という事は鈴仙が出ます。
端的に言うと今回も鈴仙はひどい目に合うので、鈴仙ファンの方は注意してください。
皆さんどうも!こんにちは。
私の名前は
偉大で優秀なお師匠様の元で、仙人目指して日夜修業中です。
目標はまだまだ遠いけど、千里の道も一歩から!!
毎日どんどん修業して、がんばって行きます。
……うん、別に底なし沼にダイブした訳じゃないよな……
けど、もう戻れないんだよな……だ、大丈夫、うん、そう……たぶん、きっと……
俺は間違ってない……ハズ……
どうしよう、自信無くなってきた……
「あら~?私の修業が不満?」
「そんな事ありませんよ!!ははは!!」
さ、さぁ!気を取り直して今日も修業です!!
永遠亭の玄関口で絶世の美女が心配そうに頬に手を当て、自身の弟子を見送る。
その視線の先では、大きな薬箱を背負って男性の様な恰好をした鈴仙・優曇華院・イナバが草履の紐を結んでいた。
「優曇華院、本当に大丈夫なの?」
「もう、大丈夫ですよ。私だっていつまでも休んでられませんから」
おそらく鈴仙は無理をして笑っているのだろう。
彼女の薬師としての師匠である、八意 永琳はその事を理解していた。
(歯痒いわね……)
鈴仙の笑みをみて、心の中で小さく永琳が爪を噛む。
彼女のトラウマを記憶毎埋めてしまうのは楽だ、しかし決して鈴仙はそれを望まない。
彼女は彼女なりに歩んでいるのだ。
無理をせず待ってあげるのが、自分に出来る唯一のことだと永琳は理解している。
「心配しないでくださいね?もう、この通り元気なんですから!!
それよか、今度会った時はむしろ私が退治して見せます!!
邪帝皇だろうか、何だろうと私の力で一発――」
ガラッ!
「すいませーん、二ッ岩組の者なんですがー」
「ひぐぅ!?」
玄関口から現れた男の姿を見て鈴仙が小さく悲鳴を上げる!!
その男は間違いなく邪帝皇!!何度も何度も鈴仙にトラウマを植え付けた最悪最凶の男!!
その男が今、自分の目の前にいる。
しかもただいる訳ではない、自分は師匠である永琳と話す為に玄関口に背を向けている。そして邪帝皇は玄関から堂々と侵入した。
つまり!鈴仙は邪帝皇に無防備な背中を超至近距離で丸出しにしている事に成る!!
絶望的な状況!!しかしそれでも鈴仙はあきらめない!!
突発的に男の方へ向き直り、後ろにバックステップをする。
(この距離は危険!ならば、敵の攻撃範囲から離脱する!!)
鈴仙の選択は正しい。しかしこの場に置いては例外だった。
彼女の恰好は薬を売る為の変装スタイル、要するに背中に重い薬箱を抱えているそして草鞋の紐を結んでいる最中。
要約すれば、背中に重し、足元は不安定、そんな状況で碌に確認もせず後ろへジャンプすれば結果はもう見えている。
グラッ――
「あッ!?」
玄関にある段差に足を取られる鈴仙。
自身が転んでいる事はわかるが、『なぜ』転んでいるのかまでは理解できなかった!!
(まさか、コレが噂の不可視の攻撃!?私の目を持ってしても、見えないの!?)
慌てる鈴仙、しかし彼女にはもう一つ不幸があった。
それは、目の前の少年が転びそうな女の子が居たら、手を差し伸べる程度には親切だった事。
「危ない!!」
目の前の少年、善が鈴仙を助けようと咄嗟に右手を鈴仙に差し出す!!
親切心からの行動、しかし恐怖にかられる鈴仙にはそんな事は分からない!!
今の鈴仙に善の姿は――謎の攻撃で足を奪いバランスを崩した自分にトドメを刺そうとしているようにしか見えていない!!
グシャ!パリィ!
背中の薬箱の薬が、鈴仙のジャンプ後の落下の勢いで割れる。
そしてその薬の割れる衝撃は、目の前の手をこちらに伸ばす善の姿と結び付けられイコールで結ばれる!!
(何か、?!され――痛ッ!?)
最後に鈴仙が思いっきり、床に自分で頭を叩きつけて気を失った。
ゴチン!!
「え……?」
「ん……?」
善と永琳二人の声が重なる。
この二人にとって今の光景は、善が扉を開けたらなぜか鈴仙が後ろにジャンプして、勝手にバランスを崩して、廊下の床に後頭部を打ち付けて意識を失った様にしか見えた居ない。
鈴仙の受けた恐怖をこの二人は全く理解できていないのだ。
「えっと……大丈夫ですか?……おーい、鈴仙さーん?」
心配そうに、善が倒れて気絶する鈴仙を頬を優しく叩く。
「一体どうしたのかしら?まぁ、いいわ。それより注文してた物よね?料金は先払いしてあるから受け取りのサインで構わないかしら?」
一瞬だけ心配したそぶりを見せた、永琳が善の存在を思い出し永遠亭のもう一人の住人が頼んでいた物が届いたのだと理解した。
「はい、お願いしますね」
善がマミゾウから渡されていた、伝票を見せサインをもらった。
「優曇華院に運ばせる積りだったけど、これじゃ困ったわね……」
「じゃあ、私が運びますよ」
少しだけ、悩んだ後善が自ら買って出た。
これ位サービスの内だろう、というのが善の考えだった。
「そう、じゃお願いね。
誰でもいいから、この子を姫様の所まで案内して」
永琳が奥に声を掛けると、ピンクのワンピースを着た幼女が跳ねて来た。
鈴仙の様にうさ耳が付いてるが、人化して日が浅いのか言葉ではなく、ジェスチャーでついてこいと表現する。
その様子を見ると、安心した様子で永琳は鈴仙の頭の耳を引っ掴んで引きずる様に去って行った。
「うわぁ……弟子ってのは、何処でも大変なんだなぁ……」
鈴仙の余りの扱いに、自身の境遇と重なった善。
同情しながら、こっそりと心の中でエールを送った。
まぁ、実際にそんな事をしたら鈴仙は大変なことに成るのだが……
「ここ?この部屋?」
「……!……!!」コクコク
驚くほど長い廊下の先の先。
豪奢な襖が有り、うさぎの幼女がそこへ手招きする。
善の問いかけを聞いて、肯定する様に笑顔でその場から去って行った。
「今の子、良い子だなぁ」
善が去って行った幼女を見る。
何というか、スレた感覚が無く純粋な子というイメージが善に着いた。
師匠を始め、いろいろな意味で『イイ性格』した知り合いの多い善にとっては少しだけ心が癒される出会いだった。
「すいませーん、頼まれた荷物持って来ましたー」
トントンと襖を叩く善、中からごそごそと動く音が聞こえる。
「あー、もう、なによ?まだお昼じゃない、この時間は起こすなって言って――あ」
襖の間から、美少女が姿を見せる。
髪はボサボサ、服はヨレヨレ&食べ物の食べカスでドレスアップ!!
一目でわかるダメ人間がそこに居た!!
そしてその美少女は、すぐに襖を締めてしまった。
数秒後……
「良く来ました。私は永遠亭の姫君、蓬莱山 輝夜……一体なんの用かしら?」
さっきと打って変わって、厳かな高貴な人オーラを纏いながら輝夜と名乗る少女は再び姿を現した。
しかし!!
「いや、今更取り繕っても……遅いですからね!?
仕切り直しは出来ませんからね?」
淡々とした口調で、必死になって取り繕う輝夜にとどめを刺す!!
「今日はちょっと、油断したのよ……本来はもっと、ちゃんとしてるわよ?」
震えながら、視線を明後日の方向にずらしながら輝夜が話す。
「まぁいいです。そんな事よりも注文していた黒松の盆栽、持って来ましたよ」
そう言って、自身が持って来た松の盆栽を輝夜に見せる。
「あー、コレコレ。いいわねー。
悪いけど、中庭に運んでくれる?」
輝夜が襖を開け部屋の奥、外に続く小さな扉を指さす。
「分かりました、運んでおきますね」
輝夜に先導され、いろいろな物が転がっている汚部屋を歩いて中庭に盆栽をおく。
コレでマミゾウから頼まれていた仕事はひとまず終了だ。
「うん、よし」
しっかりと台の上に置くと、善は一緒に置かれている盆栽を目にした。
「どう?良いでしょ?私の盆栽」
いつの間にか後ろに居た輝夜が、盆栽の自慢を始める。
輝夜位の見た目の子が、盆栽について語ると少し違和感だあったが善はじっと聞いていた。
「へぇ、良い趣味ですね。地面から栄養の取れないハズの盆栽なのに、すごく躍動感がある。イキイキしてるのを感じますね」
善は仙人としての能力上、気を感じ取る力が少しだけ高い。
輝夜の見せる盆栽は、まるで本物を大木を盆栽サイズに縮小したかのような存在感があった。
只のインテリアではなく『イキモノ』である事を感じさせるものだ。
「なかなか、目が良いわね。他のも見てきなさいよ」
盆栽を褒められ、少し調子に乗った輝夜が次々と他の盆栽の説明を始める。
残念だが善はそこまで詳しくはないのだが、輝夜の説明は聞いているだけでも楽しかった。
「ふぅ、こんなに喋ったの久しぶりな気がするわ。
えーと、詩堂って言ったかしら?面白い物見せてあげるわ」
何かをたくらむ様な顔で善を自身の部屋に呼ぶ。
「えーと、えーと、確か……」
ごそごそと、部屋の横にある道具をぽいぽいと、投げ捨てながら何かを探し始める。
「輝夜さん?」
「ちょーっと待ってて、そこらへんの物、適当に触ってていいから」
そう言って尚も、輝夜は部屋の中を漁り続ける。
中庭に面した位置に居る善の方にも様々な物が飛んでくる。
色とりどりの玉が付いた枝や、真っ赤な宝石、楕円形の漬物石みたいなモノ、何かの動物の鱗、ピンク色した貝殻、赤い着物等が足元に散らばる。
(うわぁ……ガラクタばっかりだな……美人だけどだらしないタイプの人か)
そうおもいながら、足元の玉の付いた枝の様な物を拾う。
因みに善は気が付いてないが、この適当に落ちている道具は一つでも売れば善の借金を帳消しにしたうえで、おつりが来るほど高価な道具ばかりだった。
「あったわ!ほら、こっちに来なさいよ」
部屋の中、輝夜が座布団に座り込み、同じく自身の隣に座布団を置き、それを叩いて善にこっちに来るように呼ぶ。
「失礼します……」
微妙に湿ってる気がする座布団に座ると、輝夜はとある道具を取り出して見えた。
「ふふん、コレ見たら絶対驚くわよ?」
そう言って、自身の手に持つ道具のスイッチを入れる。
ブゥン――
一瞬のタイムラグの後、目の前にあった黒い大きな箱状の装置が動き出す。
そして、何かを読み込む様な機械音。
善はその道具に見覚えがあった。
「どう?ビックリした?コレは外の世界の玩具で――」
「テレビゲームだ!!」
善がテレビの画面に映った、8ビットキャラを見て興奮気味に声を上げた。
「知ってる……の?」
「勿論、ってか現代っ子は大体知ってると思いますよ?」
思った以上にあっさりした反応に、輝夜の出鼻がくじかれる。
輝夜は善を幻想郷生まれの妖怪だと思っていたので、この反応は意外だった。
因みに、永琳が医療用具の使用に電気を必要とするものが有り、永遠亭では一部の部屋に電気が通っているのだ。
「なーんだ、もっと驚くと思ったのに……
まぁ、それはそれでいいわ」
輝夜が、善にコントローラーを投げ渡す。
パシッ!
「対戦型ゲームをしましょ?永琳もイナバも手加減してばっかでつまらないのよ。
貴方は楽しませてくれるでしょ?」
コントローラーを受け取った善をみて、輝夜が好戦的な笑みを浮かべる。
「へぇ?けど、このゲームはどれもこれも古い物ばかり……
少し、ゲームをやったことのある人には当然経験済みの物ばかり。
あえて言いましょう輝夜さん。
「へぇ、面白いわ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
と効果音が聞こえて来そうな顔で、両者の視線が絡み合う!!
今、まさに、元引きこもり仙人モドキと!!絶賛インドア派月の姫君による小規模な戦いが始まろうとしていた!!
選ばれたゲームは『爆走チャリンコ!!』チャリンコを選択して、危険なコースを走る妨害アリの超過激なサバイバルゲームだ!!
『セレクト・カー!!』
電子音声が、チャリンコを選べと画面を表示する。
「キリヤ君で」
「私もソレ」
選んだのは両人とも同じマシン!!
つまりこれは、当人同士の腕と拾うアイテムでの運による勝負という事に成る。
『レディ?3!!!2――』
カチャカチャカチャ!
「!?」
まだ発進する前だというのに、善がコントローラーのダッシュボタンを高速で押し続ける!!
「ロケットダッシュって訳ね!」
それに追いつこうと、輝夜もダッシュボタンを連打する!!
『スタートォ!!』
ナレーターの声で両人が一斉にマシンをスタートさせる!!
と思ったが、両名とも発進させなかった!!
「甘いですね、輝夜さん」
「読まれた?!」
スタート地点、そこで輝夜のマシンが一人でにスピンをした。
本来ならこのスピンは、相手のスタートを妨害する技だがそれも相手がマシンを発進させた時のみ。
あえてマシンを動かさない事によって、善は輝夜の攻撃を回避したのだ。
そして、輝夜のマシンのスピンの当たり判定が消える瞬間に――
「GO!!」
善のマシンが勢いよくダッシュする!!
裏技的な、ダッシュボタン連打。そしてそれを妨害するスピン攻撃、さらにそれを回避する技術――
「貴方、このゲームやりなれてるわね!?」
「さぁ?どうでしょう?」
あせる輝夜を他所に善は涼しい顔で答えた。
『1/3』
説明キャラが、頭の上に表示を持ってくる。
コレは、3周回るレースの内早くも1周目が終わった事を意味していた。
マシンの性能は互角、お互いの実力はほぼ僅差、だが!!
善にはスタート地点でのリードが有った!!
「くっそぉ、何よアンタ!人畜無害な顔して、とんだ食わせ物じゃない!!」
半場ムキに成って、輝夜がゲームを操作する。
「人畜無害で食わせ物って……師匠じゃないんですから!」
責められはするが、あくまで理性的にこなしていく。
そんな中――
「ああもう!!この体制やり難いのよ!!」
正座していた輝夜が、足を崩し胡坐の姿勢に成る。
その瞬間!!
ピチューン!!ティウンティウン……
「あ」
「あ」
独特のエフェクトを上げ、善のマシンがコースアウトした。
「いえーい、私の勝ちィ!!」
その場で輝夜が飛び跳ねて喜ぶ。
「どうどう?もう一回やらない?」
「いいですけど……」
輝夜の提案により、再びゲームが開始される。
次のゲームも善が途中まで有利だったのだが……
「あー、足が痺れて来たわ……」
ピチューン!!ティウンティウン……
またしても善のマシンはコースアウトしてしまった。
その様子を見て、輝夜はニタリと笑う。
「ねぇ?貴方、ちょーっと誘惑に弱すぎるんじゃない?」
「な、なんの事ですか?」
気まずそうな顔をして、善が答える。
「私が、少し足を見せると反射的にそっち向いてるじゃない?
ほら、ほら、コレが好きなの?」
チラリと、自身のスカートを持ちあげる輝夜。
白い太ももが善の視線にさらされる。
「男の悲しきサガですね……」
「あはははは!変態~、好色~、ダメ男~、エロ仙人!!」
輝夜が善を馬鹿にしてからかう。
その様子はすさまじくフレンドリーだった。
「うるさいですよ!!」
追求から逃れる様に、善が立ち上がる!!
尚もケラケラと、輝夜は善を見て笑う。
だが一瞬だけ真顔に成って――
「また、ゲームの相手しなさいよ」
「……気が向いたら、来ます」
輝夜の声を背中に受け、善は部屋を後にした。
軽く永琳に挨拶をして、永遠亭の扉を開ける。
「だらしなかったり、変にフレンドリーだったり……困った月の姫様だな」
善は珍しく気分好く、永遠亭を去ろうとした。
が――
「逃がすかぁあああああ!!」
閉めたばかりの扉が勢いよく開かれる!!
「鈴仙さん?」
「うをぉぉぉお!!!」
頭に包帯を巻き入院着を着崩した鈴仙が、手にうさ耳の付いたメガホンの様な物を持ち善を押し倒す!!
「え、ええ!?ちょっと積極的すぎ――」
混乱する善の顔に向けて、メガホンを突きつける!!
「最大火力で!!」
メガホンは銃だった!!
善の馬乗りに成った鈴仙が無数の光弾を発射し続ける!!
「わた、私の勝ちぃいぃぃ!!」
「何してるの!!」
雄たけびを上げる鈴仙を、輝夜が蓬莱の玉の枝で殴って気絶させた。
「貴方、大丈――うわぁ……」
倒れる善は、鈴仙の押し倒されたからか、非常に満足気な顔で気絶してた。
何とも表現しにくい感情が輝夜の中で巻き起こった。
一緒にゲームが出来る友達は、外で善が手に入れられなかったモノです。
部屋の中でずっと一人でゲームをしていたんですね。