止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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今回の話は、本編とあまり関係の無い話です。
何処かの誰かが、見た。
『有ったかもしれない世界』です。


EXstage-Stand by you

クスクスクス……

 

クスクスクス……

 

あらぁ?珍しいお客さまですわね。

 

ようこそ、私の世界へ。私の名はドレミースイート。

 

ここは夢と現実のハザマ世界。

 

あなたの見たものは現実かも、しれませんし、夢かもしれない不思議な場所ですわ。

 

けれど、たとえそれが夢でも、現実でも貴方が見て、覚えているのなら――

 

確かに『あった』と言えるのかもしれませんわね?

 

クスクスクス……

 

 

 

 

 

「ねぇ、善」

 

「なんですか?師匠」

夏の昼下がり、善が芳香との組手を終えて膝で息をする。

日陰の隠れた師匠が、汗を流す善をねぎらう。

 

「そろそろ、再婚しようと思うのよ」

 

「へ!?」

師匠の言葉に善がおどろく。

師匠の過去は今まで少しだけ聞いたことが有る。

曰く1400年以上仙人をしている。

仙人に憧れ、当時結婚していた師匠は自分の死を偽装し家族を欺き修業に出たと。

曰く今の苗字は、昔結婚していた相手の名だと――

 

「まぁ、いいんじゃないですか?

確かにずっと一人はいやですもんね。

私は応援しますよ。

けど、修業ってどうなります?まさか、私は破門なんてことは……」

応援しつつもなんだか、胸の中で嫌なモヤモヤが生まれる善。

師匠には幸せを求める権利がある。それは分かっているのだ。

だが、しかしどうしてもなぜか、いやな気分が消えない。

破門の可能性があるというのに、気になるのはなぜかそっちだった。

 

「うふふ、大丈夫よ。あなたを破門したりはしないわ」

その言葉に、善が少しだけ安堵する。

だが、

自分でも驚いたことなのだが、『それほど安堵できていない』のだ。

むしろ、さらに「自分は師匠と旦那さんのイチャ付きを身近で見るのか」とか、「相手の人との距離感どうしよう」など、心配事だらけだった。

だが、善は無理やりポーカーフェイスを作り、話題をそらす様に言葉を紡いだ。

 

「あ、ああー、良かった。ちゃんと仙人に成れないと困りますからね。

神霊廟とは微妙に距離感有るし、師匠がおしえてくれて助かりましたよ。

所で、相手はどんな人ですか?」

最後の一文は、不意を突いて口から出た。

知りたくないのに、知りたい。

そんな矛盾した感情だ。

 

「それは――」

師匠が口を開く。

1秒が10秒に、10秒が30秒に、30秒が一分に感じられるほどに

善はこの時間がすさまじく長いモノに感じられた。

心臓が早鐘の様に鳴り響くのが分かる。

 

「あなたよ」

口を閉じた師匠。

善の頭が、すさまじい勢いで他人の顔と名前を思い出し始める。

 

(あなた?穴た?あ鉈?穴だ?阿名他?アナタ……穴田?

穴田さん?そんな人いたっけ?)

混乱する極みの善が、知りもしない人物を創造する。

 

「へ、へぇ……穴田さんかぁ……へぇ。

じゃ、俺風呂入ってくるんで!じゃ、じゃあ!」

一刻も早くその場を離れようと、師匠に背を向けるが……

 

ガシッ!

 

「ぐぇ!?」

襟をつかまれ、後方に引っ張られる善。

のどに衝撃が走った!!

「待ちなさい。どこに行くつもり?」

 

「い、いや……汗をかいたので風呂へ……」

 

「今、芳香が入ってるでしょ?覗くつもり?

そんな事より、私に対する返事を聞かせてくれないの?」

こっちを覗き込むような師匠の目、心の奥に有る感情すら読まれている気になる。

正直な感想を言ってしまうと、善はどうしていいのか分からなかった。

だから――

 

「も、もしかして私の事ですか!?

も、もう、からかわないでくださいよ!!

そういって、私を誘惑しないでください。

残念ながら、私はまだ結婚適齢期ではないので。

芳香が風呂から出たら、すぐに入りたいので、失礼しますね」

 

「あ、善――」

だから、だから善は卑劣な事に、師匠の言葉を何時もの悪ふざけだと決めつけ踏みにじった!!だが、その後も師匠の言葉は続いた。

 

「ねぇ、善――」

 

「ああっと、買い物行かなきゃ!!」

事あるごとに話しかける師匠。

 

「今、時間いいかしら?」

 

「自主修行の時間なんで、すいません!!」

そして善がそれを無視し続ける。

まるで、そうしてればなくなて行くかのように。

そしてやがて、師匠も学習し言葉を話さなくなっていった。

 

 

 

夜、布団を敷く善に遂に芳香が、尋ねる。

「善、今日は一体どうしたんだ?何かあっただろ?」

 

「ん?何もないぞ。どうしたんだ、いきなり?」

布団を敷き終わった善が、芳香の言葉に優しく答えた。

 

「嘘だ!二人ともどう見てもおかしいぞ!私の目を誤魔化せる訳ないだろ?」

射貫くような芳香の視線に善がひるむ。

分かっているのだ、自分の師匠の中に何かが有ったことをこのキョンシーは。

 

「わかった、言うよ……

師匠に……その、求婚?された……」

誤魔化せないと分かった善は、芳香に大雑把な話をして見せた。

はっきり言いきらないのは、善なりの抵抗か、恥ずかしさか……

 

「そうなのか……で、なんて答えたんだ?」

 

「い、言う訳ないだろ!?

保留だよ!!保留!!

そんな事!!」

 

「様子をみた所そうだなー。

善は肝心なトコで意気地なしだからなー

けど、善は嫌いじゃないんだろ?

なんで、OKしないんだ?」

不思議そうに、芳香が善に聞く。

その言葉に、善は口を噤んだ。

 

そして、ゆっくりと語る。

 

「俺、どうしたらいいか分かんないんだよ……

俺は、どうしたらいいんだ?俺、不安なんだよ。

師匠はすごい人だよ!!弟子の俺は知ってる!!

釣り合う訳ないのも分かってる……

方や聖徳太子すら弟子にした1400年を生きる仙人様だぞ?

それに、それに自分の価値は当の昔に知ってる、『完良の出来損ない』それが俺だったハズだ。

だけど、師匠はそんな俺に価値を見出してくれた……

それだけで充分なのに……これ以上なんて……」

 

「善……」

芳香が目を伏せる。

思い出すのは、善が外の世界に帰った時の事。

幻想郷とは違う部分を善が多く見せた世界。

どんな無茶な修業よりもずっとつらそうな顔をしていた世界。

 

「弟子に成れてよかったんだな……」

泣き叫ぶ善の心に師匠が希望を与えたのは言うまでもないだろう。

 

「ああそうだ……俺は、あの時あの瞬間から生き返ったのかもしれない……

やっと、自分として生き始めたのかもしれない」

 

「そうか……」

余りに真剣な善の顔に、芳香が目を伏せた。

何かを言える訳がない。

横から、誰かが手を出していい問題ではないのだ。

 

「けど、それとこれは話が別だよな……

師匠の魅力的な部分は知ってる。

知ってるけど、それと同じくらい困った所も知ってるんだよな……」

善がため息をついて、指折り数える。

 

「まず年上すぎだろ?14歳差じゃなくて14世紀差だし、なんだかんだ言って突然無茶ぶりしてくるし……

あ!あと倫理観だよ!倫理観!!他人の痛み的な物を全く理解できないんだよな!!」

腕を組んで、芳香に話すが――

 

「ん?どうした?」

焦ったような顔で芳香が、善の後ろの壁を指さす。

この時、いやな予感がしていた善。

ゆっくり振り返ると――――

 

「あらあら……私の陰口かしら?」

壁の穴をあけ、両肘をつくように楽しそうに笑みを浮かべている。

 

「あ、師匠……これは――」

 

「遠慮しなくていいわよ?

年増で、無理難題を押し付けてくる上に、倫理感皆無のお師匠様が聞いててあげるから。

ほら、続けて続けて?」

平坦な笑顔が逆に怖かった。

だが、何も言わずなおも師匠は笑い続ける。

 

「す、すいませんでしたぁあああああ!!」

ベットの上で、目の前の師匠に土下座して謝る!!

当然、自身の脳天にキツイ一撃を貰うのも覚悟の上だ。

 

「…………?」

だが、何時まで経ってもその折檻の一撃は飛んでこなかった。

チラリと視線を上にあげて師匠を見る。

 

「なによ……私の事が嫌いなら、出ていけばいいじゃない……」

唇を噛み、悲しそうな顔をして師匠が帰っていった。

体に痛みはないが、不思議と胸が酷く傷んだのを感じた。

 

「あーあ……やっちゃったなー」

芳香がつぶやく。

 

「芳香……俺――」

 

「違う、()()()()()()()()

芳香がはっきりした口調で否定した。

 

「え?俺じゃなくて……師匠の方?」

いまいち状況の理解できない善の芳香が説明を始める。

 

「そうだぞー、きっと恋が苦手なんだなー。

いや、好きに成った相手への近づき方かなー?」

ぽつぽつと芳香が語る。

 

「何言ってるんだ?師匠はむしろそういった系のプロじゃないか?

清濁関係なく手段を選ばず、相手に自分を好きに成る様に仕向けるのが得意だろ?」

それは善もよく知っていたことだ。

流石は手練れの邪仙というべきか、他人の心を操るのが非常にうまい。

 

「たくらむのは得意だけど、素直に成れないんだ……」

その言葉で善はハッとする。

 

「そうか……師匠自分では動かず相手を動かしてばっかだったから……」

善の脳裏に浮かぶ師匠は、自身で動くことは無かった。

たくらみ、裏から手をまわし追い込んでいくのか何時もの手段だ。

 

だから、だからこそ、なんの打算の無い感情が苦手なんだろう。

恋や愛という感情に対して、途端に不器用に成ってしまうのだろう。

 

「そういえば……師匠不安そうにしてた……

師匠も不安だったんだ!!それなのに、俺に必死にアプローチしてくれたんだ……

俺、俺行かないと!!師匠の、俺を好きに成ってくれた人の言葉に応えないと!!

ちょっと、俺行ってくる!!」

芳香にそう告げ、善が走り出した。

 

「ふぅ、不器用な奴ばっかりで困るぞー」

何処か悲しそうに笑って見せた。

 

 

 

「師匠!!お話があります!!」

地下室へ走り、一枚の扉の前で大きな声を出す。

 

「……なによ……まだ、いたの?」

不満げな顔を扉の隙間から、のぞかせる。

 

「待たせてすいません。私なりの答えが出ました」

善の言葉に、師匠が息を飲むのが分かった。

 

一瞬の静寂、善が一回息を吸った。

 

「私は――」

ここまで、言葉を紡いで善は口を閉じた。

違う、こうじゃない。邪仙の弟子としての言葉ではダメだ。

ここからは、師と弟子ではない。

一人の人間としての、詩堂 善としての言葉でなくてはダメだ。

 

「俺は……()()()()()()()()

理由はいろいろある、自由な所も、ずっと楽しそうに生きている所、その他の所も全部!全部!!全部!!俺にはまぶしい!!

その姿に、初めて会った時からずっと憧れているんだ!!

だから俺と――ぐはぁ!?」

突如あごを殴られ、善が空中に浮かぶ。

 

「いてて……一体何を……」

あごをさすりながら、相手を見る。

 

「うーん、不合格」

 

「はぁ!?」

 

「なんて言うか、こう……『コレジャナイ感』がするのよ。

あなたに名前で呼ばれるのって、どうにも違和感が有るのよね。

あと、なんかイラっとしたわ」

やれやれと、言いたげな顔をして師匠が腕を組む。

そのしぐさに、善の中の何かが弾けた。

 

「分かりました……()()の言いたい事はよーくわかりました。

修業しましょう。修業して師匠よりすごい仙人に成って、そんな事言えなくしてあげますよ!!寧ろ『青娥のこと、恋人にして欲しいにゃん』とか言わせてやりますよ!!

やるぞ!!うおぉおおおおおおおお!!!!」

大空に誓うように、善が大きな声で咆哮した!!

 

「うるさい!!」

 

ボコッ!

 

「あて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――という事がきっかけに成って、私たちは付き合う事に成ったの」

そう言って、膝の上にのった小柄な少女の髪を梳かしながら師匠が笑った。

 

「…………へぇ」

上機嫌の師匠と裏腹に、髪を梳かしてもらっている子は不満げな顔をしている。

 

「それでね?アナタを授かった時は――」

 

「もういいです!!もういいですから!!

そんな話しないでください!!」

話の雲行きが怪しくなったと思たのか、膝の上の少女が声を荒げる。

 

「……もう、寂しいのね?来年から寺子屋なのに、甘えん坊さんね?

可愛い!」

小さく笑い、膝の上の子を抱きしめる!!

 

「あーもう!!母上は自由すぎるんですよ!!」

 

「あなたが、不自由なだけじゃない?私は自由奔放に育ってほしいのに……」

 

「反面教師って言葉知ってます!?大事な言葉ですよ!?」

何気ない母娘の会話。

それを引き裂く様に、部屋の扉が開いた。

一人の男が顔をのぞかせる。

狐の様な面に、ぼろきれで体を隠し、腰には小槌をぶら下げている。

 

「あら、アナタ。お帰りなさい」

 

「父上……」

二人の様子をみて、男が顔を隠していた仮面を外す。

 

「二人とも……寂しかったよー!!今帰ったよ!!

過去の世界の紫さんと藍さんすっごい怖かったよー。

けど、頑張ったよー!!」

男が二人の思いっきり抱き着く!!

 

「あん、ダメよアナタ、娘が見てるわ」

 

「おお~よしよしよし!!」

男が娘の顔に何度も何度も高速でほおずりする。

……摩擦熱が起きるくらいに。

 

「あつ!熱いです!!アッツイ!!」

何とか父親をどけた娘が、膝から勢いよく立ち上がる!!

 

「全く!!なんなんですか!!私の両親は!!

自由すぎるでしょ!?世間離れしすぎでしょ!?」

頬を膨らませて自身の怒りを両親にアピールする。

 

「それで?過去には行けた?」

 

「うん、なんとか行けたよ。昔の自分をちょっとだけ助けてきた。

けど――なんでかな?もう、一回行こうとしたけど行けないんだ」

娘を事を無視して、両親は何やら相談を始めた様だった。

 

「きっと、分岐したのね。『今』に至る歴史と違う歴史を過去のアナタが歩み始めたのよ」

 

「『今』にたどり着けないから、もう過去へはいけない?」

 

「だって、そうでしょ?アナタが違う選択肢を選んだんだもの。

別のアナタって事。

そもそも過去にかかわる必要はないわ。あなたならきっと大丈夫。

それは歴史が変わっても同じ、そうよね?」

 

「ああ、勿論さ」

男は笑って、師匠を抱きしめた。

 

「なに、良い雰囲気出してるんです!?

少しは、こっちを心配――――ああ!もういいです!!

家出します!!しばらく帰ってきませんからね!!」

一大決心をしたと言いたげな表情で娘が話す。

 

「へぇ、行ってらっしゃい。変な人についていっちゃダメよ?」

 

「一人なんて危ないだろ?護衛をつけてやろう。

玉図~、玉図来てくれー」

 

「ハァイ~!」

男の声に呼ばれて、バタバタと白衣を着たツギハギ耳のうさぎキョンシーが走ってくる。

 

「…………もう、知りません!!私はしばらく一人で生きます!!」

そう言い残し、少女は扉を閉じて何処かへ消えていった。

「また?」と言いたげな顔をして、うさぎキョンシーが走っていった子を見る。

 

「はぁ、余裕がないのね……アナタに似たのかしら?」

 

「行動派なのは、君に似たんだろうね?」

お互いが目くばせして、笑う。

だがそれも一瞬のことだった。

女は無言で、胸の豊かな女性の書かれた漫画を取り出す。

 

「ねぇ、アナタ。アナタの留守中お部屋を掃除したんだけど――」

 

「ち、違う!!それは私のではなくて――」

女の声に何かを確信した男が即座に言いわけを始める!!

 

「言ったはずよね?『2次元も浮気』って……

さ、アナタ。地下室へ行きましょうか?

たまには夫婦の水入らずの時間が必要よね?」

笑みと青筋を浮かべ、男の服の襟をつかむ!!

頭の鑿をふるうと、音もなく床に穴が開く。

 

「い、イやだぁ!!誤解なんだ!!一番愛してるのは――」

 

「もちろん知ってるわ。私でしょ?」

家の地下で男の悲鳴と、女の嘲笑が響きわたった。

だが、ほかの住人は気にしない。

そう、これはずっとずっと続いている日常の一部だからだ。

 

 




END?

コラボと思った?残念If世界でした。
というのが今回のお話。
6月はジューンブライドという事で……

相手が年増のバツイチは私は流石に――
という人ならBADエンドです。

キャラクター紹介。

謎の仙人。
すべてが謎の包まれた仙人(自称)

800年の時を生きる仙人の一人。
非常に多くの術と、キョンシーたちを持つ。
通常仮面をつけており、顔は伺いしれないが声質と体格で男だというのが分かる。

鬼の顔が付いた小槌を腰に下げている。
右手の指には切断してくっつけた跡、左手の薬指には指輪。既婚者らしい。
多くのモノを凌駕する圧倒的な実力を誇るが、妻には頭が上がらないらしい。

その正体は完全に不明で、一説には天地開闢にて最初の仙人が姿を変えた者という意見も有れば、悪逆の限りを尽くした妖怪が修業の末仙人み目覚めた姿とも、月から逃げてきた月の権力者が仙道を極めた姿とも、
師匠を見返そうと必死に修業して、清濁関係なく、仙人、邪仙はおろか天人の力まで納めて、ありとあらゆる力を身につけた詩堂 善本人という噂もあるがどれも真偽不明。
ひょっとしたら、何処かですごく意外な形で正体が判明するかもしれない。

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