積りはしませんでしたけど……ホントに寒い……
俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)
ただ今、仙人目指して修行中です。
師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。
うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?
と、兎に角今日もがんばります……はぁ……
「さぁ、ここが入口よ」
前回に引き続き『メタル簀巻き』状態の善を持ち上げながら、師匠が旧地獄への入り口を見せる。
かなりの急斜面で何処までも暗く、深い穴がぽっかりと口を開け、善の目の前に佇んでいる。
「……深いですね……ここに落ちるんですか?底に付くまで結構かかりそうですね……」
鎖で縛られた(縛られ慣れてきた)善が首を動かし師匠に話す。
「飛べれば早いんだけど……善は飛べないものね?」
「うぐ!……そ、そこは今後努力します……」
痛い所を突かれ善が申し訳なさげに、謝罪する。
「良いのよ、気にしないで?流石にこっちに来て一年足らずで飛べるようになるとは思わないから」
そう、優しく微笑んで善の頬を撫でる。
瞬間!!善に走るは嫌な予感!!
毎日毎日毎日毎日、師匠の行動を見てきた善は知っている!!
次の瞬間!!自分の師匠はとんでもない事を始めると!!
まるで未来で見たかの様に知っている!!
その証拠に師匠のかわいらしい唇がゆっくりと開き……!!
「それに私に良い考えがあるの、芳香~悪いのだけど荷物を持って頂戴」
「わかったぞー」
師匠、芳香、善の三人分の荷物が仕舞われたカバンを芳香に持たせる師匠。
更に、善の足元から伸びている鎖を芳香の腰に巻きつける。
「あ、あの。師匠?何をするつもりですか?普通に私を運ぶんですよね?」
動けない体を必死になって動かしながら、善が確認するのだが……!!
「さぁ、始めるわよ――えい!」
「あっ!!ちょ――!?」
凄まじく良い笑顔の師匠は善を、深い穴に向かって蹴り込んだ!!
当然だが、重力に引かれ善は穴の暗闇の中に落ちていく!!
そして、鎖で繋がれている芳香も例外ではない。
「おお、おおっ!?」
暗闇の中を縛られ、身動きできずに落ちる善!!
地面と言う当たり前の物が無いと言う恐怖!!
しかし!!その恐怖は長くは続かなかった!!
「よっと」
「がはぁ!?」
瞬時に響くは師匠の声、そして殆どタイムラグ無しで体に感じる衝撃!!
そして最後に、鉄が何かに擦れる音!!
「師匠!?何してるんですか!?」
「何って、ただの移動方法よ?」
師匠は簀巻きにされた、善の身体の上に乗っていた。
イメージとしてはサーフボードとサーファー、スケートボードとその乗り手に近いだろうか?
「さぁ、地獄まで行くわよ?」
楽しそうに笑い、善を壁にぶつける!!
ギャリギャリギャリギャリ!!
身体にまかれた鎖が壁と擦れ、いやな音を立てる!!
鎖が有るため体に害はないが、まさに目と鼻の先で起きる恐怖!!
「うわぁ!?ちょっと!?目前一センチで火花が出てるんですけど!?」
「あらん、花火っていいわね。またどこかでやらないかしら?」
「花火じゃありません!!火花です!!あッ!!アッツ!!火花、熱い!!」
のんびり話す師匠と、目の前で繰り広げられる火花のダンス!!
しかし逃げる事は出来ない!!
「いやだぁ!!死にたくない!!止めて!!止めてください!!アッツ!!また、また火花来た!!――ああ!?師匠、前!!前!!カーブしてます!!ぶつかります!!前!!前!!」
善の言うとおり、目の前の穴は緩やかにだが、カーブしている!!
だが!!師匠は止まらない!!
「大丈夫よ~、アレくらい。あ、善歯を食いしばっておきなさい」
「ええ!?何をする――」
善の言葉の途中で師匠がさらに地面を蹴る!!
反動で、善の身体が向きを変える!!
ギャリギャリギャリ!!
ガガガガガガガガ!!
凄まじい音と火花があがる!!
「もう、少しよ~~」
「あわわわわ……」
ガガガガガガ!!
ギャリギャリギャリィ!!
ギャリィ!!
ガシャーン!!
今まで以上に派手な音を立て、カーブを曲がり切った!!
「いやぁ!!怖い!!地面怖いよぉ!!もう嫌だぁ!!」
最早恐怖で涙、鼻水、涎等様々な体液が流れだし善の顔をドロドロになっていた!!
その様子に師匠が気が付く。
「まぁ、なんて顔してるの?情けない顔するんじゃありません!!」
まるで母親の様な事を言い、鎖を手にし芳香を手繰り寄せる。
「ティッシュって何処に入れたかしら?」
「そこの、ポケットだなー」
「ああ、有ったわ。ありがとう芳香」
芳香の持つ荷物から、ティッシュを取り出し――
「ホッ!!」
地面を今度は前でなく、上に向かって蹴る。
「わわ!?」
そうする事で善の身体が、180度回転する!!
うつ伏せだった姿勢があおむけに変わる!!
「ほら、しっかりしなさい」
そう言って善の顔を拭き始めた。
一応言っておくが、その間全くスピードを緩めていないしこんな状況に成った原因は全て師匠にある。
「後少しだから、ジッとしてるのよ?」
コクコクコクと善が激しく首を縦に振る!!
「うんうん、良い子ね……」
そう言うと再び、加速を始めた!!
実は善が急に大人しくなったのには訳が有る!!
さっきまでは、善の体勢はうつ伏せつまりは地面を目の前で見ていた。
しかし、今回はさっきも言ったようにあおむけ!!
つまり師匠を見上げる形になる!!
さて、ここで勘の良い、または紳士な読者諸君は気が付いただろう。
そう!!師匠は今日も水色ワンピース!!そして善の上にライドオン!!
つまりスカートの中がうまくいけば覗ける!!覗けるのだ!!
その事実に気が付いた善!!
静かに、しかし確実にパンツが見えるタイミングを待つ!!
善の持つ欲望が恐怖を凌駕した瞬間である!!
所変わって、ここは地底の渡し橋の一角。
ここは地底に都市通称『旧都』に続く唯一の入り口。
そこには橋姫の水橋パルスィが佇んでいた。
橋姫とは嫉妬深い種族であり、彼女も例外ではなかった。
(ああもう!!妬ましいのよ!!)
そう思い自身の親指の爪を噛む!!
怨嗟の籠った視線を向ける先には、妖怪と人間のカップル!!
最近付き合い始めたのか幸せなオーラがにじみ出ている。
彼女の嫉妬心と比例するように、足元の河の水位も上昇していた!!
(ああ、妬ましい……幸せそうなあの二人が妬ましい!!)
「ほら、今日は地上の店を紹介する約束だろ?早くいこうぜ!!」
「う、うん……けど私なんかが……」
男が先に行こうとするが後ろから続く妖怪はどうも乗り気ではないらしい。
言葉にどもり、その表情は不安げだ。
無理もない、ここは嫌われ者が集まる場所きっと彼女も何かしらの理由がありここにいるのだろう。
しかし
「俺はさ、ただの人間だよ。けれどお前の事だけは絶対に守るから、だから俺と一緒に来てくれよ!!」
「うん……わかった!!命を賭けたあなたのものになる!!」
2人は強く抱きしめあった。
そこには種族すら超えた愛の形が確かに存在した。
(妬ましい!!妬ましいのよ!!幸せが!!私にない物を持ってるアイツが!!ああ!!妬ましい妬ましい!!パルパルパルパル!!)
その時!!嫉み続ける彼女に、嫉妬の神が奇跡を起こした!!
ギャル!!ギャルルン!!
「あら?遂についた様ね」
けたたまし音を立て、天井付近の穴から青い服と羽衣を纏った女が何か良くわからない物に乗り姿を現す!!
「師匠!!ここ空中!!空中です!!やばい!!やばいですよ!!」
「だ~い丈夫!!これ位じゃ死なないわ」
喚くボードに対して女が笑いかける。
「つまり無策!?」
グシャーン!!
「いでぇ!?」「ぐはぁ!?」「ぎゃあああ!!」
三つの悲鳴が重なる!!
ボードはカップルの女(妖怪)の上に着陸し更にカップルの男(人間)は跳ね飛ばした!!
「あぁあぁあぁあああぁああぁ~~~~~~~~」
跳ね飛ばされた男がパルシィの頭上を越えていく(因みに目が合った)。
ボッチャーン!!
「ぎゃあああ…ああ……ああ………あ……ああ………」
まるでコントの様に激流の河に呑まれ流れて行った。
「あ、あなたぁ!!」
ボードの下敷きになっていた妖怪が立ち上がり、河に流れて行った男を追いかけて行った。
「イェス!!ざまぁ!!」
パルシィが彼女にしては珍しく、心の底からの笑顔を見せた!!
「いてて……なんだったんだ?」
先ほどの衝撃で鎖がほどけ善はゆっくり立ち上がった。
ゴキゴキと体を動かす。
「師匠、さっき誰か轢きましたよね?」
大丈夫かと不安になり自身の師匠に疑問を呈す。
「あら、問題ないわ。ぶつかったのは妖怪だもの、アレくらいじゃ死なないわ」
そう言いながら背伸びをする。
「うう、ぐらぐらするぅ~」
ふらふらと芳香が立ち上がる、どうやら乗り物?酔いのようだ。
「しっかりしろ。ほら、肩貸すから」
「おお……感謝するぞ……」
心配した善が芳香に肩を貸しゆっくりと歩きはじめる。
一行は橋を渡り(なぜか橋の近くに居た妖怪に凄まじく良い笑顔で見送られた)遂に旧都へと足を踏み入れた。
和風だが所々洋風のデザインが入った、良い意味での和洋折衷の建物。
薄暗い街を照らすぼんやりとした提灯の明かり。
そして楽しそうに街を闊歩する妖怪達。
地上とは違うもう一つの街並みがそこに有った。
「うわぁ……すげぇ。なんか、うまく言えないけどこういうの好きだな」
善が街並みを見てキラキラと目を輝かせる。
「はいはい、早く宿を探すわよ?見つけないと此処で野宿よ?」
師匠に急かされ、芳香と共に街中を歩く。
温泉のチラシ持ってきてある為、そこに行こうと場所を探し始める。
「師匠ー、荷物くらい持ってください!!」
一人先に行く師匠に善が声をかける。
師匠は手ぶらであり、善は酔った芳香に肩を貸し、さらには芳香が持っていた三人分の荷物が入ったカバンを反対側に持っている。
「雑用は弟子の仕事よ?それに善はこんなに、か弱い私に荷物を持たせるの?」
酷い仕打ちだ!!とでも言いたげにショックを受けた表情をする。
「師匠?か弱い人は自分の弟子をボード替わりにしたり、鎖で弟子を運んだりしませんよ!!」
必死の言葉をかけるが、笑顔で聞き返すだけ!!
明らかな知らんぷり!!
「きゃ!?」
善の方を見ていたせいか前方から来た妖怪にぶつかってしまった。
「おおぅ!?ねーちゃんドコ見とるんや!!痛くてかなわんなーちょっとこっち来て貰おうか?」
「おうおうおう!!相棒になにしてるんやぁ!!」
ギロリとガラの悪い妖怪が、師匠を睨む。
何処にでもいるチンピラの一種の様だ。
「あら、ごめんなさい。少し弟子と話していた物で……許して下さる?」
珍しく下手に出た師匠に、妖怪達は無遠慮に胸や足に視線を向ける。
「あーあー、ホントなら出るトコ出てもらうけど、少し誠意見せてくれるだけでええで?」
「それはええな、良かったなベッピンさんに優しい俺らで」
「誠意?一体どうすればいいのかしら?」
解らないと言ったように、師匠が聴くが――
「師匠!!やめた方が――」
「黙ってろ!!今お前の師匠と話とんのや!!」
善が止めようとしたが、妖怪に止められてしまった。
「すこーしお話ししよか?」
「ほれ、ほれ行こか?」
「まぁ、みなさん積極的ですのね」
そう言って笑顔のまま、3人は路地の裏に入って行ったしまった。
「あーあ、可哀想に……」
そう言って善は三人が入って行った路地を見ていた。
確かに師匠は見た目
思わずお近づきになりたくなるのは解る。
自分も一目見たらそうなっていただろう。
暫くして、師匠だけが路地から姿を現す。
「お疲れ様です」
「たべて良いかー」
善が労い、芳香が涎を垂らしながら路地を見る。
「ああ、楽しかったわー。少し遊んだだけでお金までくれたのよ?」
そう言ったうれしそうに、血の付いた現金を見せる。
明らかに違うだろ!?と突っ込みを入れたいがそんな事をすれば、さっきのチンピラと同じ運命をたどる事を善は知っている!!
「あら、どうしたの善?そんなに怯えて?」
「いや……今更ですけど私って良く生きてるなって思いまして……」
日常に生活を思い出し僅かに震えだす!!
「うふふ、大丈夫よ?善がどんなにされても、ちゃーんと直してあげるから……
そう言えば、さっき私の下着覗こうとしたわよね?肉塊と化す準備は出来てる?」
そう言ってにこやかに笑いかける。
ドキンと善の心臓が跳ね上がる!!
「さ、流石に肉塊は……そんなの嫌です!!止めてください!!」
「あら、本当に見たのね、仕方ないわ一旦バラバラにして――」
「バラバラ!?いやです!!そんな事したら化けて出ますよ!!毎日枕元に立ちますよ!!」
「まぁ、うれしいわー。死んでも私の所に帰って来てくれるのね?その時はちゃーんと魂を捕まえて、遊んであげるわ」
魂すら弄ぶ!!邪仙の本領!!
善は瞬時に理解した!!この師匠はやる!!死んでも容赦なく自分をおもちゃにすると確信した!!
「い、いやです!!そんなのいやです!!止めてください師匠!!」
「魂はビンに詰めてあげるわね」
師匠は楽しそうに笑った。
おのれ!!リア充!!
誰かモテない男がヒーローになって怪獣(リア獣)を倒す作品書いてくんねーかな?
意外と流行りそう……