止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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みなさん、今回は鈴仙・優曇華院・イナバが再登場です。
もはや、お約束ですが今回鈴仙がすさまじくひどい目に会います。

鈴仙は俺の嫁!!鈴仙万歳!!ジーク鈴仙!!
な人は、気を付けてください。


暗殺計画!!月の兎再び!!

「はぁ……はぁ……はぁ……」

暗い竹林の中でひたすらに逃げ続ける影が、一つ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

冬だというのに、汗が全身から吹き出て体にへばり付きひどく不快だ。

だが、そんな事を気にしている余裕などなかった。

 

「ああッ――痛ッ!!」

足がもつれ、竹の幹に手を付いた。

擦りむいたのか掌から、血が流れる。

 

『――は、ははは――』

何処か遠い様で近い様な不思議な位置で声がした。

 

「ひッ――」

恐怖にかられ、咄嗟に口を押える。

無駄だと解っていながらも、再び走り出す。

自らに迫る()()()から逃げる為。

 

「え?」

ポタリと一滴、何かが自身の顔に落ちる。

腕で拭うと、それは赤い粘度のある液体。

嫌な予感が外れる事を祈り、視線を上にあげた。

 

「て、てゐ――くうッ!!」

もう何度に成るか解らない声にならない悲鳴。

視界の上部、切られ槍の様に尖らされた竹に、さらし者にされるかの様な姿で自身の仲間が吊るされていた。

濁った瞳にはいつもの快活さなど微塵もなく、ただ無念を訴えていた。

 

パチパチ――パチパチ――

手を叩くかのような音が僅かに聞こえた。

殺意を持った目で、その音の方を睨むと――

 

「あ……え?」

今度は否定の為の声が出た。

夜だというのに、明るい。

自らが住んでいる家の方が()()()

 

「嘘でしょ……」

彼女の職場にして、家でもある永遠亭が――燃えてた。

 

『は、ははは――』

またしてもくぐもる様な笑い声が聞こえる。

 

「みんな!!」

悲痛な声を今なお燃える我が家に向けて、ノドが潰れんばかりに絞り出す。

 

「イナバ……逃げな……さい……」

肉が焼ける嫌なにおいと共に、永遠亭の主人が炎の中から姿を見せる。

自慢の髪は焼け焦げ、もう元が誰かなどわかりはしないだろう。

 

「姫様!!」

彼女の目の前で、倒れ伏し焼死体へと変貌していく。

 

「うわぁああああああああ!!!」

頭を押さえ、肺の中の空気をすべて押し出すかの様な慟哭を響かせる。

彼女の瞳はいつもと違う理由で赤く染まっていただろう。

 

「優曇華院――」

泣きはらす彼女の後ろから再び声がする。

彼女の敬愛する師匠その人の声である。

 

「師匠――あ……」

親に呼ばれた子供の様な気分で後ろを振り返った。

しかしそこにあった光景は、そんな幸福な光景とは似てもなつかないモノだった。

 

「うど――」

人の形を失い爆ぜる!!風船が割れる様にあっさりと。

実にあっけなく爆ぜて――消えた。

 

「――――」

もはや声も出なかった。

ただ放心状態で、地面に落ちる師匠だった物を眺めていた。

 

グチィ!!

 

「あ……」

まるでゴミでも踏みつけるかの様に、地面に落ちた肉片が踏みにじられる。

鈴仙は小さく声を漏らす事しかできなかった。

 

「はははは――」

目の前の男が嗤いながら肉片を踏みにじる。

懇切丁寧に、一欠けらずつ一欠けらずつ。

鈴仙の心をゆっくりと、壊していく。

 

「なんで――なんでこんな事をするの?」

無意識に声が漏れていた。

彼女は知りたかったのかもしれない、なぜこの男がこんなことをするのか。

きっと何か、理由があるに違いない。

きっと不幸な勘違いで、こんな風に成ってしまったのだ。

鈴仙はそんな答えが返ってくるのを、珍しく神に祈った。

そしてその男の口は開かれた。

 

「楽しいから。お前たちが苦しいと――楽しいから」

男は鈴仙と同じ視線までしゃがみ、彼女の顔を覗き込みにっこりと楽しそうに笑った。

 

「もっと、僕を笑顔にしてよ」

赤い稲妻の様にも見える気が、悲鳴の様にも聞こえる音を出しながら――

右手が鈴仙の顔を掴もうとする。

 

邪帝皇(イビル・キング)――」

震えながら鈴仙は、その男の二つ名を声に出した。

 

 

 

 

 

「うわぁああああああ!!!はぁはぁはぁはぁ!!」

鈴仙が深夜の永遠亭のベットで跳び起きる。

確かめる様に自身の全身をまさぐり、体の無事を確かめる。

 

「はぁはぁはぁはぁ」

肺が機能していないような気がする。

いくら吸っても、酸素が体にいきわたらない。

自身の心臓の音でさえひどく不愉快だ。

 

「優曇華院。またあの夢を見たの?」

一体いつからいたのか、部屋の端に鈴仙の師匠である、八意 永琳が立っていた。

 

「師匠……すいません、最近見なかったのに……」

 

「優曇華院?きっとそれは精神的な物よ、薬で何とかしてあげたいけど……

いっその事、記憶自体を封印しましょうか?」

心配そうに、永琳が鈴仙の顔を覗き込む。

さっきの男にされた様な体制だ。

先ほどとは違い、鈴仙の心に安堵が走っていく。

まるで彼女の顔自体がリラクゼーション作用が有るかの様に。

 

しかし、夢とはいえあの男は師匠を――!!

 

「私、戦います!!もう逃げちゃダメだ!!あの男に勝てないイメージが有るから、こうなるんです!!戦って!!勝って!!

そうしないと、あの悪夢は消せない!!」

 

布団をぎゅっと握りしめる鈴仙。

 

「優曇華院……そこまで言うなら、もう止めないわ。

休暇を上げるから気の済むまでやりなさい」

 

「はい!!わかりました!!」

嘗て脱走兵であった月兎は、困難に立ち向かう事を選んだ!!

胸に決意を深く込めて。

 

 

 

 

 

「ねぇ、芳香。今日の善、何時もと何か違わない?」

 

「んー?なんか!いつもより楽しそうな気がするぞ!!」

家事を終わらせ善が、座禅をして席を外した時に師匠が芳香に自身の疑問を訪ねた。

今となっては、自分よりも長くそして近くで善を見ている芳香に聞く方がより正確な情報が聞けるという、師匠なりの判断だった。

 

(まぁ何にせよ、本人に聞くのが一番よね)

芳香を撫でながら師匠がそう考える。

それで!!

 

 

 

 

 

「何を隠しているの?さっさと白状しなさい」

 

「いきなり、なにごとですか?」

中庭の中央、冷たい地面の上で善が正座させられる。

目の前には縁側に腰かけた師匠の、射貫く様な視線が投げかけられる!!

 

「ぜ~ん?あなた何か隠しごとしてるでしょ?弟子と師匠は厚い信頼関係で結ばれるものよ?

隠し事はしてはいけないのよ?」

 

「隠し事はダメだぞー」

芳香までもが善を睨む。

 

「えっと……心当たりが無いんですけど……」

地面に正座したままで、善は自身の行動を思い出す。

 

(あれー?なんだか師匠がご立腹だぞ!?なんだ、何処で不味った!?

あれか!?洗濯物でハンカチと師匠のパンツを間違えて自分の部屋にパンツを持って行ったことか!?

いや、アレは超極秘に師匠の部屋へと返したはずだ、バレる訳が――

ハッ!?芳香か!?寝ている芳香を見ていて偶に「死体でも胸が柔らかかったんだよなー」と考えてる事がばれたのか!?

い、いや、いくら師匠でも俺の心の中までは覗けないハズ――

まさか!?前、橙さんに……

「知ってますか?藍様はマヨヒガでは基本全裸なんですよ?『スッパテンコー』とか言って服を滅多に着ないんです」

とか言ってたのを聞いて真剣にマヨヒガに行こうと考えたことか!?

どれだー!?心当たりが多すぎる!!!)

 

善!!その心の中は思った以上に欲望に満ちている!!

だらだらと、冬空の中で汗が流れ落ちる!!

 

「え、えっと……とりあえずごめんなさい……」

 

「ふぅん……自分のミスを認めはするのね?」

縁側に座りながら、師匠が足を善の顎に持ってくる。

顎をくいッと持ち上げられる。

 

「あなたが朝からご機嫌な理由を私は知りたいのよ。

な・ん・で・そんなに楽しそうなの?」

冷水の様な冷ややかな視線を師匠が善に投げかけた。

その言葉に遂に善が合点が行った。

 

「ああ!その事ですか。

それならコレですよ、ほら」

自身の服の上着のポケットから、一通の手紙を取り出す。

 

「これは?」

 

「ラブレターです!!!いや、年齢=恋人いない歴でしたが遂に、私にも春が来たんですよ!!

我が世の春が来たー!!ユニバース!!!

『迷いの竹林で待ってます』ですって!!デートですよね!!デート!!」

手紙を興奮気に善が見て喜ぶ。

 

「へ……へえ……そうなの……」

詳しく内容を読んだ師匠が引きつり気味に笑う。

 

「善デートに行くのか?手をつないだりとかキスとかしちゃうのか?」

芳香が心配そうに善に尋ねる。

 

「おいおい、芳香も急な事いうなよ。

そんな訳ないじゃないか、初デートだぞ?

けど、相手はウサギの妖怪らしいし、ウサギは年中発情期らしいし?

念のために今日は新品のパンツを穿いているんだが?

あははははははは!!人生バラ色だ~」

ウキウキと楽しそうに善が笑いながら話す。

 

「善……」

悲しそうな目をして師匠が善を見る。

 

「善さん……逢引って本当ですか?」

 

「ひぃ!?」

まるで地獄の底から響いてくるような、亡者の怨嗟の声の様な声が善の耳に刺さる!!

恐怖を感じその方向を向くと――

 

「橙さん!!どうして此処に!?」

ずるりと幽霊が這い出す様に、縁側の下から橙が体を引きずり出す!!

橙のうつろな目と合わさって非常に怖い!!ビックリするほど怖い!!

これには流石の師匠も引き気味だ。

 

「私はずぅうううぅううぅうぅぅぅと善さんを見てますよ?

昨日のご飯の内容も、お風呂でお師匠さんにからかわれた事も、芳香さんを見て『柔らかかったんだよなー』ってつぶやいて居た事も全部知ってますよ?」

 

橙はすべて見ていた!!

ちなみに後半の内容を聞き、師匠と芳香の顔が鋭くなったのは言うまでも無い事だ!!

 

「は、はは……わ、私デートの時間なので!!出かけてきます!!」

橙から逃げる様に善が立ち上がる!!

助走をつけて、庭を区切る塀を飛び越え墓場に向かって走る!!

 

「ぜーんーさーん……逃がしませんよ!!」

同じく橙が驚異的なスピードで善を負う!!

その姿はまさに電光石火の早業でネズミを捕まえる猫そのもの!!

墓場のど真ん中でハイスピード追いかけっこが今始まる!!

 

「うわわわわわ!!あの猫妖怪、無駄に足速えーよ!!足の筋肉胸にやれよな!!」

 

「貧乳はステータスです!!希少価値です!!」

フォン!!

橙が腕を振るうと同時に、空気を切り裂く音がし、驚くべきことに善の後方の墓石が切断される!!

 

「な、なんて物を人に向けてるんですか!!当たったら一生障害残るレベルですよ!!」

 

「介護なら!!私がしますから!!安心して当たってください!!」

フォン!!フォンフォン!!

 

「いやだー!!絶対藍さんに介護と称して嬲り殺しにされる未来しか見えない!!」

橙の攻撃を回避しつつ、善が墓場の角を曲がる。

その時視線の先に、紫いろの傘が止まった。

 

「驚けー!!」

 

「小傘さんナイス!!」

勢いよく飛び出した子傘を、善が脇に抱きかかえ走り出す。

 

「え?ええ?善さん?」

 

「今大ピンチなんです!!ひっそり練習していた『アレ』やりますよ!!」

フォン!!スパァン!!

呆ける小傘の視線の先で、卒塔婆の束が真っ二つのされる!!

僅かに痛みを感じ小傘が頬に手をあてると、血が少し流れていた。

 

「善さん!!なにしたんですか!?すごい怒ってるよ!?」

 

「話は後です!!脱出しますよ!!ほら、息を合わせて!!1!2!3!」

 

「は、はい!!1!2!3!」

 

「「ポピンズ!!」」

二人が声を合わせると同時に、善が勢いよく地面を踏みつける!!

小傘が善に自身の傘を渡し、広げる!!

 

「なぁ!?飛んだ!?」

橙が驚き声を上げる。

善は小傘を抱えたまま、手に持った小傘の傘で空を飛んだのだった!!

以前より善は、空を飛ぶことにあこがれていたが一向にその力が開花せず。

小傘の飛ぶ姿を見て、自身も一緒に飛べないかと密かに二人で練習していたのだった。

最も『飛ぶ』というよりは、妖力と気を利用して『滑空する』といった方が近いのだが……

 

「おお、空ってそんなにも気持ちいんですね……少し感動です」

流れる雲を負いながら善が声を出す。

日常的に飛んでいる小傘にとっては珍しくない景色も善にとってはとても新鮮らしい。

 

しばらく善の脚力を利用した滑空を続け人里の近くに降りる。

人里には小傘の、ベビーシッター等の仕事の拠点が有るらしい。

 

「ありがとうございますね、楽しかったですよ」

笑いながら善が小傘の頭をなでる。

 

「楽しんでもらえて良かった……また、やらせてね?」

 

「ええ、もちろん。小傘さんの様なすごい傘が使えて、私は幸せ者ですよ」

最後にそう言って笑いながら、善が竹林に向かっていった。

 

「『幸せ者』――えへへ……」

嬉しそうな小傘を残して。

 

「かわいそうに――あの子、邪帝皇に――」

 

「良い子じゃったんじゃがな~」

 

「妖怪の力を強制的に発動させる力もあるのか……恐ろしい!!」

人里でまたしても悪いうわさが増えたがそれは別の話。

 

 

 

 

 

「ふははー!!デートだ!!デートだぁ!!」

スキップしながら善が竹林を爆走する!!

竹林の案内人が止めてもお構いなし!!

落とし穴に数回落ちてもお構いなし!!

生死に関わる罠が有ってもお構いなし!!

そして遂に気が付く善!!

 

「あ”!!そう言えば……竹林の何処で待ち合わせなんだ?」

まさかのミステイク!!なんと竹林の何処で待ち合わせか確認していなかった!!

 

「どーしよ!どーしよ!!すっぽかしたと思われたら最悪だぞ!?」

そのばでグルグルとあたりを回りだす。

そんな善をスコープ越しに見つめる影が一つ。

 

善をこの竹林に呼び出した本人、鈴仙・優曇華院・イナバだった。

おおよそ300メートル離れた位置で、ライフルのスコープを覗く。

その表情はいつもの彼女ではなく軍人としての表情だった。

 

「風向き西方、時速38キロ。温度12,4°湿度41パーセント。距離およそ300!!このコンディションなら……!!」

ガサガサと善が動いていたが、何かを見ているのか立ち止まる。

 

「そのすました顔を吹き飛ばしてあげるわ!!」

鈴仙が冷酷にトリガーを引く!!

弾丸が発射され、善の頭を吹き飛ばす!!

ハズだった。

 

「なんですって!?」

鈴仙の見守る中、善がしゃがむように姿勢を低くして攻撃を回避する!!

弾丸は空しく、竹林の中へと消えていった!!

 

「タイミングが読まれた!?そんな馬鹿な!?」

 

*真実は……

善side

 

「あ、ウサギが居る!!かわええな~」

ウサギを発見した善が撫でるために、体をしゃがませた!!

たったそれだけの事!!

*ちなみにこの場で後数センチ、善の頭が高く上がっていれば死んでいました。

 

「ヨイショッと……うーん……鈴仙さんは何処で待っているんだろ?」

ウサギを抱きかかえながら、善が再び歩き出す。

 

鈴仙side

 

「うッ!?な、仲間を人質に!?なんて卑怯な!!容赦はないって事ね……!!」

善に抱きかかえられたウサギを見て鈴仙が歯ぎしりをする。

これは、人質と同時に生きた盾を相手が装備したことを意味していた。

 

「けど、大丈夫よ……この先には!!」

鈴仙が善の歩く方向を見てにやりと笑った。

 

「……よし!!かかったわ!!」

鈴仙の見る前で善が落とし穴に落ちる!!

それは前もって鈴仙が先頭の為に仕掛けておいたモノ!!

穴から出る無防備な瞬間を狙うための物だった!!

 

善side

 

「うをおお!?また、落とし穴か!!いったい誰が……?」

 

先にウサギを穴から逃がし、落とし穴から這いだそうとするが……

 

「うお……落とし穴って、結構出にくい……抵抗する力で、穴から落ちない様に出来るか?」

落とし穴の淵に手を掛け、抵抗力を流しこむ。

何時もは壊すための反発する、力だが今回は逆。

自身の体の力を底上げする為の気を、もろい土に混ぜて強度をあげる。

以前師匠がやって見せた、卵焼きをつぶさず他の部分に気を与えて飛ばす技の要領だ。

 

「よっこら……せ!!

登れたな……」

気を使いやっとの思いで、上る善。

気が付くと手には……

 

「あれ?弾丸?落ちてたのか?新しい気もするけど……ぶっそうだな……

まぁこれくらい大した事無いか?」

いつの間にか手にしていた弾丸をほおり投げ、逃がしたウサギに当たらなかった事を安堵して歩く。

 

鈴仙side

 

「なんなの……あれ……」

目の前で信じられない光景が起きた。

 

「素手で……弾丸を止め……た?」

呆然とする鈴仙の前で善が口を動かす。

鈴仙は読唇術で善の言葉を負う。

『これくらい大した事無いが?』

 

「ッー!?挑発!?それよりもこっちに気が付いてる!!」

善の顔がこっちを見たような気がした。

 

「接近して――とどめを刺す!!」

銃を捨て、体一つで鈴仙が走る!!

目指すは、敵の排除のみ!!

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……見つけたわ」

 

「あ!鈴仙さーん!!待ちました?」

善の前に飛び出した鈴仙が、指を構える。

何の注意も無く、鈴仙に近づく善。

 

「ねぇ、私の目を見て?」

鈴仙が自身の能力を発動させつつ、善と視線を交わす。

彼女の能力は狂気を操る能力!!

生き物の波長を読み、精神に作用させる事さえできる!!

まさに精神攻撃のエキスパート!!

 

「え……あ、れ?」

鈴仙の力で善の視界が歪みだす。

 

(流石にこれは、効くのね。

安心したわ、思ったよりも化け物じゃなくて!!)

指に力を籠め、銃の様に構える。

 

(距離10センチの接射なら!!)

善の額の10センチ前に、指を構える。

呆然とする善はいまだ動かない。

 

「さようなら。私の悪夢!!」

パァン!!

と渇いた音がして善が倒れる。

 

「はぁ、やってみれば大した事ないわ――ね?」

鈴仙が背を向ける中で善がゆっくりと起き上がった。

 

「いってー、なんだコレ?急に頭痛が……芳香に噛まれ過ぎたか?」

鈴仙は知らなかった!!善の力が抵抗する力だという事を!!

そして、その力は何度もダメージを与えられた部位を集中的に抵抗力を上げる事を!!

この数日間!!芳香の頭を噛まれまくった善の頭部は、かなり強固な部位と化していた!!

さらに当たる瞬間後ろにのけぞった事で、ほとんどノーダメージとなっていた!!

 

「うえ、気持ち悪い……あー」

さっきの鈴仙の「さよなら」は聞こえていたため今日はもう帰る事にした。

抵抗する力があれど、それほどまでに精神の波長を狂わされるのは、ダメージとなるのだ!!

 

「撤退……!!撤退よ!!」

鈴仙が戦闘は不可能と判断しその場から逃げ出す!!

しかし!!鈴仙は忘れていた!!

此処が自身の作ったトラップゾーンだと!!

ガサッ!!

「え――きゃ!!」

落とし穴に落ちた鈴仙。

咄嗟に自身の波長を操り、善から知覚できない様にステルスを掛ける!!

落とし穴の中という状態、捕まれば死を意味する極限状態!!

 

「ああ……気持ち悪う――あ」

吐き気を堪える善の前に、穴が有った!!

今にもリバースしそうなその状況!!

 

(野原にぶちまけるよりは……)

穴に近よる善!!

 

「ひッ!?」

鈴仙の頭上に善の顔が現れる。

 

(大丈夫、見えていないハズ。ちゃんと落ち着いて――)

 

「オロ……」

善が口を開ける!!

 

「え?ちょっと……!?」

慌て戸惑うがもう遅い!!

善の口からミラクルシャワー(比喩表現)が!!

 

「オロロロロロロロロ」

シャラララララ♪

 

「い、いやー!!」

逃げ場のないウサギにミラクルシャワー(比喩表現)が襲い掛かる!!

 

「おろろ…………ふぅ、すっきりした。

帰るか」

 

「お、おろろ……」←もらいミラクル。

すっきりした顔で善はかえって行った。

波長をいじったウサギは誰にも気付かれない!!




鈴仙の耳の個人的見解について。

『取れる』という人がまれにいますが、私も取れる派に人間です。
月の時代で敵につかまり、耳を切断され、義足ならぬ義耳を付けていると考えて居る派ですが、そんな設定重すぎて、フツ―無いな。
と気が付き、いまだに「アレ、なんだろ?」と答えの出せない作者です。

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