姫海棠 はたてについて独自解釈の強い内容となっております。
苦手な方はブラウザバック推奨です。
皆さんどうも!こんにちは。
私の名前は
偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。
目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!
毎日どんどん修業して、がんばって行きます。
……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……
けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……
俺は間違ってない……ハズ……
どうしよう、自信無くなってきた……
「あら~?私の修業が不満?」
「そんな事ありませんよ!!ははは!!」
さ、さぁ!気を取り直して今日も修業です!!
涼やかな河のせせらぎが聞こえる妖怪の山の一部。
見回り警備の役目を受けた白狼天狗、犬走 椛は竹筒の中の水を啜っていた。
「!」
彼女の耳がこちらに迫りくる者の音を聞き、白い耳がピンと立ち上がる。
次の瞬間!!彼女の目の前の別の影が躍り出る!!
「あ!天狗さん。今こっちに人間が走ってきませんでした?」
黒い猫の耳に2本の尻尾、オレンジのワンピースを着た小柄な体躯。
橙が尋常ではない目をしている。
「さっき、河に飛び込んで下流の方へ――」
「匂いを消したつもりですね?ありがとうごじゃいましゅ!!」
興奮のあまり言葉を忘れかけた橙が、すさまじい勢いで河を下って行った!!
「…………もう行きましたよ?」
下って行った事を確認した椛が、河に向かって声を投げかける。
「ぷはぁ!!やっと行ったか……」
河の中から現れたのは毎度おなじみ、詩堂 善。
橙を巻くために水中にずっと潜っていたのだ。
「……詩堂さん……とりあえずこれで……その……前を……」
顔を赤らめて自らの盾を差し出す椛。
今の善の姿は何と全裸!!妖怪の山の中で裸一貫!!見つかれば即通報どころか殺処分されてもおかしくない姿!!
「あ、ありがとうございます……」
こそこそと、盾で自分の局部を隠す。
「なぜ、こんなことに?」
「ちょっといろいろありまして……名も知らない猫たちのパパになる所でした……」
師匠に連れてこられた猫の里で、オス猫に飢えたメス猫が善を見て一気に活気立った!!
無数の猫たちが善に群がり、全身を引っ掻いたり噛み付いた!!
危ういところで術が切れたが、その直後に群れのボス――橙が現れて善を追いかけてきたのだ!!
「……何やってるんですか……」
予想の斜め上をいく出来事に、椛が小さくため息をつく。
「いてて……猫の爪って結構鋭いな……」
「おっす!盟友ー、何してんの?」
ザバッと水しぶきを上げ、にとりがさっきまで善のいた河の中から姿を現す。
どうやら気が付かなかっただけで、近くにいたらしい。
「ありゃ、椛も一緒か……なんかのプレイ?」
「「違います!!」」
善と椛二人が同時に否定した。
「あひゃひゃひゃ!!ねこ、猫にまで襲われてるの!?」
内容を聞いたにとりがゲラゲラと腹を抱えて笑い出す。
「こっちは貞操が掛かってたんですよ!?」
「あー、ごめんごめん。いいもんあげるから許してよ」
自身の背負う巨大なリュックを漁り、中からおかしなものを取り出した。
「これは……犬耳カチューシャ?」
「尻尾もあるよ」
それは、椛に似た色の犬風の耳のカチューシャともふもふの尻尾、こちらはベルト式で腰に巻けるようになっている。
「これでどうしろと?」
横からその様子を見ていた椛が無言で頷き、飛んで行った。
「あー!馬鹿にしてるなー?これは私の発明ですごいんだぞ?
この頭につける耳は中に機械を内蔵していて、装着者がこめかみを動かすことで自由に動かせるんだぞ!?尻尾だって、お腹に力をいれると少しだけ動くんだぞ!?」
発明を馬鹿にされたと思ったにとりが力説する。
「いや、すごいんでしょうけど……一体何の意味が――」
「変装して帰るんですよ」
その時椛が風呂敷を抱えて戻ってきた。
「はい?」
数分後……
「どっか、おかしいトコロ……ありませんよね?」
椛の持ってきた同僚の白狼天狗用の制服と、にとりの発明したアイテムを装備した善が自身の体をひねる。
その姿はぱっと見完全に白狼天狗にしか見えない。
「おおー、馬子にも衣装だね。装置も動かしてみてよ」
「すこし、違和感が――いえ、それくらいなら」
二人の言葉にこたえる様に、善が耳と尻尾を動かして見せる。
問題なく稼働する様だ。
「普通の服って無かったんですか?」
善が椛に聞くが本人はバツの悪そうに否定した。
「残念ながら、女物しか持てなくて……昔同僚の子が着ていた『それ』しか貸せる服もなくて――」
「人間が天狗の制服着てるのバレたら大変な事になるでしょ?全裸で帰れる訳もないし。
だったらいっそ、天狗に化けて山から下りた方がうまくいくからさ!
因みにレンタル料は安くしてくよ?」
「金取るんですか!?」
まさかのにとりの言葉に善が驚愕する!!
「と、兎に角!詩堂さんはその恰好で山から下りてください。
制服は私のではないので返却は結構なので、適当に燃やすかして捨ててください。
これ以上は私も助けれませんから、くれぐれも、くれぐれも問題を起こさないでくださいね!!間違っても私の名前は出さない様に!!」
いつになく真剣な顔で椛が善に釘を刺す。
「わ、わかりましたよ。じゃ、二人ともありがとうございま――」
「犬走、交代の時間だぞ?
ん?見ない顔だな、新入りか?」
二人に別れを告げて帰ろうとした時、大柄な天狗の男が善の前に降り立った。
「はい。そうです!!けど、今日は休日なので人里へ行こうと――」
「人手が足らん!!手伝え!!犬走、送り届けたら、俺と交代だからな?」
「え、ちょっと――!?」
にとりと椛、二人の見ている前で善が抱きかかえられ、どこかに連れていかれた。
「うわぁ……速攻だね……」
「詩堂さん、前世か何かで大罪でも犯したんでしょうか?」
呆然とする二人、にとりはふざけながら、椛は心の中で善の無事を祈った。
祈るだけで何もしないのだが――
「おい、新入り!!お前には子守を頼むぞ」
「こ、子守!?」
突然の要望に善の声が上ずる。
「鴉天狗のお守りだ。相手は名家のご令嬢だ、粗相はするなよ?」
一軒の家――というか最早豪邸と呼んでも差し支えない家の前に降り立ち、ノックして扉を開ける。
「姫海棠様ー、手伝いの天狗をお連れしました!!」
「……入ってー」
「頑張ってこい、新入り!!」
奥からわずかに聞こえてきた声に頷き、善をその家に押し込んだ!!
「痛て……」
薄暗い家の中、最後に叩かれた背中を気にしながら声の方へ歩いていく。
(はぁ……大変な事になったなぁ……椛さんにあれほど言われたのに……
何とか、バレない様にしないと……そう言えば、椛さんに聞いたことがある……
天狗には上下関係が強って、鴉天狗は白狼天狗より上で、その中にも家でランクがあるって……)
先ほどの天狗が『名家のご令嬢』と言っていたのでなおさら不安になる。
「し、失礼します……」
わずかに光の漏れる襖を開き善が顔をのぞかせる。
部屋を開けた瞬間、わずかにインクのにおいが鼻を擽る。
「……ん?あー、適当に座ってよ……」
その中央、くしゃくしゃにまるまった原稿の山に埋まる様に一人の天狗の姿があった。
紫の市松模様スカートに、同じ色のリボンでツインテールにした髪型。
そして背中に生える黒い翼――話に有った鴉天狗だろう。
「えっと、詩堂 善です。よろしくお願いします」
「あー、姫海棠 はたてー、ま、よろしくー」
こちらに全く目を合わせず、振り返りもせず、気の抜けた返事だけが帰ってくる。
「悪いけど、まだ書き上がるまで時間かかるから」
そう言って、チラリとだけこちらに視線を投げかけた。
一瞬だけ見えた目には、びっくりする位クマが出来ていた。
「ねー、なんかさー、今白狼天狗内で流行ってるもんって、ナンかないの?」
筆を持ったまま血色の悪い顔をこちらに向けてきた。
「えっと……特にこれと言って……」
当然だが天狗内のブームなど知りはしない。
「あっそ。じゃ、適当に……花見情報でも――」
「はたてさん?もう夏です……春はもう終わってますよ?」
はたての余りにもタイミングをずらした話題に、善が訂正を入れる。
「え?夏?春は?桜は?」
「数か月前にもう……」
「うそぉ~~~ん……」
そのまま滑る様にはたては紙の山に倒れ伏した。
「は、はたてさん!?大丈夫ですか!?ウッ!?」
慌てて近寄ると、インクのにおいに隠れて気が付かなかったツンとする匂いが気になった。
近くでよく見ると、髪もぼさぼさで服も埃と皺だらけだ。
「あぁ~~~……お腹すいた……何か作って……」
「あの、はたてさん。どれ位この部屋にいます?」
「ん~?春前だったはずだから……数か月?アイディアが煮詰まって……」
ドロリと擬音を立てそうなくらい濁った瞳が善を一瞬だけとらえる。
「ごはんを――いや、まずはお風呂を、清潔感大事!!
はい、起きて!!着替えを用意してください。
私はその間に風呂掃除と食事の準備をしますから」
生活態度に業を煮やした善が勢いよく立ち上がる。
「えー?ごはんはー?」
「後です!!」
「……ぶー」
気分を悪くするはたてを無視して、服の着替えを取りに行かせる。
その間に善は、風呂場の場所を聞き出し水を張り風呂をわかす。
「うー……」
浴室からはたての声が聞こえてきた。
「しっかり体を洗ってくださいね?烏の行水は許しませんよ?」
「はーい……」
薪を入れながら善が風呂場に向かって声をかけると、だるそうなはたての声が帰って来た。
適度に温度が出来たら今度は、台所へ向かう。
善以外の天狗が世話を焼きに来ていたのか、食品だけは新鮮なものがそろっていた。
豪邸、大きな風呂場、豪勢な台所。
確かにはたては名家のお嬢様なのかもしれない。
そんなことを考えながら、善が調理をしていく。
十数分後……
「スン……スン……いい匂い……」
襦袢を着たはたてが、台所に導かれる様に入ってくる。
「あ、丁度おかゆが出来た所ですよ。おかずは待っててくださいね?」
そういって、はたての前に土鍋に盛られた卵粥が置かれる。
「はぁ……ふぅ。おいしい……!」
一口食べた瞬間に、はたての目が見開かれた。
「漬物と、煮物です」
しばらくして、たけのこと椎茸と里芋の煮物を出す。
それらもはたては食べ進めていく。
「はぁ~、おいしかった。生き返ったわー」
食事を終えたはたてが、椅子からたちあがり背伸びをする。
「元気になったみたいで良かったですよ」
ニコリと善が笑いかける。
しかしはたては不機嫌顔だ。
「まったく!あんたね!目上の私に命令するとかどうゆう要件よ!
本来なら山から追放ものなんだからね!
まぁ、今回だけは特別に許してあげないこともないけどー」
「は、はぁ……ありがとうございます」
助けたのはこちらなのに、なぜか許してもらう不思議。
「えっと――善だっけ?名前?」
「はい、そうです」
「ふーん、覚えたから。なんか有ったら上にソッコー、チクるから。
新聞、書くの手伝いなさいよ。拒否権無いから」
「えぇ……」
びしっとこちらを指さすはたてを見ながら、小さく善が声を漏らす。
静かに山から脱出するつもりだったが、どうやら本格的に厄介なことに巻き込まれたようだ。
「ってか、書いてたの新聞だったんですか」
「……そうよ……さっきのアレ!!全部私の新聞『花果子念報』の没よ!!
いーわよ、どうせ私は文の『文々。新聞』みたいなの書けないわよ!!人付き合いの少ないボッチよ!!なによ、文句アンの!?」
地雷を思いっきり踏み抜いた善!!涙目ではたてがまくし立てる!!
「手伝いなさい……私の新聞書くの手伝いなさいよ!!!
ビックな新聞かき上げてやるんだから!!殺人事件とか、書いてやるんだから!!」
突如善の首をつかみ激しく揺らす!!
天狗の腕力に、今まさに殺人が起きようとする!!
「す、少しだけですよ……?
といても、私は新聞なんて書けませんから、書くための空間つくりですけど……」
襟を正しながら、善が向き直る。
そしてはたての部屋に戻り掃除を始めた。
「はたてさん、これ捨てていいやつですか?」
座って新聞を書くはたての近くに紙束を持ってくる。
「え、ええ……いいわよ?」
言葉を濁し、はたてが了承する。
「?」
違和感を感じつつも善が掃除に戻る。
(アレ、一体どういう事……?)
はたては内心大きく動揺していた。
さっき善の揺らした時、胸の前がわずかにはだけた。
そこには天狗ごとの名前と所属が書かれているのだが――書かれていた文字に問題があった。
明記されていた名前は『狗灰 机』。
さっき名乗った彼の名とは違う。
考えにくいが、服を間違えた可能性もある。
気になったはたてが、白狼天狗の所属の書かれた名簿を手にする。
「あなたの苗字って、詩人の『詩』にお堂の『堂』で当ってるわよね?」
「そうですよー」
(詩堂……詩堂……無い!!)
名簿を隅々まで見たが当然、詩堂なんて名前はない!!
(なら、アイツは何者!?)
そうなると当然気になるのが、彼の正体!!
本来天狗の山にいない正体不明の男にはたてが恐怖する!!
ゴクリと唾を飲む。
(まさか、殺人鬼!?)
さっきの新聞の内容からとんでもない想像をしてしまう!!
「よいしょっと」
袖をまくった善がゴミを持ちあげる。
その腕には無数の引っ掻いたような傷跡!!
*猫のもの。
(ま、まさか本当に殺人鬼なんじゃ!?)
無数の傷を見てはたてがさらに震えあがる!!!
(こ、ここは人通りの少ない場所に有る家……そして住人は私一人!!
助けを呼ぶこともできない!?
そういえば聞いたことが有るわ……『殺人鬼には常人には理解不能な拘りがある』って。
きっと、風呂を沸かしたのも食事をふるまったのも、そんな拘りから……!!
つまり、いよいよ……次は!!)
いやな汗をかき、そっと部屋から抜け出る。
足音を殺し、善が向かったハズの台所へ行く。
(私の思い過ごしよね?偶然名簿から漏れただけよね?)
そっと扉を開け、台所の善を見る。
何かを刻んでいる様だ。
「ふぅ、疲れたー。計画が狂いっぱなしだ……はぁ、だんだん頭が痛くなって来た」
そういって、自身の頭の耳に手を伸ばし――
「よっと」
「取れたー!?」
外れた耳を見て、はたてが声を上げる!!
その声に驚いた善が、包丁を持ったまま振りかえる!!
その手に持つ包丁は真っ赤な液体に濡れていた!!
「いやぁあああああ!!!血ぃぁああ!?」
恐怖のあまり腰の抜けるはたて!!!
善が包丁を持ったまま近づいて来る!!
「殺さないで、殺さないで……殺さないで……
なんでもいう事聞きます。どんな事でもしますから、殺さないで!!」
ガクガク震えて善に懇願する!!
「あのーはたてさん?」
「な、なんでもしますから!!なんでもしますからぁ!!」
怯えるはたてに包丁を突きつける!!
「これ、血じゃないですよ?トマトです」
「あ……え?ほんとだ……」
確認するとそれはトマトだった。
非常にベタな手だが、慌てると気が付かないらしい。
邪仙の弟子説明中……
「へぇー、仙人の修業でー」
関心したようにはたてが、善の話を聞く。
仕方ないと、善が自身の正体を明かしたのだ。
「あのー、はたてさんこそ黙っててもらっていいですか?その……バレると困るので……」
申し訳なさそうに、善が言う。
「ええ、いいわよ。けど一つだけお願いが有るの、いいかしら?」
はたてが小さな条件を出した。
数日後……
「おい、見たかこの新聞!!」
「見たさ!これ、アレだろ?」
人里の住人が興奮した様子で、花果子念報をみる。
そこに写るのは――
『発見!!妖怪の山に潜む怪人!!』の見出し。
ぼやけた写真には黒い影が、腕から赤い稲妻のような物を出し振っている写真。
内容としては、謎の怪人を捉えた物だが、里の住人はコレが何か知っている為非常に関心が高まっている。
「
「死んだだろ?あいつが証拠を残させるはずがない……」
非常に貴重な写真が載っている新聞として、その号だけは爆発的に売れたそうな。
個人的はたての解釈。
彼女は天狗の中でも、あまり周りと友好が無いらしい。
だが、本来天狗は上下関係の厳しい社会。
そのため、どうしても仕事で顔を合わせる必要がある。
だが、逆に言えばそれなりの地位に居れば、顔を合わせる必要はない。
彼女は引きこもっていても許される立場にいるであろう。
という解釈。
そんな事より、今、何でもするって言ったよね?