悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 03

「通りすがりの用務員……だと?」

 

 背中に黒い翼の生えた女、堕天使はいきなり割って入ってきた男──ブロリーに最大限の警戒心と光の槍の切っ先を向ける。

 

得体の知れないブロリーに注意を払いながら、女堕天使は街灯の突き刺さった木を見る。

 

 物の見事に貫かれた木からは煙が噴き出しており、その威力の高さを伺わせる。

 

並みの“戦車(ルーク)”でもああはいかない。

 

(コイツ、何らかの“神器(セイクリッド・ギア)”を有しているのか!?)

 

しかし、ブロリーからは神器も……ましてや悪魔の力も感じない。

 

自分とは知るどの存在にも該当しないブロリーに、女堕天使は相対するだけで額から嫌な汗を流していた。

 

「あ、あんたは……」

 

 一方で、襲われていた兵藤一誠も目の前に佇むブロリーに驚きを露わにしている。

 

学園の二大お姉さまの一角である姫島朱乃と共に校舎に入る際は親友である元浜、松田と共にブロリーに対し遠巻きから呪詛の念をぶつけていた程だ。

 

そんな彼が何故ここにいるのだろうか? 疑問には思っても激しい痛みにより一誠は言葉を発する事すらままならない。

 

「あ、ぐ……」

 

「……? 痛いのか?」

 

悶えている一誠にブロリーは作業着の袖を引き千切り、一誠の前で屈み込む。

 

「え、アンタ。一体何を……?」

 

呆然としている一誠を余所に、ブロリーは布切れとなった袖を包帯代わりに一誠の太腿に巻き付かせる。

 

「うーん。やっぱり上手くいかないな」

 

布越しから滲み出る血、それを見るとブロリーは無表情だった顔を僅かに曇らせる。

 

(コイツ、俺を助けるつもりなのか?)

 

うーんと頭を唸らせるブロリーに一誠は少しばかり感激する。今まさに殺されそうになっている場面で何も言わず助けてくれる目の前の男に、不覚にもときめいている自分がいる。

 

(って、何を考えているんだ俺は!? 俺はオンナが好き女の子が好き女の子が好き女の子が好き女の子が好き……)

 

頭を振って自分に言い聞かせる一誠。突然ブツブツと独り言を呟く一誠に首を傾げていると……。

 

「無駄だ! そいつの身体は私の放った光の毒が蝕んでいる! 喩え傷口を塞ごうと無意味だ!」

 

「……それは、お前を倒しても意味ないのか?」

 

「さぁな、なんなら試してみるか?」

 

女堕天使からの挑発の一言。それを聞くとブロリーはゆっくりと立ち上がり。

 

「……なら、そうしてみよう」

 

瞬間、女堕天使は息を呑んだ。

 

自分の翼よりも黒く、澄んだ瞳。何も映らない漆黒の目に女堕天使は圧されてしまう。

 

もしかして、窮地に立たされているのは自分では? そんな錯覚さえ覚えてしまう。

 

ブロリーの瞳に動けなくなった堕天使───そして。

 

「っ!?」

 

気が付けば、自分の眼前にブロリーが迫ってきていた。

 

見ればブロリーがいた地面は窪んでおり、小さなクレーターが出来上がっている。

 

一誠も何が起こっているのか分かっていない素振りで呆然としている。

 

(まさか、たった一度の踏み込みでここまで!?)

 

異常な身体能力を有するブロリーに女堕天使は戦慄する。だが、そればかりではいられない。

 

(回避、駄目だ間に合わない!!)

 

迫り来るブロリーの突進に備え、腕を交差する女堕天使。

 

来る!! 堕天使は自分の体に襲いかかる衝撃に備え全身に力を込め、身構えると。

 

 

ドンガラガッシャァァァァッ

 

 

「「───はい?」」

 

勢いに乗ったブロリーはそのまま女堕天使に突っ込む────事はなく、その横を通り過ぎ、噴水へと激突した。

 

破壊され、崩れていく噴水を前に女堕天使と一誠は間抜けた声を出してしまう。

 

「──むぅ、また外した」

 

水道管が破裂した事により辺りは水浸しになり、土と水を浴びた事により泥だらけとなってしまったブロリー。

 

「えぇぇぇっ!? ちょ、この展開でそれはないでしょぉぉぉぉ!?」

 

頭を掻きながら立ち上がるブロリーに、一誠も堪らず突っこんでしまう。

 

何とも間抜けた姿を晒すブロリーに女堕天使は引きつった笑みを浮かべる。

 

「ふ、ふん、どうやら自分の力を使いこなせていないみたいだね。そんな様で私に勝とうなんざ百年早いよ!」

 

「………」

 

「出てきな、“悪魔祓い(エクソシスト)”ども!」

 

パチリと、女堕天使の指が弾く音が公園内に響き渡ると、そこら中の物影から神父の服を着た青年達が姿を現した。

 

その手には拳銃や光の剣や、斧、槍等が握り締めており、瞬く間にブロリーの周囲を囲んでいた。

 

「……?」

 

いきなり現れた神父達。悪魔祓いと呼ばれる彼等の力は悪魔を滅する為の光の武器が備えられている。

 

しかし、そんな知識など持ち合わせていないブロリーは向けられた武器と殺気に対してもただ首を傾げて怪訝に思うだけ。

 

「おっと、動くなよ。動いたらこの坊やを串刺しにするわ」

 

「ひっ!」

 

向けられた光の槍に恐怖に顔を歪ませる一誠。その光景を見て漸くブロリーは自分が今置かれている状況を何となく把握出来た。

 

ひとまず両手を上げて降参の意を示すブロリーだが、女堕天使は口を三日月に歪ませ。

 

「そぉらっ!」

 

ブロリーに向けて光の槍を放った。

 

光の槍は真っ直ぐブロリーの心臓目掛けて飛来して来る。

 

後ろでは一誠の止めろという悲鳴が聞こえてくる。

 

愉悦に顔を歪ませる女堕天使。

 

(惨たらしく臓物をぶちまけろ!)

 

 愉悦に表情を歪ませる堕天使。そして、光の槍が遂にブロリーに突き刺さ──

 

 

パキャァァァ……ン

 

 

──る事もなく、光の槍は砕け、あっさりと消滅した。

 

「……は? ………はぁぁぁぁぁっ!?」

 

目の前の出来事に一度その全思考を停止させ、次いで一気に爆発させる女堕天使は、悪夢を見ているかのような錯覚に陥る。

 

何故、何故砕けたのだ? 下位とはいえ自分の光の槍はそんじょそこらの……ましてや人間風情に防がれる代物ではない。

 

障壁を張った? それとも何らかの方法で相殺させた?

 

どんなに考えても答えは見つからない。そもそもブロリーはそんな素振りも見せていない。

 

現に、ブロリー自身も面食らっている周囲にどうしたもんかと呑気に頬を掻いている。

 

「まさか……奴の肉体が、私の槍よりも強靭だというのか!?」

 

単純にして明確、しかし一番有り得ない答えに女堕天使は激しく狼狽する。

 

「まさか、ドーナシークが言っていた奇妙な男とは……貴様か!」

 

「……ドーナツ?」

 

「確かに悪魔でもなければ天使の力も感じ取れないし、我々堕天使とも違う……しかし、しかしこれでは!」

 

「……何を言っているんだ?」

 

酷く動揺している女堕天使に対し、ブロリーは頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。

 

……というか、攻めてもいいのだろうか? ブロリーが未だ狼狽している女堕天使に向かって一歩進むと。

 

「と、止まれ!」

 

「うう動くんじゃない!」

 

神父達は手にした武器をブロリーに突き付け、その動きを封じようと詰め寄った。

 

しかし、武器を突き付けられているブロリーよりも、神父達の方が怯えていた。

 

当然だ。悪魔に対しては効果絶大、人間に対しても強力な殺傷兵器である光の槍が目の前の男には薄皮一枚にも届いていないのだから。

 

「………」

 

「ひ、ひぃっ!!」

 

ジロリと周囲を見渡すブロリーに悪魔祓い達は悲鳴を漏らす。

 

常闇よりも暗く、奈落よりも深い瞳、魂が抜け出てしまう感覚に悪魔祓い達は体が震えて仕方がなかった。

 

そんな彼等に見かねた女堕天使が一誠に向き直り。

 

「くそっ! ならば本来の目的を果たすまでよ!」

 

手にした槍を振りかぶり、放とうとした。

 

───瞬間。

 

「ぬぐっ!?」

 

光の槍を手にしていた女堕天使の左手が槍と共に爆発した。

 

「昨日といい、そして今日といい、余程あなた達は私を怒らせたいみたいね」

 

赤い魔方陣から現れる真紅の神の女性、リアス=グレモリー。

 

木陰からは塔城子猫に木場祐斗、そしてリアスの隣には姫島朱乃が。

 

「く、グレモリー家の次期当主が何故しゃしゃり出てくる!」

 

「アナタのお仲間から聞いていないのかしら? ここは私の管轄よ。しかも……その子は私の下僕なの」

 

リアスのその一言に女堕天使は表情を苦虫を噛み砕いたように歪める。

 

「グレモリー家の眷族達と不確定要素が一緒では、流石に分が悪いか」

 

それだけ言うと女堕天使は煙りの上がる左手を抑えながら黒い翼を広げ、飛び立っていき。

 

ブロリーを囲んでいた悪魔祓い達も蜘蛛の子が散らしたが如く逃げていった。

 

公園内に訪れる静寂。いなくなった女堕天使達にブロリーは頭を掻きながらリアス達の下へ歩み寄っていく。

 

「部長、追わなくても?」

 

「今はいいわ。それよりも……」

 

そう言ってリアスは倒れ伏している一誠に歩み寄り、その手で彼の頬を優しく撫でる。

 

「ごめんなさい一誠君。来るのが遅くなってしまって、傷は……痛むわよね」

 

「り、りりりリアス先輩!? え、なんで? どうして!?」

 

対する一誠は突然の事態に頭が極限に混乱していた。

 

それも当然だろう。何せ学園のアイドルとも呼ばれている二大お姉さまが二人も目の前に現れ、しかも一部の人間には多大な人気を誇る塔城子猫までもが一緒にいるのだ。自他共にスケベと認める一誠が興奮しない筈がない。

 

そんな彼女達の登場に木場は勿論、自分を助けに来てくれたブロリーすら一誠の視界すら消え失せていた。

 

「あ、う……」

 

 興奮した事で一誠は女堕天使に付けられた傷と出血により意識を失う。

 

そんな一誠を愛しそうに抱きかかえると、リアスはブロリーに向き直り。

 

「ブロリーさん、私の下僕を助けてくれてありがとう。お陰でこの子を死なせずに済んだわ」

 

「……いや、あんまり役に立てなかったみたいだから別に……」

 

「いいえ、そんな事はないわ。……明日、何らかのお礼がしたいのでもう一度オカルト研究部に来て下さい」

 

リアスはそれだけを告げると悪魔の翼を広げ、一誠を抱きかかえたまま夜の空へと飛び立っていった。

 

「それじゃあブロリーさん。また明日、部室でお待ちしております」

 

「……また明日」

 

木場や子猫もブロリーに別れを告げて闇の中へと消えていく。

 

公園に残されたのはブロリーと朱乃の二人のみ。

 

「それでは、私達も帰りましょうか」

 

「……あぁ」

 

ニコニコと微笑む朱乃に付いて行きながら、ブロリーは後ろを振り返る。

 

(あれ、あのままにしていいのか?)

 

翌日、公園の前を通りかかると、折られた街灯や砕けた噴水も綺麗に元に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、破れた作業着を生徒会長に見せると、既に事情はリアスから聞かされていたらしく、代えの作業着を快く貸してくれた。

 

何でも生徒会長───支取 蒼那(しとり そうな)も悪魔で、リアスとは旧知の中らしく、その甲斐あって記憶喪失であるブロリーに対し色々と世話をしてくれる非常に有り難い人物。

 

「では、今日も荷物運び、お願いしますね」

 

「……はい」

 

故に、ブロリーにとっては朱乃に続いて頭の上がらない人物であり、唯一敬語で話す人物でもある。

 

因みに敬語は朱乃から教わり、何とか2日でモノにしている辺り、ブロリーの蒼那に対する感情が垣間見える。

 

「では、仕事を始める前に……匙、来なさい」

 

「うっす!」

 

「彼は匙 元士郎(さじ げんしろう)私達と同じ生徒会のメンバーで、私の眷族となった転生した悪魔です」

 

「匙 元士郎です。よろしくお願いします!」

 

「……あぁ」

 

蒼那と元気に挨拶をしてくる匙に取り敢えず返事を返すブロリー。

 

その後蒼那に案内されると、そこには既に大型のトラック駐車しており、業者の人が校庭の隅に荷物を置き終わっていた。

 

「……では、以上で全ての搬入は完了という事で」

 

「はい、此方も確認が取れました。荷物の運搬、ありがとう御座いました」

 

ダンボールに入った全ての荷物の確認を終え、蒼那は頭を下げると、業者の方もペコリと頭を下げ、トラックに乗り込み学園を後にした。

 

「それでは、匙、ブロリーさん、貴方方にはこの荷物を体育館に運んで下さい」

 

「こ、これを……全部、ですか?」

 

高く聳えるダンボールの山に絶句する匙。それもその筈、積み上げられたダンボールの山はこの他にもあと二つほど鎮座しているのだ。

 

しかも、その中身全てが花壇に使われる煉瓦や教材道具といった重たいものばかり。

 

ダラダラと嫌な汗を流す匙に対し、ブロリーは早速荷物運びに取り掛かる。

 

「それと匙、貴方には授業もあるのですから、なるべく早く終わらせなさい」

 

鬼とも呼べる言葉だけを残し、蒼那は校舎の中へと戻っていった。

 

兎に角やるしかない。折れそうな心を強く保ち、匙は目の前の難所に立ち向かう。

 

これだけの数、一体何に使うつもりなのだと言いたい匙だが、手にした荷物の重さでそれ所ではなかった。

 

悪魔に転生した事で身体能力は底上げされたが、それでも成り立ての匙には三つまで持つのが限界だった。

 

(お、重てぇ……こんなの次の授業まで間に合う訳が……)

 

と、泣き言を内心で叫びつつ、ふと隣りを見ると。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

自分の十倍以上の数のダンボールを難なく担ぎ、軽快に体育館に運んでいくブロリーに匙は思わず噴き出してしまう。

 

まるで羽を持つような軽快な動き、息一つ乱さないブロリーに匙はある光景を思い出す。

 

『昨日入った新しい用務員、ブロリーさんだったかしら?』

 

『最初はリアスの我が儘かと思ったんだけど、彼、結構働いてくれるのよね。前の人はお年の所為で辞められてたから人数的に少し厳しかったから、これは嬉しい誤算ね』

 

『しかも、結構カッコいいしね。知ってる? 影では彼のファンクラブが既に出来ているみたいよ。ソーナはどう?』

 

『そうね。確かに彼の仕事振りは書類関係以外では優秀だし、器量も悪くないと思うわ。……けど、私はそういうのは別に興味ないし』

 

なんてやり取りが生徒会室で行われていた事を一部見ていた匙は……。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!! 負けるかぁぁぁぉぁぁっ!!」

 

ブロリーに負けじと荷物運びに精を出すのだった。

 

余談だが、後日、全身が激しい筋肉痛に襲われた匙はやむなく学校を休む事になり、ソーナに呆れられるのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後、用務員の主な仕事を終えたブロリーは旧校舎のオカルト研究部へ赴いていた。

 

「あ、ブロリーさん。お待ちしておりました」

 

既に部室にはオカルト研究部の全メンバーが集結しており、その中には此方を向いて驚きに目を見開いている兵藤一誠もいる。

 

「待ってたわブロリーさん。今イッセーに私達について色々話していた所なのよ」

 

私達、つまり悪魔や堕天使、天使達の事を話したのだろう。

 

「あ、アンタも悪魔なのか?」

 

「いや、俺は……」

 

「彼はちょっとした事情で今は朱乃の家に泊めて貰っているの。因みに、“一応”人間よ」

 

リアスの一応という一言が少し引っかかるが、特に何も言わず、ブロリーは近くにあったソファーに座る。

 

その際、朱乃と一つ屋根の下で暮らしていると知った一誠からは何やら恨みの籠もった視線をぶつけられるが無視する。

 

「さて、イッセーには私達に関する最低限の事を伝えたし、あとは悪魔としての初仕事をこなして貰うだけだけど……」

 

その前に、と、リアスはブロリーに向き直り。

 

「昨夜は私の下僕を救って頂き、本当にありがとう。貴方には感謝しているわ」

 

リアスはブロリーに改めて感謝の言葉を言い、深々と頭を下げる。

 

それを見た一誠も頭を横に振り、姿勢を正して。

 

「え、えっと、昨日の事はあまり覚えてないけど、アンタに助けて貰った所ははっきりと覚えているんだ。遅くなったけど……助けてくれて、ありがとうございます!」

 

リアスに習って一誠も深々と頭を下げる。

 

すると他の三人も二人のように頭を下げている。対するブロリーは頭を下げられているリアス達に戸惑い、どうすればいいか迷っているようだ。

 

感謝されるのが慣れていないのか、普段とは違う反応を見せるブロリーに、朱乃はクスリと笑みを零す。

 

「別に、俺が勝手にやった事だから」

 

気にしなくていいと告げるブロリーにリアスは微笑み、他のメンバー共々姿勢を正す。

 

しかし、と、今まで微笑んでいたリアスは陰鬱な表情に変わる。

 

「……けれど、貴方には感謝すると同時に謝らなければならない事があるの」

 

「? ……どういう事だ?」

 

「昨日、そして一昨日の一件で貴方は完全に堕天使側に目を付けられる事になったわ。堕天使でも天使でもない貴方が私達悪魔側にいると知られれば、余計ないざこざに巻き込まれる可能性だってあるの。それは私にとってもあまり望むところではないわ」

 

「俺は別に気にしないが?」

 

「気にする、しないの問題じゃないの。どの眷族にも属さないものを戦わせるとあっては、私達グレモリー家の名が廃れるわ」

 

凜とした表情でブロリーを見つめてくるリアス。彼女の瞳からは決して引かないという強い意志が滲み出ている。

 

「まぁ、そこまで言うなら構わないが……」

 

「ありがとう。貴方の記憶の方もホトボトリが冷めたら引き続き手伝わせて貰うから安心してね」

 

「いいのか?」

 

「悪魔は一度結んだ契約は必ず果たすわ」

 

そう言ってリアスは徐に指を鳴らすと、隣に控えていた子猫が立ち上がり、ブロリーに一つの箱を差し出してきた。

 

「……これは?」

 

「それは今回私の下僕、一誠を助けてくれた事へのお礼よ。開けて見て頂戴」

 

言われたまま箱の中を開けると、中には一枚の地図と鍵、そして一機の携帯電話……しかも最新モデルが置かれていた。

 

耐水、耐防塵、耐衝撃、ハイブリット使用でありながら電池の消費削減と良いとこ取りの機種。

 

一誠も稀に見る超最新機種に「おお!」と声を漏らしている。

 

「いつまでも朱乃の所に厄介になるのは気が引けるだろうと思ってね。貴方にマンションの一室をあげる事にしたの」

 

「あらあら、私は別に気にしてませんわよ?」

 

「よく言うわよ。朱乃、貴方彼のご飯を用意するのに一週間分の食料丸々使ったって聞いたわよ?」

 

リアスの指摘に朱乃はピシリと固まる。

 

そう、この男ブロリーは恐ろしく燃費が悪いのだ。

 

兎に角何でも食べ、米俵を丸々一つ食べないと気が済まない大食漢であるため、この2日で神社に備蓄されていた食料は全てなくなってしまっている。

 

ブロリーのトンでもない食欲を聞かされた一誠、及びオカルト研究部のメンバーは少し引いている。

 

……ただ、小猫だけはブロリーに挑戦的な視線を送っていた。

 

「……コホン、話が逸れたわね。説明するとマンションの方は貴方の自宅であると同時に堕天使、天使に対するある程度の処置でもあるの」

 

「……つまり?」

 

「私達と貴方が別々に過ごす事で、私達が無関係であることを彼等に知らしめるの。そうすれば今回は兎も角として、今後は余計ないざこざに巻き込まれる可能性は減ると思うわ」

 

「……ふーん」

 

「荷物は明日、貴方が仕事を終えるまでに朱乃の家から運び出す予定だから、放課後見に行ってご覧なさい。携帯の方は何かあった時にすぐ私達に連絡出来る為の処置よ」

 

リアスから一通りの説明を受けたブロリーは今度は朱乃達から携帯に関しての講座を受け、その後新しく部員兼リアスの下僕となった一誠の悪魔の仕事の風景を観察したあと、朱乃と共に帰るのだった。

 

その際、「ハーレム王に、俺はなる!」と叫びながら自転車を漕ぐ一誠に何度かすれ違いながら、悪魔も大変なんだなと思うブロリーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、事務員の仕事にも慣れてきて、生徒会長の蒼那に褒められ、その度に匙から荷物運びの勝負を仕掛けられるなどの紆余曲折。

 

 今日の仕事も終わり、ブロリーはリアスから渡された地図に記されているマンションに向かって歩いていた。

 

携帯には朱乃が付けてくれたネズミをモデルにした人気キャラクター『ラッチューくん』が、ポケットから顔を覗かせている。

 

「……次の角を右、うん、結構覚えてきたな」

 

今の所、地図の通りに動けているし、道もある程度覚えてきている。

 

後は迷わない程度に何度も往復し、学校までの道のりを完璧に覚えれば今日の日程はクリアだ。

 

 ……リアスの言う通り、今まで自分は朱乃に頼りすぎていた。と、ブロリーは思う。

 

これからも記憶探しに世話になるのだから最低限、せめて自分の暮らし位は自分で何とかしたいと思った。

 

明日にはまたオカルト研究部に顔を出す予定だし、その時にでも朱乃から料理と言うものを教えて貰った方がいいのかも知れない。

 

「そして、次の公園を左に……と」

 

もう間もなくして用意されたマンションに辿り着こうとした時。

 

「はう!」

 

小さな悲鳴らしき声が公園の方から聞こえてきた。

 

何だと思い足を止め、公園の方に目を向けると……。

 

「あうぅ、どうして転んでしまうんでしょう?」

 

一人、公園のど真ん中で盛大に転び、純白なパンツを晒す少女がいた。

 

「……大丈夫か?」

 

誰もいない公園、自分しかいないこの状況にブロリーは取り敢えず呼び掛ける。

 

「あ、はい。ご迷惑を掛けて申し訳ありませ……!」

 

ガバリと立ち上がった少女は服に付いた埃を払いながら此方に振り返り頭を下げる。

 

その際、再び転びそうな所をブロリーが寸での所で抱き止める。

 

「……大丈夫か?」

 

「す、すすすみません!」

 

「いや、……怪我は?」

 

「あ、はい! お陰様で何とか!」

 

ブロリーという男性に抱き止められた事に顔を真っ赤にする少女。

 

対してブロリーはそんな少女に本当に大丈夫かと首を傾げる。

 

「本当にありがとうございます! よろしければお名前をお伺いしても宜しいですか? 私はアーシア=アルジェントと言います」

 

「……ブロリーです」

 

ブロリーとシスターの少女、夕暮れ時の二人は端から見れば美少女と野獣、もしくは天使と悪魔に見えたという。

 




……相変わらずの駄文ですみません。

一応何度も確認しての投稿なのですが、指摘する箇所がございましたら宜しくお願いします。

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