その日に投稿したかったんですが、大幅な遅れが……
お蔵入りも考えたんですが、もったいないのでここに。
季節感のずれは許してください!!
あら、いらっしゃい。
私に一体何の御用かしら?
あらあら、そんなに怯えなくてもいいんですよ?
私は仙人。強く麗しい素敵な仙女。
困った人間の――あなたの優しい味方。
もう安心なさってください。きっと、きっと助けてあげますわ?
けれども注意して?私ちょっぴり怖い邪仙ですから。
うふふふふふふふふふ………
「師匠なにしてるんですか?」
「一度でいいから、私の口上を言ってみたかったのよねー」
(しまった……失敗したわ)
善の暮らす邪仙の仙窟。
その地下の部屋、いつも師匠の着ているワンピースからもぞもぞと姿を現し、小さくため息をつく影が一つ。
(……気分転換で別の術を研究したのがいけなかったのかしら?)
違和感を感じる足を動かし、何とか座る。
(はぁ、一体どうしましょう?)
部屋に飾ってある鏡に映るその姿は――
(あら、かわいい)
一匹の猫だった!!
事の始まりは、今日の昼から。
以前より研究していた道具の製作がどうにも行き詰まり、気分転換にと以前見た『通りすがりの仙人』の使っていた玉図の動物の体を再現する力を真似ようとした。
その結果が――
(どうしようかしら?)
成れない動きで師匠が自身の顔を掻く。
見た目は完全に、顔を洗う猫になっている。
(ひとまず善に助けを呼ぼうかしら?まずはそこからよね)
四つ足で歩きだし、自分の部屋のドアを見る。
(ドアノブ……なんとか、引いて開けない――と!!)
その場で師匠が飛び上がり、ドアノブに腕を掛けようとする!!
しかし!!
ゴンッ!!
ジャンプ力が足りず、ドアに頭突きをかましてしまう!!
(痛った~い……)
ずきずきとする頭を抱え、果敢に数回チャレンジする。
ゴンッ!ガンッ!ボンッ!!
ゴシン!!!
(ッ~~~~~~~~~!!!)
何度も頭を打ち付け、わずかに涙目になる師匠。
それほどまでに、猫の体は不便だった。
ガチャ……
(やっと、やっと開いたわ……)
十数回に及ぶチャレンジの結果、ついに師匠は扉を開かせることに成功する。
(はぁ……本当に不便……)
いやそうな顔をする師匠の前に鎮座するのは――
(次は階段……)
自身の伸長とほぼ同じになった階段!!
当然今の身長は本来よりも、ずっと小さい。
そのため階段一段一段が、壁の様に立ちはだかっているのだ!!
(いいわ……邪仙の力、思い知らせてあげる!)
「フニャ!!にゃ~!!ふんふん!!」
師匠自身は本気なのだろうが、その姿はどう見ても猫が必死に階段を上がるほほえましい光景にすぎない!!!
(はぁ、はぁ……ずいぶん登ったはず……よね?)
チラリと師匠が後ろを見ると、そこはまだまだ途中。
というか、半分も行っていない。
(もうひと踏ん張り――きゃ!?)
飛び上がった師匠が前足を滑らせてしまう!!
(そんな、そんなのダメ、ダメよ!!)
しかし現実は無常。師匠の体が重力につかまり落ちる!!
ダン!ゴン!!ドン!!!
哀れにもここまで登った師匠はゴロゴロと転がり、最初の場所に戻されてしまった!!
(ああ……こんなのって……)
無力感に打ちひしがれ、師匠は意識を失った。
「あ、起きた」
次に師匠が見たのは、善の顔。
上からこちらを覗き込むように見ている。
(何があったの?)
いまいち状況の読めない師匠が、きょろきょろと辺りを見回す。
部屋の内装から見て、善の部屋のベットに寝かされていることが分かった。
「にゃー、にゃ。にゃ(よかったわ。丁度あなたを探していたの、少しミスをしてこんな風になったの、だから――)」
「どうした?どこか痛いのか?それとも腹が減ったのか?」
急に鳴きだした猫を不安そうに善が見る。
どうやら、今の師匠の声は善には猫の鳴き声にしか聞こえないらしい。
「さてと、一体どこから来たんだお前は?師匠の研究室のある地下にいたんだよな?
…………まさか、師匠の研究の実験材料か?」
酷く哀れんだ目で猫を見る善。
(あなた!!私をなんだと思っているのかしら?)
目を吊り上げ、抗議の言葉を発するが、やはり善には理解されない。
「おーおー、落ち着けって……どうすっかな?」
善が立ち上がり、本棚から数冊の本を持ってきてベットに置く。
「えーと、この鳴き方は――」
パラパラとめくる本の内容は『簡単!猫の飼い方』と書かれた本。
置いてあるほかの本に目を向けると、猫の躾や理想のお家など猫を飼うための本、ほかには簡単な料理に本や、どこかで何処かで見つけたのか仙術のものまである。
だがやはり。本棚においてある本全体を見ると、犬の飼い方、ハムスターの飼い方など生き物についての図鑑などの本が多かった。
(へぇ。この子……生き物がこんなに好きだったのね。
なんだかんだ言って、橙ちゃんを追い出さないのもそのせいね)
今まで知らなかった弟子の一面に、師匠が小さく微笑んだ。
なおも、図鑑を見ながら唸る善を見る。
(多分、橙ちゃんが来れば通訳は可能。通訳できるならそう焦る事はないわね。
しばらくこの子の様子を見るのも悪くはないわね)
余裕が出来た師匠は、この状況を楽しみ始める。
「あれ、静かになった……もういいのかな?」
急に静かになり、さらに余裕を見せ始めた猫の対して善が訝しがる。
「それにしても、あーあ。埃だらけだな……
ブラッシングするか?」
無遠慮に師匠を抱き上げ、小物入れに有った猫用の櫛(橙が持ち込んだ物)を手に取る。
「にゃー、なーお。にゃー(ブラッシングするなら丁寧にしなさいよ?)」
「あ、こいつ
何気ない動作で、善が猫の性別を確認する。
その瞬間!!!
「フシャァアアアア!!!」
「いでぇ!?」
猫の爪が善の目を狙いすましたかのように引っ掻いた!!
サッサッサ……
「にゃあ~」
猫を膝に抱いて座る。
善の顔はまるで碁盤の様に無数の線が刻まれており、わずかに涙目になっている。
「痛てて……まさか、急に引っ掻くなんて……」
顔の痛みを我慢しながら、なおも猫のブラッシングを続ける。
猫の毅然とした態度に、だんだんこちらがブラッシングをささせてもらっている様な気分になる。
「よしと……きれいになった。美人……って表現はおかしいか?美猫?」
うんうんうなりながら、埃が取れて綺麗になった猫を見て満足気にうなづく。
そして猫を再びベットに下ろす。
「さてと……始めるかな」
善が部屋を出ていき、少しした後にコップに入った水を持ってきた。
「(何をする気かしら?)」
興味を持った師匠が、善の手元を覗き見る。
善は自分の指を、コップの中に入れていた。
「ふぅ…………っ!」
善が息むと同時に、指をゆっくり引き抜く。
指の先で、水が歪な円の形でぶら下がっている。
「(へぇ、前見せた砂を動かす修業法を独自に発展させたのね……
この子って意外と努力家なのよね)」
ゆらゆらと尻尾を揺らし、善が何とか水球の形を変化させようとしているのを見る。
少々歪だが、丸、三角、四角を繰り返し、最後には球体から数本の突起が出たような形になる。それを何度も何度も作り続ける。
その時間凡そ3時間近く。
ずっと、重力に逆らい続け、気の力のみで形を作っている。
なかなかのスタミナと繊細さが必要な技術だ。
「ふぅ、だいぶ良くなった。もう少し形がきれいになったら師匠に見せれるな」
水をコップに戻し、満足気に頷いた。
「(へぇ、思ったより成長してるのね)」
その様子を見ていた師匠も小さく感嘆の声を上げる。
「んんっ、く~!」
背伸びをして、凝った体をほぐしながら善が立ち上がる。
「そろそろやるか……」
不安そうな顔をして、善が柱の近くへと歩み寄る。
そして自分の頭を壁につけ、その位置に傷をつける。
子供が、壁に自身の身長を刻むアレだ。
「どうだ!?……くっ!
せめて、170㎝を……」
壁の傷の位置を見て善が悔しそうな顔をする。
どうやら身長が伸び悩んでいる様だ。
「(馬鹿ねぇ、仙人は不老長寿。不老という事は、成長もしないという事なのに……
まぁ、まだ完全に仙人とは言えないから成長が緩やかになる程度ね)」
あくびをしながら、弟子の小さなコンプレックスを眺める。
その後も善は部屋でリラックスした時間を過ごす。
時折、猫姿の師匠に歩み寄り、話しかけたり体をなでたりする。
「よォしよし、お前はかわいいなぁ。橙さんは変になでると興奮するし、お燐さんはなかなか地上に出てこないんだよな~
……この子、飼っちゃダメかな?師匠に頼んでみようかな?」
独り言なのか、猫に話しているのか、猫のお腹や頭、のどを優しくなでる。
「ゴロゴロゴロ……(ん、意外と、なでるのうまいじゃない……)」
優しい善の手に、猫がのどを鳴らして甘えてくる。
師匠としても、いつもは見れない善の姿や、芳香にしか使っていなかった砕けた口調を受ける。
「んーんー」
遂には抱き寄せた猫の頭にほおずりする。
「ゴロゴロゴロ……(ちょっとくらい、いいわよね?わかりはしないんだし……)」
のどに当たる指が心地よくて、師匠は甘えた声を出してしまう。
「にゃぁ~」
遂にはすりすりと、猫が善に自身の額を押し付ける。
善はその様子を見て笑顔で応える。
「なぁ~お」
コロンと転がり、自身の腹を見せ善になでるように催促する。
善は無言で微笑んで、猫の腹に指を這わせた。
「にゃぁ~、ごろにゃぁ~ん!」
「よしよしよし……」
猫をひとしきり撫で終わると、次はちゃぶ台を片付け始めた。
「?」
もっと撫でてもらいたい猫は、不満げに立ち上がった善を見る。
「今日もこの時間が来たな……」
修業の時よりもなおも真剣な顔をする善。
突如、しゃがみこんで畳を平手で叩く!!
すると――
どういった仕組みかは分からないが、畳が立ち上がる様にして起き上がった!!
「寂しかったね~、俺のすてふぁにぃ」
ニヤける善の視線の先には、数冊の本が!!
どれもこれも、胸の大きな女性が挑発的なポーズを取っている。
零れんばかりの胸に善が喜び勇んでページをめくろうとする!!
「にー!」
「はっ!?」
すてふぁにぃに手を伸ばそうとすると、善を責めるような目で猫がこちらを睨んでいる!!
「ね、猫ちゃん?少しの間外に……」
その目に耐えかね、善が猫を部屋の外へと出そうと手を伸ばすが――
「フゥー!!」
「う、うわぁ!ご、ごめんなさい!!」
猫に威嚇され、すぐに畳をもとに戻す!!
力関係はこちらが上、何か具体的に言われた訳でもない。
しかし!!
善はなぜかこの猫に逆らってはいけないと本能的に理解した!!
「にゃ~……」
「も、もうしません……だから、許して……」
なおもにじり寄る猫に謝罪の言葉を投げかける。
「なんで善がねこに謝ってるんだ?」
その時扉を開けて姿を現した芳香に不審な目で見られる。
数時間後
「ごちそうさまー」
「ご馳走様」
「はい、お粗末様」
善と芳香さらには遊びに来た小傘の3人が手を合わせる。
不運なことに、今日は橙が遊びに来なかった。
「珍しいね、お師匠さんがいないなんて」
「んおー、どっか行ったみたいだー」
「まぁ、師匠ですし滅多な事はないと思いたいですけど……
小傘さん、皿洗いお願いできます?風呂を沸かしたいので」
「はいはーい、わちきにおまかせー」
頼られる事に喜びを覚えるのか、嬉しそうに走っていった。
「さ、次はお前の番だな?」
食事中もずっと膝にのせていた猫に、善が食事を与える。
「にゃぁー(仕方ないから、最後の手段を使うわ)」
少しだけ不満そうに猫が鳴く。
さらに数時間後――深夜
「(やっと、ね)」
みんなが寝静まった頃、善と同じベットで寝ていた猫が動き出す。
布団に潜り込み、善の右手を目指していく。
「(あった)」
善の右手、そこには過去に自分が気の放出のために切り取った傷がある。
5本の指それぞれが、指輪をしている様に細いラインの形の傷跡が残る。
猫はその指の傷跡に思い切り噛み付く!!
バチィ!!
突然の攻撃行為に、善の体が反射的に『気』と『抵抗する程度の力』による二重の防御を展開する!!
之こそが、師匠の狙っていた物!!
善の『抵抗する程度の力』は術などの一部に抵抗を与えることで狂わすことが出来る!!生物に使えば生物の体の正常な働きを歪め、機械に使えば一部を停止させ誤作動を起こさせ、術ならば一部を破壊し効力を消失させる!!
「ふぅ、やっと戻れたわ」
善の布団の中、元の姿に戻った師匠が小さく漏らす。
「さて、早く帰って――あ」
そんな時、自身が覆いかぶさっている善と
「し、師匠?なぜ、私の布団に?な、なぜ、全裸なんですか?」
目が覚めた善が震える!!そう、猫は服など着ない!!
当然、猫から戻った師匠の姿は全裸!!
悩ましいナイスバディが布団の中で善に密着する!!
「よ、夜這い……!?まさか、夜這いですか!?それとも、ウワサの房中術!?
い、一体いつから、ここはエロ同人次元になったんですか!?――――確かに師匠は美人だし正直いって好みドストライクですけど、年の差が14歳差どころか、14世紀差は流石にキツ――むぐ!?」
混乱する善の口を師匠が抑える。
「馬鹿ねぇ、これは夢よ?あなたの中に有る『お師匠様大好き!!人生のすべてを捨ててもいいから、にゃんにゃんしたい!!』という願望が形になっただけよ?
――――というわけで、お休みなさい!!」
一瞬だけ、安心させて師匠の手刀が善の意識をきれいに切り取った。
翌日
「う~ん?」
おいしそうな味噌汁の匂いで芳香が目を覚ます。
匂いに釣られ台所に行くと師匠が朝食の準備をしていた。
「あー!帰って来たのか!!」
師匠の姿を見た瞬間、芳香が嬉しそうに駆け寄る。
「あら芳香。昨日は急にいなくなってごめんなさいね?
今、ごはん作ってるからもう少し待ってね?」
「わかった~ところで、
芳香の指摘通り、台所の端に一匹の猫が袋から顔だけ出して縛られていた。
「うふ、かわいいでしょ?昨日拾ったのよ?」
何処なく、幸せが薄そうな猫を師匠は袋の中から取り出す。
何処にでもいる三毛猫なのだが、なぜか芳香には既視感があった。
「うふふ、この子ね?オスなのよ?オスの三毛猫はとっても珍しいのよ?」
ほら、見て。と上機嫌で師匠が猫の足を持つ。
「にゃ!?にゃ~!!にゃ~!!!」
突如慌てたように、猫が抵抗する。
しかし、当然仙人の力にかなう訳がない!!
「本当だ、オスだ~。珍しいんだな」
芳香がそう話すと、猫が恥ずかしそうに身をよじる。
「うふふ、後で妖怪の山の橙ちゃんの所に遊びに行きましょうか?
今、丁度発情期のメス猫がたくさんいるらしいのよね~」
師匠の言葉を聞いた猫が暴れ始める!!!
「フニャ!?なにゃー!!ニィィヤァ!!」
「おー?どうしたんだ、一体?」
「さぁ?『止めてください!!師匠!!』とでも言ってるんじゃないの?」
師匠は楽しそうに笑った。
ちなみに私は犬派です。犬派です!!重要なので2回!!