止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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今回は小町が久しぶりに登場。
さて、今回の被害者は誰かな?


理想郷の閻魔!!交差する命!!

皆さんどうも!こんにちは。

私の名前は詩堂(しどう) (ぜん)

偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。

 

目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!

毎日どんどん修業して、がんばって行きます。

 

……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……

けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……

俺は間違ってない……ハズ……

どうしよう、自信無くなってきた……

 

「あら~?私の修業が不満?」

 

「そんな事ありませんよ!!ははは!!」

 

 

 

 

 

「ふん、ふふん、ふ~ん♪」

鏡を見ながら師匠が、自身の体に服を宛がう。

その様子を芳香はじっと見ている。

 

「ねぇ、芳香ちゃん。偶には髪を下ろすのも良いわよね?」

自身の髪を梳かしながら師匠が、芳香に向き直った。

 

「い、いいと思うぞ……?」

 

「うふ、大丈夫よ。貴女から善を取ったりしないわ」

不満げな顔をした芳香をなだめるように、師匠が優しく芳香を抱き寄せる。

その言葉を聞いて安堵した様子を見せるが、すぐにハッと成って頭を横に振る。

 

「べ、別に善とはそういう関係じゃないぞ!それにもともと私のでもないぞ!」

 

「あら~、そうだったわね。じゃ、私が遠慮なく貰うわ」

 

「え、あ、う~」

ちょっと意地悪してやろうと師匠がからかうと、芳香はすぐに泣きそうな顔に変わってしまった。

 

「うふふ、芳香にこんなに思ってもらえるなんて、私の弟子は罪作りね」

 

「だ、だ~か~ら~!そんなんじゃないぞ!!」

慌てて否定する芳香が面白くて、かわいくて師匠は再び小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

人里の中、人々の中に混じって小柄な少女が腕時計で時間を見る。

他の人とは明らかに違う服装に、見た目の年に不相応なほどの凛とした意志の強そうな瞳が、彼女が普通の人間少なくとも幻想郷の人ではない事を雄弁に語っていた。

 

「全く小町は……」

彼女の名は、四季映姫。ヤマザナドゥ――所謂閻魔の仕事を持っている。

清廉潔白にして、品行方正、一切の私情無く死者を裁く魂の番人である。

閻魔の仕事をこなしている為か、彼女はルールという物に非常に厳しい。

そう、サボってばかりの部下が珍しくオフの日の気分転換に誘ってきたので、意気揚々と外出したのに、約束の時間を1時間半ほど過ぎている――なんてことが起きたら非常に不愉快になる程度にはルールに厳しかった。

 

「はぁ、新人研修に来た子はしっかりしているのに……

あの子はちゃんと後輩を指導しているのでしょうか……!

指導を、指導をしっかりさせなくては!!」

苛立たし気に拳を握る。

その時――!!

 

「すいませんでしたぁ!!出来心だったんですぅ!!」

近くを通りかかった若者が、突然映姫の前のに土下座で許しを請い始めた!!

 

「え、あの、え?」

突然の出来事に、映姫が困惑し始める。

その時地面の頭をこすり続けていた少年が頭を不意に上げた。

 

「……あ、しまった。つい癖で……すいませんね、おかしなもの見せて」

恥ずかしそうに善が顔を上げた。

 

 

 

「なるほど、私が『指導をしっかりさせなくては』と言ったのを自分が怒られたと勘違いしてんですね」

話を整理しながら、映姫が善に尋ねる。

 

「苗字が詩堂なもので……お恥ずかしい限りです……」

善が恥ずかしそうに誤魔化す様に頬を掻く。

映姫と善が茶店の椅子に並んで仲良く座る。

 

「貴方の罪状は浅慮です。まったくもって貴方は考えが浅すぎます。

街中で突然怒られたと思ったという事は、貴方は日常的に何か後ろめたいことが有るという事ですね?

それだけではありません、詳しく内容も聞かないうちに頭を下げるなんてするべきことではありません。

良いですか?それは「謝ればいい」という心の表れです。

相手がこちらを叱るという事は、間違ったことを正そうとしているのです。

それに耳を傾け自己の過ちを直していくのが、相手にとっての最大の感謝の現し方であり、そしてもう二度と同じ過ちを犯さない様にするのが貴方のなせる善行ですよ?」

言い終えて、映姫は思わずハッとした。

今の自分はオフ、つまりは閻魔ではない。

それなのに長々と、しかも初対面の男にしてしまった!

 

「…………」

善は映姫をじっと見ている。

 

しまった。

映姫は自身の失敗を確信した。

自身の見た目は不本意、非常に不本意だが見た目より()()幼く見える。

年下の小娘に長々と説教されたとあれば、この男が不機嫌になる事は火を見るより明らかだ。

 

(彼の怒りの琴線に触れてしまったかもしれない。

力で負けることは無いでしょうが、ここで騒ぎを起こすのは……)

映姫がそんなことを考えていると、目の前の男が自身の腕を上げてこちらに近づけてきた。

 

(一発程度、殴られて済むなら――)

映姫が意を決して目をつぶる。

しかし、受けたのは痛みではなく――

 

「映姫さんは偉いですね、自分の意見をしっかりと持ってるんですね」

やさしく頭を撫でられる感覚だった。

 

「え、いえ……あの?」

 

「いやーその年でしっかりしてて大したものですね。

阿求さん曰く、里の子は識字率はあんまり高くないらしいけど……

映姫ちゃんも良いトコのお嬢様かな?」

優しい顔でなおも、映姫の頭を撫でる善。

 

「や、止めてください!!

私はそんなんじゃ……というか、何時まで撫でているんですか!!

子ども扱いしないでください!!」

尚も子ども扱いして、笑う善の手をはたいて自身の頭から退かす。

 

 

 

 

 

「ふぅ~あ……よく寝たー、さてと、今日は何しようかね?」

自身の寝床で死神、小野塚 小町が目を覚ます。

彼女は最近調子が良い。

なぜなら、厄介事の様に押し付けられた新人死神が、非常に有能だからだ。

仕事を教えたら、てきぱきと何でもこなし、高い実力で多くの事を非常に効率的に行ってしまう。

まるでベテランの様だった。

普通の死神なら自身の立場を脅かすのではと警戒するのだが、小町はそんな事考えもせずただ「自分の分まで仕事してくれてラッキー」程度にしか思っていない。

 

「さぁてと、昼からつまみに麦酒で――

いやいや、せっかくの休みなんだから、何処かでリフレッシュを――あ”」

この瞬間!!この瞬間、眠っていた小町の脳細胞が大切なことを思い出す!!

 

「そう言えば、今日四季様と――だ、大丈夫時間までに間に合えば――」

縋るような気持ちで、時計を確認するが、時は無情。

すでに約束の時間を2時間以上過ぎていた。

 

「や、やばい!!」

小町は慌てて準備を済まして、約束の場所へと飛んだ!!

 

 

 

 

 

「うふふ、少し気合を入れすぎたかしら?」

漸く満足のいく服装となった師匠が、善との約束の場所へ向かう。

コレからのデートを考えると意図せず口角が上がってしまう。

 

「二人で出かけるなんて、そう言えばすごく久しぶりね」

その時、師匠が茶店の表にある椅子に座る善を視界に捉え手を上げようとする。

が――

 

「あ、れって……!」

善の横に座っている人物に、師匠は見覚えがあった。

変装の積りか服はいつもと違うが、あの背丈の顔には明確に記憶に残っている。

 

「四季映姫――閻魔の一人……!」

師匠は1400年を生きる、金剛不懐にして不老長寿の仙人である。

しかし、仙人にも弱点はある。

妖怪に狙われ、修業を怠った仙人は体が朽ち果て死に至るというがそれよりも恐れるべき事、ソレこそが100年に一度の死神の強襲である。

死神は命を刈り取る存在、不当に長寿を誇る仙人を刈り取るのも、もちろん死神の仕事だ。

そして、その魂を裁くのが他ならぬ目の前に居る映姫だ。

 

(なぜ、なぜ死神が?まさか、仙人になりつつある善を始末しに?

けれどもまだ100年目ではないのになぜ?)

師匠が隠れ、こっそりと善と映姫の様子を見る。

 

ガタッ……

 

その時、映姫が何かを善に向かって言い始める。

 

「貴方の罪状は――」

 

 

 

「『罪状』!?やっぱりあの子……

いいえ、仙人としてでなく日々の生活を見ても……」

日常の善良な善を思い出そうとするが、どう考えても思い出すのは胸の大きな女性に鼻の下を伸ばし、してふぁにぃを買い集める姿ばかり!!

どう考えても判決は黒!!

 

「あ、ダメかも……」

師匠が珍しくうなだれた。

 

 

 

時を同じくして、ほんの少し離れた場所――具体的には、師匠が善と映姫を見ているのと逆方向の路地にて――

 

「どうして、どうして四季様とあの仙人モドキが!?」

小町が家の影に隠れ、様子を見る。

死者を彼岸に送る仕事をしている小町は過去に数度、あの仙人モドキを見たことがある。

現世に彼岸での記憶は持ち帰れない為、明確には覚えていないだろうが、出会う度にあの男は小町に襲い掛かっている!!

 

思い出すのは、好色な笑みを浮かべ「死ぬときはおっぱいに包まれて死ぬって決めてるんだ!!という事でレッツパイタッチ!!」

と小町の胸めがけてとびかかってくる。

死を理解した瞬間、本音が出るタイプは多いが彼はその中でも群を抜いてる!!

 

「このままじゃ、四季様もあの男の餌食に……ああッ!!」

心配する小町を前に、善が手を振り上げ映姫の頭に振り下ろした。

その様子は嫌がる映姫の髪を無理やり仙人モドキが引っ掴んだように見えた!!

必死に耳を傾け、二人の会話を聞こうとする。

 

「し……ちゃんはえ……いねー。自分のい……ん……ちゃんと持っ……る」

僅かに聞こえた内容を頭の中で組み立てる。

 

(えと、四季ちゃん?は、え、え……エロいね?自分の淫を持ってる?

こ、これは不味いのでは!?四季様に何をさせているんだ!?)

まさかの自分の上司のピンチに小町が焦る!!

だが焦っているのは小町一人ではなかった!!

 

 

 

(ぜ、善!?何してるのよ!!閻魔の頭を撫でるなんて!!

下手に刺激しちゃダメじゃない!!)

路地の中から、自身の弟子の暴挙に師匠がハラハラする。

分かるだろうか?死者の魂を裁く恐ろしい存在の頭を、気軽になでるという事の無謀さを!!

そして、案の定手を振り払われた善をみて、何とかする方法を必死に試案し始める。

 

 

 

 

 

「あ、映姫さん。てんとう虫が居ますよ?」

不意に視界を横切る小さな赤黒い虫。

それは映姫の服の脇腹の位置に止まっていた。

 

「え、申し訳ありませんが取ってくれませんか?

此処からではすこし見えにくく、万が一潰すといけないので……」

虫が苦手なのか、映姫がわずかに身をよじり善に指摘された部分を見せる。

 

「はい……えっと……」

両手を広げ、逃がさない様に一気に映姫から両手で包み込むように、虫を捕まえる。

掌を広げるとてんとう虫は空に飛んでいった。

 

 

 

善が両手を映姫に向かって当てた瞬間、小町の中の何かが弾けた。

自身の上司のピンチに、無意識に走っていた!!

 

「四季様ぁあああ!!」

その小町の声に反応したのは師匠!!

 

「死神!やはりいたのね!!善を渡しはしないわ!!」

一瞬遅れ、路地裏から善の名前を呼びながら向かう!!

 

 

 

「「ん?」」

善と映姫の両方が、ほぼ同時に自身の名を呼ぶ声に気が付きそちらの方を向く。

 

「師匠!?」

 

「小町!?」

驚く両人を、走ってきた両人が流れるようなスピードで抱き上げて元の場所へ戻る。

 

「師匠!?一体どうしたんですか?

なんですか、怒ってる?何か私まずりました!?」

 

「大丈夫よ、もう大丈夫。怖かったわよね?私が来たからもう安心よ?」

ビックリするくらいの優しい笑みを浮かべ、師匠は善を抱いたまま空に飛びあがった。

 

 

 

「小町!?一体なんの積りですか?

遅れてきたと思えば、突然こんな事を――」

 

「大丈夫ですよ、四季様。もうあの仙人モドキは此処にはいませんからね?

アタイが来たからもう大丈夫ですから」

小町にしてはかなり珍しい真剣な顔に、映姫は少し違和感を感じた。

 

 

 

 

 

「え?本当に偶然会っただけなの?」

 

「ええ、っていうかあの人、閻魔だったんですか」

急遽予定を変更して、旧地獄に逃げ込んだ師匠と善が映姫について話す。

 

「そうよ、まさか閻魔が居たなんて、びっくりよ……

もっとも、今日は普通に遊びに来ていただけみたいだったけど……」

安堵した師匠が、何処かで休もうと適当な小料理屋を探す。

 

「けっこう、仲良くなれそうな気がしたんですけどね……」

 

「あなたって、変わったわね。

前はもっと人見知りするタイプだったのに……

修業の成果かしら?」

 

「微妙な成果ですね……あ、けど能力は上がってますよ!!

ちょっと、面白い使い道考えたんで今度見てもらっていいですか?」

師匠が見てきた10年前の様な無邪気な笑顔で、善が笑った。

それに師匠は満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

「全く貴女は!!自分から誘ってきた計画に遅れるなど――」

小町は映姫の前に正座させられ、がみがみと説教を受けていた。

せっかく助けた積りなのに、映姫からは約束を破った件でこっぴどく叱られている最中だ。

 

「はい、はい……反省してます……」

 

「全く貴女は、貴女の後輩の方がよっぽど優秀じゃないですか!!

その内役職も抜かれて、後輩の部下に成ってしまいますよ?」

小町を叱る映姫はまだまだ口を閉じる様子はなかった。

 

「いや、だってあの後輩、地獄のトップの推薦でしょ?

エリートと比較しないで下しさいよ……」

 

「いいえ!たとえ、推薦でも実力が伴わなければ意味がありません!!

彼は努力をして、その推薦を勝ち取ったのです!!」

 

「そろそろ、お説教は止めてください!!四季様!!」

小町の叫びが足のしびれとともに、むなしく響いた。

 

 

 

 

 

雲が月すら隠す、丑三つ時――

3つの影が里の外に在った。

 

「やめろぉおお!!」

体の奥から引き絞られるような少年の声、だがもう一人は止まらない。

もう一人が緻密な装飾のなされた宝剣を振るった。

 

キン――

 

金属が鳴る音が聞こえた瞬間、最後の影が地面に倒れる。

それは今にも折れそうな――否、たった今折れて地面に倒れた一人の少女の影。

白い髪、白い肌そして赤い瞳。

「なんでだよ!!なんでこんなコトするんだよ!!」

 

「この子の寿命は今日だった。

この子は本来地下牢で死ぬはずだった」

 

「しってらぁ!だから、俺たちと一緒に逃げることにしたんだろ!?」

焼けつくような少年の瞳と、もう光を写さない少女の赤い瞳。

アルビノ、先天性の体色異常。極端に色素が薄く肌と髪は白く、瞳は赤く染まる。

現代では多少珍しい程度の事。

だが、幻想郷では違った――

 

生まれた赤子が人と違う。

人間が妖怪を生んだと、その子は産まれた瞬間から忌み子とされ名すら与えられず、屋敷の奥の地下牢にて暮らした、産まれて以来一度も日の光に当たった事のない肌はより白く染まった。

 

唯一の話相手は、世話役の少年。

 

他は、暴力を振るう者達のみ。

屋敷の商売が上手くいかなければ「忌み子のせい」と罰が与えられた。

身内の不幸はすべて「忌み子」のせいだった。

屋敷の商売が上手くいけば「忌み子が弱ったおかげ」結局忌み子に暴力が行くのは同じ。

ただゆるりと、殺されていく日々。

 

「ありがとう……」

少女が、小さく微笑んだ。

 

「おい、しっかりしろよ!!もっといろんな物見るんだろ?」

 

「……コレが、星なんだね……とってもきれいだね……

ねぇ、生まれ変わったら、またいつか、また、ここで……」

此処に一つまた命が消えた。死神の知る予定通り。

満点の星の元で、一つの命が消えていく。

 

「約束通り、星を見せたよ」

死神が帽子を目深まで被る。

彼女との約束、それは星を見せる事。

生かすことは出来ない、だがそれ以外はかなえられる。

 

「なんで、なんで殺したんだよ!!」

少年が落ちていた石を手に、死神に殺意の視線を向ける。

 

「俺は死神。命は救えない、ルールは破れない」

 

「なら、殺せよ!!こいつをこんな目に合わせた屋敷の連中を殺せよ!!」

 

「できない。彼らはまだ死ぬ時じゃないから」

 

「ふっざけんな!!なんで、コイツを殺して屋敷の連中を殺さないんだ!!

なんで、そんなに強いのに!!なんで!!」

少年が涙を流し、敵意を向ける。

少年の慟哭を聞くものはいない。

死神は静かに消えていく。

 

 

 

「……苦しいなら、泣いても良いんじゃない?」

アメリカ国旗を思わせる妖精が、松明を持って飛んでくる。

 

「いいや、良いんだ。ウンピちゃん……

これは俺の選んだ仕事だから……」

完良が目を伏せる。

 

「なんで、死者に対して関係を持とうとするかな?

傷つくのは、そっちだよ?」

 

「ただの数字で終わらせたくないんだ。

ずっと、俺は気が付かなフリをしていた、なら、今度はもっと心を知りたいんだ。

ソレこそが俺が俺に与えた贖罪だから」

完良は回収した魂を大切に懐へとしまう。

 

10年という月日は、善だけを変えた訳ではなかった。

こうして、彼もまた変わっていた。




優しいだけの世界って無いですよね。
多分誰かが笑う陰で、誰かが泣いているハズ。
気が付かないだけで、残酷は結構あるのかもしれません。

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