コラボ先は音無 仁さんの『東方医師録~オペオペの実を食べた名医~』デス。
本話を見て興味が湧いた人は行って読んで見てください。
因みに音無さんとのコラボは実は二回目です。
いやー、もう音無さんには足を向けて寝れませんね。
俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)
ただ今、仙人目指して修行中です。
師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。
うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?
と、兎に角今日もがんばります……はぁ……
「ああ……もう……ベタベタだ……」
身体に付いた餡子と芳香の涎を気にしながら、善は帰り道を急ぐ。
小傘はマミゾウと話があるらしく――というよりも善を帰らせるためのマミゾウの方便だろう。
2人で帰り道を急いでいた。
「う~、仕方なかったんだ。思わず……」
「思わずで俺を食うな!!胃袋から頑張って這い出てくるなんて、一生に一度有るか無いかの経験だぞ!?」
申し訳なさそうにする、芳香に対して善の辛辣な言葉が飛ぶ!!
その言葉にビクリと体を縮こませる芳香。
「う、あ……」
「まったく……お前は先に帰っててくれ、近くに川が有ったハズだから軽く体を流してくる。
はぁ、この寒いに寒中水泳する事に成るとは……」
何か言いたげな芳香にそれだけ言い放ち、道を外れ川の方に歩き出す。
「わ、私も一緒に――」
「ついてくるな!!」
先ほどよりも強い語気でそう言い放つ。
善に怒鳴られたのがショックだったのか、急におろおろし始める。
「……先に帰ってろ」
「けど……」
「次は無いぞ?」
尚も言葉を発する芳香を睨む善。
自身でも解らないが、何故かドンドン言葉が出てくる。
その様子を見て芳香は完璧に固まってしまった。
その表情に一瞬後悔がよぎるが……
これ以上話す事は無い、と思った善は芳香に背を向け川に向かって行く。
芳香はもうついては来なかった。
バシャバシャと上着を川の水で洗い、絞った後適当な木に干す。
何も言わぬまま、今度は自分を川の水に浸す。
ヒヤッとした感覚が体を包込む。
(さっきは悪い事したかな……?)
最後の芳香の表情を思い出し心が僅かに痛んだ。
そんな考えを振り払う様に顔に冷水を掛ける。
川の冷水のお陰か頭に昇った血が下がっていく。
大体、体の汚れを落とした後干した服に再び袖を通す。
さっき水に付けたばかりで、ビタビタだが所詮家までの事だ、善は気にしない事にした。
「さて、行くかな……ん?」
イザ歩き出そうとした時水面がぐにゃりと歪んだ気がした。
気のせいかもしれないが、足元も僅かに揺れた気がした。
「なんだったんだ……?」
善はまだ気が付いていない、いつの間にか水面に映る月が三日月から赤い満月に成っていた事を……
そして善は知らない、赤い満月の日は妖怪達が最も活気付く日だという事を……。
「た、たすけてぇえええ!!?!?!?」
「!?――近い!!」
すぐ近くの林から子供の助けを求める声が聞こえる!!
善は反射的にその声の方へと走って行っていた。
「ハァ――コンな月の綺麗な夜二遊ぶなんテ、キミ達ハ悪いコだねェ?悪いコハ――たべらレちゃうンだよ?」
2メートル近く有る狼の様な妖怪が口から涎を垂らしながら、木の幹に追い詰められ震える二人の子供の頭を鋭い爪先で引っ掻く。
簡単に皮がめくれ、赤い血が流れる。
子供たちは怯え震え、涙を流す。
妖怪はその様を見て裂けた口を更に大きく吊り上げる。
「いいゾ――子供ノきょうウふハ何時みてモ、ソソルな……さぁもっとセイに醜クすがりツイテくれヨ?」
走りながら両足に力を込める!!
丹田に溜めた気を両足に、気を纏い地面を蹴り人間離れした跳躍をする!!
「セイヤー!!」
「ガァはあ!?なンだ!?」
善の両足蹴りが妖怪の頬を捕え、怯ませる。
「逃げろ!!人里まで走れ!!絶対に振り向くな!!」
怯える子供二人を立ち上がらせ、妖怪から逃がす。
子供たちは一瞬躊躇ったが、何も言わずに人里の方角へと走って行った。
運が良ければ、妖怪に見つかることなく人里へ帰る事が出来るだろう。
重ねて言うが、運が良ければだ。
夜は妖怪の時間。
別の妖怪に遭わない事を祈るしかない。
善は子供たちに付いて行く事は出来はしないのだ。
何故なら――
「フゥ……なカマだと思ッて油断しタぞ?」
何事も無かったかのように妖怪が立ち上がった。
(チッ……コイツ強いな、ギリギリ倒せるかどうかってとこかな?)
加減なんてしたつもりは無かった、アレは全力の蹴りだった。
「お前を殺シた後デ追うトするカ……ナ!!」
「追わせるかよぉ!!」
妖怪が口を大きく開く!!
牙が意志を持ったかのように蠢き善を噛み殺そうとする!!
地面を蹴り、距離を取ろうとする。
「……マジかよ……」
善が妖怪を見て絶句する。
その顎に噛まれた木があっけなく噛み砕かれる。
「ジまンの歯だゼ?」
得意げな顔をして、妖怪がニヤニヤと笑う。
「そんなら全部へし折ってやる!!加減なしだ!!」
その言葉と同時に、懐から一枚の札を取り出す。
善にとっては良く見知った道具だ。
その札を自身の額に貼り付ける!!
「ナンだ?ジぶん二、札?――何!?」
怪訝に思う妖怪の視界から善が消えた、いや、正確には消えたのではない!!
キョンシー化により仙人としての体のリミッターが外れ、その場で上空に跳びあがったのだ!!
「さぁて!!コレ、体への反動がヤバイからさっさと決めさせてもらおうか!!」
その言葉どおり、後ろの木を蹴り空中で体勢を変え妖怪に肉薄する!!
「はやイ!?」
「違う――お前が遅いんだよ。気功拳――オーバーリミット!!」
『仙人』と『キョンシー』さらには善の持つ『抵抗する程度の力』の三つが合わさった手刀を繰り出す!!
仙人の力により底上げされた身体能力で敵を捕らえ、キョンシーの効果で限界を突破した力で敵の身体を砕き、最後に抵抗する力を含んだ気が相手の体内に入り込み、拒絶反応で内部からズタズタに破壊する!!
「ムイイイイイイィィィィイ!?」
妖怪は断末魔を残し、地面に倒れ伏した。
「はぁはぁ……やった……勝った、勝ったぞ!!」
敵が倒れたのを確認し、頭の札を剥した瞬間ドッと体に疲れが来る。
全ての能力を限界近くまで使ったのだ、ガタがきても当然だろう。
「あ、兄ちゃん!!」
「お、弟ぉ!!」
「へ?」
横から聞こえる声に善が、反応する。
そこに居たのはさっき倒した妖怪と同じ姿をした妖怪。
それが2匹!!
怒りに満ちた視線を善に向けてくる!!
「コろス……こロスぅ!!」
「グぎャが!!グギゃガァ!!」
2匹とも牙をむき出しにし善に跳びかかってくる!!
「気功拳――オーバ――痛っ!?」
技を繰り出そうとした時、右手から痛みを感じる。
その時思い出すのは、マミゾウの言葉。
『前の弱った部分を健康な状態に化けさせた。
じゃが所詮妖力で誤魔化してるだけじゃから、無理は禁物じゃぞ』
どうやら、さっきの一発はかなり無理をした一撃だったらしい。
「けど……そんな事言ってられないよな!!」
痛みを無視し、抵抗する力を纏った拳で近付いて来た妖怪の爪を叩き折る!!
1本2本と破損した指が、地面に落ちる。
その様子を見て、妖怪がニタリと笑い出す。
「落としちまったみたいだな……」
確認したら自身のの右手の指が一本、足りなかった。
「どウだ?これ以上やレばお前ハ――」
「引くと思うのか?これ位で……俺が引くわけないんだよぉ!!」
妖怪弟に今度は左手で殴りかかる!!
しかし容赦なくその手は、妖怪に噛みつかれてしまった!!
大量の血が流れ、激痛が左手から走る!!
「馬鹿メ!!ミすみス腕一本捨てタ様な物ダ!!」
「ばーか……お前は命捨てたんだよ……
その言葉と同時に、腕の傷から善の持つ抗う能力が発せられる!!
善の腕を伝い、妖怪の歯を伝い、更には口の神経に伝わる。
神経が最終的に伝わる場所は脳、全ての神経をまとめる部位!!
「パピプぱぴいぷぺぽぱぴぷぽぺ!?」
おかしな断末魔をあげもう一匹の妖怪は動かなくなった。
「さぁ……残り一匹……」
両腕から絶えず流血し、足元がふらつく。
立っているのがやっとの状態で善は最後の妖怪を睨む。
「俺ノ弟タちヲよくモ!!オ前だケは!!」
ブチブチと何かが裂けるような音がして、最後の妖怪の口が大きく広がる!!
「ウララらららラららラ!!」
ガブリと音がして善の右半身に喰らいつく!!
「グハァ!?ゲボッ……!!」
何処かマズイ所に牙が刺さったのか、口から血が噴き出てくる!!
「……捕えた……ぞ!!」
だが敢えて善は、両腕で妖怪の頭を挟み込む!!
最後の力を振り絞り、自身の能力を行使する!!
「……ぬるいゾ……手ぬルいぞ!!人間!!」
「俺は……俺は仙人……だぁああ!!」
削り合い!!それはお互いの命の削り合いだった!!
牙と抵抗力!!その二つの力がお互いを削り合う!!
更に腕に力を込めたその瞬間!!
呆気なく善の指が落ちる!!
親指!!中指!!小指と地面に落ち右手の指はもはや薬指だけとなった!!
左手も同じだ、血液が迸り血肉の破片が飛んでいく!!
善の能力は抵抗する力!!それは言い換えれば反発する力でもある!!
その力に善の傷ついた体が耐えられなくなったのだ!!
「勝ッた!!カっタぞ!!」
弱り切った善の姿を見て妖怪が勝利の雄たけびを上げる!!
(俺も……ここまでか……師匠……芳香……小か……)
善の脳裏に今までの人生が流れ始める。
家族の顔と思いで、幻想郷に来てからの師匠との修行の日々、芳香との手合せ、小傘の何処か抜けた優しさ、あとすてふぁにぃ。
「ROOM!!シャンブルズ!!」
暗闇に染まる、森の中で凛とした声が響く。
内容を理解する前に善は地面に倒されていた。
「ゲォワ?なンだ?なゼ、弟の体ガおレの口に?」
その言葉に気が付き善が首を動かしさっきの妖怪の方を見る。
その反対側善のすぐ傍で足音がする。
赤いネクタイを締めた白衣の男が、何時の間にか立っていた。
「はぁ~、やれやれですよ。満月の日ほど妖怪が元気に成る日なんて無いのになぜアナタは出歩いてるんですか?命を粗末にする人は嫌いです、ぷんぷんですよ?けど、あの二人を助けてくれたのは感謝しますね、さて……すいませんがアナタ(妖怪)を倒させてもらいます!!『狼月』出番ですよ」
その言葉と同時に腰に差していた大太刀をその場で抜いた。
銀色の刃が月明かりに照らされ冷たくも美しく輝きを放っている。
「お前知ってゐるゾ!!人里ノ医者ダな!?確カナまエは――」
「ラジオナイフ!!」
鮮やかにそして優雅に
カチンと小さく音がし、鞘に狼月を戻す。
「すいませんね、目の前に急患が居るんです。ゆっくりしゃべってる暇は無いんですよ……大丈夫ですか?意識ははっきりしていますか?」
善の様子を見てその場で服を肌蹴させ触診を始める。
「そウだ!!お前ハ墨谷――墨谷 狼!!」
「正解です、そしてサヨナラですよ」
狼がその言葉を言い終わると同時に妖怪の体が、ぼろぼろと
その様子を善は息を飲んでみていた。
「改めて自己紹介しましょうか、私は墨谷 狼、この幻想郷唯一の医者です」
その男はそう言って柔和な笑みを浮かべた。
次回も引き続きコラボ回です。
また、コラボしたいと思った方はいつでも気軽にご一報ください。