最近めっきり熱くなってきましたね。
まだまだ、本格的な暑さは無いにしろ、熱中症にご注意くださいね。
キッヒヒヒヒヒヒ!!!
すぅ~はぁ~……
なんだか、今日は気分が良い……
どうしてだ?全身に漲る高揚感!!そして圧倒的な全能感!!
出来る!!今の私ならなんでも出来る!!
今の私に不可能はない!!今の私を止めるモノなどありはしない!!
「ぜ~ん……そろそろ戻って来てくれぇ~」
「はぁ、なんだかめんどくさく成って来たわ。
適当に術使って、力ずくで連れ帰っちゃダメかしら?」
今日も平和な神霊廟。
神子、屠自己そして布都と大勢の弟子たちが暮らす修業の聖地。
そこへやってくるのは神子の師匠であった邪仙。
居間で寛ぎ、屠自古の持ってきたお茶をすすり、その傍らでは芳香が不安そうに自身の作り主を見ている。
その二人の前に座るのは神子――ではなく、布都だった。
「おぬし等が太子様ではなく我に頼み事とは、珍しいな……アチッ!」
屠自古のお茶に手を伸ばし、舌をやけどしたのかうっすらと涙目になりながら此方を見る。
「ええ、実は今回の事ばかりは太子様よりも、物部様の方が適任かと――
どうか私たちのお願い、聞いていただけないでしょうか?」
珍しくしおらしい師匠の姿と、頼られているという事実が布戸の心を大きく揺さぶった。
「ふふん、おぬしもやっと我の力に気づいたのだな。
よかろう!!おぬしらの小さな悩みなど我の力に掛かれば、大したものではないわ!!」
きりっと、ポーズを決め、ドヤ顔をする布都。
数分後――――
「おのれー!!おぬしら我を謀ったな!?何をする気だ!!
いいや!わかっておるぞ、乱暴する気じゃろ!?善の持つすてふぁにぃの様に!!
すてふぁにぃの様に!!」
一本の木の太い枝から、両手両足を後ろに縛られた布都が涙目で揺れる!!
首には『ご自由にどうぞ』と書かれたプラカードが掛かっている!!
「良いですわ。そうやって大きな声を出して早く獲物を呼び寄せてくださいね」
「おー、頑張れー」
木の影に隠れた二人が、こっちを見ながら手を振ってくる。
「獲物!?一体何を呼ぶ気なのだ!?」
余りに不穏な師匠の言葉に布都が慌てるが、それでもむなしく縄が軋むだけ。
布都はただただ無力に吊るされるだけだった。
ガサッ!バキバキッ!!
少し離れた場所から、何か音が聞こえてくる。
木を蹴って、猿が走ってきている様な、そんな音だ。
「ひぃ!一体何が――」
じたばたと暴れる布都。
次の瞬間、目の前に善が空から飛んで来た!!
「ぜ、善ではないか!?助けてくれ!!おぬしの師匠が――」
意外なタイミングで登場した見知った顔に安堵の表情を浮かべる布都、コレで助かったと気を緩めるが――
「ダメだ……足りない……」
すさまじく冷めた声で善が布都の言葉を遮った。
「ん?なんに事だ?それよりも我を早く――」
「幼さが足りねぇ!!!ダメだ、ダメだ!ダメだぁ!!
こんなの俺の求める幼女じゃない!!ただのまな板だ!!」
無駄に情熱を感じさせる言葉で、善が熱く語ってはいけない内容を語りだす!!
「んな!?おのれ!!子弟揃って我を馬鹿に――」
憤る布都の言葉を遮って、善が縄に吊るされた布都を指でつつき始める。
「つんつん!!ツンツン!!」
「あ、コラ!やめ、やめぬか!!あちょ。どこを突いておる!?」
「う~む……やはりただのまな板か……価値無し!!」
何かが気に食わなかったのか、来た時と同じように再び空に飛びあがって善が消えていった。
「あー!!しまったぞ!!」
「……入違った様ね」
善が飛んだ一瞬の後、芳香師匠の両名が走ってくる。
近くで様子を見ていたのだろうか?
「お、おぬしら!!一体今まで何をしていったのだ!?」
「もちろん、善を捕獲するために隠れて機会をうかがっていましたわ」
キリッとした顔で、師匠が話すが――
「お蕎麦おいしかったー」
「あ、芳香ちゃん!しっ!」
「おーぬーしーらー……我を吊るしておいて食事をしておったのだな!?いかに寛容な我と言えど――」
「このまな板は使えそうにないし、ほかを当たるわよ」
「わかったー」
何か言っていたが、師匠は気にせずほかの方法で善を捕まえることにシフトしたようだ。
歩き出す師匠の後ろを不安そうな顔で芳香が付いていく。
「あ、コラ!!おぬしら!!おい!!おーい!!我を置いてく気か!?
せめて縄をほどいて――おーい!?おーい!!」
後ろで何か言っていたが気にしない様にして、二人は再び善を探すことにした。
ぴくッ……
「――――――あ」
魔法の森の中、その中をふわふわと浮遊していた一匹の妖怪が、おいしそうな臭いに足を止める。
嗅いだだけで涎がドバっと出てくる。
滅多にいない『上物』の獲物のにおいだ。
じゅる……!
「はぁ……今日のお昼はこいつに決定ー」
妖怪――ルーミアは自身の周りの闇を凝固させ、本能の赴くまま飛び出した!!
スン……スン……
近い――すごく近くだ――
嗅いだことのない程のおいしそうな臭いに、カモフラージュの積りか死体の様な臭いがする。
だが、今のルーミアにはそんな事関係は無い!!
漆黒の球体は、獲物を狙い走り続ける!!
有るのは自身の内側から溢れる衝動に突き動かされるだけ……
胸が高鳴る早くコイツに食らいつきたいと――
腹が鳴る早くコイツに牙を突き立てろと――
そしてその匂いがすぐ近くに――!!
「いただきまーす!!」
ルーミアは本能の命じるまま、その匂いに思いっきり食らいつく!!
「おぉう!?」
哀れな獲物の悲鳴が聞こえる。
その瞬間!!ルーミアの口内にうまみが爆発する!!
これは一体なんの肉だ?鳥?猪?兎?それとも人間?
いずれかは分からないが、その哀れな犠牲者の顔を見るためにルーミアが自身の能力で作っていた闇を消す。
そこに居たのは――
「いきなり『いただきます』だなんて、ずいぶん積極的な子だねぇ?」
赤く光る眼を持った
木々に遮られ、昼間でも暗い魔法の森の中。
じりり、じりりと追いつめられるのは妖怪であるルーミアだった。
「はぁ……はぁ……いきなり、人の胸に噛み付くなんて……イケナイ子だね?
此処は敏感だから、優しくしないといけないよ?」
自身の服の胸の部分に付いた、ルーミアの歯形を気にする男。
目の前の男は、いろいろな部分が異常だった。
まず瞳が赤い、なぜか夏なのに赤青のツギハギのマフラーを巻いて、腰に鬼の面が付いた小槌をぶら下げ、なんの意味があるのか、ルーミアと同じくらいの子を肩車している。
「けど、けど良いんだよ……お兄さんは小さな女の子には優しいから良いんだよー!!」
非常に興奮した面持ちで、ルーミアの手を取る男!!
「あーあ、また始まった……」
男に肩車された少女、胸に青い球体の様な物をつけている。がうんざりとばかりに話す。
「まぁまぁ、人との出会いは一期一会だよ?人生に一回しかないんだよ?
ほら、こいしちゃんも挨拶して」
「私、古明地こいしー、よろしくー」
男に促され、上の幼女が挨拶する。
「こ、こんにちは……」
出来れば一生こんな出会いはしたくなかったと、勝手に思うルーミア。
いい加減重くなったのか、男が肩車していた少女を下ろす。
「なんで、あんな格好をしてたのー?」
気になった事を思わずルーミアが聞く。
その疑問は勿論だろう、今日は炎天下と言っても過言ではない天気だ。
そんな中、少女を肩車して走るのは得策とは言えない。
「何を言ってるんだい!?これこそが今の時代の最先端ファッション!!
機能性と、見た目を兼ね備えたパーフェクト!!」
こいしを再び、自身の首元に持ち上げる男。
「今の季節は夏!!一年で一番暑い時期だね?野外で怖いのは脱水症状!!水分が不足することね?
けど、それは水を飲むだけじゃダメなんだ、汗と一緒に塩分も出ていくからね。
水と塩!それが必要なんだよ……
さて、改めてこの格好を見てくれるかな!?」
はきはきと楽しそうに語る男、どう見ても女の子を肩車している様にしか見えない。
「?」
「分かんないかなー?ほら、私の顔が後ろから太ももで挟まれてるでしょ?
今は熱いから、しっとり汗で濡れてるんだ。
汗!!つまり塩と水!!!」
「うわぁああああ!!お前、変態なのかー!?」
力説する男の姿が怖くなったルーミアが逃げ出そうとする!!
「おにーちゃん、本当に舐めたら首の骨折るからね?」
上に乗るこいしが不満そうに話す。
「もう、冷たいなー。
だ・け・ど!まだまだ!!こいしちゃん!例のアレを!!」
「はーい」
男の合図に、こいしがスカートをパタパタ振って男を仰ぐ。
「はぁぁぁぁ……ロリコニウムが補給されてく……まさに楽園の風……
そう、自動での空調まで完備……!これぞ、我が完成形態」
男が恍惚の表情で、笑い出す。
「キモいのかぁあああああ!!!」
色々と越えてはいけないモノを見てしまったルーミアが逃げ出す!!
彼女の本能が告げた!!
『食事などどうでも良い!!だから逃げろ!!』と!!
逃げる!!全力の力を以てして逃げ出すルーミア!!
後ろを振り向きもせず、ひたすら飛び続ける!!
もっと早く、もっと遠くへ、もっともっと!!
変態がおってこれない場所まで!!
何処をどう逃げたか分からない、だがまだ森の中だ。
木々をかき分け、ひたすら逃げるルーミア!!
ドンッ!
「あいて……」
突如何かに当たり、ぶつけた自身の頭をさする。
「な、なんなの――」
「やぁ、お嬢さん。さっきぶり!」
そこに居たのは、さっきの男!!
息一つ乱さずに、そこに悠然と立っていた!!
「うわぁあああ!!!どうしてここにぃ!?」
「普通に飛んだだけだよ?因みにこいしちゃんの能力で姿も消せるよ?」
慌てるルーミアと対照的に、男は軽い様子で笑い飛ばす。
指で合図を送ると、自らの言葉の通り男の姿が見えなくなっていく。
「あ、あわあわあわ……」
変態と透明化!!これほど相性のいい能力が有るだろうか!?
不可視となった変態が罪のない幼子を襲う!!
「と、いう感じだね」
ルーミアの真後ろにいつの間にか移動していた男が、彼女の頭に手を置く。
その瞬間、ルーミアの意識は飛んで行った。
ブぅン!
何かが切れるような音がして、スルリとルーミアの頭から何かが地面に落ちる。
それは、彼女のつけていたリボンだった。
「んん?」
それを拾おうとした瞬間、目の前の闇が爆発した。
昼だというのに、深い深い深い『黒』が目の前を覆いつくす。
くすくす……くすくす……
闇の中、誰かが嗤う声がする。
此方を嘲笑い、抵抗する様を見るのがたまらないと言った様な笑い声だ。
「おにーちゃん……」
不安なのか、こいしが男の頭を握る。
「くふふふ……バカな子達……故意か偶然か、私の封印を解いてしまうなんて……
本当に、お馬鹿さん」
闇の中、女の顔が浮かび上がる。
黒い闇の中でなぜかゾッとするほどの白さを誇っていた。
「さっきの子は?」
男が目の前の顔に問う。
「くふふ……まぁだ気づかないの?
アレは私、私の封印された姿……そしてこれが本当の姿」
その言葉に、男がビクリと体を震わせる。
「封印を解いてくれてありがとう。お礼にあなた達から食べてあげるわ……
安心して?食べるって言ってもすぐには殺さないから、手足をちぎって芋虫みたいにして、私の暗闇の中に閉じ込めてあげる。
くっふふふふ!私がた~くさんのごはんを食べるのを特等席でた~ぷり見せてあげるわぁ」
ドロリとした闇が零れるような笑みを浮かべるルーミアだった女。
「――じゃ――よ」
小さく男の口が動いた。
「んん?なぁに?命乞い?大丈夫よ、殺さないって言ったでしょ?
さぁ、まずはあなたから――」
「ちょっと、ごめんよ。こいしちゃんちょっと待っててね?」
一言謝って、男がこいしを地面に下ろす。
ぐるぐると首を回し、妖怪を見る。
「あんた、それが真の姿なのか?」
「そうよぉ?誰もが慄く大妖か――」
「ロリじゃないんかい!!」
男の一喝と共に、赤い気が走り足元の闇を消し飛ばす!!
その様子に、妖怪がたじろいだ。
「おま、お前!マジありえねーよ!!マジねーよ!!
ちっちゃくてかわいい子だと思ったら、超絶BBAじゃねーか!?
いい年して若作りしてんじゃねーよ!!俺のときめき返しやがれ!!」
男が額に青筋立ててブチ切れる!!
「……あなた、とっても不愉快!!」
妖怪が、自身の闇で男を包む。
この闇は彼女の一部、この闇に包まれた者はゆっくりと闇に溶ける以外の未来は無い。
「はぁ、暗いの嫌いなんだ……よッ!!」
瞬時の右手に赤い気が固まる!!そしてそれは輝きを増し太陽の様に優しい色合いを誇る。
だが、それも一瞬。
腰の小槌の鬼の顔の目が光ったと思ったら、その太陽は男の精神を反映してか、黒い色が混ざっていく。
おかしな表現だが、赤い黒い太陽が右手に生成された。
「
自身の腕を地面のたたきつける!!
すさまじい力の奔流が起き、妖怪の闇が吹き飛んだ!!
「か……ハッ……!」
妖怪が闇を失い、地面の倒れる。
無言で男が、腰の小槌を抜き歩いてゆく。
『バイオレント……』
小槌から音声が響き、頂点の飾りが伸び剣の様になる。
「あ、あっ、いやぁ……いやぁ!!」
妖怪が視線の端に見えた家に向かって助けを求める。
しかし、仮に誰かいたとしても助かる見込みはほぼゼロだ。
「あ、ああ……!!いやだ!!死にたくない!!」
男が小槌を振り上げた瞬間。
「ふぅわ!?なんなのだ?」
突如、妖怪の姿がルーミアに戻った。
「あー!るみちゃん戻って来たんだね!!」
途端にぱぁっと、笑顔に戻った男がルーミアを抱き上げた。
二人とも気が付いていないのだが、妖怪は偶然自分を封印していた頭のリボンに触れてしまったのだ。
その為、この姿に戻ったのだ。
「な、なんで少しの間記憶がないのか!?
な、なにかしたのかー!?」
ガクガクと震えながら、ルーミアが自身の体を触る。
その様子は見ていて、気の毒になるほど怯えたモノだった。
「はっはっは、大丈夫!無理やり襲ったりする訳ないだろ?
YESロリータGOタッチ!だけど、無理やりは良くないよね!!
っと、そろろそ暗くなるなー、今日はもうどっかで休もうかな?」
「この先、無縁塚ってところが有るよ?そこでなら休めるんじゃない?」
戻ってきたこいしが教えてくれる。
彼女は放浪が多いため、こういった情報に詳しいのだ。
「無縁塚か、そうだね。
行ってみようかな、明日も素敵な幼女との出会いの為に休憩だね」
男――善の言葉に、ルーミアこいしの二人が困ったように目くばせした。
「ついたわ、ここよ」
「あ、ここは……」
師匠と芳香二人が、とある施設の入り口に来る。
見上げると長い階段があった。
「ここに善がいるのか?」
「正確には、『最終的に来る場所』が此処よ」
二人の視界のなか、階段の中ほどに小さな影が現れる。
「あなたが、小槌に細工してそうなる様に仕組んだんでしょ?鬼の総大将さん?」
「あちゃー、読まれてたか」
階段の人物が、笑い越しの瓢箪に口をつける。
彼女の名は伊吹 萃香。
善を狂わせた小槌の製作者である。
「ねー、ウンピちゃん。どっちがいいかな?」
人里の服屋、その中で一人の男が妖精に話しかける。
この店、外界から来たものを扱う珍しい店で、男の好みの服が良く売っているのだ。
「だーかーら!!ウンピって呼ぶなー!!
後、その服どっちもダサい!!」
「ええ!?カッコ良くない?どっちも」
男の持つ服、片方は黒字に赤い線で七福神が凶悪な顔で描かれ、端っこに『BAD七福!!』と書かれている。
もう一方は、白いシャツに道路標識がなぜか規則正しく書かれているモノ。
「まぁまぁ、ウンピちゃん。前、ご主人に買っていったら大喜びしてたじゃないか。
明日は死神の仕事もお休みだし、ゆっくり選ぼうよ」
「だーかーら!!呼び方!!なんで、なんでも出来るのにセンスだけは死滅してるの!?」
この叫ぶ妖精の名はクラウンピース、そしてもう一人の名は――
「すいませーん、コレ両方包んでもらえますか?」
「はいはい、完良さんいつもありがとうございますね」
完全で善良なる男、詩堂 完良だった。
ルーミアのセリフが地味に難しかった今回……
EXの方は、妾を使おうと思ったくらいです。
因みに一時はルーミアではなく、三妖精を出す計画もありました。
音も姿も気配も消しても匂いは消えていない!!
「はぁはぁ……幼女の……幼女の匂いだぁ!!!」
とか言って、善が三妖精を捕獲するシーンも書いたんですが、流石にキモいので没になりました。