止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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ふい、やっと元の感覚が戻ってきましたかな?
意見等あれば、お気軽にどうぞ!!


血風!!弟子と神霊廟2!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

「むにゃ……むにゃ……我に……お任せ……」

 

「布都様!!布都様!!起きてください!!」

神霊廟の一室にて眠る布都を、善が布団ごと揺り動かす。

2度、3度、4度とその体をゆするが一切起きる気配はない!!

善の態度がだんだん乱暴になっていく!!

 

「起きてくださーい!!おーきーてー!!」

 

「むふふふ……屠自古め……うらやましいか?……うらやま……」

 

「あー、ダメだ。このまな板起きねー、なら……必殺!!」

意を決した善が布都に覆いかぶさるように体をしゃがめる!!

両手で布団を掴み、布都ごと布団を引っ張り持ち上げる!!

 

「わわわ!?何事!?」

体に急に来る浮遊感に布都がたまらす目を覚ます!!

しかし善の技は止まらない!!

 

「布団返し!!」

空中で布団を180度回転させる!!

そしてそのまま、天地のひっくり返った布団を重力に任せ畳に叩きつける!!

 

「へぶぅ!?なんじゃ?なんじゃ!?なんなんじゃ!?!?」

混乱しながら布都が布団から這い出てくる。

無理もないが彼女は混乱の極みにいた!!

 

「ぜ、善?なぜお主がここに?……はっ!?もしや我のあふれ出る色香に惑わされて夜這いを仕掛けに来たんじゃな!?そうであろう?破廉恥な奴め!!」

胸を押さえ、善に自身の指を突きつける布都。

彼女の中ではすっかり先ほどの妄想が真実として定着している!!

 

「ハッ(嘲笑)そんな訳ないでしょ?屠自古さんに起こして来るように言われたんですよ」

そういって、善は障子を開け放ち布都の部屋へと太陽の光を入れる。

今日もいい天気だ。

 

「のう、善?お主先ほど我を馬鹿にした顔を――」

 

「さ、屠自古さんのご飯が冷めますよ。早くいきましょう!!」

布都の言葉を区切る様にして善が先陣を切って歩き出す。

 

 

 

「屠自古さん、布都様を連れてきましたよ」

善が障子を開けると、すでに全員が座って待っていた。

ここ神霊廟の常在メンバーの神子、屠自古を筆頭に善の師匠と、キョンシーの芳香まで勢ぞろいしていた。

 

「むむ?なぜ善のみならず、お主まで?」

布都が師匠に話しかける。

その言葉に反応し、神子が口を開く。

 

「忘れたのですか?昨日私が泊まっていく様に勧めたのですよ」

 

「はて……言われてみればその様な事が有った様な?」

 

布都が腕を組み、机の前に座る。

そこに善が味噌汁と白米を盛った茶碗を差し出す。

まぁいい、と呟き全員が食事を始める。

 

「そういえば……お主、昨日壁にめり込んでおらんかったか?」

沢庵を一切れつまみながら、布都が何気ない一言を善に投げかける!!

 

「ブブゥ!?げほ!!ゴホッ!?ふ、布都様見ていたのですか!?」

飲んでいた味噌汁を噴き出しながら、善がせき込む!!

 

「ああ、お気になさらずに。善には女装の趣味が有るんですの」

 

「師匠!?何しれっと嘘ついてるんですか!?」

横から口を開く師匠の言葉に善が口調を荒げる!!

布都はかわいそうな物を見る目で善に視線を送る!!!

 

「善……お主、もう少し健全な趣味を持った方が――」

 

「いやいやいや!!本気にしないでくださいよ!!私はノーマルな人間ですからね!?」

 

「善がノーマル?」

 

「あー?」

 

「むぅ?」

善の「ノーマル」という発言に師匠、芳香、さらには布都が不思議そうに首をひねる。

 

「え……なんでみんなそんなリアクションを?」

3人の予想外のアクションに善が、打ちひしがれる!!

三者三様の「オメー、フツーじゃねーから!!」の無言の視線!!

善の心に大ダメージ!!

 

「普通って何かしらね?」

自身に尋ねる様に師匠が、一人つぶやいた。

 

「ええ……大体、師匠が変な事するからですよ?

ってか、アレやってる時、誰かすごい私の尻を触ってきた人いたんですけど……

ああ、ダメだ。トラウマに成りそう……」

明らかに落ち込んだ様子の善、本人の中にかなり深く傷が残ったらしい。

不特定多数の人物に尻を触られる経験は、あまり味わいたくない経験であった!!

 

「おお!確か、猫の妖怪がお主の尻を触っておるのを見たぞ」

布都がなぜだか誇らしげに善に、昨日見た光景を伝える。

 

「うわぁ……ものすごく、その妖怪に心当たりある……」

善の脳裏に橙色のスカートを履いた妖怪が表れる!!

 

(橙さん……あなたは一体どこに向かっているんだ……)

頭痛のあまりしばらく善は自身の頭を押さえていた。

 

 

 

「詩堂君、少しいいかな?」

食事が終わり、片付けを終えた善に神子が話しかけた。

 

「た、太子様……」

 

「私の事は神子で構わないよ。そんな事より私と少し稽古をしないかい?ウチの弟子達では、君の相手をするのは務まらない様だからね。

それに、君も私も同じく『彼女』を師匠と崇めた兄弟弟子だ、仲良くしようじゃないか」

そういってフレンドリーに、善に向かって笑いかける。

 

「そんな、私が太子様の――」

 

「『神子』だよ、詩堂君。君の実力を見てみたいんだ」

穏やかな顔をして、神子が再び懇願するような表情をする。

 

(なぁ、善。お前、夢とか有るか?俺には大きな夢が有るんだ――)

その穏やかな顔が善の脳裏のとある人物にオーバーラップする!!

意図せずその人物の、顔と声が流れる!!

 

「あ……き……ら……?」

 

「詩堂君?どうしたんだい?」

善の様子がおかしい事に気が付いた神子が善を心配する。

 

「す、すこし気分が……す、すいません!!稽古は次の機会に!!」

早口でそう告げると、善はその場から逃げるように走り去った。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……はぁ……ウッ!」

えづく様に善が神霊廟の壁に寄りかかる。

口に手をあて、何かを飲み込む様に息を激しく吸い込む。

 

(こんな所で、アイツを思い出すなんて……)

 

「善?大丈夫か?」

善の背中に、よく知る声が掛けられる。

芳香が心配そうに善の顔を横からのぞき込む。

 

「よう、見てたのか……だい……じょう……ぶ……だ……」

芳香を安心させようとしたのか、自分をだまそうとしたのか。

無理をして笑顔を作る。

 

「善は神子が苦手なのかー?」

善の呼吸が落ち着いた頃を見計らって、芳香が善に質問をする。

 

「苦手?……神子様が?……そうかもしれないな……」

 

「何でだー?とってもイイヤツだってみんないってるぞ?」

自身の思う疑問を芳香は再び善に投げかける。

 

「良い人すぎるんだよ……」

絞りだす様に善が言葉を発する。

 

「良い人すぎる?」

 

「ああ、そうさ。流石は教科書に載ってる偉人だ、一目見ただけで解る。

『この人はすごい人だ』ってさ……ありとあらゆる分野で俺を遥かに凌駕している、神子様も俺と同じ、師匠の弟子だったって言うけど……はっきり解るんだ。

『俺はあんな風には成れない』まさに天上の人さ」

自嘲気味に善が笑う。

神子はその経歴からしてまさに『聖人』と呼ばれる人物だ。

善はその聖人と自身の歩む道が偶然にも一致してしまった事で多大なプレッシャーを感じたのだ。

決して勝つ事の出来ない相手、絶対的な存在が善の前に立ちふさがっているのだ!!

 

「善……諦めるのか?仙人に成るの」

悲しそうな目をしながら芳香が善に尋ねる。

 

「諦めないさ……俺がここで生きるには仙人になるしかないんだ、人里では暮らせないなら力をつけるしかない、たとえどんなに比較され蔑まれたとしても!!」

その言と共に善が握りこぶしを握る!!

強く固く!!手は赤く充血し、爪を刺した掌からは血が流れ出る!!

 

だが、拳を握ったのは善だけではなかった!!

 

「善のバカヤロー!!」

 

「イテェ!?何すんだよ!?」

芳香が善の頬を殴りつけた!!

頬を押さえ善が抗議の視線を向ける。

 

「善はえらく成りたいのか?神子みたいに成りたいのか?」

 

「それは……違う……けど――」

 

「なら、なんで自分を大事にしないんだ?」

 

「え?」

 

「善はすごいぞ。ご飯も作ってくれるし、ストレッチも手伝ってくれる、修業も頑張ってるぞ!!」

 

「いや……それもそうだけど……」

 

「善は私にとっては神子にも負けてないぞ!!

それでも、それでも負けてると思うなら、善は『今は負けてる』だけだ!

今の善は『勝つ途中』なんだ!!だから、だから負けるな!!」

要領を得ない、めちゃくちゃな芳香の言葉。

しかしその言葉は確実に善の心に響いた。

芳香の善を思いやる気持ちは、言葉以上に善の心に響いたのだった。

 

「芳香……言ってる事むちゃくちゃだ……けど、なんだろう?

元気出たよ、うん、元気出た。『勝つ途中』か、そうだよな」

うんうんと何度も善は頷いた。

 

 

 

神霊廟、善のいる場所から壁を一枚隔ててもたれ掛かるようにして、師匠がほほ笑んでいた。

 

「ふぅん……そろそろ挫折を教える頃合いだと思って、太子様に合わせたけど……

なかなか立ち直り早いじゃない……

半分は芳香のお陰だけど。

けど、あの子も馬鹿ねぇ、私がタダの人間を弟子に誘う訳ないのに……あなたには可能性があるわ、屠自古様も布都様も、私もそして太子様すら超える大きな可能性が……」

 

自身の服の中に手を入れ、わき腹を触る。

痛みが走り、指先を確認すると薄っすらと血が付いていた。

そこは昨日善との、稽古で()()()善の攻撃を受けた場所だった。

 

「金剛不懐の仙人である私に手傷を負わせた……あなたは私が予想した以上のスピードで力を付けている……

もっとも、本人に言ってしまうと調子に乗るから言わないのだけれど……」

まるでいたずらをたくらむ子供の様に嗤うと血の付いた指を舐め取り、誰に聞かせるでもなく師匠がそうつぶやいた。

そして

 

(あの子に関わって芳香も変化している、あの子(芳香)があんな事を言うなんて……良いわ、あなたは私達に新しいものを見せてくれる、大切な私の弟子よ)

心の中でそうつぶやきその場から姿を消した。

 

 

 

「もう神子を見ても気分が悪く成ったりしないか?」

芳香が何かを確認する様に善に尋ねる。

それに対して善はよくわからないといった表情をする。

 

「いや?別に、太子様を見ても気分が悪く成ったりしてないぞ?」

 

「え?なんでだ?さっきも苦しそうに――」

芳香が目を丸くし、善に尋ねる。

それについて善はゆっくり語りだした。

 

「ああ、あれな。あれは別に気分が悪いからあんな風になってた訳じゃないぞ?

いや……その、なんだ?言いにくい事なんだが……笑いを堪えてたんだ」

 

「笑い?」

善から発される予想外の言葉に、芳香の頭は完全に理解不能状態に陥った!!

 

「いや、だってよ?初めて会った時から寝癖スゲーもん!!」

 

「寝癖?」

 

「そそ!!あの2本の角みたいな奴、ミミズクか!?って頭の中で100回くらい突っ込んだよ、ぷぷッ!だめだ、思い出したら笑いが……クフ!」

口を押さえるが善の笑い声がわずかに漏れ始める!

だが!!善はまだ止まらない!!

 

「それだけじゃ、ない。あの服装な?部屋の中でマントって……ってかマントって中二病すぎじゃね!?

けど誰も突っ込まないんだよ!!まともな事、言い始めるしシリアスな雰囲気出すし……シリアスな笑いっての?けど、みんな大真面目でさ!笑うに笑えなくて……あー、キツカッター」

 

「ずっと我慢してたのか?笑うのを?」

 

「うん、そうだよ。劣等感は持つけど、気分が悪くなるレベルは無いよ」

善が芳香に向かって笑いながらサムズアップする。

なおもツボに入ったままなのか、自身の太ももを叩いている!!

 

「それは良かった」

後ろから聞こえた声に善の背筋が凍りつく!!

笑いは一瞬にして吹き飛び、危険を知らせる第六感がアラームを響かせる!!

 

「あ……れ?」

幻聴であることを祈りつつ、後ろを振り返る善。

そこには神子が悠然と立ち尽くしていた!!

 

「やぁ、詩堂君。元気そうで何より」

ニコニコとほほ笑みを浮かべる神子!!

だがなぜだろう!?笑ってるのにものすごーく、怖い!!

 

「えっと……神子さま?一体いつからそこに、いらっしゃった……ので?」

舌がうまく回らず、何度も噛みそうになりながら善が言葉を紡ぐ。

 

「『勝つ途中』の所から、だね」

 

「あ、あははははは!!そうですか……いやー、ああそうだ!!雨が降りそうですね!!洗濯物、家に干しっぱなしだ!!取り込みに帰らなくては!!」

神子に背を向け、苦しい言い訳をしその場から脱出をはかる善!!

 

「まぁ、待ちなさい。今日は快晴だ、洗濯物は大丈夫だよ」

ガシッ!とすさまじい力で善の肩が掴まれる!!

 

「詩堂君、私は世間では聖人と呼ばれているが、これでも人なんだよ。

人なんだから、怒る事が有ってもおかしくないよね?」

 

「な、なにが言いたいんです?」

 

「簡単な事さ。今、私はすごく不機嫌なんだ!!」

その言葉と共に神子が腰の刀に手を伸ばす!!

美しい刀身が翻り、善の目にその姿を表す!!

 

「名刀の錆に成れる事を、あの世で亡者に自慢しなさい!!!」

 

「うえええい!?」

フォン!!ブォン!!!

善の数ミリ前を、刀が通りすぎる!!

神業ともいえる剣技をぎりぎりで善は躱し続ける!!

その時視界に自身の師匠の姿が入る。

 

「師匠!!ヘルプ!!助けて!!神子様に!!神子様に殺されます!!」

 

「あら、善ったら……太子様に稽古をつけてもらってるの?同じ私の弟子同士仲良くね?」

嬉しそうに師匠はその場から去っていった!!

 

「どー見たらコレが仲の良い様に見えるんです!?た、助けて!!誰でもいいから助けて、ヘルプ!!」

 

「さて……詩堂君、そろそろ……戯れは終いじゃ!!」

 

「ひぃいいいい!?」

すさまじ笑顔で神子の剣が善に振り下ろされる!!




引っ張りに引っ張った神子ネタ、ついにここに完結!!
目の前に聖人がいる人たちって、嫉妬と劣等感とかかすごくないのかな?


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