しかも、個人的には微妙な出来……
次の話はもっと早くに出せるようにします。
俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)
ただ今、仙人目指して修行中です。
師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。
うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?
と、兎に角今日もがんばります……はぁ……
一月もほぼ終わりかけたある日の事……
善たち一行はいつもの様に炬燵で丸くなっていた。
「ふぅ、寒い寒い」
「ぐー……すぅー……」
「あー……」
それぞれが炬燵の暖かさに心癒される時。
善にとってもそれは例外ではない。
「あら?ぜ~ん、みかんが切れたわ。持って来てちょうだい」
微睡に意識を持って行かれかけた時、師匠の言葉が飛ぶ。
善が確認すると炬燵の上のみかんが無くなっていた。
(そう言えばさっき芳香に最後の一個を剥いて食べさせたな……)
炬燵の外の寒さに辟易し、一瞬嫌な顔をするが、逆らった所で何の意味も無い事を知っている善は意を決して炬燵から足を出す。
「すぐに持ってきます」
台所に入っていくが、みかんを入れているダンボールの中はいつの間にか空に成っていた。
どうやらさっき食べきってしまったみかんが、最後の一個だった様だ。
「師匠ー、みかん無くなったみたいなので買ってきます」
一瞬我慢してもらうおうかと考えたが、師匠は我慢などしないと思い直し、買い物袋をひっかけ家から出ていく。
「今、雪降ってるよ!!わちきも連れてって!!」
「ええ、今日も傘お願いしますね」
天気を見た小傘が炬燵から出て善についてくる。
使ってもらえるチャンスを彼女はいつも探している。
意地らしい限りである。
「ちょっと待ってて」
出掛ける準備として小傘が用意を始める。
善は小傘に先に墓場に居る事を話し家から出ていく。
「はー、まだ寒いな……」
外は小傘の言う様に少し雪がぱらついている。
自身の両手に息を吹きかけ、芳香からもらったマフラーをきつく巻きなおす。
「にー……」
「うぉう!?」
先を急ぐ善の右足に何かが触れる感覚!!
それは善の良く知った猫麻呂の甘えた動作!!
その事を一瞬にして理解した善はその場で態度を軟化させる!!
「なんだよ、ビックりさせるな……ってまたアンタか!!3日も経って無いぞ!!」
一瞬何時もの癖で手を差し伸べようとして思い直す!!
指を猫麻呂……いや猫麻呂の正体に向かって指す。
「酷いですねー、あんなに可愛がってあげたのに……」
その言葉と同時に猫麻呂の姿が変わっていく。
橙色のスカートと猫耳二股に分かれたねこの尻尾。
妖怪、化け猫の橙だった。
「いや、何というか可愛がっていたのかコッチの方で……裏切られた感の方が私には強いんですけど……」
この猫の正体は橙という名の化け猫!!
実はこの橙、数日前善を拉致監禁した非常に危険な妖怪なのだ!!
幼女に監禁されてい人にはご褒美です!!
「まぁまぁ、そんな事言わずに。もう善さんを襲ったりしませんから」
そう言ってその場で両手を上げ敵意の無い事をアピールする橙。
「それにあの後、紫様に怒られて反省したんです。
善さんごめんなさい!!もう、しませんから!!
ほら、首輪まだ外せてませんよね?苦しいだろうと思って鍵持って来たんですよ?」
橙が態度をしおらしくする、彼女も尻尾も猫の耳も頭を下げるように下がっている。
橙の言葉通り、善の首には鍵のついた首輪が付いている。
鎖は引きちぎれたが首輪そのものは残っているのだった。
違和感がずっとしていた善にとって、橙の言葉は朗報だった。
「まぁ、そこまで反省しているなら……もうしないでくださいよ?」
見た目だけなら年下の娘だし、猫麻呂としての彼女となら今まで上手くやってきた。
反省してくれたのなら、また前の様にいい関係が持てるだろう。
そう考え善は橙を許す事にした。
「こっちに来てください、鍵を外しますから――あ!?」
橙がポケットから鍵を取りだすと同時に何かがポケットから落ち善の方へと転がっていく。
それは透明のビンの様だった、中に半透明の液体が入っている。
「……橙さん……コレって」
ビンのラベルを見て善はげんなりする。
ラベルに書かれていた文字は
「クロロホルムじゃないですか!?」
ドラマのお約束アイテム!!クロロホルム!!
その効果は嗅がせた相手を眠らせる薬品!!
何故橙が持っているのか?どこから手に入れたのか?
そのすべてが謎に包まれてるが!!
やろうとしてであろう事は簡単に予測できる!!
この妖怪!!断じて反省などしていない!!
「ばれてしまった様ですね?けど良いですよ。此処は幻想郷、妖怪が人を襲う事などいくらでもありますよね?」
さっきまでの態度は鳴りをひそめ、肉食獣の様な瞳を善に向ける!!
善はとっくの昔に化け猫のターゲットとしてロックオンされていたのだ!!
「紫さんは……」
「紫様はまた冬眠していますよ?つ・ま・り・助けに来る人はいませんよ?」
ニヤリとその場で橙が笑う。
幼い見た目をしていても、妖怪と言われても十分理解できる微笑みだった。
「さぁ、大人しく私と来てください、ね?」
橙がゆっくりとこちらに向かってくる。
その様子を善は、冷静な面持ちで見ていた。
「何時か師匠が言ってました……『仙人に近づいたのだから妖怪に狙われる』って。
なるほど、橙さんが私を狙うのもそう言う理由なんですね?」
「さあ?どうでしょう?けど、マヨヒガに来てくれるなら何でもいいですよ」
じりじりと善との距離を詰めていく!!
迫る妖怪に対して善が出来る事は!!
「ソッチがその気なら……俺も実力行使だ!!おりゃぁああ!!」
善は油断する橙に跳びかかる!!
「にゃ!?何を!!」
鍵を狙われたと思った橙が手早く鍵をポケットにしまった!!
しかし善の目的は鍵ではない!!素早く橙の後ろに回り込む!!
そして両手を構え!!
善は自らの両手を橙の脇腹に這わせる!!
「何をするかって?決まってるだろ!!くすぐるんだよ!!」
「え?ちょ、にゃははははあはは!!!くす、くすぐったい!!ははは!!にゃはははは!!ごめ、こめんなははは、さい!!ゆるして!!ははははは!!ゆるしてくださはははははは!!おなかははっはあは!!お腹痛い!!ははははは!!!」
必死で体をねじらせ善から逃げようとする橙!!
しかし体格差を利用し必要に橙を執拗にくすぐり続ける!!
*コレは幼女と少年がじゃれ合う非常に健全なシーンです。
「ほらほら、どうした?もっと激しく成るぞ?」
「にゃははは!!止めてあはははは、善さんははは、漏れる、くすぐられ過ぎたら漏れちゃう!!」
「そうか!!漏らすのがいやなら大人しく鍵を渡せ!!」
涙を流しながら体をよじらせる橙に善は尚もくすぐりを続ける!!
逃がさない!!ゆるさない!!と言いたげに激しく橙の脇を狙い続ける!!
「にゃはははは!!いやです!!私に飼われるまで、あははははあは!!もう、もうダメははははあはは!!」
「なら大人しく漏らすんだな!!びしょびしょに成ったパンツで家に帰るがいい!!」
*再び注意しますがコレは幼女と少年がじゃれ合う非常に健全なシーンです。
「そ、そんにゃはは!!わかった!!わかったから!!鍵渡すから!!ははははは!!」
ポロリと地面に首輪の替えや、猫缶、猫じゃらしが落ちる。
最後に鍵が落ちるのを見て善は橙の脇腹から手を離した。
「最初からこうすれば良いんですよ」
鍵を拾い自身の首輪を外す。
一気に呼吸が楽になりその場で深呼吸する。
その後地面にしゃがみこむ橙に視線を投げる。
「はぁ……はぁ……ぜ、善さん……もう、酷い事は……はぁはぁ……しないでください……」
「それは今後の橙さんの態度次第ですね」
「ふむゅ……散々胸とか触られたのに……」
今にも泣きそうな、悲しそうな眼で橙が自身の胸に手を当てる。
脇腹をくすぐっていたつもりだが、いつの間にかズレていたのだろうか?
もちろん橙が吐いた善の気を引くための嘘の可能性も有る。
「橙さん……知っていますか?」
橙の近くにしゃがみこみ優しく諭す様に話す。
「胸囲80cm以下はバストではない!!」
正に巨乳至上主義!!善の容赦はない!!
悲しむ橙に対し圧倒的な追い打ちを掛ける!!
「ぜ、ぜんさん……?」
呆気にとられる橙を余所に尚も善は語り続ける!!
「イイですか?『胸』と『バスト』は完全に別物なんです!!『胸』とはただの動物の部位の一つにすぎません、胸肉、胸筋、胸部……ドウです!?この単語にどれか一つにエロスを感じましたか!?感じませんよね!!そう、それは『胸』はタダの肉の塊に過ぎない!!しかし『バスト』はドウです?男が女性を見る時の基本、胸!尻!腿!の三大萌えパーツの一つです、無論そこには無限の夢が詰まっています!!
そう!!胸部には肉が!!バストには夢が詰まっているんです!!
あなたの胸に夢が詰まってますか?萌えが詰まっていますか!?
夢の……萌えの詰まっていないバストはタダの胸だ!!」
立て続けに繰り出される善の超理論!!
常人にはまず理解不能な『胸部哲学』とでも呼べる話!!
もちろん橙には理解出来るハズも無く!!(脳が理解を拒否した側面もある)
ただ目の前で繰り出される理論に呑まれるだけ!!
「ふ、ふぅえええええ……」
恐怖を感じ遂に泣き始める橙!!
目の前に居るのは百戦練磨の妖怪でも退魔師でもない!!
だが!!無理もない!!仕方もない!!
まだ橙には善の持つ欲望は理解できなかったのだ!!
「橙さん?」
「は、はいぃぃいい!!」
「でも、将来大きく成ったらまた来てくださいね?」
最後に怯える橙を包み込むように優しく善は微笑みかけた。
「は、はい……わかりました……」
「ねぇ、善?あなた一体何をしているの?」
誰かの声が響き善がその場でフリーズする!!
「すこし外がうるさいと思って来たんだけど……コレ何のつもり?」
麗しい声が聞こえ善がゆっくり声の主の方に目を向ける。
「ど、どうも師匠……えっと……偶に語り合いとかしたく成りまして……」
声の主は善の師匠だった!!先ほどまでの会話は家の中まで響いていたらしい!!
一見微笑んでいる様な顔だが、善は知っている!!
この顔は師匠が不機嫌な時の顔だ!!
「ふーん、そうなの?仙人たるもの欲を外に出さず自らの力へと変換する……一番最初に私が教えた事よね?」
「は、はいそうです!!気を溜め内に留め、自身を強化するのが仙人です!!」
ビシィ!!っと音がするような軍隊顔負けの敬礼を師匠に繰り出す善!!
しかし最早すでに顔面蒼白!!真冬だと言うのに汗が滝の様に噴き出る!!
「で?あなたはちゃんと欲を制御出来てるのかしら?」
「で、出来ています……よ?……多分……」
愛想笑いを浮かべながら善は師匠に話をする。
「出来ていないでしょ!?芳香に続き次はこの子なの?……流石にコレは犯罪よね?」
幼い容姿の橙に目を向け、師匠が善を責める様に睨んだ!
「違うんですよ?妖怪が襲ってきたから倒しただけで……そんな事よりみかん要りますよね!?すぐに買いに行きますから!!」
逃げる様に善が背を向けるが襟を師匠に後ろから捕まれる!!
「みかんは後でいいわ。今はあなたのその態度を改めさせましょうか?」
「あ、あの?師匠?……何を?」
ゆっくりと師匠の体から黒い気が流れ始める。
最近善は気が付いたのだが、師匠の気は絡み付くような気をしている。
本人の気質が反映されるのか、わざとそうしているのか……
その手に漆黒の光弾が生成される。
善は光の色で一瞬に理解する!!
(あ、コレ死ぬ奴だわ……)
「殺しはしないわ……運さえ良ければね?」
運さえの部分を強調しながら師匠が善を地面に跪かせる!!
「『ね?』じゃないですよ!!そんなの!!そんなの喰らったら……!!あああああ!!止めて!!止めてください師匠!!」
真っ黒いドロドロした気が善に襲い掛かる!!
「橙さん!!ヘルプ!!助けて!!マヨヒガへ、マヨヒガへ連れていってください!!」
「弱ったら連れて行きますね!!」
目をキラキラさせながら橙が微笑んだ。
多分その頃は間に合わない!!
巻末オマケコーナー!!
藍様編!!
「藍様の尻尾柔らかい!!ずっと顔をうずめていたい!!むしろ枕にしたい!!」
藍「しょうがないヤツだな~ホラ」ブチッ!!
「え”?」
藍「枕にしたいんだろ?一本やる。ん?2本の方がいいか?安心しろ、まだ8本あるから……」ブチン!!
藍様も病ませてみた!!
何やってるんだ、俺……ストレスか?