思ったより人気が出てきて作者自身困惑気味です。
やっぱり連載にしようかな?
短編で5話ってのは多いしね……
俺……じゃなかった、私は詩堂 善(しどう ぜん)
仙人を嫌々……ではない、心から仙人目指して頑張ってます!うん……そう、たぶん。
秋もすっかり深まった今日この頃、山は紅葉で紅く染まり肌に感じる風には肌寒さが目立つようになった。
太陽がのぼる前に今日も善は目を覚ます。
「ん……そろそろか……」
自分の体温が移った布団から抜け出し着替えを始める。
「さぶ……」
肌寒さが本格的に強くなってきた気がする。
もう冬が近いのだな、と考えながら芳香の居る墓場に向かう。
ストレッチを手伝って以来芳香に頼まれ朝食の準備前に一緒に体をほぐすのが習慣となっていた。
「太陽がのぼる前に起きて体操か……アッチに居た頃よりずいぶん健康的になったな……」
まだ眠気が覚めないのか足元がおぼつかない。
途中で何度か転びそうになりながらも芳香の後ろにたどり着く。
「芳香~体操に来てやったぞ~」
善の声に反応し直立不動のキョンシーが振り返る。
「ん?……誰だ……おお!善!よく来てくれた!!」
善を見た瞬間パァっと芳香の顔が明るくなる。
よろよろとこちらに向かって歩いてくる……?
「どうした?芳香?今日はずいぶんふらついてるな」
芳香がゆらゆら揺れながら近づいてくる。
良く転ばないモノだ、と感心してしまう。
「善?どうした?ふらついてるのはおまえだぞ?」
「え?」
気づいた時にはもう遅かった。
芳香だけでなく、周りの墓石も木も太陽さらには地面さえもぐるぐる回りだした!
「どう…し……て?」
ばたりと音がして体に鈍い衝撃がはしる!
芳香の声が遠くに聞こえる……
自分が転んだのだと理解した時には目の前はすでに真っ黒になっていた。
「ここは何処だ?」
善は自分が一度も見た事のない墓でパニックになっていた。
少し前まで自室でオンラインのゲームをしてた筈だ、喉が渇いてコーラでも飲もうとして……そうだキッチンに向かった筈だ。
しかしその後は思い出せない……だがここは明らかに自分の居た家ではないのは確かだ。
「あ!!人だ!!」
少し離れたところに人の姿が見える。
赤い中華風の服に青いスカート、そして帽子。
こちらを背にする様に立っている。
墓場という不気味な場所で人間に会えたことで安心感が芽生えた。
「おーい!!」
話しかけた相手はこちらに振り向いた。
しかしそれは明らかに人間ではなかった……青白い肌、生気を感じさせない濁った目、そして顔面には見た事もない文字で書かれた札が張ってあった。
「ん……アレ?」
善は再び目を覚ました。
「目が覚めたのか!!」
すぐそばから明るい声がした。
善の師匠が作ったキョンシーの芳香だ。
「あれ?どうして俺寝てるんだ?芳香を迎えに行って……」
思い出そうとした時自室の扉が開き、師匠が顔を出す。
「あら、目が覚めたのね。心配したのよ?芳香が『善が死んだー』って泣きながら走ってくるから……」
そう言う師匠の手には小さな土鍋が乗ったお盆が有る。
師匠は善の机の上にお盆を置き、善のすぐそばにしゃがみ額に手を当てる。
「うーんまだ熱いわね……」
そう言って再び立ち上がる。
「師匠?俺一体……」
立ち上がろうとするが体に力が入らず、再び布団に倒れこんでしまう。
「善、立っちゃダメだ。風邪をひいてるんだ」
芳香が善を押しとどめ布団を掛ける。
「風邪?」
確認するように善が聴く。
「そうよ、たぶん昨日池に落ちたのが原因ね。無理もないわ秋も大分深まってきて肌寒さを感じる頃なのに、外で物部様を襲うなんて……その後何を思ったのか池に飛び込むなんて……風邪をひきに行くような物よ?」
師匠が冷静に推理する。
その言葉尻にはこの状況を楽しんでいる気がしないでもない。
「それは…ゴホッ!誤解です……」
熱にうなされまともに回らない頭で何とか弁明をしようとする。
「大丈夫よ。わかってるわ、あなたが物部様を襲おうとしたんじゃないのはわかってるわ、あなた胸が有る方が好きだものね?なんだったかしら?シャイニング……?」
いたずらっぽくにっこりと笑う。
師匠は何がしたいのか毎回読めない。
「えっふ!!ゲほ!ごほ!!」
突然図星&バレていないと思っていた事実を告げられ咳き込んでしまう。
(シャイニングフィンガーもばれていたのか……)
自身の煩悩に負けそうになったのはすでにばれていたようだ。
「芳香?お雑炊作ってきてあげたから善に食べさせてあげてね?」
うふふふと、笑いながら壁を通り抜け姿を消す。
後に残されたのは善と芳香と気まずい空気。
「善、雑炊食べるか?」
いや、雑炊が残っていた。
机の上の雑炊の乗ったお盆を持ってくる芳香。
善とのストレッチの成果か、相変わらず手は前に突き出したままだが雑炊のお盆を掴んで持ってこれるくらいはできるようだ。
「ありがと……芳香……」
善が何とか上半身を起こす。
「食べさせてやろう」
レンゲを掴み、少量の雑炊を掬い善の口の前まで持っていく。
「善あーんしろ」
「あーん……」
何時もなら断ったりするところだが今日はそんな余裕はない、善はおとなしく口を開けた。
雑炊を口の中に含んだ途端に薄めの味付けの米と野菜の甘みと出汁の旨味があふれる。
大根とにんじんだろうか?ネギの風味に混ざって柔らかい根菜系の味がする。
冬瓜も有るのか、僅かだがとろけるような柔らかい触感もする。
「善うまいか?熱くないか?」
心配そうに芳香が尋ねる。
「ああ、うまいよ……大丈夫だ」
それを聞いた芳香はうれしそうに眼を細める。
「前は善にご飯を食べさせてもらったからな!恩返しだ」
芳香の笑顔を見ていると善はここに来て少し経ったときの事をおもいだす。
「師匠?芳香さんは一緒に食べないんですか?」
作るようにと言われた朝食を配膳しながら師匠に聴く。
「あら?私のかわいい芳香にこんな物を食べさせようって言うの?」
ジロリとこちらを睨む師匠。
机の上には黄身の潰れた目玉焼き、水が多くべたべたのごはん、熱し過ぎて味が濃い味噌汁(味噌の塊入り)が並べられていた。
「すいません!!釜戸って初めてで……コンロとかなら……」
「黙りなさい!!」
善の言い訳を師匠が一喝する。
ビクリと体をこわばらせる。
「まったく、必死で頼み込むから弟子にしてあげたのに……これならあなた自身を芳香のごはんにした方が良いかしら?」
その言葉に壁に立っていた芳香が反応する。
感情の全く読めない瞳で善の方をジッと見る。
それは間違いなく
「あの時は怖かったな……」
善が遠い目をする。
「ん?何の事だ?」
芳香がレンゲを止める。
「芳香と初めて朝ごはん食った時の事だよ、たぶん覚えていないだろうけどな」
「……うん、覚えてない」
二人は笑い合って食事を再開した。
そのまま芳香は善がすべて雑炊を食べ終わるまで面倒を見てくれた。
「善本当に大丈夫なのか?死んだりしないか?」
尚も心配なのか所在なさげに布団の隣で座っている。
「ああ……大丈夫だ……師匠と芳香のお陰だ……ありがとうな」
礼を言って布団に再び横になる。
「善」
善を覗き込むように芳香が顔を近づける。
「なんだ?」
お互いの息がかかりそうな距離でささやく。
「死ぬのはダメだぞ?」
何度目かの芳香のその言葉。
それに対して善はフフッと笑う。
「ただの風邪だ……池に落ちた事が原因でな……気にすることじゃない」
「そうか、けど心配だ。ここにいさせてくれ、キョンシーだから風邪はひかない」
芳香が器用に足を前に開いて座る。
「ああ、かまわない……此処にいろ……」
そう言って善は再び意識を失った。
芳香としゃべる事自体無理していたのかもしれない。
すうすうと布団の中で寝息を立てる。
「…………」
芳香はそのまま横になり寝ている善にくっつく。
善の身体から呼吸音と心臓の鼓動が規則的に聞こえる。
そんな当たり前の生理反応が芳香にたまらなく【生】を感じさせた。
「生きてるんだな……」
善の額に自分の作り主がしたように手を当てる。
(熱い……私には……体温はない……)
その差が、とても大きな差な気がして芳香は少し寂しくなる。
(善は初めてのごはんの時覚えてるんだな……)
正直な話芳香は善と初めて食事をした事を覚えていた、さっきは咄嗟に「覚えていない」とうそをついてしまったのだ。
(すまない……怖い思いをさせてしまった……)
善の体温を感じつつ謝罪する。
願わくば善と自分がこのまま「生きて」いけるようにと願う。
暫くして善の部屋の扉が開く。
「あら……寝てしまったのね。お雑炊はちゃんと食べた?」
水差しと薬の袋を持った師匠が現れた。
コクリと芳香が頷く。
「あらあら、一緒に寝てるの?芳香は本当に善が好きね?」
師匠が芳香に笑いかける。
「善好きー」
何時もの様に芳香が答える。
「うんうん、いいわね。私も息子が彼女を連れて来たらこんな気分なのかしら?」
師匠も自分の夫との生活を思い出す。
善の頭に手を乗せゆっくりとなでる。
「よしよし、私の坊や……なんてね、うふふ」
照れ隠しの様に笑う師匠。その顔には邪仙と呼ぶには似つかわしくない表情になっている。
「さて、お薬を飲ませなくちゃね?善!!ぜ~ん!!起きなさい!!」
師匠がゆらゆらと善を揺さぶる。
「なんですか……師匠?」
不機嫌な顔で善が目覚める。
「ほら、芳香をはべらす前に薬を飲みなさい」
師匠の言葉に違和感を感じた善は隣を見て驚く。
「え?……うわ!!なんで芳香が一緒に寝てるんだ!?」
芳香から後ずさる。
「あら、物部様の次は芳香だったのね?節操のない下半身ね?」
冷たい視線で善を見下ろす。
何処となく怒っている様に見える。
「師匠?違うんです!コレは芳香が勝手に……」
「ハイハイ……それは解ったから薬を飲みなさい?いくら私でも弱った所に折檻するほど鬼ではないわ」
そう言って善に薬の包と水の入ったコップを差し出す。
「師匠?コレって中にヤバイモノ入ってませんよね?」
師匠の出した薬という事で反射的に警戒してしまう善。
「まあ、失礼しちゃうわ。コレあなたが買って来た薬よ?」
その言葉に気が付いてみれば確かに袋に八意製と書かれている。
包の上から薬の内容とサインが有るため、手紙の印の様に一回開けて入れなおす事は無理だろう。
「なら、安心ですね……いえ、水はどうです?怪しい薬は……」
善が言葉を発している途中で、師匠が善の水を手に取り飲む。
「はい、これでいい?あなた少し疑ぐり深過ぎよ」
「すいません……」
謝って善は薬を飲み干した。
「さて、そろそろかしら?」
師匠がとてもいい笑顔で笑う、邪仙にふさわしい表情だ。
「あの?師匠?が……!!」
体の一部が熱くなる!
「コレは……!!」
「解らなかったの?さっきのお雑炊に精力を高める素材が有ったのよ、冬瓜みたいだったでしょ?」
そう言いながら布団に不自然に張られたテントを見る!!
善はすでに嵌められていた!!
薬はフェイク!!恐るべし邪仙の策略!!
「芳香~善が汗をかいた頃だから布でふくわよ~逃げないように捕まえてて」
ガシッと後ろから捕まる!!
「頼む!!芳香!!離して!!さすがにコレはやばいんじゃないのか!?」
善が必死に説得するが芳香は手を離さない!!
「さーて。私達が看病してあげるわ~」
右手に布!左手で善の服を掴む!!
「やめてください!!師匠!!」
涙ながらに師匠に訴える!!
「ダ~メ!病人はおとなしくしなさい!」
しかし現実は非情である!!
看病プレイって憧れる。
けど私の場合風邪って何か食べて一日寝ればたいてい治る。
鳥インフルを半日で治して医者に
「君すごいね」
と言われた事が有ります。
あ、忘れてたけど
感想待ってます!!