悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 05

 

 ───はぐれ悪魔。爵位を持った悪魔に下僕へと転生した者が主を裏切り、または殺したりなどして主なしになる存在。

 

悪魔の力は強大。それこそ人間だった頃とは比べ物にならない程に、だ。

 

力に溺れ、その力を己のみに奮い、各地に暴れまわり、まるで野良犬のように各地を徘徊する。

 

害を出す野良犬は見つけ次第主人、或いは他の悪魔が消滅させる事になっているのがリアス達悪魔のルールの一つ。

 

他にも他勢力である天使、堕天使側もこれを危険視しており、はぐれ悪魔を見つけ次第殺す事にしている。

 

はぐれ悪魔の存在をリアスから一通り説明を受けた一誠とブロリーは、グレモリー眷属の皆と共に町外れの廃屋に来ていた。

 

毎晩、ここではぐれ悪魔が人間をおびき寄せては喰らっているのだという。

 

それを討伐するよう、大公と呼ばれる上級の悪魔からこの領地の支配者であるリアスに依頼が届いたのだ。

 

これもまた悪魔の仕事だという。

 

「……血の臭い」

 

廃屋を前にぼそりと呟く小猫に一誠はガクガクと震える。

 

周囲に満ちている殺気と敵意、どちらも尋常じゃない程に此方に向けられている。

 

「イッセー、これもいい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

 

「で、でも部長、お、俺、多分戦力にならないと思いますよ!」

 

「そうね。それは無理だと思うわ」

 

リアスにあっさりと言い切られるイッセーはガックリと肩を落とし落胆の表情を醸し出す。

 

「でも、悪魔の戦いを見ることは出来るわ。今日は私達の戦闘をよく見ておきなさい。……そうね、ついでに下僕特性について教えてあげるわ」

 

「下僕の特性……ですか?」

 

「主となる悪魔は下僕となる存在に特性を授けるの。……以前私達悪魔と堕天使、天使の三竦みの間で大戦があったというのは二人とも聞いてるでしょう?」

 

「え、えぇ……」

 

「この間言ってたやつのことか?」

 

二人の返しにリアスは静かに頷く。

 

遙か太古の昔に悪魔と堕天使、そして天使を率いる神は三つ巴の大きな戦争を行い、大軍勢を率いて永い間争い続けた。

 

結果、どの勢力も酷く疲弊し、勝利する者がいないまま、戦争は数百年前に終結した。

 

「純粋な悪魔はその時に多く死に絶えたわ。けれど戦争は終わっても堕天使、神との睨み合いは現在でも続いているの、幾らどちらの陣営も部下の大半を失ったとはいえ、少しでも隙を見せれば危ういからね」

 

リアスの悪魔の歴史講座に一誠は成る程と頷き、ブロリーは頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。

 

「そこで悪魔は少数精鋭の制度を取ることにしたの。──それが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』」

 

「「イーヴィル・ピース?」」

 

聞き慣れない単語にブロリーと一誠は一緒になって首を傾げる。

 

 悪魔の駒とは爵位を持った悪魔が下僕とする時、その多くが人間からの転生悪魔だという皮肉を込め、人間界にあるボードゲーム『チェス』の特性を取り入れた物。

 

主となる悪魔を『王(キング)』。そこから『女王(クイーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』と五つに分けられている。

 

軍団を持てなくなった代わりに下僕となる少数の悪魔に強大な力を分け与える事にした。それが爵位持ちの悪魔に好評となり、あるゲームが誕生したのだ。

 

「それが、『レーティング・ゲーム』よ」

 

「それって今の話の流れからすると……やっぱり悪魔をチェスに見立てた試合か何かですか?」

 

「まさにその通りよ、レーティング・ゲームは悪魔の間で大流行しているゲームなの。駒が生きて動く大掛かりなチェスとしてね」

 

恐る恐る訊ねてくる一誠にリアスは笑みを浮かべて答える。

 

「付け加えればレーティング・ゲームは駒の強さ、ゲームの強さが悪魔の地位、即ち爵位に影響する程までになり、更には『駒集め』と称して優秀な人間を自分の駒にするのも流行っているんですのよ。優秀な下僕はステータスにもなりますから」

 

補足的な説明を付け足してくれる朱乃に一誠はふむふむと頷いているのに対し、ブロリーは話が理解出来ていないのか辺りを見渡して聞き流している。

 

「つまり、そのゲームで活躍できる悪魔は喩え下級悪魔だろうも注目される。という事ですか?」

 

「呑み込みが早いわねイッセー。更に言うなら活躍できる下僕は主にとって自慢にもなるから、皆このレーティング・ゲームにはドップリはまっちゃう訳なのよ」

 

へー。と、関心したように返事を返す一誠。だが残念ながらリアスはまだ成熟した悪魔ではないから公式な大会には出場できず、当分はゲームに参加する事はない。

 

(……それに、一人気になる駒候補がいるしね)

 

妖しく微笑むリアスの視線の先には、廃屋内を見渡すブロリーがいた。

 

カラワーナとの一件で見せた腕力と脚力、そして光の槍にも耐えきれる桁違いな耐久力。

 

既に戦車としては小猫がいるのだが、それでも欲しいと思うのは悪魔故の欲深さなのだろうか。

 

(もしかしたら一誠と同じ……或いはそれ以上に“価値”のある存在かも)

 

やはり自分は数少ない純血な悪魔だと、リアスは思う。

 

予想以上に欲の深い自分に苦笑していると。

 

「あの、部長。俺の駒は、役割や特性ってなんですか?」

 

「そうね、イッセーは……」

 

そこまで言いかけた所で、リアスは言葉を止めた。

 

同時に彼等全員も周りの空気が一変した事を瞬時に察知し、それぞれ警戒体勢に入る。

 

立ち込めていた殺意や敵意がいっそう濃くなり、何かが近付いてくる。

 

キョロキョロと落ちつきなく辺りを見渡していたブロリーも、リアス達と同じく殺気の感じる方へ視線を向ける。

 

薄暗い闇、全員が視線を逸らさず睨み付けると──。

 

「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

辺りに地の底から聞こえるような低い声音が響く。

 

不気味さが更に増していき、イッセーは顔面蒼白にしながら震えていた。

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」

 

凜としたリアスの声が一切臆した様子を見せずに言い渡す。

 

間近で見る主の勇姿に一誠の表情は明るくなり、頼もしそうにリアスの背中を見つめていた。

 

ケタケタケタケタケタケタケタ……。

 

異様な笑い声が辺りに響く。それと同時に暗がりからはぐれ悪魔の姿がゆっくりとブロリー達の前に現した。

 

上半身裸の女性、しかし下半身は巨大な獣という異形の姿。

 

形容しがたいバケモノを前に、一誠は開いた口が塞がらずにいた。

 

バケモノの両手にはそれぞれ槍らしき得物を所持している。

 

四足の足、その全てが太く、爪も鋭く、蛇となっている尾は此方に向けて牙を剥き出しにしている。

 

大きさは五メートル以上、後ろ足で立ち上がれば更に巨大になるのではなかろうか。

 

しかし、そんな異形のバケモノにリアスは臆する事なく前に出る。

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすだけに暴れ回るのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「ほざけぇぇぇ! 小娘ごときがぁぁ! その紅の髪のように、お前の身を鮮血で染めて上げやるわぁぁ!!」

 

吼えるバケモノ、しかしリアスはただ花です笑い。

 

「雑魚ほど洒落のきいた台詞を吐くものね。祐斗!」

 

「はい!」

 

突進してくるバケモノに近くに控えていた木場がリアスの命を受けて飛び出していく。

 

疾風の如く駆け出す木場に一誠は目を丸くさせて驚きを顕わにする。

 

「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ」

 

「レクチャーって、悪魔の駒の特性についてですか?」

 

「そうよ。祐斗の役割は騎士、特性はスピード。騎士となった者は速度が増すの」

 

リアスの言う通り、木場の動きは徐々に速度を増していき、ついには一誠の目には追えないほどになっている。

 

バケモノの振る槍は虚しく空を切るばかりで全く当たる様子はない。

 

ただ、ブロリーには高速で移動する木場の姿が見えているのか、時折「おぉ」と驚きの声を出している。

 

「そして、祐斗の最大の武器は剣」

 

一旦足を止め、バケモノに挑発的な笑みを向ける木場。

 

その手にはいつの間にか西洋剣らしきものを握り締めていた。

 

それを鞘から抜き放つと、眩い銀光を放ちながら長剣が抜き身となる。

 

「ふっ!」

 

短く息を吐き出すと共に再びその場から消える木場。

 

が、次の瞬間、バケモノの悲鳴が木霊する。

 

「ぎゃぁぁぉぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

見ると、バケモノの両腕が槍と共に宙を舞っていた。夥しい血が傷口から噴き出す。

 

「これが私の騎士、祐斗の力よ。目では捉えきれない速力と、達人級よ剣捌き、この二つが合わさる事であの子は最速のナイトになれるの」

 

未だ腕を切り落とされた痛みに悲鳴を上げるバケモノ。その足元には小柄な人影……小猫が立っていると。

 

「この小虫がぁぁぁぁぁっ!!」

 

バケモノは素早く動く木場から足元にいる小猫へと狙いを変更し、その巨大な足で小猫を踏み潰す。

 

巻き上がる砂塵、一誠は小猫が潰されたと慌てるが、リアスや朱乃、木場は動揺の素振りは見えない。

 

「次は小猫ね。あの子は戦車。その特性は──」

 

「いやいやいや! 部長! そんな呑気な事言ってる場合じゃ──」

 

そこまで言いかけた所で一誠は言葉を止める。

 

何故ならば踏み潰されたと思っていた小猫がバケモノの足を少しずつ持ち上げていたからだ。

 

アングリと口を開く一誠にリアスの説明は続く。

 

「戦車の特性は至ってシンプル。バカげた力と屈強なまでの防御。だからあんな悪魔程度では小猫は沈まないし、潰せないわ」

 

「……なるほど」

 

乾いた笑みを浮かべ納得する一誠。そうしている間にも小猫はバケモノの足を完全に持ち上げてどかし。

 

「……ふっ飛べ」

 

空高くジャンプし、小猫はバケモノのどてっ腹に拳を鋭く打ち込んだ。

 

巨大なバケモノの体が、小柄な小猫の一撃で後方へ吹き飛んでいく。

 

「そして、最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」

 

うふふと笑いながら小猫の一撃で倒れ込んでいるバケモノのもとへ歩み出す朱乃。

 

「朱乃は女王。私の次に強い最強の者。兵士、騎士、僧侶、戦車、全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ……」

 

 

 

 

 

木場に両腕を切り落とされ、小猫に絶大な一撃を受けてもそれでも朱乃を睨み付けるバケモノ。

 

それを見た朱乃は不敵な笑みを浮かべる。

 

「あらあら。まだお元気みたいですね? それなら、これはどうでしょうか?」

 

すると朱乃は手を天に翳すと。

 

刹那、天空が光り輝き、バケモノに雷が落ちた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぉぁっ!!」

 

雷に打たれ、激しく感電するバケモノ。全身は丸焦げとなり煙が上がっている。

 

「あらあら。まだ元気そうね。まだまだ楽しめそうですわ」

 

「ギ、がぁぁぁぁぁぁぉぁっ!!」

 

再び空から雷が降り注ぎ、バケモノからは既に断末魔の悲鳴を上げている。

 

にもかかわらず、朱乃は三発目の雷を繰り出していた。

 

「グワァァァァァァッ!!」

 

また雷を落とす。その時の朱乃の顔は冷徹で、怖いほどの嘲笑を作り出していた。

 

 

自分の知る朱乃とは違い過ぎる光景に、ブロリーは頬をひきつらせていた。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を待っで起こす力ね。そして、何よりも彼女は究極のSなの」

 

そんなブロリーの気持ちを代弁するかのようにリアスは答える。

 

究極のS。その言葉の意味は分からないが、取り敢えず一つだけ分かった事がある。

 

(……朱乃を怒らすのは絶対止めよう)

 

あと、頑張って人参も食べられるようになろう。

 

「怯える必要はないわよ。イッセー、ブロリー。朱乃は味方にはとても優しい人だから。それにブロリーはあの子のお気に入りみたいだからあんな事はしない筈よ」

 

そう言うリアスだが……。

 

「うふふふふふふ。どこまで私の雷に耐えられるのかしらね? ねぇ、バケモノさん。でもまだ死んではダメよ? トドメは私の主なのですから。オホホホホホホホホッ!」

 

 

遂には目の前で高笑いしている朱乃にブロリーは心底朱乃だけは怒らせまいと誓うのであった。

 

それから数分間、朱乃の雷は降り続いた。

 

そして朱乃が一息ついた頃、リアスはそれを確認して頷いた。

 

「まだ物足りませんが、最後は部長におまかせしますわ」

 

満面の笑みを浮かべてブロリーの隣へと来る朱乃。

 

「…………」

 

「あら?」

 

スッと少し距離を開けるブロリーに朱乃は怪訝に思い詰め寄るが。

 

「…………」

 

「あら? あら? あら? あら?」

 

離れては詰め寄り、離れては詰め寄りを繰り返す二人に、一誠はまたもや渇望の眼差しでブロリーを睨みつけていた。

 

「さて、はぐれ悪魔バイサー。最期に言い残す事はあるかしる?」

 

その一方でリアスは満身創痍となり、動けなくなったバケモノに歩み寄る。

 

「……殺せ」

 

もはや自分には抗う術も逃げる事も叶わない。悟ったバイサーはただ一言ただけそう告げる。

 

「そう、なら──消し飛びなさい!」

 

 

ドンッ!

 

 

冷徹なリアス一声と共に、掌から巨大でドス黒い魔力の塊が撃ち出される。

 

それは巨大なバケモノの全身を余裕で覆うほどの大きさの魔力だ。

 

バケモノを呑み込み、魔力が宙に消えると、バケモノの姿も完全に消えてなくなっていた。

 

それを確認すると、リアスは一息ついて。

 

「終わりね。みんな、ご苦労さま」

 

 

リアスのその一言に他のオカ研メンバーの面々も、いつもの陽気な雰囲気を纏い始めた。

 

それを感じ取った一誠も緊張感を解き、深い溜め息と共に腰を下ろす。

 

討伐依頼をこなした事で晴れ晴れとした表情のオカ研メンバー。だが、リアスだけは不満そうな顔で俯いていた。

 

(本当なら、彼の力も見てみたかったんだけど、ついついいつもの調子で終わらせてしまったわ)

 

談笑している一誠達。その中にいるブロリーに視線を向けるもりはすぐに頭を振って気持ちを切り替える。

 

(……ま、焦ってしまっても仕方ないわね。堕天使側も妙な動きをしているみたいだし、ここで事を急ぐのはエレガントじゃないわ)

 

自分にそう言い聞かせ、リアスは一誠達に向き直り。

 

「さて、そろそろ帰るわよ。明日も学校あるんだし、早く支度なさい」

 

手を叩き、彼等を此方に振り向かせた──その時。

 

「部長! 危ない!!」

 

リアスを抱きかかえ、横に飛ぶ一誠。

 

その直後、リアスのいた場所には巨大な物体が通り抜け、朱乃達に向かって突っ込んでいく。

 

迫り来る物体に難なく避ける朱乃、木場、小猫の三人だが、ブロリーだけは反応が遅れ。

 

「……おお?」

 

間の抜けた声と共に、ブロリーは飛び込んでくる物体に巻き込まれ、廃屋を囲んでいた壁に激突する。

 

「……迂闊だったわ。まさかもう一体いたなんて」

 

自分の甘さにリアスは苦々しい顔で物体へ睨み付ける。

 

舞い上がる砂塵の中から露わになる輪郭。上半身は裸の男で下半身はバイサーと同じ獣、しかし大きさは一回り以上大きくなった巨大なバケモノ。

 

そして両手にはバイサーとは違いその図体に見合った巨大な斧が握り締められていた。

 

「部長、どうやら大公の方で情報のトラブルがあった見たいです。今回の依頼は『一組のはぐれ悪魔を仕留める事』だそうです」

 

端末機らしき物を耳に付け、今回の依頼の本当の内容を告げる朱乃。

 

「全く、大公もいい加減な仕事をしたものだわ。……それとも、そうさせるだけの力がアイツにはあるって事かしら?」

 

額に手を添えた後、嘆息と共にバケモノを睨み付ける。

 

「……ごめんなさい、部長。油断してました」

 

「あなたが謝る必要はないわ、小猫。全ては雑魚だと思って侮っていた私の責任よ」

 

しょんぼりと俯く小猫にリアスは優しく彼女の頭を撫でる。

 

「我が名は悪魔ゲルド。貴様等を喰らい我が血肉とする者よ!」

 

「あまり図に乗らない方がいいわよ? 今の私は少々苛立っているのだから」

 

バイサーよりも一回り以上巨大なバケモノに一切動じず、リアスは左手を掲げると。

 

「て、てか、ブロリーさんは!? ブロリーさんは大丈夫なのか!?」

 

今まで呆然としていた一誠が思い出したようにブロリーの事を口にする。

 

「ん? 呼んだ?」

 

「どぇぇぇっ!?」

 

埃を払いながら壁から出てくるブロリーに一誠は思わず吹き出す。

 

バケモノの方もまさか生きているとは思っていなかったのか、ピンピンしているブロリーに驚愕を顕わにしており。

 

木場や小猫も「おぉ」とか、「やりますね」などとそれぞれ驚きの反応を出して、朱乃も「あらあら」といつもの笑顔の中に二人同様驚きの色を滲ませていた。

 

しかしリアスだけはこれをチャンスと思い、ブロリーにある命令を下す。

 

「戦いなさいブロリー! そいつの相手はあなたに任せるわ!」

 

「ちょ、部長!?」

 

いきなりのリアスの指示に動揺する一誠。

 

それもその筈。本来は無関係なブロリーを少し前までは反対姿勢だったリアスが戦うよう促しているのだ。

 

怪訝に思う一誠に木場が隣に立って説明する。

 

「これは僕達悪魔の……謂わば身内の処理だからね。堕天使や天使の戦いに繰り出すわけじゃないから差ほど問題ないさ」

 

「な、なんか屁理屈っぽく聞こえるなぁ」

 

「あはは、僕もそう思うよ。けどね、これはあの人の、ブロリーさんの為でもあるんだよ。あの人は戦いの中で生きてきた人みたいだからね」

 

苦笑した後、木場は目線を鋭くさせてブロリーを射抜く。

 

小猫もブロリーの一挙一動を見逃さず、ジッと見つめている。

 

ただ、朱乃だけは二人とは違い。その顔にはいつもの笑顔はなく、心配そうにブロリーを見守っていた。

 

「戦うって……どうすればいいんだ?」

 

「それもあなた自身に任せるわ。大丈夫、あなたなら負ける事もましてや死ぬ事もないから、思い切りやりなさい!」

 

戦い方も任せるとか、何とも無責任な話だ。

 

だが、リアスには確信があった。この男の力は恐らくは自分達が思っているよりも遥かに大きいものだと。

 

ブロリーは頭をポリポリと掻きながらバケモノの前に出て。

 

「…と、言うことで俺が相手をする事になった。……宜しく」

 

バケモノに向け、友好的な握手の手を差し出した。

 

それを目の当たりにしたバケモノは額に幾つもの青筋を浮かべ。

 

「ふざけるなぁぁぁっ!!」

 

ブロリーに向けて巨大な斧を振り下ろす。……が。

 

「………ん」

 

何となく防御のつもりで出した腕に斧がぶつかると。

 

人一人を軽々両断できそうな威力と重さを兼ね備えた斧は、音を立てて砕け散った。

 

「っ!! こ、このぉぉぉぉぉっ!!」

 

自分の得物が破壊された事にバケモノは目を見開き、次いで残ったもう片方の斧を凪払うように横に振るう。

 

──しかし。

 

「ん」

 

バケモノの剛腕に振るわれた斧は、ブロリーの掌にピタリと止められていた。

 

「ぬぐ、く、ぬぅぅっ!」

 

ビクともしない。両手で、しかも全力の力で押しているのに、自分の足元程度しかない小さな人間に、バケモノは完全に力負けしていた。

 

すると、今まで地に足が着いていた感触はなくなり、気付いたらバケモノはブロリーに得物ごと持ち上げられていた。

 

片手、しかも相変わらず表情一つ変えないで大質量である自分を持ち上げる目の前の“怪物”にゲルドは戦慄する。

 

「──ふっ!」

 

次の瞬間、短く吐き出される呼吸と共に、ブロリーはバケモノを空高く投げる。

 

その光景にオカ研メンバーはおどろきの声を漏らし、一誠に至っては口をアングリと開かせて、目は飛び出しそうな程に見開いていた。

 

「……木場」

 

「は、はい」

 

「それ、貸してくれるか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

ブロリーに頼まれ、木場は手にしていた剣を手渡す。

 

手にした感触を確かめると、ブロリーは既に米粒程に小さくなったバケモノに狙いを定め。

 

「ふんっ!」

 

ブロリーは木場から借り受けた剣を、槍の如く投擲し、バケモノを粉微塵に消し飛ばしたのだった。

 

 

パンッ!

 

 

弾けた醜い花火が、ここまで聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……これほどとはね」

 

 辺りに静寂が生まれるなか、リアスの呆れた声色が響いた。

 

「いやぁ、驚きましたよ。信じられないパワーですね」

 

「……むぅ、負けない」

 

「あらあら、小猫ちゃんも負けられないですわね。……でも、無事で良かった。どこか痛い所はありませんか?」

 

「……いや、大丈夫みたいだ」

 

今度こそ依頼を果たし、それぞれ帰る準備をするオカ研メンバー。

 

ブロリーに集まる三人にブロリー自身は少しばかり戸惑いながら答える。

 

「さて、今回は少しトラブルもあったけど、問題なく依頼は達成できたわ。……ブロリー、あなたにも無茶な事をさせてしまったわ。ごめんなさい」

 

「……いや、気にしてない」

 

「それで……記憶の方は?」

 

リアスの問いにブロリーは首を横に振る。

 

ブロリーは恐らく戦いの中で生きてきた人間。ならば戦いに身を置けばその空気に刺激され何らかの記憶が蘇ると思っていたのだが……。

 

(それとも、この男にとってはこの程度は戦いの内に入らないのかしら?)

 

リアスはブロリーに対する考え方を少し変え、物思いに耽っていると。

 

「あ、あの部長、最後に質問いいですか?」

 

「あらイッセー、何かしら?」

 

 

「木場や小猫ちゃん、朱乃さんがそれぞれの駒の役割があるのは分かったんですけど……俺は一体何の駒なんでしょう?」

 

恐る恐る訊ねてくる一誠、その表情はどこか期待に満ちたものが潜んでいた。

 

そんな一誠は満面の笑顔を作り。

 

 

「イッセーは兵士よ」

 

その一言に一誠は落胆の海に沈むのだった。

 

うなだれ、落ち込みを顕わにする一誠。そんな彼にブロリーは……。

 

「元気、だせ」

 

 

ブロリーは自分なりに、一誠を励ますのだが……。

 

「あんたに言われても、嬉しくねぇぇよぉぉぉぉぉっ!!」

 

どうやら逆効果を与えてしまったようだ。

 

 

 

 




相変わらず文章が拙いなぁ……読んで下さっている皆さんには本当に感謝です。

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