止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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もう、何話かしたらまた、コラボの予定です。
いつの間にかずいぶん話数も増えたと思う今日この頃。

5話くらいで終わる予定だったとか、もう言えない……


聖人君臨!!豊聡耳よ再び!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

広い墓場の真ん中で、その場にひどく不釣り合いな人物が佇んでいた。

赤と青のマントに、ミミズクの様な髪形そして腰にぶら下げた宝剣。

『聖人』と呼ばれる人物の一人。豊聡耳 神子だった。

 

「ふぅ、たまには此方から顔を出そうとやってきたが……

詳しい場所を聞かなかったのは間違いだったかな?」

一人つぶやき、再び墓の中を歩き出す。

 

「む――」

神子の視界の端に複数のカラスが何かを貪っていた。

羽の間からわずかに見える、肌色。そして五指。

 

「気の遠くなる様な時間を生きても、人の苦しみは変わらない……か。

せめて弔う位は――」

死に対する虚しさを感じつつも、神子は死体に近づいていく。

背丈から見ると少年の様だった。自らの100分の1も生きていないであろう者の死。

彼女の心の中に言いようのない感情が渦巻く。

 

カァ、カァ、カァ、カァ!!

バサッと風が舞いおこり、倒れる少年の顔が明らかになる!!

その顔に神子は見覚えがあった!!

 

「詩堂君……修業に耐えきれなかったのか……せめて安らかに……」

 

「あ!神子様!!どーも、この前振りですね!!」

倒れた善が突如目を開け、しゃべり始める!!

すっかり死んでいる者と思った神子は大層驚いた!!

 

「し、詩堂くん!?君大丈夫なのかい!?カラスとかすごく集まっていたけど!?」

 

「ちょっと修業で、ミスりましてね。

動ける様になるまで、時間がかかりまして……

っていうか、現在進行形でまだ体が動かない……

すいませんが、師匠の家まで運んでもらえませんか?」

寝転がったまま、善が神子に懇願する。

非常にシュールな絵である。

 

「解ったよ。よいしょっと……生憎私も君たちの家に用があってね。

案内を頼んで構わないかい?」

 

「ええ、お願いします」

動かない善を持ちあげ、神子が自身の背中に善を背負う。

戸解仙である、神子は人間を超越している、少年一人背負うの訳ないのだ。

 

「詩堂君、なぜこんな所で倒れていたんだい?

良かったら教えてくれないかな?」

疑問に思った神子が善に尋ねた。

それに対して道を説明しながら善が答える。

 

「今日は芳香と一緒に、お互い毒を飲んで組手相手を倒した方が一本だけの解毒剤を飲める組手、通称――『ポイズンデスマッチ組手』をやったんですよ。

油断したら、芳香に見事にやられてしましまして。

いやー、お恥ずかしい所をお見せしましたね。ははははは」

 

「詩堂君!?君一体どんな修業をやれされているんだい!?」

恐ろしい修業内容に、さすがの神子も驚き声を上げた。

 

「え?師匠が神子様の時も考案したって――」

 

「少なくとも私たちの時代にそんな修業は無かったよ!?

それより、よく平然としているね!?」

 

「いえ、今実はすごいお腹痛くて……あー、トイレ行きたい……」

善のお腹がゴロゴロ言い始めたのを聞いて神子の顔が青冷める!!

 

「も、もう少し待ってくれないか!?今、君たちの家が見えたから!!」

善を運びながら、師匠が目的地まで進んでいく!!

 

 

 

 

 

「いや~、やばかった。あーきつかった。

神子様ありがとうございますね。流石は聖人ですね」

トイレで用を足した善が、手を拭きながら出て来る。

 

「こんな事で、聖人呼ばわりされても微妙なんだが……」

苦虫を噛み潰した様な顔で、神子が話す。

 

「生憎師匠たちは居ないみたいですね。

あの後何処かへ出かけたのかな?」

善が家の中を見てきたがどうやら、師匠も芳香も出かけてしまった様だった。

 

「そうなのか。前もって連絡位しておくんだったね。

私の準備不足だ、まぁいい。詩堂君とも話したいことは有ったしね」

そう言って神子が善に笑いかけた。

 

「そうですか。なら、奥の私の部屋で待っててもらっていいですか?

突き当りの部屋です、適当に座布団とか敷いて(くつろ)いでいてください。

お茶、持っていきますから」

そう言って善が台所に入っていった。

 

「そうだね。しばらくそうさせてもらうよ」

 

 

 

「さて、聖人ってどんなお茶飲むんだ?

適当に黒烏龍茶とかで良いのか?

緑茶は有るけど、師匠は中国茶の方が好きだしな……」

善は今非常に困って居た!!

突然の神子の来訪!!そしてまさかの師匠の不在!!

正直言ってあまり神子が得意でない、というよりむしろ苦手な善にとってプレッシャーがかかっていた!!

読者諸君も想像してほしい!!家の自室に歴史上の偉人が居る光景を!!

非常に気まずい気分にならないだろうか!?少なくとも善はそうだった!!

 

「よし、此処は普通に玄米茶だな。一番新しいし、何より俺はコレが好きだ!!」

半場やけくそになりながら、お茶請けの羊羹を切り分けお盆に乗せ自室に向かった。

 

ガチャ

勢いよく、善が自室の扉を開ける。

 

「神子様!お茶をお持ちしました!!」

 

「ん?ああ、詩堂君ありがとう頂くよ」

善の入室に気が付いた、神子が雑誌から目を上げ善を見る。

 

「どのお茶が良いか迷ってしまいまして、お待たせしてすいませ……ん?」

 

「どうしたんだい詩堂君?そんな顔して?」

きょとんとしながら、神子がお茶を受け取り羊羹を口に運んだ。

 

「神子様?あの、さっき読んでいた雑誌は?」

プルプルと震えながら、机に上に置かれた雑誌を指さす。

 

「ん?ああ、ベットの下にあった雑誌だよ」

悪びれもせず神子がお茶をのみ続ける。

 

「大丈夫、君も男の子という事だろ?人の欲を見てきたからね。

アレくらい気にしないよ」

そう言って善に優しく笑いかける!!!

聖人スマイル!!罪を許す優しいスマイルだった!!

しかし!!

このスマイル全く効果はなかった!!

母親が自身の部屋を掃除して、机の上や本棚にきちっとエロ本がしまってあった時の気まずさに似ていた!!

要約するとここでの優しさは全く意味をなさない!!

 

「いや!?ごまかされませんからね!?何堂々と人のベットの下あさってるんですか!?

良いですか!?年頃の男の子の部屋、特に本棚や机の引き出しやタンスも下の段は触れてはいけないんですよ!!

あそこはある意味聖域!!たとえ成人だろうと立ち入ってはいけない場所なんですよ!!」

善がヒートアップする!!

もはや相手が誰だろうと、関係など無かった!!

 

「詩堂君……すまない事をした様だね。

私も反省しているよ……所で、この雑誌の次の巻は無いのかい?」

そう言って有名な漫画を取り出す。

 

「ああ、それならタンスの下の段の――って全く反省してないじゃないですか!?

それよりなんで聖人がそんなの欲しがるんですか!?」

 

「まぁまぁ。落ち着いてそれよりも――」

 

「むっつりだろ!?ホントはアンタむっつりだろ!?むっつり聖人!!俺はむっつりよりもむしろムッチリした方が好き――」

 

「落ち着こうか詩堂君?」

シャキーン!!

笑顔のまま、神子が腰の剣を抜き善の前に突きつける!!

 

「ひぃ!?すいませんでした!!調子乗ってました!!」

両手を上げた降参のポーズ!!そのまま土下座に素早くチェンジ!!

 

「ふぅ、私に対する無礼の数々は許そう。

私も少しばかり無神経だったようだからね」

クールダウンした、善に対して神子が話しかける。

 

「は、はい。所で神子様は一体何用で?」

 

「うーん、本来は君の師匠に話が合ったんだけど……

居ないモノはしょうがないね。そっちはまた今度だ。

詩堂君、前は出来なかったし、私と少し手合わせする気は無いかい?」

 

「そんな、神子様相手に恐れ多いですよ……」

手を広げ、善が神子に対して遠慮する。

相手が相手だ、善としても手合わせは無謀だと考えたのだろう。

 

「はぁ……正直いって、その態度はやめてほしいんだよ」

深くため息をついて神子が話す。

頭に手をあて、本当にうんざりといった感じだった。

 

「神子様?」

 

「みーんな私の事を聖人と呼ぶ……

そう呼ばれるのは嫌いではない。

けどね?私も聖人である前に一人の人間なんだよ、いつまでも気を張ってばかりでは疲れてしまうんだ。

解るかい?」

普通の少女の様な顔と態度で神子が言う。

その顔は本当に聖人というより一人の人間だった。

 

「神子さま?」

 

「私は君の思う様な完璧な人間ではないんだよ。

むしろ、人より醜い部分も多くある。

戸解仙になったのもそうさ、死を恐れそれから逃げようとして……

私が忘れ去られるような時間を眠り、再びこの世界に戻って来た。

私はね、1400年という気の遠くなる様な時間を生きてなお、なお!!

まだ求めるモノが有るのさ。だから私はまだ生きている。

詩堂君。君は何が欲しくて仙人に成ろうとしているんだい?

金?名誉?長寿?他者に無い力?それとも、君の欠けた欲を埋める為?

一体、『彼女』を師と仰ぎ死にそうになりながらも何を欲しているんだい?」

神子がジッと善を見て来る。

善にとって兄弟子に当たる神子の言葉は、それなりの重さが有った。

 

「私は、私は人間に成りたいのです」

 

「人間に成りたい?もうすでに君は人間だろう?」

善の言葉に神子が、頭をひねる。

妖怪と間違われる事は多々あっても善は間違いなく人間だった。

少なくとも『人間に成りたい』というのは不可解な望みである。

 

「なんて言うんでしょう?人としてもっと上に行きたい?

いや、そうじゃないそう――」

ガチャ――!!

 

「ただいまー。ぜーん、居るなら荷物を運ぶの手伝いなさーい!!」

 

「はーい!!ただ今ー!!

……神子様、すいません。この話はまた今度」

師匠の呼ぶ声に、善が走り出し部屋から出て行った。

 

「やれやれ……にげられてしまったかな?

布都がしきりに彼を推すから見に来てみたが……」

一人つぶやく神子の元に善が戻ってきて顔をのぞかせた。

 

「神子様!!今日家で夕飯食べていきますか?」

 

「ああ、お邪魔していいかい?」

 

「はい、わかりました」

返事を聞くと再び帰っていった。

 

 

 

 

 

「では、神子様お願いします」

 

「ああ、いつでもかかって来なさい」

庭にて、善と神子が距離を取って見つめ合う。

善本人は渋ったのだが、師匠の一言で神子との組手が始まったのだ。

 

「ぜーん!!がんばれー!!」

 

「ファイトですよ!!」

 

「善さーん!!応援してますよー!!」

4つの影が縁側から善を応援する。

善の師匠が作ったキョンシーの宮古 芳香。

彼が拾い、雪の日に使っている付喪神の多々良 小傘。

善が気に入った為、何度も家に遊びに来いる式の橙。

死体、道具、動物。

それぞれ全く出生の違う者達が、集まりそれらがすべて聖人の神子ではなく善を応援している。

 

(やれやれ……とんだアウェー戦に成ってしまったよ……)

一人神子が思う。

無意識に神子の口角が上がっていく。

 

(なぁんだ。本人が思ほど詩堂君は――悪い人間ではないね!!

自分で卑下してるほどなら、他人に、それどころか仙人の敵の妖怪に!!

こんなに好かれはしない!!)

 

「気功翔脚!!」

善が自身の足に気を纏わせ、筋力を強化し踏み込みと同時に手刀で神子を薙ぐ!!

 

「なるほど!神霊廟の弟子達が使った技を見て覚えたんだね?」

 

「師匠は『技は見て盗め』派なんですよ!!手とり足取りなんてやってくれませんからね!!」

更に一撃!!といった具合で善が右手を握る!!

赤い気が漏れ出し、腕に絡みつき空気に対抗しバチバチと弾ける様な音が鳴る!!

 

「いいね!!それは、君の、君だけの力だ!!」

咄嗟に剣を抜き、善の右手に切り込む!!

剣の刃は善の拳の薄皮を切り裂いたがすぐに止まってしまう!!

柄にもないが神子の口に好戦的な笑みが浮かぶ。

 

「いいね、いいよ詩堂君!!さぁ、私に弟弟子の力を見せてくれ!!」

拳と剣がはじき合い、距離が出来る!!

神子も自身の剣に気を纏わせる!!

善も右手に注ぎ込む気の量を倍増させる!!

 

「はぁああああ!!」

 

「うおおおおお!!」

両人の剣と拳がぶつかる瞬間!!

 

「ぜ~ん。お米を買い忘れたから、買ってきなさい。

おつりで好きな本買っていいから」

最悪のタイミングで師匠の声が響く!!

 

「え!?本当ですか!?」

師匠の言葉に善が嬉しそうに振り向く!!

言うまでも無いが買う本の目途は付いている!!

グサッ!!

 

「わーい!!なに買お――グサ?」

はしゃぐ善が嫌な効果音に気が付き、その方を見る。

 

「し、詩堂君……」

神子が青ざめ、持っている剣が震える。

 

「あ……やっべぇ……」

真っ二つに成った善の右手!!

ドロドロと大量の血が流れ落ちている!!

 

「師匠!!包帯!!包帯持ってきてください!!」

 

「善!!今助けるぞ!!ジュルリ!!」

 

「ハンカチならありますよ!!」

よだれを垂らしながら芳香が、ヤケに興奮しながら橙が走り寄ってくる!!

 

「むぐ、むぐ……血がうまい!!」

 

「血を舐めるな!!」

 

「止血に使ったハンカチは洗わないで返してくださいね?」

 

「橙さん!?何に使う積りですか!?」

 

「何してるの?太子様を待たせる気?

直ぐにお米を買いに行きなさい!!」

師匠が面白そうに笑いながら、善に包帯を巻きつける。

複雑な文字が書かれており、包帯が善の血で染まっていく。

 

「あの?師匠?コレ、一体何の効果が有るんです?」

善が包帯に書かれた、文字を見て疑問を口にする。

どうやら嫌な予感がした様だった。

 

「ああ、これ?35分間は血を止めるのだけど、その後は逆にすさまじい勢いで血を放出させる効果が有るのよ」

 

「なんのためにそんな効果与えたんですか!?って、うわ!!とれないし!!これ!!」

 

「35分以内に米を買って戻ってきたら、それを解いてあげるわ。

出来なかったら全身の血が、腕から流れて死ぬから注意してね?」

笑顔でにっこりと師匠が笑いかける。

無垢で悪意など全くないかのように笑いかける!!

内容を気にしなければ、思わずホレてしまいそうな良い笑顔だった。

楽しさにあふれた顔に、神子の背筋に寒い物が走った!!

 

「ちくしょー!!小傘さん!!跳びますよ!!そうでもしなければ間に合わない!!」

 

「は、はい!!」

小傘を抱き寄せ善が、飛び上がり人里を目指す!!

直ぐに姿は見えなくなった。

 

「あら、善ったら。財布も持たずに……

それに帰りはどうする気なのかしら?小傘ちゃんでも善と米を同時に運べる訳ないのに……」

あくまでも楽しそうに善の飛んで行った方を見る師匠。

 

「何故こんな事を?」

 

「実はね?あの子の怯えた表情が私とても好きなんですの!

見た事あります?ビデオで保存したのがたしか……」

 

「止めてあげなさい!!」

 

「ああん、いくら太子様のお願いでもこれは聞けませんわ!!」

善には優しくしてあげようと思った神子だった。

何はともあれ……

 

「ああ、あの子の悲鳴が今から聞こえる様だわ~」

楽しそうに身をよじる師匠を見て、神子はひっそりと心の中で善に同情した。




文字数が伸びてる……
4500位だったのに……
成長か?

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