止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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ある意味今回から、第2部的な物です。
人から少し離脱した的な意味で、特に何も変わらないんだがな!!


駆逐せよ!!年末掃討指令!!

俺……じゃなかった、私の名前は詩堂 善(しどう ぜん)

ただ今、仙人目指して修行中です。

師匠の修行は厳しいけど、きっとそれも私の事を思っての事。

 

うん……そう、たぶん。おそらく、きっと……あれ?どうして涙が出るんだろ?

と、兎に角今日もがんばります……はぁ……

 

 

 

 

 

遂に雪の舞うようになった年の瀬……

寒さに耐えながら、自分の布団から起き上がる。

 

「うーん……寒いわ……」

横で寝ていた師匠が、布団を引き寄せる。

しかしそんな師匠を無視し、床で寝ているハズの芳香を手探りで探し起こす。

 

「芳香、オイ、芳香起きろ!!」

 

「うーん?善がタヌキじゃないぞー?」

揺り起こした芳香が寝ぼけているのか、訳の分からない言葉をつぶやく。

 

「一体何の事だ?とにかく今日も、朝飯の準備手伝ってくれよ。流石に俺一人じゃ大変だからたのむぞ?」

 

「おー、解ったぞー」

そう言って立ち上がって、二人は日課のランニングとストレッチの為に出かけた。

 

 

 

今日はまだ大晦日ではないが、その日も近い。

大掃除や来年の準備など早めにしておきたい。

今日すべき事を考えながら、善は芳香と共に墓を走りぬけた。

 

 

 

ランニング、ストレッチ、朝食の準備とやることがひとしきり終わった頃、師匠がゆっくり姿を現す。

 

「ふぅ~わ……善、芳香おはよう……二人とも早起きね……」

何時のも様に気ダル気な様子で、寝乱れた姿のまま歩いて来る。

そして善を視界に収め一言つぶやいた。

 

「あら?善がタヌキじゃないわ」

 

「あの……一体何の事ですか?芳香も似たような事言ってたんですけど……」

遂に気になり、師匠に尋ねてみる。

正直タヌキと呼ばれる心辺りは存在しない。

 

「すっかり忘れてるのね?アナタ昨日帰って来た時、タヌキの恰好してたのよ、思わず笑っちゃったわ」

その場でプププと笑い出す。

 

「うーん?」

昨日の事を思いだそうとする。

 

(確か布都様、椛さんと一緒にに屋台に行って……そうだ!!あの後バァちゃんに会ったんだ!!)

その後の記憶が一気にフラッシュバックする!!

そして遂に!!

 

「……オイ、芳香……お前俺の尻噛んだろ?」

芳香に対してギギギと首を動かし追及を始める。

 

「し、知らないなー?何の事だー?」

 

「とぼけるんじゃない!!なーんか朝から尻が痛いと思ったら、お前の仕業か!!」

明らかに、誤魔化す!!しかし善は追及を諦めない!!

 

「絶対噛んだだろ!?俺を食うんじゃない!!」

 

「うーん?なんだか忘れてきたー」

尚も誤魔化そうとする芳香に、善がキレそうになった時のんびりした師匠の声が響いた。

 

「ぜ~ん。これ、ちょっと味濃いんじゃない?あとごはん、おかわり」

 

「なんでアンタしれっと食ってるんですか!?今それどころ――」

 

「アナタを芳香のごはんにしてあげてもいいのよ?」

 

「すぐに付けてきます!!」

一瞬だが感じた師匠の殺気に、その場で姿勢を正しお茶碗を受け取り米を付けに台所へ走る!!

師匠に勝てる気はしない!!

 

 

 

カチャ、カチャと食器の音がちゃぶ台の上で響く。

「師匠、今日は大掃除しませんか?流石にコレは散らかり過ぎですよ?……ホイ、たまご」

 

「おー!!うまいぞー」

芳香におかずのたまご焼きを食べさせながら、善が師匠に提案する。

その言葉通り、三人の周りは酷い有り様だった。

服、道具、ゴミなどが散乱し足の踏み場もない惨状になっている。

実際師匠の部屋はもっとひどいらしく、寝る場所を失った師匠は善のベットを占領しそこで寝起きしている。

 

「あら?この部屋善の趣味じゃないの?女性のだらしない一面に激しい劣情を――」

 

「催しません!!なんですか!?その特殊な性癖!!私の好みは知的でミステリアスな感じの年上の人です!!」

 

「まぁ。それって遠まわしに私の事好きって言ってるの?困るわぁー、でも私には夫が……けどそろそろ新しい幸せを掴んでも……ああん!!にゃんにゃん悩んじゃう!!」

善の言葉に師匠がその場でくねくねと体をくねらす。

 

「善、何も言わなくて良いのかー?」

芳香がやけに冷めた目で師匠を見るが、善も同じく冷めた目で優しく言い返した。

 

「師匠?師匠は知的でミステリアスと言うよりも、狡猾で腹黒い悪女――」

そこまで言って善は口をつぐんだ!!

何故なら師匠が胸の間から、札を取り出したからだ!!

 

善はこれまでの()()()()()()()()()!!これ以上言ったら容赦なくキョンシーにされる!!あの札は身体強化の為に使う札とは明らかに纏うオーラが違う!!

 

「い、いやー。遂に言っちゃいましたねー……実は私師匠みたいな知的でミステリアスな女性が大好きなんですよー、あは、あははは……」

善の口から乾いた笑いが漏れる……

 

「まぁ~うれしいわ。私もまだまだ捨てたもんじゃないわね」

楽しそうに微笑む師匠!!それに対し……

 

「チッ……チキンが……」

ボソリと芳香が凄まじい悪態を付いた様だが気にしない!!気にしてはいけない!!

キャラがブレるレベルでの悪態だが気にしてはいけない!!

 

 

 

 

 

そんなこんなで、食事の後は大掃除となった。

 

「師匠ーこの本って捨てて良いヤツですかー?」

足元にあるボロボロになった本を師匠に見せる。

 

「ああ、人体解剖論ね。それは思ったより普通の事しか書いてなかったから、捨てて良いわよ。けど、それとよく似た表紙の精神掌握論は捨てないで、取っておいて頂戴」

 

「解りました~」

 

先ほども言ったように、部屋の中は完全にゴミがミックスされている。

そのため、必要な物か不要な物かは全て手作業で分けなくてはいけない!!

正直言って非常にめんどくさい……

 

「ああ、そうそう。善、アッチの炬燵の方には私の、掛け軸前には芳香のと言った具合それぞれ、使用斉の下着が埋まってるわよ?」

 

「ぶぶぅ!!なんで今その情報言ったんですか!?要りますか?その情報!?」

要らない本をまとめていた善が、師匠の突然の言葉に噴き出す!!

 

「だって善の事だから、『グへへ!!師匠と芳香の使用済み下着を食べてやるヌッツオ!!』とか考えて居るんでしょ?箪笥を開けて新品を食べられるのは困るのよ」

 

「食べませんよ!!なんでナチュラルに俺がパンツ食べる人種になってるんですか!?あと、『ヌッツオ』ってなんですか!!語尾?一度も使った事ないですよ!!そんな語尾!!俺師匠の中ではどんなイメージなんですか!?」

あまりに酷い師匠の言葉!!善は突っ込みのしすぎで息が上がり始めている!!

 

「あら、興奮して息が荒くなってるのね」

 

「酸素が足らないだけです!!全く師匠は――」

そう言うとブツクサと文句を言いながら。善は作業に戻っていた。

 

 

 

 

 

師匠は思う。

 

善が来てから、毎日が大分楽しく成ったわ~。

弟子と言う物は太子様達以来ね。

 

そう思い自身の過去に取った弟子たちを思い出す。

 

豊聡耳 神子、物部 布都そして蘇我 屠自古。

三人とも1000年以上前の弟子だ、自らの術を教え戸解仙となった(なろうとした)者達。

自分は強者が好きだ。だからこそ、三人に取り入った。

狡猾な者、カリスマが有る物、多くの術を操る者、歴史に名を残すであろう絶対の存在。それこそが自分の愛するモノだ。

三者とも出会った時すでに、生まれ、学力、環境、育ち等……様々な意味で()()()()()()()()

だからこそ自分の術を教えた。

 

 

 

しかし自分の新たな弟子はどうだろう?

チラリと視線を善に向ける。

 

「あーあーあー。埃塗れじゃないか……ホラ、払ってやるからコッチ来い」

 

「解ったぞー」

 

自身の作ったキョンシーと仲良く会話する姿はどう考えても太子様達には遠く及ばない、全ての能力が彼女らを大きく下回っている。

芳香に侵入者として、排除された姿を最初に見た時は興味さえ湧かなかった。

逆に気まぐれで逃がした時の、みじめな逃げ様は憐みすら覚えた。

 

次に会ったのはそれからおよそ一月後……

何を思ったのか再び、私達の居場所に侵入してきた。

今、思い返すと死ぬのが目的だったのでは?とさえ思ってしまう。

芳香にやられボロボロの姿で、自分の前に連れてこられた男……

 

何時もなら、芳香のごはんか臓器などのスペアにするハズだった。

それなのになぜ?なぜあの時善を弟子に成らないかと誘ったのだろう?

 

それはきっと彼の心の中に()()()()()と気付いたから……

私はその()()に太子様達と同様かそれ以上の力を見た。

聖人をも弟子にした私の、新たな不出来な弟子……

アナタ()は私に何を見せてくれるのかしら?

なんだかとても楽しみね。

 

 

 

 

 

芳香の身体に付いた埃を取り、気が付くと師匠がこちらを見て笑っていた。

その姿に善は嫌な汗が全身に湧いた!!

 

「あの?師匠?なんでニヤニヤしてるんですか……?」

 

「善で遊ぶのは楽しいなーって思ってたのよ?」

微笑みながらそう話す師匠!!

その様子は、まるで新しいおもちゃを貰った子供に様だが内容が明らかに違う!!

 

「私『で』ってなんですか!!『で』って!!普通『と』でしょ!?」

 

「私も善で遊ぶのが好きだぞー」

横から芳香が楽しそうに話す。

 

「だ・か・ら!!なんで『で』なんですか!!」

遂に善が涙を流しながら崩れ落ちる!!

 

「まぁまぁ、そのうち良い事有るぞ?」

その善を芳香がなでる!!

関節の関係でチョップするみたいになってるのはナイショだ!!

 

「ああ、本当に楽しいわ~。善?来年も私達に楽しい物をたくさん見せてね?」

そういってその言葉通り本当に楽しそうに笑う師匠。

その笑顔に、遂に善の心が折れる!!

 

「私をおもちゃにするのは止めてください!!師匠!!」

 

「あら?それがアナタの存在価値でしょ?」

 

 

 

 

 

余談

 

命蓮寺も同じく大掃除の真っ最中だった。

「な、ナズーリン?私も何か手伝う事は――」

 

「御主人はジッとしててくれ、宝塔が無くなる方がずっと困るんだ」

手持ち無沙汰な星がナズーリンに手伝う事を提案するがバッサリ断られてしまう。

 

「仕方無いですね、大人しく縁側に――キャッ!!」

シュバババ!!

 

「しまった!!」

畳の隙間に足を取られ転んでしまった!!

それだけなら良かったが……

間違って宝塔のレーザーを誤射してしまった!!

張り替えたばかりの障子が一瞬にして炭になってる!!

しかもその方角には村紗が池を掃除していたハズ!!

 

「ああ……村紗!!大丈夫ですか!?」

心配のあまり裸足で庭の池まで走る!!

 

「ああ、私は大丈夫だよ」

池に船を浮かべていた村紗は無事の様だった。

 

「ああ、良かった……本当に心ぱ――」

そこまで言って、池から出てきた濡れた手に星の足首が掴まれる!!

そしてぬるりと水をしたたらせ、池から謎の妖怪が姿を現す!!

人の様なシルエット、しかしその眼に宿るのは修羅の眼光!!

毘沙門天の代理の星すら怯ませる謎の妖怪が、池から姿を現した!!

 

「許さん……ぞ……」

 

「ヒッ……ひぃぃ!!」

その妖怪は怨嗟の声を上げながら、ゆっくり池から出ようとする。

その時!!住職の聖が星の悲鳴を聞きつけ現れた!!

 

「そこまでです!!この寺は妖怪と人の架け橋!!その象徴たる星を襲おうとは迷惑千万!!問答無用で、いざ!!南無三!!」

 

「へぶぅ!?」

魔法により強化された拳で妖怪を殴り付ける!!

そしてあっけなく妖怪は池に沈んでいった。

 

「星、村紗、大丈夫ですか?怪我は……」

 

「あ、あのさ。聖、安心してるトコ悪いんだけどさ……()()善だよ?マミゾウが手伝いに来させてた」

 

「「え?」」

同時に、善がプッカァ……と池から浮かんでくる。

背中にはレーザーの焼け焦げ、顔面には殴られて腫れた頬。

間違いなくこっちが被害者!!

 

「ああ……大変!!村紗!!早く!!早く引き上げて!!」

 

結局、命蓮寺でもひと悶着。

 

 




なんだかんだ言って個人的に欲しくなるアイテムの上位の宝塔。
人里に向かって『薙ぎ払え!!』とかやってみたい……
すっげー怒られそうだけど……

他にもレーヴァティン&グングニルの二刀(槍?)流も憧れる……
すっげー怒られそうだけど……

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