止めてください!!師匠!!   作:ホワイト・ラム

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今回は特別編ですが。

すいません!!1月1日投稿どころか、3日にすら間に合わない始末。
そして、まさかのあのキャラが再始動?


交差!!新年の日!!

皆さんどうもこんにちは。私の名前は詩堂(しどう) (ぜん)

まだまだ駆け出しですが、実は仙人やっています。

 

私の師匠は邪仙で、年齢1400歳以上の超年増で、我ままで自己中で、無茶ぶりと自分の事が大好きで、善悪や良心の呵責が一切なく非道な行いを簡単に行える所謂サイコパス気質な危険人物……

ですがそれでも毎日楽しく過ごしています。

さぁ、今日も師匠とその手下のキョンシーの芳香と一緒に修業――

 

「あらぁ?何か今、聞こえた気がしたわねぇ~?

半人前で、仙人モドキで、下半身と脳が直結して、ドジで運が無くて、そのくせお調子者の私の弟子が何か言ったのかしら?」

 

うぐっ!?師匠、いつからそこに……?

 

「最初からだぞー!」

 

いでで!?噛むな噛むな!!

 

 

 

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

鐘の音が鳴る。

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

それはずっと遠くで鳴っている様にも――

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

すぐ近くで鳴っている様にも――

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

どちらにも聞こえる不思議な鐘の音だった。

 

 

 

「……ん……て……れ!……ぜ……お……く……!」

すぐ近くで、大事な人の声が聞こえる。

 

なんだ芳香?悪いが正月くらいゆっくり寝させてくれ……

腹が減ったなら、台所に餅が有ったハズ――

 

「善!!起きろ!!」

 

ガリィ!!

 

心地よい惰眠の世界に、「痛み」がやってくる!!

それは頭上から発され、激痛というシグナルになって善を眠りの世界から叩きだす!!

 

「いっでぇえええええ!!!

何すんだ!?おい!!かじるなっていつも言ってるだ――ろ?」

あまりの痛みに飛び起きる善。

案の定、目の前には芳香が立っているが問題はそこ以外。

 

「ここ……どこだ?」

善が小さくつぶやく。

思い出そうとして、ずきっと頭が痛くなる。

記憶の中に靄が掛かった様な、はっきりしない感覚だった。

 

「あれ、確か俺……大晦日に師匠と芳香と夕飯食べてて……」

 

「牛鍋だったー」

 

「その後、誰か来たような……誰だ?」

善の記憶はそれ以降が酷く曖昧だ。

確かに、3人で夕飯をかこった事は覚えている。その後、『誰か』がやって来て――

 

「ダメだ……これ以上は出てこない……」

思い出す事をあきらめ、現在の状況を整理する事にする。

そこは、いつも善と芳香が眠っている部屋では無かった。

地面は白い石畳に隙間に草が生え、陶器製と思われる噴水から水が流れ出し、日陰を作る様に木々や草花が植えられていた。

 

「気が付いたらここに居たぞ?」

善の独り言に応える様に芳香も口を開く。

 

「あ、ああ……」

なんと言って良いのか分からず、周囲をきょろきょろと見回す善。

石作りと自然を調和させたような庭。

少し離れた部分に大きな木が一本立っていた。

立派で大きく、そして悠然と大地に根を下ろし遥か昔から存在したかのような巨大な樹木だった。

 

「すーっ……なんだろ、此処……」

 

「なんか気分が良いぞ!!」

背伸びをする芳香の言葉に善が心の中で同意した。

なんと言うか、この庭は豊かな気で溢れているのを全身で感じる。

秋姉妹の力がしみ込んだ畑や神子の作った仙界を思わせる空気だった。

モドキが付くが善とて仙人の端くれ、地脈から気を吸いとる者でありどのような力なのかが大よそ分かる。

 

「うーん……自然の力が豊富なのか……」

石作りの床や噴水などを見ると、人工物を使いながらも気を妨げない様に留意してこの庭が作られているのが分かる。

 

「誰が作ったんだろーな?」

明らかの幻想入りには無いであろう場所に、芳香がソワソワする。

 

「あ、こら、勝手に歩くなよ!」

興味が抑えられないのか、芳香が石で作られた壁をよじ登る。

最近の芳香はますます体が上手く動く様になり、木を登ったりなどが出来る様になって来たのだ。

 

「んあ!?何だこれ!!」

壁の向こう側を見た芳香が驚く。

その声を聞いて善も同じく壁に登ると――

 

「空……なのか?」

壁の向こうは一面の空。

視線をずらすと庭の底から鉄の足場のような物が作られ、先端にプロペラがゆっくりと回っている。

その下は海なのか、一面の青。

空と海の青が混ざってずっと向こう側まで見えている。

 

「なんだよ……これ……」

もう何度目に成るか分からないそのつぶやき。

だが、あまりの光景に善の背中にゾッとする物が走っていった。

昔TVのアニメであった、天空を浮かぶ城の話が脳裏に浮かび、悪い冗談だと善が自嘲気味に否定した。

 

「善ー?」

 

「大丈夫だ、俺が付いてるからな?

お前だけは、何が起きても俺が守るからな?」

 

「お、おお……うれしいぞ?」

突如自身の恋人から発せられた言葉に、芳香が顔を赤くする。

何を考えているか分からないが、まぁ本人がかっこいい事を言っているのだ、何か言うのは野暮だろう。

 

「見た所、噴水の水は飲めない事は無いな……

幸い木とか草は大量に生えてるし、雨風はしのげるな。

サバイバルで必要な、寝床と水は確保できたっとして……

肝心の食糧はどうする……仙人としては生命活動を弱めて消費を少なくするとして……

芳香に何か食べさせてあげないと……何か果物とか――」

ぶつぶつと、善が何とかして生き残る術を考え始める。

なんというべきか、師匠の無茶ぶりに続く無茶ぶりを受け続けた善はこういった時、何時までも混乱せずに、心を立て直す術を知っている。

仙人にはきっと、機転の変化も大切なんだと勝手に思う事にする。

 

(おー、善が何時になく真剣だ……)

ぶつぶつと何かをつぶやく善。

その真剣なまなざしは、修業中とすてふぁにぃを前にした時しか善が見せた事のない物だった。

 

「私も何か、するべきか……?」

 

「あれ、芳香ねぇ様どうして此処に?」

善を見ていた芳香が、横から声を掛けられる。

その主は――

 

「……お、おー!仟華ちゃんじゃないかー!!」

白いワンピースに長い、水色の髪。

何処か自身の作り主を思わせる風貌をした幼い少女、仟華だった。

 

「……今、一瞬詰まりましたよね?名前思い出すのに、時間要りましたよね?」

微妙に固まった笑顔を顔に張り付け、仟華が苦笑いを浮かべる。

 

「な、なんのことだー?」

芳香が誤魔化す様にそっぽを向く。

 

「……まぁ良いです……なにかの拍子にこっちに迷いこんできてしまったのですね。

あちらの方は?お友達ですか?」

 

「そうだー、善も一緒だぞ?」

芳香の指摘に、今までずっと唸っていた善が顔を上げる。

 

「善……?」

 

「ん?あれ、一人増えてる!!」

二人の会話に気が付いた善が、悩んでいた顔を上げる。

 

「あ!ちちう――ち、乳に飢えた男ですわ!!」

 

「うぐ……前もそんな事言われた気が……」

仟華の言葉に善が微妙に落ち込む。

なんと言うかほぼ初対面の相手に、いきなり自分の性癖を突かれてはこうも成るだろう。

 

「うあ……なぜ、此処に?

うーん?まぁ、一旦落ち着いて……ええ、悩んでも変わりませんから……

っていうか、コレ実は私のせいだったり……しませんかね?いや、そんなまさか……」

善に続き、仟華までもがぶつぶつと悩み始める。

 

(なんか、似てるなー)

芳香がそんな事を想いながら同じポーズで悩んでいる二人を眺める。

雰囲気と言うか、お互いが持つ空気が似ている気がする。

 

「兎に角二人とも、家で休みましょう。

そうしましょう、ね?」

 

「お家があるのかー?」

 

「え、ここの子なの?」

 

「はい、そうですよ。お茶とお菓子で一旦落ち着きましょうか」

芳香と善、二人の声を背に仟華が慣れた様子で庭を歩き出す。

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

「お、この音は――」

聞き覚えのある音に善が反応する。

 

「3時の鐘ですね。お茶には丁度いいですね」

聞こえてきた鐘の音を聞き、その音の方へと進んでいく。

そこには鐘を頂きに据えた洋館が有った。

紅魔館と比べると二回り以上小さいが、こじんまりした白い屋敷は善にとってなかなか居心地の良さそうな場所だった。

 

「なんか、こういう家って良いな。

将来はこんな家に住みたいな……」

 

「おー、いいなー」

善の言葉に芳香も同意して仟華の後をついていく。

 

「仟華様、おかえりなさいませ」

その時、屋敷のドアが開き軍服の意匠が有るメイド服を着た女性が現れる。

金髪の長い髪に、背中に背負うライフルが非常に不似合いだった。

しかし、なぜかその姿にデジャヴを善が覚え――

 

「ジパング、大切なお客様です。

お茶の準備をお願いできますか?」

 

「これはお懐かしい顔ですね。

はい、丁度アップルパイが焼きあがったので、アイスクリームと一緒に――あ!?」

仟華の言葉に、ジパングと呼ばれたメイドの女性が屋敷に振り返った瞬間、自身のスカートを踏んで躓き――

 

ガシャン!

 

派手な音を立てて前のめりに倒れる。

 

(うわ、いたそう……)

受け身すら取れず、顔面を思いっきり地面にたたきつけたその姿に善が同情をする。

その時、足元に何か白い球体が転がって来た。

 

「あの……大丈夫ですか?」

仟華はもう慣れたのか、無反応で芳香はアップルパイの事で頭がいっぱいの様だったのか同じく反応しない。

 

「ええ……大丈夫です……お客様の前でお恥ずかしい姿を……」

鼻を抑えて立ち上がる、ジパングには右目が無かった。

ぽっかりと穴が開いていて――

 

「あ、そっちに行ってしまいましたね」

残った左目の視線をたどると、善の足元の白い球体にたどりつく。

 

まさか――

 

と思うより先に、白い球体と()()()()

 

「うわぁあああああ!??!!??

目、目ぇぇえええええ!!!」

いきなりのスプラッタに善が悲鳴を上げる。

 

「ああ、落ち着きください私は――」

ガシャン!!

今度はうろたえるジパングの右腕が落ちる!!

 

「いやぁあああああ!!!」

 

「私は人形でございます。これ位大した事ないのですよ?」

悲鳴を上げる善をなだめる様にジパングが説明する。

 

「に、人形?」

 

「はい、私は意思を持つ人形を目的として作られ、そして実際に意思を持った人形第一号なのです。

決して人間の様な、存在ではないのですよ?」

そう言って右手が落ち、右目ががらんどうに成ったジパングが笑う。

 

「なので――こういった事も可能ですよ?」

 

すぽっ!

 

今度は残った左腕を使い自身の髪をつかみ、首を胴体から外して見せた。

 

「ね?」

そう言って右手の無くなった首なしの体が、外れた自身の首を突き出して見せる。

 

「あ、そうなんだ……へぇ」

正直人形と分かってもリアルでなかなかに怖いので、善が密かに震えて視線を外す。

 

「あの時は、説明出来ていませんでしたからね」

 

「あの時?」

ジパングの言葉に善が一瞬言い淀むが――

 

「あ!ああ!!あの時の!!仙人さんが連れてた!!」

 

「はい、そうです。忘れていたんですか?」

善の言葉に、ジパングが腕と体のパーツをくっつけながら微笑んだ。

 

かつて、善が外の世界に帰った時、再び幻想郷へ戻る時紫が善の前に立ちふさがった。

そしてその時善と師匠を救ったのが偶然通りすがったという、仙人。

その仙人が連れていた二人の従者の一人だったハズだ。

 

「そうだ、そうだ!仙人さんの連れてた……そう言えば人形だった!

んで、もう1人は確か――」

その瞬間、ジパングの目から光がスッと消えた。

 

「お客様。あのような粗忽(そこつ)者覚えて頂かなくて結構ですよ。

ええ、そうです。あれは野良犬ならぬ野良キョンシーの様な物。

ただ私よりも少し先に、主に取り入ってそのままズルズルと一緒に居るだけの、知性ある者ではなく、タダの芸を覚えた畜生でござますから。

ええそうです、ただ主との付き合いが私より少し長いだけの、無能ですとも」

張り付いた笑みのまま、さんざんにもう一方の仲間を馬鹿にする。

嫌、馬鹿にするというよりも多分に私怨が含まれた物言いだった。

 

(仲悪いのか……)

なんとなく二人の関係を察した善が黙る。

 

「(ジパングはおっちょこちょいで、思い込みが激しく暴走しがちなんです。

その癖、無駄に忠誠心が高いので、いい加減なくせに実力だけは有る彼女に嫉妬しているんです)」

こそこそと、善に仟華が耳打ちして教えてくれる。

なるほど、さっきからの手厚い接待はそうする事で何とか相手より自身がすぐれている事をアピールしようとしているのだと善が気が付く。

 

「(まぁ、本人が頑張ろうと思う気持ちは大切なんじゃ――)」

 

パァン!!

 

銃声と共に、善の頬をかすめて銃弾が後ろに消えていく。

 

「あ、すいません……服がトリガーに引っかかった様ですね」

おずおずとジパングが、誤射してしまったライフルを背負いなおす。

 

「あの、おっちょこちょいで何人か殺してません?」

 

「大丈夫です、私も私の母上もキョンシーを作るのは得意なんです」

 

「いや、良くないでしょ!?」

仟華の言葉に善が怒声を上げた。

 

 

 

 

「むぐむぐ……お替り!!」

 

「はい、ただいま!」

庭園の中に用意されたテーブルの上に乗ったお菓子を芳香が頬張りながら幸せそうに頬を緩ませる。

ジパングに見せた皿は、11皿目のアップルパイだった。

 

「……よく食べますね……私の分もいります?」

 

「ほら、俺のも食えよ」

仟華と善がほぼ同時に、自身のアップルパイを差し出す。

 

「良いのか?」

芳香はそれを喜んで受け取る。

 

「しかし、あの仙人さんに娘さんが居たとはなー

っていうか、コレ全部が仙界?」

紅茶に砂糖を溶かして、善が仟華に尋ねる。

 

「あはは、えーと、何処かの木が切り倒される事になった時に、父上がその木を永らえさせる為に作ったって言うのが始まりらしいですね。

水を張って、太陽の光を用意して後は気の世話をするのと、ちょっとした隠れ処的な場所として作ったらしいです、因みに広い空と海はある程度行くとループしていて実際はそこまで広くないらしいです。

詳しくは知りませんけど……」

仟華が視線で、屋敷の丁度真正面、この庭園の中心にある木を指し示す。

あの木が件の木だろう。

 

「ひゃー、あの木の為に作った仙界かー、規模がでかいなー。

ってあれ?『隠れ処』って事は仟華ちゃんの家は此処じゃないの?」

スケールが大きすぎて善自身が付いていけない。

思わず関係ない所に突っ込んでしまう。

 

「今はちょっと……」

気まずそうに、仟華が視線を逸らす。

所在無さげにティーカップを触る。

 

「両親の話?つらいことが有るならどんな形でも吐き出すべきだよ」

不意に思い出す自身の両親。

完全と善良を兼ね備えた者になるべく名をくれた二人、結局和解する事すら出来ず、けんか別れに成ってしまった自身の両親が善の脳裏に浮かんだ。

 

「けど……」

 

「俺で良かったら、話し聞くからさ?」

仟華の両親がどんな人なのか知らない、父親はあの仙人だとして、その配偶者など想像も出来ない。

一体どんな悩みが――

 

「両親の仲が良すぎるんです……」

 

「あれぇ!?俗っぽいぞ!!」

仙人同士の両親からくるあまりに俗物的な、悩み!!

しかし仟華は真剣なまなざしでなおも続ける!!

 

「深刻な悩みなんですよ!?ええ、そうです。

あのフリーダムすぎる母上と、母上至上主義の父上の二人を見ているだけでかなりきついんですよ!?

この前なんて、『付き合って7212ヶ月記念』とかやってますし、絶対に月に3回はデートに行ってますし、二人の時はお互いに『アナタ』『マイハニー』呼びだし――

『クリスマスには何が欲しいんだい?弟かな?妹かな?』

『もう、アナタったら仕方ない人なんだから!けど、何時までも末っ子は嫌よね?』

とか、馬鹿なんですか!?頭湧いてるんですか!?

あー、もう年頃の娘(6才)にする話じゃないでしょうに!!」

仟華が大声をあげて、自身の頭を掻きむしり、地団太を踏む!!

 

「どうどう、落ち着いて……ほら、両親が仲いい事は悪い事じゃないから、ね?」

 

「うぐ、この前見たことない人が、両親を訪ねてきました……ひ孫を見せに来たそうです……長生きしてると、ひ孫までいるんですって……

なのに、もう1人とか……」

 

「おおう……」

何とも言えない空気に善が黙る。

正直いって、あの仙人はカッコよく感じていた為、密かなあこがれを抱いていたのだが……

 

「けど、そんな風に長い間一緒に居れたら良いな」

さっきまでもくもくとお菓子を食べていた芳香が反応する。

 

「度が過ぎてる気がするけど……」

 

「けど、私は善とずっとそんな風にしていられたら、幸せだなー」

甘えるような声で芳香が微笑む。

それに善も同じく微笑み返した。

 

「え――なん、で?」

その様子に、仟華が大きく動揺する。

まるで()()()()()()でも見たかのように――

 

「ああ、びっくりしたかな?芳香はキョンシーだけど、俺の大切な人なんだよ」

 

「善は私を選んでくれたんだぞー?」

そう言って、芳香が幸せそうに善に抱き着く。

何のこともない、普通の抱擁だが――

 

「なんで、だって……それじゃ、私は……?

私はどうなるの!?」

急に立ち上がり、訳の分からない事を言い始めた。

 

「え、仟華ちゃ――むぐぅ!?」

心配して立ち上がる善だが、後ろから伸びてきた手に目と口を封じられる。

凄まじい力で外すことは出来ない。

善はの残った聴覚に感覚を研ぎ澄ませる。

 

「あらあら、困ったわね。この木は記憶を読み取る木……

きっと他の記憶がこっちとつながったのね……

こんなことが有るなんて、やっぱり幾つになっても飽きないわね」

心の隙間に入り込んでくるような、ドキリとしてしまうほどの甘い声。

善はこの声に聞き覚えがあった、嫌、あったのではない。

毎日聞いている。そうだ、この声は忘れるはずもない――

 

「さぁ、善、もう帰る時間よ」

 

「止めてください!!し――」

此処で善の意識は途絶えた。

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

鐘の音が鳴る。

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

それはずっと遠くで鳴っている様にも――

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

すぐ近くで鳴っている様にも――

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

どちらにも聞こえる不思議な鐘の音だった。

 

「あれ、此処は……」

夜の縁側で善が目を覚ます。

 

「ああ、やっと目が覚めたんですね?心配したんですよ?」

目の前に聖が立っている。

庭では芳香が年越しそばを啜ているのが見えた。

 

「あれ?私は……?」

 

「おう、起きたか?さんざんじゃったな?」

笑いながらマミゾウが話しかける。

その瞬間、善の記憶がパズルのピースの様に一気に組みあがっていく。

 

「そうだ、確か夕飯を食べた後、ばぁちゃんが来て……」

 

「除夜の鐘を叩くのをお願いしたんですよ?」

聖が善の言葉を継ぐ、そうだ、あの時――

 

 

 

寺で聖に迎えられ、鐘を叩くのを頼まれたのだ。

「あら、よく来てくれましたね?

お二人はいつも仲が良いですね、生死をこえた友愛、素晴らしいです」

一つのマフラーを2人で使う様子をみて、聖が笑う。

 

「あの、実は……」

 

「今、恋人同士なんだー」

 

「まぁまぁ!素晴らしいですね、前途ある若者同士が……」

涙ぐむ聖が、素手で鐘を思い切り叩く!!

 

ごぉおおおおん!!

 

強化された衝撃で、鐘はベルの様に吊るされた部分を支点に大きく持ち上がり――

振り子の要領で善と芳香にフルスイングされた!!

 

「鐘で殴られたのか……」

 

「ご、ごめんなさいね?その、ついうれしくなって……

芳香さんと一緒にお蕎麦食べて行って下さい、せめてそれ位は――」

必死に謝る聖の後ろ、芳香が善に近づき――

 

「なぁ、善。私はなんだが洋風のお菓子が食べたい気分なんだ」

 

「何が食べたいか当ててやろうか?アップルパイだろ?」

善の言葉に芳香が肯定を含めて抱き着く。

善も芳香もあの庭園での事は覚えていない。

きっとあれは夢だったのだろう。

 

どこか遠い、遠い世界ではあの夢は現実なのかもしれない。

ただ、今確かに善はここで芳香を伴って、師匠の待つ家へと還っていく。

 

「新年おめでとう、二人とも」

 

「師匠、おめでとうございます」

 

「おめでとー」

墓の中で、3人が小さく微笑み合う。

たった今から新し一年が始まった。

そして、これからその一年を重ねていつかは――

 

「ねぇ、善。孫の顔が早く見たいわ。

姫始めはしないの?」

 

「止めてください!!師匠!!」

 

「善ー?ひめはじめってなんだ?」

 

「それはね~?」

 

「だから止めてください!!師匠!!」

新年最初の善の悲鳴が響いた。




今だから言える小ネタ集~謎の仙人編~

謎の仙人の作者の脳内設定。

彼には6人の部下が居る。
①錦雨 玉図 キョンシーのうさぎ、様々な動物の能力を使える一番の古株。
②ジパング・シャン・グリラ 自立人形、ドジでおっちょこちょいなメイド、誤射はお愛嬌、腕を投げて、ロケットパンチが出来る。戻っては来ない。
③魔術士※ネーム未定 とある本が人化した付喪神、服や髪型を自由に変える能力を持ち、後天的に魔術を覚えた変わり種。謎の仙人の妻からは微妙な目で見られている。ちなみにメイン資金源でもある。
④ゴッコ・ロッコ グレムリン、機械整備担当、好物は飴、河童はライバル。
⑤詳細不明
⑥詳細不明

仙人は自身をゼノンと名乗る。

因みに、本編で師匠が「ゼノン……?ふぅん、Zen-on(ゼノン)ねぇ?」
と正体に気が付くシーンを入れようとしたが、ゼノンは洋風で似合わあいとして削除。
代わりに、切断された指の傷跡の描写が入りました。

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