学校暮らしは大変です。   作:いちちく

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今日はクリスマスですね。
取り敢えず彼女が居る人は皆爆ぜましょうか、ね。
今回も? 微妙に? 甘めかも?

あ、次回年明けまでに更新予定です。


●5

 

 

 

 月13日目( )No.11

 

 

 

 さて、祠堂さん救出にあたっての準備だが、事前に準備することは驚くほど少ない。

 少なくともオレは。

 オレが持っていくのはラジオ、傘、携帯、充電器、保存食の缶詰やらなんやら。

 

 それだけだ。

 元々オレの私物が殆ど無いのもあるが、一番の理由は今回の行動が車での移動になるからということ。

 オレは徒歩での通勤なので車は持っておらず、めぐの軽を使うことになるのだが、この軽は当然ながら四人乗り。

 対して乗り込む人数は五人。

 どう見ても人数オーバーである。

 

 幸いと言うかなんというか、丈槍さんも恵飛須沢さんも華奢な体型なので生徒三人が後部座席に詰めてくれれば何とかなるのだが、それでもぎゅうぎゅう詰めになることは確実である。

 要するに、荷物を持って行き過ぎると置き場が無くなってしまうのだ。

 よって今回の遠出にあたっては、全員荷物は最小限にしてもらったという訳。

 

 それで、準備の方はとっくに終わっているのだが、問題はここから。

 

 車を取りに行くにあたって最大の関門はその距離だ。

 校舎からおおよそ150m程。

 その間、あいつらはうようよいて襲い掛かってくる。

 それらを全部躱しつつ、目的の車までたどり着いて鍵を開ける。

 

 これが難しい。

 

 なにせこちらはほぼ丸腰だ。

 ちょっとモタモタして囲まれてしまったらそれで一巻の終わり。

 まあこういう、いわゆるオワタ式は昔何度かやったことがあるから、悲しいことにある程度の慣れはある。

 

 何処でやったかって?

 それはもう、中東地域で。

 

 この時のことは書くと長くなるので省略するが、取り敢えず思い出したくもないものだった、とだけ書いておく。

 

 さておき、この仕事をやることになったのは当然ながらオレだ。

 恵飛須沢さんがやりたいと挙手していたが、他の全員で強制的に下げさせた。

 危険過ぎる。無謀な洞窟探検家みたいな真似をするには早すぎる。いや、こんなことそもそもするべきじゃないから時期の問題ではないんだけど。

 最初は反発していた恵飛須沢さんだったけど、150m走で2秒差をつけて勝ったら諦めて任せてくれた。

 

「絶対失敗するなよ」と言われた。もちろんそのつもりではあるけど、絶対とは言い切れないので出来るだけ頑張るさと返しておいた。

 そうしたら「そこは嘘でも絶対帰ってくるっていうところじゃないのかよ……」と呆れられた。

 すまんね。情けない先生で。

 

 若狭さんには「先生のことだから心配はしてませんけど……気を付けてくださいね?」と言われた。

 うんちょっと待とうか色々おかしいよ?

 まず先生だからって何? オレちょっと体が丈夫なだけの一般人だからね? あと少しだけ特殊な技能持ってるってだけで。

 必死で弁解していると「それ、一般人って言いませんよ」って困ったような顔で言い返された。

 う、なるほど確かに。

 

 丈槍さんはめぐと一緒に持っていくものの吟味と、それらをバッグに詰める作業をしていたので邪魔しないようにした。

 別に詰めるものの中に下着を見てしまって気恥ずかしくなったからではない。

 本当にどうでもいいんだけど。

 ……年を考えて、わきまえて、どうぞ。

 

 うん、やっぱりこうやってアホっぽいこと書いていた方が落ち着く。

 怖いのも、だんだん薄れてきた。

 

 いや、嘘だ。

 本音を言おう。

 

 超怖い。

 死ぬ程怖い。

 死んでも死んでいけないのが怖い。

 この手で、あの子たちを苦しめるかもしれないことがとても嫌だ。

 嫌だ。

 ああ嫌だ。

 

 一度決めたくせにこうやってうじうじ悩んでしまう自分が本当に嫌だ。

 

 覚悟したんだろ?

 あの子たちを守るためだったら喜んで死んでやるって、覚悟してたんじゃねえのかよ、オレ。

 それは嘘だったのかよ?

 じゃあ、なんで恵飛須沢が行くと言った時に反対して、お前が行こうと思ったんだ?

 その時点で、もう答えは出てんだろうが。

 

 

 お前、男だろ?

 お前、大人だろ?

 お前……教師だろ?

 

 

 ……そうだ。そうだよ。

 オレは男で、大人で、教師だ。

 だから守んなきゃならない。

 女子供を、めぐを、生徒たちを。

 

 もう大丈夫だ。

 腹はキマった。

 

 

 じゃあ、車を取りに行く前に、遺書っぽいものを書こうと思う。

 

 

 ……やっぱ嘘。

 書きたいことも特に思い浮かばんし、何より後で見返した時のダメージがヤバそうだ。

 こう、ぐはっと血が吐けそうな気がする。恥ずかしさで。

 いや、今の時点でも結構クるものはあるんだけれど。

 

 ……よし。

 

 んじゃ、行ってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼間の日記は黒歴史確定で。

 弱気になって思いつくままペンを走らせていたら大変なことになった。

 やっぱ次からもう少し自制しよう……恥ずかしいぜ。

 

 さて、昼間なんかいろいろ書いてた割にはあっさりと車を取ってこれた。

 というかあいつらノロいよ動きが。

 躊躇いを捨てたら普通に顔蹴るとか足払いするとかで引き倒せたし。

 その後はあの目立つ赤いミニクーパーに乗り込んで校舎まで持ってくるだけの簡単なお仕事だ。

 簡単すぎて逆に拍子抜けした。

 

 さて、現在地は駅と学校の中間ほどにあるガソリンスタンド。

 夜になって帰宅するあいつらの数がぼちぼち増えてきたので、休憩することにしたのだ。

 本当は駅まで三十分程なのだが、主要な道路が軒並み事故った車やらあいつらの群れやらで通行できなかったので、相当時間がかかってしまっている。

 

 ……あと、途中まで助手席でナビをしていたオレが無能すぎるのもあるけど。

 いや、本当ダメなんだよ。地理関連。方向音痴だし、地図は読めないし。ここに来るまでに何度道を間違えて白い目で見られたことか。

 

 仕方がないので丈槍さんに助手席を代わってもらってナビをお願いした。

 既にギュウギュウの後部座席が更にキツくなって二人と体が密着してしまった。

 

 もしも助かって訴えられた時のためにここに書いておく。

 一切疚しい気持ちはありませんでした。寧ろ心が痛かったです。いや本当に。

 

 で、今その若狭さんたちとめぐには休憩も兼ねて仮眠をとってもらっている。

 まだ先は長いから、バテてもらっちゃ困るのだ。

 まあ恵飛須沢さんはピンピンしてたけど。さすが陸上部、鍛え方が違う。その調子で頑張ってくれ。

 

 さて、行程もあと半分。

 どうか何事も起こりませんように。

 

 

 

 

 

 月14日目( )No.12

 

 

 

 危なかった。死ぬかと思った。

 

 肉体的じゃなくて、社会的に。

 

 

 順を追って説明しようか。

 まず、今日の朝早くに駅に到着した。

 朝の通勤通学ラッシュで現れるあいつらに見つからないように、駅の裏で息を潜めていた。

 

 結局裏には1匹も来なかったので最後の方はしりとりに興じていたけれど。

 丈槍さん、最後に「き」が付いたら条件反射で「きりんさん!」って返すのやめようや。しかもさん要らないし。きりんだけでもしりとりは終わりだよ。

 

 そんなことをしている間にラッシュが過ぎたので、オレと恵飛須沢さんで駅に侵入した。

 

 

 構内にはあいつらがちらほら見られた。

 だが、元々大して大きくもない駅なのでその数もたかが知れてる。

 問題なく駅長室まで辿り着くことが出来た。

 妙に分厚い鉄の扉。

 その扉に汚い字で「駅長室」と張り紙がしてあった。

 懐かしい字だった。

 

 ここのロックは普通の鍵ではなくナンバーで開けるデジタル式だ。番号は0214で解錠できる。

 躊躇いもなく解錠していると、恵飛須沢さんに何故分かるのかと聞かれた。

 何故って、そりゃまあ。

 

 ここの駅長はオレとめぐの幼馴染だからさ。

 

 扉をゆっくりと開くと、中から金属バットを振りかぶった女の子が飛び出してきた。

 なんとか避けたが、鼻先を先端が掠った。

 死ぬかと思った。

 

 オレは出会い頭にバットをカマせなんて教えた覚えはないよ?――祠堂さん。

 

 入ってきたのがオレだということに気付くと、祠堂さんはガラにもなく飛びついてきた。

 

 余程気を張っていたのだろう、彼女はオレにしがみついたまま泣き出してしまった。

 普段の彼女からは想像できない姿だった。

 急な出来事にオレもよく分からず、頑張ったなとか言って頭を撫でてやるぐらいしか出来なかった。

 

 何故か後方の恵飛須沢さんの視線がキツかった。

 

 

 彼女が落ち着いてから一度車に戻って、事情を聞くことにした。

 あの場にずっと居ると出られなくなる可能性もあるし、戦闘員のいない車も心配だったからだ。

 だが、ここで問題が一つ。

 

 車、狭い。

 空いている席がない。

 どうしよう?

 

 となって、解決策を丈槍さんが出してくれた。

 

「じゃあ、誰かが誰かの上に座ればいいんじゃない?」

 

 場が凍りついた。

 

 恵飛須沢さんが憮然とした顔で高らかに右手を上げた。

 

「あたしが先生んとこ座る」

「えっ」

 

 オレが凍りついた。

 

 ……いやいやいやいや?

 あれ? おかしくね?

 普通それって同級生同士とか、先生にしてもめぐの上とか、そういうのが一番合理的じゃない?

 何で君はオレを指差してんの?

 絶対おかしいだろ!

 と必死に訴えたのに何故か恵飛須沢さんが少し泣きそうな顔になったせいで女性陣が軒並み敵に回ってしまった。

 

 え、普通それ君たちが止めるもんじゃないの?

 なんでけしかけてんの?

 若狭さん!? 「やっちゃえー♡」じゃねーよ!?

 やっちゃダメなやつだからなそれ!?

 

 必死の抵抗も虚しく、年頃の女の子とは思えない力で抑え込まれてしまった。

 本気を出せば抜けれないこともなかったがそれをすると確実に誰かが怪我をしてしまう。

 つまり抵抗できない。

 つまり?

 

 オレのもも上に恵飛須沢さんが乗った。

 それはもう、ぼふっと。

 すごい軽くて驚いた。

 

 そして戦慄した。

 

 いくら年下圏外のオレでも流石にこの体勢はちょっとやばくね? キケンじゃね?

 

 これ、もしアレがああなったら――終わりじゃね?

 

 そこからはもう、一から素数を数え続けた。

 イヤ本当もう、やばかった。

 祠堂さんの話を聞くどころじゃなかった。

 何も頭の中残ってないもん。

 ただ恵飛須沢さん■■■■■■(塗り潰されている)

 

 そして、気がついたら車が止まっていた。

 どうやら昼休憩の為らしい。

 一日二食派のオレには無縁な話だったが、この時ばかりは昼ごはんというものに死ぬほど感謝した。

 いや本当もう、疲れた。

 

 

 

 

 

 月15日目( )No.13

 

 

 

 ちくしょう。

 

 

 

 


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