ポケモンマスターに必要な物は、愛、優しさ、頭脳、タフさ、筋肉である。

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ポケモンのことはうろ覚えですが間違ってはいないと思います


マサラタウンにさよならバイバイ

「ここに三つの定期券があるじゃろ?」

 

「目的地は三つ。好きなのをお前にやろう」

 

「そこが貴様の死に場所だ」

 

 そう言ってオーキドはレッドに向けて拳を構えた。

 オーキドはすでに70歳近い老齢である。

 退化した筋肉は躍動すること無く、その時点で拳士としては死者に近い。

 されど数十年功夫を重ねてきたことにより、その掌と掌が作り上げる"圏"は超一流のそれ。

 彼の構えには己に迫る寿命という死神すらも喰らい、他者に死を押し付ける妖怪が如き人間離れした面妖さがあった。

 

 流麗な動きで成される内家三拳は『何が彼をポケモン学会にて第一人者の位置まで押し上げたのか』を如実に語るものだ。

 対しレッドは、眼前の定期券(最初に選ぶ旅の相棒)三つを拳で叩き潰す。

 それがレッドの無言の返答であり、戦いの始まりを告げる鐘となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音と共に爆発四散した大城戸研究所を見て、グリーンは一人呟く。

 

「やったのか、レッド」

 

 グリーンはコインを親指で弾き、右手でキャッチしようとする。

 格好付けているだけだ。特に意味は無い。

 だがキャッチのために動かした右手は空振って、コインはあえなく地面に落下し、コロコロと転がって行った。

 グリーンは周囲を見渡し、周りに誰も居ないことを確認してから素早くコインを拾って、ニヒルに笑った。主人公のライバルに相応しい皮肉げな笑みである。

 

 そこに瓦礫と化した研究所の中から、むせるような炎の臭いに包まれたレッドが現れる。

 ゆっくりと歩いてくるレッドの姿に、グリーンは一瞬死を覚悟した。

 

「グリーン、ごめん待たせた」

 

「レッド。じいさんはどうなった?」

 

「あそこだ。結構加減してくれた」

 

 レッドが指差した先では、空を蹴ることでホバリングを為しているオーキドの姿があった。

 『ドードリオ式そらをとぶ』という、物理法則に則った極めて科学者らしき技だ。

 「ついていけねえ」とグリーンが人知れず呟く。

 

「行くがよい、レッド。お前はもう一人前じゃ」

 

 ポケモントレーナーとは、ポケモンを鍛える者である。

 己が肉体をトレーニングで鍛えられない者が、ポケモンを鍛えようとするなどおこがましい。

 ゆえに、ポケモントレーナーはどのポケモンよりも強い存在でなければならない。

 その肉体は誰よりも強いポケモンで在らねばならない。

 だからオーキドはレッドの実力を試した。

 単純明快かつ正しい理屈だ。

 

「じいさんもレッドも、研究所を一撃でぶっ壊しておいて手加減か……」

 

「オレと博士が本気で戦ったら、マサラタウンがまっさらになっちゃうよ」

 

「おう真顔でダジャレ言うのやめろ。文字通りの赤っ恥にしかならんがな」

 

 ユーモアのセンスもないくせにユーモアを見せてへへっと笑うレッドを見て、グリーンは死を覚悟しながらレッドの腕を引き、町の出口へと向かう。

 

「とにかく、旅だ! 旅に出るぞ!」

 

 この世界において、子供達は10歳になればポケモントレーナーとして旅立っていくことが多い。

 誰もが夢抱き、希望を抱えて故郷にさよならバイバイ。

 そして『ポケモンマスター』を目指し、歩き出していくのだ。

 夢いっぱい胸いっぱいの微笑ましい旅立ちだ。グリーンもレッドも、そこに他意はあるまい。

 

「ちょっとした拍子にマサラタウンが消えていた、とかいう事態を起こさないためにな!」

 

 夢いっぱい胸いっぱいの微笑ましい旅立ちだ。グリーンもレッドも、そこに他意はあるまい。

 

「付いて来てくれて嬉しいよ、グリーン」

 

「ああ、まあね。他の町がどうなってもいい、って考えれるほど僕も畜生じゃないし……」

 

 他意はない。かもしれない。

 

「最初はどこに行くんだ、グリーン」

 

「まずは王道を征く……(ニビ)のジムかな。常磐(トキワ)の町を抜けて行こう」

 

 マサラからポケモンが出現する道路に出る、ちょうどその境界線。

 そこでレッドとグリーンを待ち受けていた、一人の少女が居た。

 

「やはり鈍の町か……いつ出発する? 私も同行する」

 

「ブルー」

 

 レッドは平然と受け入れたが、グリーンは突っ込まずには居られない。

 

「ブルー、ブルーじゃないか!

 親のカードでソシャゲに課金し過ぎて明日にも縛り首になりそうなブルーじゃないか!

 レッドの旅立ちに便乗してほとぼりが冷めるまで高飛びするつもりか!」

 

「ご丁寧に説明ありがと。ガチャが悪いのよガチャがー」

 

 なんだかんだ付いて来ることになったグリーンとブルー。

 ここに赤緑青の三バージョンが揃った子供達の旅が始まる。

 旅の始まりは弱小ポケモンを寄せ付けないレッドのむしよけマッスルプレー、つまり汗スメルと共にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常磐の森を常磐の荒野に変えつつ道を進んで小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に鈍の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"岩の(タケシ)"。

 愛用するポケモンのタイプと同じく、細身の体に十二分な量の筋肉を携え、色黒な肌をその上に重ねたいかにも肉体に自信ありといった風体である。

 

「試合形式は一対一。俺はイワークを使う。お前は?」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「……お、おう」

 

 タケシはイワークを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 岩石のような肉体を持つイワークに相対したレッドも、己の上着を脱ぎ捨てて岩石のような肉体を屹立させる。

 似た姿の二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、イワークはその巨大な尻尾を振りかざす。

 

「行け、イワーク!」

「グオオオオオッ!」

 

 だがその尾の一撃は、仁王立ちするレッドの大胸筋により受け止められた。

 

「なんだとっ!?」

 

 イワークの渾身の一撃は、レッドをよろめかせることも叶わない。否、敵わない。

 

「む、あれは『硬気功』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

 理論を知るグリーンが叫べば、オツムの弱いブルーが反応した。

 

「ああ、野球で素振りをすればマメができるように、鍛えた体は硬くなる。

 特に皮膚表面は鋼のように硬くなるんだ!

 鋼は岩よりも硬い!

 鍛え上げられたレッドの表皮は岩より硬い!

 レッドに岩タイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そしてポケモントレーナーとして地味に経験値を稼ぎ、レベルを上げ続け、毎日三時のおやつに不思議な飴を舐め続けたレッドの強さは防御面のみに発揮されるものではない。

 今度は尻尾ではなく頭突きで攻めてきたイワークの頭を、レッドは片手で受け止める。

 そしてその頭部を五指にて握った。

 

「あれはアイアンクロー! 文字通り鋼タイプの攻撃だ!」

 

「鋼タイプはイワークに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 アイアンクロー特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものイワークといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「イワーク、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 タケシはイワークをボールに戻し、悔しげな表情を見せながら、バッジを差し出す。

 

「くっ……俺の負けだ。

 流石はマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉じゃないってことか」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったタケシに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは鈍の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お月見山をお月見平野に変えつつ道を進んで小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に(ハナダ)の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"水の(カスミ)"。

 見るからに黄色にヒロインレースで負けそうな顔をしていた。

 

「試合形式は一対一。私はスターミーを使うわ。あなたは?」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「……そ、そう」

 

 カスミはスターミーを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 スターミーが宝石のようなコアを輝かせ、レッドもまた筋肉を輝かせる。

 似た姿の二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、スターミーはハイドロポンプをぶっ放した。

 

「行って、マイステディ!」

 

 だがその水流の一撃は、仁王立ちするレッドの大胸筋により受け止められた。

 

「なんですって!?」

 

 必殺のハイドロポンプを、夏場の打ち水と変わらぬとでも言いたげにレッドは受け止める。

 

「む、あれは『ワセリン』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

「ああ、あれは筋肉の輝きを補強するためのワセリンだ!

 筋肉といえばワセリン!

 ワセリンといえば筋肉!

 油であるワセリンは当然水を弾く!

 レッドに水タイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そして人間は万物の霊長。つまりはあらゆるポケモンより高い種族値を持っている。

 その種族値の高さは防御面にのみに発揮されるものではない。

 

「す、スターミー!?」

 

 レッドは助走をし、跳躍。A点からB点までの移動時間が0であるのなら、この跳躍はテレポートと呼んで差し支えないものだろう。

 そしてスターミーのトゲトゲを掴み、その合間に片足を入れて蹴り込んだ。

 

「あれは電気あんま! 文字通り電気タイプの攻撃だ!」

 

「電気タイプはスターミーに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 電気あんま特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものスターミーといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「スターミー、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 カスミはスターミーをボールに戻し、悔しげな表情を見せながら、バッジを差し出す。

 

「どうやら私の負けみたいね。

 流石はマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉じゃないってことかしら」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったカスミに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは縹の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サントアンヌ号をタイタニック号に変えつつ進んで小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に朽葉(クチバ)の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"雷のマチス"。

 関東地方のジャパニーズでは到底及ばないアメリカンな体格と筋肉は、素人にはK-1選手を思わせるほどのものであるが、一流であればそれが巧妙に偽装された見せ筋であることがよく分かる。

 

「試合形式は一対一。ミーはライチュウを使うネ。ユーは?」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「Oh……」

 

 マチスはライチュウを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 インド象を気絶させたことがある電気を放つライチュウに相対したレッドも、インド象が目を合わせただけで逃げ出したことがある持つ覇気を噴出させる。

 因縁ある二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、ライチュウは体内に溜め込んでいた10万ボルトを解き放った。

 

「ゴー、ライチュウ!」

 

 だがその10万ボルトは、仁王立ちするレッドの大胸筋により受け止められた。

 

「なんだとっ!?」

 

 むしろその電撃はレッドの筋肉が律動する度に、筋肉に喰われているかのようだった。

 

「む、あれは『筋電位』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

「ああ、筋肉は動く際にその内部に電気が生じる!

 それは筋肉の量と質が高まれば高まるほど、指数関数的に上昇するものだ!

 レッドほどの筋肉ならば!

 おそらく筋肉内部の電圧は100万ボルトはくだらないだろう!

 レッドに電気タイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そして幼い頃から「レッド君はまだこんなに小さいのにしっかりしてるわねえ」と言われていたレッドの個体値は、他の人間のそれよりずば抜けて高い。

 その個体値の高さは防御面にのみに発揮されるものではない。

 レッドが地面を強く踏めば、クチバの港町が10cmほど海抜を下げて海水の侵食を受け、地の奥深くのプレートにヒビが入り、ライチュウが地面の振動でひっくり返される。

 

「あれは四股踏み! そしてこれは四股踏みが生んだ地震! 文字通り地面タイプの攻撃だ!」

 

「地面タイプはライチュウに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 四股踏み特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものライチュウといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「ライチュウ、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 マチスはライチュウをボールに戻し、悔しげな表情を見せながら、バッジを差し出す。

 

「Foo……ミーの負けデース。

 サスガはマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉じゃないということデスね」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったマチスに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは朽葉の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩山トンネルを岩山道路に変えつつ道を進んで小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に玉虫(タマムシ)の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"花の絵梨花(エリカ)"。

 和服がとても似合う美少女であり、可愛らしさと美しさが同居した例えようの無い愛らしさを持ち、おそらくは関東地方のジムリーダーの中で一番可愛い少女だった。

 

「試合形式は一対一。わたくしはラフレシアを出させていただきますわ。あなたは?」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「そうですか」

 

 エリカはラフレシアを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 花という芸術の一角に対し、レッドも芸術の域に達した肉体を膨張させる。

 似た姿の二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、ラフレシアの葉っぱカッターが射出される。

 

「行ってラフレシア!」

 

 だが葉っぱカッターの一閃は、仁王立ちするレッドの大胸筋により受け止められた。

 

「!?」

 

 岩石で出来たポケモン達をも効果は抜群だとばかりに切り裂く葉の刃は、衝突と同時に金属音に近い音を鳴らすも、レッドの肌を傷付けること叶わない。

 

「む、あれは『食物連鎖』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

「ああ、植物は動物に食われるが摂理!

 人間が植物を食べることはあっても、その逆はない!

 人間が植物を傷付けることはあっても、その逆はない!

 植物では人間にダメージを与えることは出来ない!

 分解者、生産者、消費者の一方通行の構図!

 レッドに草タイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そして毎日鍛錬と修行を重ねてきたレッドの肉体は10歳とは思えないほどの努力値を溜めこんでおり、その努力値は防御面のみに発揮されるものではない。

 レッドが全力で一歩踏み込むと、彼の肉体と大気の摩擦熱により彼の全身は燃え上がり、耐熱性の高い皮膚で体内を守りつつ、レッドはラフレシアに大の字で抱きつくように体当りした。

 

「あれは大文字! 文字通り炎タイプの攻撃だ!」

 

「炎タイプはラフレシアに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 大文字特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものラフレシアといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「ラフレシア、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 エリカはラフレシアをボールに戻し、花のような笑顔を見せながら、バッジを差し出す。

 

「私の負けのようですわね。

 流石はマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉ではないご様子で」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったエリカに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは玉虫の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロケット団を一人残らずロケット弾を叩き込まれるより酷い姿に変えつつ道を進んで小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に山吹(ヤマブキ)の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"念の(ナツメ)"。

 まさかエスパーなんて常識外れな者が実在したとは。レッドは驚きを隠せない。

 

「試合形式は一対一。私はフーディン。あなたは?

 次にあなたは"この体一つで行く"と言う」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「……!」

 

「人の心を読むことは出来ても、筋肉の声を聴くことはできないようだな」

 

 ナツメはフーディンを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 二足歩行のフーディンに相対したレッドも、二本の足でその場に立つ。

 似た姿の二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、ナツメの指示でフーディンは最大出力の念動力を叩き付ける。

 

「フーディン、サイコキネシス」

 

 だが念動力の一撃は、仁王立ちするレッドの大胸筋により受け止められた。

 

「……え?」

 

 フーディンの意志がエネルギーを得て、そのまま現実に作用する現象となったサイコキネシスがレッドの肌に触れた途端、彼の肉体に満ちる強大な意志に塗り潰されたのだ。

 

「む、あれは『精神を超越した肉体』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

「ああ、精神の強さを獲得してこそアスリートだ!

 エスパータイプの攻撃は精神から生まれるもの!

 ゆえに精神が強い者はエスパータイプの攻撃に強い!

 エスパータイプの特殊防御力が高いのもそれが理由だ!

 格闘家は自らの心技体を鍛え上げる者!

 格闘を極めた者にエスパータイプの攻撃が効かないことなど小学生でも知ってる!

 レッドの鍛え上げられた精神は、エスパータイプの攻撃を全て弾くんだよ!

 レッドにエスパータイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そしてタウリン1000mg配合のチオビタドリンクを毎日欠かさず飲んできたレッドの攻撃力は、天井知らずに高まっており、むしろ防御面以外でこそ発揮される。

 

「あれは『蟷螂拳』! レッド、いつの間にじいさんの技を……!

 蟷螂拳は文字通り、カマキリの動きを模した拳! 当然虫タイプの攻撃だ!」

 

「虫タイプはフーディンに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 蟷螂拳特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものフーディンといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「フーディン、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 ナツメはフーディンをボールに戻し、感情の薄い表情を見せながら、バッジを差し出す。

 

「……私の負け。

 流石はマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉じゃないわね」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったナツメに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは山吹の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レッドの存在を察知し飛び起きて逃げるカビゴンを見送りながら道を進んで小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に石竹(セキチク)の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"毒の(キョウ)"。

 まさか忍者などという常識外な者が実在したとは。レッドは驚きを隠せない。

 

「試合形式は一対一。拙者はゴルバットで行かせていただこう。お主は?」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「……まさかサカキの後任が現れようとはな」

 

 キョウはゴルバットを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 ゴルバットが両翼を羽ばたかせて空に舞い上がり、レッドも両腕を羽ばたかせて空へと舞い上がり、両者は空中にて相対した。

 似た構えの二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、キョウは容赦のない一撃をゴルバットに命じる。

 

「ゴルバット! どくどくだ!」

 

 だがゴルバットの吐いた猛毒を大胸筋で受け止めても、空を舞うレッドは微動だにしない。

 

「なん……だと……?」

 

 それどころか猛毒はレッドの体内に吸い込まれていき、キョウと戦うまでのジムリーダー五連戦で重なっていた疲労が、彼の中から消えていくではないか。

 

「む、あれは『毒が裏返った』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

「ああ、たとえば力士のちゃんこ鍋。常人であれば毒に等しい量の食事!

 エネルギー! 肥満で死に至るほどの毒を力士達は喰っている!

 更には一般人も、大量に摂取したり誤って摂取すると死に至るDHMOという猛毒を喰っている!

 人には誰しも、摂取した毒を裏返す能力がある!

 レッドはそれを鍛錬によって極め、毒を逆に栄養として喰らっているんだ!

 毒も喰らう、栄養も喰らう、両方を共に美味いと感じ血肉に変える度量こそが食には肝要!

 レッドに毒タイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そして肩にピカチュウではなく筋肉を乗せるのだと決めたあの日から、あらゆる時間を鍛錬に注いできたレッドの強さは防御面のみに発揮されるものではない。

 レッドは両腕で空を飛ぶのを止め、オーキドから見て盗んだドードリオ式飛行術に切り替え、両の手を自由にする。

 そしてその片手の平を、眼前のゴルバットに向けて、力強く握った。

 

「あれは眼前の空間を全て握力で握り潰す遠隔念動力サイコキネシス!

 離れた場所を触れぬままに握り潰す、文字通りエスパータイプの攻撃だ!」

 

「エスパータイプはゴルバットに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 サイコキネシス特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものゴルバットといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「ゴルバット、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 キョウはゴルバットをボールに戻し、達観した表情を見せながら、バッジを差し出す。

 

「くぅ……拙者の負けでござる。

 流石はマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉ではないとお見受けするが」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったキョウに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは石竹の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両肩にグリーンとブルーを乗せながら海の上を走ること小一時間。

 レッドはグリーンとブルーを引き連れ、その日の内に紅蓮(グレン)の町のジムに乗り込んでいた。

 相対するは"炎の(カツラ)"。

 親から貰ったカツラという名前に反逆するかのように、その男は見事なハゲを一箇所たりとも隠すことなく、ハゲに残酷なこの世界で堂々と地に足を付けて立っていた。

 

「試合形式は一対一。わしはブーバーを使う。お主はどうする?」

 

「この肉体を使わせてもらう」

 

「……まさかシバの後任が現れるとは思っとらんかったぞ」

 

 カツラはブーバーを繰り出し、レッドも己の肉体を繰り出した。

 目が二つ、口が一つあるブーバー。同じく目が二つ、口が一つあるレッド。

 似た姿の二者が向き合い、互いに姿を見せつけ合う。ポケモンバトルでよく見る光景だ。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知る。

 

「始めっ!」

 

 審判の開始の合図と同時に、ブーバーは口を開いて火炎放射を放った。

 

「行け、ブーバー! 焼きつくせ!」

 

 だがその火炎放射は、仁王立ちするレッドの大胸筋により受け止められた。

 

「なんだとっ!?」

 

 それどころかレッドの大胸筋の表面にいつの間にか発生した水が波打ち、波動となり、ブーバーを混乱させる。なんでこれで死なへんのや、とブーバーは混乱していた。

 

「む、あれは『水の波動』!」

 

「知っているのグリーン!?」

 

「ああ、レッドは汗腺を通して体液を体外に放出し操ってるんだ!

 鍛錬とは自分の体の隅々まで、自分の意志で操れるようにするということ!

 ストレッチの結果動かなかった関節が動くようになるのと同じだ!

 レッドクラスともなれば自分の体液くらいは自由に操れる!

 今のレッドはさながら全身ナイアガラ、いや、もはや全身バミューダだ!

 水は炎に強い!

 レッドに炎タイプの攻撃は効かないんだ!」

 

「なんですって!?」

 

 理に沿った戦闘理論であるがゆえに、レッドの強さの秘密はグリーンから見れば一目瞭然だ。

 そしてマサラタウンを旅立った時は実戦でレベルを上げたことがなく、ここまでのジムリーダー六連戦でレベル上げを果たしたレッドの強さは、防御面のみに発揮されるものではない。

 レッドは火炎放射を防いでいた体液を一旦体内に戻し、音速の五倍の速度で発射した。

 

「あれは汗腺を利用したウォーターカッター! 文字通り水タイプの攻撃だ!」

 

「水タイプはブーバーに対しては効果抜群ということね!」

 

 ミシッと鳴ってジュッと響いてドカンと爆発。

 ウォーターカッター特有の効果音が鳴り響き、タイプ一致で効果抜群の技を喰らえばさしものブーバーといえど耐えられるはずもなく、一撃にて瀕死にまで至らしめられていた。

 

「ブーバー、戦闘不能! マサラタウンのレッドの勝ち!」

 

 カツラははブーバーをボールに戻し、達観した表情を見せながら、バッジを差し出す。

 

「ふむ、わしの負けか。

 流石はマサラのポケモントレーナー。

 生半可なジムで成されたトレーニングが付けた筋肉じゃないといったところだろうか」

 

 レッドはそれを受け取ると、それをグリーンに投げつけ、強敵であったカツラに惜しみない賞賛を送る。

 

「いいジムだった」

 

 また一つジムで新たな筋肉を身に付け、レッドは紅蓮の町のジムを出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてレッドは、最後にして最強のジムリーダーが待つ常磐の町のジムに戻って来た。

 長い旅であった。

 早朝に出発したというのに、とうに時間は昼の十二時を過ぎてしまっている。

 そんな時間帯に開けたジムの扉の向こうには、最後の敵が待っていた。

 

「よく来た、挑戦者よ」

 

「あんたが最後の壁か」

 

「そうだ。そして越えられない壁でもある。」

 

 最後のジムリーダーは、ふん、と気合を入れる。

 

「俺の名は(サカキ)。大地のサカキ」

 

 すると気合の量に相応に筋肉が膨れ上がり、榊のスーツが内からはじける。

 

「最強の称号を戴くジムリーダーだ」

 

 ポケモンバトル・一対一ルール。

 レッドもサカキも己が肉体(ポケモン)を繰り出し、最後のジム戦を始める準備は整った。

 何もかもを素手で潰してポケットティッシュほどの薄さにしてしまうモンスター。

 縮めて、ポケモン。

 

「退屈はさせん。そのかわり――」

 

 今、正統派主人公たるレッドと最強のボスがぶつかり合う。

 

「――退屈は、させるなよ?」

 

 初手に放たれた両者の音速(マッハ)パンチを、グリーンとブルーは追うことができなかった。

 だが、それが試合開始の合図であることだけは、なんとなく理解できた。

 

「しゃぁッ!」

 

 サカキが初手に放ったのは空手チョップ。

 レッドはそれを瓦割りの際にぶつけるようなチョップで迎撃。

 二つのチョップは斬撃型の衝撃波となり、床を千々に切り刻む。

 

 反撃気味に次の攻防の主導権を握ったのはレッドだ。

 右手で爆裂するパンチを、左手で気化冷凍法を用いた氷のパンチを繰り出した。

 対しサカキは左手に気合を込めたパンチを、右手に大気摩擦で作った炎のパンチを作る。

 そして両者は、目にも留まらぬ連続パンチのラッシュを放った。

 爆裂、気合、氷、炎のパンチが飛び交い、余波がジムの外壁に穴を開けていく

 

 レッドのローキック。サカキは守る。

 サカキのクロスチョップ。レッドは見切る。

 二人が攻撃し、回避し、防御するたび、ジムは壊れていく。

 

 そしてグリーンとブルーが退避した後、サカキのメガトンキックとレッドのメガトンパンチがぶつかり合った瞬間、常磐のジムと常磐の町はまとめて吹っ飛んだ。

 一つの町、一つの国の存亡を左右してこそポケモンだ。

 なればこそ、この結果もまたポケモンバトルに相応しい。

 

「くくっ、楽しいな、マサラタウンのレッド!」

 

「サカキ」

 

「……なんだ?」

 

「あんたはオレには勝てない」

 

「!」

 

 レッドは己が愛する肉体(ポケモン)を軽く撫でながら、サカキの間違いを指摘する。

 

「俺達はポケモントレーナーだ。

 トレーナーであって、バトラーじゃない!

 育てることがポケモンとポケモントレーナーの関係の本質だ!

 戦うことはあくまで二の次であるはず!

 だがお前は、ポケモンを戦うための道具としか思っていない!

 ポケモンは育て、絆を育むためにあるんだ! 絶対に道具なんかじゃない!」

 

「何を言うかと思えば……お前とて、ポケモンを自分の道具のように使ってきたはずだ。

 それを手足のように扱い、戦い、自分の望むことを成すための道具としてきたはずだ!」

 

「違う! 絶対に違う! オレとオレのポケモンの間には、確かな絆があるんだ!」

 

 戦いの中で傷付き、疲労し、もはや戦う力など欠片も残っていなかったはずのレッドの肉体(ポケモン)が、レッドの言葉に呼応したかのように力強く鳴動する。

 レッドのポケモンが、今日まで鍛えてくれたレッドに対し、『恩返し』をしようとしている。

 

「バカな……ポケモンが絆で力を増すなど、ありえん……!」

 

「ポケモンだって生きてるんだ!

 道具として扱い、愛の無い鍛え方をしてきたお前には分からないだろうがな!」

 

 レッドは全身から迸るエネルギーを手と手の間に集束し、気合玉を生成。

 そして動揺するサカキに対し、迷いなくそれを撃ち放った。

 サカキはそれに対し、アームハンマーを叩き付ける。

 受けるも避けるも無理、ゆえに軌道を逸らそうとしたのだろうが……レッドの気合玉は、止まらない。サカキのアームハンマーを無いも同然に突破し、サカキの腹部に直撃。

 

 そして、大爆発。

 

 誰が見ても文句のつけようのない、マサラタウンのレッドと、彼のポケモンが掴み取った勝利であった。

 

 

 

 

 

 一日にして森から荒野に、そして今気合玉の余波で谷になった常磐の森の端で、全身を焼け焦がしたサカキが口を開く。

 

「行くがいい、チャンピオンロードに……」

 

 その表情には、どこか吹っ切れたような様子さえ見て取れる。

 

「今まで多くの夢見る山田があのチャンピオンロードに挑み、そり立つ壁に敗れていった……」

 

 サカキが渡した八つ目のバッチがあればレッドもチャンピオンロードに、そしてその先のポケモンリーグに行くことができ、四天王に挑むことができる。

 その全てを越えた時、その人間はチャンピオンと、あるいはポケモンマスターと呼ばれる。

 だがその道程は、決して楽なものではない。

 

「あのスパイダークライムに、倒されていった」

 

 榊は知っている。

 今までどれだけの挑戦者があのチャンピオンロードに挑み、夢破れていったのかを。

 

「だがお前なら、1stステージも、2ndステージも、3rdですらも、いや、その先へ……」

 

 その上で、サカキは信じていた。

 マサラタウンのレッドが、新たなチャンピオンとなることを。

 

「アンディが、アーネストが、ミルコが至った頂点に……

 ポケモンリーグチャンピオン……いや、ポケモンマスターになれるはずだ」

 

 サカキの最後の言葉に、レッドは力強い頷きと言葉を返す。

 

「ああ。俺は、ポケモンマスターになる」

 

 サカキに背を向け、グリーンとブルーを従えレッドはチャンピオンロードに向けて歩き出す。

 その歩みに迷いはない。

 歩み行く先に光があるようにすら見えた。

 

 だが、まだポケモンマスターへの道は長い。

 マサラタウンのレッドの旅は、まだ始まったばかりなのだ!

 

 

 




レッドはまだ登り始めたばかりだからな、この果てしないポケモン坂(サイクリングロード)をよ……


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