学校暮らしは大変です。   作:いちちく

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徐々に勘違い成分なんかも盛り込んでいきたいなぁなんて思う今日この頃です。


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 月5日目( ) No.3

 

 

 ふと気が付くともう夜だった。

 何を言っているのかって? オレにもよく分からん。

 さっき起きたらもう夜だったんだよ。あれ、寝た記憶ないんだけど。

 しかもみんなに訊いたら、朝にはオレはもう起きていて、さっさとあいつらの討伐に向かっていたんだと。

 全員が同じ夢でも見たんじゃないかとも思うが、その可能性はほぼ無いだろう。当たり前だけど。

 

 となると、寝ぼけてつい狩りに出かけてしまったのだろうか。

 やだ、なにその夢遊病もどき。洒落にならない。

 自分が気づかない間に死地に赴いてヒャッハ―していたとか怖すぎる。

 やだよ、気が付いたらあいつらの仲間になって日記書いてましたとか。

 

 それはそうと、夕食が終わってからこれからについての話し合いがあった。

 

 参加したのは、比較的精神に余裕のあったオレ、めぐ、恵飛須沢さん、若狭さん。

 話し合いの結果、この学校に立て篭もって助けを待つか、ここを脱出して別のもっと安全な場所に向かうかの二案が出た。

 

 前者に賛成したのはオレ、めぐ、後者に賛成したのは恵飛須沢さん、若狭さんだ。

 しばらく議論は白熱したが、なんの気無しにオレが言った言葉で場が白けてしまったのか、会議は終了してしまったようだ。

 

 あれ、なんか寒いこと言ったかなオレ。

 普通に「取り敢えずここで生活して準備をしよう。その間に、出来る限りのことを出来る人間がしよう」みたいなこと言っただけなんだけど。

 

 あ、出来る限りのことを出来る人がやろうっていうのは、暗に「出来ない人に出来ないことを任せるのは止めようね」みたいな意味合いが込められている。

 例えば、オレみたいな数学物理が大の苦手な人間に家計簿の管理を任せたりする、とか。

 や、ホント無理なんだよ理系科目。代わりに文系科目が良く出来たんだけど。

 だから、国語の教師になったんだけどね。

 

 まあそんなことは置いておいて、今日起きた出来事をちょっと書き留めておく。

 今日、こんなことになってから初めて丈槍さんと話が出来た。ほんの少しだけだったけど。しかも話と言えるかは微妙なところだったが。

 

 この子は事件が起きてから一番塞ぎ込んでしまって、今に至るまで全く話が出来なかったのだ。

 ちょうどオレが、自分が寝泊まりしている職員休憩室に向かう最中に、放送室から少し声が漏れているのが聞こえた。

 防音のはずの放送室から声が漏れるってことは、相当大きな声を中に居る人間が出しているということだ。それはつまり――。

 

 オレがゆっくりドアを開けると、そこでは布団の上で絶叫している丈槍さんがいた。

 聞けば怖い夢を見てしまったらしい。

 オレ達全員があいつらになって襲い掛かってくる夢。

 なるほど、それは怖い。年頃の少女には辛いものがあったろう。かわいそうに。

 

 だが、オレには何も出来なかった。

 本当に恥ずかしい話だが、こういう時、オレはどんな言葉を掛けて良いのか分からなかったのだ。

 仕方なく、大丈夫だ、側にいるからと月並みでなんの説得力もないことを言って、丈槍さんが眠りにつくまで彼女の手を握っていたが、オレにはそれしか出来なかった。

 

 教師なのに。

 こういう時に、生徒が心の底から安心できるように言葉を重ねて気持ちを伝えるのが教師の役目のはずなのに。

 オレはただ、薄っぺらい言葉一つで、気持ちを伝えられなかった。

 部屋に戻った今でも、オレが握った時の、丈槍さんの手の震えが忘れられない。

 

 くそったれ。

 

 

 

 

 

 

 月6日目( ) No.4

 

 今日は朝起きた時にはちゃんとベッドの上で寝ていた。みんなに聞いてみても、今日はどこかに行く姿は見ていないそうだ。

 よし、今日は大丈夫だったか。

 

 朝食を食べ終えてから、オレは恵飛須沢さんと一緒に二階にいる奴らの駆逐に向かった。

 本当はか弱い女の子にこんなことをさせるのは嫌なのだが、ここで彼女に何もさせないと後でこっそり一人で二階に向かってしまうのだ。

 だから仕方なくオレと一緒に行動することを条件に、奴らの排除を許可している。

 

 書くと改めて分かる。

 本当、最低だよな、オレ。

 

 自分の半分程度しか生きていない女の子に、かつては自分と同じ学校で学んでいた仲間たちを殺させるなんて。

 でも、今は彼女が必要なのだ。

 事実、彼女が参加しているといないとでは、あいつらの減り具合が全然違う。

 だから、仕方がないんだ。

 オレはそんな理屈で自分を無理矢理に納得させる。

 

 ……もしも生きて無事なところに逃げられたら、まず間違いなくオレは糾弾されるな。

 まあ、それもいいか。

 そうなった時は、彼女たちはきっと無事に逃げられたということなのだし。

 そうしたら、今度こそきちんと裁きを受けよう。

 

 話は変わるが、オレは恵飛須沢さんに嫌われている。

 具体的には、オレが何の気無しに後ろに立っていたりすると、凄まじい勢いで振り向いて武器を構えられる。

 

 別に何もしないから。

 お願いだから武器を構えるのはやめて欲しい。

 スコップの剣先が寸分違わずオレの顔に向けられて怖いんだよ。

 今日も何度かスコップを向けられた。泣ける。

 

 そんなこんなで、今日は二階のあいつらをいくらか処理した。

 

 大体十五人ぐらいだろうか。元三年生が多かった。

 うちの学校は運動部が弱かったし、元々進学指導に力を入れていたこともあり、夏に向けての三年向け特別補講に出席して、そしてあいつらになってしまった生徒が多かったのだろう。

 

 二階にはまだまだあいつらがいそうだ。

 廊下だけでも大量に居たし、教室に居るものを含めるとちょっと数えたくないくらいには居るだろう。

 まだまだ、先は長い。

 

 

 

 

 

 月7日目( ) NO.5

 

 今日であの日から一週間が経過した。依然状況は予断を許さない。

 

 が、最初の、気の休まる時が全くなく、屋上で一晩を明かしたあの日よりはよっぽどマシだ。

 今オレはこうしてきちんと机に向かって日記を書いているし、他の面々も本を読んだり昼食を作ったりとある程度の余裕がある。

 

 これは三階の確保がたったの四日で完了できたのが大きいと思う。

 現在三階はあいつらが一体もいない完全な安全地域としてオレ達の生活拠点になっている。もしこの階の確保が後数日遅れていれば、間違いなく誰かしらの犠牲が出ただろう。

 

 そういう意味では、恵飛須沢さんにも戦ってもらうというのは非常に理に適った判断だったのかもしれない。

 事実、一人で戦っていた時はオレだけじゃ手が回らない部分も大きかったし、なにより一人の時と二人の時では危ない目にあった回数もあいつらを駆逐する効率も、比べるまでもなく分かるほどの大きな差がある。

 

 もし彼女がいなかったとしたら、こんなに早く生活圏を広げることは出来なかっただろう。

 感謝している。

 

 でも、それと同じぐらいもう無茶をしないで欲しいという思いもある。

 オレなんかが言っていいことでは、決してないのだけれど。

 

 

 さて、今日は昼食の後に二階に降りて購買部の備蓄を取ってきた。

 この一週間で三階に置いてあった食料品が尽きてしまったためだ。

 メンバーはオレと恵飛須沢さんと若狭さん。

 

 本当は若狭さんには待っていて欲しかったが、購買部の備蓄がどこにあるか知ってるんですかと言われて言葉に詰まった。

 そういえば、オレはどこに食料品があるのかを知らない。

 

 購買は基本生徒のものというイメージが強く、オレ達教員は殆ど利用していなかったのだ。

 そんな訳で、若狭さんの同行はあっさりと決まった。

 ちなみに、恵飛須沢さんも購買の構造を知らなかったらしい。

 オレ達は何をしに二階に行こうとしていたんだろう。

 あ、食料品は無事に回収することが出来た。

 

 

 

 

 

 月8日目( ) No.6

 

 今日はめぐが熱を出してしまっていた。

 思えば、あいつは昔から体が強い方ではなかった。

 しかも、ここ最近は心労のためか眠れない日が続いていたようだ。

 何度か欠伸をしているところをオレも見ていた。

 

 大丈夫か、と聞いて、大丈夫、無理はしないからと答えてたから安心していたが……。

 あいつめ、全然大丈夫じゃないじゃねぇか。

 

 ぽつりとそう零すと、若狭さんからめぐねぇとはどんな関係なんですかと聞かれた。

 どんな関係って、ただの幼馴染だよ。腐れ縁とも言うかもしれない。もうかれこれ十年くらいになるだろうか。

 

 そう答えると納得したように頷いていた。

 そう言えば、オレ達の関係は皆に話してなかったか。どうでもいいことだし、話すチャンスもなかったから忘れてたけど。

 そうしてしばらく話をしていると、何故かオレがめぐの面倒をみることになっていた。

 

 なんで? こういうのってどう考えても女性陣の仕事でしょ?

 

 そう言うと、付き合いの浅い私達よりも先生の方がよっぽど安心できると思いますよ、だと。

 ……なんか納得できないけど、皆の無言の視線が辛かったので仕方なく引き受けた。

 

 その間、恵飛須沢さんは図書室で手掛かりを探し、若狭さんは消化にいいものを作ってくれていた。

 丈槍さんは職員室から風邪薬を持ってきてくれた。ありがとう、助かる。

 そう言うと少し喜んでくれたようだった。

 

 彼女は大泣きしたあの日以来、少しずつだが精神が安定してきている。

 多分、皆のうちの誰かが話を聞いてくれたりしているのだろう。もしくは全員で?

 役に立たない自分がちょっともどかしいが、仕方ない。

 適材適所だ。オレに出来るのは力仕事全般。

 ……だというのに、なんでオレに回ってきた仕事は看病なんだろうなぁ。

 ボヤきつつも、しっかりと看病した。

 

 と言っても冷えピタを何度か張り替えたり、水を飲ませたりしただけだけど。

 途中、うわ言で何かを言っていたみたいだが、声が小さくてオレには聞こえなかった。

 なんか誰かに謝ってるっぽかったけど。何かしたのか?

 

 夜になると、薬が効いてきたのか、熱はある程度下がってきていた。

 寝息も落ち着いてきている。この分だともう2日もすれば完全に治りそうだ。

 早く良くなってくれよ。心配なんだから。

 それまで、オレに出来ることならなんでもするからさ。

 

 ……そういえば、時々若狭さん達がこっそり様子を見に来ていたが、何だったんだろう?

 

 

 

 

 


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