止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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さて、今回はあの場所がメイン。
と言っても、そこまで多くは出ませんが……


不可思議!!冥界の館!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

「はぁー……」

善が目の前のみかんを見て小さく唸って居る。

そしてみかんの皮が小さくめくれ始めた。

 

「良いぞ!!がんばれ!!」

 

「ファイトですよ!!」

 

「ふぁいとー」

その様子を見ていた芳香と小傘が隣で善を応援する。

その横では師匠がジッと善の様子を見ていた。

 

「はぁ!!」

気合を入れた掌から赤い雷の様な気が迸り、みかんに絡みつく。

音もなくみかんの表面の皮が、ちぎれ飛んでいく。

 

「出来た……!」

興奮気味に話す善を横目に、みかんを師匠が手にする。

様々な方向から、みかんを観察する。

善が小さく息を飲んでその様子を見守る。

 

「……及第点……と言っておくわ。

だいぶ気の使い方が上手くなったわ、まだまだ甘い部分も多いのだけど」

師匠がみかんを善に投げ渡す。

受け取った瞬間、師匠の放った気によってみかんの内側の筋が全て吹き飛んだ。

 

「あ、ありがとうございます!!」

師匠に対して善が頭を下げる。

コレは少し前から、師匠が考案した修行法である。

気を使い、みかんの外側の皮を破り、逆に中身の果肉を傷つけない。

手でやれば簡単な事なのだが、中身より硬い皮を破りながら脆い果肉を傷つけない様にするのは、なかなかに難しいのだ。

纏った気の精密な動かし方と、威力の強弱を同時に修練出来る修業方だった。

 

「部屋をベタベタにしなくなったのは、良い変化よ?

今度はみかんの筋を剥けるようになりなさい、それが出来たら――あなたの好きな仙術をなんでも一つ教えてあげるわ」

自らの弟子の成長を見て嬉しそうに、上機嫌で師匠が笑う。

なんだかんだ言って、一番喜んでいるのは善よりも師匠なのかもしれない。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ、覚えたい術を考えておきなさい。

余り上級はあなたにはまだ、早いのだけど」

最後に、調子に乗らない様に釘をさして師匠がちゃぶ台の前に座ってお茶を飲み始める。

 

「善!!みかん!!わたしも食べたいぞ!!」

 

「私も食べたい!!」

じっとしていた芳香が、善に飛びついてみかんを剥く様にせがむ。

 

「解った、解った。すぐに剥いてあげるからな?」

頼まれた善は笑顔で自身の力を使いみかんを剥いていく。

数度失敗しながらも、何とか芳香にみかんを渡す。

 

「うわーい!!」

 

「うわぁい!!」

はぐはぐと嬉しそうに、みかんを食べる芳香を見て善の心が温かくなる。

 

「お茶にしましょうか?」

そろそろ小傘が来る頃だろうと、思い善が湯呑と昨日買っておいた団子を皿において持ってくる。

 

同時に、入り口から小傘の声が聞こえてくる、ほんとにいいタイミングだ。

 

「はい、お茶と団子」

芳香に皿を渡す。

 

「小傘さんにも」

 

「ありがとうございます」

 

「橙さーん、いますよね?」

 

「勿論です!!」

屋根裏から出て来た黒猫に、少しぬるめのお茶を出す。

 

「はい、あなたにも――」

いつの間にか居た、帽子をかぶって胸に青い球体をぶら下げた女の子にも渡す。

 

「おにーさん、ありがとー」

 

「善、お茶のおかわり」

師匠から掛かった声に対して、すぐに急須でお茶を注ぐ。

そんなこんなで、休憩を取っていく。

食器を片して、散歩に行こうと善が墓場に出ていく。

 

 

 

 

 

「さて、今日はなんか、良い事が有りそうだな」

そんなことを呟きながら、墓場を歩いていく。

善の行先を遮る様にとある人物が、道をふさぐ!!

 

「あ、あなたは――!!」

 

「ど、どうも!!おひさしぶりです!!」

白い髪に腰と背中の大小二本の刀、そして頭の近くをゆらゆら飛ぶ白い物体。

白玉楼の庭師、魂魄 妖夢が立ちふさがる!!

 

瞬間!!両名に嫌な緊張が走る!!

 

(い、いたぁ~、まさか墓場に居るっていう噂でしたが、本当にいるとか……

誰を?誰を殺した帰りですか!?)

 

(やばいよ、やばいよ!!前会った、銃刀法違反っ娘だよ!!

なに、なにか俺悪い事したっけ!?あれか?辻斬りがライフワーク的な人なの!?)

ブルブル震え、お互いに微妙な距離を置く。

それほどまでに、両名のイメージはかみ合って居なかった!!

 

「ええと、妖夢さんでしたっけ?ほ、本日は何の御用で?」

 

「じ、実は冥界に来てほしくて――」

 

「め、冥界!?(殺しに来たよ!!この人リアルに殺しに来たよ!?)」

冥界という言葉に善が、驚き大げさに反応した。

 

「そ、そうです、そこで料理を教えてほしいのです……(冥界って言った瞬間目の色が変わった……この人どんだけ血に飢えてるんですか……)」

妖夢の言葉に善の震えが止まった。

全く持って意外な単語を聞いたからだ。

 

「料理を?」

 

自身の主の為、妖夢は恐怖と戦う道を選んだ!!

意を決し、善にその頭を下げる!!

 

「異界の出身だと聞きました……我が主が真新しい料理を所望してまして――

お願いします!!冥界で料理を教えてください!!」

 

「こ、こっちに戻れるんですよね?」

 

「私が送り迎えします」

善の質問に対して、妖夢が目をみて答えた。

濁りの無いまっすぐな目だった。

 

「解りました、今日の夕方までに帰れるなら、お供します」

 

「ありがとうございます!!」

珍しく二人がまともに意思を交わした。

しかし心の中では――

 

((機嫌を損ねるのは不味い!!機嫌を損ねるのは不味い!!機嫌を損ねるのは――))

すれ違いばかり!!まったく正しく意思が伝わっていない!!

ある意味似ている二人だった!!

 

 

 

 

 

空の向こうのそのまた向こう、その名も冥界。死者がたどり着く場所の一つ。

少し靄のかかった場所で善が目の前の階段を見上げる。

 

「スッゴイ高さだ……頂上が見えない」

 

「この階段の先に、白玉楼は有ります。

また、負ぶっていきましょうか?」

妖夢が善に提案する、空を飛べない善は此処まで妖夢に抱きかかえられて飛んできたのだった。

それなりに恥ずかしかったが……

 

「大丈夫、地面が有るなら、これで」

懐から札を取り出し額に貼った。

足のばねを生かし、階段に向かって高く跳ぶ!!

 

カッ!!カカッ!!

 

石製の階段を飛び上がりながら駆けあがっていく!!

僅かな、階段を蹴る音だけが小さく響く。

 

「明らかに、人間ではない動き……やはり物の怪?」

抱いて飛行する最中に全くとして、妖力を感じなかった妖夢が善の正体について考え出す。

しかし――

 

「私も負ける訳には――行きません!!」

生来の負けん気が刺激された妖夢も同じように階段を走り始めた。

考えるのはまた後になりそうだった。

 

 

 

 

 

「ホイッと!到着……かな?」

階段の上、豪華な建物が目の前に鎮座する場所にて善が小さくつぶやいた。

気が付けば妖夢を置いてきぼりにしてしまった。

危険そうな相手だが、知らぬ場所で頼れるのは彼女だけだ、心配になって靄でかすむ階段を最上段から覗き込むと――

 

「妖夢さーん!ここで――グッ!?」

 

「これで最――ごッ!?」

覗き込んだ善の顎に下から上ってきた妖夢の頭がぶつかる!!

 

「「ッ~~~~~~~~!!」」

声に出せない痛みを感じ善は顎を、妖夢は頭を押さえ白玉楼地の面に転がった!!

 

「……妖夢さん……此処が――」

 

「白玉楼よ」

妖夢が答えるより前に、後ろからぽわぽわした声が響いて来た。

尚も痛みに悶える妖夢を他所に善が後ろを振り返った。

そこには、うすい色の着物を着たおっとりした美女が扇子を持ち笑っていた。

 

「いらっしゃい、白玉楼へようこそ。私はここの主、西行寺 幽々子。

あなたが妖夢の言っていた人ね?今日はよろしくね」

柔和な笑みを浮かべて、そのまま白玉楼内へと歩いて行ってしまった。

 

「美人だ……すごく……美人だ……」

柔らかな幽々子の魅力にあてられた善が、ぼおっ幽々子の去って行った扉をいつまでもだらしなく見ていた。

 

「痛つつ……なんで平然としてるんですか?」

未だに頭を押さえ、涙目になっている妖夢が立ち上がって、涼しい顔をしている善に問いかける。

 

「妖夢さん……さっきの人って――」

 

「ここの主の幽々子様ですね……幽々子様がどうかしましたか?」

 

「いや、美人さんだなーって、思っただけですよ」

未だに心、此処にあらずといった表情の善を見て妖夢が小さくため息を付く。

 

「はぁ、確かに幽々子様はお美しい方ですが、不埒な真似はやめた方がいいですよ?

でないと――私があなたを斬る事になります」

背中の楼観剣に手をやり一瞬だけ、殺気を出し善を威嚇する。

相手がどんな存在であろうとも、幽々子に牙を向ける者は排除するそれこそが妖夢の戦いのスタンスである。

 

「……それは困りますねぇ」

余裕を持った態度で小さく善がつぶやいた。

 

 

 

 

 

その頃の幽々子は……

 

「さっきの人が妖夢の言っていた異界の人ね。料理を教えてもらうって言っていたからすっかり女の人だと思っていたわぁ……

そっかぁ……妖夢がねぇ……」

ぽわぽわした幽々子の表情がぴしりと凍り付く。

そして、頭を大きく振りかぶり!!

 

「うわぁあああああああ!!!遂にこの日が来たかぁ!!!!

うわぁああああああああ!!!妖夢が!!妖夢が男を連れてきたァ!!

うわぁあああああああん!!!あんなに、あんなに幼かった妖夢がぁ……」

ゴロゴロとひっきりなしになって、床を無我夢中で転がる!!

幼い頃から見て来た妖夢が、男を連れて来た!!

それは幽々子の中で大問題だった!!

 

『幽々子様、私この人と幸せになります。

その、次代の魂魄家の跡取りが出来たらお見せしに来ますね……』

幽々子の脳内で幸せそうに腕を組む妖夢と善の姿がイメージされる。

 

考えるだけで涙がこぼれる!!

居てもたってもいられない!!

 

「ま、まだよ!!まだ、あの子が妖夢の男と決まった訳じゃないわ!!

様子を――様子を見るのよ……」

バタバタと暴れて、乱れた着物を直し静かに部屋を開け妖夢を探して廊下を歩いていく。

 

小さく話声がする。玄関の方だ。幽々子がそちらに足を向ける。

 

 

 

 

 

「妖夢ぅ~お腹が空いたから何か作って――」

笑みを作り、なるべく自然体でいる事を意識して顔を覗かせる。

 

 

 

「はぁああ!!この妖怪が鍛えた楼観剣に斬れぬ物などあんまりない!!」

妖夢の斬撃を、能力解放した善が気を纏った右手で楼観剣ごと掴んで無理やり止める!!

善が傷を負わない事は勿論、迷いも躊躇もなく剣を握りしめる胆力に妖夢が驚愕に眼を見開く!!

 

「どうやら、私の体はその『あんまり』の方に含まれる様だ。

うれしいねぇ!!!」

パッと掴んでいた楼観剣を離して、蹴りを放つ!!

 

「私の剣はもう一本あります!!」

手早く腰の白楼剣を抜き、その足を斬りつける!!

剣と気が拮抗して、善のズボンに切り傷が付く!!

 

「ハッ!」

 

「くッ!」

両人が同時に再び距離を置く。

そして、再びお互いの剣と拳を打ち合わせる!!

 

「え、なに?痴情のもつれ?痴情のもつれなの!?」

スペルカード無しのガチファイトに、幽々子が驚き声を上げる。

その瞬間、両名が同時に幽々子をみて止まる。

 

「あ、幽々子様。お腹が空いたんですね、ただいま準備しますから」

 

「妖夢さん、私も手伝いますよ」

二人ともコロッと態度を変えて、武器をしまう。

 

「えと、二人とももういいの……?」

あっさりした決着に、幽々子が困惑気味に尋ねる。

 

「ええ、少し話した結果、意気投合しまして――」

 

「意外と話せるモンですよね~」

楽しそうに、妖夢と善が笑いあう。

二人は従者ポジション、主の無茶ぶり、修業中の身、苦労人体質、生真面目な性格等お互い話してみると意外なほど共通点が多く、変に気が合った!!

料理を教える前に、お互いの技をぶつけあってみようと成り二人で手合わせした様だった。

 

「前は人里でしたよね、いやー、いきなり剣を抜くからどんなやばい人かと……」

 

「詩堂さんこそ!!その気を纏うとすごく怖いんですよ!?完全な危険人物なんですからね!?」

 

「いや、コレは私の能力の関係で――」

仲睦まじく笑い合う様子を見て幽々子が、小さく震えだす!!

 

「じゃ、二人で準備しますか」

 

「なら、簡単な蒸しプリンから、卵と牛乳ありますよね?」

二人して、厨房の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「妖夢~コレ、おかわり~」

さっきまで悩んでいた事など、さっぱり忘れて上機嫌で幽々子が箸を進めていく。

はじめはやけ食い気味だったのだが、善の料理がなかなか美味でむしろ「毎日コレが食べられるならいいんじゃないかしら?」とさえ思い始めていた!!

善が下半身の忠実な男なら、幽々子は胃袋に忠実な女だった!!

 

「た、ただいまお持ちします!!」

空になった大皿を幽々子が妖夢に渡す、バタバタと慌てる様に忙しく台所を走り回っている!!

 

「詩堂さん!!ローストビーフ追加です!!早く!!」

 

「わ、解ってます!!今焼いてます!!あと、7いや、5分待ってください!!」

手早く他の料理に善が手を伸ばす。

驚くべき事は、この相手がたった二人だという所!!

幽々子と紫の食事を作っている善だが、この忙しさは紅魔館の調理をしていた時以上だった!!

 

「詩堂さん!!また追加が――」

 

「どうなってんだ!?相手は一人だろ!?」

白玉楼で、善の叫びが響いた。

 

 

 

 

 

「ふぅ~お腹いっぱい。

詩堂君だったかしら?なかなか美味しかったわ。

また、遊びに来てくれるかしら?」

満腹で上機嫌になった、幽々子が善を見る。

よっぽど疲れたのか、肩で息をしている様だった。

 

「え、ええ……時間が有れば……」

なるべく来たくない、といった顔で善が返事する。

 

「けど、妖夢はあげないからね」

 

「はい?」

幽々子の言葉の意味が分からず善は頭にクエスチョンマークを付ける。

 

「あら、今忙したったかしら?」

善のすぐ横に、空間の裂け目が現れて、中から金髪の美女が現れた。

相手を見て幽々子が、料理を食べる時とも、妖夢に見せる物とも、違う笑みを浮かべる。

 

「紫、冬眠から起きたのね?今年はずいぶんゆっくりじゃない?」

 

「なんだか、寝すぎちゃったみたい。

藍に愚痴を言われて大変だったわ。

あら、意外な所で会うわね」

チラリと善の方を見て、紫が笑った。

 

「あなたは、確か橙さんの――」

 

「あの時はうちの子が迷惑をかけたわね、お詫びに今日は私があなたを家まで送ってあげるわ、それに話したい事もあるしね?

じゃ、幽々子、この子借りてくわよ?」

 

「え、ちょ――――わ!?」

一瞬の無重力感を味わい次は見た事のない、空間だった。

赤く、目や道路標識が大量に浮いている。

 

 

 

「まさか、あんな所に居るなんてね。

ねぇ、あなたにいい事教えてあげる」

その空間の中で、紫は有る事を善に告げた。

 

「あ、え……そんな……」

紫の言葉に、善が目を見開いた。その言葉は善の心に重くのしかかった。

その後、何度か善が紫と会話をする。

そして数分後……

「付いた様ね、じゃあね詩堂君?」

 

「ま、まって!!」

善の返事を聞くまでも無く、紫はスキマから善を追いだす様に善の住む墓場に落とした。

 

「おー、善飛べる様に成ったのか?」

後ろに居た芳香が目を丸くする。

 

「違うよ、送ってもらったんだ……そう、送ってもらったんだ」

何処か悲しそうな顔をして、善が立ち上がる。

ふと見上げると桜が散り始めている、もう花見も終わりかもしれない。




幽々子様ローストビーフ……牛一頭分食べてそう……

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