止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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前回の予告の様に今回から、また地上編です。
暫くは日常回の予定です。


2色の瞳!!心を食らう妖怪!!

「あ~寒い寒い」

年が明け一月も中ごろとなった有る雪の日。

一人の妖怪の少女が墓の中を歩いていた。

紫色の傘を脇に挟み、両手に息を吹きかける。

 

「ああ~ひもじいよぉ~」

この妖怪の名は多々良 小傘。

捨てられた傘に妖力が宿り、妖怪化した付喪神の一種だった。

彼女には普通の妖怪とは違う特徴が存在する。

彼女は人間の感情その中でも『驚き』の感情を食べ生きているのだ。

しかし感情と食べるという事は、相手を驚かすことが出来ないとまともに食事をすることが出来ない事を意味する!!

 

「はぁ~お腹すいたな~」

小傘はこの所まともに『驚き』を食べていない。

 

「せっかくこんな所(墓場)まで来たのに収穫なしか……」

小傘は周囲に人がいない事を確認し、がっくりと肩を落とす。

実はこの墓場、彼女が以前まで人を驚かすスポットとして使っていたのだが、ある日ゾンビが現れ追い出されてしまったのだ。

それ以来あまり近寄らない様にしていたのだが……

今回はあまりの空腹に耐えかね、再びこの場所にて墓参りにきた人を脅かそうとしているのだ。

 

「う~……お正月だよ?みんなもっとご先祖を敬うべき……ックシュン!!あ~、寒い……」

鼻をすすりながら、墓場の奥まで歩いてくる。

こうなったら収穫が有るまで帰れない!!

 

「寒い寒い――あ”」

小傘の目に留まったのは、倒れて重なった墓石たちだった。

すっかり雪に埋もれて、解らなかったが近づいてみると何とか理解出来た。

雪で滑ったのか、誰かがいたずらしたのか複数の3、4個程度の墓石が重なって道の真ん中をふさいでいる。

 

「しょうがないな――こんなんじゃ誰も墓参りに来てくれないよ~」

自分の縄張りが荒らされた様な気がして、小傘は倒れた墓石を直そうと近寄った。

その時!!

彼女の足に違和感が走る!!

雪で正確な姿は見えないが、グニッっとした明らかに石ではない感触!!

手に持った墓石を横にズラし、それが何なのか確認しようとしたその時!!

『ソレ』が動きだし小傘の足首を掴む!!

 

「ひぃい!?」

『ソレ』の正体は自分と同じような生き物の腕!!

ひやっと冷たい感触が伝わってくる!!

 

「な、何々!!!何なの!?」

あまりの恐怖で涙目になりその場で尻餅をつく!!

その手の正体、墓石の下敷きになっていた男がゆっくりと口を開く!!

 

「……すいま……せん……たす……け……マジで……死ぬから……」

人とは思えない青白い顔で、その顔が喋りだす!!

小傘の心の中は恐怖で支配された!!

 

「いやぁああああああ!!あああああくあくあく!!悪霊たいさーん!!」

 

「ま……まって……」

ずらした墓石を、その男に全力で叩きつける!!

 

「ぐはぁあああ!?」

墓場に悲鳴と断末魔が響き渡る!!!!

 

 

 

 

 

「すいませんでした!!」

墓石の下敷きになっていた人物、善に対して小傘が頭を下げる。

あの後、善の必死の呼びかけにより人間だと気が付いた小傘が墓石をどかし救出したのだった。

 

「あー、酷い目にあった……」

善が寒そうに自身の手を擦り、墓石が乗っていた腰の部分をさする。

 

「わちきすっかり妖怪だとばかり……ごめんなさい」

再度頭を下げる小傘。

 

「ああ、気にしないでください。妖怪に間違われるのは慣れましたから……」

そう言って何処か遠い目をした。

 

(うん、今度から初めて会った人には『人間です』って最初に言うようにしよう……)

最早半分あきらめの境地!!それまでに善の妖怪としての誤認率は高いのだ!!

 

「それよりなんで墓石の下に居たの?」

恐怖が無く成れば今度は興味が出てきたのか、小傘が善にオッドアイの瞳を投げかける。

「ああ、それはちょっと色々ありまして……」

 

 

 

 

 

~回想~

「やっぱり自分の家が一番ね~」

「一番だぞ~」

「一番ですね~」

三人の人物が炬燵の近くでダラダラしている。

 

一人目はこの家の主にして善の師匠!!

炬燵に突っ伏し、品の良い顔は炬燵の暖かさの前にゆるみきっている!!

 

二人目は師匠の作ったキョンシーの芳香!!

あまり関節の曲がらない彼女は、胸の下までを炬燵の中に差し込みだらりと寝転がっている、表情もいつもよりリラックスしている気がする!!

 

三人目はここで弟子として住み込みで修行いている少年、詩堂 善!!

他の二人に比べ普通に足を炬燵の中に入れるスタンダードな体制だが、はやりその顔は緩みきっている!!

 

このリラックス満載の一行が仙人たちだとはだれも思うまい!!

 

「ぜ~ん。みかんが食べたいわ剥いて頂戴」

師匠が突っ伏したまま、善にみかんを剥くように指示する。

炬燵の上にはみかんが山に成って置いて有る。

因みに昨日善が雪降る中、人里に買いに行った物である。

 

「え~?みかんぐらい自分で剥いてくださいよ……流石にそれは弟子の仕事じゃないでしょ?」

善が渋る。

みかんを剥くという事は必然的に、炬燵の中から手を出さなくてはいけない訳で……

本人も実はみかんが食べたかったが、寒さで断念した所なのである!!

しかしそこに来るのは師匠の無慈悲な命令!!

善は、みかんの為に両手を寒さにさらさなくてはいけないのか!?

 

「なに言ってるの?右手のリハビリよ、まだ偶に動かすと痛みが有るでしょ?」

その言葉に反応し、炬燵の中から複雑な呪術式が書かれた包帯で、覆われた自身の右手を取り出す。

その場で、にぎにぎと動かそうとするが鋭い痛みが走り、少し躊躇してしまう。

 

「今、必死で再生をしようとしているの。少し位動かさないと体に悪いわ」

心配そうな顔で、善を見てくる。

そんな事を言われれば、無下にも出来ない訳で……

 

「解りましたよ……今すぐ剥きます」

そう言ってみかんを手に取って、剥き始める!!

 

「……(案外チョロいわね)」

ボソリと師匠が呟くが善は気が付かない!!

おだてられやすいのが、善の弱点だ!!

そうこうしている間にみかんが剥け、善は師匠にみかんを差し出す。

 

「はい、剥けましたよ」

 

「ナニコレ?」

しかし!!師匠は不満気である!!

 

「何って、みかん――」

 

「そうじゃないわ、なんで外の皮しか剥かないのかって言いたいのよ。

白いスジスジが残ってるし、薄皮も有るじゃない!そっちも剥きなさい」

尚も机に突っ伏したままで、師匠は御立腹の様だった!!

 

「ええ!?こっちも剥くんですか?」

善は、白い筋も気にせず食べてしまうタイプの人間!!

よって師匠の様な、白い筋まで取ってしまう人間とは分かり合えなかった!!

 

「ぜーん!!私も欲しいぞ!!けど筋は取ってくれ、あと3個くらい食べたい!!」

更に芳香の追加注文まで入る!!

明らかに時間がかかり過ぎる!!

 

「ぜ~ん、早く剥きなさい」

 

「私も欲しいぞー!!」

かしましく二人が口を開け、善にみかんを剥かせようとする!!

 

「ああもう!!解りました!!ちょっと待っててください!!今すぐに剥きますから!!」

そっそくみかんを剥き始めるが……

 

(やべぇ……メンドクセー……ってか師匠の一個と芳香の三個剥いたら俺の分残んねーじゃん……)

カゴの中のみかんを見て善が僅かに思う、そして!!

 

(抵抗する程度の力で何とかならないか?)

余計な事を思いつく!!本人は前見たように内部に能力を送り込み、皮を実の部分から引きはがせないかと思った!!思ってしまった!!

みかんをカゴごと掴み!!!

 

「シャイニングフィンガー(仮)!!」

自身の力を使う!!

その瞬間!!

 

パァン!!パパパァン!!

中の果肉ごと見事にはじけ飛ぶみかん!!

原型を無くし、部屋中に果汁とフレッシュな香りがぶちまけられる!!

 

「善……何をしてるの……?」

 

「べたべただぞぉ……」

ゆらりと師匠と芳香が立ち上がる。

師匠は青い髪からオレンジの果汁をしたたらせながら。

芳香ははじけ飛んだみかんの残骸を顔に付けながら。

 

「あ、あふ……二人とも、フレッシュな香りです……ね?」

何とか誤魔化そうと言葉を紡ぐが……

 

「教育が必要な様ね……芳香!!」

 

「イェッサー!!」

 

「ごめんなさい、も、もうしませんから、許して、許してくださ――あああ!?ぎゃあああああ!!!」

 

 

 

 

 

「――という事が有って、ボコボコにされた後墓石の下敷きにされたんだよ」

善が昨日の自身の失敗を語る。

「いやいやいや!!どういうことなの!?仙人ってそんなことするの!?」

 

実にあっけらかんした善の様子に小傘が突っ込む!!

しかしこんな事はもはや善にとっては日常茶飯事!!

『今回は雪が降ってきて寒かったなー』くらいにしか思っていない!!

慣れとは非常に怖い物である!!

 

「それより感情を食べる妖怪ですか……変わった妖怪もいるんですね」

そう言って、善が小傘の持つ傘を見る。

本人の話では、手に持っている傘も本体だし人間の様な姿も本体であるらしい。

 

「人を驚かすなら、街に行きませんか?たぶん師匠いまだに怒ってるから、ほとぼりが冷めるまで帰れないんですよ……」

ポリポリと善が自身の頬をかく、何よりも雪が現在進行形で降っている!!

正直屋根のある場所に向かいたいのだ!!

 

「うん!!二人で協力して人を脅かそう!!」

そう言って人里に向かって歩いて行った。

ちゃっかり善も一緒におどかす役に成っているのはヒミツ。

 

 

 

 

 

人里

何時も賑やかなこの場所。

今年は寒さも厳しいが、里の仲間の協力で乗り切り新年を祝った会が有ったばかりだった。

昨日のアルコールが抜けきっていない農夫が、何時もの癖で鍬を持ちふらふらと里の中を歩く。

足取りがおぼつかなく、案の定誰かに当たってしまった。

 

「あ~すまねぇ……チーとばかり、ふら付いてて……ひゅう!?」

ぶつかった相手を見て農夫が小さく悲鳴をあげる!!

その相手は邪仙の弟子の詩堂 善!!

いや、里では彼の本名を知る者は極僅かだ、彼は人里の中では二つ名で呼ばれる。

その二つ名とは――

 

「い……邪帝皇(イビルキング)……」

ガクガクと震える農夫に対して、手に持っていた紫の傘を閉じ手を差し伸べる。

 

「大丈夫ですか?……お酒の匂い……飲みすぎですか?」

何気ない普通の行動!!しかし!!恐怖に呑まれて農夫には何か裏がある様に思えてならない!!

 

(な、何をするつもりだ!?……か、傘?……ま、まさか仕込み武器!?お、おらで試し切りする気か!?)

「う、うわぁああああ!!」

農夫はその場から悲鳴をあげ、走り去った!!

 

 

 

「あれ、どうしたんだろ?いきなり走り出して……小傘さん?」

疑問の思う反面、小傘が満足気な顔をしているのに気が付く。

 

「あっはぁ、今のオジサンの驚きおいしかったなー」

ふんと鼻息を荒くし、満足げに頷く。

 

「え?アレだけで食事終わり?」

 

「一応は食べれたよ?けどもっと食べたいから一緒におどかしてよ、やっと食べれた感情なんだよ?」

 

「……その前に適当に飯屋行きません?今朝から何も食べてないんです」

そう言って自身の腹をさする。

その様子を見て、小傘は有る事を思いつき善に耳打ちした。

 

 

 

食事処にて……

「天そば、ざるで大盛り二つね!!」

 

「ハーイただいま!!」

雪が降っていると言うのに店内ではワイワイガヤガヤと活気が有った。

誰しもが頬をふと揺らす食事風景にソレは来た。

 

「いらっしゃ……いい!?」

受付の女性が来店した、男を見て手に持っていた湯呑みをおとす!!

湯呑みが割れる音と共に、店内が水を打った様に静かに成る。

 

「何見てるんだよ?」

来店した男、善が口を開く。

その横には珍しく一人の妖怪がいた。

しかしその妖怪は明らかに様子がおかしかった!!

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

まるで壊れたレコードの様に同じ言葉を繰り返している。

 

「おい、早く席に案内しろよ……注文は適当に温うどんで。席は出来れば座敷が良い、開いてるか?」

ジロリと善が店員を睨みつける。

 

「は、はい!!ただ今!!」

びくびくしながら必死に座敷席を開け、二人を案内する!!

座敷席に向かう善と尚もひたすら謝り続ける小傘。

 

「……黙れ。殺すぞ?」

何かシャクに触ったのか、善が後ろで尚も謝り続けた小傘の首を引っ掴む!!

 

「は、はい!!ごめんなさい!!」

口をパクパク開け、必死に謝罪する小傘!!

あまりの仕打ちに、店中の視線が集まる!!

 

「行くぞ」

しかし善はそんな視線など無視して、小傘を引きずり座敷席へと入って行った。

 

 

 

周りの視線が無くなった瞬間善の態度が豹変する!!

「(小傘さん大丈夫ですか?さっき強く掴みすぎませんでした!?)」

ひそひそと小傘に耳打ちする、その姿はさっきまでの暴力的な姿とは似ても似つかない!!

 

「大丈夫大丈夫、むしろどんどんお腹ふくれてるから!!この調子でお願い」

こちらも、コロッと態度を変えてニヤニヤ笑いだす。

その表情は非常に満足気だった。

 

「は、はい……なんか小さい子に暴力振るってるみたいで、気が進まないんですけど……」

 

「私の方が年上なんだけど?」

そう、コレは小傘の考えた作戦!!

善にくっつくだけでお手軽に『驚き』が食べれる夢の作戦だった!!

*その代償として善のイメージはどんどん悪くなっています。

暫く二人の『芝居』は続いた。

 

 

 

「はぁ~、そろそろ帰りますか?」

注文したうどんを食べ終え、適当にだべっていたがそろそろ夕方近くだ。

あまり遅いと師匠が心配する。

善が伝票を手にする。

 

「うん、わちきも十分『驚き』は食べれたから満足だよ……行こうか」

帰ると言う言葉に反応したのか、小傘が一気にテンションを下げる。

2人が表に出たとき、雪が大分強くなっていた。

ドンドン降っており、明け方にはかなり積もっている事が予測できる。

 

「あー、もう少し早めに出た方が良かったかな?」

そう言いながら善が、雪降る中に足をふみ出す。

目の前を容赦なく雪が横切り、視界を覆う。

しかし不意に雪が目の前から消えた。

 

「傘を差した方がいいから……」

そう言って自身の持つ傘を、善の前に差し出す。

 

「ありがとうございます、コレお借りしますね。今度墓に来てください、返しますから……」

そう言うとヒョイっと小傘から傘を借りる。

サクサクと雪を踏みながら善は歩いて行く。

 

小傘はそれを見送ると、どこか寂しそうに善と反対方向に歩き出す。

(いいな……外来人なのに、幻想郷内に帰れる場所が有るんだ……)

一人の妖怪がそう思った。

お腹は膨れているのになぜか心にぽっかり穴が開いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談

「ただいま帰りましたー」

 

「お帰りー……善みかん――じゃなかった、芳香がお腹を減らしてるの、夕飯作ってくれない?」

 

「お腹すいたぞー!!」

最早デジャブレベルで同じ姿(炬燵から出ていないのだろうか?)の師匠たちが善に指示を出す。

 

「ハイハイ、解りましたよ……材料は有ったハズ。

できれば手伝ったもらえますか?()()()は少し作るの大変なので」

そう言いながら台所に何か作れる材料はあったかと、思考を巡らす。

4人分という善の言葉に、唐傘がうれしそうに揺れる。

 

「まったく、何処に行ってたかと思ったら……おかしなモノを()()()()()()()

師匠が紫色の唐笠を触る。

 

「つい拾っちゃったんですよ。良いでしょ?食事は人数が多い方が楽しいでしょうし」

 

「ええ、あなたの好きにしなさい」

 

その時、一人の妖怪が住居のドアを叩く。

 

「んあ、侵入者?」

芳香が起きるが善はそれを制止する。

 

「違うよ、俺の友達」

ドアの外にはオッドアイの妖怪がうれしそうに立っていた。

彼女の心は満たされていた。




珍しく?いや、はじめて?
良い話っぽくしてみました!!
偶には悲鳴エンド以外あってもいいじゃないですか。

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