3話しか書けませんでしたが……なかなか楽しく書かせてもらいました。
次回より再び普通の話に戻ります。
俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)
ただ今、仙人目指して修行中です。
師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。
うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?
と、兎に角今日もがんばります……はぁ……
「先生!!ウチの息子が!!」
「いきなりスゴイ熱を出してばあ様が倒れた!!」
「なんか……体がだるくて……薬もらえんですか?」
墨谷 狼の医院はこの日嘗てないまでの忙しさを見せていた。
何が有ったのか、突然複数の人間たちが不調を訴え狼の診療所の扉を叩いた。
「はぁ……はぁ……ゲホッ!!ゲホォ……またこの病ですか……ゲホッ!!はぁはぁ……原因は分かりませんので……薬は、ゲホッ!?出せません……とにかく対処療法で……患部、頭を氷で冷やしてください……いま、ウイルスの特定を……ゲホっ!?」
狼が大まかな指示を出し患者が帰っていく。
残念な話だが、今まで狼でも見た事の無い病気だ。
悲しいが人間は未知のモノに対して非常に無力なのだ。
「……これが……ウイルス?……見た事のない奴ですよ……しかも増殖スピードが異常です……」
自身の体から、口内粘液、血液、更には鼻水とウイルスが居そうな場所を片っ端から採取し、顕微鏡で観察する。
「……あッ!」
体の不調に狼の足元がふらつく。
「狼さんしっかりしてください!!」
その場にいた善が狼の肩を持つ。
善はまだ感染しておらず、狼の言葉を他の患者に伝えていたのだった。
「はは……助かりましたよ……詩堂さん……いやはや情けない……医者の不養生ってのはこういう事でしょうね……」
「狼さん……」
無理に笑う狼に対して善が、自分の無力を呪う。
「……今まで全く見た事の無いウイルスなんです……風邪に近いかと思ってみたんですが、全く別の奴でした……幻想入りした新種か……それとも私が引き寄せた『何か』……やれるだけやってみましょうか……」
その場で2、3回咳こみ顕微鏡のプレパラートを交換しようとする。
「私は医者……こんな所で……終わる訳にはいきません……おっと……」
そう言いながらも地面にプレパラートを落としてしまう。
それを素早く善が拾い上げ狼に渡す。
「残念ながら私は医者ではないので患者は見れません、けど狼さんの手助け位ならできますよね?」
「……帰らなくていいんですか?さっきまで、散々言ってたでしょ?」
「乗りかかった船です、沈没しようが渡りきろうがついて行きますよ」
無言で狼がプレパラートを拾い再び、観察を始める。
言葉は無いが確かに心はつながったのかもしれない。
「……変ですね……ウイルスが減ってる?」
顕微鏡をのぞいた狼が疑問を口に出す。
さっきまで精力的に動いて居たウイルスたちが鳴りをひそめ、それどころか数が目に見えて減っている。
「詩堂さん、すいませんが血を少し採取させてもらえませんか?」
「はい?」
とある仮説にたどり着いた狼が善の血液を顕微鏡で観察する。
善の体内にも確かにウイルスは居たのだ。
しかし数が非常に少なく、活動もしていない。
それどころか数も少しずつ減っている気がする。
「『抵抗する程度』の力なるほど……!!これなら、特効薬も作れる……だが!!」
狼が口を開き一人笑うがコレには問題点が二つあった。
一つは、人里全員分の薬を精製するのに善の血液が大量に、それこそ本人からすべての血を絞り出しても足らない程に必要な事。
そしてもう一つはウイルス自身の増殖が非常に速い事、増殖が速いという事は進化のスピードも速いという事。
端的に言ってしまえばいつ善の力が及ばない程に進化してもおかしくないという事だ。
「……正直言ってかなりヤバイですよ、ヤバヤバです……最後の手段ですか……ね」
何かを決意した顔で狼はその場から立ち上がった。
その場には持ち主の居なくなった椅子だけが残された居た。
「狼さんどうでしたか?何か見つかりました?」
血を抜いた腕を押さえながら善が狼に話す。
その顔はやはり不安げだ。
「時間さえかければ何とか……けど今は時間が有りません……元を断ちます」
「元?」
「そうです、このウイルスの感染元です……発症した人間のリストを作ってみました、農夫、老婆、子供、猟師……一見バラバラですか全員、ここ数日人里の外のとある場所に行っています」
「とある場所?」
狼の言葉に何か含む物を感じ善が口を開く。
聴いてはいるが、もう善自身にも見当は大体ついていた。
「詩堂さんが倒れていたあの場所です」
「すぐに向かいます!!」
狼の言葉を聞いた善がその場で立ち上がった。
今すぐにでも、走り出そうとする善を狼が引き留めた。
「その前にやってもらいたいことが……」
木々が生い茂り昼だと言うのに薄暗い森で、一人の男が踊っていた。
「♪~♪~~~~♪」
鼻歌を歌いながら非常に上機嫌だった。
紫の髪が揺れボロボロの牧師の様な服がそのステップに怪しく揺れる。
「ピチチ……!!」
傍を通りかかった鳥が突然苦しみだし地面に落ちる。
妖怪がその鳥に気が付き本物の牧師の様な慈愛に満ちた表情をする。
「おお……なんと哀れな……今我々が救ってあげよう」
傍に近寄り、手をかざした瞬間鳥が口から血の混ざった泡を吹き動かなくなる!!
「これでいい……すべての命は繋がっている……すべての命は我等の糧になるのだ!!」
神に祈る様に膝を突き、両手を合わせる。
イタダキマス
グチャ、グシャ……ピチャピチャ……
暗い森の中で何かをむさぼる音が響く。
「おりゃー!!」
牧師の背中に善が蹴りを叩き込む!!
地面を転がりムクリと牧師風の妖怪が立ち上がる。
「なんですかな?今は神聖な時間だと言うのに……!!」
怒りに満ちた瞳で善を睨むその体からは大量の妖力が漏れ出す!!
明らかに解る人間を超えた生き物だった。
腕を十字に広げ、善をその体から精製した紫の光弾で狙う!!
「ROOM!!シャンブルズ!!悪いですね……人里で皆さんが待ってるんです!!すぐに終わらせてもらいますよ!!ラジオナイフ!!」
狼の言葉が響くと同時に目の前に狼が現れる!!
そしてオーラの様な物を纏った斬撃が妖怪を真っ二つにする!!
「なぜ……貴方が?」
その言葉と同時に妖怪が地面に倒れ伏す。
サラーっと砂の城が崩れる様に妖怪が地面に消えていく。
「詩堂さんの力なら、ウイルスを殺せる事は分かってましたからね……体に能力を流してもらえば余裕ですよ……すさまじい激痛でしたけど……」
そう言いながら胸を押さえる。
狼は善に自身の体に『抵抗する程度』の力を流してもらったのだ。
当然ながら、本来なら攻撃に使う技の為激痛が走るが狼はその痛みさえ耐えきったのだ!!
先ほどの技を見る限り、この妖怪が人里の病気を広めた黒幕だろう。
予想だが『ウイルスを操る程度』の力だったと思われる。
「ふぅ……これで一安心です……多分親玉を倒したので里も何とかなる筈ですよ?」
「そうですか、じゃ私は帰るための手がかりが無いか探してみます」
そう言って二人は別れようとする。
しかしその時、地の底から声が響いた!!
「酷いですね……いきなり切り掛かるなんて……非常に、非常に無礼です」
地面から生えるかのように再び妖怪が姿を現した。
両手で頭を持ちピタリとくっつける、ゴキゴキと首をまわし違和感がないか調べ始める。
「一体なんですか?ラジオナイフでの傷がくっ付くなんてありえませんよ!!」
「再生?別個体?何者なんだ!!」
狼が珍しく狼狽え、善が後退し構えを取る。
「我々の名は……イグレシア……神の使いにして命の調停者」
「そんなの知るかよ!!」
イグレシアに向かって善が拳を振るう!!
バチバチと弾ける様な音がして、その身を捕えようとする!!
「愚かな……」
イグレシアに拳が命中する瞬間、イグレシアは霧散するかのように姿を消した。
そして離れた場所にいた狼のすぐ後ろに出現する!!
「貴方は罪深い人だ……罰を受けなさい」
イグレシアが腕をかざすと同時に狼が倒れる!!
ガクガクと全身が激しく痙攣し、口から泡を吐く!!
「狼さん!!」
善が急いで狼を抱き上げイグレシアから距離を取る!!
「我慢してくださいよ、自分の命に縋り付いてください!!」
それだけを口にし、狼の胸に手を当て抵抗する力を流し込む!!
首に現れていた斑点が消えていく。
痙攣も収まり、何とか狼が口を開く。
「詩堂さんナイスです……あと、あと一瞬遅れていたら、危なかった……ですよ……」
狼は泡を袖で吹き、狼月の鞘を杖の様にして何とか立ち上がる。
「貴方も死に逆らうのですか?罪深い……なんと罪深い者達なんでしょう?」
イグレシアが演技掛かった、口調で話し始める。
「命とは誰しも平等なのです……神に決められた一生が有る……しかし貴方たちはどうです?医者ですって?人間如きが命をどうにかしようなど……烏滸がましいとは思いませんか?……罪人たちよ……貴方たちは裁かれなくてはなりません!!」
イグレシアがが再び狼に向かってその手を構える!!
「塵に帰りなさい……人の子よ……」
イグレシアの本性が漏れたように、ニヤリといやらしく口角があがる。
「させるか!!この人は、人里の希望だ!!お前に殺させる訳にはいかない!!」
両腕を広げ善が2人の間に割って入る!!
「無駄だと言った筈ですよ?」
一瞬後に善の
先ほど同様瞬間移動の様だった。
「クソッ!!」
薙ぐように善が手刀を振るうがそこにはもうイグレシアはいなかった。
またもや霧の様に消えてしまったのだ。
「さぁ、神の御許へ行きなさい……」
善の腕にイグレシアが触れる。
弾き飛ばされるように善が飛ぶ!!
「……直接触れてもまだ消えませんか……」
「はぁ、はぁ……ヤバイぞ……コイツ……」
肩で息をする善の腕に黒い斑点が浮かんでいた。
遂に善までも感染したのだ!!
「我等は神の使い……命の調停者!!」
勝ち誇ったようにイグレシアが再び名乗りを上げる!!
その姿には一種の神々しさも有った。
「……違う……お前は神の使い何かじゃない……!!」
善がイグレシアに言葉を投げかける、ピクリとイグレシアが反応する。
どうやら感に触った様だった。
「何を、我々は……」
「妖怪だよな!!……さっき触れられたわかった……妖力だ……あの感覚は間違いなく妖力だった!!」
善の言葉にドンドン、イグレシアの表情が変わっていく。
慈愛に満ちた顔から、怒りを含んだ醜い顔へと。
「我々は……!!神の使いだ!!命の調停者だ!!」
腕を振り上げ善を叩き潰そうとする!!
イグレシアの手刀が善の額を砕く瞬間!!
「シャンブルズ!!」
善の姿が消え狼が目の前に現れる!!
その手には一本の注射器が握られていた!!
手早く、イグレシアに針を突き刺し、中の液体を流し込む!!
その瞬間!!イグレシアが激しく苦しみ出す!!
ドロリと注射された腕が溶ける。
「やっと、触れてくれましたね。これは私が直接注射しなくちゃならないんですよ」
そう言って空に成った注射器を懐へとしまう。
「何を……した……何を我等に流し込んだ!!罪人ども!!」
腕を再生させながらイグレシアが目を見開く!!
怒りに満ちた言葉と表情には、先ほどまでの余裕の態度はすっかりと消え失せていた。
「何って……詩堂さんの血から作った薬ですよ。
材料が少なかったので3本が限界でしたけどね」
そう言って、黒い斑点が消えた首を見せる。
イグレシアが気が付いて善の方を見るが、そちらもすっかり回復している様だった。
「馬鹿な……こんなスピードで、薬が作れる訳が……!!」
「医者を舐めないでください?こっちは人の命救う事に命を賭けているんです!!幻想郷唯一の医者!!私は墨谷 狼!!この程度の事やって見せますよ!!」
狼の言葉とプレッシャーにイグレシアがたじろぐ!!
狼はさらに言葉を続ける。
「詩堂さんの言葉がヒントになりました、あなたはさっきから『我々』と言ってる様に一人じゃないですね?……いえ、この言い方は正しくありませんね。
あなたはあなた一人であなたなのではなく、極少サイズのウイルスの妖怪が集合して人型になってるんですね?」
「……さて……何のことやら?」
「とぼけても無駄だ!!狼さんの作った薬はあのウイルスを殺す為の物!!その集合体のアンタには効いただろ!!」
善がイグレシアに更に言葉を投げかける!!
狼の力と善の能力によってイグレシアの秘密がドンドンさらけ出されていく!!
「……見事です……よくぞ我々の正体を見破った……だが!!」
イグレシアが腕を振るうと同時にその腕の直線状に有った草、木、動物が死んでいく!!草は枯れ、木は腐り落ち、動物は血を吐いて死んでいく!!
「この力から逃げられる物か!!我等は命を食らう!!もっともっとだ!!この世界を食らい尽くしたら次は
そう言って先ほど枯らした、木々の奥を指さす。
その奥は黒い穴に成っており空間が歪んでいた。
「アレは……詩堂さんを連れて来た穴ですね。
まだ残っているとは思いませんでしたよ」
狼が穴を見て僅かに漏らす。
「俺の世界だと?行かせる訳にはいかないな!!」
善もその言葉を聞き再び腕を構える。
「無駄だといったろ!!お前らはここで死ぬ!!」
その言葉を発すると同時に、イグレシアの身体が再び霧散する!!
自身を構築するウイルスの結合を緩め、目では認識不可能なレベルまで分裂したのだ!!
「仕掛けさえ分かればこんな物大した事有りませんよ!!」
そう言って白衣からアルコールビンを取り出し周囲に散布した!!
「細菌一匹一匹はとても弱いんです、コレだけでもあなたには効くでしょう?」
その言葉を裏付ける様に苦しむ様にイグレシアが姿を現す!!
そのまま狼に抱き着くように跳びかかる!!
善にしたように直接ウイルスを送り込むつもりの様だった。
「読んでないとでも?シャンブルズ!!」
狼の姿が掻き消えそこに善が出現する!!
「はぁい、さっき振り!!シャイニングフィンガー(仮)!!」
その手はもちろん抵抗する力が満ちており、イグレシアの顎を打ち抜くように渾身のアッパーカットがねじ込まれる!!
触れた場所から、抵抗する力が流れイグレシアの体を構築するウイルスを殲滅し始める!!
「まだ……まだ終わりはしない……不要な部分を捨て……」
「させると思うんですか?そんな考え甘々ですよ、カウンターショック!!」
狼がイグレシアの居る場所まで走り込む!!
そして体に流すのは相手を黒焦げにする高圧電流の技、カウンターショック!!
「行きますよ善さん!!」
「分かってますよ!!」
最後の確認とばかりに二人が息を合わせる!!
「「はぁああああああああああ!!!!」」
「ぐぅおおおおッおおおおおお!!!!」
胸に当てられた狼のカウンターショックがイグレシアを外から焼き払う!!
頭に当たられた善のシャイニングフィンガー(仮)がイグレシアを内部から破壊する!!
そして遂に……!!
「我々が……消えるぅ……命の調停者が……あああああ!!!」
イグレシアはその言葉を残し消えて行った。
「命の調停者ですか……そんな者が本当に要るんですかね?私だってオペオペの実を食べましたが、出来ない事も有ります……けどみんな今日を生きてるはずです……なら私は少しだけ、命を奪う存在に抵抗してみますよ……」
「狼さん……ありがとうございました。
私、自身の世界へ帰ります。また会う日までお元気で!!」
「さよならですね。善さん、何時でも来てください……チャンスが有ればですが……」
「ええ、さようなら、狼さんもお元気で!!」
そう言うと善は空間の穴へと身を投げた。
暫くしてその穴は、役目を終えたかのようにゆっくりと小さくなって消えた。
「……さようなら、もう一つの世界の仙人さん」
狼はそれを見送ると人里へと帰って行った。
医療系のキャラってすごい書くの難しいですね。
いろいろ間違った部分もあると思いますが、そこは勘弁してください……
それでは失礼。