相手がシリアス空気なので、なかなか書くのが難しかったですね。
いや~自分の作風って大事ですね。
俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)
ただ今、仙人目指して修行中です。
師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。
うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?
と、兎に角今日もがんばります……はぁ……
「ここだ、早く入れ」
ぶっきらぼうな態度で、善の前を歩いていた青年『椿 哉碼』が一軒の家を指さす。
何処にでもある普通の家だが、表札に有る名前は『
さっき名乗った椿とは苗字が違う。
(偽名?それとも……)
善の中に嫌な妄想が走っていく。
「善さん……」
善の不安を感じ取ったのか、一緒について来た橙がぎゅっと善の袖を握りしめる。
現代の日本に橙が詳しいはずが無いのだ。
橙の不安そうな態度は、善に心を強く持たせる決意をさせた。
「大丈夫ですよ、現代なら私が詳しいので安心してくださね」
「はい……」
橙の頭に手をのせ、哉碼と共にその家の玄関をくぐる。
「今、帰った」
「哉碼ー!!おかえりー!!」
哉碼が玄関から声をかけると同時に、建物の奥から一人の少女が走って来た。
善と同じくらいの年齢に見えるが、かなりの美少女に分類されるだろう。
(妹?……いや、遺伝子が仕事をしてなさすぎる。恋人、同棲してるんなら奥さんか?うーん……こんな美人な子と同棲かうらやまし――)
そんなことを考えていると足元に衝撃が走る!!
ガシッ!
「痛ってぇ!?」
何事かと思い足元を見ると橙が怨嗟を込めた視線で善を睨んでいる!!
橙が善の足を踏みつけており、さらにグリグリと力を込めて善の足を踏みにじる!!
「巨乳は……いらない……」
ぼっそりと橙の口から、声が漏れる!!
その迫力は彼女の主人である藍にも負けない迫力があった!!
「架憐、今帰った。今日は――」
「あれ?その子……誰?」
架憐と呼ばれた少女が橙を視界に収める。
その瞬間!!彼女の柔和な態度が変化する!!
「ネェ?……ソノ子ダレ?私、哉碼ガ帰エルノ遅イカラ、心配シタンダヨ?ネェ?ソノ女……ダレ?」
架憐の瞳が暗く曇り、橙を見た後に渇いた様な声で哉碼に『ダレ?』とまるで壊れたレコードの様に話しかけ続ける。
その姿は決して正気と言えるものではなかった。
(うえ……こえー、前言撤回。この子と同棲してたら命が幾つ有っても足りないな)
哉碼と架憐の会話をそんな事を考えながら善はぼーっと見ていた。
「落ち着け、架憐。そこで偶然拾ったんだ、喰種に襲われていたしなんか訳ありっぽいから連れてきた。
問題ないだろ?」
「うん……哉碼がそうしたいって言うなら私は――」
「なら決定だ。おい、二人ともさっさと上がれ」
押切気味に言った哉碼の言葉により、あっさりと二人の言い合いが終わり、善と橙は家に上がることが出来た。
「はい、コレしかないけど――」
リビングにて架憐が、善と橙の目の前にレモンティーを置く。
「さてと、お前ら二人はなんで、あそこにいたんだ?」
哉碼が善を見ながら口を開く。
「ちょっとこっちの世界に投げ込まれまして……」
善がためらい気味に口を開く。
当然だが、「異世界から来ました」なんていえば頭がおかしい奴認定されるのはわかり切っている。
だがそれが真実であるため、言葉が尻すぼみにならざるを得ない。
「正直に言う気は無いって事か」
そういいながら哉碼は椅子に深く腰掛けた。
「すいません……本来なら、いろいろ言うべきなんでしょうけど……」
気まずさからか、善は言葉を流し込むかのように、テーブルに出されたレモンティーに口を付ける。
「まぁいい、気にするな。それよりお前ら行くところ有るか?」
「え?」
「だから、この後何処か行く場所のあては有るのか?」
めんどくさそうにしながら、哉碼が再度口を開いた。
「いいえ、残念ながらありません」
「なら、今夜は泊まっていけ。架憐、部屋開いてるよな?」
「哉碼さん!?」
「哉碼!?何を考えているの!?」
善と架憐が同時に口を開く。
それに対して悠然と哉碼が口を開く
「このまま、外に放りだして死なれると寝覚めが悪いからな。
それに、本当に喰種の事を知らないみたいだ、さっき言ってた『異世界』ってのも本当かもしれないな」
真意の読めない顔をして、座ったまま体制を崩す。
「あのー、さっきから言ってる『グール』って何ですか?」
善がおずおずと質問を、哉碼に聞く。
それに対して哉碼がゆっくりと説明を始める。
「喰種を知らない?そんな馬鹿な……まぁいい。説明してやろう。
喰種っていうのは、簡単に言えば人間に近い別の生き物だ。その名の通り人間を食らって生きている」
『人間を食らう』の部分で善が僅かに息を飲んだ。
思い出すのはさっきの光景、あの人外二人組は比喩や暗示の意味ではなく本当に自分を捕食しようとしていたのだと改めて理解する。
「その態度――本当に喰種を知らないのか?」
善の驚く態度をみて再び、哉碼が口を開く。
ずっと善を観察していたようで、興味深そうに目を細めた。
「まぁいい、話を続けるぞ。喰種はさっきも言ったように人肉を食うが、逆にそれ意外の物を基本的に摂取することは出来ない、無論飲み物もだ」
哉碼はそう言って善のさっき飲んでいた、カップを指さした。
指摘された事に気が付き、善の持つ中身の減ったカップが僅かに揺れた。
「よほど上手く演技出来ない限り、お前は喰種じゃない。
更に言うとCCGの職員でもないな?CCGの職員は、喰種の出した飲食物は薬の類を警戒して口を付けたりしない――だから安心しろ
その言葉と共に、善が後ろに気配を感じて振り返る!!
そこにいたのはさっき紅茶を運んできた架憐だった。
「いいッ!?」
恐怖の余りきつった声が、善のノドから漏れた。
さっきまでの彼女と違う点が二つ。
一つは瞳、哉碼が見せた様に赤黒い両目。
もう一つは、その体躯の3倍は有ろうという巨大な青紫色の巨大な尻尾。
尻尾の方は今にも、善と橙の二人に襲い掛かろうとしている様に見えた!!
「ねぇ?哉碼……殺しちゃダメなの?人間なんでしょ?食べちゃおうよ」
尻尾が動き出し善の肩に触れる、まるで子猫が甘えるかのように善の首に尻尾が巻き付いた。
「架憐!!」
「冗談だってば、ジョーダン。そんなに怒らないでよ」
哉碼が声を出すと同時に、ころりと態度を変え尻尾がしまわれる。
「すまないな。架憐はどうも人間嫌いの気が有るんだ、最も人間はそれ以上に俺たち喰種が嫌いみたいだがな」
遠い過去を思い出すかのように、哉碼が口に出す。
その瞳には何処か、悲しそうな光が宿っているようにも見えた。
「人間とそれ以外の種ですか……仲良く成るってそんなに難しいですかね?」
この日、善が始めて明確に哉碼の言葉に反論した。
小さく哉碼が舌打ちする。
「思いやれば、歩みよればきっと――」
「甘い事を抜かすな!!」
哉碼が大きな声と共にテーブルを叩く!!
目は片方が赤黒く染まり、テーブルにヒビが入り紅茶も零れてしまっている。
「――悪いな。熱くなった……架憐、そいつらを部屋に案内してやってくれ」
考えむ様に哉碼は顔を押さえ、絞り出すような声で架憐に指示を出した。
「うん、わかったよ。お二人さん、こっちだよ」
「橙さん、行きましょう」
「はい……善さん」
善はわずかに怯える橙を手を取り、架憐の後を付いていった。
「橙さん、今日の宿が見つかってよかったですね」
貸してもらった部屋のベットに橙を座らせ、善が窓から外を覗く。
結構な時間話していた様で、外はとっぷりと日が暮れている。
「善さん……」
なにかを言いたいように橙が、口を開いて止めた。
僅かに見える善の横顔が、今まで見たどの善の表情よりも怒りに震えているように見えたからだ。
「橙さん……種族の違う生き物が理解し合えない、なんて思った事ありますか?」
橙を真剣な目で見ながら善が話しかける。
その瞳には複雑な思いが、幾つも渦巻いているように見えた。
「わかりません!」
一瞬のラグの後橙は善に言い切った。
「わからないって……そんな」
「わかり合うって何ですか?私達妖怪は基本的に個別で動きますよ、これって分かり合えないって事ですか?それなら、諍いばかりしている人間は分かり合っているんですか?」
「それは――」
善は咄嗟に言い返す事は出来なかった。
流石は賢者の式の式というべきか、その言葉は非常に重みがあった。
善は否応なしに、相手が自身より長く生きている生き物だと改めて確認させられた。
「けど――」
言い淀む善に対して橙が再び口を開く。
「今、私と善さんは確かにお互いを大切に思ってませんか?これって分かり合ってないとも言えないでしょ?
藍さまも、紫さまもきっとお互いに信じあってると思うんです、そこに確かな形や証拠は無くても……思いって言うのはきっと確かにあるんですよ!!」
そう語る橙は、何時もよりずっと大人びて見えた。
善自身よりもずっと、ずっと……
「さ!そんな事より、藍さまが来るまで待ってましょうよ!」スリスリ
「橙さん……あの……」
「どうしました?」スリスリ
「せっかく良い事言ったんだから……私の尻から手を放してくれませんか?」
橙は会話の途中からずっと善の尻を撫でていた!!
ちなみに器用に尻尾2本でハートマークを作っている!!
「嫌です!!」スリスリ
『すごいぞ!!もう掛け算が出来るのか!!』
父さん……
『おかえり、学校は楽しかった?』
母さん……
『『お誕生日、おめでとう!!』』
二人の男女が幸せそうな顔でこちらを見る。
そうだ……
今日は僕の誕生日だ……
でもなんでだろう?
すごく嫌な予感がするんだ……
一瞬の後場面がガラリと変わる。
走っている、全力で。
逃げているんじゃない、求めているんだ。
不安に押しつぶされそうになりながら、愛する両親の元へ。
両親の笑顔を求めて……
「父さん!!母さん!!」
自分の家の扉を開ける。
そこにはいつもの幸せが有るはずだった。
両親が優しく迎えてくれる
「ひ……あ……」
あたたかなはずの我が家は、夕焼けの様な真っ赤な色で染められた居た。
昨日みんなでテレビを見たソファーも、自身の身長を刻んでいた柱の傷も、運動会で取った一位のトロフィーも、すべての思い出が両親の血で赤く染まっていた。
「うぎぃ!?……」
床に転がる物体に見覚えがあった。
何時も笑いかけてくれ、優しく頭を撫でてくれていたその物体。
それが『何か』理解した瞬間、ノドに胃液が逆流しかける!!
「父さん……」
しぼりだす様にその物体に声をかけるが、反応は無い。
もうこれは父ではなかった。
少し離れた場所で何かが動いた!!
瞬時にその対象に目と意識を向ける。
母だ。
母が地面に倒れている!!
少年は慌てて母に近寄る。
「母さん!!母さん!!」
必死で我が母に呼びかける、そこから帰るのは悲しき別れの言葉。
「母さんはもう助からない・・・・・・・『哉碼』も分かるでしょ?
このままいたらCCGがまた来る・・・・・・・
その前に必要な物をもって早く・・・・・・・ 」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!父さんと母さんがいなかったら僕はどうやって生きていけばいいの!? 」
少年――哉碼の悲痛な声が昨日まで幸せにあふれていた家にこだまする。
「ごめんね哉碼・・・・・・・生き、のこっ・・・・・・・て・・・・・・・」
母親だった物が動かなくなる。
しかし彼には悲しむ時間などなかった。
CCGのマークを付けた男が、武器を持ってゆっくりと歩いてくる。
「碼――!!ねぇ!!哉碼ったら!!」
「うわぁああ!!?」
架憐に身を揺られ、哉碼が起きる。
どうやらソファーでうたた寝してしまった様だった。
「架憐か……すまない、昔の夢を見た……」
汗をびっちり掻きながら、哉碼が立ち上がる。
「昔の夢って、ご両親の?」
「ああ、このところあまり見なかったのにな……あの二人を見たからか?」
哉碼の父母はそれぞれ人間と喰種だった。
人間でありながら、喰種を愛した父。
喰種でありながら、人間を愛した母。
新たな架け橋となるハズの二人は哉碼が15の時、死んだ。
異種間の二人組……そんな関係があの二人に重なったのかもしれない。
人間の彼と猫の様な彼女、本来なら直ぐに殺していたが家に招きいれたのも気まぐれではないのかもしれない……
「心配かけたな――もう大丈夫だ」
哉碼は無理して架憐に笑いかけた。
コラボもたぶん次回で終了の予定です。
最後まで読んでいただけたら幸いです。