止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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今回は、久々に注意点があります。
タイトルで解るとおり、今回は射命丸 文が酷い目に遭います。

「文!!俺だ!!結婚してくれ!!」や「あー、射命丸と二人で新聞を作って生きて行きたいんじゃ~」な人は注意してください。


暗躍!!虚飾の鴉天狗!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

カリカリカリ……

純和風な一室で一人の少女が原稿用紙に向かっていた。

山伏の様な赤い帽子に紅葉模様の入った白いシャツ。そして背中から生える鴉の様な黒い羽、明らかに人外の存在だがその顔はそんな事すら些細に思えるほど美しく、魅力的だった。

しかし、その顔はわずかに歪み、軽快な筆の音は止まり、せっかく書いた原稿を丸めてゴミ箱に投げ捨ててしまう。

そしてまた、新しい原稿に向かう。

 

カリカリ……カリカリ…………カリ……カリ…………

 

「…………あーもう!!だめだー!!」

頭を掻きむしり、原稿用紙を破り捨てた!!

もう何度目に成るか分からない自ボツ。

新聞を書いてる妖怪の鴉天狗、射命丸はその四肢を畳に投げ出した。

 

「やばい……今回本当にまともなネタが無いじゃないのよぉ。

なんですか、今回の一面トップが桜前線って!!

他の新聞も同じことやってますよ!!

もっとこう、読者を引き付ける何かが必要なのよ!!

けど、それが無いのよねー……

やはり、『アレ』を題材にするしか無いのかなー?」

 

立ち上がり、自室の棚に入っている一冊の本、『幻想郷縁起』から写し取った紙束を見る。

臨時に追記されることは有るが、今回はその中でも非常に稀な事態が起きている。

問題となった頁を開く。

 

『君臨する、悪夢のヒトガタ。~邪帝皇(イビル・キング)~』

 

能力 不明

 

危険度 極高

 

人間友好度 低

 

主な活動地域 幻想郷全般

 

理不尽な恐怖を味わった事が有るだろうか?信用していた者が豹変して襲い掛かって来たような、突発的に現れる恐怖だ。もし、その様な恐怖を味わいたくなったら『彼』の出番だ(決しておすすめはしないが)。

幻想郷では、妖怪が人に化けることは稀にだがある。人に化けて生活を営むという事もある、実際飲み屋を覗けば角や尻尾の有る客人がいる事も珍しい事ではない。

この妖怪もその一種と考えられる。

だが、その妖怪たちと違う点が二つある。

 

一つは、この妖怪が自身を妖怪であると隠す気が無い点。

人里の真ん中で、堂々と殺気を漏らし楽しそうに歩く様は見る者を戦々恐々とさせる(そのくせ、頑なに妖怪だとは認めない)。

ここではこの妖怪を『彼』と呼ぶことにする、非常に残念な話だが『彼』の本来の名を誰も知らないというのだ。

 

そしてもう一つは『彼』は人里でよくみられる妖怪なのだが、その正体能力のすべてが一切の謎に包まれている。

目撃情報では、付喪神の傘の能力を無理やり発動させていたり、目視不可能な攻撃を白玉楼の剣術指南役の向けたりと、能力の統合性が全く見えない。

自身の力を誇示するのではなく頑なに、秘匿とする。

存在は広く知られているが、能力は全くの不明。

人はただただ、不安と恐怖を募らせる事になるのだ。

まさに妖怪としても異端の存在である。

 

*命蓮寺の妖怪に似たような特性を持つものがいるが、本人曰く『気に入らない』らしい、どうやら知り合いではある様だ。

 

 

 

目撃情報

『キョンシーをいつも連れているのを見た、死体の処理をさせてるとのもっぱらの噂だが、怖くて真偽を確認したくはない』人里の金物屋

 

『素手で剣を止めるのを見た、赤い火花の様な物が掌から出ていた気がする。なんとなくだが、それが「触らない方が良い物」だと思った』通りすがりの子供

 

『団子やで店員の態度が気にくわなかったのか、笑顔を強制していた。

機嫌を損ねるのは避けた方がいいかもしれない』ヤマモト屋の妻

 

 

 

 

 

どれもこれも、危険な妖怪であることは伝わってくるが肝心なことは何一つ解っていない。

ほぼ空白のページと言ってもよいだろう。

まさにこの妖怪は有名無実という単語がふさわしい。

 

「この妖怪をすっぱ抜けば……次の新聞の大賞は私で決まり!!」

思い立ったが即行動をモットーにしている射命丸。

即座に、外出用の服装に着替えて外に出かけた。

 

これが、彼女の生涯で忘れられない一日になるとも知らず……

 

 

 

 

 

「さぁて~、あのワンちゃんは何処ですかねぇ?」

妖怪の山の上空からキョロキョロと椛を探して飛ぶ。

やってきた鴉から椛のいるであろう、おおよその方向を聞き出す。

 

「ん!見つけた、見つけた!」

見覚えのある白い髪を見て、射命丸が急降下して椛の前に降り立った。

 

「どうも~清く正しい――」

 

「あっと、時間だ」

目の前の降り立った、射命丸を無視して椛がそそくさとその隣を歩いていく。

今に始まったことではないが、一瞬すさまじくめんどくさそうな顔をしたのを射命丸は見逃さなかった。

 

「ストップ、ストップ、ストップですよ!!何、無視して先に行こうとしてるんですか!?せめて『わーい!文さまだー、嬉しいワン!!』とかのリアクションをしてくれても良いでしょ!?」

去ろうとする、椛を肩を掴む!!

しかし尚も、椛は視線を合わせてくれない!!

 

「ちょっと、私の話を――」

聞いているのか?という言葉を射命丸は飲み込んだ。

椛の頭の白い犬耳は、ぺたーんと頭に張り付いており露骨な聞こえてませんアピールをしていた!!

 

「そ、そこまで私の話が嫌ですか!?」

 

「話というより、存在そのものが」

 

「聞こえてるじゃないですか!?」

嫌そうに話す椛に、射命丸のツッコミがさえわたった。

 

「で、なんの用ですか?私はこれから約束が有るんですけど」

決して友好的でない椛の視線が射命丸を射抜いた。

 

「いや、ちょーっと、暇そうなので人里に一緒にいって取材でも、と――」

 

「私、さっきも言ったようにこれから用事があるんです。では、失礼します」

約束があるの一点張りで、すたすたと歩いていこうとする。

 

「ま、待ってくださいよ。一体、誰となんの約束があるんですか?

貴方、基本休みは家でゴロゴロしてたり将棋指してるだけでしょ?」

最近、少し明るい噂もあるが、基本椛は暇だと思っている射命丸が再度目の前に立ちふさがった。

 

「友人と会う約束です。人里で夕食を一緒にとる予定です。

ほら、これでもういいですか?時間が迫っているので」

 

「待ちなさい椛!!その一件、私も連れて行きなさい」

再度椛の前に立ちふさがり、ビシッと指を突きつける射命丸。

その顔には、面白そうなものを見つけた!!と言いたげな厄介な笑顔が張り付いていた。

 

(ふふふ……あの堅物の椛にも遂に春が来ましたか。

そう言えば、風の噂で山に何度も入ってくる人間と、懇意な仲になっていると聞いた事が有りますね。

こっちをネタにしても面白いかもしれませんね)

射命丸の野次馬根性、もといジャーナリズムが激しく新聞への創造意欲を高めていく!!

彼女の脳内にはすでに『犬走 椛、白狼天狗から人間の愛玩動物へ転職!!~今夜も椛を躾けてワン~』や『ダメ犬、椛のご主人様への御奉仕奮闘記』などの怪しい見出しが想像されていく!!

 

「嫌ですよ、せっかくの休暇になんで、そんな不毛な物に付き合わなくちゃいけないんですか?」

 

「まぁまぁ、そう、言わずにー。

もっとも?私の速さを使えば逃げれる訳ないんですよね!!」

無駄にいい笑顔で、射命丸が付いてくる。

 

「…………チッ……」

そのうざったい態度をみて、椛が小さく舌打ちした。

その時、射命丸の肩に一匹の鴉がとまった。

 

「え?ソレっぽい人を見つけた!?ナイスですよ!!

さて、では私はまた後で、合流しますから~

そんじゃ、ばはは~い」

一方的に話し終ると射命丸が何処かへと飛び立ってしまった。

カラスに見つかっては流石に、逃げるのは無理だと思い一人で約束の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「詩堂さ~ん!」

パタパタと尻尾を振りながら、私服に着替えた椛が山の中腹にある木に向かう。

この木はもう何度も善との待ち合わせ場所として使われている。

偶に、他の天狗と将棋を指していたり、河童と相撲を取っている場合すらある。

 

「あ。椛さん、お仕事お疲れ様です」

実際の年齢より少しだけ、幼く見える人懐っこい笑顔を浮かべて善が椛の方を振り返った。その手には黒い鴉が握られていた。

 

「詩堂さん?何をやって……?」

 

「ああ、椛さん知ってます?鳥って生涯足を地面に付けたまま生活するから、こうやって……

ひっくり返されると混乱して、動かなくなるんですよ!!」

ペタンと鴉の背中を地面につけて手を離す。

善の言葉の通り、カラスはじっとしたまま動かなくなってしまった。

 

「へぇ、知らなかったですよ」

椛が笑う前で、善が動かなくなったカラスを持ち上げ、他の動かないカラスの隣に置く。

 

「ゴミでも有るのかな?今日すごいカラスが寄って来て……

さっきから捕まえては並べてを繰り返してるんですよ」

善の後ろには5~7匹の鴉が、転がされていた!!

 

「二へッ……早く行きましょう、詩堂さん。

せっかく手に入れたチケットですし!」

そう言って笑う椛の手には『九十九姉妹和楽器ライブ』の文字が印刷されている。

 

「え、ええ……行きましょうか?」

一瞬、転がるカラスをみて椛が黒いほほ笑みを零したように見えたが善はそれを無視して二人で歩き出した。

 

 

 

「お待たせしました~。こんにちは、私の名は清く正しい射め――何が有ったんですか!?」

タッチの差でやってきた射命丸が、地面に転がるカラスたちを見て大声を上げた!!

目の前の光景はまさに死屍累々!!動けなくなったカラスたちが弱点の腹をさらけ出して倒れている!!

 

「カ、カカァ……(ワリィ、文さま……奴らに逃げられた……)」

 

「ガ、ガァー……(何されたのか、解んねぇ……)」

 

「ガァー、ガァー(痛みも傷もねぇ、なのに体が動かねぇ……)」

 

「カ、カカッカ!!(慈悲の積りか!!いっそ殺せ!!)」

 

「な、なんて非道な事を……!!許せません!!

椛の彼氏め!!必ず今日の事は後悔させてあげます!!」

怒りに満ち視線を持ち、射命丸がその場から飛び立った!!

 

 

 

 

 

椛一行は……

「いやー、良かったですねー。和楽器の魅力って言うのを再確認できましたよ!!」

 

「そうですね、良い音色でした」

善と椛がお互いに、さっき聞いた音楽の感想を言い合う。

知り合いの小傘が付喪神である事からか、善は非常に興奮している様だった。

 

「あ、そうだ。椛さん、例のヤツ、手に入りましたよ」

背負っていたカバンから、一枚のサイン色紙を取り出す。

そこには、幽谷 響子のサインが有った。

 

「わはぁ……!鳥獣戯楽の幽谷さんのサインだ!!しかも、『椛さんへ』って書いてある!!」

パタパタと尻尾を振って椛が大喜びする。

 

「この前、ばぁちゃんの所に行った時にもらったんですよ。

一応知り合いなので……」

頬を掻きながら善が笑う。

予想以上の喜び様に、少し混乱気味だった。

 

「ありがとうございます!!お礼に今夜の夕食は奢りますね!!」

 

「いや、そんな悪いですよ。サイン位で、大げさな……」

 

「ダメです!!こういった恩には恩を返さないと――

さ、行きましょう?」

すっかりテンションの上がった椛が、善を連れお気に入りの店へと向かっていく。

 

 

 

「見つけましたよ!!」

目的の店の前で、射命丸が二人の前に立ちふさがる!!

往年の妖怪であるためか、こんな状況下でも羽を隠し人間にうまく擬態している。

 

「えっと、椛さんの知り合いですか?」

 

「ええ、私の上――」

 

「シャラップ!!私は、こういう者でして――」

椛の声を遮る様に、射命丸が社会はルポライターと書かれた名刺を差し出す。

 

「あ、コレはどうも。しまった、名刺を忘れた……」

反射的に名刺を受け取り、自身のポケットを探すが名刺が無い事に気が付く(最近師匠に作らされたらしい)。

 

「実は、本日は妖怪と人間の親交について調べてましてー。

天狗と友人のあなたはどんな人なのかなーと。

お話お聞かせ願います?食事でもとりながらで構いませんので」

酒を使って、言葉を引き出すのは射命丸の常套手段の一つであった。

嘘は書かない、()()。それが射命丸のプライドであった。

 

「そうですね、たまにはいいかもしれませんよ?」

今まで見たことの無い笑顔を浮かべて、椛が善を連れて近くの店に入った。

 

「座敷席が空いていてよかったですねー」

射命丸が通された、座敷席で善の前に陣取った。

 

(さぁて……あの子(カラス)達の分も記事に成りそうな事を、言ってもらいますよ~)

 

そんな事を考えていたら、ガラッと座敷のドアが開いた。

 

「お待たせしました。お任せ3品盛りです」

店員の置いた皿をみて、射命丸が目を見開いた!!

 

「こ、これは!?」

 

「何って、焼き鳥ですよ。ここ焼き鳥屋ですもん」

椛が今にも笑い出しそうな顔で話す!!

一瞬だけ、椛の笑顔が歪んだ気がした。

 

「いや~、此処の焼き鳥最高ですね」

隣で善が、櫛に刺さった鶏肉を口に運ぶ!!

肉汁が零れ、幸せそうに肉が屠られていく。

二人の捕食者によって、射命丸の目の前でみるみる肉が消えていく!!

 

「もう一皿、行きましょうか?」

すっかり空に成った皿をみて、椛が再度焼き鳥を頼む!!

そして、今度はスズメの丸焼きが並ぶ。

 

「あ、ああ……あああ」

呆然とする射命丸!!目の前の料理は鳥が引き裂かれ、串刺しにされ焼かれた物!!

当然いい気分にはならない!!

 

「椛さん、そっちのツクネ取ってください」

 

「はい、どうぞ?」

しかし!!そんな射命丸の様子に飢えたケダモノたちは気付きはしない!!

今しがた善が食べた物は、鳥をグシャグシャにつぶした物!!

それに少年がおいしそうに食らいつく!!

 

「も、もう、やめて……!!」

射命丸が小さく声に出すが二人は止まらない!!

尚も食事を続ける!!

尚も焼き鳥は供され続ける!!

 

「さて、アレ。やってみますか」

 

「そうですね」

二人が陶器の器を持ってくる。

その中にはうす茶色の卵が一つ。

 

「ま、まさか……」

射命丸の中に、嫌な予感が走った!!

 

「や、やめ――」

 

「ホイッと!カキマゼール!!」

 

カシャ

 

小さな音がして、卵が割れる!!

そして箸で激しくかき混ざられる!!

 

「と、尊い尊い命の揺りカゴがぁああああ!!!!」

 

「さ、射命丸さんもどうぞ?」

 

「食べてくださいよ」

善と椛の二人が、卵に焼き鳥を付けて射命丸に差し出す!!

 

「あ、は、はは……」

何時もの作り笑いにも力が入らない。

 

「「さぁ、さぁ。熱い内に――」」

善と、椛が同時にこっちを見て来る!!

そしてその手には、ホカホカと湯気を立てる……

 

「す、すいません!!用事を思い出しましたぁ!!」

射命丸はそれだけを言い放つと、幻想郷最速の力を使用して逃げて行った!!

余裕を常に持つ彼女らしからぬ必死の『逃げ』!!

その日射命丸は数百年ぶりに逃げる為に自身の能力を使った!!

 

「あれ、どうしたんでしょう?」

 

「さぁ?わかりませんね。くふふふふふ……!!」

訝しがる善と椛の含み笑いが小さく夜の闇に消えていった。

危ない顔して、ケタケタ笑う椛を見て密かに引かれたのはまた別の話。




私は、投稿し終わった作品を実際読んでみて、誤字などを探したりします。
最初にやれってのは、言わないでください。

それで、前回の誤字を探していたら「小傘が舌を出す」と書いたつもりだった部分が「小傘が下を出す」に成っている部分を発見。
脱いだのかよ!!と一人ツッコミを入れました。

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