止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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いろいろあって、遅れました。
お待ちしていた皆さま、すいません。


コラボ!!東方交錯録2!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

月という本来ならありえないシチュエーションでイグニスを見下ろしながら、墓場の真ん中で師匠が要求を提示していく。

「さて、私達が今欲しいのは――」

 

「ゲッホ!!ゴッホ!!うえ!?口が血と土の匂いがする!!ぺっぺ!!ぺっぺ!!」

イグニスと師匠の目の前で善が口から土と砂、あとよくわからない赤い液体を吐き出す。

げんなりした表情で、師匠が頬を引きつらせる。

 

「……情報よ。ここが何処か、なぜあなた達が――」

 

「クッサ!?なんか体から、酢酸系のスッパ苦い匂いがする!!クッサ!!

しかも包帯だけで、基本全裸だし!!あー、もう!!最悪だー!!

何でわざわざ土の中に、呼び出したんですか!?そうそうまた、死ぬかと思いましたよ!!」

更に、自身の体の匂いに気が付いた善が、嫌そうに身をねじった。

ボロボロと危うい位置まで包帯がズレる。

再度自身の言葉を遮られた師匠が露骨に不機嫌になる!!

 

「ぜ~ん?」

 

「ハイ?なんですか?」

 

「少し黙りなさい!!」

額に青筋を浮かべながら、師匠が善のノドに手刀を叩きこむ!!

 

「ぐぇ!?うぐッ!!お……ゴフッ……」

ビチャビチャと音をたて、善が血と土を口から吐き出して倒れる。

 

「ちなみに、貴方を土の中に呼び出したのはその方が、登場的にかっこいいからよ?」

倒れ伏す善に、師匠が言葉を投げかけた。

しかし善には聞こえていない!!

 

「ひっ!」

白目をむいた善の顔を見て、イグニスの武器であるソフィアが小さく息を飲んだ。

 

「さて、ええと……ああそうだ、この場所の情報と私達をここに呼んだ理由ね。

貴方の上司に聞いてきてもらえないかしら?」

 

地面の音もなくうずくまる善を無視して、師匠がイグニスに要求を突きつける。

「解りました、しかし私の一存ではどうにも――っていうか、この人大丈夫なんですか?」

イグニスが地面に倒れる善を指さす。

少し前まで、恐ろしい生き物だと思っていたがその考えはすっかり変わってしまっていた。

寧ろ哀れみや、心配すら覚える。

 

「イグニス様!!依姫さまからの通信です!!」

そこに向かって、一人の玉兎がモニターを持って走ってきた。

 

「あら、丁度良い物が来た様ね」

師匠がそれをみて、二ヤリと笑った。

 

「あー、死にそう……早速、死に戻りしそう……ゲッホ!!げほ……おえ……」

口から漏れたよだれを拭いながら、善が立つ。

 

「まだ、生きてる!?」

ソフィアが、震えながらイグニスの袖を握った。

 

 

 

 

 

薄型テレビの様なモニターに一瞬のノイズの後、一人の女性が映る。

この画面の相手が『綿月 依姫』らしい。

 

「はぁい、こんにちは。ご機嫌はいかが?」

挑発する様に、師匠が画面に映った女性に手を振る。

 

「ふん、侵略者のくせにずいぶんな挨拶だな?私が出向いて殺してやりたい位だ」

依姫が師匠を睨むが当の本人は全くと言っていいほど気にした様子はない。

 

「侵略者?私たちが?仕掛けてきたのは、貴女達よ?

こんな田舎に呼び出されて……

あーあ、嫌になっちゃうわー」

やれやれとジェスチャーをして見せる。

 

(なんだ?会話に齟齬が……)

微妙にかみ合わない会話に善が密かに頭をひねる。

しかしその疑問はすぐに解決した。

 

「そこは僕が説明するよ」

善の横、ソフィアと呼ばれた少女を隔てる様に座っていたイグニスが口を開いた。

 

「たぶん、この人達は今回の件に巻き込まれてだけでだ。

事実、蓬莱の薬を手に入れようとしていた男はもっと別の存在だった……

なん言うか、存在そのものが異質――人間っぽいんだけど、人間じゃない。

けど、具体的のどこがおかしいのかわからない……

例えるなら――そう、まるで『本物そっくりの造花』……」

 

思い出す様に、イグニスが自身の右腕を見る。

未だに剣とステッキを打ち合わせた衝撃が残っている気がする。

 

「そうか……お前にそこまで言わせる存在が……」

依姫がギリリと歯ぎしりをする。

 

「で?私達は『侵略者』さんと貴女達のくだらないイザコザに巻き込まれたって事でいいのかしら?」

話す二人を見て、不機嫌な様子で師匠が口を開く。

 

『そういう事になる……な』

バツが悪そうに、画面の中の依姫が視線を逸らした。

 

「ふーん?月のお偉いさんが、何の罪もない仙人を襲ったのね?

いきなり、玉兎をけしかけて……穢れ呼ばわりして、ふーん?」

ネチネチと、師匠が依姫に嫌味っぽく何度も声を掛ける。

 

「くッ……!!しゃ、謝罪はする……!!」

普段地上人を見下しているのか、苦虫を噛み潰した様な顔で頭を下げる依姫。

 

「謝罪?謝るだけなら、10にも満たない子供でもできるわよ?

賠償は?私達帰れなくて困ってるんだけどなー?」

 

「く、くぅぅぅぅ!!お、お前達の!!月にいる間の衣食住を保証する!!元の世界に変える方法も全力で探す!!その代り、大量の穢れを発するお前たちの今の住居は結界で封印させてもらう、これでいいか!!」

絞り出す様に、耐える様に依姫が決断を下した。

未だに墓場から漏れる、濃度の高い穢れの気配、それは月人である依姫達にとって猛毒の様だ。

さっきの言葉通り、自分で直接手を下さないのが証拠だ。

 

「まぁ、流石月の御仁!やることが太っ腹ですわー」

それを知ってか知らずか、にっこりと笑って師匠が両手を合わせる。

 

「ねぇ、善?あなた何か欲しい物はない?月の太っ腹な御仁がなんでも用意してくださるそうよ~」

師匠が善に向かって振り返ると……

 

「はぁはぁ……とりあえず、着るものと風呂、使わせてもらえませんか?」

ボロボロの姿で、震えながら善が話した。

話し合いの間ずっと、ほぼ全裸!!

墓場の奥の方から、橙が息を荒くしてこっちを見ているし、小傘すら顔を覆った指の間からこっちをチラチラと見て来る!!

はっきり言うと、非常にいたたまれない!!

 

「あー、近くに玉兎たちの訓練施設があります、そこを使いましょう。

依姫、連絡を入れておいてくれるかな?」

 

『ええ、解ったわ。イグニス』

イグニスと依姫の会話が終ると同時にモニターが切れた。

 

 

 

 

 

イグニスが、善を連れて廊下の一部を歩いていく。

此処は本来玉兎たちの訓練施設だったが、現在は善たち一行の為に開放されている。

師匠の家ごと、この世界にワープしてきたのはいいのだが、当然井戸などは使用不可能となっているし、穢れを嫌う月人にとっては『墓場』というのは穢れの塊の様なもので、家全体に結界を貼り出入りを不可能にしてしまったのだ。

この、急場の宿場は善たち一行にあてがわれた仮の家なのだった。

 

「入浴室はここです」

イグニスが、白い施設の一室の扉を開いた。

そこは豪華な銭湯の浴室の様に成っており、大小様々の風呂が有った。

 

「ココが?……あ!!すっごい!!ジェットバスとか有る!!」

はしゃぐ善を見て、イグニスが手早く詠唱をして指先に魔力を溜める。

そして、無言で善の後頭部に指を突きつける。

 

「…………」

 

 

「露天とかないかな?地球を見ながらってのも、経験してみたいよな~」

ワクワクした顔で、風呂場を見ている善。

すぐ後ろでイグニスが術を発動させているが、全く気が付く様子はない。

 

(この人……本当にさっきのヤツと同じ人物なのか?)

イグニスの中にそんな疑問が沸き上がる。

ついさっきまでとは、明らかに雰囲気が違う。

凶暴な魔獣を思わせる禍々しい男は、今となっては年相応のはしゃぐ子供に成ってしまっている。

イグニスの攻撃に気が付く、予兆すら見せない。

 

「あなたは一体なんなんですか?」

魔法を消すと同時にイグニスの口から、半場無意識にそんな言葉が漏れた。

 

「へ?ふつーに、人間ですよ?あ、仙人として修業中なので、完全に普通って訳ではないんですけどね?

あっと!!自己紹介忘れてましたね、私は詩堂 善。

さっきも言ったように仙人目指して修業中です」

にへらと笑い人懐っこい顔で手を差し出して来る。

 

「いや、そういう事じゃなくて……ま、いいか。危険はなさそうだし……

私はイグニス・ホワイト。この月では……まぁ、いろいろやってます。

あなた達一行は基本的にこの施設の中から出ないでくださいね?

いろいろと困る事が多いので」

どうも調子が狂うなと密かに、汗をかく。

そこまで話すとイグニスが会釈をして、部屋を出て行った。

 

「イグニス様、ご無事でしたか?」

男湯の入り口で待っていたソフィアがイグニスを心配する。

 

「大丈夫だよ。特にあの男は……

そっか、仙人か……ほかの世界には居るんだなぁ」

 

「???」

すっかり毒気を抜かれた、イグニスの態度にソフィアの頭が疑問でいっぱいになる。

 

 

 

 

 

「どうしたんだろ?あの人、まぁいいや。さて、この体では久しぶりにゆっくりできるな――痛ッ!」

体を洗おうとした時、激しい痛みが走り手にしていたタオルを落としてしまう。

落ち着いて改めて、自身の体を見るが痣や傷、何かを縫った様な跡が多い。

特にひどい物は、腹にある傷で反対側の背中にも同じ様な傷がある事から、何かが貫通した後だと解る。

 

「レーヴァテイン……か。

我ながら無茶したなー」

傷に手を這わすと、激しい痛みが走る!!

 

「アッ……ゲフ!!」

咳き込むと同時に、口に血の味が広がる。

 

「食道もか……」

フランが妖力は人間にとって猛毒である。との情報はウソではないらしい。

痛みをこらえながら、備え付けられていた椅子に腰を下ろす。

体に刺激を与えない様に、そーっとさっき落としたタオルに手をのばす。

 

「大変なことになったなぁ、体を洗うのも一苦労だ……」

 

「なら、私が手伝ってやるぞ?」

 

「え”?」

善の腕を追い抜いて、もう一本の白い腕が床に落ちたタオルを拾ってくれる。

善はその声の主を知っていた、というか毎日同じ部屋で寝起きしている。

そこにはタオルのみそ装備した芳香が、ほほ笑んで善にタオルを差し出す。

 

「芳香!?なんでここに!?師匠の差し金か?」

 

「そうだー、きっと困ってるだろうから、手伝ってやれって言われたー」

善の脳裏に、困っている善をあざ笑う師匠の邪悪な笑みが浮かんだ!!

 

「だ、大丈夫だ!!一人で出来るから――ッ!!」

再び腕が痛み、またタオルを落とす。

 

「あー、ダメダメじゃないかー。

大丈夫だぞ、ちゃーんと優しく洗ってやるからな?」

 

「あ、ああ……頼む……せ、背中だけだ!!前は自分で出来るから背中だけやってくれ!!」

不味いと解りながらも、善が芳香にタオルを手渡す。

こういった場合芳香は、変に頑固で折れてくれないので折衷案を出すのが賢いのだ。

タオルを受け取った芳香が、ボディソープを泡立てる。

 

「よーし、洗うぞ?」

 

「お、おう――ひゃ!?」

芳香のタオル背中に当たった瞬間、声がでた。

 

「どうしたー?痛いのかー?」

 

「い、いや、久しぶりの感覚で、ちょっとくすぐったかっただけだ……」

 

「そうか、痛かったり痒かった時は言うんだぞ?」

ゴシゴシと丁度良い、力加減で芳香が善の背中を洗ってくれる。

意外な心地よさに善が目を細めた。

 

「その……なんだ、洗うの、上手いじゃん……」

 

「そうか!?なら、今日から毎日やってやろうか?」

嬉しそうな芳香の声が、浴室に響く。

 

「それは俺が、師匠に殺されるから無理だな」

はははと、笑い話風に善が笑い飛ばすが――

 

「なぁ、善」

不意に芳香の手が背中を離れ、善の腹を後ろから抱きしめる。

 

「よ、芳香!?どうした!?」

体に直に感じる、芳香の感覚に善が慌てる。

 

「前にいったよな?死ぬのはだめだって――」

芳香の手が、善の腹――レーヴァテインの傷跡を撫でる。

痛がることを理解してか、あくまで優しく。

 

「確かに、言ってた」

死に掛けるたびに芳香に言われてる気がする言葉だ。

もう、ずっと耳のに残っている。

 

「なぁ、善。もう()()()()()()()()()()()()()

私はキョンシーだ……生きてないんだ、ただの動く死体だ……

だから、私を助けて善がケガするなら……

私を助けないでくれ」

 

「いやだ」

芳香の言葉にかぶせて善がはっきりと宣言した。

それは芳香の願いへの真っ向からの、否定だった。

 

「善!!私を助ける意味なんて無いんだ!!私が壊れても、すぐに直せる!!

それだけじゃない!!善も見ただろう?私以外にもキョンシーは沢山いるんだ!!

だから、だから――」

 

「お前は一人しか居ないだろうが!!俺にとってお前の変わりなんて、ドコ探しても居ないんだよ!!」

善が怒りに満ちた顔で立ち上がり、芳香の肩を掴んだ!!

目の前で芳香が、涙を目に溜めてイヤイヤをする。

しかし善が、芳香の頬を掴み自身の顔を無理やり見せる。

 

「お前は只のキョンシーじゃないんだ。俺にとって大事な人の一人だ。

師匠がいて、お前がいて、俺が居て、小傘さんが偶に遊びに来て、橙さんがいつの間にかいて――

そんな、生活が俺は好きなんだ!!俺は、このまま生きて行きたい。

その為には誰も欠けちゃ、いけない。

勿論お前もだ、だから、もうそんな事言うなよ?」

善の言葉を芳香が、呆然としたように見ていた。

パクパクと口を動かすが、言葉が出てこない様だった。

 

「わ、私は……大切なのか?」

 

「当たり前だろ?何を言って――うわ!?」

勢いよく芳香が善に抱き着いた!!

滑りそうに成りながらも、必死で踏ん張る!!

 

「どうした、どうした、どうした!?」

ふふふと笑いながら、芳香が善の肩に顔をうずめた。

 

「よーし!!元気だして、いくぞー!!」

一気に力を取り戻した芳香が、ハイテンションで風呂場を出て行った。

 

「なんだったんだ?」

一人残された善は、一人芳香の感覚を思いだそうとしていた。

 

ふにゅん……ふみゅん……ぽみゃん……

 

(うん!!柔らかい!!)

違う意味でスッゴイ元気出た!!

 

 

 

 

 

ガクガクガク……ブルブルブル……

善たち一行が居間の代わりに使っている会議室。

その端で、橙と小傘が抱き合って震えている!!

橙は尻尾を2本とも内ももに巻いてしまい、小傘は2色の瞳両方に今にも零れそうな涙をためている!!

 

「小傘さーん?橙さーん?覚悟はできてますねー?」

二人の目の前には、善が邪悪な笑みを浮かべ立ちはだかっている!!

 

「は、はひ……ぜ、ぜんさん……」

 

「げ、元気になって、よかったニャー……」

 

「二人とも……少し前まで――ずいぶん私を『可愛がって』くれましたよね?」

更に善が、笑みを強める!!

 

「ぜ、善さん、最近お師匠さんに似て来てませんか!?」

小傘が、怯えて声をうわずらせる!!

 

「そ、そうですにゃー、ニャー……」

橙に至っては、恐怖の余り無駄だと解っていても必死に猫のフリをしている!!

 

「さぁて……バツゲーム……執行!!」

 

「「ひぃ!?」」

非情な善の言葉で、両人が縮みあがる!!

 

「まずは、小傘さんへ――これを」

そう言って、灰色の布のくっ付いた筒状の物を渡す。

 

「そ、それは!?」

 

「そうです、折り畳み傘です!!」

バァーン!!と効果音が付いて、小傘の目の前で傘を折りたたんだり、開いたりする!!

 

「やめてぇぇぇぇ!!か、傘の骨を、折りたたむなんてー!!」

小傘が有らん限りの悲鳴を上げる!!

傘である、小傘にとって折り畳み傘は全身がべきべきに折れた痛々しい傘に見えるらしい。

 

「10回。小傘さんの手で、折り畳んでください」

 

「む、無理だよぉぉぉぉおっぉ!!」

小傘の絶望の声が、月に響き渡った!!

 

ガチガチガチ……

 

絶望した小傘を見て、橙が同じく震える。

 

「わ、私には……な、なにを!?」

 

「橙さんには――みかんをスジスジまで、きれいに剥いてもらいます!!それも、3個!!」

 

「ギニャァ嗚呼あああああああ!!!」

橙に3個のみかんを渡す善!!猫は柑橘系の匂いが大の苦手!!

それは猫又の橙も変わらなかった!!

つまり!!みかんの筋をすべて取るまで、ひたすら嫌いな匂いに耐えなくてはいけないのだ!!

 

「「いやだぁあああああああああああ」」

二人の悲鳴が、遠く遠く響き渡った。

 

「ふぅ……すっきりした」

 

「ぜ~ん?ちょっといいかしら?」

良い気分の善に師匠から声が掛かる。

 

「な、なんですか?」

嫌な予感に僅かに震えながら、善が反応する。

さっきの小傘、橙とほぼ同じ構図である。

 

「芳香の様子がおかしいのだけど……何かしたわね?」

 

「確定!?そこは確定なんですか!?」

笑顔で、威圧感を出す師匠に善がひるむ!!

 

「月まで来て……こんな非常事態に……アナタねぇ?

少し、は・ん・せ・い。する必要ないかしら?」

懐から、何時もと毛色の違う札を取り出す。

 

「し、師匠、落ち着きましょう?争いは――」

 

「知ってる。何も生まないわよね?だ・か・ら」

パチン!!と音がして、善の体から力が抜ける!!

次の瞬間には、地面に倒れる自分を見ていた。

 

「あ、あれ?」

 

「やっぱり、こっちの方がかわいいわぁ~

新しい、簪も似合ってるわよ?」

そう言って師匠が善を抱き上げる。

ふわりと髪が舞って善の視界を、青みかかった灰色が包む。

 

「また、この体ですかー!?」

 

「そうよ?まだ、あなたは回復途中なのだから。

イイでしょこの術、何処でもアナタをこの姿に出来るのよ?」

小さくなった、体で師匠の腕から抜け出す!!

 

「今すぐ、元の体に――」

 

ポン

 

善の両肩が後ろから伸びてきた、手に捕まる。

 

「え?」

振り返ると其処には――

 

「善さーん?」

 

「またこの姿ですね?」

小傘と橙が、にやにやして立っていた!!

 

「ふ、二人とも――」

 

「どうしようかな?」

 

「そうだねー?」

仲の良い友人の様に小傘、橙が笑い合う!!

 

「「また、かわいがってあげます!!」」

 

「いやぁあああああ!!!」

今度は善の悲鳴が、響き渡った。

 

 

 

 

 

月の重役の集まる部屋――

依姫とその姉の豊姫、さらには月の頭脳と呼ばれる永琳が並んで座っていた。

早くもオルドグラムの襲撃から、地球時間で一夜明けた。

 

「穢れを一時的に結界に封じ込めることに成功したわ、今後の影響は経過を見なくちゃだけど――」

永琳が資料を見ながら、つぶやいた。

 

「くっそ!!侵略者の魔術師だけでなく、おかしな奴らの対応もしなくては――」

 

「まぁまぁ、あせってもどうにもならないでしょ?ゆっくり一つずつ変えていきましょ?」

依姫に対して、豊姫が優しく諫める。

 

ガチャ――

 

「あ、イグニス帰って――貴様は!?」

イグニスかと思い緩みかけた、依姫の顔が再び険しくなる!!

 

「やぁ、月のお偉方。元気にしているかね?」

黒い服に巻き付く赤い包帯の様なベルト。

まるで自己がどこにいるかを教えているかの様な、自己顕示欲あふれる格好をした男がゆっくり入ってくる。

 

「どうして、此処が!?」

依姫が立ち上がり、腰の剣を抜く。

 

「どうして?完全な隠れ家など、在りはしない。

そんなことも解らないのか?」

やれやれとポーズを取る、オルドグラム。

 

「何が目的かしら?」

永琳が試す様に、声をかける。

 

「なぁに、単純な事さ。『不老不死に秘薬』を渡してもらいに来た。

ほら、だせ。そうすれば、血を流すことなくすべては解決する」

 

「抜かせ!!」

依姫がオルドグラムに切りかかる!!

 

「馬鹿め――!!」

それに対して、オルドグラムがゆっくりと腰のグリモワールに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

「すいません、遅れ――!?」

善たちの対応をしていて遅れていたイグニスが部屋に入ってくる。

イグニスが目の前の惨状をみて、呆然とする。

破壊しつくされた、部屋そしてボロボロの永琳と豊姫。

 

「い、イグニス……依姫が――攫われた……」

そう言って永琳が気を失い倒れる。

唯一無事だった、テーブルの上には一枚の手紙が置かれている。

 

『拝啓、月の首脳諸君。

私の名は、オルドグラム。偉大な錬金術師だ。

今回は諸君らの秘宝である『蓬莱の薬』をいただきに参上した。

しかし、今は品切れの様だ――そこで私は一計を案じた。

諸君の仲間一人と、薬を交換しようではないか。

薬が完成次第、私の召喚した墓場まで持ってきてくれたまえ。

 

諸君らの賢い判断を期待する。

                   オルドグラム・ゴルドミスタ』

 

「イグニス様……」

ソフィアが、話しかける。

 

「くそ……くそぉおおおおおおおお!!!!」

イグニスが、慟哭と共に思いっきり手紙を破り捨てた。




改めて、思うのは月の力加減の難しさ。
チートて、個人的に使いにくいイメージがあります。

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