皆さんの家にサンタは来たかな?
私は、チキンとケーキを食べました。
シャンメリーって特別な感じがして好きです。
俺……じゃなかった、私は詩堂 善(しどう ぜん)
仙人を嫌々……ではない、心から仙人目指して頑張ってます!うん……そう、たぶん。
悲劇と言う物は向こうからやってくる。それは善も例外ではないらしい。
夕暮れに赤く染まる部屋で、とある人物がゆっくり目を覚ます。
「夕日だ……いつの間にか昼寝してたみたいだな……」
自身の置かれた状況を整理し始める。
そしてそのままキョロキョロと辺りを見回す。
「師匠の家だよな……」
内装的に見て師匠たちと一緒に住んでいる自宅には変わりないが、何か違和感を感じる。
何時も見ているハズの空間に有る確かな違和感。
その正体を掴もうとするがベットに寝たままでは、ついぞ答えは出なかった。
「んー?
クスリによる幻覚の副作用など、嫌な予感を感じつつゆっくり立ち上がろうとするが、なぜかうまくいかない!!
まるで体が固まったように殆ど動かす事が出来ない!!
「あ、あれ?どうして……うおぉ!?……体が固い……!!なんだコレ?寝違えたってレベルじゃ……んん!?なんだ
そして。
善は遂に有ってはならない物を発見してしまった!!
ますます混乱する頭を抱え、自分の置かれた状況を確認するため、もつれる足を必死に動かし洗面所に向かう!
「……嘘だろ……」
洗面所の鏡に映った自分の姿を見て善が絶句する……!!
いや、この場合『自分の姿』と言うのは語弊がある!!
鏡に映った姿は少年の詩堂 善ではなく……
「よ、芳香になってるーー!?」
そう!!師匠の作ったキョンシー、宮古 芳香の姿だった!!
「なんでなんでなんでなんで!?……ナンデ!?」
動かしにくい身体を何とかしながら、鏡に映る
幾ら鏡を見直しても鏡に映るのは間違いなく、自分と一緒に居た芳香の姿!!
「なんでこんな事に……って言っても絶対師匠の仕業だよな……」
善の脳裏に浮かぶのはやはり、自分の師匠のにやけた顔。
理解不能、予測不能、傍若無人……
『面白そうだから』と言う理由であの人は何をしても不思議ではない!!
その場で、芳香がいつもやっている様に飛び跳ねてみる。
するとやはり鏡の中の芳香も飛び跳ねる……
「うん……間違いなく
試しに体を動かしてみたが何の問題も無く稼働する(最も芳香自身関節が上手く動かない為、善自身だいぶ違和感が有るのだが……)
ありえない状況下に慣れてきたのか、それともパニックが一週回ってしまったのか。
何れにせよ、善自身も大分落ち着いてきた。
色々と表情やポーズを鏡の前で決めてみる!!
キリリとした表情、布都の様な得意げなドヤ顔、小悪魔の様に誘うような表情、そしてついには媚びるような上目使い。
「あはは、なかなか面白いな。いつもの芳香とは違う表情が見れる……さて、次は……」
そう言ってゴクリと唾をのみ、自身の首から下を見下ろす。
そこは自分の身体に違和感が有った時見つけた部分。
男の自分にはなく、何時も憧れていた部位!!
誰しも一度は「自分が巨乳だったら揉み放題だよな~」とか考えた事が有る筈!!
しかし彼(彼女?)は紳士な仙人志望の少年!!自分の身体でもないのに触って良い訳では無い事を分かっている。
欲望に負けない!!それが仙人の第一歩である!!
「あ、あれー?なんか急に胸が痒くなってきたなー、いやー俺、紳士だし?勝手に触ったりしないけどー、痒くなったらしょうがないよねー?」
誰かに聞かせるのか、良い訳がましい事を凄まじい棒読みで言いはじめる!!
この仙人!!
欲に弱すぎる!!
しかし!!大きなチャンスが来たときに限って、物事はうまくいかない!!
「あ、あれぇ!?胸に……胸に手が届かない……!!クソ!!あと、後少しなのに!!畜生!!芳香め!!柔軟体操サボってたな!?」
関節の関係でどうしても胸まで手が届かない!!
無念!!実に無念である!!……胸だけに。
そのあとしばらく自分(芳香)の胸に手を当てようと努力するが、結局うまくいかなかった!!
「あー!!クソ!!もっと柔軟体操手伝っとけば……」
そこまで言ってハタと気が付く。
よくよく考えてみれば自分の魂は此処にあり、芳香の身体は此処にある。
ならば、自分の身体は何処に有るのだろう?
普通に考えるなら、自分の身体には芳香が今入ってるハズだ。
それは問題ない、それだけならば……!!
しかし!!
同時に自分の師匠がどうにも気がかり!!
「あれ……コレかなりヤバイんじゃ、ない?」
芳香は基本的に、師匠のいう事なら大体聴いてしまう。
それはつまり、今自分の身体が間接的にだが師匠の言いなりになってる事を意味している!!
そこまで、思い至り善の顔が真っ青になる!!
あの人は絶対録でもない事をしようとするに違いない!!
善の脳裏に様々な妄想が繰り広げられる!!
こうしてはいられない!!そう思うと同時に人里へと、向かった!!
何処に居るかは完全に解らないが、こうなったらシラミつぶししかない!!
命蓮寺を通り過ぎ、ひたすら足を人里へと向かわせる!!
人里に付く頃には、すでに夜に成りかかっていた。
不便な足で本屋、八百屋など思いつく場所を探し回る!!
キョンシーの身体のせいか、里に人々が微妙に怖がっている様だがそんな事気にしている暇はない!!
「ぜ~ん!!どこだぁ!!」
自分の名前を呼びながら自身の身体を探し回る!!
しかし
幾ら探しても、遂に善を発見する事は無かった。
「よし、人里には居ないな……最悪、全裸の俺が踊り狂ってるとか考えたが、そんな事は無かったぜ!!」
最悪のパターンを回避したことを安心しつつも、次の師匠の生きそうな場所を考える。
「一回行っただけだけど……神霊廟に行ってみようかな?」
師匠の仲間の布都や、太子が居る場所である。
以前、師匠たちと一緒に行ったのだが、結局布都以外とは出会えなかった。
そう言って自身の記憶をたどりながら、神霊廟へとピョンピョン跳んでいく。
最早キョンシーの身体にもずいぶん慣れた物で、最初に比べるとだいぶスピードも上がっている!!
人里を抜け出し、夜の闇の中を自分の記憶をもとに神霊廟へと向かっていく。
「ぜぇ、ぜぇ……キョンシーでも疲れるんだな……」
愚痴を零しつつも、暗闇をひたすら歩いて行く。
しかし善は忘れていた!!
夜は妖怪の時間。
そんな中を歩いていたら……
「ガァグググ~」
「うお!?」
突如善の間の前に生物が現れる!!
四足の巨大な体躯に狼の様な顔と牙、そして体の至る所に有る黄色い目。
非常にグロテスクな妖怪が、善の前に立ちふさがった!!
「ま、不味いぞ……」
善は僅かだが妖怪と戦った事が有る。
正直言って全く歯が立たなかった記憶が有る。
オマケに今は芳香の身体、逃げるにもうまくいかない事が容易に予想できる!!
「がぎゃあああが!!」
妖怪が善に跳びかかる!!
「ま、負けるか!!」
必死に身体を捻らせ、タイミングを見て妖怪に手刀を叩き込む!!
「ぎゃん!?」
思いのほか威力有り、妖怪が悲鳴を上げる。
コレはキョンシーの身体を使っている、という点が作用しているのだが……
「おお!?俺意外と強いのか?修行の成果だな!!」
それにこの弟子は気が付かない!!
そして『勝てる!!』と思った善の行動は早かった!!
「おっしゃー!!ぶったおしてやる!!」
調子に乗って、さらに手刀!!手刀!!手刀!!
「ぎゃん!!キャンキャン!!!」
連続の攻撃に怯んだ妖怪が逃げていく!!
それを見て善は得意気になる!!
「ふっふっふっふ……仙人見習いの実力はどうだ!!」
まるで布都の様にドヤ顔を決める!!
半分以上体のスペックなのだが……
しかし!!
善はこの時気が付かないが新たな問題が発生していた!!
それは……
「ふっふ……あれ?ここ何処だっけ?」
そう!!妖怪を追い払うのに夢中で、すっかり神霊廟への道を見失ってしまったのだ!!
「あ、あれ?ここまじで何処だよぉ!?」
暗闇の中しばらく真っ暗な中を彷徨う事となった……
彷徨い、さ迷い、さ迷い中!!
そして遂に!!
「あ、明るくなってきた……」
東の空に昇るのは真っ赤な太陽!!
結局、かなりの時間を彷徨っていた様だ!!
意図せず徹夜してしまった様だ……
だが、悪い事ばかりではない。
明るくなった事で助かった事も多い。
周りが見えるようになった為、自分の大体の場所が分かったのだ。
どうやら、神霊廟ではなく命蓮寺の近くに行ってしまった様だ。
「はぁ~結局、自分の身体は見つからなかった上に、無断外泊か……怒られるんだろうな~。けど師匠たぶんもう戻ってるだろうし、帰るかな……」
そう言って、トボトボと帰ろうと
命蓮寺の前を通ろうとして……
「あ、あれは……」
善は衝撃的な物を発見した!!
それは、響子と一緒に寺を掃除する……
自 分 自 身 !!
「……へぇ~善さんは自分の息で冬を感じるんですね、私は雪が降ったらって考えてます!!」
自分が響子と二人、息が白く染まるのを見つつ掃除をしていた。
その様子に善が愕然とする。
(なんで……アレは間違いなく俺だ!?何で?どうして俺があそこに居るんだ……?俺が2人?なんで……なんであそこに俺が居る!?)
混乱する善を余所に、向こうの『善』が善(芳香)を見つけた。
「あ、芳香じゃないか!どうした?また会いに来てくれたのか?」
うれしそうに此方にかけてくる自分。
そのしぐさ、話し方、声のイントネーションまでまさしく……
「詩堂……善?」
自身の名前を無意識に呼んでしまった。
この瞬間、善は自身の何かが壊れるのを感じた。
目の前の人間は間違いなく 『詩堂 善』。
そう、自分が誰よりも知っているハズの人間、自分自身が認めてしまったのだ。
『目の前のコイツが、コイツこそが詩堂 善である』と、ならばここで新たな疑問が浮かんでくる。
『俺は誰だ?』と、自身には確かに今までの『善』としての記憶が有る、生まれた日も家族構成も、自分の趣味もすべて言える。
しかし目の前に『善』が居る、そして『善』はこの世に2人も居ない!!
(俺は……誰だ?)
そんな事を思う善を余所に目の前の『善』は尚も楽しそうに話しかえる。
「なんでフルネームなんだよ?まあいいや、せっかくだし修行終わったらどこか行かないか?」
屈託のない自身の笑顔、その何処までも
「あ、ああすまない。やることが有るんだ、じゃ、じゃあな……」
これ以上ここには居たくない!!
そんな感情が渦巻き、最低限の言葉だけを残してその場から走り去った!!
(なんでなんだ!?なんで俺があそこに居た!!俺は師匠が……師匠がいたずらかなんかで芳香と体を交換されたんじゃないのか!?)
気が付くと頬が涙でぬれている……
今まで築いた『自分』と言う物が崩れていくのを感じた……
そして歪んだ心は
「『アレ』を殺そう……『アレ』が居る限り俺は『善』に成れない……アイツを消せば……一人残った俺は『善』に成れる!!」
自分以上の『自分』を殺すという決意!!
それはどう考えても破綻し尽くした理論であり、たとえ相手を殺したとしても自身の望む結果は決して手に入らない考え!!
しかし今の『ゼン』にそんな事を考える余裕は無かった。
燃えるような焦燥感だけがその身体を支配していた。
そう考えると体の動きは早かった。
暗殺の為にタイミングを見計らい、命蓮寺に忍び込んだ。
離れの近くに有る、茂みから『善』の様子を伺おうとする。
狙い目は、『善』が一人で中庭に出てきた時。
コチラは芳香の身体だ、多少の痛みも傷も関係ない、無理やり組み伏せて殺してしまえばいい。
幸いこの身体の性能は、昨日の夜すでに妖怪で実験済みだ。
心の中で殺意を尖らせつつ、ジッと気配を殺してその時を待ち続ける。
半日ずっと待ち遂に、絶好のチャンスが訪れる!!
何も考えていない様な『善』がふらふらと離れの前にやってきた!!
周りを見回すが誰も居ない!!相手は完全に油断しこちらを背にしている。
暗殺にはもってこいの状況!!
心の中で『ゼン』はほくそ笑む。
(貰ったぞ!!これで、これで『善』は俺の物だ!!)
草影から飛びだし、相手の首を狙おうとするが……
殺意とは裏腹に体が急停止する!!
どうしても身体がいう事を聞かない!!
どれだけ殺意を込めようとも、どれだけ自分になる事を求めようとも、体がそれを拒否したように固まってしまっている!!
(なんで!?なんで動かない!!今がチャンスなんだ!!アイツの持ってる俺を奪いかえさなくちゃならないんだ……!!)
ひたすら身体を動かそうとしても無意味だった。
そして遂に『善』がゆっくりと離れの中に入って行ってしまった。
コレは『善』の暗殺が困難になった事を意味していた。
それを見送ったゼンはゆっくりその場で立ち上がる……
ゆっくりと歩き、命蓮寺の外に出る。
寒さを感じない身体で、命蓮寺の外の通りを歩く。
「なんで……邪魔した?……何時から気が付いてた?……」
一人でぼそりとつぶやく。
ハタから見たら意味を感じる事の出来ない行為。
しかしこの行為にはしっかりと、意味が有った。
その証拠に返事がちゃんと帰って来た。
(善を殺しちゃダメだ)
ゼンの内側に響く紛れもない芳香の声。
師匠の住居に向かって歩きながら、ぼそぼそと自分の中で会話をする。
「俺は、俺に成りたかったんだよ」
(本当は分かってるんだろ?)
批判じみた芳香の声。
それに対し悔しそうにゼンが言葉を紡ぐ。
「そうだな……俺は善じゃない……たぶん善の記憶を持ってるだけだ……偽物だ……善じゃない」
自分に言い聞かせるように『善じゃない』と繰り返す。
暫くして師匠の住居にたどり着く。
「お帰りなさい……」
何時になく真剣な表情で師匠が出迎える。
「善に会ってきました……師匠、私はダレなんですか……?」
その疑問に何かを察したように師匠が自身の顔を押さえる。
「ごめんなさい……アナタを傷付ける気はなかったの、アナタは善のコピーよ。
命蓮寺の記憶はどこまで有るの?」
その言葉を受け自身の記憶を探ろうとするが、ノイズの様な物が掛かりうまくおもいだせない。
いや、正確にはノイズではなく。
自分自身が思い出してはならないと、暗に理解しているのだ。
思い出しては元に戻れないと、体が拒否しているのだ!!
しかし、身体に鞭打ち記憶の底に有った物を無理やり引きずり出す!!
「……布都様が、俺の上に落ちてきた所です」
記憶にノイズがかかるが気にせず、思い出した。
「そうね、その後善は大けがを負ったわ。私が善を治療したのだけれど……頭のダメージを軽くするために、術を使ったの……脳自体を保存する術よ……」
ぽつぽつとゼンの知りえない情報を話し始める。
「私がコピーされたんですね……」
「ええ、コピーかどうかはまだ解らなかったけど……何かが違う事は分かってた、それを調べるために芳香に使ったのだけど……」
師匠がそこまで言った事により、ゼンの中の全ての謎が繋がった。
「そうですか……私はやっぱり偽物……」
さみしそうにつぶやくゼンを、師匠が珍しくフォローしようとする。
「アナタが望むなら、アナタ用の身体を――」
「結構です。詩堂 善はたった一人で十分です。私はこのまま消えます、この身体は芳香の物だ……勝手に使ってすいませんでした」
そう言って頭を下げる。
その姿には何かから解放されたような、潔さを感じた。
「消えてしまっていいの?」
尚も師匠がゼンに確認をする。
しかしゼンの心は揺るがない。
「言った筈です、詩堂 善は一人で良いって。この身体も芳香の物、私はここに居てはならない存在なんです、さっき理解しました……」
「さっき?」
「芳香が私の中で言ったんです、『善を殺すな』って。善は芳香からこんなにも思われてるんだって……その時私は思いました、芳香も善もどっちも消せないって……だからここは……ここは偽物の私が消えます……!!」
「アナタ……」
遂に師匠までもが涙を流し始める。
しかしそんな涙をゼンは優しくぬぐう。
「泣かないでください、善はまだいます。私の代わりに善を立派にしてやってください、それが、それが
「任せておきなさい……私の愛弟子ですもの……きっと歴史に名を未来永劫残すまでにして見せるわ……だから……」
「最後は笑って消してください……」
「ええ、ええ。それじゃあ、オヤスミ……」
「おやすみなさい、師匠……」
芳香の額の札に師匠の指先が触れ、火花が小さく散る。
「あれー?どうしてここにいるんだ?」
芳香が不思議そうな顔をする。
キョロキョロと辺りを見回し、師匠の姿に気が付く。
「泣いてるのかー?」
そう言って顔を覗きこんだ芳香に目には……
「アナタも泣いてるじゃない?」
「あれー?なんでだー?」
再び不思議そうな顔をする。
「なんでか知らないが善、に会いたくなったなー」
「あら、芳香も?明日で帰ってくるから、一緒に迎えに行きましょう?」
「解ったー」
涙の跡が残る二人は、それを忘れさる様に笑った。
もうすぐ、夕焼けが沈むだろう……
今回の話は少しわかりにくいので補足。
コレは善がまだ命蓮寺で修行していた時の時系列です。
具体的にはゼンと善が会話をした時が、マミゾウさんの来る寸前です。
ややこしくてスイマセン。