止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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投稿が遅れに遅れました。
少し、私生活でトラブルが有ったので……
来週からまたコラボかなー?


困惑!!新たな姿!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩ど――「ああーん!かわいいー!!」

ただ今、仙人目指して修行ちゅ――「ほぉら。こっちに来なさい?」

…………師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも――「来ないならこっちから行くわよ?」

 

ガシッ!!

 

「うふふ、よ~しよしよし。いい子ね~」

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうしてこんな事に?

 

「ずーっとこのままでいてね?」

嫌ですよ!!

 

 

 

 

 

 

外は桜が咲き、もはや春と言っても過言ではない今日この頃。

何時もの様に善が台所で、師匠たちの昼食の準備をしようとしている。

 

「よっと……おとと……」

今は訳あって、少し大きめの台を使い包丁を握る。

何時も来ている胴衣はダボダボで、上着だけで足まで長さが足りてしまっている。

そこに音もなく誰かが後ろに立つ気配がする。

おそらく、師匠だろう。

 

「今、すぐに食事を準備しますね」

後ろを振り向こうとした時、師匠に無言で包丁を取りあげられた。

不機嫌な表情で善を睨む。

 

「あの……師匠?何か――」

 

「『何か?』じゃないわ!!あなた何をしているの!!」

 

「昼の準備を……」

なぜか怒り心頭の師匠に対しておずおずと善が答える。

 

「お昼は芳香に買いに行かせたわ。あなたこっちに来なさい!!」

ヒョイっと善が師匠に抱き上げられ、居間まで連れていかれる。

師匠が座布団の上に座り、その膝の上に善が座らされる。

 

「はーい、此処で芳香が来るまで大人しく待ちましょうね?

包丁は危ないから、イタズラしちゃだめよ?」

ネコなで声を上げ師匠が善の頭撫でる。

自分の無力さに打ちひしがれ、善が居間に掛けられた大鏡を見る。

そこには、上機嫌で小さな子供を撫でる師匠が映っていた。

 

善が右腕を上げると、鏡の中の子供は左手を上げる。

鏡の中の子供が、悲しそうな顔をして善を見ている。

 

「いったい……」

 

「?」

 

「一体どうしてこんな事になったんだぁあああああああ!!」

 

 

 

 

物語はおおよそ一週間前にさかのぼる!!

フランの癇癪によって大けがを負った善。

しかし反則すれすれの手段と善の機転により、その窮地を脱した!!

だが、その時すでに生命維持が不可能なくらいまで、善の体は破損していた。

そして、意識を失い目が覚めると――――!!

 

「どうして子供になっているんだ!?」

善が鏡に映る子供をみて、声を上げる。

鏡の中の善は、どう見ても10歳に満たない――ちょうど数日前まで一緒にいたレミリア、フラン両名と同じかそれより少し幼い容姿をしていた。

愛嬌のある整った顔に、いたずらっぽい快活な印象を与える瞳。

腰までの長さのある青みがかった灰色の髪が揺れる。

 

「嘘でしょ?マジで!?」

ぺたぺたと自身の顔を触ると鏡の中の子供も自身の顔を撫でる。

 

「仕方なかったのよ。あなたが死んじゃうからいけないのよ?」

師匠が後ろから回りこみ、子供の体となった善を撫でる。

混乱の極みに居る善だったが『死んだ』という単語が聞こえて、体がピタリと止まった。

 

「死んだ……?私が?」

震えながら、自身の顔を指さす。

 

「ええ、そうよ。死因は失血死と内臓の破損ね」

それを聞いてさっきとは別の意味で意識が遠くなりそうになる。

 

「あ、あの……じゃあ、この体は?」

当然だが、自身の幼少期はこんな姿ではない。

というか、この体自身の本来の性別とも違う様な気が……

確認していないため、正確には言えないが……

 

「かわいいでしょ?私が用意したのよ?」

師匠がしゃがみ込み、善の顔にほおずりを始める。

 

「あなたは、あの一件で確かに死んだわ。

けどね?私、何時かこんな事が起きるんじゃないかって半分予想してたのよ」

師匠の言葉に、自身の身に過去に訪れた不運を思い浮かべる。

 

右肺が使えなくなった、命蓮寺での事件。

四肢に大ダメージを負った地底での一件。

どれもこれも、危機一髪で死を免れた事ばかりだった。

いうなれば、今までは『たまたま運が良かった』だけなのだ。

 

「イザという時の為に、芳香に言っておいたの。

『善が死んだらその魂を食べなさい』ってね?

回収した魂を、一時的に別の肉体に移す術は研究していた事が有るのよ。

その甲斐あって今、あなたはこうして、曲りなりにも生きてるのよねー」

 

「本当の……体は?」

震えながら善が師匠に聞く。

ひょっとしたらという、嫌な妄想を断ち切りたかった。

 

「私が直してるわ。私が邪仙で良かったわねー。

以前太子様たちに使った、戸解仙の技術と芳香を作ったキョンシーの技術を利用して体を再生させているわ。

驚きなのよ?あなたの能力のお陰かしら?壊れた体がすさまじいスピードで修復されているの、上手く行けば3週間くらいで復活できるハズよ。

ちゃ~んとした人間としてね」

師匠の言葉を聞き、安心した善。

腰から力が抜け、ペタリと座り込んでしまった。

ダボついた服がうっとおしいが今回はそんなの気にしない。

 

「は、はぁ~。良かったー、私の体は無事なんですね?

あー、あー、安心した」

深く深く息を吐き出す。

 

「ちなみにこの体は?」

そう言って自身の顔を指さす。

 

「私の作ったキョンシーよ。

昔は芳香以外にもたくさんのキョンシーを作ったのよ?

その中で、芳香が最高の出来なんだけど、その体が2番目にいい出来だったから残しておいたのよ。

それが、今回役立った訳ね」

 

「へぇ、流石師匠。ただの邪知暴虐の仙人じゃないんです――」

そこまで言って善は口をつむった。

師匠に対して暴言など、言ったら何をされるかわからない!!

自身の体に来るであろう衝撃に備え、体を縮こませる!!

 

しかし!!

 

その衝撃はいつまでたってもやってこない!!

 

「あれ?」

恐る恐る、善が目を見開く。

 

「全く、ひどいのね……せっかく、私が助けてあげたのに。

失礼しちゃうわ!!」

ぷんぷんと怒りをかわいくジェスチャーで示す師匠。

明らかに、何時もと様子が違う。

 

「そんな子はお仕置きです。なでなでの刑よ!!」

手早く師匠が、善を膝に座らせ体を無遠慮に撫で始める!!

 

「師匠!?ちょっと――くすぐったです!!」

 

「お仕置きなのよ?それくらい我慢しなさい」

その時、芳香がゆっくりと部屋に入って来た。

善は慌てて、芳香に助けを求めた。

 

「よ、芳香!!助けてくれ!!師匠が――」

 

「あー!ずるいぞ!!私も撫でたいぞー!!」

撫でられる善をみた芳香までもが、床に座り善を撫で始めた!!

 

「いいわー、動いていると……その体すごくかわいいわー!!」

 

「うへへー、私も善をよしよしするぞー!!」

邪仙と死体の二人に善がもみくちゃにされた!!

解放されたのはおよそ一時間後だった。

 

 

 

 

 

そして現在。

「あーあ……助かったのは良いんですけど、もう少し、成長した体なかったんですか?

本来の体と手の長さとかの勝手が違って、不便なんですけど」

余りに余った袖を振りながら、善は師匠に話す。

 

「あら、その体不満なの?こーんなにかわいいのに?」

此方の寄って来た師匠が無遠慮に善を再び抱き上げ、自身の膝の上に座らせる。

 

「不満っていえば不満ですよ……ぱっと見、男か女か分からないし……

なにより修業が出来ないのが、嫌です!」

師匠に撫でられながら、不満気に唇を尖らせる。

体が本来の物でないので、身体を鍛える系の修業は意味をなさない。

余談だが、ひねくれて、唇を尖らす善は正直言ってかなりかわいい。

 

「あら、その姿でも修業は出来るわよ。ちょっと待ってね?」

シュルリと音がして、善の視界がふさがれる。

音と顔に触れる材質から、師匠のいつもしている羽衣で目隠しされたのだと一瞬の混乱の後に理解する。

 

「ちょっと!?師匠何を――」

 

「慌てないの、ゆっくり私にもたれ掛かりなさい」

不安は多々あるが、ゆっくり善が師匠にもたれ掛かろうとする。

 

ポワン……フワン……

 

「!?」

 

「どうしたの?」

突然動きを止めた善を師匠が不思議そうに聞く。

 

「い、いえ……なんでもありません……」

そう言って再び、体を師匠に預けていく。

 

フワァ……ポイン……

 

(この独特の感触は……間違いない!!)

視界のふさがった善が心の中で密にガッツポーズをする!!

今、善は師匠の膝に座らされている。

そして本来の体より、2周り以上身長が低い。

本来は、芳香よりも高身長、師匠と同じくらいの善だが今は遥かに善の方が身長が低い!!

丁度師匠と芳香を見上げる立ち位置に居る。

 

つまり今、今!!この後頭部に当たる異様な柔らかを誇る物体は!!

 

(はぁ……はぁ……マジで……マジでいいの!?)

加速する善のリビトー!!男の本能スタンダップ!!

欲望解放率10.40.70!!加速度的に上がっていく!!

 

「ほぅら、もっとしっかり、もたれるのよ」

更に響く師匠の甘いヴォイス!!

それと同時に師匠が善をさらに抱き寄せる!!

 

「あ……あああ!!」

柔らかい感触は二つに割れ、善の耳を撫でその二つの中心に善が収まる!!

 

(ふ、ふかい!?谷間が……谷間が深い!?溺れる!!谷間で溺れる!?)

善は今更だが自身の身長を、計算に入れていなかった!!

子供の頃遊んだ公園に行くと、遊具が小さくなっている感覚は無いだろうか?

善には今その『逆』が起きている!!

日夜、善の煩悩を刺激する師匠のバストは、相対的に巨大化している!!

その結果、善は『溺れる』という事件に至ったのだった。

 

ダイブ・トゥ・ディープ…………善(の理性)は死ぬ。

 

「あら、どうしたの?そんなにニヤけて?」

 

「い、いえ……少し魂の深淵をのぞいてしまって……ビックリするほどユートピアでした」

 

「?……まぁいいわ。では今日の修業を始めましょうか。

まずは、その体制のまま私を感じ取って?」

先ほど考えていた言葉に続き、師匠のさらなる追い打ちに理性が吹き飛びそうになるが必死に耐える!!

欲を出したら最後、楽園からの追放は必至だ!!

 

「私の気を読み取るのよ?ぴたっとくっついてるからわかるでしょ?」

奪われた視界の中、心を穏やかにして師匠の気を読み取っていく。

極端な話だが、紅魔館でやっていた美鈴の技の応用だ。

暗闇の中で師匠の形がぼんやりと浮かんでくる。

草や地面、さらにフランの羽の結晶から吸収したのとは桁違いの気が師匠を中心に渦巻いていた。

 

「私の事……感じれた様ね?」

 

「はい……すごいです……私より、ずっと持ってる気が大きい。それだけじゃない、練度?濃度っていうんですか?それも、ずっとすごい……なのに、しっかりと人の形をしてる」

今ならわかる自分と師匠の力の違いに、善が息を飲む。

師匠はまさに自然などの超巨大なエネルギーを、人間の形に作り替えた様な雄大さがあった。

 

「うふ、それが解る様になったのなら、とりあえず良しとしましょうか?」

満足げな師匠の声が聞こえてくる。

 

「次よ。今度は、自分の気を移動させて他の物に影響を与えるの」

師匠の気が僅かに歪む、右腕を持ちあげた様だった。

 

カタン……カタカタ……

目の前のちゃぶ台から何かが動く様な音がする。

音的にさっきまで飲んでいた湯呑だろう。

 

「気功拳の遠当てもこの、応用ですね?」

 

「ええ、そうよ。空気中の気の流れ道を見つけて、私の気を流すの」

善は自身の気功拳を思い出す、アレは通り道を無視して腕に纏った気を直接ぶつける技だった。

 

「けど、今はそっちじゃなくて、気の読み方を覚えなさい。

体が違っても、それならできるでしょ?」

 

「はい!」

善は自身の気を伸ばし、周囲の物を探っていく。

ぼんやりとした、芳香の気。

天井裏になぜか有る気はおそらく橙の物だろう。

 

「?……い!?」

最後に善は地下の眠る禍々しい気を見つけ出す!!

生物が胎動するように、ドクンドクンとおぞましい気を流している。

 

「師匠!!地下……地下に何かが――」

慌てて師匠に話すが――

 

「ん?ああ。ソレ回復中のあなたの体ね」

 

「え!?俺の体って、こんな恐ろしい気纏ってるんですか……?」

今更だが、こんな気を纏っていたら妖怪と間違われるのも理解できる気がする……

 

「そうよ?普段はもっと隠れているんだけどね?

さ。今日はもう終わりよ、後は自分でやりなさい」

シュルリと再び音がして、善の視界が拓ける。

久方ぶりの光に善が、目を細めた。

 

「うーん、まぶし――」

そして、鏡に映る姿をみてまたしても固まる。

 

「え?師匠?母娘?」

鏡に映るのは、何時もの様に笑う師匠と、その膝の座らされる小さな師匠の姿!!

バッと立ち上がり自身の姿を見る!!

 

水色のワンピースに青のラインが入った白のベスト。

青みがかった灰色の髪はリボン結びの様に結ばれ、ご丁寧に簪まで刺さっている!!

ぶっちゃけると、師匠の何時もの恰好と同じだった。

 

「やーん!!かわいーい!!良く似合ってるわぁ~

詩堂娘々完成ね!!」

パチパチと師匠が手を叩いて笑う。

 

「詩堂娘々!?いつの間に着替えさせたんですか!?」

 

「さっきあなたが、ニヤ付いてた時。

気を読むので夢中だったから簡単だったわ」

 

「何でこの恰好!?服をくれるなら、普通にズボンをくださいよ!!」

夢中になって否定する詩堂娘々。

 

「嫌よ。可愛くないもの……ねぇ、善。その体は芳香と同じキョンシーなの、つまり放っておいても300年位は死なないわ、私も一生懸命お世話するから……

これから、私の娘として生きない?」

全く濁りのない目で師匠が善の目を覗き込む!!

 

「ぜ、絶対に――むぐ!?」

師匠が再び善を抱きよせる!!

今度は顔全体に襲う理想郷の柔らかさ!!

 

「ねぇ、なって?私の娘に……これからは詩堂娘々として、生きて?」

もがく善に、言い聞かせる様に優しく師匠が囁く。

善の理性がすさまじいスピードで溶けていく。

全てがどうでもよくなっていき……

 

「は、はい……今日から私は……詩堂娘々……として――――生き……生き……生きませんよ!!

お断りです!!私は元の体に帰りますからね!!」

必至に誘惑を振り切り、師匠の胸から逃げ出す!!

間一髪!!あとすこし、あと少しで善は本来の自分を失う所だった!!

 

「ちょっと出かけてきます!!」

追撃を恐れ、善は師匠の返事を聞かず飛び出した!!

目的地も無くがむしゃら、全力で走る!!

 

「まちなさぁ~い。まだ、貴女に着せて無い服があるのよ?」

セーラー服を持って師匠が追撃する!!

 

「ぜーん!!これを着ないか?」

同じく芳香も、メイド服を持ってくる!!

 

「何でだよ!?なんでそんな服持ってるんだ!?」

逃げる善!!逃げ出す墓の入り口付近で――

 

「逃がしませ~ん」

ネコ耳+尻尾+首輪+肉球グローブを持った橙と!!

 

「小傘さんまで!?」

 

「か、かわいいと思うから!!」

ゴスロリ服を持った小傘が立ちふさがる!!

味方は、居ない!!

 

「さぁ~、かわいくなりましょうね~?」

 

「いやです……やめて……やめて、本当に止めてください!!師匠!!アーッ!!」

*この後めちゃくちゃ着せ替えさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談『そして誰もいなくなった後』

 

 

 

 

紅魔館の地下奥、そこにフランの部屋は有る。

汚れた部屋も今ではすっかり、メイド達のよって修復されしっかりした部屋に戻っていた。

その中央、巨大なベットの上でフランドールが、呆然と天井を見ていた。

手に何か持ち、転がしている。

 

「レジル……」

右手の中にある、汚れた白い塊。

フランが善の足から引き抜いた骨だった。

 

部屋は直され、体の傷は癒え、善は死んだ。

 

全ては元に戻ったのだ。レジルの来る前の日常に。

メイド達も気にしているのか、フランの目の前で得てして『執事長』の名を出すことはなかった。

この骨が無ければ、あの日々は夢だったのではないかとさえ思ってしまう。

 

「いいんだ……私は……私がまた一人、人間を殺しただけ。

何も変わらない、何も――!!

きゅっとして――――」

善の骨を放り投げ、目を自身の手の中に移動させる!!

 

(そうだ、壊しちゃおうよ!!こんなもの(善の骨)なんて!!)

掌の目を壊せば、善の骨は砕ける。

全てを壊して元通りになるハズだった。

 

だが――何ごとも無く骨は地面に落ちた。

 

「なんで――なんで壊せないのよ!!」

掌の目がふと消える。

そしてベットから降りて、善の骨を大切そうに抱きかかえる。

 

「なんで――なんで、居なくなっちゃったのよ!!」

ぐずぐずと泣きじゃくりながら、フランがベットで善の骨を握りしめる!!

 

本当はわかっている。すべて自分のわがままの招いた結果だと。

無理して、引き寄せて、気に入らないと暴れて……結局大切な物は壊れてしまった。

 

「レジル――」

再び呆然として、静かに涙を流し続ける。

 

コンコン。

 

扉がノックされ、フランが現実に戻って来る。

おそらくメイド達がまた食事に呼びに来たのだろう。

だが、今はそんな気分ではない。

 

「入って来ないで!!今、一人になりたいの!!」

近くにあった、紅茶のポッドを中身ごと扉に投げ捨てる!!

 

ガシャーン!!!

 

派手な音がして、ポッドが割れた。

また、この手で物を壊した――

 

ガチャ

 

フランの言葉を無視して、扉が開く。

 

「入ってこないでって言ったでしょ!?アナタも壊して――」

 

「ダメですよ?今日の仕事は、お嬢様のお守りなのでそれに……

また遊ぶって約束したじゃないですか」

扉を開けて入って来たのは……

白いシャツに黒いジャケット、そして仕立ての良いズボン。

青と赤のネクタイ。

この紅魔館でこんな服装をする男は一人しか居ない!!

いつかのパーティを休んだ時と全く同じ言葉を話しながら……

紅魔館の執事長。リンジーノ・R・バイドが現れた!!

 

「レジル!!」

フランがレジルに飛びついた!!

支えきれずに、レジルがフラン事尻もちをつく。

 

「なんで!?なんでここに居るの!?アナタは死んだはずよ!!」

 

「雇用の日……今日までなんで……最後に来ました」

そう言ってレジルが笑い、近くに控えていたメイドから何かを受け取る。

 

「これ、レミリア様にお願いされた、クリームブリュレです。

後で渡しておいてもらえませんか?直接顔合わせるのは……その……気まずいんで……」

頭を掻きながら、レジルが白い箱をフランに渡す。

中から甘い匂いがする。

 

「なんで?なんで戻って来たの?私、レジルにひどい事したよ?いっぱい、いっぱいひどい事したのに……!!    

なんで?なんで!!」

泣きながら笑うフランをレジルが、やさしく撫でる。

 

「約束が有ったので。それにね?

お嬢様は、きっと一人で泣いてるんだと思ったからです……

一人は誰だって嫌でしょ?だから、此処に来ました」

前の様な屈託のない笑顔をフランに向けた。

 

「れ、レジルぅ!!!」

フランがレジルに抱き着いて、何度も顔を擦り付ける。

 

「あのね、あのね。私ね?ずっと、ずっと謝りたかったの!!ごめんなさいって……ごめんなさいって」

言いたいことが多すぎるのか、内容が不明になりつつあるフラン。

善は嫌な顔一つせずに、じっと聞いてくれた。

ゆっくりと長い長い時間を二人は過ごした。

 

ボーン……ボーン……

 

フランの部屋の時計が夜の12時を告げる。

レジルの最後の仕事が――――――――終わった。

 

「さて、行きますか」

レジルが立ち上がり、背伸びをする。

 

「ねぇ……また……また来てくれる?」

不安そうな顔でフランが小指を指しだす。

『約束』がしたいんだろう。

 

「難しいですね……」

善の言葉に、フランが泣きそうになる。

そう、シンデレラの魔法が12時で切れる様に、彼はもう紅魔館の執事、リンジーノ・R・バイドではなく、邪仙の弟子、詩堂 善なのだ。

 

「だから、お嬢様が遊びに来てください。そうすれば、私はいつでも遊んであげますよ?」

その言葉にフランが笑って小指同士を絡める。

 

「うん」

いつか見た笑顔よりずっと、きれいな笑顔をフランは見せてくれた。

 

 

 

「あーあ、無駄な時間食った!」

隣を歩くメイドが、背伸びをして悪態をつく。

手には、使用人室から回収した善と芳香の服一式がある。

 

「まぁまぁ……ぬえさん、たまにはいいじゃないですか」

ごそごそと袋の中から、青と赤のツギハギのデザインのマフラーを取り出し、首に巻いた。

メイドの姿がモザイクの様に溶けて、黒いワンピース服の少女に変わる。

背中に左右非対称の奇妙な翼が生える。

その姿はまさに、命蓮寺に住む大妖怪ぬえだった。

 

「私は正直言うとアンタの事、大ッ嫌いなんだからね!?マミゾウが頼むから仕方なく付き合ってあげただけなんだからね!!」

その言葉が終る瞬間、善の姿が子供の姿に戻る。

 

「あ、バァちゃんの力が切れた……小悪魔さんにも、お礼言わないと……」

善は、マミゾウに頼み込んで元の姿に化けさせてもらっていたのだ。

全ては、フランに会うためだった。

幸いシフトはわかっていたので、今日外出予定の小悪魔にコンタクトを取り、裏口から紅魔館に入れてもらったのだ。

 

 

「あ!」

何かに気が付いた、ぬえが再びメイドの姿に変わる。

前からくるのはこの屋敷の主、レミリアスカーレットだった。

 

咄嗟にぬえが善のも『正体不明の種』を使ったので、善も今は只の「見知らぬメイド」に代わってるハズだった。

 

心臓をドキドキさせながら、レミリアの隣を通り過ぎる。

 

「なぁ、お前」

レミリアの後ろにいた善が立ち止まる。

 

「は、はい……お嬢様……」

バレたかと、あせる。

 

「よくもやってくれたな……本来なら、ここの場で引き裂いてやるのが私流だが……

フランが悲しむ。

妹に免じて今日は見逃してやる。

それと…………これからも妹をよろしく頼むぞ?

何かあったらウチに来い。食料としてなら雇ってやる」

それ以上は何も言わずに、レミリアは去っていった。

 

「……運命を操った?今日、俺がこのタイミングで来るように?……まさか……ね?」

やきもきした気持ちを抱えながら、善は先を行くぬえを追った。




本編と余談の温度差がヒッデェ……
因みに命蓮寺に行ったときの善の姿は、詩堂娘々のままでした。
マミゾウとぬえにドン引きされたのは仕方ない……

一応新しい姿は男です。
一応は……人里でHENTAIさんたちに絡まれる描写(上半身服ブレイク有)を書いたが、需要が無いので消しました。

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