止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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皆さんあけましておめでとうございます。
今年も、善君をよろしくお願いします。


罵詈雑言の嵐!!夜雀の屋台!!

灯りの無い暗い夜道に、一つの提灯がともっている屋台が有る。

屋台からは芳ばしいしい香りと、美しい歌が流れてくる……

この屋台は夜雀の妖怪、ミスティア・ローレライの八目鰻の屋台である。

今宵も彼女の歌と料理に誘われた客人が……

 

や っ て く る 

 

妖怪ミスティア・ローレライは思う。

生きとし生ける物は皆、さまざまな生を歩んでいると。

当たり前だと多くの者は言うだろう、しかし知識と実際に体験した物でほ大きく本質が異なるのだ。

屋台の女将をしている時、彼女は商人であり同時に。客の人生と言うストーリーの一遍の目撃者でもあるのだ。

 

「♪~♪♪~♪」

鼻歌を歌いながら、仕込みのおでんの具合を見る。

最早冬と言っても過言ではないこの時期、熱燗とおでんは本命の八目鰻よりも売れ筋になる事が多々ある。

おでんに視界を落としていた時、暖簾を誰かがくぐる音がした。

「いらっしゃいませ!!」

瞬時に笑顔を作り、3人の客人を迎え入れる。

さぁて、今宵はどの様なドラマが見られるのか……

 

 

 

 

 

「おお!!ここじゃ!!この前偶然見つけて以来、ずっと来たかったのだ!!店主殿失礼するぞ?」

「すみませんね、椛さん急に誘ってしまいまして……」

「いいえ、かまいませんよ。丁度明日は哨戒の仕事のシフトも休みですし」

入って来たのは三人組の男女。

店に人が入って来たと同時に、ミスティアは客の観察を始める。

 

最初に入って来た烏帽子に白い着物に白髪の小柄な少女は、街中で数度見た事が有る……名前は、そうだ。確か布都とか言ったか?

もう一人の白髪は残念だが見た事が無い、しかしその特徴的な見た目と『哨戒の仕事』と言う単語で有る程度予測は可能だ。

おそらく妖怪の山の白狼天狗だろう。

しかし問題は三人目の少年。

コレ、と言って特徴的な容姿はしていないが、気の弱そうな瞳と中華風の黒い上着を着ている。

確か墓場に居たキョンシーが、コレと似たようなデザインの服を着ていたか?

最もこちらの方は細部が異なり若干ではあるが、道士風と呼べる恰好となっている。

何の妖怪だろうか?

そう考えてる間にも三人は屋台に腰を下ろした。

 

 

 

「うーむ、八目鰻か……しかし冷えるからな。店主殿、おでんをお願いするぞ」

布都が、チラリとおでんの鍋を見ると同時に指を立てて注文する。

 

「あの、具を――」

「布都様、おでんはアレが丸ごと来るわけではありませんよ?何が食べたいか具で注文するのです」

真ん中に座っていた道士風の妖怪がミスティアの言葉を遮り、そう教えた。

その言葉に布都が『そうだったのか!!』と驚くような表情になる。

 

「も、もちろん知っておるぞ?我が知らぬハズ無いであろ?い、今のはお主に華を持たせたのだ!!」

凄まじく動揺しながら、明らか過ぎる嘘をつく。

周りの者達はもう慣れたのか、気にする様子は無い。

 

三人は手早く、大根とこんにゃく、たまご、牛筋を注文した。

もともと作り置きできる品物だ、すぐに提供することが出来た。

 

「それにしても、急に来るなんて驚きましたよ?私が見つけたから良かったものの、場合によっては大変なんですからね?」

白狼天狗が思い出したように二人に話す、その口には牛筋が咥えられている。

 

「しょうがないんですよ、布都様が『以前里で聞いた屋台へ参るぞ!!』って急に来て付いて来いって言って付いていったら――」

「いつの間にか妖怪の山に?」

訝しむような口調で白狼天狗が話す。

「わ、我の風水の結果ではそっちの――」

「「風水で店を探すな!!(さないでください!!)」」

妖怪二人が同時にツッコむ!!

責められたためか、布都がビクリとして涙ぐむ。

 

「わ、我は、我は自身の信じる物に従ったのみだ!!」

吐き捨てるように話すと、やけ気味に目の前の大根を口に含む!!

「あ、それは――」

道士風の服装をした妖怪が止めようとするが、すでに遅かった。

「か、辛いではないか!!」

大根にはたっぷりとからしが塗られていた、どうやら布都は気が付かずに大量に食べてしまったらしい。

 

「か、辛いぞ!!善!!どうにかしてくれ!!」

あたふたと慌てだし、目の前の水をがぶ飲みしている。

どうやらこの道士風の妖怪『善』と言う名前らしい。

 

「あーもう!!ほら、私のおでんの出汁飲んでください!!水は薄まるだけで辛さは消えませんから……なるべく味の濃い物を……椛さん、その味噌の着いた牛筋貰っていいですか?」

「わ、解りました」

そう言って白狼天狗が、味噌味の牛筋を渡す。

 

「ほら、布都様。よーく味わって食べてください?慌てないでくださいよ?」

そう言って、筋を布都に食べさせる善。

こうしてみると、白狼天狗と布都の髪の色が同じ白で有る事から、一見して親子の様にも見える。

実際は年齢など見た目からは想像不可能なのだが……

ミスティアはそう自重気味に思った。

 

「ふぅ……危機は脱した様だな……」

暫くして辛さが消えたのか、布都は再び大人しくなった。

そしてなぜかドヤ顔でうなずく。

 

「いや、完全に布都様のミスですよ。もっと落ち着いた行動をとるようにしてくださいね?」

善が諭すように話す。

相手を怒らせない様にと言う心使いは有るが、やはり注意された側は面白くない様だ。

「ふ、ふん!!わかっておるわ!!そんな事より聞いたぞ?お主、能力が目覚めたらしいではないか?」

「え!?善さん本当ですか?」

話題をそらすように言った言葉に対し、椛が思いのほか強く反応する。

「え、ええ……一応能力……なんですけど……」

「ん?何か問題が有るのか?」

気不味そうに話す善に対し布都が詰め寄る。

 

そして善が気まずそうに話し出す。

「『抵抗する程度の能力』なんですけど……『抵抗』って大したレベルじゃないんですよ……さっきの布都様みたいにからしの辛さに抵抗したとして――」

「辛さが全くなくなるのか!?」

目をキラキラさせながら布都が話すが……

「将来的には……そうなるの……かな?全く使いこなせて無いんですよ現時点で、たまに少しは役に立つかな?レベルなんですけど、通常は焼け石に水レベル……」

「なーんじゃ、ほぼ無能力ではないか。つまらん!!」

消えそうな声で話す善に対し、布都が全く相手の事を考えない物言いをする!!

 

「なんでそんな事言うんですか!?気にしてるんですよ!?」

善が目を潤ませながら立ち上がる!!

「無能を無能と言って何が悪い!!」

フフンと言ったドヤ顔で善をなじる。

「うるせぇ!!俺をなじりたけりゃもっと胸盛ってから来いや!!まだあの浮いてた幽霊の方がサイズ有ったわ!!」

 

突然、善の態度が豹変する!!

自然な感じからして今まで猫をかぶっていたと考える方が自然か?

なんにせよ店での争い事は困る、ミスティアは心の中で舌打ちした。

 

「お主……言ってはならぬ事を……!!何か有るたびに乳!!乳!!とばかり言いおって!!そんなに乳が好きか!!この変態め!!」

同じくキレた布都が立ち上がる!!

「大好きさ!!男がスケベで何が悪い!!俺達は哺()類なんだよ!!生きるのに必須アイテムなんだよ!!」

 

善と布都が同時に机を叩いて立ち上がる!!

「ひッ!?」

危険を感じたミスティアは思わずその場でしゃがみこむ!!

 

「二人とも、いい加減にしてください!!」

更に善の隣に座っていた椛が一喝する。

「ここは飲み屋です。厄介事は後にして愚痴を吐きながら飲む所ですよ!?」

椛からあふれ出す社会の歯車オーラ!!

その負のオーラに善と布都が怯む!!

 

「あ、す、済まぬ事をした……椛殿許されよ……」

「椛さん……すいませんでした!!」

布都と善が同時に謝る。

「まったく、さあ、飲みなおしますよ?」

そう言って三人は再び飲み始める。

 

 

 

 

 

酒も進み、食事も進み……

「ぜん~んはぁ、最近修行はぁ、どうなのだぁ?うひひひ……」

「おお!?いいますねぇ~毎日師匠にいじられてますよぉ?絶対あの人、俺で遊んでますぅ~」

「ウチの上司の天狗が五月蠅すぎなんですよぉ!?毎日毎日ぃ……目の前でから揚げ食ってやろうか!!なぁ~んて!!」

「「「わははははっはは!!」」」

見事に出来上がった酔っ払い三人組!!

最早会話がかみ合わなくなり始めている!!

 

「からし付けておでんたべちゃう~?」

そう言って善が布都の前に大根を差だし……

「いやーじゃー!!辛いのはもうくわーん!!ワンワン!!ははは!!」

布都が怪しげなテンションで受け答えして……

「ワンワン、わんわお!!犬じゃないって毎回言ってるでしょう!?」

椛が提灯に説教を始める!!

 

そろそろ潮時か……

ミスティアは内心ほくそんで言葉をかける。

「あの~、そろそろお代を……」

あくまで申し訳なさそうに、しかし確固たる意志を持って伝票を三人の前に差し出す。

 

「え!?」「なんと!?」「えええ!?」

三者三様のリアクション。

しかし見るのは同じ伝票の数字だ。

「ゼロが、いち、にい、さん、よん、ご……た、たくさん!?」

最初に言葉を発したのは善だった。

 

「さ、作戦会議じゃ!!」

布都が手を上げ、二人が布都の周りに集合する。

 

これこそミスティアの作戦!!酔わせて高い酒などを飲ませる常套手段!!

本来は相手を見て行うのだが、今回は布都が居る。

街中で見かけた時かなり羽振りが良さそうで、尚且つ頭が弱そうなので前々からターゲットにしていた。

更にもう一人は、集団行動を得意とする白狼天狗本人は大した、財は無いだろうが他の天狗から借りさせる事ができる。

何れもカモと呼べるタイプの客だ。

 

 

 

「どうします?さすがにそんな大金……」

「我が神霊廟に帰って持ってこようか?」

善と布都が不安そうに相談するが……

「三人で跳びかかって、踏み倒しましょうか?」

横から椛の容赦ない一言が入る!!

その眼は完全に座っていて、何時でも実行可能であると物語っている!!

「椛さん!?酒が入ると危険な人ですか!?」

「これ、明らかにぼったくりです……本気にしてはダメです。殺りましょう」

椛の心が凄まじく荒んでいる!!

「し、仕方ない……三人で処分する……善、キョンシー用の札は有るか?」

「師匠が、護身用に……身体への反動が有って5分以上は使えませんが……」

ズボンのポケットから、札を取り出す善。

 

一斉に跳びかかろうとするとき、横から声が掛かった。

 

「おう!!今夜はずいぶん混んでおるな?」

聴き覚えのある声に、善は顔を向けた。

そこに居たのは……

「バァちゃん!?」

善の知り合いのマミゾウだった。

 

「おお、善坊。両手に華か?くくく、そろそろ色を知る年頃だと思ったが、どうやら儂の予想の遥か上を行っておった様じゃな?」

そう言って楽しそうにノドを鳴らす。

指先に持ったキセルから煙が立ち上る。

 

「バァちゃん頼みが有るんだけど、お金貸してくれない?少し持ち分が足りなくて……」

申し訳なさそうに、頼む善から伝票を取り上げペラペラとめくる。

 

「ふむふむ、ずいぶん飲んだ様じゃの?たっかい酒ばかり飲みおって……しょうがないの。今回は儂のおごりじゃ、お主ら次からは気を付けるんじゃぞ?」

そう言って、懐からゴツイ財布を取り出すと札束を屋台のテーブルに置く。

 

「これで足りるハズじゃ、こいつ等は返していいかの?」

マミゾウの答えにうなずいたミスティアを見て、布都と椛は安堵した表情で帰っていく。

善も同じく帰ろうとするが……

「おっと。待て、善坊。お主はもう少し儂に付き合ってもらうぞ?折角の再会じゃ、お主の周りの事を良く聞かせてくれ」

そう言ってマミゾウに引きとめられる。

 

「わかったよ、バァちゃん。布都様、椛さん先帰っててもらっていいですか?もう少しバァちゃんに付き合いたいから……」

「構わんぞ?」

「では先に帰ってますね」

善の言葉に二人が、かえっていった。

 

 

 

ミスティアは驚愕していた。

目の前の、妖怪は知っている。

化けタヌキの親分 マミゾウだ。

外の世界では神として崇められたり、妖怪たちの大ボスとなっていたりする大妖怪だ。

悔しいが圧倒的にミスティアより上位の存在である。

しかし

そんな大妖怪に孫が居るとは知らなかった!!

 

普通の人間とは明らかに違うのは分かっていたが、まさか大妖怪の孫だったとは思いも依らなかった。

そう考えると色々と心配になる、ぼったくりしたのもばれしこの後何をされるか解らない!!

不安はさらに不安を呼び、ミスティアを恐怖に染め上げた!!

(恐怖……?そう言えば聞いた事が有る……!!里の噂で危険な人物がいるとそうだ、魂を取り込んで邪仙と共謀している男が居ると……!!二つ名は確か……7邪王(イビルキング)!!コイツがそうなの!?)

三人の中でもっと弱いと信じていた存在が、この時一瞬にして未知なる怪物に見えてきた!!

(わ、私は今……一体何と対面してるの!?)

*普通の人間です。

恐怖に縛られたミスティアは、歌う事もやめ。

ただ、目の前の存在の怒りを買わない様に務める事にした。

 

 

 

「そう言えば、バァちゃん。本当に出してもらって良かったの?」

不安げに善がマミゾウに話す。

それを見て、マミゾウが一瞬考え込んだ。

「確かにタダとはいかんな、金の代わりは体で払ってもらおうかの?今度ウチの寺にきんさい、いろいろと仕事してもらうかの」

「まぁ、それくらいなら……」

善が了承した時後ろから声がかかる。

 

「ぜーん!!おお、ここにいたのかー、探したんだぞー?」

芳香が善後ろから現れた。

芳香を見てマミゾウが目を丸くする。

「おお、おお。天狗の嬢ちゃんに戸解仙の嬢ちゃん、そんでキョンシーまでおるんか。善の守備範囲は広いのぉ?こやつも隅に置けんわい」

下世話な表情で肘で善を突く。

 

「バァちゃん、みんなただの友達だって。そんなんじゃないからさ」

「どうかの~?」

尚もニヤニヤと笑う。

 

 

 

「それじゃあ、迎えが来たから帰るよ。ありがとね」

席から立ち上がると同時に少しふらつく善。

「気にせんでええ、酔っとる様じゃな?ほれ」

マミゾウが指を鳴らすと、善がタヌキに変化する。

 

「嬢ちゃん、善坊を頼むぞ?」

そう言って善(タヌキ)を芳香の手に持たせる。

「おおー?善がタヌキに成ったぞー?」

不思議そうな眼で芳香は善を抱きながら夜の闇に消えて行った。

 

 

 

「はぁ~ついこの前まで、あんなに小さかったのにの……時間は経つのが早いわい。しかし今更になった再会とは、なんと難儀な因果じゃ、善坊よ……」

小さく独り言を漏らす、マミゾウ。

その言葉はミスティアには伝わらなかった。

 

 

 

「ううー、お腹すいたぞー」

ピョンピョンと芳香が善を手に持ち、空腹で森を歩いて行く。

ゆらりと目の前でタヌキの尻尾が揺れる。

ピョンピョンピョン、ユラユラユラ、ピョンピョン、ユラユラ、ピョン、ユラ……

 

ガブリッ!!

 

「キューンン!!??!」

タヌキの悲鳴が夜の森に広がった。

 

「あ、食べちゃった……善すまん!!」

正気に戻った芳香が謝った。

 




八目鰻って正確には鰻とかなり違う動物らしい……
味も全然似てないらしい……


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