなんですよね!!起きてください。

死んだふりなんて止めてください!!師匠!!」

悲しみの声、それに返す言葉はなかった。

ただ、夕暮れに沈む空だけが赤く、紅く、朱く……

ただ何度も何度も善の声だけが――

 

「止めてください!!師匠!!」




思春期の男の子の心と体の変化を、気遣ってくれる華扇様は本当に仙人の鑑ですね。
決して淫ピではないのです。

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