止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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皆さま、本当にすいません。
色々リアルの事情やスランプが重なって、非常に遅れました。
2週間以上も待たせてしまい、申し訳ありませんでした。
コレから、少しまだ遅くなる可能性が有りますが、どうかご容赦ください。


一期一会!!遭遇する死体!!

皆さんどうも!こんにちは。

私の名前は詩堂(しどう) (ぜん)

偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。

 

目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!

毎日どんどん修業して、がんばって行きます。

 

……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……

けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……

俺は間違ってない……ハズ……

どうしよう、自信無くなってきた……

 

「あら~?私の修業が不満?」

 

「そんな事ありませんよ!!ははは!!」

 

「あ、そうそう。今日の主役あなたじゃないから」

 

「え”!?」

 

 

 

 

 

夏の終わりと秋の始まりが交差する今日この頃……

キョンシー宮古 芳香はいつもの様に善の修業に付き合っていた。

 

「ふぅー……これでいいのか?」

ストローを吹くと、空中に小さな玉が浮かび上がる。

シャボン玉だ。

 

「上出来よ、芳香」

芳香の吹いたシャボン玉が風に乗って揺れる。

 

「今日はコレを使って、キャッチボールをするわ」

師匠が目の前のシャボン玉を()()()()()()()

 

「え?」

 

「気を纏わせて相手を強化するのよ?

あなたの場合は『抵抗する』力があるから壊すのは得意でしょ?

石すら粉々に出来るモノね?

けど今回は逆、壊さず強化するの、自分以外に影響を与えるの」

そう言って、しょぼん玉をこっちに投げる。

ふわりふわりと浮かぶシャボン玉。

 

「はい……あ……」

善がそれを取ろうと手を伸ばすが、その瞬間むなしくシャボン玉は割れてしまった。

 

「芳香、もう一回お願い」

 

「分かったー」

師匠の合図で再びしょぼん玉が出来る。

 

「今度はあなたから掴みなさい」

 

「は、はい……な、なんとか――――あああ!」

またしても、シャボン玉は割れてしまう。

 

「訓練あるのみよ。

一生懸命に励みなさい、私があなたなら出来ると判断したんだから。

私の期待を裏切らない様に務めなさい」

師匠流の微妙にズレた激励を受けて、善が再び芳香のシャボン玉に向かう。

 

「芳香、頼むぞ」

 

「分かったー」

善に請われ、芳香が何度もシャボン玉を吹く。

芳香の目の前で、善がシャボン玉をつかもうと躍起になる。

何時もは見せない真剣なまなざし、芳香は善の事を見て、少しうれしくなった。

 

 

 

数時間後

「ぜ~ん、シャボン玉出来ないぞ?」

芳香が首に下げたシャボン液の瓶を見せるが空っぽだった。

どうやら、全部吹いてしまった様だ。

 

「そうか……なら――」

 

「それなら、お茶にしましょう?」

善の言葉を継ぐように、師匠が現れる。

手にはお茶とお茶菓子が乗ったお盆を持っている。

 

「あ、師匠……」

 

「根の詰めすぎはかえって逆効果よ。

一旦休んで、夜からまたやればいいわ」

 

「うわーい!お饅頭だぞ!!」

師匠の言葉を聞いていた芳香が、お盆の饅頭をみて目を輝かせた。

 

「そういえば、お前コレ好きだったよな」

善の言う通り、この饅頭は芳香の好物の一つだった。

 

「覚えていたのか!?」

 

「もちろんだよ。ほら、俺の分もやるよ」

そう言って、お盆の上から自分の分を饅頭を芳香の饅頭の隣に置いた。

何気ない優しさだが、芳香にはその心使いがとてもうれしかった。

たのしい、とても楽しい時間が過ぎていく。

 

 

 

 

「えーと、次はお肉だなー。

あ、けど閉まってる……

しかたないなー、もう一軒奥の方へいくかー」

芳香が人里で買い物をする。

何時もは善もついていくのだが、シャボン玉の修業をしていたので芳香が師匠に必要な物をメモしてもらい、一人で買い物に来た居たのだ。

 

 

 

 

「えーと……これが欲しいぞ!」

肉屋の店内に並ぶ、肉の一種を指さす芳香。

 

「チッ……!」

主人が舌打ちをして、肉を切り分け始める。

芳香を見てからずっと不機嫌な様相を浮かべている。

 

「あいよ。死体のねーちゃん」

 

「お、お金お金……わとと!」

店主が肉を投げ渡すと芳香が財布を落としてしまった。

 

チャリーン!

 

硬貨が転がり芳香は慌てて拾おうとするが……

 

「やめろよ。ウロチョロするな!!

死体はさっさと帰れ!悪いうわさが付く」

財布の事など一切謝罪せず、冷たく言い放った。

 

「うっ……」

不快感を隠そうともしない物言いに、芳香の心はひどく傷ついた。

だが――

 

「言っておくが、俺はその辺の奴とは違うぞ?

ある事無い事、巫女に報告してやってもいいんだぞ?

嫌ならさっさと帰れ!死体人形!!」

冷酷な言葉、いつも優しい言葉ばかりを受けていた芳香にそれは深く突き刺さった。

 

もう帰りたい、そんな風にすら思った。

 

その時――

 

「あら、ずいぶん接客態度がなってない店がありますね?

頑固オヤジがウリ、なんて数世紀以上前の考えをまだ持っているのかしら?」

芳香は一瞬自分の製作者が来たのかと錯覚した。

それほどまでに『その子』は似ていたのだ。

 

「何もしていない子に対して、少し無礼が過ぎますね?」

長い青い髪を揺らし、薄い水色のワンピースをはためかせる。

見た目はおよそ5歳ほどだが、そうとは思えないほどの怪しい雰囲気を纏っている。

 

「あなた、はたしか……

芳香ねぇ様で大丈夫でしたっけ?」

 

「お、おう……」

いきなり『ねぇ様』呼びに面食らう芳香だが、不思議と嫌な気はしなかった。

 

「これ、拾っておきましたよ?

自己紹介がまだでしたね。私の名前は仟華(せんか)苗字は、ひ・み・つ・です」

 

「え?」

 

「な!?」

芳香の手に、中身が全部入った財布を手渡す。

仟華が入って来たのはついさっき、ソレなのに芳香の財布を渡したのだ。

二人が驚いて、床を見るが何も落ちていない。

 

「い、一体いつ……?」

戦慄する店主に、仟華の射殺すような視線が突き刺さる。

 

「念のために言っておくと、ちゃんと本物ですよ?

あなたが足の下に隠した硬貨もちゃんと回収済みです。

勿論これも――」

 

「はぁ!?」

そう言って、渡すは血のついた包丁。

店主が隠し持っていた物だ。

 

「お、お前妖怪――」

 

「違います。人間ですとも。

ちゃんと人間の両親から生まれましたからね」

 

「し、信じるモノか!!この――」

店主が仟華の異質な目を見て、言葉を飲み込んだ。

 

「おやぁ?何をする気ですかぁ?

本来は、こんな事したくないんですけどねぇ?」

仟華の口元がニヤリと三日月型に歪んだ。

言葉と本心が一致していない事は芳香にも簡単に分かった。

 

ぺち……!

 

「!?」

何かが店主の腕に絡みついた!!

それは、商品の肉だった!!

さらに他の飾ってある肉もまるで意思を持っている様に動き出す!!

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

「あはははは!これが本当の肉布団ですねぇ?

このまま、肉塊に生成し直して――」

楽しそうに嗤う仟華に、一つの影がとびかかる!!

 

「ちぇすとー!」

 

「痛いです!?」

その影は手刀を繰り出し、正確に仟華の頭頂部を捉えた!!

 

「な、何をするんですかぁ……」

涙目になって、仟華が自身に手刀を見舞った相手を見上げる。

 

「やぁ~っと見つけた。そろそろ家に帰ってくるつもりはない?」

よれた白衣に、ツギハギのうさ耳。

芳香の記憶の奥にかすかに覚えている。

たしか――

 

「仙人の連れてた、うさぎか?」

 

「そうだよ~、せ~かい!」

芳香の言葉に大げさにリアクションをして見せたのは、錦雨 玉図だった。

 

「ま、また妖怪が増えやがった……」

店主が何とか起き上がって、そう呟いた。

 

「な~に言ってるのかな?()()()()()()()でしょ?

血の匂い……まだ、新しいね……

そこの冷蔵庫の中、何が入ってるのかな?」

鼻を鳴らして、玉図が閉じている冷蔵庫を指摘した。

 

「うぐぐ……ぎ……」

 

「だ~いじょうぶ!私は、通報したりはしないよ?ほんとだよ?

けど~?人里でコレはバレたら不味いんじゃない?

来ちゃうかもねぇ?博麗の巫女とか、人里の守護者とか……邪帝皇とかさ?」

玉図の言葉に、店主が露骨に唾を飲み込むのが分かった。

 

「さ!暑いから、どっか喫茶店でお茶しようよ~」

玉図が半場無理やりに、芳香と仟華を連れて店を出た。

取り残された店主の心を知る者はない。

 

 

 

 

「……たすかったぞ、ありがとなー?」

芳香の感謝の言葉に、仟華が気を良くする。

 

「気を付けてくださいね?キョンシーに拒絶反応を持つ人は一定居るんですから……

全く、見る目の無い人たちは困りますね。

ただ死体が動いているだけなのに、派手に反応しすぎなんですよ……」

店の備え付けのSと書かれた瓶から白い粉を取り出しコーヒー大量に入れかき混ぜる。

 

「う~ん!さすがチーちゃん!言う事が違うね~」

玉図がけらけらと笑って、運ばれてきたミルクに口をつける。

 

 

「おまえは、嫌ったりしないんだなー。

私の事を……」

仟華から受け取った瓶の中身を自身のコーヒーに混ぜる。

フォローが有るとはいえ、ありありと自身に対し不快感を見せた相手の事で、芳香は少し落ち込んでいた。

 

「私には芳香ねぇ様もそんなに特別には見えないんですよ。

死んでるだけで、普通の子ですよ?少なくとも、私にとっては」

 

助け船を出すような仟華の言葉。

同様な言葉をくれた人がいる。

 

そうだ。自分にもそういう人はいる。

自分の事を想って、大切にしてくれる人が――

 

「そうなのかー、いつも私を大切にしてくれる人がいるんだぞ?

特別じゃない、普通の子みたいに世話してくれるんだ」

そう話す芳香の脳裏には、善が笑う姿が思い浮かんだ。

そう思うと、不思議と胸の中が温かくなる気がする。

 

そうだ、私には善が居る。

 

そんな言葉が芳香の脳裏に確かに流れた。

不思議なことに芳香にとって、仟華の気遣いは善を思い出させるものだった。

ひょっとしたらどこか雰囲気が似ているのかもしれない。

 

「……そうですか。よかったですね」

 

「うん!そうだぞー」

一瞬だけ気まずそうな顔をする仟華、いやな事実を押し込むように、ソレとは反対に上機嫌になった芳香は嬉しそうに、コーヒーに口を付けた。

その瞬間!!二人の目が見開かれる!!

 

「ブーっ!?まっず!!何ですかコレ!?これでお金取ってるんですか!?」

仟華の言葉に店主がこちらを睨むが、仟華は気にしない。

 

「うーん、変な味ー」

不思議そうな顔をして芳香が二口目を飲む。

 

「なんなんです?これは……

珈琲のくせに変にしょっぱい?

けどなんで?瓶にはちゃんと砂糖(sugar)のSって……」

 

「お嬢ちゃん、それはそのシュなんとかじゃねーよ。

(sio)のSだ。ハイカラだろ?」

 

「まさかのローマ字……」

 

「すまねぇ、珈琲はそれが最後の2杯なんだ。

他のモンで良かったら出してやるよ?」

 

「いいえ、大丈夫ですよ」

ぶっきらぼうに見える店主の提案を仟華は断った。

そして、塩の入ったコーヒーの上に手をかざす。

 

「これくらい、問題ありません」

 

「どうなってるんだ?」

仟華のがコーヒーに手を差し出す頃、黒い水面から白い結晶――塩が浮かび上がってくる。

しばらくして、塩を皿の上の捨てた。

 

「ふふふ、コレは私が産まれた時から持っていた能力です。

物体のを構成してるもの事に分けて、好きに再構築できるんです。

今は混ざった珈琲から、砂糖を分離させて味を元に戻したんですよ」

そう言って、今度は芳香のコーヒーから塩を抜き出した。

 

「はいは~い。自分語りが好きだね~。

力を自慢したくなる癖、どうにか成らないかな?」

うんざりと言う様に、玉図がミルクを飲み干した。

 

「おじさーん!ミルクおかわりー!」

 

「あいよ」

自分の自慢を邪魔された仟華がむくれるが、玉図はまったく気にしない!!

驚くべき精神のずぶとさで、知らんぷり!!

 

「あ!そういえば、私お金無いや!」

 

「!?」

 

「ええ!?」

玉図の言葉に芳香と仟華が目を見開く!!

 

「な、なんでないんですか!?誘ったの玉図でしょ!!」

 

「わ、私もあんまりお金ないぞー?」

慌てる二人!!

しかし玉図は冷静!!慌てない!!

 

「私、用事おもいだした~。

じゃね!ごっそさん!」

テーブルに自分の分には微妙にたらない金額を置くと、チーターの様な高速スピードで逃げ出した!!

 

「ああ!?あのツギハギうさぎ逃げやがった!!」

仟華が制止の言葉を話す前に、玉図の姿ははるか彼方に!!

 

「ど、どうしよう……」

進退窮まった芳香がおろおろとする!!

まさか、こんなことに成るとは思っても居なかった!!

そんな時!!救いの神はベルの音と共に現れた!!

 

ちりーん……

 

「お、芳香じゃないか。後ろの子は……友達か?」

夏なのにマフラー。紺色の道士風の服。本人の実際より少し若く見える童顔。

そして、自分を助けてくれる弟子――詩堂 善だった!!

 

「ぜ、ぜーん!お金貸してくれ!!」

 

「へ?いや、いいけど……」

少し困惑しながらも、ズボンから財布を取り出す・

芳香、仟華両名!!ピンチからの脱出に成功!!

 

 

 

「あ、ありがとうございました!この恩は忘れませんから」

仟華が頭を下げ、少し小走りで走っていく。

まるで、嵐の様だと芳香は思う。

 

「なんか、今の子……師匠に似てなかったか?」

去っていく仟華を見ながら善が話した。

その意見の芳香は大まかに賛成だが……

 

「私には、善にも少し似てる気がしたぞ?」

 

「ええ?まさかぁ?気のせいだろ――あっ!詩堂娘々のせいか……

芳香のなかでのイメージがアレか……」

勝手に自己完結して、善が酷く落ち込んだ。

 

「そういえば、善は何をしていたんだー?」

 

「あ、そうだよ。買い物だよ、忘れてた。

師匠はもう、芳香が先に出たって言ったから、慌てて追いかけてきたんだぞ?

さ、買い物手伝ってくれよ。

師匠がBBQがしたいって言いだして、聞かないんだよ」

 

「そうだったのか!なら、材料一杯買わないとな!」

善に連れられ、芳香は楽しそうに街中へと消えていった。

 

 

 

その後……

 

「や!チーちゃん、無事に脱出できたね~」

一人歩く、仟華にへらへらと玉図が話しかけてくる。

 

「……一人でさっさと逃げた、あなたが何を言うんですかね?」

 

「えー?なんのこと?自分の分は払ったしー?」

仟華の言葉を華麗にスルーする玉図。

 

「はぁ、ま。いいです……」

少し寂しそうにため息をつく仟華。

 

「ん?どったのー?」

 

「いえ、すこしショックで……

芳香ねぇ様、さっき私に今まで見せたことのないような顔見せまして……

なんでしょう?

信頼?思慕?そんな、相手を大切にする顔を見せたんです。

それだけ、相手の事を想っていたんですね」

寂しそうに話す仟華。

仟華は自分を無意識に芳香に重ねていたのかもしれない。

無邪気に笑顔を向けられる相手。心置きなく会話できる相手。

家出してきている仟華に当然そんな相手などいなかった。

 

 

だから、仟華はちょっぴり家が恋しくなった。

 

 

「はぁ……なんだかなー、この世界って私の居場所ないんだなー」

詰まらなそうに仟華が足元の小石を蹴り上げる。

 

「そうだねー。

こっちに分岐したから、私たちの世界には通じない世界だからね。

私が来れるって事は、私はあんまり今の世界線とは違いが無いって事なのかなー」

そのすぐ後ろ、玉図が木にもたれる様に立っている。

 

「私の生まれない世界……か」

顔を下に向け、玉図からは表情がうかがい知れない。

だが、唇をかみしめているのは見えた。

 

「見てたけど、二人ともチーちゃんが産まれた時は喜んでたよ?

特に旦那の方なんて……

あー、知らない方がいいかなー」

ニヤッと笑って、もたれていた木から反動をつけて歩き出す。

 

「……気になる言い方をしますね。

けど……見てて思いました。私は私の世界に帰ります。

若い父上は見れたし、母上は……あー、興味が有るけどなんか怖いしから、良いです。

兎に角、私の居るべき場所は此処ではありません!

さぁてと、戻ったらまたいろいろやらなくては!」

仟華が立ち上がると、勢いよく宣誓した!

 

「よしよ~し、やっと私の仕事は終わりかー。

疲れたよ~」

玉図はため息をついた後、仟華を抱き上げる。

 

「結局は父上の差し金なんです――ね!?」

 

「しゃべると舌噛むよ~?」

玉図の纏った白衣を内側から押すように蝙蝠の様な羽が生える、そしてそこに鳥類を思わせる羽が生えていき、大きく羽ばたくと同時にそこから飛び去っていった。

そこには、彼女たちがいた確かな証左として、一枚の羽が落ちているだけだった。

きっと、自分を大切にしてくれる人たちの元へ、両親の元へ帰ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?結局買えなかったの?」

 

「すいません……」

畳の上で、善が正座をして師匠に叱られる。

 

「お肉を買ってくるだけだったのに?

簡単なお使いじゃないかしら?」

 

「いや、けど肉屋に入ったら店員さんがいきなり『じ、自首します!!』って言って、どっか行っちゃたんですよ!!本当です!!

芳香も見てたよな!?な!!」

善が必死になって、芳香に同意を求める。

確かにそうだ。さっきの肉屋に出戻った瞬間、店主は悲鳴を上げて逃げ出したのだ。

余程、玉図の脅しが効いたらしい。

 

「おー、そうだぞー、肉屋がにげたんだー」

 

「へぇ……なんでそんなことが……」

芳香の言葉に納得した師匠。

しかし、すぐに別の手に切り替える!!

 

「けど、明日の宴会、お肉無しになっちゃうわよ?」

 

「それはやだ!!善!!私も肉が食べたいぞ!!」

ころっと意見を変える芳香!!

善がすてふぁにぃ大好きなら、芳香はお肉大好きだった!!

 

「いや、いまさら、どうしろと……?」

時間はもう遅い、ほかの肉屋を回って肉はあるにはあるが……

 

「最近、暴れ熊が出るらしいのよ。里の人が討伐する予定らしいんだけど……

その前にひと狩り行かない?

父、母、子の三匹が居るらしいのよ。

子も結構大きいって噂だから……量としては十分ね」

師匠の言葉に、善の脳裏にいつか見た熊のニュースを思い出す!!

『被害で死亡』『大変危険な』『銃を受けてもひるむ程度』etc!!

それが掛ける3!!牙も爪も危険度も3倍!!

 

「いやだ、死にたくありません!!熊はやばいですって!!」

 

「大丈夫よ……えい!」

師匠が笑って、何時から持っていたのか小鍋の透明な液体を善に掛ける!!

 

ざばぁ!!

 

「あちちちち!?何ですかコレ!?」

 

「この前お肉屋さんで貰った牛脂よ?

これで熊もイチコロね」

べとべとの油で善の全身がおいしそうにコーティング!!

クマさんに取って、とってもおいしそうになりました!!

 

「いや、オオカミとか、ほかにもやってきますよコレ!?

肉食獣全部から、最悪天狗からも狙われますよ!!」

 

「善、お肉の為よ?頑張って!」

 

「かわいく言ってもダメ!!止めてください!!師匠!!」

 

「久しぶりに聞いた気がるわ。ソレ、でも止めない!!」

何時もの光景に、芳香がふっと頬を緩めた。




仟華。
年齢 6歳。
趣味 キョンシー作り
好きな食べ物 甘いもの全般
嫌いな食べ物 苦いもの、すっぱいもの、辛いもの

名前の由来は両親の漢字から一文字音を貰い、そこから「濁りの無い子なる様に」と濁点を取ったもの、また仟は1000人規模の隊の隊長を現す字でもある。

今から806年後の世界から来た、未来の人間。
生まれつき、再構築する程度の能力を持つ人間。
再構築とは物を材料ごとに『分別』して『成分』はそのままに自由に組み替える力。
応用すれば、分解、融合、瞬間移動等様々な事に使える。

その代わり周囲一メートル以内の物しか再構築できない。
そして、その構築で生き物を殺すこともできない。
バラバラにされても、なぜか生き物は生き続ける。
そこをキョンシーに改造して、自身のおもちゃへ作り変えてしまう。

本人は自分の事を常識人と思っているが、周囲からは危険人物視されている。
自由すぎる母親、過保護すぎる父親に間ですくすくと成長している。
最近は自身の両親の仲が良すぎるのが悩み。

多分もう出ない。

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