止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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なんだかスランプ気味な今日このごろ……
うーん……何かいい解決方ってありますかね?


小休止!!執事長の休日!!

私はリンジーノ・R・バイト。

紅魔館で執事長をさせて頂いております。

皆さまどうか、気安く『レジル』とお呼びください。

白いシャツに黒いジャケット、そして仕立ての良いズボン。

青と赤のネクタイを締めれば、それが私の戦闘服(仕事着)

太陽がのぼる前に私の仕事が始まります。

 

チリーン……!!

 

早速お嬢様のお呼びですね。

さぁて、今回は何をお望みですか?

 

 

 

 

 

…………名乗り口上はこれで良いですかね?

 

流石レジル!!バッチリよ!!

 

もう、慣れたモンですよ。

 

 

 

 

 

悪魔の屋敷――紅魔館にも休日というのが存在する。

もっとも、よくよく考えて年中無休、なんて事が有ればすさまじくブラックな労働環境なのだが……

 

という事で、我らが主人公 詩堂 善も今日は休みの日となっている。

午前中休みや、午後休みではなく完全な休日だった。

 

朝日が昇る前に目を覚まし、部屋で軽くストレッチをして着替えてから屋敷の外に出る。

今は執事として働いているが善の本職は『仙人の弟子』だ。修業を怠る訳にはいかない事を重々本人は理解している。

 

「おはようございまーす」

 

「レジル執事長!今日も何時もの日課ですか?」

門の前に居る、美鈴が善に気が付き手を振ってくれる。

昼寝しているイメージが強い美鈴だが、何だかんだいってしっかり自身の仕事はこなしている様だ。

 

「そうです、美鈴さん。今日も手合わせお願いできますか?」

 

「構いませんよ。もうすぐ交代の時間なので、その時に」

 

「はい」

美鈴に手を振り返すと紅魔館の屋敷の周囲を走り出した。

大体5周もすれば、朝のランニングは終了となる。

その後、中庭に赴き花壇に近くで瞑想と精神集中を始める。

息の上がった体が、一呼吸毎に楽に成っていく。

息をゆっくり吸いながら、周囲の『気』を自身の中に取り込んでいく。

空気の中の『気』が肺を伝い自身の体を駆けていく……

それを何度も繰り返す。

 

「レジル執事長」

 

「美鈴さん、来てくれたんですね」

後ろから掛かる声に反応し、善が閉じていた目を開き立ち上がる。

交代を終えた美鈴が人懐っこい笑顔を見せている。

 

「邪魔、しちゃいましたかね?」

 

「いいえ、そんな事はありませんよ。むしろ美鈴さんの教えてくれたこのやり方のお陰で前より、集中が出来て助かってます」

そう言って善は、花壇に植えられた花を見やる。

 

「そこは私じゃなくて、執事長の筋が良いからですよ」

照れたように、美鈴が笑う。

美鈴は仙人ではないが『気を使う』という点で善と近い能力を持っている。

もともと善が自主練習をしている時、美鈴に話しかけて以来、美鈴流の力の使い方を教えてもらっているのだ。

 

「では、私も始めましょうかね」

 

「はい、美鈴さん」

二人並んで、地面に座り目を閉じる。

美鈴の言っていた気の流れを読もうと精神を集中させる。

善は美鈴の言っていた事を、思い出していく。

 

 

 

「良いですか?『気』というのは『流れ』の力です。

木にも、水にも地面にも、それこそ生き物にすら微弱な『気』が流れています。

妖精なんてある意味『気』の塊ともいえるかもしれませんね、さて、私はその『気』の流れを体に取り込むことで力にしています。

心を平常に、我を薄め自然の力に自身を浸すんです……

そして、自身の流れて来る自然の『気』を体内で循環させるんです」

……

…………

……………………

 

(気を取り込み……体で循環を……)

目を閉じ、微弱な『気』を感じていく。

地面を河の様に走る龍脈。植物がその力を根っこから吸い上げ、美しい花として実らせる。

この花の様に……自身の体にも……もっと、気を――

 

ポン!!

そこまでして、善の肩を美鈴が叩く。

 

「美鈴さん?」

 

「執事長、今日はここまでにしましょう?一日が座って終わっちゃいますよ?

ほら、もうこんな時間」

美鈴の言葉を聞いて、時計塔の時間を見て善が驚く。

いつの間にか、2時間近く経っている。

ずっと座っていた様だった。

 

「朝ごはん、無くなっちゃいますよ」

 

「そう、ですね」

美鈴に誘われ、使用人用食堂へと向かっていく。

 

 

 

「そう言えば、執事長って誰に『気』の使い方教えてもらったんですか?まだ、修業してそんなに経ってないんですよね?」

サラダを突きながら、美鈴が善に尋ねた。

 

「私の仙人としての師匠ですね……最初には普通に溜める方式だったんですが――

一回、胸に手を当てられて無理やり『気』の通り道を作られたのがある意味最初かな?」

師匠との思い出を語る善、懐かしく成って他の事も話していく。

 

「師匠ったらひどいんですよ?体の外に放出出来ないって言ったら、『穴をあければいいのよ』っていって、私の右手の指、5本とも切断したんですよ。

その後、くっつけてもらってちゃんと違和感無く動くんですけど……未だに傷後が消えないんですよねー。

見ます?ほら、右手の指の付け根」

美鈴に自身の右手を見せた時、善は初めて美鈴が固まっているのに気が付いた!!

 

「美鈴さん?」

 

「執事長。悪い事は言いません、早く別の師匠を見つけるべきですよ!!」

 

「へ?」

 

「さっきの修行法、よくよく考えれば理に適った修業方法ですけど、倫理的には完全に間違った方法です。

むしろ邪法と言われる部類ですよ!!悪い事は言いません!!別の師匠を見つけるべきです!!」

美鈴にしては珍しく、語気を荒げ善を説得しようとする。

その瞳には真摯な感情が満ちていた。

 

「大丈夫ですよ。美鈴さん、何だかんだ言って師匠はちゃんと、その後のケアをしてくれてますから。

たぶん、すごく私の事を考えてくれていますから。

ハチャメチャに見えても、きっとしっかりと細かい部分まで計算しています。

だから――だから、私は師匠を――裏切れない」

 

「…………」

善の言葉に、美鈴が押し黙った。

納得した訳ではない、安堵した訳でもない、むしろその逆だった。

 

「執事長、アナタは――」

 

「おっと、もうこんな時間だ。パチュリー様の図書館で探したい本が有るので失礼しますね」

美鈴の言葉にかぶせるように、善が言葉を発し、自身のトレイを片付け立ち上がる。

そのまま速足で、善が逃げる様にその場を後にする。

 

「執事長……」

美鈴は静かにさっきの善の顔を思い出す。

善は何時もは柔和で気弱そうな笑みを浮かべている。

そして、手合わせなどの時は粗暴で冷酷、それでいて好戦的な表情を見せる。

此処までは問題ない、手合わせとはいえ戦いの場。

邪魔に成らない程度の、精神の高揚は有った方がいいに決まっている。

だが、だが、あの師匠に対して語る顔には盲目的な部分が有った。

信頼、と言えば聞こえはいいが、そこには確かな危うさが存在する。

美鈴はそのことが、わずかに不安として心に残った。

 

 

 

 

 

紅魔館内図書館。

フランのいる地下とは別のルートで入れる、半地下にある巨大な図書館。

上を向いても横を向いても壁が見えず延々と本棚が続く、ある意味狂気じみてさえいる。

そしてここはパチュリーが常に、何らかの研究をしている知識の宝庫でもあった。

使用人たちも利用する事はゆるされているが、あまりパチュリーとその下部の小悪魔以外が利用しているのを見たことが無い。

 

「あら、いらっしゃい」

机に上にある、紅茶をソーサーに戻しながらパチュリーが善に声を掛ける。

魔導書?を閉じて山に成っている本の上に置く。

 

「今日も、例の本?精が出るわね……小悪魔に案内させるわ」

パチュリーが言い終わる前に、小悪魔が数冊の本を抱えてやって来た。

手に持つ本の表紙を見て、善が探していた本だとすぐにわかった。

 

「はい、善さん。何時もの系統の本です、足りないものが有ったら言ってくださいね」

にこやかに笑う小悪魔を横目で見ながら、パチュリーが何かを言おうとして止める。

 

「ありがとうございます、どれもこれも良いですね」

ぺらぺらと数冊の本を、開いていく。

そこに書かれているのは主に料理に対する物、俗にいう料理本の類だ。

 

「休みの日まで、料理の研究だなんて……あなた思ったより真面目なのね?」

熱心に本を読みながら、持ってきてメモ帳に書き込む様子を見てパチュリーが口を開いた。

 

「お屋敷の為って言うのが全てじゃないですよ?もともと日常的に料理はしなくちゃいけないので、ちょっとでも作れるメニューを増やさないと……

小悪魔さん、出来れば中華料理がメインの本ありますか?」

 

「中華系の料理本ですね、すぐに持って来ます」

善の言葉を聞き、文字通り図書館の奥の方まで小悪魔が飛んで行った。

 

「むきゅー……小悪魔、私の頼んだ本はちっとももって来ないのに……

まぁ、良いわ。根を詰めすぎても良くないのはわかっているもの。

そんな事より、仕事の方はどう?あなたはあまり、仕事で此処に来る事は無いからゆっくり話せないのよね」

本を閉じ、パチュリーが善の隣まで歩いている。

その瞳には知的な品性と、好奇心が見えていた。

 

「順調ですよ。小悪魔さんが密かにサポートしてくれたりして、助かってます」

 

「小悪魔が?珍しいわね」

善の言葉を聞きパチュリーが考え込む。

 

「珍しい?しょっちゅう助けてくれますけど?フランお嬢様と遊んだ後、包帯や湿布を持ってきてくれたり……良い人ならぬ、良い悪魔ですよ?」

 

「『良い悪魔』なんているのかしら?」

 

「善さーん!!」

善に尋ねる様に口を開いた時、再び奥から小悪魔が本を抱えて戻って来た。

 

「あ、小悪魔さん」

飛んできた小悪魔が、机に数冊の本を置いていく。

 

「はい、中華料理系の本です。

けど、なんで中華料理なんですか?」

小悪魔が何気ない質問を口に出した瞬間!!

善の顔に影が差す!!

 

(あ、地雷踏んだ)

その様子を見た小悪魔が、心の中でひっそりと呟いた。

 

「理由ですか?理由……ね……

実は……と言っても小悪魔さんはもう知ってる通り私は、ある人の弟子として修業をしているんですよ……

修業と言っても、師匠の身の回りのお世話も含まれているので、料理、掃除、洗濯等の雑用をこなさなければなりません……」

 

(なるほど、レミィが有能って言ってたのは、日常的に似たような事をしていたからなのね)

パチュリーが勝手に理解し、数度うなずく。

 

「前に、料理を失敗しましてね?…………偶然その日、師匠が不機嫌だった様で――

…………ああ!!ごめんなさい!!!許して!!もっと、もっと頑張りますから!!あの折檻だけは……!!あの折檻だけは許してくださ――」

突然善が、頭を押さえて震え始める!!

いきなりの事に、パチュリーが目を白黒させる!!

それに対して小悪魔は慣れているのか、優しくほほ笑むと善の背中をゆっくり撫で始めた。

 

「大丈夫ですよ~?ここには怖い人は居ませんよ~?」

 

「はぁはぁ……すいませんね。少し心の古傷が開きましてね……

まぁ、すさまじい折檻を食らいまして……

けど、逆に美味しい物を食べると少しだけ師匠の機嫌が良くなるんです、特に中華料理が好きみたいで……なるべき覚えておきたんですよね――――()()()()()()んで」

最後の部分だけ、イヤにリアルな感じがしてパチュリーが少し震えた。

 

「闇、深いわね……あと、貴女なんで手慣れてるのよ?」

 

「闇、深いですね……そりゃあ、悪魔ですからね。人の心に付け込むのは得意ですよ」

渇いた口調で笑う善を見て、パチュリーと小悪魔がつぶやいた。

 

「小悪魔、今日はもういいから、執事長に付いてあげて……」

これ以上関わるのは危険と判断した、パチュリーがその場を後そそくさと後にした。

扉からパチュリーが出ると再び図書館に静寂が戻った。

 

「さ、整理整理っと」

小悪魔はパチュリーの残した山積みの本を、数冊ずつ手に取って本棚に返していく。

コレが彼女の仕事だった。

それをみて、善が再び本にを開く。

 

「なるほど……中華の辛さは一種類じゃないのか……刺す様な辛さと、しびれる辛さ?他にも種類が……

山椒は問題ないけど、唐辛子って幻想郷でも手に入るか?」

ぺらぺらと使えそうな知識をメモしていく。

 

「えーと、コレは――!?」

手に取った本を急いで閉じる!!

その本は、料理本ではなく小説の本だった。

キョロキョロと周囲を見回すが、いつの間にか山の様に積みあがっていた本はすっかり片付いており、小悪魔も何処かへ行ってしまった様だ。

辺りに誰もいない事を確認して、再び善はさっきの本を開く。

 

(小悪魔さん、一体どうしてこんな本を?こんだけ広ければ、一冊位あるだろうけど……)

ドキドキしながら中身に目を通す善!!

本の中では、欲求不満な未亡人が宅配業者に秘密を握られて、だんだんと――といった感じの官能小説である!!

ぶっちゃけた言い方をすると、成人向けエロ小説。

 

「ま、間違って、入った?」

 

「『間違って入った?』なんて言わないでくださいね?」

 

「うぉおお!?」

すぐ後ろ、耳にかかる吐息を感じて善が椅子から転げ落ちる。

見えあげると小悪魔が妖艶に笑いながら立っていた。

 

「えっと、あの……興味があった訳じゃ、ないんですよ?紛れていたから、間違って手に取っただけで――」

非常に気まずい気分を味わいながら、善が言い訳を並べ始める!!

その間も、小悪魔のにやにやとした張り付いた笑みは消えない!!

 

「本当ですかぁ?隠さなくても良いんですよ?善さん位の子には必須アイテムじゃないですか?」

善に体を寄せる様に、小悪魔が本を善の目の前に持ってくる。

直ぐ近くにある小悪魔の胸に善の視線が行く!!

 

「こ、小悪魔さ、ん?」

 

「私は、善さんの味方ですよ?本当はこういうの好きでしょ?胸の大きな年上の子」

更に、『女教師』だの『人妻』だの『未亡人』だのうたい文句が踊る数冊怪しげなタイトルの本が置かれる。

善の心が激しく揺れる!!

当然だが、此処にすてふぁにぃは持ってきていない!!

前、小傘が下着や包帯、仙丹を持ってきていたがすてふぁにぃだけは入っていなかった!!

仙人志望とはいえ、善も年頃の少年である!!

すてふぁにぃが恋いしくなる夜もあった!!

 

「……秘密にしてくれます?」

 

「悪魔に誓って」

その言葉が終らない内に、小悪魔と善が固く握手する!!

相手が悪魔だろうとお構いなし!!欲にまみれた男である!!

誘惑する者に善はとことん弱かった!!

 

「さーて、さっそく持ち帰って――」

 

「執事長!!」

善が本を受け取ろうとした時、妖精メイドが図書館に走りこんで来る!!

非常に慌てた様子で、タダ事ではない事が容易に想像できる。

 

「どうしたんですか?」

 

「執事長に、お客さん……です?」

歯切れの悪い、メイドの言葉に疑問を持ちながらも善は美鈴のいるハズの門に向かった。

 

 

 

 

 

「なー!なー!はやく入れてくれー善に会いたいんだー」

 

「もう少し待ってくださいね?今、確認に向かっているので。

それとココに『善』なんて男の使用人は居ませんよ?

一応、唯一いる男の使用人を今、呼んでますから……」

美鈴の影の隠れて見えないが、非常に聞きなれた声が善の耳に届く。

 

「その声……やっぱり芳香じゃないか!!」

 

「ん?おー!!善!!探したぞ!!!」

善の姿を見た瞬間、芳香が善に抱き着いてくる。

 

「おー、おー、どうした?俺に会いに来てくれたのか?」

顔を尚も擦り付け続ける、芳香を抱きしめながら善が周囲からの視線に気が付く。

皆絶句した様な、顔でこちらを呆然と見ている!!

 

「えっと、みんなどうしたの?」

 

「執事長!!肩!!肩ぁ!!」

 

「え?」

善が気が付きそこを見ると!!

芳香が深く歯を付きたてていた!!

服が鮮血で真っ赤に染まっていく!!

 

「ああ、久しぶりだから……な?お腹が空いたのか?」

 

「フーッ!!フーッ!!善の、善の味だぁああ!!」

 

「よしよし、確か厨房に何か残っていたかな?美鈴さん、この子は知り合いです。

怪しい者じゃないですから、入れてあげていいですかね?」

絶賛被捕食中だと言うのに全く動じない善!!

目の前で繰り広げられるスプラッタな光景に、気弱なメイドに至っては泣き出している者もいる!!

 

「え、ええ……客人なら……構いませんよ?」

引きつった笑みを浮かべ、何とか美鈴が絞り出す様に話す。

 

「じゃ、行こうか?久しぶりに俺の料理食べだせてやるからな?」

 

「うわぁーい!!」

齧られながらも善が、食堂に向かっていく!!

 

 

 

「執事長……いい人だと思ったのに……」

 

「アレって死体よね?」

 

「え?死体?死体を連れて歩いてるの?」

 

「それよりも、執事長偽名を使ってたよ?」

 

「あの人……やっぱり、闇が……」

 

「前々から、普通の人間ではないと思ってたけど……」

 

「なんだか……怖い……」

 

「詮索しない方がいいよ……ね?」

妖精たちの中で広がる恐怖!!

こうなってくると、善の何時もの笑顔すら狂気的の思えてしまう!!

ただいま!!善の株が絶賛下落中!!

しかし善は気が付かない!!

 

「早くたべたいぞー!!」

 

「よしよしよし……」フラフラ

恐怖を振りまく二人の歩みは止まらない!!




何だかんだ言って芳香がと師匠が一番書いてて、安定するという事実。
何処となく不穏な空気が漂う所が好き。

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