けど、すてふぁにぃの方が出番多い気がします。
皆さんの好きなキャラは誰ですかね?
キッヒヒヒヒヒヒ!!!
すぅ~はぁ~……
なんだか、今日は気分が良い……
どうしてだ?全身に漲る高揚感!!そして圧倒的な全能感!!
出来る!!今の私ならなんでも出来る!!
今の私に不可能はない!!今の私を止めるモノなどありはしない!!
「うわぁ……」
「うわぁーん!!善がおかしくなったー!!」
「♪~~!~~♪~~♪」
夏場の墓場を、小傘が鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いている。
「あ!善さんだ!!」
視界の先に、青と赤のツギハギマフラーを夏なのにしてる男を見つける。
それと同時に小傘の中に、悪戯ごころがむくむくとわいてくる。
「おどかしちゃおっと」
大きな木の影に、隠れて善が来るのを待つ。
太陽の位置から見て、善の影がこちらに近づいてくるのが分かる。
鈴でもつけているのか、乾いた音も聞こえてくる。
タイミングを見極め、息を殺す。
そして――――一気に飛び出す!!
「おどろけぇ!!!――――あれ?」
しかしそこには善はいなかった。
さっきまで、いたはずなのに影も形もない。
「おかしい――」
「おどろけぇぃ!!!」
「うひゃお!?」
突如自分の後ろから掛かった声に、小傘が驚きしりもちをつく!!
善は木の枝に、自分の足を絡めて逆さまになってこっちを見ていた。
彼らしくないにやにやした笑いを浮かべている。
「どうどう?小傘ちゃん驚いた?驚いたん?
脅かす側なのに、驚かされちゃったねー」
「へ、善さん……ですよね?」
何時もなら絶対に言わないであろう言葉使いに、小傘が混乱する。
「そうだよん?因みにさっきからパンツ見えてる!!!
……黒か、ここ一番の驚きぃ!!」
「ちょっと!?」
善の言葉に、スカートを直すと尚も善はにやにやと笑っている。
「善~!!まて~!!」
墓の奥、善の来た方から芳香と、久しぶりに見た師匠が走ってくる。
「おおっと!怖い二人が来たねー!
悪いけど、小傘ちゃんまた今度ね~
またパンツ見せてねー、セクシーなの希望!!!
んじゃ!!!」
反動をかけて、枝の上に立つ善、その時腰に付いた小槌が小さく鈴を鳴らした。
そしてそのまま、空に向かって飛び上がった!!
「善さんが……飛んだ?」
理解不能すぎる事態の連続に遂に小傘が、思考を放棄した。
「ああ、逃げられた……」
「やるわね。あの子にしては」
芳香と師匠が飛び去って行った善を見る。
「あ、お師匠さん、お久しぶりです……
あの善さんは、一体?」
小傘が尋ねると、師匠はため息をついてゆっくり話し出した。
時は昨日に遡る。
「どうだ芳香?気持ちいか?」
「おお~、気持ちいぞぉ……」
夏の暑さに参ったのか、少し調子の悪い芳香の為に、善は大きなタライに水をためその中で芳香を遊ばしていた。
水がぬるくなるたびに井戸から、冷えた水を汲んでくる。
「師匠遅いな……2、3日って言ったのにもう1週間超えるぞ」
「うー、多分大丈夫だ……」
心配する善を他所に、芳香が水の冷たさに脱力する。
そんな事を話してると、二人の視界に師匠が見えた。
「あ、師匠!!おかえりなさい!!」
「おー、ただいまー」
「芳香ちゃん?お帰りでしょ?」
芳香のミスを訂正しながら、微笑んで師匠が帰ってくる。
「帰りが遅くなったわ……ふぅ、疲れたわぁ……
善、お風呂用意して頂戴、今夜はゆっくり休みたいの」
お疲れの様子の師匠の為、善が風呂を沸かし、食事を作り、最終的に肩もみまで命じられた。
「――で交渉が長引いちゃって……
本当に大変だったわぁ……」
布団の上で横になった師匠の背中を指で押しながら、愚痴を聞く善。
内容は今回の用事がいかに大変だったか、だった。
「お疲れ様です。師匠」
「ほんとよ……はぁ。
ああ、忘れるといけないから。
ハイ、これ」
そう言って、どこからともなく一振りの小槌を取り出す。
全体が金色で、松の模様が掘られ、槌の片面には鬼の顔があしらわれ、頂きには鈴が2つ揺れている。
「これって――」
善はこの道具に見覚えが有った。
忘れる訳がない、この道具は自分と師匠を助けてくれた仙人の物!!
それが今、目の前に有る!!
「盗んだんですか!?」
「違うわよ、これは私が新しく設計した小槌。
善の言うように、あの仙人の物をモデルにしているわね。
大変だったのよ?使ってる材料も貴重品ばっかりで、設計構想はあらかた出来ていたんだけど、顔見知りの鬼に頼んで作ってもらったのよ?
はぁ、鬼との交渉が一番疲れたわ……んッ!そこ……もっと……強く……」
鬼って実際いるんだなーなんて事を考えつつ、善がマッサージを続ける。
しばらくしたら、師匠がゆっくり起き上がった。
「明日から、
そのつもりでいなさいね?」
「はい、師匠!」
その日上機嫌で師匠と善は眠りについた。
「なんだか、機嫌良さそうだなー」
芳香の布団を敷く善に芳香が尋ねる。
小さく鼻歌まで歌って、誰が見ても一目でわかるくらいの上機嫌だ。
「そうか?別にそんな気持ちは無いんだけどな?」
布団が一式出来上がり、そこに芳香が座り込む。
善が自分のベットに腰かけ、二人が向き合う。
「本当は戻ってきてくれてうれしいんだろ~?」
「師匠の事か?確かにうれ……しいのか?自分でもよくわからん。
兎に角、今は夏だしお前の防腐対策も俺じゃ限界があるからな……」
今日の昼の事を思い出す芳香、大きなタライに水を張りそこに自分を入れてくれた。
夏も真っ盛り、自身の死体の体にはきつい季節だ。
「少し臭うか?」
「うーん、いつも一緒に居るからわからん……
前、お燐さんに『死臭が染み付いてる』って言われたのは微妙にショックだったな……」
力なく笑いながら、自身の頬を霍善。
「本当はさ――」
自身のベットから下りて、芳香の隣に座る。
「俺がお前をメンテナンスしてやれればいいんだけどな?
その……ほら、いつも一緒に居るだろ?」
誤魔化す様にそっぽを向く善だが、それでも耳まで赤くなっているのに芳香は気が付いた。
「そうかぁ。じゃ、善には修業をもっと頑張ってもらわないとな!!」
「おう!見てろよ?すぐに超一流になって、1000年でも2000年でも生き抜いてやるからな!!」
二人して笑い合って、蝋燭の明かりを消して寝床に潜り込んだ。
リン……
……リン……
「なんの……音だ?」
深夜、善の耳に何かが鳴る音が聞こえてくる。
リン……リン……
……リン……リン……
その音は止まる所か、少しずつ大きく成っている気がする。
リン……リン……リン……
……リン……リン……リン……
「んー……どうしたー?」
寝ぼけた目をこすりながら、芳香が起きる。
一瞬、音について聞こうとしたが全く気にした様子が無いため、聞こえていないと理解した。
「いや、なんでもない。ちょっとトイレに行ってくる」
どうしても真相が気になった善。
芳香に一言告げ、部屋を出る。
耳を澄まして、音の鳴る方へと向かっていく。
リン……リン……リン……リン……
……リン……リン……リン……リン……
音に導かれ、暗い丑三つ時の廊下を渡る。
なぜだか分からないが、この音は『自分を呼んでる』気がした。
リン!……リン!……リン!……リン!……
……リン!……リン!……リン!……リン!……
一歩歩くたびにその音は大きく、そして確かな物へと変わる。
善の前に、大きな地下への階段が現れた。
これは師匠の術の研究室。以前不思議な猫を見つけたのも此処だった。
ぽっかりと口を開ける地下への階段に、善はゆっくりと足を踏み出した。
不思議と恐ろしさは無かった。ただ自分を呼んでるナニカに早く会わなくてはという思いが有った。
きぃぃぃぃぃ……
師匠の研究室のドアを開き、小さな箱を見つめる。
音はそこから来ている様だった。
「まってろ、今あけるから……」
箱の中に有ったのは、さっき師匠の見せた小槌。
暗い部屋の中で、それだけが輝いて見えた。
「きれいだ――」
考えてもいない言葉が、口を付きその小槌の柄をしっかり握った。
握った瞬間から、善の中の何かが変わる。
それは一瞬だが、確かに自分の中の何かが書き換わった気がした。
「一体、何をしてるの?」
その時、後ろから怒気を孕んだ声が聞こえる。
そこには寝間着姿の師匠が立っていた。
「師匠……」
ドォン!!
「急に入ってくるなんて――――きゃッ!?」
師匠の目の前、善が壁に左手を付いてすぐそばまで顔を近づける。
所謂、壁ドンというやつである。
「ぜ、ぜん?」
突然の弟子の行いに師匠がドギマギする。
しかしそんな師匠を無視して、善が師匠の左手を握った。
「師匠……前々から思ってましたけど師匠って……」
小さく息を吸い、笑みを浮かべる。
「すごく美人ですよね。例えるなら……そう、女神だ」
「は、ひゃい!?」
突然の意味不明な言葉と態度に、師匠までもが可笑しな声を漏らす。
だが善は止まりはしない!!
壁に付いていた、自身の手を放し両手で師匠の手を握った。
「烏滸がましいのは分かってます!けど、けれど!!
私は、師匠のその微笑みを独り占めしたい!!
今日、この一瞬から私の為だけにその笑みを向けてはくれませんか!?」
「え、えっと?えっと?」
ますます混乱する師匠。
おかしい、一体どうしてこうなった?
誰かが、自分の研究室に入るのに気が付いて、様子を見に来た。
うん、合ってる。ここまでは有ってるはずだ。
問題はこの次……
その侵入者は、自分の弟子の善で咎めようとしたら――
「
「な、なによぉぉぉぉぉ!?ぷ、プロポーズのつもり!?
弟子のくせに、善のくせにプロポーズなの!?」
訳が分からない!!慌てた師匠が善の元から逃げようとする。
しかし――
「逃がさない!!俺の、俺の気持ちを受け取ってくれるまでは――
師匠の苗字が俺と同じ『詩堂』になるまでは!!」
「ほ、本気じゃない!一体どうし――!!」
自身の意思に反して顔が赤くなる師匠。
絶えずこちらの目を覗き込んでくる師匠は、善の瞳の色が赤いのに気が付き言葉を止める。
可笑しな、態度に赤い瞳、そして善の腰にぶら下がる
「呪いね?道具を持った反動が来たのね……」
針妙丸のことを思い出した師匠は善を突き飛ばす。
あの小槌は、設計こそ自分が行ったが作ったのは正真正銘の『
何らかのデメリットが本物の小槌と同じくあってもおかしくない!!
「ははは……なんでしょうね?力が湧いてくるんですよ……
ずーっと、私を抑えつけていた『限界』って蓋が剥がれた様な……
バラバラだったパズルのピースがピタッとはまった様な……」
小槌を持ち、暗い部屋の中で善の赤い気が煙の様にゆっくりと流れる。
赤い目と相まってその姿は完全に妖怪にしか見えない。
「善、今すぐその小槌を置きなさい。
今ならまだ許してあげるわよ?」
「いいじゃないですか……これ、持ってるとなんか、なんかこう、すごい力が出てくるんです。
なんでも出来る気がするんですよ!!放しませんよ?絶対に手放しませんから!!」
バン!!バチチィン!!
小さく赤い火花が散り、その衝撃に師匠が身を引く。
その一瞬のスキをついて、善は扉から逃げ出した!!
「くッ……逃がしたわ……厄介なことに成ったわね」
師匠が縁側から、空に向かって飛んでいく善を見る。
恐らく善の持つ本能的な能力を、あの小槌は開花させているのだろう。
「一体何が有ったんだ!?」
アレだけの騒ぎだ。眠っていた芳香までもが走ってくる。
「あら、大丈夫よ。善が少し、バカな事をやっただけだから」
そう言って、師匠は無理して芳香に笑いかけた。
そして再び現在。
「えぇえええええ!?何それ!?昨日からずっと追いかけてるの!?」
師匠の説明に、小傘が目を丸くする。
さっきのおかしな態度はやはりちゃんとした訳が有った様だ。
「疲れたぞー……」
芳香が辟易しながらそう呟いた。
確かに昨日の夜からぶっ続けならばしょうがない。
「善の目的が分からないわ……何時もの善なら、目立つ場所にすてふぁにぃを置いておけば簡単に捕まるのに……」
師匠が困り顔でそう話す。
酷いたとえだが、小傘は善が一回この仕掛けに捕まるのを見たことが有るので非常に複雑な気分だ。
その時、誰かの鼻歌が聞こえてきた。
3人がその方向を見ると、橙が上機嫌で歩いてきた。
「みなさん!!聞いてください!!さっき善さんに会ったんですよ?
すごくかわいがってくれて……ああっ、積極的な善さんも素敵です~」
橙の言葉に、3者が大きく反応する!!
「どこだ!!どこで善に会ったんだ!?」
「何処かへ行くって言ってなかったかしら?」
「おかしな所はなかったかな?」
詰め寄る3人に橙が少し、驚きゆっくり話し始めた。
「え、えっと。出会ったのは妖怪の山で――
そうです!!春告げ精の、黒い方と遊んでました!!
それから、私とも遊んでくれたんですけど、急に立ち上がって……『もっと、もっと身長の低くて胸の無い娘と遊びたい!!』っていってどっか行っちゃいました」
「アウトじゃない……」
師匠がなんとも言えない顔をしてつぶやく。
なんというか、発言が完全に犯罪者というか……
小槌の呪いであって、善の本性が出てきたのではない事を師匠は強く願うことにした。
「ダーイブ!!」
善が何かを見つけ、何もないハズの地面に抱き着く様に飛びつく!!
「うわぁ!?」
ゴロゴロと転がり、やっと止まった善の胸にはこいしが抱きかかえられていた。
「うふふふふ~。俺からは逃げられないよ~?よしよしよしよしよしよし~」
ちょっと乱暴な手つきで、こいしの頭をなで続ける。
「おにーさん何してるの急に?」
「ん~?何でもないよ?ただ、急にこいしちゃんみたいな身長の低くて胸の小さな見た目の幼い子に会いたくなっただけだよ~」
すんすんとこいしの髪に鼻をつけ、匂いを嗅ぎながら善が嗤った。
「うわぁお……こりゃ、ちょっとやばそうだねぇ……」
珍しくこいしが冷や汗を流した。
「ふふふふふふふ……幼女最高!!」
善の言葉に反応するように、腰の小槌が小さく鳴った。
初めての悪堕ち?
何はともわれ、次回に続く。