止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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さてと、今回も投稿です。
今回は、今までとは少し違う方法を試してみました。

少し馴染みが無いかもしれませんが、よろしくお願いします。


探索!!氷精の事件簿!!

皆さんどうも!こんにちは。

私の名前は詩堂(しどう) (ぜん)

偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。

 

目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!

毎日どんどん修業して、がんばって行きます。

 

……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……

けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……

俺は間違ってない……ハズ……

どうしよう、自信無くなってきた……

 

「あら~?私の修業が不満?」

 

「そんな事ありませんよ!!ははは!!」

 

さ、さぁ!気を取り直して今日も修業です!!

 

 

 

 

 

今日も今日とて邪仙とその弟子が潜む墓場。

昼間の墓場に、二つの声が高く響いた。

 

「うわぁん!!いやだぁああ!!」

 

「逃げるんじゃない!!こっちに来るんだ!!」

先を逃げるのは死体でキョンシーの宮古 芳香。

その後ろを追いかけるのは、弟子の詩堂 善。

善が芳香を遂に墓場の隅っこまで追い詰める!!

 

「ぜ、善、お願いだ。やめてくれ……」

 

「ダメだ、もう我慢できない。

溜まりまくってるんだよ!!

さぁ、脱げ。それとも俺が脱がした方がいいか?」

ギラギラとした目つきで芳香をさらに追い詰める!!

その瞳はまさに捕食者にして襲撃者!!

 

「そ、外でヤルのか!?それに、前やった時は、血が出て痛かったから嫌だ!!」

 

「あの時は、俺もまだ若かったからな……

大丈夫だぞ?今回は優しくしてやるからな?」

イヤイヤと首を振る芳香に善がゆっくりとにじり寄ってくる。

どうやら見逃がす気はサラサラ無いらしい。

 

「わ、分かった。けど、優しく、優しくしてほしい……ぞ?」

 

「勿論だ。さて、じゃ脱がすか」

遂に観念した芳香を見て善が二ヤリと笑みを浮かべた。

そして芳香の足を掴み、ポケットから()()()()()()()()()

 

「あうあう……」

恥ずかしそうにする芳香から、靴を脱がしてつま先を確認する。

 

「あー、ほらやっぱり!

こんなに爪垢がたまってる!!体が柔らかく成っても、やっぱりつま先は洗いにくいか?」

 

「まだ、そこまでは手が届かないー」

グイグイと手を伸ばして見せるが、芳香の手は自身の足首までしか届かない様だ。

 

「さて、爪を切るぞ?女の子のおしゃれは見えない所と足元からだからな?」

パチン、パチンと爪切りで芳香の伸びた爪を切っていく。

 

「うー……前は、痛かったぞぉ……」

 

「あー、それは悪かった。今度は深爪しない様に気を付けるからな?」

 

「わ、分かった……」

 

 

 

数分後……

 

「よし、きれいにできたぞ」

 

「おー、すっきりだー」

短く切り揃えられた足の爪を見て、芳香が喜ぶ。

 

「あなた達の会話って、別の意味に聞こえるわよね」

いつの間にか後ろに立っていた師匠がため息を付きながらそう言った。

 

「そうですか?師匠の心が汚れているからじゃないですか?」

 

「この未熟者、それがお師匠様に対する態度ですか!!」

師匠が善の後頭部を殴る!!

 

「イッテェ!?」

殴られた頭を善が涙目に成りながら撫でる。

 

「ふん、今日は折角の芳香とのお出かけだからこの程度で許してあげるわ。

善は先に人里の入り口で待ってなさい。少ししたら芳香を向かわせるから」

 

「え、なんで態々そんな事を?

普通に二人で行けばいいじゃないですか!!」

 

「ぜ~ん?女の子には準備に時間が掛かるものなのよ?

そこを察してあげるのが、男ってものよ?

さ、芳香。行きましょ」

 

「わかったー」

師匠が芳香を伴って、家の方へと帰っていく。

どうも釈然としないが、そう言うモノだと自分を納得させて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、暇だなー」

霧の湖の水面の上、氷精が氷で作ったボートの上で寝転がり暇そうに足をぶらぶらする。

青いワンピースに、氷の塊で出来た6枚の羽根、気の強そうな顔をして頭には真っ赤なリボンが結んである。

彼女の名はチルノ。

氷の妖精である。

 

「大ちゃんも居ないし、カエル凍らせるのも飽きたし……

面白い事ないかなー?」

 

氷の塊を作り、適当に湖に投げ込んで遊ぶ。

投げた氷の塊が光を反射して、一瞬だけ自分ではない誰かを映した。

 

「あ!善だ!!」

湖のほとりを歩く男にチルノは見覚えがあった。

相変わらずザコっぽい顔をして首に何か巻いている。

彼を見た瞬間、チルノの中では彼と遊んでもらう事が半場無条件に確定した。

勢いよく立ち上がり、彼の方へと飛んでいく!!

 

「おーい!ひさしぶりー!!サイキョーのアタイが遊んであげるわ!

こーえーに思いなさいよね!!」

久しぶりに会う彼は以前よりも少し成長して見えた。

飛んできたチルノに驚き彼は大きく口を開けた。

その様子が面白くて、チルノはさらに加速してグルグル彼の周囲を飛ぶ!!

 

「ふっふっふ……アタイのサイキョーの加速はどう――うえっぷ!?気持ち悪い……」

少し調子に乗って飛び過ぎた様で、チルノが気持ち悪く成ってへたり込む。

 

「え?うん、だいじょーぶだよ?アタイ、サイキョーだモン!!」

心配する男に対して、胸を張って見せる。

その様子が微笑ましかったのか、男が小さく笑いかけた。

 

「もう、笑うなー!!それより、アタイと遊んで遊んで!!

今日は大ちゃんも居なくて暇なんだ」

それに対して男が申訳なさそうに口を開いた。

 

「えー!?人里でやる事が有るの?

それってアタイより大事な事なの?」

躊躇しながらも彼は首を縦に振った。

 

「うーん、分かった。ソイツを見つければイイんでしょ?

ならアタイも手伝う!!チルノ探偵始めるよ!!アタイが探せば一発ね!」

どうあっても付いてくる気らしい。

その事に気が付いた男はやれやれと、肩を上げるとチルノを伴って人里へ向かいだした。

 

 

 

 

 

「おー、賑わってるー。早速探すよ!

むむむ!アタイの勘じゃ、あそこが怪しいわね!」

そう言ってチルノが指さすのは人の集まる甘味処。

それと時を同じくしてくぅ~と小さくチルノのお腹が鳴る。

 

「違うわよ!そうじゃないって!アタイは別にお腹が空いてなんか……

え?お腹が空いてるのは自分の方?

へ、へぇ、一人時じゃ寂しいならしょうがないわね!

一人で入れないアナタの為について行ってあげるわ!!」

そう言って嬉しそうにチルノが甘味処まで飛んでいく。

その後を男が苦笑しながらついて行く。

 

 

 

「おかわり!!ん?なによー、別にこれ位じゃ太ったりなんかしないわよ!!

え?コレで最後?うー、分かった。

そうだよね、まだ探してる人見つかってないもんね……」

男に言葉にすごすごとチルノが今ある中では最後の団子を口に入れる。

にこやかな顔をしたままお会計をして二人が出ていく。

甘味処の女将さんが上機嫌で最後の団子をサービスしてくれた。

 

「お土産?へー、美味しい物を買ってきてって頼まれてるんだ。

他にもいろいろやってるの?ふん、ふん、ふん、ふん……

…………へぇー、なんか大変そう……

ねね、嫌なら止めちゃえば?アタイが面倒見るよ?

大ちゃんもきっと受け入れてくれるよ?」

チルノの誘いに男が首を横に振るう。

その瞬間チルノが露骨なまでに残念そうな顔になる。

さっきまでの元気な姿が、あっさりと霧散してしまった。

 

「うわ!?やめろー!サイキョーのアタイの頭をなーでーるーな!!

え?元気が出ただろうって?

ふ、ふん!!アタイはいつでもサイキョーに元気に決まってるわ!!」

意図しないタイミングで励まされたチルノは、ごまかす様に立ち上がり店の外に出る。

その様子をみた男が、会計を澄まし店の外へ出る。

 

「さてと、チルノ探偵活動再開よ、アタイの頭脳によれば次は――」

チルノがキョロキョロとあたりを見回し、妖怪の山の方を指さす。

 

「アッチね!アタイの脳細胞がピンピンしてるわ!!

さぁ、一緒に付いてきな――え?」

自身満々に男が今度は別の行先を伝える。

 

「へ?ハクレイ神社に行くの?なんで?

へー、そっちの方で探してる子を見たって人が居るって聞いた?

……アタイの次位にさいきょーね!!じゃあ特別に私の子分にしてやるわ!感謝しなさい!」

指を突きつけ、男にそう宣誓するチルノ。

男はその言葉に思わず吹き出してしまった。

 

「な、笑うなー!!そうよ、私はアンタの親分だから偉いんだから!

子分はサイキョーの親分に黙って付いてきなさい。

さ、チルノ探偵とその子分でまた調査再開よ!!」

チルノに導かれる様にして、男が再び歩き始めた。

 

「んじゃあ――うわっと!?」

何かが飛んで来てチルノを突き飛ばす。

すぐさま男がチルノを抱き上げて回避させたお陰で、無事だったが。

気が付くと、人だかりが出来てた。

その中心には、二人の男と怒声が響いている。

どうやら喧嘩の様だ。

 

「やっちまえ!!」

 

「そこだ!!いけぇ!!」

更にタイミングの悪い事に、周囲に居る酔った男達が当事者たちを焚きつけている。

実はコレは非常に危険な状況。

折れるに折れれなくなった、当事者たちがヤジを受けてヒートアップしてしまっている危険な状況なのだ。

 

「わぁー!喧嘩だ!!見てこうよ!!」

見た目より血気盛んなのか、面白そうに喧嘩をする男達を見ている。

 

「だぁらぁ!!」

 

「グフッ!?やりゃがったな!!」

片方の男の拳が、鼻に当たり鼻血を流す。

遂に起きる流血騒動に、更に周囲の観客がヒートアップする!!

完全な悪循環だ。

このままでは、どちらかか、または両方が大ケガをすることに成るだろう。

 

「あ”?」

 

「なんだ?」

 

チルノに小さく告げて、男が二人の間に立つ。

突然の闖入者に、当人だけでなく周囲も一瞬止まる。

 

「やっちまえ!!」

 

「そうだ!そうだ!!」

だがそれも一瞬、ヤジにより二人組が共通の敵として侵入した男に狙いを定める!!

 

「この――うを!?」

 

「はぇ――!?」

両人の腕を掴んだと思った瞬間、二人仲良く地面に倒れる。

本当に一瞬の事で、何が起きたか分かる者などいなかったろう。

 

「あ、」

 

「う」

倒れる二人に落ち着かせる様に、胸を優しくポンポンと叩く。

すると、急に二人とも穏やかになり、そそくさとその場から帰って行った。

あれだけ有った熱気が霧散してしまったのだ。

その様子を見た、人込みも同じくバラバラに帰って行った。

 

「あー!!やっと見つけた!!」

人込みをかき分ける様に、アメリカ国旗を思わせる非常に派手はデザインの妖精が姿を現す。

独特な形のピエロの様な帽子に手に火のついた松明を持っている。

 

「コイツが探していたヤツ?」

チルノの問いに対して男が頷く。

それに対して奇妙な恰好の妖精がジロリと二人を睨んだ。

 

「一体今までどこに行ってたの?勝手にどっか行くなってご主人様に言われて――

はぁ?迷った?それで助けてもらったって?ごしゅうじんは変な所で抜けてるからな~

まぁいいや。さてと、じゃさっさと永遠亭に居るご友人様を迎えに行こうか?

久しぶりの外は楽しかった?」

 

妖精の言葉に、今日有った事を楽し気に語りだす男。

まるで遠足前の小学生みたいなリアクションに松明を持った妖精がヤレヤレと肩をすくめる。

 

「じゃ、早く行こうか?あー、里中探しちゃったよ……」

今度は別の妖精に連れられて男が歩き出す。

最後にチルノに振り返って小さく「ありがとう」と口に出した。

 

「ばいばーい、ちぇ。また暇に成っちゃった~」

再び一人に成ったチルノが何か無いかと、再び面白い物を探し始める。

 

「チルノちゃん……」

 

「あ!大ちゃーん!」

人込みの中、今度は自身の友人の大妖精を見つけてチルノが上機嫌になる。

しかし大妖精の表情は晴れない様だ。

 

「ねぇ、チルノちゃん。今の人、誰?」

 

「えー?大ちゃんもう忘れたの?善だよ、少し前まで世話してあげてたじゃん」

 

「チルノちゃん。今の人、詩堂さんじゃないよ?よく似てるけど、詩堂さんはもっと身長も低いし、見た目も子供だよ?あの人はそれより少しだけ、年上じゃないかな?」

 

「そうなんだ!アタイちっともわかんなかった!!」

アハハと大妖精の前で笑うチルノ。

彼女にとっては暇が潰れればそれで良いらしい。

大妖精はそんなチルノを心配そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巻末付属 ~『罪と罰と償いと願い』~

 

 

 

魂は必ず裁かれる。

魂は絶えず輪廻を繰り返す。

それを決めるのは閻魔の仕事だ。

そんな閻魔の前に今日も一人の男の魂が現れる。

 

コーン……!

 コーン……!

  コーン……!

 

「よく来た罪人よ。人は生きる間に必ず罪を犯す。

その罪を暴き、罰を与えるのが私の仕事だ。

この鏡にお前の生前の善行悪行全てが映る、嘘は言わぬことだ。それだけ罪が重くなる」

大柄な、まさに閻魔!と言いたくなるような大男が、裁判台の様な物を木槌の様な物で叩く。

 

「では裁きを与えよう。

お主は生前、親の願いを受け取り多大な努力をした様だな。

晴れて極楽行だ!!……とはならない。

確かにお前の行為は素晴らしい物だ、だがお主は自身の親より先に死んでいる!!

コレはゆるされない事だ、なぜなら息子のお前が親より先に死ぬという事は、親の葬儀を上げれないという事!

親の葬儀を上げんなど許されん!!それだけではない。

お主の死因、子供を助けて轢死とのことだが、コレは自罰的な部分が目立つ。

自死も同じく大罪だ!!だが、先も言った様にお主は、他者に与えた良い部分もかなり多い、その結果として、地獄で100年の拘束後に人への輪廻とする!!」

地獄で100年の拘束。コレは罰の中でも非常に緩い物となっている。

通常なら地獄で責め苦を1000年というのもザラだが、今回は拘束のみで刑罰も無い。こんな事になる人間は非常に稀だ。

 

「んん?不服そうだな?何か、申し開きが有るか?」

閻魔がその男に話しかける。

そしてこの時やっと男が口を開いた。

 

「ダメです、足りません!!それっぽっちの罰じゃ俺の心が納得しない!!

もっと、もっと重い罰を求刑します!!俺はそれだけで許されるべきじゃない!!」

男の言葉に裁判会場がどよめいた。

減刑を求める者は大勢いたが、自ら罰を求める者はやはり非常に稀だった。

いや、初めてかもしれない。

その異常な事態に、閻魔さらには閻魔補佐までもが騒めく。

 

「ダメだ。罰とは、過不足は有ってはいかん!!

重すぎる罰も、軽すぎる罰もあってはならん!!

貴様の罪は――」

 

「あらん?別にいいじゃない?」

閻魔の言葉に、別の声――ここには不釣り合いな位の非常に軽い声が響く。

 

「あ、貴女は――!!なぜ、こんな所に!?」

 

「たまーに裁判って見たくなるのよね。しかも珍しい魂なら尚更ね」

傍聴席から歩み寄ってきたその女はひどくラフな格好をしていた。

赤青黄のチェックのスカートに、黒いシャツに「Welcome Hell」と書いてある。

此処が地獄だとして、ずいぶん悪趣味なジョークだ。

だが、頭の上に真っ赤な球体が乗っており、首に掛かるチョーカーからも二つそれぞれ青と黄色の球体が浮いている。

 

「ハイセンスだ……」

罪人が密かに彼女のファッションを見てつぶやく。

現世ではあの様な服を好んで買っていたが、両親、さらには弟から必死に止められた為、家の中でしかしたことの無い恰好だった。

 

「貴方、罰が欲しいのよね?」

いつの間にか目の前に現れた女が、こちらの瞳をじっと見ている。

 

「いいわ、なら私が地獄の女神として直々に罰を上げましょう。

死神に成りなさい、魂を奪う死神に……

生者から無情に命を奪い、汚れ仕事と後ろ指を射され、ひたすら他者の死を眺め続ける仕事よ?どう?満足かしら?貴方にこの仕事こなせるかしら?」

 

「完遂して見せましょう。

『完善』で在れ何よりも、『善良』で在れ誰よりも。

それが私が両親からもらった願いですから」

 

「うふふふ、良いわ、実にいいわ。

来なさい、純狐やクラウンピースに貴方を紹介しなくちゃね?」

こうして新しい死神が一人誕生した。

 




まさかのあのキャラ。
けどたぶんあんまりでない予感。

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