止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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いろいろ時間が掛かった今回。
懐かしのあのキャラが再登場です。


浸食!!静かなる狂気!!

皆さんどうも!こんにちは。

私の名前は詩堂(しどう) (ぜん)

偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。

 

目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!

毎日どんどん修業して、がんばって行きます。

 

……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……

けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……

俺は間違ってない……ハズ……

どうしよう、自信無くなってきた……

 

「あら~?私の修業が不満?」

 

「そんな事ありませんよ!!ははは!!」

 

さ、さぁ!気を取り直して今日も修業です!!

 

 

 

 

 

師匠の手渡した拳大の石を、善が自身の両手で包みこむ様に持つ。

自身の気と抵抗する程度の力を混ぜ合わせ、石に這わせていく。

 

ピシッ……パリッ……

 

小さな音を立てながら、次第に自身の手の中の石が形を失っていくのを感じる。

指の間から小さく砕かれ石から砂に成ったモノが、サラサラと落ちていく。

 

「いいわね。ええ、威力は申し分ないわ」

地面に落ちた石だった砂を見て、師匠が嬉しそうにつぶやく。

 

「仙気と能力の同時使用での攻撃は文句無しね」

珍しい師匠の誉め言葉に、善の頬が僅かに緩む。

しかし師匠がそれを目ざとく見つけ釘をさす。

 

「何時も言ってるけど、調子に乗ってはダメよ?

あくまで今のは、防御を考えない相手の話。

しっかり防御した相手はそうはいかないわ、破ってごらんなさい?」

足元に落ちていた落ち葉を師匠が拾い、それに自身の気を纏わせ、善に渡した。

 

「んっ、んん……」

たかが落ち葉、さっきの石よりずっと脆いハズのもの。

しかし、破ろうにもなかなか破る事が出来ない!!

 

「はぁああ!!」

 

ビリッ!

 

全力の力を込めて、やっと落ち葉を破る事に成功した。

破れたのだが、やはり師匠の力にはまだかなわないらしい。

 

「落ち込まなくていいのよ。現段階はさっきのでもう十分だから。

さてと、そろそろ『弾幕』を教えてあげましょうね?」

 

「本当ですか!?」

師匠の言葉に善が喜ぶ。

チルノや大ちゃん、更には妖夢など過去に数人の弾幕を見ていた善にはその美しさそして技術の高さは憧れの的だった。

それを手ほどきしてもらえると言われては、興奮しない訳は無かった!!

 

「うふふ、そんなにはしゃいじゃって……まるで子供みたいね。

けど、弾の生成よりまずコントロールから。

これを持ちなさい」

 

「ん?紙ですか?」

師匠が取り出したのは習字などに使う紙、墨で渦巻きの様な模様が書かれている。

当然だが、弾幕と関係が有る様には思えない。

 

「こうするのよ?」

師匠は足元に落ちていたさっきの砂を手にして、渦巻きの書かれた習字紙の上に落とす。

そして端を持って、自身の気を流した。

 

「お、おお!!」

師匠の手の中、バラバラだった砂が動き出して渦巻きをなぞる様に並ぶ。

 

「気を使って砂を動かしたのよ?そして次は持続する事、こんなふうに」

師匠はその紙を横にした、普通は重力に沿って砂は地面に落ちるハズだが尚も紙の上の砂は形を保ったままだ。

 

「最初は簡単な形でいいわ、だんだんと複雑な形に変えていくの」

パンと指先で、師匠が紙を叩くと砂が動き出し、善の顔へと変わっていく。

特徴が上手くとらえられている名作だ。

なぜか、うずくまり誰かに蹴られて、恍惚の表情を浮かべているが……

 

「じゃ始めなさい」

師匠に渡された瞬間、砂が形を失いざっと崩れる。

 

「はい、師匠」

善は勢いよく、砂に気を流し始めた。

力む善を見て師匠は小さく笑い、家の中へ戻って行った。

今日は珍しく、マミゾウの仕事も無い。

まだ返すべき借金が有るが、何とかなるレベルまでやっと落ち着いた。

一時期は本当にやばく、マミゾウに――――

「お主そう言えば、前おなごの姿があったのぉ?それをちょっと利用して働かんか?かわいいドレスを着て、男と酒を飲みながらお話するだけじゃぞ?」

と非常にグレーな仕事を持ちかけられた事もあった。

勿論善は全力を持って回避したが……

 

 

「ん、難しい……けど、弾幕の為だ、もう少し――」

 

「弾幕が見たいのか?」

 

「見たいというよりやってみたい。という気分で――す?」

突如後ろから響いた声、師匠の物ではない。芳香の物でも小傘でも橙でもない。

知的な、年上の落ち着いた声だった。

 

「あ、こ、こんにちは、藍さん……」

声の主は八雲 藍。

橙の主で、非常に優秀なのだが橙が好きすぎるという少々困った性格をしている。

そんな藍は当然、橙に気に入られている善が好きな訳はなく――

 

「やぁ、詩堂。橙を探して来たんだが、居ない様だな。

私はすごーく忙しいんだが……何時も橙が世話に成ってるからな。

特別に私の弾幕を見せてあげような」

そう言って、穏やかな声音のまま懐から数枚のカードを取り出す。

 

「あ、あわわわわ……」

 

「さぁ、詩堂――――――死ぬがよい!!」

ケモノの獰猛な笑みを浮かべ藍が飛ぶ!!

 

 

 

 

 

「♪~~♪~~♪」

橙が鼻歌を歌いながら橙が墓場を歩く。

今日は善の膝で昼寝をする予定だ。

善は結局詰が甘く、黒猫姿ならあまり抵抗なく膝に乗せてくれることを最近橙は気づいていた。

 

「お得意の能力はどぉしたぁ!?もっと抵抗しても良いんだぞぉ!?」

橙の前から必死に走ってくるのは、目的の少年!!

そしてその後ろを走るのは、光弾を発射し続ける修羅の様な顔をした妖怪!!

 

「善さん!?藍しゃま!?」

 

「橙さん!!良い所に!!藍さんを説得してください!!」

走りながら橙を抱き上げる善。

しかし、どう見ても我を失っている主の様子に橙は震えあがる!!

 

「橙……ちぇん………ちぇぇぇぇぇぇん……こっちにおいでぇ?

さぁ、そんな変態の所からこっちにおいでぇ?」

精一杯の笑顔を向ける藍、しかしその笑顔はどう見ても正気には見えない!!

橙が震えあがった!!

 

「むりむりむり!!あんなの説得できません!!」

 

「あー、もう仕方ない!!切札を使うか!!」

善は自身の服の胸ポケットに手を伸ばした。

そして――

 

「藍さん!!これを受けてみろ!!」

その何かを藍の後ろに投擲した、それは薄茶色で四角くて柔らかそうな見た目をしていた。

しかしそれは藍に向かわず明後日の方向へ飛んでいく!!

 

「ハッ!何かは知らないが無駄な策を――――ッ!?」

バカにする藍、しかし善の投擲した物を見て彼女の体が止まる。

 

「あれは――」

藍の獣の嗅覚がアレが何かを伝える。

アレは、アレは――

 

「油揚げ……油揚げ!!」

藍の好物油揚げ!!しかもこの距離からでも解る、色、艶、香!!

間違いなく最高級品だ!!

 

「ふん、馬鹿め!!私がそんなモノに心を奪われるハズ――」

藍の視界の端、油揚げが遂に重力に捕まり地面に落ち始める。

 

「あっ……」

藍が無意識に声を出す。

落ちてしまう。

油揚げが、美味しく食べて貰える様に職人が丹精込めて作った油揚げが、地面に落ち、砂にまみれて汚れ、笑顔を齎すハズのソレがゴミに成ってしまう。

 

自分が救わないと、救わないといけない!!

藍の胸の内に油揚げが助けを求めている気がした。

 

『藍さまー、ボクを助けてー』←幻聴。

 

「待ってろ油揚げぇ!!」

藍の全身の筋肉が一瞬にして縮まる!!

足の筋力を使い、地面を蹴る!!

そして全速で跳ぶ!!

 

50cm、30cm、10cm……油揚げが地面に触れる!!

 

「うをぉぉぉぉぉ!!と、どけぇぇ!!!」

地面をスライディングする藍!!

倒れこむ自身の伸ばした右手には――

 

「油揚げ!!良かった!!」

黄金色に輝く油揚げが。

藍はその油揚げを優しく抱きしめた。

世界はその瞬間藍と油揚げだけのモノに成った。

 

 

 

「ナニアレ?」

善に抱き抱えられながら、橙が油揚げに頬ずりする自身の主人を見る。

何というか、顔面が油まみれで非常に汚い。

 

「く、そぉ!!一か八かだ!!」

放った弾幕に追い詰められた善が、飛び上がる!!

藍の弾幕に当たる瞬間!!

抵抗する力を足に集め光弾を蹴とばし、空へ跳ぶ!!

 

「で、出来た!!出来たぞ!!ふははは!!ザマァ見ろ!!」

興奮気味に話す善、藍の残した光弾を足場に墓場から逃げ去って行く!!

 

 

 

 

 

「ふぅ、此処までくれば……」

人里から少し離れた場所。

善が休憩をし始める。

 

「それ、何をしてるんですか?」

 

「修業ですよ……」

善が習字紙の上に砂を蒔いて握っている。

たぶん彼の師匠から言いつけれれた修業なのだろうが、橙にはよくわからなかった。

 

「あー、詩堂君!詩堂君だよね!!」

今度は快活な声が聞こえ、善の手をその声の主が握る。

橙はこの相手を何度か見た覚えがある。

だが、名前が思い出せない誰だったか?

 

「穣子様?お久しぶりです」

善が相手の女相手に頭を下げる。

そうだ、確か妖怪の山の余り有名でない方の神様だ。と橙は一人納得した。

 

「どうしたもこうしたも無いよ!!ちょっと、詩堂君?

この前、ねぇさんに迂闊な事言わなかった?」

眉を吊り上げ、穣子が責める様な口調で話す。

 

「迂闊な事?私が帰ってきた時に会ったきりですけど――」

 

「その時だよ!!覚えてないだろうけど君、確かに私たちに『今度参拝に行きますね』って言ったんだよ!?」

 

「言われてみれば、言った様な?」

自身のあやふやな記憶を手繰り寄せながら善がつぶやいた。

 

「ねぇさんすっかりその気に成っちゃって……

毎日私に『ねぇ、穣子ちゃん。今日、詩堂君遊びに来るよね』ってずっと聞いてくるんだよ!?」

必死な様子で話す穣子!!

確かに毎日、そんな事言われたら精神が病んで来るだろう。

 

「それは、悪い事しちゃったなぁ……今度また行って――」

 

「ダメ!!今、今すぐ来て!!じゃないと、私が危ないの!!」

必死の形相で穣子が善の腕を引っ張る。

実はこれには訳があった。

それはついさっきの事――

 

 

 

「ねぇ、穣子ちゃん。詩堂君今日は来てくれるかな?」

 

「ねぇさん……きっと仙人の修業で忙しんだよ。

まったく、そろそろ私達の季節だってのに、だーれも来やしないんだから」

静葉の言葉に、いつもの様にあしらいながら話題を逸らす穣子。

だがその日は少しだけ違った。

 

「ねぇ、穣子ちゃん。詩堂君、一大事に成ったら来てくれるかな?」

静葉のぞくっとする様な声を聴いて穣子が固まる!!

今までかなり長く一緒に居たが、こんな声初めてかもしれない。

 

「ね、ねぇさん?何持ってるの?」

 

「え、畑を耕す鍬だよ?」

穣子が指摘するように、静葉の手には鍬を持っていた。

 

「ねぇ、穣子ちゃん。詩堂君、一大事が起きたら来てくれるかな?」

濁った様な目でこちらを見ている、ゆっくりゆっくり鍬を持ち上げながらこっちに迫ってくる!!

危ない!!穣子の全神経がそう判断する!!

殺られる。少なくともあの鍬で土以外の物を耕される。

 

「い、今からちょっと呼んで来るね!!」

穣子は慌てて社を飛び出して走って行った!!

 

 

 

 

 

「病んでない?静葉様病んでない?」

ガクガクと震えながら善がつぶやく。

相手は神様、そんな相手が病んでるとかもはや恐怖以外何もない。

 

「ちゃんと信仰さえすれば……命だけは」

 

「命だけは!?命以外取られるかもしれないんですか!?」

思ったより危険な状態に善が戦慄する!!

 

「嫌だなー、私達は戦の神とは違うんだよ?

大丈夫、だって。きっと、ねぇさんの管理下で半永久的に畑を耕す事になるだけだって!」

 

「強制労働+拉致監禁じゃないですか!?ばぁちゃんの所の方がずっと良心的ですよ!?

兎に角く、今は修業が忙しいので――」

 

「詩堂君、まだ逃げれると思ってる?」

底冷えする様な穣子の言葉に善が固まる。

嫌な予感がする、そしてその嫌な予感程善は良く当たる。

 

「詩堂君って、ねぇさんの落ち葉まだ持ってるよね?」

静葉の落ち葉、それは善が初めて静葉に逢った時もらった彼女が紅葉させた葉っぱ。

渇いているのに、決して枯ず鮮やかな色をした落ち葉。

神通力が込められているらしく、善が外界に帰った時師匠は善が持って行ったこの葉っぱの神の気を追って善を探したらしい。

 

「持ってますけど……」

 

「うん、その落ち葉の気。込めた本人のねぇさんからすれば、どこに居ても丸わかりなんだよね~。

あ、いまさら捨ててももう遅いよ?きっと君にはもう、ねぇさんの気が染みついてるから」

あっけらかんと言う穣子。

その突然の言葉にゾクリと背中に嫌な物が這う気がした。

 

「君のお師匠様が探したように、ねぇさんも同じ事が出来るんだけど……

ねぇ、詩堂君。ねぇさんの癇癪が爆発しない内に逢いに行ってくれないかな?」

ここまで言われてはもう選択肢は無い。

善は無言で頷いた。

 

 

 

 

 

「詩堂君来てくれたんだぁ」

静葉が嬉しそうに飛び跳ねる。

穣子曰く非常に危険だったらしいが、そんな風には見えない。

今改めて、心の内が分からないって怖い事だなーと善が思う。

 

「危ないから、少し下がっていてくださいね」

ザックザックと善が秋姉妹の社の横にある畑を鍬で耕す。

場合によってはコレが自分に振り下ろされたかと思うと、何とも言えない気分になる。

 

「みんなー、がんばってねー」

 

「にー」「な”-」「ごろー」

その隣では橙指導のもと、猫たちが作物の種を耕した地面に埋めていく。

第一波のネコが善の耕した土を盛り、第二波のネコがそこに穴をあける、そして第三波のネコが種を埋めていく。

何というか非常にシュールな絵だ。

 

「穣子ちゃん、今年は沢山人が来てくれたね」

 

「そ、そうだね。ねぇさん……」

例年よりずっと多い参拝に静葉がウキウキ気分で穣子に話す。

何というか、人間は善一人だしその他は妖怪のネコが一匹、それ以外の参拝客が全てネコという非常に高いネコ率を誇るのだが、そんな事静葉には関係がないらしい。

 

「善君、葉っぱいつも大事にしてくれてありがとうね」

華が開く様な静葉の笑顔、とってもきれいなハズなのに善の心に再びゾクリとした冷たさが走った。

 

 

 

 

 

「あらあらあら……善ったら、修業をほっぽってどこに行ってるのかしら~

お師匠様の放っておくなんて……コレはすこーし厳しめの罰が必要ね?」

墓の真ん中、善の様子をみた師匠が、笑顔のままつぶやく。

此方も一見笑顔。しかし善が見たら即座に土下座して許しを請う笑顔!!

 

「さぁ~て、今日の折檻は何にしようかしら?」

まるで今夜の献立を決める様な口調で師匠の顔が嗜虐的に歪んだ!!

どっちにせよ、善に平和なエンドは訪れない!!

 

 

 

 

 

おまけコーナー!!「今日の優曇華院」

 

「あー、帰りたい……」

邪帝皇の潜伏するという墓場に鈴仙は一人来ていた。

目的は決まっている。

姫がなぜか気に入った邪帝皇を永遠亭に呼ぶためだ。

鈴仙は全力で反対したいが、その意見は聞きいれてもらえない!!

姫の意見は絶対なのだ!!

 

「!!」

何者かの気配を感じる鈴仙!!

咄嗟に波長を読もうとするが、止める。

邪帝皇は不可視の力を使う、波長を見るのは無意味だとあきらめたのだ。

 

「待ってろ油揚げぇ!!」

何かが鈴仙の横を高速で通り過ぎる!!

その何かはすさまじい威力の弾幕をばら撒いて走る!!

 

「え、ちょ!?」

 

バァん!!

 

鈴仙の顔面にその何かがばら撒いた弾幕がヒットする!!

 

「で、出来た!!出来たぞ!!ふははは!!ザマァ見ろ!!」

意識を失う瞬間、何処かで邪帝皇が笑う声がした。

 

(なるほど……この前顔面を撃った意趣返し……ね)

混乱が一周回って、冷静に成った鈴仙が気絶した。

*この後めちゃくちゃ折檻された。




そろそろ本格的にチルノを出したいと考えるこの頃。
別に現実世界で寒さを感じたからではないですよ?

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