止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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こんにちは、久しぶりの投稿になりました。
感覚が少し狂っていますかね?
本日はだいぶ長くなってしまったので反省します。


血風!!弟子と神霊廟!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

二月に差し掛かり、春を僅かに意識し始めるある日、墓場の一角にある師匠宅の庭にて二つの影が舞っていた。

一つは言わずもなが、弟子の少年詩堂 善、もう一人は彼の師匠に当たる女性だった。

 

「ハァッ!!気功手刀拳!!」

善が自身の右手の手刀に気をまとわせ、更に自身の持つ能力を付着させ師匠に向かって思いっきり振り抜いた!!

 

「……なぁに、これぇ?」

 

「うげッ!?」

師匠はあっさりとその手刀を受け止めた!!

いや、ただ受け止めたのではない!!

善の渾身の一撃を左手の親指と中指でつまんで止めたのだった!!

 

「もっと本気に成りなさい。私が珍しく相手をしてあげているのよ?」

 

「痛!?」

師匠はつまらなそうに口を尖らすと、善の手を抑えている指に力を入れだした。

肉が潰れ骨がギシギシと軋む!!

 

「えい」

更にまったく力のかかっていない掛け声を上げ、自身の腕を振りあげる!!

その瞬間!!善自身の体が浮遊感に包まれ、空中に投げ出される!!

師匠は自身の指2本の力だけで、善を放り投げたのだ!!

 

「わわわわ!?イデェ!!」

そのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられる!!

 

「あらあら……あまり私をがっかりさせないでくれるかしら?」

倒れる善に対して、師匠が上から目線で見下ろす。

 

「ま、まだまだぁ!!」

勢いよく立ち上がり、再び自身の腕に気を纏う。

抵抗する力が大気を歪め電気の弾けるようなバチバチとした音が響く!!

 

「ハァッ!!」

善の攻撃が師匠の左わき腹に食い込んだ!!

その場所から気が流れ込み同時に抵抗する力が内部で破裂する!!

……はずだった。

 

「あれ?」

予想をはるかに下回る威力に善が肩透かしを食った。

 

「はい、もう一度」

気を抜いた瞬間再び師匠に投げ飛ばされる!!

そして望まぬアイキャンフライ!!

もちろん待っているのは固い地面!!

 

「ブベラ!?」

善!!本日2回目の地面との熱いキス!!

 

「さて、こんなものかしら?今日の修業はここまでね」

 

「……あり……がとう……ござい……ます……」

ドロリとした感触がして鼻から赤い液体が流れ出る。

どうやら当たり所が悪かった様だった。

 

「あら、善鼻血が出てるわよ?まさかさっき私に触ったから?ああん,若い子の性欲って怖いわー、あれだけでこんなに興奮できるなんて……」

そういって自身の胸を抱くようにして体をくねらせる師匠!!

 

「違いますよ!!地面に叩きつけられたからです!!今見てたでしょ!?むしろ師匠が原因ですから!!」

 

「ぜ~ん!!大丈ジュル夫か?ジュル痛い所ジュルル無いか!?」

顔面から血を流す善を見て芳香が血相を変えて飛んでくる。

そのやさしさに善の瞳がわずかに緩む。

 

「芳香ぁ……心配してくれるのは嬉しいんだが……よだれ拭いてくれよ!!」

善の言うように芳香の瞳は流れる善の血に注がれている!!

その口からは絶えずよだれが零れている!!

 

「ジュル、ジュルジュルジュルルー」

 

「何言ってるかわからん!!一回よだれを拭いてくれ!!」

 

「おっと……すまない。最近善をかじるとおいしくてなー」

実にあっけらかんと芳香が告白する!!

料理がおいしいのでなく、善本人がおいしいらしい!!

 

「何でだよ!?俺がおいしいってどういう事だよ!?」

あまりの言葉に善がその場で地団太を踏む!!

もはや鼻血がドウとか言ってる場合ではなかった!!

 

「へー、善が最近おいしく成ってきたの」

横で黙って聞いていた師匠が興味深そうに言葉を話す。

一見普通の会話だが善は知っている!!この表情と声音は新しい実験動物を見つけた顔だ!!

 

「嫌ですよ?最初に言っておきますけど、私を芳香に食べさせないでくださいね!?」

 

「わかってるわよ、私がかわいい弟子にそんな事する訳ないじゃない?」

優しい穏やかな表情で善の頬を撫でる。

 

「そういえば――すっかり忘れていたのだけれど、太子様に新年の挨拶に行ってなかったわ!善、芳香準備なさい。出かけるわよ」

そういって後ろを振り向いた家の中へと入っていく。

最後に「掃除お願い」とだけ言い残して。

 

 

 

 

 

「おお、善。我に何か用か?」

神霊廟の扉を叩くと中から布都が姿を現した。

小柄だがいつのも様に快活な雰囲気を纏っている。

 

「どうも、物部様。太子様はご在宅ですか?新年の挨拶をと参りましたの」

 

「おおそうか!新年の挨拶に……はて?今日はもう月末近いのだが……」

 

「ええ、私としてはもっと早く伺いたかったのですけれど――いろいろと用事が重なってしまいまして……」

珍しく師匠が頭を垂らし、しおらしく話す。

 

「まぁよい、皆の者よく来たな。善は神霊廟を良く知らぬであろう、我がしっかり紹介してやろう!入るがよい!」

意気揚々と布都が三人を連れ、神霊廟へと三人を導いていく。

 

「ここは太子様と我らの修業場所『神霊廟』じゃ、太子様と我はここで日々厳しい修業をし切磋琢磨しておるのだ!弟子もおり我らの元で汗を流しておる」

布都が自慢げに廊下を歩き、善に神霊廟の説明をしていく。

 

「弟子ですか……師匠には弟子は私以外いないですよね?」

布都の言う『弟子』という単語に反応し、善がこっそり自身の師匠に耳打ちする。

 

「そうなのよ、コレって言う子がなかなか居なくて……居てもすぐに辞めちゃうのよねー、どうしてかしら?」

がっかりという様に両手を左右に開きジェスチャーをする。

 

「たぶん師匠に原因が――」

 

「何か言ったかしら?」

善が口を開こうとした時、師匠が善の頭を右手でつかむ!!

万力の様な力が掛かり体内から聞いたことの無いタイプの音がする!!

ギリギリギリィ!!

 

「いたたったた!?は、放してくださ――」

 

「お前ら何してんよ?」

横から声が掛けられ善の頭が師匠の手から解放される!!

締め付けられた居ないって素晴らしい!!

 

「あら、蘇我様。お久しぶりですわ」

再び師匠の表情が軟化して、頭を下げる。

いつか見た緑の浮遊する幽霊だった。

 

「おお、屠自古!良い所に来た。善、この者が我の――」

 

「あー、屠自古さん。ご無沙汰してます」

 

「詩堂か、今日は遊びに来たのか?」

布都の言葉をさえぎる様にして二人が親しく話し始めた。

一度二度話しただけではない、よく知った相手という話し方だった。

 

「む?お主ら知り合いか?」

布都が二人に対して疑問を投げる。

 

「よく里で会いますよね?」

 

「ああ、意外と気が合うから団子を食べたりしているな」

 

「たまに悩みとか聞いてもらったりしてますよね?」

その言葉を聞いた布都がショックを受ける!!

 

「お、お主ら……我をのけ者にしてこっそり楽しんでおったのか!?」

 

「いや、別にのけ者にした訳では――」

善がフォローに入る。

 

「本当だな!?今度何処か行くときは我も誘うのだぞ?」

 

「あー、ハイハイ。わかりましたよ……」

 

「よし、ならば良い!さぁ、太子様の部屋はもうすぐじゃ!」

屠自己と別れ、善と師匠、芳香は豪華な扉を開け中にいる太子と対面した。

 

 

 

「やぁ、よく来たね。貴女達が来るのも久しぶりだね」

みみずくの様な髪形にマントを纏いヘッドフォンをし穏やかな表情で太子様が迎え入れる。

 

「ご無沙汰しておりますわ、最近は弟子の育成に忙しくてお顔を見に来れませんでしたの」

一礼をして師匠が太子様の正面に座る、善も師匠に促されその隣に正座する。

 

「君が詩堂 善君だね?布都から常々話を聞かせてもらってるよ。

改めて自己紹介しようか、私は豊聡耳 神子。

外の世界では聖徳太子とも呼ばれているかな?」

 

「――っ!?」

目の前の人間を見て善は委縮した!!

今まで何人かの人間と関わりあって来たが、善はこの人は他とは違うという事を一瞬にして理解した!!

雰囲気というべきか、なんなのか善にうまく言葉にできないが明らかに普通の人間と纏う空気が違うのだ!!

すべてを包むような優しさ、何処までも尽きることの無い知的さ、同じ人間とは到底思えなかった。

『聖人』という言葉を以前、師匠から聞かされた事が有るがその意味を善は身をもって理解した。

 

(こんな人間が存在したのか……)

師匠と神子が何かを親し気に話しているが、善の耳には入ってこなかった。

それほどにこの神子の持つ存在感は絶大だった!!

 

「ああ、ごめんなさい。怯えさせてしまったかな?」

善の意識を割るようにその言葉が入ってきた!!

気が付くと心配そうに神子が善を見ていた。

 

「だ、大丈夫……です……」

何とか善はその言葉を絞り出した。

咄嗟に自身の口を手で押さえた、そうしないと口から漏れ出してしまいそうだったから。

 

「善しっかりなさい、仕方ないわね……太子様、実はここに来たのはお願いがありまして」

 

「お願い?」

師匠の言葉をそのまま神子がオウム返しする。

 

「ええ、実はこの子に他のお弟子さん達と顔合わせをさせて頂きたくて……できますか?」

 

「あ、ああ。構わないよ、布都、善君を修業場所の仙界に案内してあげて」

一瞬躊躇したが、神子はすぐに了承し近くに控えていた布都に指示を出した。

 

「かしこまりました!必ずや、善を目的の場所まで案内して見せますぞ!」

布都に呼ばれ善がその場から立ち上がろうとする。

その時師匠が小さく善に耳打ちをした。

 

「死んでしまわない様に気を付けてね」

 

「ちょ!?師匠どういう意味ですか!?」

恐ろしい言葉に、瞬時に体が拒否反応を示すがもう止まらない!!

神子の命を受けた布都には、もう善の言葉は届かない!!

見た目からは想像できない力で抵抗する善を引っ張っていく!!

 

「大丈夫なんですか!?布都様!!布都様ぁ!!」

扉が閉じられむなしく善の声がこだました。

 

 

 

 

 

目の前に広がるのは異様な光景、広大な空間に金色の柱が等間隔に並んでおり、建物の中のはずだというのに太陽があり、地面には草花が咲き乱れ、小川まで流れている。

非常にのどかな風景である。

 

「ここが我らの修業場所の仙界、と言ってもここは弟子達の修業の為の場所で太子様や我は別の場所を使っておる」

 

「ほへ~」

 

「うおおー!広いな!!」

善がぽかんと口を開け、芳香がはしゃぎ始める。

 

「『仙界』の名の通りここは神霊廟の一部ではない。太子様たちのお力でこのような空間が作れるのだ。

おーい!!誰ぞおらぬかー!!」

布都が奥の方に声をかけると3人の若者たちが走ってきた。

 

「ハハァ!布都様我らただいま参上致しました!!」

真ん中のリーダー格の男が一歩布都の前へと進み出る。

 

「おお、お主らか。突然だが今日は我の知り合いの弟子が来ておる、お主らと今日一日一緒に修業したいそうじゃ、皆の者相手をしてやれるか?」

布都の言葉に近くに控える2人の男が一瞬躊躇した。

 

「光栄ですね、ぜひよろしくお願いします」

しかし真ん中の男はすぐに了承し、善に握手を求めてきた。

布都は気が付かなかった様だが、その男の口元には一瞬嗜虐的な笑みが浮かんだ。

 

「ではよろしく頼むぞ!我は太子様の元に戻る」

それだけ話すと布都は手早く近くにあった扉を開き外へと出て行った。

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「ああ、よろしく頼むぜ?邪仙の弟子さん?」

3人の男が善を囲むように立ちふさがる。

もうその目は笑っておらず、もうその心中を隠す気はない様だった。

 

 

 

 

 

師匠が机の上のお茶を手に取り、そのまま口元まで運ぶ。

一息つき、再び机の上に湯呑を戻す。

 

「さて、貴女がただここに来る事は無いのはわかっているよ。

布都と弟子に席を外させたんだ、何か目的があるんだろう?」

お茶をすすっていた師匠に対し神子がゆっく口を開いた。

 

「流石ですわね、実はあの子をお見せしたくて来たんですの。

太子様にはあの子はどのように見えました?」

にやりと口角を上げ、神子を見据える。

 

「どのように?……一見して見たイメージはチグハグな子……かな?」

 

「チグハグ、確かに言い得て妙ですわね」

更に言葉を促すように師匠が口を開いた。

 

「冥界の剣士の様に欠けた欲、生きることに対する投げやりな執着……とでも言うのかな?さらにその気質から派生したであろう能力……

仙力のごとく外部から自身を守る力。

それとは逆に妖力のごとく相手の守りを崩す攻めの力――

同じ「抵抗する力」なのにまったく逆の力……君が興味を持つのも解るわ」

そういって神子も湯呑に口を付けた。

 

「ええ、そうでしょ?それに……私があの子に望むのはその先に有るもの――

あの子、すごくかわいいでしょ?」

師匠はうっとりした様子で満足そうに再び湯呑に口を付けた。

 

 

 

 

 

「気功翔!!」

一人の男が足に気を纏い常人では不可能な跳躍をする!!

飛び上がり善に向かって足を振り下ろす!!

 

「くぅ!?」

咄嗟に腕を払い足を受け止める!!

しかしその瞬間腕に走る痛みで善は顔をゆがめる!!

 

「覇ぁ!!」

 

「砕ぃ!!」

そこに追撃する様に二人の男の気を纏った拳が善の腹にめり込む!!

 

「グハァ!?」

 

「チィ!!」

ほぼ同時にその男達が、善から距離を置く。

 

「こいつ、腹に気を纏ってカウンターを仕掛けてきやがった!」

 

「油断するな?せっかくの()()()()なんだ、すぐに終わらせない様にな」

真ん中の男がそう言って再び、足に気を纏わせ始める。

 

「ぜ、ぜん……大丈夫なのか?」

 

「ああ……これ、くらい……な」

芳香が心配そうに善を見る、先ほどから何度も善を援護しようとするがその度に善によって止められているのだ。

 

「減らず口を……俺たちはここのトップ3だぜ?いつまで持つかな!!」

3人の男たちが同時に善にとびかかった。

咄嗟に善が手をクロスして守るがそのまま地面に叩き伏せられてしまった。

 

 

 

数分後……

善は芳香に連れられ仙界の扉まで歩いていた。

何度も気を流され、足元はふらついており芳香の助けなしでは歩くのすら困難な様だった。

 

「善!!しっかりしてくれ!!」

 

「ああ、大丈夫だ……心配するな……」

歩く二人をあざ笑う様に3人の弟子たちが指さし笑う。

 

「逃げてくぜ!!情けねー」

 

「師匠自身の実力が違うんだよ」

 

「まぁ、お前は死体相手にしている方が似合ってるよな!!」

 

罵声を浴びやっとの思いで仙界から、外へ出る。

それと同時に善が神霊廟の床に倒れる!!

 

「ぜ、善!?無理してたんだな?」

心配そうに芳香が善を揺り動かす。

大丈夫と善がうなされ気味に繰り返す。

 

その時後ろの扉がギィっと開き、リーダー格の男が首を出す。

 

「さっさと帰んな!!お前たちは神聖な神霊廟に不要なんだよ!!死体も邪仙もその弟子もお呼びじゃねーんだよ!!」

それだけ言うと再び大きな音を立てて扉が閉まった。

 

「善……もう帰ろう?明日からまた強くなればいいんだぞ?」

心配そうに善の顔を芳香が覗き込んだ。

 

「はぁーキツイな……こんなに疲れたのは久しぶりだ……」

善が立ち上がろうとした時、そこを屠自古が通りかかった。

 

「どうした詩堂?ヤケに疲れているじゃないか?」

 

「ぜ、善が弟子にやられたんだ!調子が悪いみたいなんだ!!」

芳香が今にも泣きそうな声で、屠自古に話す。

 

「詩堂が?……ああ、なるほど。詩堂、別に布都の顔を立てる必要はないんだぞ?むしろ弟子なんてやめて行ってナンボだ、加減なんてしてやるな」

その言葉を残し、屠自古はまた廊下を歩いて行った。

 

「……芳香……あいつ等に勝ってほしいか?」

俯いたまま善が芳香に投げかける。

 

「善?確かに勝ってほしいけど……無理は、してほしくない……ぞ?」

 

「無理なんかじゃないさ、ならヤルことは一つ!!」

何かを決心した様に善がその場ですくっと立ち上がる。

抵抗する力が発動したのか、体内の気はほとんど無力化された様だ。

 

「おお?また弟子と戦うのか?」

 

「ああ、そうだ。だがその前に――芳香、スカートを脱いでくれ」

 

「え?善?何を言って――」

 

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと俺もズボンを脱ぐから」

混乱する芳香を他所に善が自分のズボンに手を掛ける!!

 

「善!?何を考えてるんだ!?頭が腐ってるのか!?」

 

「大丈夫大丈夫、心配するなって」

そういって、穏やかか表情を芳香に向けた。

 

 

 

仙界にて……

3人の弟子たちが楽しそうに雑談をしている。

話題はもっぱらさっきの情けない邪仙の弟子についてだった。

 

「いやー、久しぶりにすっきりしたな」

 

邪帝皇(イビルキング)も大した事なんて無いな!!」

 

「俺たち仙人として名をはせる時も近いかもな」

気分よく話す中で3人の男達の視界をちらつく影があった。

中華風の人民帽に赤い上着に青っぽいスカートを着た人物がピョンピョン跳ねている。

詳しくは覚えていないがさっき見た邪仙のキョンシーだ。

 

「おいおい、いい加減にしてくれよ……」

 

「せっかく盛り上がっていたのによ……」

 

ピョンピョンと歩いてくると、札で隠れがちな顔で3人を見た。

 

「アレー?善を探していたけど3下しかいないぞー?3下で3バカだなー

おおっと!善を探さないとー」

へらへらと笑うとそのまま歩いて行った。

 

「おい……」

 

「お前……」

 

「馬鹿にしやがって!?」

その言葉を一瞬遅れて理解した弟子たちは、キョンシーを追いかけ始めた!!

キョンシーも気が付いたのか、慌てて走り出し仙界の扉の外へ逃げ出した!!

 

「アイツ!!どこに行った!?」

弟子が扉から姿を出すと、廊下を走るのが見えた。

 

「あっちだ!!」

邪仙の弟子を倒し気分が高揚した弟子たちは、狩りをするかのような気分でキョンシーを追いかける!!

そのキョンシーが逃げた先は、神霊廟の中庭だった。

以前はここでも修業が行われていた様だが、現在ではもっぱら仙界での修業がメインになっている。

 

「追い詰めたぞ!!」

ここまで走ってきたキョンシーを壁際まで追い詰め、3人で囲む。

その時キョンシーがこちらに向き直り、()()()()()()()()()()()

 

「え?なんで?」

キョンシーについて知っていた一人が、思わず声を上げる。

 

「よう、先輩方。さっきぶり」

3人が追っていたのは芳香ではなかった!!

その正体は芳香のスカートと帽子を借りた善だった!!

もともと上着は似たデザインのため、札で顔を隠せば気が付かないと踏んだ善の作戦だった!!

ではなぜ善はここまで3人をおびき出したのだろうか?

その答えはここにある!!

 

「なんだ、邪仙の弟子じゃないか……わざわざ仙界の外なら勝てるとでも思ったのか?」

目の前にいるのが、自分がさっき倒した男だと理解し、3人の態度が露骨に大きくなった。

 

「ええ、あそこはどうもやり難くて……」

善が自身の右手に気を纏い、近くにあった樹に拳を叩きつける!!

内部から盛り上がるようにして、樹の一部が()()()

 

「……!?」

異様な光景に3人が息を飲んだ。

当然だがこんな技自分には不可能な芸当だ。

 

「仙界……何もしなくてもどんどん気が体内に入ってくるんですね……逆に制御が難しくて……こんなの当てたら先輩方、殺しちゃいますからねー。

師匠も『死んでしまわない様に気を付けてね』って言ってましたし、あー加減するのに苦労した……何突っ立ってるんです?手合わせ、お願いできますよね?」

その言葉と同時に善が飛び出し、近くにいた男の足を踏んだ。

そのまま腕を掴み、気を流し込む!!

 

「イギャぁ!?」

派手な音がして男がのたうつ。

そのまま白目をむいて倒れてしまった!!

 

「まずは普通に気を送り込んだ技です……本来なら抵抗力で内部から破壊するんですが、人間相手にそれはまずいですよね?」

にやりと残った二人に笑いかける。

 

「あが……」

 

「じゃ、……ていこ……う?」

 

二人の男は善の人里での二つ名を思い出した。

『邪帝皇』――邪なる帝にして皇であるモノ。

善が深呼吸する度に周囲の気が吸収されていく!!

吸われた気は、邪帝皇の体内を経由しその力へと変換される!!

あるものは仙人の体を支える気として――

またあるものは邪帝皇の盾の、拒絶の力を持った抵抗へ――

またあるものは邪帝皇の武器の、防御を打ち消す抵抗へ――

 

「さて……逝きましょうか?」

さっきまで自身が浮かべたのよりも数段、嗜虐的な笑みを善が浮かべる!!

腕に巻き付き、空気を弾き絶えず小さな音を立てる紫色の気は今にも『獲物を寄越せ!!』と牙をむく悪魔の様で――

 

「さぁ……手合わせですよ?」

男二人にゆっくり善が手を伸ばした!!

 

 

 

「倒したのかー?」

善のズボンを履いた芳香が物陰から出てくる。

善の目の前には、目を回す3人の男達。

 

「なんか近付いたら気絶した……なんもしてないのに?」

 

「善は怒ると顔怖いからなー」

 

「ええ!?そうなの?プリティーフェイスとはいかないまでも……一応平均のつもり――」

芳香の言葉にショックを受けつつ善が言葉を続けようとした時!!

今まで体験したことない開放感が下半身を襲う!!

 

「あら、下着は男物なのね。3流」

いつの間にか現れた師匠が、善のスカートをめくっていた!!

 

「し、師匠!?何してるんですか!?めくらないでくださいよ!!」

まさか男に自分がこんな事を言うとは思わなかったが、スカートを抑えながら師匠に話す!!

 

「ごめんなさいね?私ちっとも善の気持ちに気が付かなかったわ……明日早速豊胸手術と工事を始めましょう?」

ウキウキとした表情で師匠がうれしそうに話す!!

善は新しい自分に出会ってしまうのか!?

「結構です!!」

 

「大丈夫よー、ちゃんとやってあげるから……善美(よしみ)明日からよろしくね?」

 

「嫌です!!ってか名前!?絶対にやめてください!!」

 

「芳香ー、妹ができるわよ、やったわね」

 

「うわーい」

 

「おいバカやめろ!!」

 

「あら、師匠に馬鹿とはいい度胸ね?」

 

「え、いや、つい反射で――」

 

「壁尻ね」

 

「え!?ちょっと!?何を考えて――ギャー!!やめて!!やめてください!!師匠!!」




やっと太子様たちが本格登場。
しかしあまり、絡んでいないと言う現実……
つ、次こそは!!

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