止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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スイマセン、ムチャクチャ遅れました。

少し、やることが重なって出来てませんでした。

次回は出来ればなるべく早く出すので許してください。


2色の瞳!!心を食らう妖怪2!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

「あれ?……ここドコだっけ……そう言えば……あの後部屋に呼ばれて……」

善の部屋で小傘が目を覚ます。

一瞬だが、自身の知らない場所に混乱するがすぐに状況を判断する。

 

「ほへ……?二人は……?」

寝ぼけ(まなこ)で周囲を確認するが自身の隣で寝ていたキョンシー(芳香というらしい)も自身を此処に呼んでくれた仙人志望の少年、詩堂 善もいない。

ベットは空っぽで芳香の布団は、おそらく押し入れの中だろう。

2人を探すため小傘は、布団から這い出て善の部屋を出る。

昨日4人で食事した、茶の間へと向かってく。

 

 

 

「あら、多々良さん良く眠れました?」

そう言って話しかけるのは、善の師匠。

青い髪に刺さった鑿と、羽衣が揺れる。

同性の小傘からしても、思わず息をのむような美貌だ。

彼女は昨日と同じように炬燵に入って、暖かそうに眼を細めている。

 

「あ、あの善さんは?」

 

「善なら芳香と一緒に、日課のランニングとストレッチに出かけてるわ。

健全なる精神は健全な体に宿る物、仙人にとってそれは必要不可欠なモノなのよ?

時間的にそろそろ帰ってくる頃なんだけど……雪のせいかしら?少しおそい――」

 

「ただいま帰りました!!」「かえったぞー」

 

「あら、噂をすれば影ね」

玄関から響く声を聴き、善の師匠が頬を緩める。

その言葉通り、善と芳香の二人が体の雪を払いながら茶の間に入ってくる。

 

「小傘さん、起きてたんですね。

待っててください、今、朝ごはん用意しますから」

そう言うと善は忙しそうに台所へと入って行った。

善の背中に師匠が声を掛ける。

「ぜ~ん、今日は出汁巻玉子が食べたいわ」

 

「この人数で出汁巻って地味にメンドイんですけど?」

その場で振り返り嫌そうな顔を師匠に向ける。

 

「うん、だから言ったの」

それに対し師匠は良い笑顔で応える。

何度も行われたやり取りの様で、善は半場諦めた様子をしている。

 

「はぁ……解りましたよ……」

ブツブツ文句を言いながらも台所へ善が入っていく。

 

 

 

 

 

数十分後

食卓にはしっかり出汁巻が4人分並んだ。

ホコホコと湯気を上げる目の前の料理に、小傘は目を輝かせた。

 

小傘は感情を食べる妖怪、極端な話だが『驚き』の感情以外の物を何も食べなくても死ぬ事は無い。

逆に言えば食事は生きる上では不要なものだが……

 

「食事ってのはお腹だけを満たすんじゃないんですよ、仲のいいメンバー達と同じ食卓を囲む事自体に意味があるんですよ」

そう言って善が白米を盛った茶碗を小傘に差しだす。

小傘はそれを笑って受け取った。

不思議な事に『驚き』の感情を食べていないのにどんどん心が満たされるのを感じた。

昨日までのひもじさが嘘の様である。

 

カチャカチャと食事が始まる。

「そうだ師匠、明後日の夜留守にしていいですか?ちょっとばぁちゃんに呼ばれたんで」

味噌汁を啜りながら善が師匠に話す。

いつの間にか渡されていた手紙を、自身の師匠に手渡す。

師匠は善からそれを受け取り目を通す。

 

「タヌキの親分さんの所ね?いいわ、行ってらっしゃい。修行だけでは身が持たないものね?……あなたは少しばかり遊び過ぎな気もするけれど」

そういって善の焼いた玉子焼きを口に運ぶ。

玉子を口に入れた瞬間頬が僅かに緩む。

 

「師匠……一応私も成長してるんですよ?シャイニングフィンガー(仮)だって……」

遊んでばかりと言われたのが不服なのか、不満がに善が口をとがらせる。

 

「気功拳よ」

 

「へ?」

聴きなれない言葉に善がオウム返しする。

 

「あの技は『気功拳』って言うの。別に珍しい技じゃないわ、気を使えるなら誰にだって出来るもの。

あなた、いい気になってるみたいだけどアレは基礎の基礎よ?

仙人はこれ位出来なきゃ」

そう言って自身の皿に乗っている、出汁巻に拳を勢いよく振り下ろす!!

バチバチッ!!とはじける様な音がする!!

激しく拳を振り下ろしたのにもかかわらず玉子は潰れていない!!

その代わり近くにあった大根おろしの山から適量の、おろしが飛びちょこんと玉子焼きの上に乗る。

師匠は何も言わずそこに醤油を掛ける。

 

「おお!!すご――痛ぁ!?」

突然善が胸を押さえて床を転がる!!

何事か!?と小傘は目を見開くが、隣のキョンシーは全く意に反した様子は無い!!

 

「どう?空気中の気の流れを利用した、遠当てよ。

あなたも仙人を目指すならこれ位出来ないとね?」

それどころか自慢げに師匠が話し始める。

 

「痛てて……遠当て?……そんな事できるんですね、どうやったんです?」

未だに痛むのか、胸を押さえながら善がゆっくり立ち上がる。

こちらも何事も無かったかのように、再び食卓へ着く。

 

「ぜ、善さん大丈夫!?スゴイ痛そうだったけど!?」

小傘が心配になり善に尋ねる。

その瞬間!!善の時間が止まる!!

 

「え?わちき、なにか不味い事言った?」

 

小傘の目の前で善がポロリと涙をこぼす!!

それを皮切りに、どんどん善が泣き始める!!

 

「え、え!?何?なにがあったの?」

小傘が軽くパニックを起こす!!

 

「ううぅ……久しぶりに、心配してもらえた……ナニコレ、コレだけの事がすごい嬉しいんだけど……天使?小傘さん天使!?」

めそめそと尚も泣きつ続ける。

それに対しおろおろする小傘。

師匠たちは尚も食事を続けている。

 

「えっと?あの、コレって?」

どうしたら良いのか解らず、善の師匠に尋ねるがどちらも気にしている様子は無い。

それどころか……

 

「善、次は玉子が食べたいぞー」

キョンシーの容赦ない言葉が飛んでくる。

 

「ああ、解ったよ……今取ってやるから……」

そう言って、キョンシーの皿の玉子焼きを箸でつまみ食べさせた。

満足気な顔でキョンシーが頷く。

 

(そうか、基本的に善さん酷い目にしか遭わないんだ……ならなんで修行なんてしてるんだろ?……さでずむ?)

小傘が疑問に思うが他のメンバー達は何事も無く食事を再開させた。

 

 

 

 

 

食事が終わり、皿洗い、服の洗濯、部屋の掃除などを善が始める。

その様子を小傘と善の師匠は炬燵で座ってみていた。

 

「あ、あの……仙人様?善さんはなんで家事ばかり?」

小傘の持っている修行のイメージと大きく離れた事ばかりしている為、思い切って善の師匠に尋ねた。

 

「あら、仙人の修行が滝に打たれてばかりいる訳ではないわ……というより寧ろ仙人の弟子というのはこんな物よ。

良い事?私は確かに善の師匠で、あの子は弟子よ?けど仙人ってのは家業じゃないわ、極端な話になるんだけど、私の技術をあの子に教える必要は無いのよね~、師匠である私の技を見て盗むと言うのが本来の仙人の弟子ね……

まぁ、私はあの子がかわいくてしょうがないから、たまーにその身を持って技術を教えてるのよ。

愛よ、愛、美しい師弟愛ね」

 

そう言ってにっこりほほ笑む。

そして思い出すはさっきの出来事!!

小傘の脳裏に、胸を押さえ転がる善の姿がフラッシュバック!!

どう考えても明らかに可愛がるの意味が違う!!

本人は愛と言ってるが、その顔はどう見てもこちらを退治して楽しんでいる巫女と変わらない!!

小傘は心の中でひっそりと善に同情した。

 

 

 

 

 

「ホッ!!はぁ!!」

 

「む!弱い!!打ち込みがたらんぞ!!」

家事が終われば次は、組手らしい。

雪かきした庭で、善とキョンシーの芳香がお互いの技をぶつけあう。

開始直前から善は激しく動き、モーションを変え芳香を追いつめる。

しかし、戦歴の差か体の動きが鈍いハズの芳香も善をだんだんと追いつめはじめる。

 

「そこまで!」

師匠の一言で両名の動きが止まる。

 

「「ありがとうございました」(だぞー)」

そう言うと同時に二人が離れる。

 

「うーん、動きは良いし体力も十分ね、けど善はまだまだ技術が荒いわ。たぶん実践なら芳香相手に3回は殺されていたわ。

能力を使うなとは言わないけれど、それに頼ってばかりではダメね」

 

先ほどの組手を見て師匠がアドバイスを飛ばす。

善は大人しくふんふんと頷いている。

 

「解りました、今度はそこを気を付けます」

そう言って善は、タオルで芳香の汗を拭いてやる。

 

「お疲れ様、手合せアリガトな」

 

「気にするなー、善を守るのは私の仕事でもあるんだぞ!」

そう言って素直に善に汗をぬぐわれる芳香。

お互いにその様子は手馴れており、何度も繰り返された事だと容易に判別できる。

 

その後も善の修行は続く。

精神集中から、今朝方見せられた気の遠当てを見よう見まねでやったり何処に有ったのか、真っ白い見た事ないもない日本刀のような武器を振り回したり、と彼なりの努力はしている様だった。

 

 

 

 

 

それからは何事も無く時間は過ぎて行った。

有る程度修行と家事が終わった善は今晩の夕食の材料を買い、カバンを下げ人里を歩いて行く。

空はすっかりオレンジに染まっている。

荷物を持つと言う名目で、小傘も一緒について行く事にした。

 

「善さん」

 

「なんです、小傘さん?」

歩きながら小傘が意を決して善に話す。

 

「なんで、あの人の弟子に成ったの?仙人に成りたいなら、あの人以外の仙人だっているでしょ?」

 

それは昨日からの疑問だった。

正直言って自分なら、雪が降る中墓石の下敷きにするような師匠は願い下げだし、()()()がたまたま酷い目に遭っただけじゃなく、今日の様子を見ると日常的に昨日の様な目に遭っている事が分かる。

それに、善本人の前では言いにくい事なのだが、あの師匠自身あまり良い噂は聴かない。

寧ろキョンシーを使役しているのだ、良い噂が立つ訳がない。

実際善本人は気が付かないのか、気が付かないフリなのか彼の人里での評判も良くない様だった。

 

「なんで、師匠の弟子に成ったか……ですか?」

 

「あ、あの少し気になったって言うか……」

誤魔化すように小傘がつくろう。

その言葉を聞いたら、後戻りできなくなるような気がして。

何故か誤魔化してしまった。

 

「正直言って、最初は仙人に興味は無かったんですよ……別に特別な何かに成りたかった訳じゃないんです」

善の言葉に小傘の心臓の鼓動が大きくなる。

何故かはわからない、ただ聞き耳を立てずにいられなかった。

 

「最初は、私も慧音さんに助けられて人里で生活していたんですけど、あまり里に馴染めなくて……気が付いてたら他の人たちから追い出されてました」

 

「それって……!!」

唐突な情報に、小傘が震える様に言葉を絞り出す。

 

「いやー、妖怪って怖いですよね?妖精とかも容赦ないし……あ、場合によっては助けてくれる子とかもいましたよ?チルノと大ちゃんにはお世話になったなー」

過去を懐かしむように善が話す。

しかしその表情はやはり強張った物が有った。

 

「あの頃はたぶん生きてたって言えないと思いますね、死んでないだけ、呼吸が止まってないだけ、心臓が動いてるだけ、芳香の方がよっぽど俺より生きてた気がする。

周りの人がすごくキラキラしてる様に見えて……自分が無価値なものに思えて……」

尚も善は言葉を続ける。

小傘はもう善の顔を見ることが出来なかった。

小傘には解った、誰にも必要とされないモノの苦しみが。

自分以外が、輝いてる光景が。

不要とされる苦しみをその身をもって知っている!!

 

「それだけならいいんですけど――」

 

「もう止めて!!」

 

堪えきれなくて小傘は善の言葉を無理やり遮った。

 

「小傘さん?」

豹変した小傘の態度を善は訝しむ、何か有ったと思ったのか心配そうに小傘の顔を覗きこむ。

「もういいから、辛い事なら話さなくていいから!!無理に、笑顔でいなくて良いから……!!」

そんな小傘の頭に善は優しく手を乗せた。

 

「小傘さんは優しいですね。他人の思いやれるのは生きていく上で、大切な事だと思いますよ。

そんな悲しそうな顔をしないでください、今私は師匠の弟子に成れて良かったと思ってるんですから……

確かに辛いと思う事や、酷い目に遭う事も多いですよ?

けど、師匠は師匠なりに私の事を思ってくれています、本当は仙人だから食事なんて要らないのに一緒にご飯を食べてくれたり、芳香をなんだかんだいって私の護衛に付けてくれたり、この包帯もそうですよ?」

そう言って自身の右手に巻かれた、複雑な術式の掛かれた包帯を見せる。

 

「きっと、()()()よりもずっと恵まれて環境に居るんだと思います。

今、すごく充実した生活なんです。

それに師匠は私に価値を見出して弟子に成らないかって誘ってくれたんですよ、だから私は師匠の弟子なんです」

それだけ話と一息ついて再び口を開く。

 

「あの日、師匠の手を取った事を後悔した事は有りませんよ。あの日からまた私は進むことが出来たんです。

さ、行きましょう、そろそろ芳香が腹が減ったって喚く頃ですから」

 

そう言って善は帰り道を急ぐ。

その姿を見て小傘は思う。

 

(ここは幻想郷……忘れられたモノたちの最後の楽園、善さんはそこでまた再起した、御師匠さんに拾われたんだ……)

拾われた者と拾われない物、その差が小傘の心を強く絞めつける。

ドンドン二人の差が開いて行く。

善がドンドン先に進んで行く。

しかし、善が唐突に振り返った。

 

「小傘さん?どうしました?早く帰りましょう?芳香が待ってます」

そう言って小傘に自身の手を差し伸べる。

その手が、自身を必要とする様な気がして、ずっと待っていた手の様な気がして……

 

「また、遊びにいっていい?」

 

「何を言ってるんです?これから雪が多く振るんですよ?今傘に逃げられると困りますね……天気が悪い日はずっといてくださいよ」

そう言って善は小傘の手を取った。

その瞬間、雪が降り始める。

ゆっくりと、地面を白く染め……

 

「さぁ、さっそくお仕事ですよ。お願いしますね」

 

「はい!!」

そう言って小傘は自身の傘の中に善を招きいれた。

拾われた者と拾われない物、その差がゆっくりと狭まっていくのを小傘は感じた。

 

 

 

 

 

師匠宅にて……

「あら、お帰り。二人とも寒かったでしょ?お風呂、沸かしてあるから小傘さん先に入ってね。

善には良い物が有るわ、芳香ー」

師匠に呼ばれた芳香が、人ひとり入れそうな水槽をもってくる。

水槽の中には緑色した液体と、モズクの様な物が大量に浮いていた。

 

「あの?これなんです?モズク風呂?」

善が苦々しい顔で水槽を指さす。

 

「イイでしょ?コレ、この前行った地獄で見つけたの!古代の藻の一種でシェルトケシュナー藻っていうのよ。因みに効果は戦闘本能の向上ね、入りなさい」

そう言って、シェルトケシュナー藻を指さす。

 

「いやですよ!!絶対コレやばい副作用有りますって!!依存性とかヤバそうですし!!」

そう言って逃げ出そうとするが――

 

「気功掌、遠当て!」

足で地面を踏むと同時に、善が胸を押さえた転がる!!

 

「がはぁ!容赦なしか!?」

 

「ついでに退路もないわ」

ガシッと善が捕まり、水槽の目の前まで連れてこられる。

 

「うわ!?近くで見ると色ヤバイ!!なまぐさ!?くさ!?ホントに臭い!!」

 

「酷いぞ……これでも匂いは気にしてるのに……」

クサいを連呼する、善に対して芳香が悲しそうな顔をする。

 

「違うんだぞ?お前に言ったんじゃな――」

 

「えい」

ザブン!!

善の抵抗が一瞬弱まった瞬間を師匠は見逃さなかった!!

容赦なく善の頭を水槽にブチ込む!!

 

「がぼ!?ぐぼがで!!ぐぼがでぐがらい!!じごう!!(グヘ!?やめて!!止めてください!!師匠!!)」

楽しそうに笑う師匠をみて小傘は思う。

 

(うーん、やっぱりさでずむ?)

何故かこの瞬間が楽しくてたまらない小傘だった。

 




珍しく続いた話です。
基本一話完結を目標に書いてるんで、少し新鮮に感じます。

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