止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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最近少し涼しくなってきましたね。
実の事を言うと、ラムは夏や春より冬が好きなんです。
空気が澄んでいて、朝の布団がすごく心地よいのが私なりのポイントです。
それでは、今回のお話をお楽しみください。


暗雲!!死体と悪魔!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

やっぱりこっちの方が安定するな……

 

 

 

 

 

「おい、こっちだ。はぐれるなよ?広いから探すの大変なんだからな?」

 

「わかったぞー」

善が芳香を連れ、自身の使っている使用人室まで連れていく。

というか、さっき噛まれた傷がやばい!!

早く、師匠の包帯を巻かないと出血で倒れることはもはや明確!!

 

「おおー!!広いぞ!!すごいぞ!!」

使用人室の広さに芳香が目を輝かせ、はしゃぎ始める!!

 

「で?突然何の用なんだ?」

包帯を巻きながら善が芳香に尋ねる。

 

「んー?えーと……あれ?なんだっけ?なにか……する事が?」

頭を抱える芳香、ごそごそと自身の服のポケットを漁り始める。

 

「おいおい……しっかりしてくれよ?」

 

「うーん?あ!!そうだ!!」

 

「思い出したか?」

ギュルルルルッル……

 

「お腹が空いたぞ!!」

すさまじい音と共に芳香が、言い放つ!!

一気に脱力する善。

対する芳香は、用事を思い出すのはあきらめていた!!

 

「わかった、何か作ってきてやる」

 

「うおー!!善のご飯だー!!」

喜びの余り芳香が善に跳びかかって来る。

柔らかい芳香の感触に善が頬を緩ませるが……

 

「うぇ!?ゲホッ!!臭!!なんか、洗ってない犬みたいな匂いするぞ?」

強烈なにおいが鼻に突き刺さる!!

 

「なんだとー!!ちゃんと3日前にお風呂に入ったぞ!!」

善の言葉に芳香が抗議の声を上げる。

 

「3日前かよ!?ちゃんと毎日入りなさい!!師匠は何してるんだ……」

よくよく見ると芳香の服は所々解れて、砂埃や泥が付いている。

ぶっちゃけると小汚い。

 

「えーと……思いだしたぞ!!3日前に、手紙を預かって善の居る場所まで行くのに迷ったんだった!!」

パアッと表情が一気に明るく成って、ポケットから一通の手紙を取り出す。

 

「お前、3日間ずっと俺を探してたのか?」

 

「そうだぞ?大変だったんだからな?」

芳香の恰好を見ると、その言葉に嘘が無い事はすぐにわかった。

同時に、自身の為にここまでしてくれたという申訳なさが出て来る。

 

「そうか……うん。

腹減ってるんだよな?飯作ってやるから……レミリア様に頼んで風呂場を使わせて――」

その時、使用人室の扉が開かれる。

顔をのぞかせたのは、善の雇い主のレミリアだった。

美鈴からの報告を聞いて、やって来たのだ。

 

「善、当主に隠れて女を連れ込むとは……お前も隅に――――

あ”、えっと……取り込み中だった?」

芳香を抱きしめる善を見て、頬を染めて扉に身を隠す。

モジモジとしながらも、扉の端から此方の様子をうかがう。

今回のカリスマブレイクタイム 1,08秒!!

 

「おー?お前が館の主人かー?」

 

「そ、そうよ?私がこの館の――」

 

「手紙を預かってきているぞ」

レミリアの言葉を無視して、芳香がレミリアにくしゃくしゃに成った手紙を差し出す。

チラッとだが、差出人の所に師匠の名前が見えた。

 

「あ、あら。ありがと……」

芳香の独特の雰囲気が苦手なのか、レミリアは困惑気味だった。

しかし直ぐに、態度を直すと再び威厳たっぷりで善に向き直る。

 

「善。お前の知り合いとはいえ、この女は我が紅魔館の客人だ。

粗相のないようにお前が接待しろ、いいな?」

 

「ハイ!!ありがとうございます!!」

善の態度を見て、レミリアが満足げに頷いた。

しかし!!

 

「じゃー私をお風呂に入れてくれ!!」

 

「流石にそれはダメよ!!」

芳香の言葉に一気に噴き出す!!

カリスマブレイク!!2回目!!

驚きのスピードでカリスマブレイク!!

 

「お嬢様、実はここに来るまで3日位彷徨っていたらしくて、泥だらけなんですよ。

流石にこのままは……」

 

「わかった、わかったわよ!!咲夜に入れさせるから、アンタは……えーと……何か作ってあげて!!」

 

「了解しました。さ、お客様此方へ」

一瞬にして咲夜が現れ、芳香を浴場へと連れていく。

 

「あ、善。コレ持っていてくれ」

自身の額に貼ってある札をはがし善に渡す。

 

「濡れるのは困るもんな」

 

「その……大事な物だから……イタズラしちゃ……ダメ、だぞ?」

なぜか恥ずかしそうに、頬を染めながら札を渡して来る。

キョンシーにとって、札はどの様な扱いか善が激しく気になった。

 

「あ、預かっておくよ……」

ぎこちなくそう言って芳香を見送った。

 

「お前の知り合いは、面白い奴が多いな」

さっき渡された手紙を読みながらレミリアがつぶやく。

 

「お前の師匠が、図書館の閲覧を求めてきた。

どこぞの魔法使いより、よっぽど紳士だな」

読み終わった手紙を、自身のポケットにしまい踵を返す。

 

「あ、あの……お嬢様。芳香の件ありがとうございます!!助かりました!!」

去っていくレミリアに対して善が深く頭を下げる。

 

「ふふ、気にするな。無礼を働かぬ者を追い返すのは、紅魔館の名折れ。

私は、そう思って行動しただけだ。

だが――お前が私にどうしても礼をしたいなら…………」

急にごにょごにょと小さくレミリアが言葉を漏らした。

とても小さくて、善は聞き取る事が出来なかった。

 

「え?すいません、聞こえなかったのでもう一回お願いします」

 

「また……れ………を……れ」

尚も小さな声が帰って来る。

 

「はい?」

再び善が聞くと、チョイチョイと指でこちらにしゃがむ様にレミリアが指示する。

そのジェスチャー通り善がしゃがみ、レミリアに耳を近づける。

 

「その……また、ブリュレを作って欲しい……の」

照れながら、レミリアがそう頼み込む。

小さな子供がオヤツをせがむ様な、無駄にかわいい感覚だった。

 

「良いですよ?その位なら、いくらでも」

気が付いた時には、善はレミリアの頭を撫でていた。

 

「ちょっと!!なに撫でてるのよ!!」

 

「いや、なんか。可愛かったんで……つい……」

怒るレミリアから慌てて手をどかす。

見た目は幼女だが、相手は強豪妖怪に違いなかった!!

 

「全く!!アナタは私が悪魔だという自覚が無いのかしら?」

カーッと歯を見せ威嚇する!!

しかし!!

 

「いや、小さい子が脅かしてるみたいで、むしろ微笑ましいですね。

撫でていいですか?」

再びレミリアに手を近づける善!!

 

「馬鹿にしたことを後悔させてあげるわ!!」

 

「へ?イデェ!?」

レミリアが飛びかかり善の首筋に食らいつく!!

首から何かが吸われる様な感覚が伝わって来る!!

 

「お嬢様!?吸ってる?まさか吸ってます!?」

 

「ぷはぁ!!結構なお手前でした」

口と服をこぼした血で真っ赤にしたレミリアが降り立つ。

ご飯をこぼす子供的なかわいさだが!!

口元周りが非常に物騒!!

まぁ、それに目をつぶって、かわいさだけを見ると吸血無限ループに陥る事は読者諸君でも理解できるだろう。

え?陥りたいって?知らんな!!

 

「うえぇ……血吸われた……俺これから日陰者か?

いや、むしろヴァンパイア仙人とか目指すか?」

自身の首筋の傷を気にしながら善が話す。

 

「馬鹿ね、そんな訳ないじゃない。

吸血だけで吸血鬼が増えたら世界は今頃、吸血鬼だらけよ?

ちゃんと妖力を相手に送って、吸血しないと吸血鬼の眷属には成らないわ」

口元の血を拭いつつ説明する。

それを聞いて善が安心する。

 

「ホッ……一瞬だけど、全力でどうしようか悩みましたよ……

あー、良かっ――イデェ!?」

 

胸をなでおろす善の首に再びレミリアが食らいつく!!

そしてさっきよりも、勢いよく吸血される!!

 

「なんで、今噛んだ!?」

 

「貴方って、意外と美味しいのね?食料要員としてもイケるわよ?」

再び口元を汚したレミリアが、楽しそうに翼を羽ばたかせる。

 

「謹んでお断りします!!」

 

「そう、残念ね?まぁいいわ。私の恐ろしさが身に染みたでしょ?

それよりもさっきのブリュレの件忘れないでね?」

溜飲が下がり満足したレミリアは、今度こそ使用人室から姿を消した。

 

 

 

 

 

廊下にて……

 

『良いですよ?その位なら、いくらでも』

さっきレミリアの問いに対して善が言った言葉だ。

その言葉を聞いた本人は、思案をしながら廊下を歩いていた。

 

「ふぅん……悪魔()に対してずいぶん、軽く答えたわね。

さて、これからどうなる?前々からそうだったが……

あの一言から、一気に運命が読めなくなった」

コレはどんな場合かレミリアは知っていた。

 

「運命の岐路に立たされている時……か

あの男……一体これからどうなる?」

 

「おー?独り言かー?」

 

「うわ!?」

レミリアを覗き込む芳香の言葉に、腰を抜かし床に尻もちをつく。

 

「だいじょーぶか?」

 

「ええ、心配しないで。貴女はさっきの部屋に戻りなさい?

私の執事が、食事を用意しているハズだから。

洗濯と、服を繕うのに時間がかかるから今日は泊まっていきなさい、ね?」

近くにいた妖精メイドに、案内する様に言付けその場を後にする。

 

 

 

 

 

「ぜーん!!戻ってきたぞー!!」

使用人室の扉を開いたが、善が居ない!!

一瞬何処か考えるが、すぐに自分の為の食事を用意しに行ったことを思い出す。

 

「しかたないなー、しばらく待つかー」

ベットに座り、善を待つ。

フッと鼻に懐かしい香りがする。

 

「このベット、善の匂いがする……」

何時も使用しているマットレス。

偶に、猫が入ってきて善の布団で『善さん!!善さんに包まれてましゅぅうぅ!!』とかやっていたがなんとなく今ならその気持ちが解る。

 

「良かった……私。善の事忘れてないぞ」

芳香の記憶は消えやすい、その事は芳香本人が良く理解しているつもりだ。

正直言うと今日不安だったのだ。

自分が善を忘れていないか、善の顔を見ても解らないのではないか……

そんな不安が、絶えずついて回っていた。

だが……

 

「だいじょーぶだ。ちゃーんと覚えていたぞ」

なんだかうれしく成って、心がくすぐったく成って善のベットに寝転んだ。

 

「うん……この匂いも覚えてる……」

その時扉が勢いよく開いた!!

 

「レジルー!!あーそーべ!!」

命令系で勢いよくフランが、使用人室に入って来る!!

そしてベットに寝転ぶ、芳香を見つける。

 

「アナタ誰?おねぇ様が新しく雇ったメイド?」

 

「んー?私はメイドじゃないぞ?キョンシーだ!!」

勢い良く立ち上がり、額に札を見せようとする。

もっとも今は善が持っているので、何もないのだが……

 

「きょんし?何それ?まぁ、いいや。レジルは何処?」

 

「ん?れじるって誰だ?私は知らないぞ?」

常識が欠如している系女子の会話!!

見事にかみ合わない!!

 

「ぶー、なんで居ないのよ!!

今日はお休みだって言うから、一日中遊んでもらう積りだったのに!!」

フランが不機嫌そうに、地団太を踏む。

余りの威力に床がミシミシと危険な音をたてる!!

その時再び、扉が開いた。

 

「おまたせー……って芳香!?

なんだその恰好?」

入って来た善が芳香の恰好を見て驚く。

それもそのハズ、何時も赤い中華風の上着に濃紺のスカートだった芳香は今、メイド服を着ていた。

フリルが華美でない程度に付いた、エプロンドレスに身を包んでいる。

前情報さえなければ完全に、紅魔館のメイドにしか見えない。

 

「服がほつれていたから借りたー、銀髪の女の人が貸してくれたぞ?」

その情報に咲夜の事だと善が気づく。

 

「そうか……後でお礼言わないと」

 

「最初の服は、胸がきつくて入らなかったんだー」

その言葉で完璧に咲夜だと認識する善!!

 

「そうか……後で謝らないとな」

何かを察した善が、気まずそうにつぶやく!!

 

「ねぇ、レジル。この子、知り合いなの?」

 

「善、この子は誰だ?」

フラン、芳香両名が同時に善に聞いてくる。

 

「順番に説明するから待っててな?

まず、芳香からだ。

この子はフランお嬢様、この屋敷の主であるレミリア様の妹だ」

 

「フランドール・スカーレットよ。よろしく」

しぶしぶと言った様子でフランが自己紹介をする。

 

「で、今度はフラン様に。

コイツは芳香。私の仙人の師匠の作ったキョンシーです」

 

「よーろーしーくー」

善に札を貼ってもらいながら、芳香が手を振る。

何時もの様に人懐っこい笑顔だ。

 

「腐乱ちゃんかー、なんだか、親近感がわくぞー」

 

「何だろう?少しむかむかする……」

それに対してフランはつまらなそうに話す。

 

 

 

「ぜーん!!お腹空いたぞー!!ごはんまだか?」

 

「わかってるって、余ったパンと牛乳が有ったからフレンチトーストにしてみた。

こういうのって初めてだろう?」

ニコニコと笑いながら、手に持っていたフレンチトーストの山をテーブルに置く。

見たことの無い食べ物を見て、芳香が目を輝かせる。

 

「メープルシロップをかけて食べるんだ。コレな?」

芳香の目の前で、シロップを垂らしていく。

 

「うまそうだぞ!!善!!はやく!!早く食べさせてくれ!!」

ひな鳥の様に芳香が口を開き、善を急かす。

その様子を善が楽しそうに見る。

 

「ほら、よく噛んで食えよ?」

 

「むぐ……むぐ……上手いぞ!!甘い!!それに……美味しいぞ!!」

何度もうまいうまいと、芳香が口に出す。

その度に善は、何度もナイフとフォークを口もとに運んだ。

 

「おまえは、もう少しボキャブラリーをふやせないのか?」

そうは言うが、善の表情は楽し気であった。

 

バギィ!!

 

突如、床が砕け穴が開いた。

音に驚いた善がそちらの方を向くと、フランが床を右足で踏み抜いていた。

 

「フランお嬢様?」

 

「ねぇ……なんでその子に構うの?」

押さえる様な口調で、絞り出す様に話す。

下を向いているフランの表情は解らない。

 

「客人ですので……レミリア様からもてなせと、言われています」

 

「じゃあ、ソレ食べたら帰ってもらってよ。

ううん、それより誰か他の人にその子の相手させてよ。

ねぇ、レジル。今日も私と遊んでよ?」

尚も、頭を下げたままフランが話す。

何時もの明るい声色が嘘のような暗い声だ。

 

「今日は泊まっていけって言われたぞ?」

口にシロップを付けながら芳香が、トーストにかぶりつく。

 

「お嬢様、今日だけは勘弁してもらえませんか?

せっかく尋ねて来た芳香を――」

 

「もういい!!」

善の言葉を遮るようにフランが叫ぶ!!

妖力が漏れだし、部屋その物が揺れる!!

羽を広げ、扉を乱暴に開いて走り去ってしまう!!

 

「フランお嬢様……」

善がフランの去っていった方を、複雑な面持ちで見た。

 

 

 

 

 

嫌い!!キライ!!きらい!!レジルも!!レジルを奪うあのキョンシーもキライ!!

 

フランが一人紅魔館の廊下を走っていく!!

目的地など特に決めていない。

タダ自身の心に中にあるムカつきから逃げる為に知り続ける!!

 

バダン!!

 

「あら?どうしたのフラン?そんな顔して」

玉座に座っていたレミリアが、驚きの声を上げた。

気が付かない内に、レミリアの部屋まで走ってきたようだった。

 

「おねぇ様……私、アイツ嫌い!!大っ嫌い!!」

感情を込めて、思いっきり叫ぶ!!

 

「どうしたのフラン?何かあったの?」

怯える様子もなく、レミリアがフランを心配する。

 

「レジルが、遊んでくれない……あの死体の世話ばかりするの!!」

 

「彼女は客人よ?たとえ相手が死体でも、客人であればもてなすのが私の流儀よ?

それに、何もしなくても明日で帰るわよ」

慰める様に、レミリアがフランを撫でる。

 

「本当?」

 

「ええ、手紙を読んだの。

明日、レジルの師匠が図書館に本を借りに来るそうよ、事前に知らせるなんて何処かの魔法使いに見習わせたい――っと、話がそれたわね?

まぁ、明日来た時、一緒に連れて帰ってもらうわ。

これで問題無いでしょ?」

レミリアが笑顔で応え、フランの目に希望が一瞬だけ見えた。

 

「レジルの師匠?」

気に成った単語を、思わず口に出す。

その反応にレミリアは思わず答えてしまった。

 

「知らないの?あの子、今時珍しい仙人に憧れているんですって。

で、明日の客人はレジルの師匠なのよ」

 

「レジルは……レジルは紅魔館(ウチ)の雇った執事長じゃないの?」

 

「そうよ、でも一時的な物ね。

一か月だけ、あと10日程度でその役目も終了よ」

レミリアの言葉を聞き、フランの目の前が真っ暗になる。

 

10日?たったの?あと、たったのそれだけで……

 

「……レジルはどうなるの?」

祈る様な、懇願するかのような声でフランがレミリアに尋ねる。

 

「帰るの、本来の場所、あの師匠の元に――」

 

「ヒグッ――」

聴いてはならない言葉、それをフランは聞いてしまった。

 

「ちょ――フラン!?何処に行くの!?」

気が付いた時にはフランはもう走り去っていた!!

何処をどう、どれだけ走ったかさえわからない。

気が付くと、フランは自分の部屋のベットで布団にくるまって、泣いていた。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ……レジル、レジル、レジル……!!」

ガクガクとまるで真冬の寒空のした、裸で放りだされたかの様に震える。

 

「嫌だぁ……嫌だぁ……」

壊れたオルゴールの様に、同じ言葉を繰り返し続ける。

 

『何で泣いてるの?』

何処かから聞こえる声が、フランの耳に届く。

 

「レジルが……レジルが!!」

 

『そうだよね?悲しいよね?辛いよね?

やっと一緒に遊んでくれる、オモチャが出来たのに、取り上げられるなんて嫌だよね?』

『声』はフランの心を揺さぶる様に、語り掛ける。なんども、なんども……

 

「うん……もっと、遊んでほしい……」

 

『あの死体は、ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅとレジルと楽しく遊ぶんだろうね?()()()()()

その言葉に、フランの声が上ずる。

 

「いや……いやぁ……」

ぽろぽろと涙が、布団をぬらす。

 

『なら、レジルを捕まえよう?捕まえて、壊して、私のオモチャにして……

この部屋でずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと遊ぶのよ?』

 

「あはッ!それって……それってとっても、とーっても素敵」

涙の付いた頬をぬぐう事すらなく、張り付いた笑みを浮かべながらフランが立ち上がる。

 

『「あの、死体の目の前で、レジルを私の物にしちゃおう」』

暗い、地下の部屋で狂気の蕾が今、花開いた。




巻末おまけコーナー!!

フランちゃんのいなくなった、使用人室編!!

「一体何だったんだ?」

「善!!もっと!!もっと食べたいぞ!!」

「落ち着け、あ。シロップがメイド服に……」

「おー!?脱がすのか!?この服はやっぱり脱がすのか!?」

「何で、そんな事言うんだよ?」

「善のすてふぁにぃでは、この服着た人はみんなそうしてたぞ?」

「ぶほっ!!見てたのか!?」

「えーと……セリフは……『ご主人様ありがとうございます!!みだらなメイドにどうかお仕置きを――』」

「や、やめろぉ!!そんな事言うんじゃありません!!」

「えー、なんでだ?すてふぁにぃは――」

「すてふぁにぃの真似はするんじゃありません!!帰ったらしっかりしまわないと……」

「すてふぁにぃは、薪の代わりに使ったからもうないぞ?」

「す、すてふぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃ!!!!!!」

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