止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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皆さんこんにちは。
唐突ですが、今回はコラボに成ります。
コラボ相手は、執筆使いさんの『悪魔の店』に成ります。

ハッピーエンドで終わったり、逆に不快感を残して終わったり、偶に他のキャラクターが出てきたりと、読み応えのある作品です。
一話ずつが短いので、ちょっとした時間等に読んでみてはどうでしょう?

少し矛盾した物言いですが、私はいたたまれない様な、心に不快感を残す作品が好きです。
今話では皆様にそんな『心地よい不快感』を味わってもらえたら幸いです。


コラボ!!悪魔の店!!

カランと鳴るはドアの音

コロンと鳴るはベルの音

 

 

 

悪魔の店には何でもあります

お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます

 

 

 

さてさて、今日のお客様は?

 

 

 

 

 

『i』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな小さな喫茶店。

何処かの世界の片隅に、不思議な不思議な店がありました。

 

そこの店主は変わりモノ。

 

客に勧めるは様々な道具達。

 

それさえあれば、愛も、地位も、名誉も、善意も、悪意も、夢も、理想もetc……

全ての願いが、欲が、希望が、呪いが叶う。そんな店……

 

「ふぅむ……最近、閑古鳥が鳴いていますね。

やはり、前に来たお客さんにアレを渡したのがいけなかったんですかね?」

 

ガチャ!!カラン、コロン!!

 

静かな空間を壊すかのように、一人の男が店に走りこんで来る!!

 

「た、頼むよ!!助けてくれ!!あ、アイツらおかしいんだ!!

も、もうこんなものいらない!!返す!!返すから助けてくれ!!」

入って来たのは、今しがた店主が会話に出した男。

身なりの良い服をしているが、ボロボロで所々引っかき傷や切り傷がある。

叫び終わるなり、店の床にキャンディをばら撒いた。

 

「おやおや、アナタの願いは『女性にモテる事』。

約束通り、その飴を一粒食べて名前を呼ぶだけで、相手を夢中にさせれるハズ……おや?」

 

ビチャ!!

 

店の窓を外から赤い液体が汚す。

それと同時に罵声が聞こえてくる。

 

「アンタが!!」「シネェ!!」「薄汚い売女め!!」「雌犬が!!」

 

「おやおやおや……コレは――」

何処かおかしそうに、それでいて悲しそうに店主が口元を歪ませる。

そこに言い訳がましく男の言葉が響いた。

 

「ま、町中の女を全員俺の物にしたかったんだ!!

一日一粒じゃ、足りなくて!!

こ、こんな事になって――」

 

「残念ですが、約束を破ったあなたには、追加料金が発生します」

 

店の店主がその正体を現す。

 

「あ、ああ……あああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「やれやれ、人の欲望は恐ろしい物です。

劣情を愛だの、恋だのに言い変えても、結局は欲にまみれ醜く歪んでいく……

さて、彼を巡って女性たちが殺し合いを始めた様ですね……

ここに居るのは危険だ。

店ごと避難しましょうかね?次はもっと――

そう、もっとおかしなモノ達が闊歩する世界に行きましょうか」

店主がそう言ってコーヒーを口に含んだ。

 

 

 

 

 

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

カリカリカリ……

善の部屋を何かが引っかく様な音がする。

 

「はいはい、今開けますよっと」

 

「善さん見てください!!良い物を捕まえましたよ!!」

扉を開けると、橙が誇らしげに自身の捕まえた獲物を見せて来る。

ネコを飼った事のある人はわかるだろうが、ネコは自身の狩った獲物を見せに来ることがある、猫又の橙も例外ではなかった様だ。

褒めて褒めて、と二つの瞳が訴える。

 

「今度は一体なにを――!?」

 

「小人です!!」

橙の手の中でぐったりする、見覚えのある小人。

確か、前マミゾウに誘われて出かけた宴会で会った――

 

「針妙丸さん!?針妙丸さんしっかり!!」

 

「うう……正邪……」

ガクッと、力が抜け針妙丸が動かなくなった。

 

 

 

「ううっ……死ぬかと思った……」

包帯を巻かれぐったりとした、針妙丸が善の机の上で横になる。

彼女サイズの布団は無かったので、ハンカチに彼女は寝ている。

 

「橙さんには後で、ちゃんと言っておきますから……

所で、こんな所で何を?」

 

「また……小槌の妖力の残滓を見つけて、調べてたの……

けど、反応が無くなって……私の思い過ごしだったのかな?」

針妙丸は疲れた。と言って眠ってしまった。

どうやら相当疲れていた様だった。

可哀想だな、と思いながら善はもう一枚ハンカチを針妙丸に掛けた。

 

「まさか、善さんの知り合いだったなんて……」

ベットの下から黒猫姿の橙が這い出て来る。

どうやらずっと居たようだった。

 

「橙さん……まぁ、本能的な部分だし、頭ごなしに否定は――――ってアンタ何処から出て来てるんだ!?」

橙を抱き上げ、自身の膝の上に置く。

当然だが善は思春期真っ只中のケンゼンなオトコノコである。

その為ベットの下には常に、他人に見せてはいけないすてふぁにぃ(春本)が居る!!

まさにベットの下は聖域!!そこに入り込んだ橙を善は速やかに取り出したのだった!!

 

「橙さ~ん?私のベットの下や、タンスの引き出しを抜いた後の空間は漁らない約束でしたよね~?」

恥ずかしさと怒りがない交ぜに成った表情で静かに橙を威嚇する。

しかし――

 

「ベットの下には誰もいませんよ?」

なぜかハイライトの消えた瞳で静かに告げる。

 

「まさか!?」

嫌な予感がして、善はベットの下を見る!!

そこには何もない空間が只広がっていた。

 

「す、すてふぁにぃ(春本)がいない……」

 

「はい、コレ。メモが残ってましたよ」

 

『私の未熟者の弟子へ。

すてふぁにぃ(春本)は野生に返しました。きっと今頃自由を満喫してるわ。

PS最近、肉食系未亡人の本が増えたけど、あなた性癖変わった?

                        あなたの偉大なお師匠様より。』

 

「……うわぁああああああ!!!死にたい死にたい死にたい!!

違うんですぅうぅぅぅ!!!誘惑に負けて浮気しちゃう人妻もいいけど、最近は性欲を持て余してる未亡人に興味が沸いただけなんですぁあああああ!!!!

すてふぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!かむばぁあああああく!!!」

師匠からの、メモを破り捨て床でゴロゴロを悶え転がる!!

捨てられた、だけならまだ耐えられただろうがPS~の部分で完全にトドメを刺しに来ている!!

なぜだか、目から汗が流れる!!

その様子をもうすでに慣れた橙が優しい目をして眺めている。

 

「善さん……私で良ければ慰めて――」

 

「あ、まな板は結構なんで、藍さんレベルまで成長してから出直してください」

ピタリと泣き止み素面に戻った善が、真顔で橙に告げた。

どんなに弱っても、年上、巨乳は捨てられないポイントらしい。

 

「善さんのばかぁ!!あんなモノただの脂肪です!!余分三兄弟の一人です!!」

橙がわめくが、善は気にしない!!

巨乳至上主義者である善の耳には入ってこない!!

 

「さて、少し早いけど夕飯の買い物に行きましょうかね?

橙さんも食べてくでしょ?小傘さんは、今日は来ないって言ってたから――」

立ち上がりながら、今日の献立を考えて買い物袋を手にする。

落ち込むのも立ち直るのも、かなりのスピードだ。

 

「じゃ、いってきまーす。

はぁ……すてふぁにぃ……」

師匠に一言告げて、落ち込んだ様子で善は人里にむかって歩き出した。

 

 

 

 

 

「あ、あの!!詩堂さんですよね!!」

 

「はい?」

人里に向かう途中、後ろからかけられた声に善が立ち止まる。

振り合えると、何処かで見た事のある気がする女が立ってた。

うすい生地のロングスカートにスリットが入っており、白い足が見えている。

黒い服だが、地味さはなく艶やかな美しさがあった。

美しい少し茶色がかった長髪に、人の良さそうな垂れ目。

優しそうな雰囲気とわずかな儚さが混ざった、美女だった。

 

「えっと……確かに、私は詩堂ですけど。

どなたでしたっけ?」

既視感は有る為、完全に初対面ではない……と思う。

相当の美人かつ、なかなか自分好みの女性、簡単に忘れるハズは無いのだが……

そう思い、善は頭を悩ませる。

 

「ああっ……やっと、やっと逢えた!!私の愛しい人!!」

 

「え――ちょ!?!!?」

女は嬉しそうな、感極まって泣き出しそうな顔をして善を抱きしめた!!

女の胸の顔を押し付けさせられた善が、混乱しつも幸福感に包まれる。

 

「あ、ごめんね?自己紹介がまだだったね。

私の名前は――愛逢(あいら)……そう、愛逢!!私の名前は、愛逢

貴方と愛し合う為にやってきました」

 

「え、あの……はい?」

 

「うふ、詩堂君だーい好き。

私の事、彼女に――ううん、私をあなたのお嫁さんにしてください」

混乱する、善無視して愛逢が嬉しそうに強く善を抱きしめた。

 

 

 

 

 

「詩堂君、見て見て!!カエルだよ!!冬眠から目覚めたんだね!」

愛逢が楽しそうに、河の近くにいたカエルを指さした。

天真爛漫な愛逢に対して、善はどうしても煮え切らない態度を取っていた。

 

(おかしい、何処かで見たことは有るけど……どこだっけ?

いや、それよりも……なんでこんなに俺のことを『好き』って言ってるんだ?)

さっきから妙に絡みつく既視感といい、明らかに普通ではない状態を善は怪しんでおり、わずかに彼女を警戒している。

心当たりとしては、妖怪の類だろうか?

知り合いを装う、詐欺師の様な妖怪が居ないとは限らない。

 

「あ、あの、あなたは一体誰なんです?何処かで会いました?」

 

「そんな事どうでもいいじゃない。ね、せっかく河が有るんだし、少し早いけど泳がない?」

愛逢が指を鳴らした瞬間、愛逢の着ている服がすぐさま、際どい水着へと変化する。

かなりのボリュームを誇る胸が激しく揺れる!!

 

「おおぅ……」

善の理性も激しく揺れる!!

そんな善の葛藤を知ってか知らずか、楽しそうに自慢げに説明を続ける。

 

「えへ、どうかな?コレが私の力。どんな服装も――って訳にはいかないけど、大体の服装が出来るよ?ちなみの髪の毛も変幻自在よ?」

パチン、パチンと愛逢が指を鳴らす度に服装や髪形がどんどん変わっていく。

本人は自慢げに話しているが、この時点で人間でない事が半場判明してしまったと言える。

その為、善の顔が厳しくしまった。

 

「愛逢さん、あなた。人間じゃありませんね?

妖怪ですか?」

善の言葉を聞いた瞬間、愛逢の表情が凍る。

楽しそうな、表情は消え去り冷たい視線でじっと無言で睨む様に善を見ていた。

 

「詩堂くん……私を疑ってるの?仕方ないよね、あんな女の所に居たんだもん。

女の人に対して、疑心暗鬼に成っちゃうんだよね?大丈夫、私は詩堂君を責めてる訳じゃないんだよ?」

明かに取り繕った態度と言葉で、善をなだめる様に諭した。

 

「だから、私はアナタなんて知りは――」

 

「ねぇ、ねぇ、詩堂君。君がの望むなら私なんでもシてあげるよ?

どんな格好も、どんな命令も聴くよ?私を好きにしても良いんだよ?

だから、ねぇ。

私を愛して!!私を、私を抱きしめて!!私の事好きって言ってよ!!」

再度の拒絶の言葉を言わせないとばかりに、愛逢が激情を露わにした。

その姿に善は恐怖を感じた。

 

「止めてください!!私はあなたなんか知らないし、あなたと付き合う積りもありません!!お願いですから、どっか行ってくださいよ!!

今なら、まだ見逃がしますから!!」

愛逢に向かって、拳を構える。

気を纏い、威嚇する様に空気中でスパークさせて見せる。

 

「詩堂君……ひどいよぉ!!わ、私はあなたのことが好きなだけなの!!

騙してる訳なんて無いのに!!ねぇ!!お願いだよ!!もう時間が――」

 

「時間がありませんね」

愛逢の声が、何者かに遮られる。

善と愛逢が同時にその声の方を向く。

 

「どうも、愛逢さん。楽しんでいますか?」

この生き物は何だ?それが善が最初に感じた感想だった。

仮面の様に張り付いた笑顔、形だけなら笑ってるのだが全く感情という物を感じさせない、ひどく冷たい笑い顔。

仕立ての良い白と黒の服、喫茶店の店員が一番イメージとしては近いだろう。

だが、その恰好にも言い表す事のできない違和感が渦巻いている。

無理やり形容するなら、ものすごく精巧に人を真似た『異物』。

 

「て、店員さん……」

 

「もうじき、約束の日没です。

本来こんな事はしないのですが……あなたの場合はひどく特殊な立ち位置に居るので。

私が直接出迎えさせていただきましたよ?」

店員と呼ばれた男の言葉の意味が分からず、善の頭にクエスチョンマークが満ちた。

 

「あと、どれくらいなの?」

 

「そうですね……今は、雲に隠れて夕日が見えにくいので、お教えしますと後5分ほどかと」

ポケットから、懐中時計を見ながら淡々と店員が答えた。

その表情に、小さく何かを期待する感情が見て取れた。

それと正反対に、愛逢の顔には焦りが見えた。

 

「そんな!!まだ、デートすらしてないのに!!」

 

「申訳ありません。さっき申した様に、あなたの場合はかなり特殊でして」

 

「あの、さっきから何のことを?」

余りにもわからない事が大すぎた為、善が二人に尋ねた。

どうしても話が見えて来ないのだ。

 

「おや?話してなかったんですか?

ご自分の正体を、愛逢さん、いえ――()()()()()()さん?」

 

「え?」

意外すぎる単語に善が固まった。

その停滞を壊す様に、ゆっくりと愛逢が語りだす。

 

「あは、バレちゃったね……そうだよ。

私はすてふぁにぃだよ、あなたが小槌で私を生んでくれたんだよ?」

愛逢が、涙を浮かべながら無理やり笑った。

その言葉でやっと善は合点がいった。

彼女は小傘と同じ、付喪神!!

 

「その恰好、服も、全部、全部!!」

 

「そう、本の内容からコピーしたんだよ?君の好みは全部知ってるんだから」

涙をぬぐって、悪戯する様に無理して笑う。

しかし、すぐに泣き崩れてしまう。

善は慌てて、愛逢を抱き留める。

 

「彼女は私が契約した中でも、非常に稀な存在です。

本来、命の無い物体が、自我を宿し私に『体が欲しい』と願った……

残念ですが、今日一日がその体の使用期限です。

さぁ、もうすぐ時間ですよ、契約通り――魂をいただきます」

その言葉と共に、悪魔が漆黒の羽を広げる。

そして生き物をあざ笑うかのような、裂けた様な醜悪な笑みを浮かべる。

全身からあふれ出る、呪力とでもいうべき邪な力!!

その余波だけで、善の全身の毛穴からドッと嫌な汗をかく。

 

「さぁ、ひと雨来る前に、回収しましょうか」

悪魔がこっちに足を一歩進めるだけで、全身を裂くような恐怖が善を襲う。

勝てる以前に戦おうとは思えなかった、逃げる以前に足が動きはしなかった。

 

「あ、あと、一分。一分だけ待って!!」

愛逢が悪魔に決死の思いで叫んだ。

仙人として修業した善よりも、成りかけの付喪神である愛逢が悪魔に意見を述べた。

ワザとらしく悪魔がアゴに手を当てて、考えるそぶりを見せる。

 

「構いませんよ、それくらいなら。あと1分、その間私は何が起きようともアナタの魂を奪わないと約束しましょう」

その言葉を聞いた、愛逢が礼を言って善に小さく耳打ちした。

 

「愛逢さん!?何を言って――」

 

「お願い。あなたにしか出来ないの!!あなたじゃないとダメなの!!」

躊躇する善に対しして、何処までもまっすぐに愛逢が懇願する。

愛逢の願いは善にとってやろうと思えば、簡単に出来る事。

だが、絶対にしたくない事でもあった。

 

「あと30秒です」

冷酷に悪魔が告げる。愛逢の懇願で手に入れた時間はもう半分が消えてなくなったことに成る。

 

「ねぇ、最後に私のお願い。聞いてよ?

私は、道具だけど、あなたに使ってもらえて幸せだったんだよ?

だから、最後だけは、最後のお願いだけはきいて欲しいの」

愛逢が強く善を抱きしめた。

その体には確かに温かさが有った。『生きている』というぬくもりがあった。

 

「あと20秒」

カウントダウンは続いていく。これ以上躊躇すると間に合わなくなる可能性がある。

それでも、それでも善は――

 

「私を――私の『命』をもらって?悪魔に、あげたくないの」

 

「ぐぅ――っ……」

善が懐から、一枚の札を取り出す。

決意を決められぬまま、額に札を貼り付ける。

体に力が満ちて居く、そしてその力の一部を右手に纏わせる。

 

「あなたのことが好きでした」

悲しくも、二コリと不器用に笑う。

その姿に、善の最後の決心がついた。

 

「ッ!!あぁあああああああ!!!!」

右手を愛逢の胸に深く突き刺す!!

皮膚を裂き、骨を砕き、内臓を潰し――命を奪う感覚が伝わってくる。

最後に魂を掴み――つぶした。

 

「ごふっ!……ありがと……う……」

愛逢の体が、透けてその場に残るのは穴の開いた一冊本。

最早用途を果たせなくなった、他者から見ればただの『ゴミ』

だが、ついさっきまでそれは確かに、生きて自身を愛してくれたものだった。

 

 

 

「こんな結果とは……残念ですよ。珍しい魂が手に入ると――おっと!!」

悪魔が立つ場所を、赤い閃光が走る!!

善が、手刀を構え立っていた。

ぽつぽつと雨が降り出す。

 

「何をするのですか?私は願いをかなえただけです。

そして、彼女の命を奪ったのは貴方だ。

貴方に恨まれる筋合いは有りませんよ?」

 

「解ってる。愛逢がアンタに願った事だ。俺が決断した事だ。

これから、愛逢を殺した罪を背負っていくのを、後悔はしない……

だけど、どうしてもやりきれないんだ!!」

再び、手刀を振るう善。勝てないのはわかってる。この悪魔が悪くないのも解ってる。

けれど、どうしたらいいのかだけは、善には解らなかった。

 

「あなたに付き合う必要はありませんよ。さらばです」

一瞬にして、悪魔はその場から霧の様に消え去った。

善は敵のいなくなった場所で、雨にうたれながらずっと暴れ続けていた。

 

 

 

 

 

「愛……ですか。

くだらない、劣情にきれいごとを並べて見た目を取り繕ったに過ぎないのに……

所詮欲望を満たす理由の、隠れ蓑でしかないくせに……

 

 

 

どうしてでしょう?なぜ、あんなに尊いんでしょう。

一日の命と知りながら、命を奪う辛さを知りながら――

なぜ、あの二人は……

ああ……ああ、人間は本当に度し難く、脆く、醜く……そして素晴らしいのでしょう……」

小さく悪魔の座るカウンターが、濡れる。

2滴3滴と水滴が限りなく落ちていく。

 

「おや、雨漏りですね……困った困った

ここでの商売はやめにすべきですね……」

傷一つない天井を眺めながら悪魔が、無理して笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本編重いよ!!おまけコーナー!!

物悲しい雰囲気で終わりたい人は、注意。

 

ガチャ!!カラン、コロン!!

 

「おや、今日はずいぶんお客が多い日ですね。

ようこそ、いらっしゃいました。

ここはあなたのどんな願いでも叶う店です。

 

あなたの願いはなんですか?」

 

「店?ここは、店なのか?雨が降ったから、雨宿りに来たんだぞー?

けど、お腹が空いたから、この飴が欲しいぞ!!」

客人が、店の端っこに置いてあったキャンディの入った瓶を手にする。

誰かが食べたのか、もう数個しか残っていなかった。

 

「おやおや、その飴は――まぁ、賞味期限も近いですし、効能も弱って来てるハズですし……

いいでしょう、差し上げましょう。

ただし、さっきも言ったように賞味期限が近いので1週間以内に食べ終わってくださいね?」

 

「わかったー」

奇妙な客は、飴のビンを抱えて嬉しそうに帰っていった。

 

「ふむ、この世界には奇妙な魂を持つものが多いですね、もう3人目だ」

そうひとりごちて、店主は再び冷めたコーヒーに口を付けた。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

暗い顔をして、善が歩いていく。

心は一向に晴れない、最良の決断をしたつもりだが、それでも――と何度も後悔を胸の中で繰り返す。

 

「雨、濡れますよ?」

不意に、雨が遮られる。

何時から居たのか、小傘が傘を差しだしてくれていた。

 

この子と同じ付喪神を――

 

「構わないでください!!」

そう、意識した瞬間、小傘を拒絶していた。

しまった、と思った時には小傘目に涙を溜めていた。

 

「も、もう、私はいらない――?」

 

「そんな事ありませんよ!!今日、少し雨に濡れたい気分だっただけで――

寒くなってきたから、入れてくれますか?」

そう言って、慌てて小傘の傘の中に入る。

 

「何か、あったの?泣いてる?」

二色の目が、善の瞳を覗きこんで来る。

 

「すこし、辛い別れをしました」

 

別れ、か。と小さく小傘がつぶやいた。

 

「私も道具だからね、いつかは壊れて――きっと消える日が来るよね。

けど、それでも、最後まで使われたい――道具はみんなそうだと思うよ?

もし、もしも、私がいらなくなったら、()()()()()

使われるのが道具の仕事、なら使わなくなった道具を壊すのは持ち主の仕事だよ?

誰にも使われないなら、せめて持ち主の手で壊してほしい。

きっと、道具はみんなそう思うはずだよ?」

 

「そうですか……」

何とも言えない気持ちで善がつぶやいた。

 

「おーい!!」

その時後ろから、声が聞こえてくる。

聞きなれた人物の声だ。

 

「芳香?どうしたこんな所で――」

 

「ぜーん。飴食べるか?」

芳香が手に持った飴を見せながら『善の名を呼ぶ』

 

「……芳香ァ!!お前はなんてかわいいんだ!!」

小傘の傘から出て、濡れるのも気にせず芳香に抱き着く!!

 

「な、なんだ!?一体どうしたんだ!?」

突然の善の行動に芳香が目を白黒させる。

 

「本っっっっ当にお前は可愛いな!!少しとぼけた様な性格も、食欲旺盛でなんでも食べる所も、結構巨乳な所も素敵だぞ!!」

イマイチ状況のつかめない芳香を何度も何度も撫でる。

ひたすら、かわいいを連呼して撫でまわし続ける!!

 

「ど、どうしたんだ!?何があった――――」

 

「お前、照れると体温少し上がるのか?温かくなったな。

勿論、ひんやりしてるお前も好きだ。

なぁ、キスしていいか?」

 

「き、きききき……!?何をいってるんだ!?

そ、そう言うのは、結婚する相手としかしちゃダメなんだぞ!?」

 

「よし、じゃあ結婚しよう!師匠に許しをもらいに行くぞ!!」

狂ったような笑顔を向けて、善が芳香の手を握って走りだした。

 

 

 

*この後、師匠を説得する途中で正気に戻りました。




拝読感謝です。

この作品、できれば死人は出したくないというルールが密かに有ります。
ぼっこぼっこ殺すと、なんだかキャラそのものが安っぽくなる気がするんですよ。
勿論例外はありますが……

これを以て現時点で私の作品とのコラボ依頼者が、理由があってストップしているケースを除きすべて終了しました。

これを読んでいる作者の方。
もし「コラボしてやってもいいぜ」という方がいらっしゃったら私の以前の活動報告か、個人にメッセージをください。

期限は決めませんので、何時までも待っています。

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