色々ごめんなさい。
キッヒヒヒヒヒヒ!!!
すぅ~はぁ~……
なんだか、今日は気分が良い……
どうしてだ?全身に漲る高揚感!!そして圧倒的な全能感!!
出来る!!今の私ならなんでも出来る!!
今の私に不可能はない!!今の私を止めるモノなどありはしない!!
「はぁ、そろそろ戻ってきなさいよ?」
「私もお腹がすいたぞー!」
無縁塚の中の適当な木の枝に寝転がり、善が寝息を立てていた。
火照った体を、風が撫でていくが善の体の真ん中に宿った炎は消えはしなかった。
リン!リン!!リン!!!リン!リン!!リン!!!
リン!リン!!リン!!!リン!リン!!リン!!!
リン!リン!!リン!!!リン!リン!!リン!!!
「チッ……うっせーな……」
そばに居るこいしルーミアを起こさない様に善が舌打ちした。
この小槌を手に入れて以来、体の奥から自分でも制御できないほどの力が次々と湧いてくる。
そしてそれに比例する様に、小槌の鈴の音がずっと頭の中に響いているのだ。
まるで、善をどこかに呼んでいる様にも思える。
「どうしろってんだよ……」
少々乱暴に自身の頭を掻きむしり、無理やり寝ようと耳を両手でふさいだ。
だが、その音は止まらない。
ただひたすらに頭の中でリフレインし続ける。
「くっそ……あ”?」
善の視界の端、明らかに生き物で無い妖怪が姿をあらわす。
当然だが、ここは人里の外で妖怪の闊歩する幻想郷。
仙人の近い力を持つ善は、妖怪に狙われる定めにある。
この妖怪も、その一匹だろう。
「丁度いい……!
ストレス発散したかったんだよ!!」
善が小槌を腰から抜き、頂点部を剣の様に伸ばす!!
「おらぁ!!!」
まるで鈴の音を振り切る様に善が暴れる。
数時間前。
とある神社の階段前で、一人の鬼と一人の仙人が言葉を交わす。
鬼は小さな子供の様な姿をしているが、階段に腰かけているのでおのずと師匠の視線は上を見上げるような形になる。
一人の仙人は、何時も不敵な笑みを浮かべる顔を珍しくゆがめて。
もう一人の鬼は、楽しそうに腰にぶら下げた瓢箪に口をつける。
「あなたには、私の弟子は関係ないハズでしょ?」
珍しく敵意を持った目で鬼を睨む師匠。
そんな視線を受け、なおも涼しい顔をしている鬼、伊吹 萃香。
小柄な体系からは想像できないほどの戦闘力を誇る妖怪だ。
「あんたってさ、結構前から霊夢にちょっかいかけてたろ?
気入られようとさ」
そこまで言って腰の瓢箪を持ち上げ、再び口をつけた。
一瞬だが、咽てしまいそうなくらいの強い酒気を感じた師匠。
その鬼は平然とそれを飲み続ける。
「ええ、そうでしたわね。けど、最近子育てが忙しくて来れませんの」
「はははっ!そうだよ、それそれ。
アンタは強い奴が好きだろ?私もそうさ!もっとも『戦いたい』って意味だけどね?
だからさ、興味が湧いたんだ。
萃香が目を閉じ、次に目を開けた時、そこには非常に好戦的な光が宿っていた。
鬼の本能は戦闘による強さの誇示。
いくら、ゲーム感覚の弾幕ごっこで勝敗を決めることに成ろうとも魂の根幹にある戦いの本能は消えない。
「それで?あの子を呼ぼうと?」
「そうそう!あんたが私に小槌の製作を頼んだ時、チャンスだと思ったんだ。
あの小槌には、私の妖力が入ってる。
それをちょちょいといじって、持ち主に私の方へ来るようにしたんだ」
萃香の言葉を聞いて、師匠が考える。
(なるほど、本来ならあの鬼に向かうハズだったのだけれど、あの鬼は善の力を計算に入れてなかったのね……)
善の能力は抵抗する力。小槌の発する『伊吹 萃香の元へ迎え』という命令に対して抵抗した結果『伊吹 萃香に似た体型の者の元へ迎え』となったのだと勝手に考える。
考えるのだが――
(寄りにもよって、なんでこんな風にゆがむのよ!!)
余りに可笑しな変化に、師匠が地団駄を踏む!!
仮にだ、仮に能力が発され萃香の元に向かったならいい。たいした戦闘力は無い善と戦ったとしても、すぐに萃香は飽きて善を返すだろう。
そう!!これこそが最悪の抵抗の形!!
狙いすましたかのような最悪のパティーン!!
「ふぅ、善と戦いたいならご自由にどうぞ。その代わりすぐに返してもらえないかしら?」
「ありゃりゃ?珍しいね。あんたの事だから、なんだかんだ言ってのらりくらりとかわすと思ってたけど……」
本当に意外そうに、萃香が瓢箪から再び酒を煽る。
「もうそういうの良いですわ。むしろ善を探してほしいという気持ちが強いんですの」
「ん?アンタが代わりに来たんじゃないの?」
「違うぞー!!善が、善が行方不明なんだ!!見つけてくれ!!」
今まで黙っていた芳香が、我慢できなくなったのか、萃香に駆け寄る。
「行方不明?なんで?」
「あなたのせいですわ。あなたのせいで今、幻想郷中のすべての幼女に危機が迫ってますわよ?」
悪意を隠す気などないと言いたげな表情で、師匠はゆっくり事の起こりを説明し始めた。
「うわぁああああ!!あああああああ!!!」
深い森の中、善が小槌を手に暴れまわる!!
叫ぶ
リン!!リン!!リン!!!リン!!リン!!リン!!
消えない消えない消えない!!鈴の音が消えない!!
リン!!リン!!リン!!!リン!!リン!!リン!!
善は小槌を振るう!!攻撃したいわけでない、自らの頭に響いてくる音から逃げたいだけなのだ。
リン!!リン!!リン!!!リン!!リン!!リン!!
「うおぉぉぉぉぉおお!!消えろ!!消えろぉ!!!!」
自らの視線の上、満月に向かって咆哮する!!
無数の妖怪を倒し、無数に積まれたその身体の上に立ち尽くす……
「なんなの……コレ……」
近くを通りかかったのか、それともここに住んでいるのか。
金髪の髪をした少女が、目の前の惨状に言葉を無くす。
「違ウ……お前……じャなイ……」
剣の様な物の切っ先をこちらに向ける。
真っ赤に光る赤い瞳に射貫かれ、その少女が露骨なまでにたじろぐ。
「しゃ、シャンハイ!!」
何を思ったのか、無数の人形を展開するが――
「邪マだ!!キえろ!!!」
腕の一振りで人形が飛び散り、残骸が少女に降りかかる。
「あ、ああ……」
怯えしりもちをつく少女、その姿をみて妖怪が一瞬はっとする。
さっきまでの、非理性的な話し方が消える。
「た、戦うつもりはないんです、ごめんなさい……すいませんでした……
また、改めて謝罪するので、今は失礼……します……」
小槌を持った手が震える。
だが、その妖怪は深く謝罪して、逃げる様にそこから撤退した。
「な、なんだったの……あれ」
怯えたままだが、なぜかあの怪物が少しだけ可哀そうに見えた少女。
「う、あああ……力が抑えれない……あふれて、あふれてくる!!」
森から逃げ出した善。
自身を内から書き換えられるような恐怖に、震える。
酷使した体と力が悲鳴を上げる。
だが、それでも止まりましない。止まることが出来ない。
「なにしてるんだよ……こんな所で」
そんな善によく知った声が聞こえる。
そうだ、いつもいつも聞いていたはずの声。
だが、この声は誰の声だろう?
頭に靄が掛かった様な善には、この声の主が分からない。
視界に、その男を捉えるがその男が『誰』なのかが理解できない。
「ね、ねぇ。この子、助けてあげられない?前、一回だけ助けてもらったことが有るの……」
その男の傍らに浮かぶ手に松明をもった妖精が、男に頼む。
「うん、ウンピちゃん。俺もコイツだけは助けたいんだ。
だって――もう、二度と会えないハズの人だったから」
「なんだお前はぁ!!なんだ、なんなんだ!!むかつく……
お前むかつくぞ!!気に入らない!!なんか無性にぶっ殺したくなる!!」
善が小槌を構え、飛び上がり上から切りかかる。
「ヘカ様も、こういう時なら許してくれるよね?」
男の首に巻かれた首輪、その先に地球の様な青い球体が一瞬だけ光って男の姿が変わる。
街中によくいる着物から、旧日本軍の憲兵と呼ばれた服装になる。
違うのは、色が純白で帽子に髑髏のマークと後ろから右肩に黒いマントが伸び、右手を完全に隠している点。
マントの中から、右手を出し左の腰にぶら下がっていた剣の手を伸ばす。
シュッ
機能性など考えず、明らかに装飾に重きを置いたその剣は剣先が丸く戦闘によるアドバンテージを自ら捨てるような形だ。
この剣は、通称エクスキュージョナーソードと呼ばれる、貴族など名誉を持つものに尊厳を与えて殺すための処刑器具だ。
コレがこの男の、死神に与えられる鎌の代わりなのだろう。
「あああああああ!!!」
「ふぅ―――」
ムチャクチャに小槌を振る善。
そして男がしなやかに、そして的確に無駄な動きをせず攻撃をかわしていく。
「じゃまだぁ!!!」
善の体から、血の様に赤い気が大量に漏れ出す。
腕にそれが集まり、太陽の様な色へ変化し、さらにそれが赤黒く染まっていく。
「――――――悲しいな」
男がその姿をみて、一言述べた。
そして、善がそうしたように自身の体の『妖力』を解放する。
漆黒の、一点の曇りもないすべてを飲み込む黒へ。
そして、その黒に次々と小さな光が灯っていく。
恐怖を感じるハズなのに、触れたく思う。
すべてを飲み込む黒なのに、美しく思う。
その男の発する妖力は、まさに夜空とそれに瞬く星々の輝きを閉じ込めた様に見えた。
「星々の瞬きを刻もうか――銀河『カシオペア・ストーリー』」
「ふぅあ!?」
善が明らかに動揺する。
そしてその妖力に二人は包まれた。
「!?――何か、いるわね。芳香、行くわよ」
その力を感じた師匠は芳香を伴って、そこへ向かっていく。
少し飛ぶと、よく見知った姿が倒れていた。
「あれは――善!!」
地面に倒れる、善をみて師匠が駆け寄る。
「ッ!――あなたは」
そしてそこに一緒に居た男をみて、師匠が固まる。
その男はもう二度と会うハズの無い男だったからだ。
「あ、奥さん。お久しぶりです」
「奥さん?――――ああ、お久しぶりですわ、
一瞬男の言葉に言いよどむが、そういえばこの人たちには善とは夫婦関係だと説明していたのを思い出した。
「事情はお互いありますよね。
何時か時間の出来た時にでも――」
「ええ、そうなんですわ……主人ったら、最近お腹の大きくなってきた私を心配して……
こういうのって、男親の方が神経質になるって本当でしたのね……
うっ、つわりが……失礼しますわね?」
「それは大変だ。ご自分だけの体じゃないんですから気を付けてくださいね?」
男はそういって、師匠に背を向ける。
手を振って去っていく中、妖精がその後を追っていく。
「あ、そうだ。
男は一瞬だけ、すさまじい妖力を解放して見せた。
その妖気に反応する様に、周囲の野生動物たちが一斉に逃げ出す。
その力に善を背負う芳香の戦慄が走る。
「おっと!待ちなよ。アンタ強いんだろ?私と喧嘩しないかい?」
立ち去ろうとする男の前、萃香が立ちふさがる。
どうやら次の獲物を見つけた様だった。
「ごめんなさい。上司に早く帰ってくるようにって、さっき連絡が有ったので」
「良いじゃないか、ちょっとくら――――――あ、しかたないか……そんなら……」
男の手が触れた瞬間、萃香の闘争心が一瞬にして消滅した。
強者との闘いに喜びを見出す彼女にしては珍しいを通り越して、あり得ない事だ。
「あー、勝手に能力使ったー!!」
責める様にクラウンピースが言うが、男はそれを笑ってごまかした。
「あなたにはまだ、
師匠が懐から、布を取り出し直接小槌に触れない様にしてから回収する。
「よかった……よかったぞ……」
よっぽど不安だったのか、芳香が倒れる善を抱き上げ大切そうに抱きしめる。
「あらあら、芳香は善が好きね」
「ち、違うぞ!!これは、その……心配だったからだ!!」
顔を赤くして、芳香が誤魔化した。
「はいはい、そういう事にしておきましょうか?
ソレよりも善を運んで頂戴、家に帰るわよ」
「分かったー」
芳香が嬉しそうに答えた。
「っ、いってぇ!?」
自身の体に走る痛みで善が目を覚ました。
「ここは――」
右左と見回し、自分の住む師匠の家であることを自覚する。
「何が――痛っ!」
記憶がはっきりしてるのは、芳香と一緒に寝て小槌に呼ばれるまで。
その後はひどく記憶がぼんやりしている。
まるで忘れかけた夢を思い出すかの様な、ひどく実感のない記憶。
「あら、起きたのね。心配したのよ?」
「へ?一体何が――痛っ!」
起き上がろうとしたが、体に痛みを感じ起き上がれない。
「ぜ~ん!!起きたのか!!」
「イデェ!!いでででで!!」
心配した芳香が寝ている善に抱き着くが、触れられた所から激しい痛みが走る!!
「おっと、すまない許してくれ」
残念そうな顔をして、芳香が善を離してくれる。
「無理しちゃダメじゃない。全身筋肉痛なのよ?」
「全身筋肉痛?なんで?」
身に覚えのない怪我に善が疑問を持つ。
その様子をみた師匠が一瞬何かを考える。
「確認だけど、小槌を私の研究室から持ち出したのは覚えてる?」
「芳香と一緒に寝たトコまでは、はっきりしてるんですけど……
その後は、なんとなく感覚はあるんですけど、現実感が無いんです……」
「ふぅん。寝て意識を失った所らへんかしら?
ま、いいわ。
あなたは小槌の力に飲み込まれて、幻想郷中を駆け巡ってたのよ?
キョンシーの札を使った時、身体能力を100%出していたなら、小槌はそれ以上120%を出したの、そんな状況で一日以上ぶっ続けで動き回ればそんな風にもなるわよ?」
「ええ……いろいろと記憶ないんですけど……
いや、ぼんやりとリリーさんや、小傘さん、橙さん達と遊んだ記憶が……?」
そこまで言って、師匠と芳香の異様に鋭い視線に言葉を飲み込む善。
ゆっくりと、動けない善を追いつめる様に二人が近づく。
「善、ここからは重要な質問よ?心して聞きなさい」
「は、はい」
師匠は勿論芳香までの真剣な表情に、善が息を飲む。
「善、あなたの好みのタイプは?」
「え?へ?好み?」
まさかの単語に善が、一瞬何を言われたのか分からなくなる。
「あなたの好きな人のタイプよ、言いなさい!!」
「そうだぞー」
芳香まで師匠に同調する。
「えっと、年上で、デキるタイプの人で、包容力があって優しくて。
……………………あと巨乳?」
善の言葉を聞いた二人の表情がぱぁっと明るくなる。
「そうよねー、善の好みは私よね?」
「そうだぞー、善はロリコンじゃないもんなー」
何がうれしいのか、二人して善の抱き着き倒れる。
布団の転がり、善を挟んでにやにやと笑いだす。
「!?!?!?!?!?いったいなにが?」
全く状況の見えない状況に善が焦る。
そんな中、師匠が立ち上がり善の腰の上に座る。
両手を抑えつけ、師匠が善の顔を近づける。
「うーん、やっぱり善は私の下に居るべきよね。
迫られてドギマギするなんて、私らしくないわよね?」
何を言いたいのか分からないが上機嫌なのは善にも分かった。
「さてと、安心した所で――――今後について話しましょうか?」
「おー!」
「お、おー?」
師匠の言葉に不穏な物を感じる善。
「この子を自由にしたら、どうなるか分からないわね。
だから、今後は何もかもすべて私が管理するわ」
「ちょっと!?いろいろおかしくないですか!?
前提からして人権無視!!!」
「黙りなさい。私が助けなきゃどうなってたか……
という事で、私に体でその恩を返しなさい、代わりに私は善の全部を管理してあげるから」
「何その搾取されるだけの関係!?
付き合ってられませんよ!!」
起き上がろうとしても、師匠が善の乗っている以上逃げることが出来ない!!
「知らないの?お師匠様からは逃 げ ら れ な い」
「どこの魔王ですか!?と、トイレです、トイレに行くのでどいてくださ――」
ドン――!
善の視界の横。
半透明なビンが置かれた。
それは底が平らに成っていて、置けるようになっていて如雨露の様に見える。
善はコレに見覚えがあった。
そうだ、確か永遠亭の入院患者が使っていた――尿瓶。
「トイレに行きたいのよね?
その身体じゃ、歩くのも大変でしょ?
大丈夫、私がやってあげるから――
芳香ー、こっちに来て善のズボンとパンツを脱がして頂戴?」
「わかったー」
「いやだぁああ!!放せ!!放せぇ!!」
「暴れないの!いったでしょ?善の全部を管理してあげるって?
さ、思い切り甘えていいのよ?私って本当にお師匠様の鑑よね?」
「やめて!!止めてください!!師匠!!
男の子は意外とそういうのデリケートなんですよ!!
いやぁあああああああ!!!!」
「はぁい、暴れない暴れない。零れるでしょ?
うふふふ……そういえば、何か忘れてる気がするわね……?」
「羞恥心ですよ!!」
物語は再度数時間巻き戻る。
とある場所にて、布都が抗いがたい敵と戦っていた。
師匠に善を呼ぶ囮として、ぶら下げられて早半日以上。
布都とて、修業を積んだ身。半日程度の絶食など問題ではない。
問題なのは――
「だ、だれか……我を……我を
は、早く、だれでもかまわん……
あ、ああ!も、もう、もうだめじゃぁあああぁぁぁぁ………………………ぐすッ……」
修業を積んでも勝てないモノがあるのだった。
因みに現時点では完良の方が善より圧倒的に強いです。
常に彼は善の前に立ちふさがる最強の壁です。
なるべく対称的な力になる様にしています。
例、能力の形が太陽と銀河。
頭文字が完良がA、善がZ。
善の能力が万能型器用貧乏、完良の能力は局地的だが制圧力が高い等です。
何時か完良の能力もしっかり見せます。
現段階でかなり使っているので、予想できる人はしてみてください。
ヒントは、善の同じく今までの生き方から能力に昇華したタイプです。