止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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今回で命蓮寺編は終了で~す。
最後という事で少し豪華にしようとしたら色々やり過ぎました。
最後にこれだけ、ぬえちゃんファンの皆さんごめんなさい。


未知の恐怖!!正体不明の大妖怪出現!!

とある少年と妖怪の会話……

「ここ、幻想郷には忘れ去られた物、または無くなった物がやってくるんですよね?」

 

「そうですよ、ここは()()()()()()()()()()、忘れられたモノたちの最後の楽園です」

 

 

 

そうか……それなら此処(幻想郷)にいる俺は……もう、()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

「善坊、善坊起きろ」

誰かがゆらゆらと善の身体を揺らす。

その言葉と衝撃により私、詩堂 善はゆっくり目を覚ました。

「あれ?バァちゃん?」

はっきりしない頭で何とか話す。

「まったく、少し目を離したら食われそうになっとるとは……その不運は相変わらずの様じゃな?」

半目で善を見下ろす、気が付けば善はマミゾウの離れで横になっていた。

くくくと喉を鳴らすマミゾウ。

「最近不幸が多いな……一回本気でお祓いしてもらおうかな?」

何処かいい場所は無いかと思いながら、ゆっくり体を起こす。

「それも良いかもしれんの。どれ、もうそろそろ夕餉の時間じゃ、聖の所に行こうかの今日は村紗殿が当番じゃったしカレーが食えるぞ?善坊好きじゃったろ?」

「うん、好きだった」

言われてみれば微かにカレーの匂いが風に混ざってしてくる。

カレーの香りというのはなぜか、故郷が恋しくなる気がする。

そう思うと現金な物で、空腹を感じた善はゆっくりと食堂に向かった。

 

 

 

食堂では村紗が大きなカレーなべをかき混ぜていた。

「あ、丁度良かったよ。いま出来た所だからさ、ごはん()()()からみんなに配ってくれる?」

「はい、解りました」

そう言って村紗からカレーを受け取ると、少し離れた場所にある机にどんどん配膳していった。

間もなくして次々と命蓮寺のメンバー達が集まってきた。

「はい、これで最後です」

そう言って自分の分のカレーを机に置いたのだが……

「あれ?私の分は?無いの?」

聴きなれない声が食堂の入り口から聞こえた。

何事かと振り返ったら、そこに居たのは今まで見た事の無い少女。

黒いワンピースにニーソ。髪の毛も含めて「黒」の印象が深い少女だった。

だが明らかに人間ではない。その背中には人間ではありえないモノが生えていた。

赤い鎌の様な(翼?だろうか?)モノが3本、反対側には青い槍の様な(蛇の頭にも見える)モノが3本生えそろっていた。

「あら、ぬえ。おかえりなさい、今日は久しぶりに寺の者全員で食事ができますね」

聖が微笑んでその妖怪に話しかける。

どうやらこの妖怪はぬえというらしい。

「そんなことより私の分は?この新入りのせいで器が足りないの?別に『食うな』って言うんならいらないけどさ」

ジロッと善を睨む、とてもではないが友好的な視線ではない。

「ああ、すみません。もう一人いた事を知らなかったんです、すぐ用意しますから」

そう言って善は台所に入ってカレーをさらに一人前用意して戻ってきた。

「どうぞ」

そう言って座ったぬえの前にカレーを置く。

「アンタなんなの?初めて見るんだけど?」

「あ、すいません。自己紹介がまだでしたね。私は詩堂 善、仙人見習いです、師匠の口添えでこの寺に精神修行に来させてもらってます」

「あっそ」

ぬえの質問になるべく笑顔を作って答えたが、興味なさげだった。

 

(うーん……なんか嫌われる事したかな?)

あまりに冷たいぬえの態度に、自分の行動を振り返るが特にこころ辺りが無い。

「それではみなさん戴きましょうか!!」

聖の声に反応し、皆がそれぞれ手を合わせて食事を始める。

「善坊、そこの醤油取ってくれ」

「はい、バァちゃん」

マミゾウが善に頼み醤油を取らせる。

「ふーん……マミゾウ、ずいぶんソイツと親しいのね」

カレーを突つきながらぬえが話す。

「ん?まぁな。佐渡に居た頃近所に住んでたガキが善坊じゃ、最もすぐに善坊は引っ越しちまったがの」

醤油をかけたカレーを口に一口含み、物足らなそうに首をかしげながらマミゾウが話す。

「ふーん……佐渡に居た頃の知り合いね……けど……」

「あ!忘れる所でした。みなさーん、明日が善くんの最後の修行日に成りまーす!!教える事が有れば今日明日にお願いしますね」

ぬえがなにか言いそうだったが、聖がそれに言葉をかぶせてしまった。

結局ぬえの言葉は聴けずじまいだったが、聖の言葉に善はそれどころではなくなった。

 

(そうか、もう明日で一週間か……)

師匠が善に命蓮寺に送ったのは6日前、精神修行(煩悩を消す)ために送り込まれたが成果は有ったのだろうか?

僅かに自問自答してしまう善。

しかし出たのは別の答えだった。

 

(なんにせよ、師匠と芳香以外と知り合えたのは良かったな……)

善が始めて幻想入りしたのは今年の春、暫くは人里に居て春の終わり頃に師匠に弟子入りした。そのため実を言うと、知り合いらしい知り合いは人里以外には殆ど居ないのだ。(椛、にとり、布都などの例外はいる)

この六日間の事を考えながら、明日はどう過ごすべきか考えながら夕食を済ませた。

 

 

 

 

 

翌日……

すっかり冬と言っても過言ではない空気の中、布団というただの布と綿の道具が早起きを邪魔する最強の刺客となる!!

しかし善は寝坊する事は無かった!!

何故なら……

「ほら、起きなさい!!」

「ゲブゥ!!」

腹に何かが当たる衝撃で善は目を覚ましたからだ!!

「いたた……なんですか?響子先輩……?」

響子はこんな乱暴な事をするタイプだっただろうかと思いながら、ねむい目を擦る善だが帰って来たのは響子の言葉ではなかった!!

「響子?誰とまちがえてるの?私は大妖怪ぬえ様よ!!」

善を起こしたのはぬえだった。

ついでに今現在も腹に感じている圧力は、ぬえが足で善を踏んでいるからだ。

一部の人にはご褒美だろうが生憎善に()()()()趣味は無い。

ぬえの足をどかし起き上がった。

「あー、はいはい。で?大妖怪のぬえ先輩がなんの様ですか?」

「聖に響子に代わってやらせた、朝の掃除をやれって言われたのよ。アンタ暇そうだから誘ってやっただけ」

ムッとした表情をしたものの、ぬえはそう話した。

「あー、解りました。どうせ今日も掃除はする予定なので構いませんよ……」

そう言ったぬえを退室させ着替えを始めた。

 

 

 

 

 

命蓮寺外

「善~おはようだぞ!!」

「よう、芳香おはよう」

最早お馴染みとなった芳香が朝外で待っている光景、最近は師匠が気を利かせたのかコートを着て門の前に立っている。

「今日も掃除かー?善は掃除が好きだな」

箒を持って木葉を集めだす善を見て芳香がそう漏らす。

「いや、修行だから……好きでやってる訳じゃないからな?」

そう言いつつ掃除を続ける善。

しかし肝心のぬえが来ない。

突如として気配を感じて上を見上げる。

ぬえがゆっくり上空で飛んでいた。

 

「せんぱーい!!掃除手伝ってくださいよー!!」

上空に居るぬえにその場で声をかける。

「ああ、ごめん。アンタが愛玩人形で遊んでいるみたいだから、そっとしておいたんだよ」

 

ぬえの言葉に善の動きが止まる。

「愛玩人形……?」

「ソレ、アンタの人形じゃないの?」

ぬえが降りて来て芳香の頭を小突く。

「趣味悪いね?腐りかけの人形を侍らすなんて……まともな精神じゃ無理だよね」

「取り消してくれませんか?芳香は俺の人形じゃないしそれは芳香への侮辱です……!!」

善が右手の拳を強く握る。

この時点で善の中には怒りの感情が渦巻き始めていた。

「侮辱?アンタの人形を馬鹿にすることが?あはは、それは誇りが有る奴がいう事だよ?」

気持ち悪い、と吐き捨てる。

「俺に対する事は気にしません、けど芳香を馬鹿にするのは――」

「知らないって言ってるの、お前がどれだけそのゾンビをかわいがっても私には気持ち悪いだけ。聖には黙っててあげるから部屋に連れ込んで遊んで来たら?」

善の言葉を遮り尚も芳香を馬鹿にし続ける。

そんなぬえの様子に遂に善が、キレた。

 

「うるせぇ!!そんなんじゃないって言ってるんだよ!!憶測で物を語るんじゃねェ!!」

ぬえのワンピースの(えり)をつかみ上げる!!

「何、この手?私は大妖ぬえ様よ?切り落とされたいの?」

何時の間にかもっていた三又の槍を構える!!

「善!!危ないぞ!!」

芳香がそういうと同時に、善の身体に強い衝撃が走る!!

更に命蓮寺の門前にドロリと血が垂れる。

「おい、芳香?……芳香ぁ!!」

「無事……みたい……だな……」

そう言って芳香が善にもたれ掛かりつつ笑みをこぼす。

何か濡れる様な感触を感じ、善が自身の右手を見ると血がべったりと付着していた。

「へぇ?そのゾンビ、アンタの身代わりにもなるんだ~。よく出来てるね」

先端が血で染まった槍を振り回しながらぬえが嘲笑う。

 

「芳香ぁ!!しっかりしろ!!……確か部屋に師匠の作った治療用の札が有ったハズだ……それを使えば多少は……」

芳香を背負って自身の部屋に向かう。

だが一人分を担いで走るのだ、簡単な事ではない。

しかも

「おっと!そんな汚れたゾンビ、神聖なお寺には入れられないね~」

ぬえが目の前に立ちふさがる!!

「どけぇ!!芳香の為に札がいる!!」

「口の利き方がなってないな~。理解できない馬鹿は嫌いなんだよ……ね!!」

善の胸を槍の石突で殴る!!

「ぐぅ……」

傷に響いたのか僅かに鼻先に鉄の匂いがする。

「土下座して頼んむんなら見逃してあげるけど?」

槍の先端で善の鼻先をなでながらニヤニヤと笑う。

「……仕方ない」

芳香の傷がどれほどか、解らないが良くないのは簡単に理解できる。

プライドより優先すべき物が有る!!善はその場で片膝をついた。

 

「いいね!!土下座したら『ぬえ様に逆らってすいませんでした、どうか私の薄汚い愛玩死体人形を寺に持ち込ませてください』って言うんだよ?全く、邪仙といい人形といい弟子といい。まともな奴が居ないんだから」

両膝をついて手を地面に付こうとした時、背中の芳香が僅かに言葉を発した。

「ぜ……ん…………こい……ブッ……し…………て……」

そういうと同時に背中の芳香が重くなった。

 

 

 

「ん?どうしたの?土下座しないの?」

「……そうだな……そっちが先だよな」

そう言うと善は上着を脱ぎ地面に敷いた、そしてその上に芳香をそっと寝かせた。

「あれー?もしかして……諦めた?」

ニヤニヤとぬえが善を見下ろす。

しかし周りが何か言うがもう善には関係なかった。

「……チョット、借りるぞ」

芳香の額から札を剥した。

師匠の言葉が脳裏に蘇る……

 

『あら、そうなの?なら今度は意識が有りながら私のいう事を聴くしかない状態でキョンシーになるようにしようかしら?』

意識を持たせたままキョンシー化させる札、そんなモノが有るか解らない。

しかしそれは善に大きな希望を与えた。

「可能性は零じゃない!!」

札を自分の頭に張りつける!!

師匠がいつもする様に、キョンシー化する時特有の強烈な眠気が善を襲う!!

夢も見ない暗闇が善を引きずりこむ!!

ひたすら暗い闇、闇、闇闇、闇闇闇……

しかしその空間で僅かに善は意識を持って足掻いていた。

(まだだ、まだ終わるな!!師匠を!!芳香を馬鹿にされたんだぞ!!立ち上がれ!!)

すると薄らと夢が浮かんできた、もうずいぶん昔の気がする夢……

 

 

 

そうだ、あの時は心も、体もボロボロで……

「あら、芳香相手にうまく立ち回るわね?気に入ったわ……人里で暮らせないなら、私の弟子にならない?あなたを追い出した人間たちには届かない様な力をあげるわ。どう?」

明らかに何かを企んだような表情……

だけど

俺はその問いにうなずいたんだ。

そしてその人の手を取ったんだ。

「いいわ、あなたは今日から私の弟子よ。私は霍 青娥、みんなには娘々って呼ばせてるけどあなたは()()って呼びなさい」

 

 

 

(俺は、俺はやるぞ、やるんだよ!!コイツをぶったおして!!芳香を救うんだ!!」

突然善が雄たけびと共に立ち上がった!!

「なに?頭に札?趣味が悪……いぃ!?」

言葉の途中でぬえが吹き飛んだ!!

善が拳をぬえに叩き込んだのだ!!

 

キョンシーは体のリミッターを強制的に外すことが出来る!!そして善は修行途中とはいえ、不老にして強靭な肉体を持つ仙人!!その両方がそろった結果!!善は人間にして妖怪を上回る身体能力を手に入れた!!

 

「へぇ……やるじゃない?けどいくら体が強くたって、私が見えなくちゃ意味が無いよね!!」

寺の中庭まで吹き飛ばされたぬえは、落ちている落ち葉に『正体不明の種』をばらまいた!!正体不明の種はその名の通り付けたモノの正体を隠す物質!!今の善にとっては未知のモノに見える!!

正体がわからない「未知、理解不能」と言った人間の恐怖から生まれたぬえらしい力である。

「…………」

無言のまま善はぬえに向かっていく!!

「ほぉら!!未知の恐怖を味わいな!!」

風が吹き恐ろしいモノに見えるハズの落ち葉が善を囲む!!

しかし善は冷静にぬえを()()()()()()

 

そう、見据えていたのだ。

ぬえとて馬鹿ではない、周りの落ち葉を正体不明にした時、自分にも正体不明の種を使っている!!

善がこちらを「ぬえ」として認識するハズは無い、無いハズなのだ!!

落ち葉を体にぶつけながら一直線にぬえに向かって走る!!疾走る!!

「人間が!!妖怪に立ち向かうな!!」

恐怖を司るぬえに対して向かってくるというのは彼女に対しての最大の侮辱!!ぬえは自身の持つ三又の槍を走ってくる善に投げつけた!!

 

「それがなんだぁ!!」

槍が善に振れた瞬間!!バラバラに砕ける!!そしてその破片すらも煙を上げて消えてしまった!!

「こうなったら……!!」

懐からスペルカードを取り出した時、スぺルカードが善に握り潰された!!

カードが音も無くバラバラに砕け、虚空に消えていく。

「ひぃ!!!」

この時ぬえは久しぶりに恐怖を感じた!!

善の纏う雰囲気は『お前を消す!!』そう言っていたのだ。

『天敵』ぬえの脳裏にその言葉がよぎった!大妖怪の自分には恐れる物は無い。

そう思っていたぬえが人間相手に震えているのだ!!

 

「ご!ごめんなさい!!実は嫉妬してただけなんです!!寺のみんなと私より仲良くなって……マミゾウとも仲良くて……すいませんでした!!」

必至になって謝るぬえ、そこに善がゆっくりと歩みより……倒れた。

 

呆気にとられるぬえを無視し、楽しそうな声が響いた。

「あらあら、予想以上の力ね」

善の額に貼ってあった札を手に、邪仙が笑う。

「あんたは……」

「ウチの弟子が世話になった様ね?この事は他言無用でお願いできるかしら?ああ、知らせてくれたねずみさんによろしくね?」

善の師匠は上機嫌で寺の入り口に有った芳香を拾い帰って行った。

「なんだったんだ?」

ぬえが邪仙が去っていた方を呆然と見る。

「君は爆弾を爆発させる起爆剤に使われたのさ」

ナズーリンがぬえに近寄ってくる。

「起爆剤?」

「そう、くすぶっていた火を炎まで巨大化させたのさ。君という強力な妖怪を当て馬にしてね」

そういうナズーリンの足元には善がぐーすかと気持ちよさそうに寝ていた。

 

 

 

 

 

その日の夜

「ぜーん!!いい子にしていたか?」

「あらあら、芳香ったらまるでお母さんね」

師匠と芳香が命蓮寺現れる。

「善さん。またいつでも来てくださいね?」

聖を始め命蓮寺のメンバーが手を振る。

「ありがとうございます、またいつかお邪魔させていただきます」

そう言って去っていく善たち。

 

結局善は朝寝坊したという事で処理された、あの能力は危険すぎるとナズーリンとぬえが判断したのだ。

ヒミツは僅かな者だけが知っている事となった。

 

 

 

 

「ねぇ?善?せっかくだし帰りに何か食べに行きましょう?」

「良いですね!何食べます?」

「タヌキ汁なんてどうかしら?」

「え”!?それはちょっと……」

「食べたいのよ。またタヌキになって?」

「アンタ見てたのかよ!?」

「かわいい弟子ですもの、体内に様子を逐一報告してくれる札位埋め込んで……」

「ふぁ!?チョ!?ナニしてるんですか!?」

「ふふふ、冗談よ?」

「そういう冗談は止めてください!!師匠!!」

 




能力有るよ有るよ詐欺に成りそうなので、今回正式に能力を使いました。
実際に使う描写が欲しかったので入れました。
正式に紹介すると善の力は
『抵抗する程度の能力』に成ります。
100°の熱湯を抵抗る事で99°の熱湯をかけられたのと
同じ効果まで引き下げれます。
基本はこうです。
しかし抵抗力を上げれば100°の熱湯は0°まで下げれます。

善が作中で能力を事ごとくキャンセルしたのはそういう理由です。

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