学校暮らしは大変です。   作:いちちく

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長らくお待たせしましたー。
取り敢えず完結までの構想は練れたので、後は書くだけです。
が、年明け前後はバタバタするんで書けないかもしれません。
何卒ご容赦をば。


●4

 

 

 

 月12日目( )No.10

 

 

 

 大変なことになってしまった……。

 どうしようか。

 今のところ、オレ達にはこの状況を安全且つ確実にどうにかするような力は無い。

 だが、そんなことは何の言い訳にもならん。

 とにかく、どちらにするにせよ早急に決断は下さなくてはならない。

 なにしろ、人の命が掛かっているのだから。

 

 

 

 すまない、状況の説明を忘れていた。どうも焦っていたみたいだ。

 少し長くなるが、省略しながら書いていこうと思う。

 勿論最初からだ。

 

 まず、今朝は普通にソファーで目覚めた。特に何も問題はない。

 起きて、朝食を食べて(こないだからようやく一緒に食べる事が出来るようになった)からいつもの筋トレセットを終わらせ、校内の見回りと屋上の菜園の作業を手伝って、本日のノルマは終了。

 

 その後、何かやることがないか思案した時に、外の情報を集めることを思いついた。

 この状況を打開するためには、まず情報を集めなければならない。

 最初に思いついたのはネットだ。

 だが、これはすぐに却下になった。なぜか携帯もパソコンも使えなかったからだ。大方、この学校の無線やらを取り扱っている場所で、誰かがあいつらになって大暴れしたのが原因だろう。

 

 次に試そうと思ったのはラジオだ。

 ラジオならば仕組みも簡単だし、なによりネットが機能していなくとも関係なしに使える。

 もしかしたら、生存者の誰かがこんな状況に陥った原因とかを流しているかもしれない。

 そんな期待をしてラジオを使ってみた。

 

 

 

 大成功でござった。

 いやほんともう、何でこれを最初から試さなかったんだろうってぐらいに上手くいった。

 今まで分からなかったことが色々と分かった。

 

 あー、恐ろしいよ全く。

 

 

 オレ達の置かれた状況のどうしようもなさが。

 

 

 簡潔に書こう。

 

 

 この街周辺は、どうやらもう終わってしまったらしい。

 

 

 時間帯のせいもあるかもしれないが、放送は殆ど無かった。

 あったのは今までに何度か聞いたことのある録音音声と、避難の出来る駐屯地があるという知らせだけだった。

 

 とりあえず、前者で分かったことは、もう使い回しの音声しか流すことが出来ないのだろうということ。

 後者で分かったことは、多分もう駐屯地も壊滅しているだろうということだ。

 なぜそれが分かるのかと言えば、どちらの音声もノイズがひどく、とても最近録音されたモノとは思えないからだ。

 

 勿論、電波が悪いってことも考えられるだろうけど、それで片付けられないほどに音声は劣化していた。

 その劣化音声がそのまま流されているってことは、録音設備がぶっ壊れているのか、放送する人間がいなくなってしまったかのどちらかだろう。勿論可能性としては後者の方が高い。

 

 正直、結構ショックだった。

 これを一人で聞いていてよかったと思うぐらいには。

 もし全員で聞いていたなら、多分みんなもっとショックを受けていたことだろう。

 

 特に、丈槍さん辺りは危なかったかもしれない。

 最近少しは落ち着いてきたとはいえ、依然彼女の精神は不安定極まりない状況だ。

 若狭さんから聞くところによると、まだ時々夜中に悪夢でうなされるのだという。

 

 それを聞く度に、自己嫌悪が激しくなっていく。

 オレは何をやっているんだろう。

 こういう時こそ、大人で男の自分が皆を励まして、前向きに引っ張って行かないといけないはずだ。

 それなのに、現実はこの体たらく。

 一人の恐怖に怯える女の子を安心させることも出来やしていない。

 ちくしょう。

 

 ……やめよう。

 うじうじ悩んでいたって仕方がない。

 オレはオレに出来る限りのことをするしかない。それしかできない。

 オレが出来て、何としても成し遂げなければならないことは、ここの生徒たちを可能な限り無事に全員逃がす。

 ただそれだけだ。

 今はそれだけ考えらればいい。

 

 そう決めると少し落ち着いた。

 落ち着いたついでに、今まで聞いていたのがAM放送だったことに気付いた。

 あ、FMまだ聞いてない。

 

 いけない、うっかりして貴重な情報源を聞き逃すところだった。

 まあでも、たぶんこっちもAM同様に大したことやってないんだろうなぁと思いつつ、スマホを操作してラジオを流した。

 

 

 初めからこっちを聞けばよかった。そう思った。

 いや、もしかしたらAMの方も時間帯が悪かったから有用な情報がなかっただけで、そちらにも貴重な情報はあったのかもしれない。

 だが、先に情報が手に入ったのはこちらの方だった。

 

 その内容自体は大して珍しくないものだ。

 映画において、こういう事態に陥ったならば結構よくあるアナウンス。

 ただそれだけ。

 それだけのことが、ショックを受けていたオレを立ち直らせてくれた。

 

 それは自衛隊からのアナウンスだった。

 

 現在、救援の準備を進めている。

 約三週間後に第一次の救助部隊を派遣する。

 二週間後の正午より、作戦詳細を放送する。

 

 そんな簡潔で端的な文句が、たった二回繰り返されただけだった。

 それだけの言葉が、どれだけオレを元気づけてくれたことか。

 

 早速、生徒会室で思い思いのことをしていた皆に報告した。

 全員、浮足立つほどに喜んでいた。

 当たり前だ。まだ先の事とはいえ、自分たちが助かる明確な先見が得られたのだから。

 この壊れてしまった毎日が、再び元通りになるかもしれないのだから。

 

 ここまでなら良かったんだ。ここまでなら。

 しばらくしてから、今度は皆で他の情報を探ろうかとラジオのスイッチを入れた。

 そしたら、聞こえてきたんだよ。

 

 他の生存者の放送が。

 しかも、その生存者はうちの学校の生徒だった。オレが担当していた2学年の生徒だ。

 

 名前は良く聞き取る事が出来なかったが、なんとなく声の感じで誰だか分かった。

 

 祠堂さんだ。

 

 祠堂圭。

 2年B組出席番号13番。

 理系教科は知らないが、国語はまずまずの成績をとっていた。

 いつも陽気なのに、どこか飄々とした雰囲気を持ち合わせて居る不思議な生徒だった。

 クラスの中でも楽しそうにはしゃいではいるのだが、ふとした時に見せる冷めた表情がとても印象的だったのを良く覚えている。

 

 その彼女が、遠い過去の記憶にある声で助けを求めていた。

 

『聞こえていますか? 今、巡ヶ丘駅北口の駅長室に居ます。足を怪我していて、思うように動けない。幸い食料と水は一週間分あるから、少しなら保つと思うけど、油断できない。

 みんな、もしこれを聞いていたら助けに来て下さい。あいつらの数は結構あるから、気をつけて。頼みます』

 

 本当に驚いた。

 まさか、彼女がまだ無事で生きているとは思わなかったからだ。

 てっきりこの学校周辺にはもう生存者はいないものだと思っていた。

 しかも、運動部でも何でもない一般女子生徒でしかないはずの彼女が。

 驚いた。

 

 それと同時に困った。

 具体的には、彼女の元に応援を出そうかどうかということだ。

 

 彼女の放送を聞いた丈槍さんと恵飛須沢さんはすぐに助けに行こうと言ったのだが、それに反対したのは若狭さんとめぐだ。

 

 確かに外は危険だし、車はともかく武器に関しては殆ど丸腰と言ってもいいぐらいの装備しか持っていない。

 助けに行ってやられてしまっては意味がないという意見には十分に説得力がある。

 だが、それと同じくらい人命が大事という意見も分かるのだ。

 まあ恵飛須沢さんは単純に外に行って、もっといっぱいあいつらをのめしたいだけみたいだけど。

 オレが言うのもアレだけど、流石にその趣味(死体打ち)はどうかと思う。

 

 

 

 そして、ようやく冒頭、つまり現在に時が戻る。

 長かった。

 現在議論は特に発展なし。

 相変わらずどうすべきかを迷っている状況だ。

 客観的に見ると、丈槍さんや恵飛須沢さん達の方が若干理由が弱い気がする、ぐらいだろうか。

 

 いろいろなことをぼんやりと考えていたら、先生はどう思いますか、と話を振られた。

 

 ……正直、オレも迷っている。

 確かに両者には理由があり、筋も十分通っている。(恵飛須沢さんは除くが)

 

 教師としてのオレは、ここはスルーして無反応を貫くことを推奨する。

 リスクがでかすぎるからだ。

 めぐたちも言っていたように、オレ達には武器と呼べる物がスコップと傘ぐらいしかない。

 遠距離用の武器がないのだ。

 つまり、戦闘が常に感染のリスクを伴うことになる。

 下手をすれば、助けに行ったら全員やられました、なんて状況もあり得るのだ。

 そんな危険な行動は取らないに限る。

 

 のだけれど。

 

 ……やっぱり俺は、助けに行くべきだと思った。

 それは祠堂さんがよく見知った子だからとかではなく、もっと利己的な考えがあるからだ。

 

 彼女の放送の内容を思い起こしてみると、『みんな』というワードがあることが分かる。

 

 つまり、彼女はあの駅長室に行くまで、誰か達複数人と共に生活していたのだ。

 それは即ち、他にも数名の生存者がいることを意味している。

 

 だったら救助はそいつらに任せればいいとも思ったが、それではいけないのだ。

 もしそうすると、オレ達は他の生存者と遭遇する可能性を失うことになる。

 

 オレ達はまだこの事件の状況をほとんど知らないんだ。

 それではこんなふざけた世界を作り出したクソ共を抹消する為の材料がなくなってしまう。

 もし死ぬにしても、せめて何かを恨みながら死にたい。

 この状況を作り出した、具体的な犯人とかを。

 それを知るまで、オレは死にたくない。

 

 ……それに、駅のショッピングモールには、多分アイツがいる。

 アイツならば、きっとこの腐った現実の中でも冷静且つぶっ飛んだ思考回路で打開策を思いついてくれるはずだ。

 

 ……死んでる?

 

 まさか。世界の紛争地帯をカメラ片手に駆け回って無傷で帰ってきたアイツが簡単に死ぬ訳がない。

 そんなはずがない。

 

 

 ……と、私情まみれの理由でオレは丈槍さん達側についた。ちょっと罪悪感。

 するとそれが決め手になったのか、めぐ達も折れてくれた。

 え、適当に理由を並べただけなんだけど……なんか騙しているようで更に罪悪感が。

 ……まあ、もう言っちゃったし仕方ないか。

 

 ともあれ、目標は決まった。

 駅長室にいるはずの祠堂さんの救助だ。

 そうと決まれば、早速準備しなければ……。

 

 

 

 

 




自衛隊からのアナウンスに修正入れました。

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