コラボの相手は白煙さんの『東方交錯録~大罪を犯した少年は旅をする~』デス。
古代スタートで、いろんな意味でスケールの大きい作品です。
気になった方は見て見ましょう。
現代よりも遥かにありとあらゆる技術が進歩した世界――月。
そんな月で一人の男が、漆黒の空の下を駆ける。
白いカッターシャツに黒いベストとズボン、内側が黒で外側が赤の派手なマントを纏い、体のいたる部分に異様に長い、それこそ包帯のようにさえ見える赤いベルトを巻いている。
腕にそれぞれ4本、足にぞれぞれ7本など非常に目立つ外見。
右側の腰に一冊の本、反対側にはシルバーで鳥の意匠の付いた杖かステッキか……
「……あれか……」
男は、ターゲットを見つけると、そこにふわりと舞い降りた。
「な、なんだ貴様!?」
「まさか月面に侵入者!?」
扉の前で警備をしていた二人の玉兎が同時にその男に向かって銃を構える。
その様子は大層混乱していた様で、事態の異常性がよくわかる。
次の瞬間男が消える!!
「遅い……」
気が付くと玉兎の後ろに移動した男が、つまらなそうな顔をして杖を振る。
ヒュンと風を切る様な音がして、一匹の玉兎が意識を失い倒れ伏す。
「え……?」
相棒の倒れた玉兎はその姿を呆然と見ていた。
未だに状況がつかめていない様だった。
「すまないが、私の質問に答えてくれはしないか?」
ズイッと玉兎の目の前に、ステッキを突きつけながら男が話す。
話すその男の目は退屈そうで、ひどく濁っている様に見えた。
「は、はひぃ……!!」
「月の頭脳と言われた……ええと?誰だったかな?
まぁ、良い。とにかく、その頭脳とやらが作った『不老不死の秘薬』は何処にしまってあるのかな?ここか?」
扉にステッキを突きつけつつ、男が玉兎を脅す。
急かす様にカンカンと、扉をステッキの先端が叩く。
チラリと玉兎が視線を施錠されたドアの方に向ける。
「は、はいぃ……そ、そうですぅ……」
泣き出しそうな顔をした玉兎が何度も首をコクコクと縦に振りながら、絞り出す様に話す。
「そうか……ご苦労!!」
ステッキに黄色い光が纏われ、一撃で玉兎の意識を刈り取る!!
「軽い警備だったな」
男が剣の様にステッキを振るうと斜めに鋼鉄製のドアが切り裂かれる。
「見つけたぞ」
この時男の顔が初めて、喜びの正の感情を見せる。
その間に手を伸ばし保管庫の中から、3本の水色に輝くアンプを取り出す。
「これで、私は――」
「させるか!!」
パァン!!と銃声が響き、アンプが破壊され地面に液体が零れる!!
地面に3本分の液体のシミが広がった。
「おやぁ?少しは骨がありそうな奴がいるじゃないか?」
目の前には蒼く長い髪をした一人のローブの人物が立っていた。
いや、『人物』というのは御幣があるかもしれない。
背中から生えるコウモリの様な羽、口から覗くの白く長い牙が人でない事を物語っている。
「ソフィア!!」
「はい。イグニス様!!」
一体何時からいたのか、そのローブの傍らに立っていた銀髪短髪の美少女が瞬時に、2本の剣へと姿を変えた!!
「貴方は何者だ!?侵入者に容赦はしません!!」
「ほう。月で吸血鬼、というのもオツな物だな?名を聞いておこうか?」
「イグニス、イグニス・ホワイトだ!!」
「それはご丁寧に。私はオルドグラム、オルドグラム・ゴルドミスタ。
まぁ、簡単に言うと……
その言葉と同時に両者が跳ぶ!!
カァン!!キィン!!
空中で両者の、双剣とステッキが打ち合わされる!!
火花が空中で激しく散る!!
「くっそ!!コイツ!!」
「イグニス様!!」
「解っている!!その道具、奪わせてもらう!!」
イグニスが手をかざした瞬間、見えない力が作用しオルドグラムのステッキが独りでに動き、イグニスの手に収まる。
「むぅ!私の武器が……」
オルドグラムが驚きの表情をする。
しかし口調は興味深い物を見つけた様で非常に楽し気だった。
「武器の無い戦士は怖くない!!おとなしく投降しろ!!」
イグニスがオルドグラムの額に、双剣が変化した白い龍の意匠を持つハンドガンを突きつける。
「ほう……その武器、自在に変形できるのか……そしてさっきから聞こえてくる『声』なるほど?付喪神か……いや、道具に付着するのではなく『武器』という概念の――」
銃を突きつけられながら、全くオルドグラムが同様する様子はない。
それどころか、ソフィアと呼ばれた道具についての考察までしている。
「全く、コイツは一体なんなんだ?月面の侵入者っていうのもおかしいし……仲間もいないみたいだし……
おい!!聞いてるのか?」
イグニスが、オルドグラムを怒鳴る。
「ん?すまないな、考え事をしていたよ……さて、私はそろそろ
お暇させてもらうよ?」
ポン……
オルドグラムが右の腰に結わえ付けられた、羊皮紙の表紙の上等な本を撫でる。
タイトルは、『グリモワール・オブ・オルドグラム』
「しま――」
戦士ではなく、魔術師だと理解した瞬間イグニスが後ろに跳ぶ!!
「少し反応が遅いぞ?――詠唱『
オルドグラムの手に紫色の刃を纏う銀色の大剣が召喚される。
そしてそれを振った瞬間、剣から斬撃と無数の光弾が発射される!!
「ぐぅ!?光弾の斬撃の威力を0に!!」
一瞬障壁の様な物が出現し、すべての光弾を消滅させる!!
だが、斬撃は消えずイグニスは自身の双剣でその攻撃を受け止めた。
「くっくっく……油断が過ぎるぞ、吸血鬼よ。
私の武器は返してもらったぞ?」
オルドグラムが手に持つステッキをくるくると回す。
「くそ!!なら、もう一度奪うだけ――うわ!?」
ボウッとオルドグラムを囲むように、赤い魔法陣が広がっていく。
オルドグラムがぼそぼそと何かを唱えている。
間違いない、何かの詠唱だ。
それもさっきの剣の呪文よりずっと大掛かりな。
その時、イグニスの耳にしていたインカムにイグニスの交際相手の依姫から通信が入る。
『イグニス、大変だ!!多量の穢れが町に現れて、大変なことになっている!!
玉兎たちが対応しているが、正直力不足だ!!
すまないが、大至急応援に来てくれ!!』
「おやおやぁ?お仲間が大変の様だ。助けに行かなくてはいいのかな?ヒーロー君?
さぁ、選び給え。
君が手を取るのは私か?それとも仲間か?」
ニヤニヤとオルドグラムが、嫌な笑みを顔に貼り付かせ、せせら笑う。
イグニスは逡巡する、此処で敵を追うべきか、仲間を助けるべきか――
「くそ!!次は絶対に捕まえる!!」
「くははははは!!早く行きたまえ、大変なことになるだろうね?」
マントを翻し、オルドグラムは悠然とその場を歩いて後にした。
こうして今回の物語は始まった……
日常っていうのは簡単に壊れるらしい、思いもよらぬ相手から、思いもよらぬ方法で――
「な、なんだ!?」
突如起きた地面の揺れに、善が驚き師匠の膝から転がり落ちる。
「にゃ、にゃ!?」
「ひ、ひー!!怖いよ!!」
「なんだか揺れてないかー?」
同じ場所にした、橙、小傘、芳香までもが驚く。
対して、師匠は落ち着きはらっていたが。
「何かの術ね――善、外を見なさい」
師匠に促され、善は窓をみて絶句する。
空が上下逆さまだった、正確に言うと師匠たちの住居が地面、墓場ごと浮かび上がり。天地が逆転して、さっきまで地面だった穴にゆっくりと落ちていっている!!
地面の一部がまるで、コインの一部をひっくり返すかのように表裏が逆になる!!
そして、穴の開いた地面に上下逆さまになって落ちていく!!
「此処は……」
地面に落ちたハズの善たちの家は何処か見慣れない場所に、最初からそこに在ったかのように存在していた。
空は宇宙の様に暗く、見慣れない建物が広がっている。
そして、頭上に輝く青い星。
「ぜーん!!アレなんだ?見た事ないぞ?」
芳香が、頭上の青い星を指さす。
「あれは、地球だ……俺たちの住んでる惑星だ。
月が無い……ってことはここは月か?」
呆然としながら、善が芳香に説明する。
自身で言ってなんだが、到底頭が追い付かない状況に居る。
「じゃ、アレはダレだ?」
芳香が墓の入り口付近の人物に指を指す。
うさ耳を付けたブレザーの学生に見える。
丁度、何時か見た鈴仙がこんな格好をしていた様な――
「あ、あの――」
善が話しかけた瞬間、うさ耳の少女はすさまじいスピードで耳を動かし始める!!
「こちら偵察部隊、識別番号ロ―112!!穢れを発見!!地球人の侵攻と思われます!!」
叫んだ数秒あとにこちらに指鉄砲を構える。
「掃射開始、ファイア!!!」
「善!!危ないぞ!」
芳香が、善を抱き上げ師匠の元に帰ってくる!!
もうすでに、小傘、橙は家のなかに避難している様だった。
バタン!!
扉を勢いよく閉め、善が肩で息をする。
次々起こる異常事態に頭が付いていけていない。
「くそ!!何だってんだいきなり!!」
「さぁね?けど、喧嘩を売られたのは確かな様ね……
じゃぁ、こっちも反撃。しましょうか?」
そう言って珍しく好戦的な表情を浮かべ、師匠が天井を壁抜けして上がっていく。
「私もでるぞー!!」
芳香までもが、腕まくりをして外に再び出ていく。
「そこの穢れー!!おとなしく投降しなさーい!!君たちは方位されている!!」
表には大量の玉兎たちが、指を構えていた。
中には、ゴツイ銃を構えている者もいる。
「あらあら、ずいぶん私も舐められたモノね?
すごく……不愉快」
一枚の札を取り出し、地面に投げる!!
「有象無象の兎なんて、すぐに片付けてあげる。
保身勅命!!立戦我敵倒害、返命帰、仙名令!!」
手早く何かを唱えると――
「うひぃ!?」
一匹の玉兎が悲鳴を上げる!!
そのどよめきは群れ全体に伝わってくる!!
「ああ……ぼ……うぅ……」
墓の地面を突き破り、古代中国の歩兵の様な恰好をした無数のゾンビが立ち上がる!!!
「おー!!みんな久しぶりだな!!元気だったかー?」
芳香が、同じ死体仲間をみて目を輝かせて飛び跳ねる!!
「私のキョンシー達に勝てるかしら?兎さん?」
師匠の言葉で戦いの火ぶたが切って落とされた。
無数のキョンシーが不死の体で、玉兎を追い詰め。
玉兎は隊列を組み、隙の無い銃撃でキョンシーを近づけさせない戦法を取る。
「!?――みんな!!イグニス様がこっちに向かってるそうだ!!」
「なんだって!?」
入ったばかりの情報に、玉兎が士気を取り戻す。
此方に向かっているのは、月でも指折りの実力者、戦局を変えることは十分可能だろう。
明るい希望が、玉兎の中に広がっていく。
バァーン!!
一発の狙撃で大量のキョンシーが宙を舞う!!
多くの玉兎が、そこに降り立ったイグニスに目を輝かせる。
「イグニスさまー!!」「来てくれたぞー!!」「待っていましたー!!」
「みんな、よく持ちこたえてくれました。ここからは私が先陣を切ります!!」
師匠を視界に収めた、イグニスがスナイパーライフルを構える!!
「貴女を――討つ!!」
銃弾でけん制しつつ、イグニスが師匠の元に向かう!!
「うおおおおおおおお!!!」
スナイパーライフルを黒い龍の意匠を持った大剣を構え、師匠に躍りかかる。
「へぇ、少しは骨のある子もいるのね。
予定より少し早いけど、仕方ないわ――
一枚の札をイグニスの足元に、投げつける!!
「邪なる心持ちし、人の子よ。
我が名において幾千の邪法により死の壁をすり抜け……今ここに、蘇れ!!」
ボゴォ!!
地面から一本の腕が天を掴もうとするかの様に手を伸ばす!!
大量の血が付着し、見たことの無い術式が書き込まれた包帯を全身に巻き付けた男が立ち上がり、右手でイグニスの剣を受け止める!!
生身の体だというのに、剣と拮抗しさらにバチバチと赤い雷の様なエネルギーがほとばしる!!
「な、なんだコイツは!?」
目の前の男の存在そのものから、大量の穢れを感じる。
ボロボロの体に包帯だけを纏った男が、こちらに目を合わす。
「むぅぅぅぅぅぅあああああ!!!」
ガギィン!!
金属をはじく様な音がして、イグニスが吹き飛ばされる!!
イグニスの目の前で、善が地面から残りの体を引きずり出す。
「はぁー……ここは……空気が美味い、こんなに気が満ちた場所は初めてだ……神子様の仙界以上だ……それに体が軽い……月の重力下だからか?」
ゴキゴキと腕を動かして、自身の体の様子を見てる。
「うん。やっぱりこの体が一番だ」
その時善のイグニスの視線が交わった。
「さて……私達を襲うあなたを、処分しなくてはいけませんね!!」
善が腕に力を込めた瞬間、腕に巻かれた包帯が吹き飛んだ!!
抵抗する力が空気に反発して、バチバチと激しく音をたてる!!
「えい」
ボゴン!!
「イデェ!?」
いつの間にか後ろに立ってた師匠が、善の後頭部を殴りつける!!
「師匠!?一体何をするんですか!!」
「善、自分の状況を見て見なさい?
戦局は膠着、このまま行ってもこっちがジリ貧になるだけ……
貴方、結構権力のある地位よね?どうかしら、休戦しない?」
柔和な笑顔を浮かべ、師匠がイグニスに微笑みかける。
「休戦?こっちに、選択権が?」
イグニスは自身の置かれておる状況を見る。
敵地の真ん中で、救援はしばらくかかる。
更に目の前には、敵の大将クラスが二人……
この提案に乗らなければ、どうなるかは簡単に理解できた。
「……悪女め……」
「失礼ね、私は仙人よ?弟子だっているんだから♪」
師匠が有無を言わせない、表情で笑った。
コラボ一話目。
本来、私の作品に出す予定の無かった月メンバーと絡めるかもしれませんね。
そう言った嬉しい誤算もコラボの醍醐味です。
因みに、作中の敵は私の昔書いていた別作品のキャラです。
今回の舞台、ストーリー共に丁度いい配役なので、登場してもらいました。
スターシステムとでも思っていてください。
そしてビックリするほど、ふざけていない……
基本ギャグなのに……
「ふざけんな!!ふざけろ!!」状態です。
じ、次回こそは……!!