悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 28

 

 

 キィィィンッ

 

甲高い金属音のぶつかり合う音が広大な荒野に響きわたる。

 

「へいへいどうした悪魔君。さっきの威勢は旅行中なのですかな?」

 

「くっ!」

 

 リアス=グレモリーの眷属、騎士の木場祐斗は目の前で相対するはぐれ悪魔祓い、フリード=セルゼンに苦々しい思いと共に舌打ちをする。

 

より正確に言えば、フリードの持つ聖剣エクスカリバーに、だ。

 

自分を殺し、仲間達を殺した元凶。それが目の前にいるのだ。正直、木場の内心はエクスカリバーに対する憎しみで一杯だった。

 

だが、ここで勝手な行動をするわけには行かない。何故なら─────。

 

「木場、援護するぜ!」

 

「匙君!」

 

今、ここで戦っているのは彼だけじゃないからだ。

 

「さっきの犬みてぇに動きを止めてフルボッコにしてやる!」

 

一度後ろに下がった木場と入れ替わるように前に出る匙。その手の甲には可愛らしいトカゲの模様が浮かび上がっており、その舌から伸びる黒いラインをフリードに向ける。

 

「おっと、そう問屋はおろしません事よ? ケルベロス!」

 

「ギァァァッ!!」

 

だが、四つのエクスカリバー。中でも破壊に秀でた破壊の聖剣の能力でラインを振り払うと、匙の前に二体目のケルベロスが立ちはだかる。

 

「くそ、またコイツか! ラインで動きが止めようにも……」

 

「やらせるわけ……ないでんがな!」

 

「ぬぉっ!?」

 

 匙を斬り捨てようと、フリードの持つ聖剣の刃が迫る。匙は薄皮一枚で何とか避けるが、すぐさまアーシアのいる後方まで下がる。

 

相手は聖剣、ただの掠り傷ですら悪魔には致命傷になりかねない一撃。ソーナから事前に聖剣の力を伝え聞いていた匙は、悔しい思いを噛みしめながらアーシアの治癒を受ける。

 

「やらせると思ってんですかい? そこの元クソシスター諸共やっつざっきにしてやんよー! あ、もう悪魔でしたねごめんちゃい」

 

ムザムザ回復などさせない。フリードは統合された四つの内、擬態の聖剣の能力を以アーシアに刃を向ける。

 

まるで意志をもったようにうねり始め、宙を無軌道に激しく動きながら聖剣の刃が迫る。

 

「させないよ!」

 

 迫り来る聖剣。その前に騎士の木場がアーシアの前に立ち、迫り来る聖剣を払い落とす。

 

「朱乃!」

 

「分かってますわ!」

 

 リアスの指示を受けるよりも早く行動に移していた。空に舞う朱乃、彼女の指が天に向けられると稲妻が迸り、フリードに向けて雷を落とす。

 

「ところがぎっちょん!」

 

 フリードは伸びた聖剣に次なる付与を与える。それは天閃の聖剣、速さだけなら聖剣野中でも随一と誇るその力で、聖剣をまるで鞭の様に扱い、朱乃の雷鳴を打ち消してしまう。

 

「ち、厄介な能力ね」

 

「天閃に擬態、そして破壊と透明。ただ力だけじゃなく搦め手にも強いから此方の手も簡単に対処されるわね」

 

悉く此方の攻撃を対処し、そして上回ってくる聖剣。四つの能力を持つ聖剣を見事に操るフリードにリアスとソーナは舌打ちを打つ。

 

「へいへいへいへいへーい! どうしたんだい悪魔の一行さん! 大勢で来た割りにはあまり大したこと無いなぁ? それとも僕ちん達の聖剣が怖い? ねぇ怖いの?」

 

ヘラヘラとおどけたように笑うフリード。彼の挑発に乗る愚考は犯さないが、それでも勘に障るのは否めない。

 

「まずは鬱陶しいケルベロスから片づける。幸いイッセーから譲渡された魔力は使ってないから一撃で消せるわ!」

 

「なら、小猫さん、朱乃さん、ケルベロスの動きを封じて! 他の生徒会メンバーはその間リアスを守りなさい!」

 

「「「了解!!」」」

 

ソーナの指示に従い、それぞれの持ち場に着く生徒会メンバー。しかし、そんな彼らに。

 

「う、あぁぉぉぁっ!!」

 

虚ろな聖剣使い、ゼノヴィアがデュランダルを携えて襲いかかる。彼女が狙う先にいるのは……。

 

「─────っ!」

 

リアス=グレモリーの戦車、小猫だった。

 

「小猫ちゃん、危ねぇ!」

 

 二人の前に割って入るイッセー。振り下ろされる聖剣を彼はドラゴンとなった左腕でこれを防ぐ。

 

「うっぐ!」

 

「イッセー先輩!」

 

「だ、大丈夫だ! これくらい……」

 

ドラゴンとなったイッセーの腕は悪魔特有のダメージは受けない。つまり、聖剣から発する聖なるオーラを直接受けても大したダメージにはなり得ないのだ。

 

しかし、ゼノヴィアの持つ聖剣デュランダルはエクスカリバーと並ぶ最強クラスの聖剣。いくらドラゴンの腕と籠手で防いだとしても限界がある。

 

「うぅぅ……あぁぁぁぁぁっ!!」

 

「うわぁっ!」

 

 遂には押され、吹き飛ばされるイッセー。地面に激突した衝撃で肺の中の空気が強制的に排出される。

 

「イッセー先輩!」

 

「俺は、いいから……早く、ケルベロスを」

 

振り返る小猫に構うなと小さく檄を飛ばすイッセー。小猫は一瞬だけ狼狽えるがすぐさま前に向き直り、犬歯を剥き出しにしているケルベロスに向かって駆けていく。

 

『反応が遅いぞ相棒、来るぞ』

 

「分かっ……てるよ!」

 

ドライグに言われ、すぐさま立ち上がるイッセー。既にゼノヴィアは此方に向かって駆けだしており、次の一撃を放とうと構えている。

 

だが、そんな彼女の足に黒いラインが巻き付く。

 

「匙か!」

 

「貸しにしとくぜイッセー! さっさとこの危ない姉ちゃんを止めてくれ!」

 

 手の甲に浮かんでいるトカゲを最大限に輝かせて、匙はゼノヴィアの動きを封じる。これは好機だと一誠も頷き、籠手に倍加の力を顕現させる……が。

 

「がぁぁぁぁっ!」

 

「なっ!? のわっ!」

 

「匙!」

 

獣を彷彿させる雄叫びを上げ、ゼノヴィアは足に纏わりついたラインをデュランダルで両断する。

 

「ま、マジかよ、幾ら聖剣でも一撃位じゃ切り落とせない匙のラインをあんな簡単に!?」

 

『当然だ。デュランダルは当時のエクスカリバーと同等だと称される最強クラスの聖剣だぞ。未だ未熟な悪魔程度の拘束など、歯牙にもかけん。……尤も、未熟なのは向こうも同じだがな』

 

手練れの聖剣使いなら今の一撃で終わっている。脳内に聞こえてくるドライグのデュランダルに対する評価に、一誠は悔しそうに歯軋りする。

 

だが、これで幾分かの時間は稼げた。

 

「……えい」

 

「グゥオォォォォォォっ!?」

 

 遠くから聞こえてくる獣の叫び、見れば小猫の拳がケルベロスの胴体に突き刺さり、悶絶の声を上げて宙に浮いていた。

 

「さぁ、地獄の番犬ケルベロス、塵一つ残せずに消し飛びなさい!」

 

そこへ一誠の譲渡の力に大幅に増大した魔力でリアスは極限にまで高めた滅びの力を打ち出す。

 

打ち出した滅びの球体はケルベロスの体を呑み込む程に強大で、呑み込まれたケルベロスはリアスの宣言通りに塵一つ残さずにこの世から消滅した。

 

「よし、これで残るはクソ神父とデュランダルの姉ちゃんだな」

 

「漸く、スタートラインに立てたった事か」

 

並び立つ一誠と匙、相対するゼノヴィアに目を向けると以前として彼女の表情は虚ろだ。一体何をしたらこんな無気力な顔になるのだろう?

 

自我の強い人間、ましてやゼノヴィアは信仰心の強い教会の信者だ。相容れないがその芯の強さは本物だと思う。

 

「不思議に思うかね赤龍帝。どうして彼女がこちらの意のままになっているのかが」

 

「っ!」

 

まるで此方の思考を読みとったようなバルパーの言動に一誠は目をむく。

 

「確かに彼女の意志は堅かった。そしてそこから来る信仰心も、そう言う意味では彼女は正しく神の徒なのだろう。おかげで、最初は洗脳するのにエラい手間取ったよ。けど、逆を言えばそれだけなんだ。彼女の意志、その母体である信仰心も、手繰り寄せてみれば一つの存在に行き着くからな」

 

「??? な、何を言ってる? 何のことを言ってるんだアイツ」

 

訳が分からない。バルパー・ガリレイの定まらない物言いに混乱する。

 

「なら、順にいって教えて差し上げよう。尤も、これは私もコカビエルから聞かされて酷く驚いたのだがね」

 

「前口上はいらないわ。とっとと吐きなさい」

 

バルパーの勿体ぶった口調に、リアスは苛立ちの声を上げる。そんな彼女の様子が可笑しいのか、バルパーはクククと不気味な笑みを零す。

 

「なら、一つ聞こうサーゼクス……魔王の妹リアス=グレモリー。先の大戦で君達悪魔は何を失った?」

 

「………嘗ての魔王達と、それに連なる上級の悪魔達よ」

 

「そう、そして堕天使達は幹部以外の多くの同士を失った。……ならば神は? 天の守護者にして世界の管理者たる神は………どうなったと思う?」

 

「……?」

 

一体、何が言いたいのだ? 要領の得ないバルパーにリアスは更に苛立ちを積み重ねると。

 

「っ! ………まさか」

 

バルパーの真意に気付いたのか、ソーナは信じられないと目を見開き、驚愕を露わにした。

 

そして、そんなソーナの反応が良かったのか、バルパーは顔を抑え、遂には噴き出してして──────。

 

「く、ハハハハハハハッ! そうだセラフォルーの妹よ。お前の想像通りだ! かの大戦で死んだのは魔王だけじゃない! 神もまたあの時の戦争で死んでいるのだよ!!」

 

神は既に死んでいる。その事実は彼女達に大き過ぎる衝撃を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神は、既に死んでいるだと?」

 

「そうだ。人間よ。貴様等を生み出した古の神はとうの昔に死んでいる。もはや、貴様等に神の加護を授かる日は二度と来ないのだよ」

 

 目の前の宙に浮かびながらコカビエルは愉快に告げる。

 

 神はいない。人間を生み出し、世界を創造したとされる聖書に書かれた父なる存在は、古の大戦で魔王達と同様に死んで滅びているのだという。

 

二度と神の加護をその恩栄を受ける事は二度と、絶対にない。その事実は信仰者でもない人間にも大きな衝撃となるだろう。

 

だが────。

 

「そうか」

 

ブロリーは差ほど気にした様子もなく、だからどうしたと言わんばかりに応える。

 

「ほう? 全く動揺していないとはな。貴様にとって神は無価値と同じか?」

 

「別に、俺は神なんて会った事ないし……知らない奴を気にかける余裕なんて俺にはない。────ただ」

 

「?」

 

 ふと、ブロリーは一誠達がいるであろう遙か後方に目を向ける。

 

神。そいつが本当に存在して、どんな事も出来る凄い奴なのだとしたら。

 

(アーシアや木場も、死なずに済んだのかな)

 

 神器の所為で疎まれ、エクスカリバーという聖剣の所為で殺された。そんな二人がもし神の加護を受けていたのだとしたら…………そんなifを想像してしまう。

 

 …………止めよう。それはあまりにも無意味な事だ。存在しない神に縋った所で、過去は変わらない。それに、そこで都合良く神を頼ったりすれば、それこそ間違いな気がする。

 

ブロリーは頭を振り、余計な考えを捨てる。それに、神がいないのだとしても。

 

「神がいなくても、俺達は生きている。木場も、アーシアも、イッセーも、皆生きている。俺は、それだけで十分だ」

 

 今、自分には友達がいる。と、ブロリーは胸を張って言える。

 

それだけで十分だ。今の自分がこうしているのも、戦っている理由も、それだけで自分にはお釣りが来る。

 

 神はいないが、そこだけは感謝している。

 

「………今の貴様を見ていると、あの意気地のないアザゼルを思い出す」

 

「アザゼル?」

 

 憎しみの籠もった眼光が、ブロリーを射抜く。

 

 また聞いたことのない名前だ。新たに出てきた名前に疑問を抱くブロリーを余所にコカビエルは忌々しそうに口を開く。

 

「先の大戦、そこで俺達は多くの仲間を失った。悪魔も、そして天使も。故意にでも起こさない限り、二度と戦争は起こらない。それだけどこの勢力も泣きを見た。お互い争い合う原因となっていた神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断しやがった。アザゼルの野郎も戦争で大半の部下を亡くした所為か、『二度めの戦争はない』と宣言する始末だ! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めるだと!? ふざけるなっ! あのまま続けていれば俺達が勝てたかもしれないのだ! それを、それをっ! 人間の神器所有者を招き入れねば生きていけぬ堕天使どもなぞ何の価値がある!?」

 

憤怒の形相で自らの持論を語るコカビエル。

 

勝てたかもしれない戦争、最期まで戦えず

未練を残した戦争への想いを込め、コカビエルは拳を天に翳す。

 

「俺は戦争を始める。これを機に! 貴様と、魔王の妹共と、その眷属達の首を土産に! 俺だけでもあのときの続きをしてやる! 我ら堕天使こそが最強だとサーゼクスにも、そしてミカエルにも見せつけてやる!」

 

 ルシファー。ミカエル。

 

その両名はどちらも聖書に記された強大な存在。古より伝えられ、絶対的な存在として語り継げられてきた者達。

 

コカビエルはその両者達と相対する力と覚悟を持っている。

 

これが、堕天使。企む野望の規模、そのスケールの大きさに─────。

 

「そんな事、俺は知らない」

 

男、ブロリーは一言でコカビエルの野望を切り捨てる。

 

「ルシファーなんて知らないし、ミカエルなんて聞いたこともない。お前の目的なんて俺には知った事じゃない。………だがな」

 

「?」

 

「お前は、ここで倒す。お前の目的も、企みも、全部ここで終わらせる」

 

 ブロリーの瞳に強い光が宿る。コイツは許せない。コイツだけはここで止めなければならない。

 

一歩踏み出し、拳を強く握りしめたブロリーはコカビエルを見据える。

 

「大口を叩くなよ人間、貴様がどこのどんな存在かは知らないが、俺の野望を止めるにはまだ力が足りんぞ!」

 

 コカビエルの背中に広がる十の黒き翼。その動きに呼応するかのように彼の背後には無数の光の刃が顕現される。

 

空を覆う程に広がる刃の軍勢。その一本一本が必殺の威力を込められている。

 

下級や中級、上級の堕天使でも届き得ぬその領域の強さは、正に最上級。

 

「褒めてやろう人間。お前は強い。今までに出会ったどの人間にもお前ほどの猛者は数える程度しかいなかった。─────だが」

 

これで、終わりだ。

 

漆黒に染まる翼が羽ばたくと、刃の群は一斉にブロリー目掛けて押し寄せてくる。

 

それは津波、或いは濁流。光の力を宿し、魔には絶対的な消滅の威力を誇る刃達が、ブロリーに向かって猛威を奮う。

 

呑み込まれ、既にブロリーの姿は見えない。切り刻まれ、ただの肉片となっているだろうが、それでもコカビエルは攻撃の手を止めない。

 

「俺の名はコカビエル。貴様を葬った男の名だ」

 

渦を巻く光の刃の中心点を見て、コカビエルは満足そうに笑みを浮かべる。

 

まさに激闘。今までの戦いに比べ実に有意義な戦いだった。

 

死闘と呼べる程の熾烈さは無かったが、それでも余興と呼ぶには充分過ぎる内容だ。

 

あとは残った魔王の妹二人とその眷属達をくびり殺すだけ。未だに収まらない光の渦に背を向け、一誠達のいる方向に向かおうとした。

 

「………む?」

 

 ふと、違和感に気付く。空を見上げ、辺りを見渡したコカビエルは感じる違和感の内容を口にする。

 

「空が……変わった?」

 

 空だけじゃない。大地も、風も、より詳しく言えばこの空間そのものが異質な“緑色”へ変わっているのだ。

 

先程までのこの空間は見事なまでの大自然だった。人工的にとはいえ、こうも外の景色と遜色ない所に、コカビエルも唸る程に悪魔の技術力に関心していた。

 

だが、それが異質な空間に変わった時、コカビエルの頬に嫌な汗が流れる。

 

そして。

 

「空間が……縮んでゆく!?」

 

先程まで自分を、この空間ごと包み込んでいた異質が、ある一点に向かって収縮していく。

 

─────まさか! 自分の背筋に伝わる悪寒と生物的本能に従い、コカビエルは背後へと振り返る。

 

そして、案の定─────奴は、いた。

 

その鍛え抜かれた肉体には一つの傷も残さず、消す為に放った光の刃はその肉体にぶつかる度に悲鳴を上げ、遂には砕けて消えていく。

 

そして、握り締めていたその手には、収縮された力の奔流が奴の手の内に収まっていた。

 

「言った筈だぞ。“終わらせる”と」

 

「っ!!!!!!」

 

瞬間、コカビエルは“逃げた”。

 

一誠達の方角ではなく、全く別の方向へ、全速力で、死に物狂いで逃げ出した。

 

─────何だ、あれは?

 

 人間、違う。そんな事は初めから分かっていた。

 

 では悪魔? まさか、悪魔の力なんて感じられないし。そもそも奴からはそんな匂いはしない。

 

 なら堕天使? 違う。奴の今手にした光は単に消滅を宿した光じゃない。

 

そもそも、奴が堕天使だったらば、“とうの昔に戦争は終結している”

 

ちらりと、後ろを見る。

 

既に奴の姿は見えない。だが、まるで逃げ切れている気がしない。

 

茶色い大地の上を、光に迫る速さで逃げ続けるが─────。

 

“スローイング……ブラスター!”

 

背後から、そんな声が聞こえ、次の瞬間。

 

「っ!!!??????」

 

巨大。余りにも巨大な光の玉がコカビエルのすぐそこまで迫っていた。

 

「あ、あああ………ああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁああああああああぁぁぁああぁぁっ!!!!!!!!」

 

 混乱、恐怖、そして……絶望。鼻水を涙と共に撒き散らし、迫り来る翠玉を前にコカビエルは発狂の叫びを上げる。

 

遂には逃げるのを諦め、虚ろな表情で光を見つめるコカビエルはある光景を思い出す。

 

それは、まだ自分が堕天する前。神に仕え、神の威光を目の当たりにしていた頃。

 

「おぉ………神よ」

 

それは慈悲、或いは神罰の光。既に抗う気力を無くしたコカビエルはなすがままに光に呑み込まれていく。

 

やがて、光はコカビエルを呑み込み、更に遠くへと飛来し──────着弾。

 

瞬間。戦いの場として用意された広大な世界は、緑色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やりすぎたか?」

 

 目の前の光景に、ブロリーはボソリと呟く。

 

「いや、一応手は抜いたし、死んではいないだろう……多分」

 

ちょっぴり……いや、本当はやりすぎた感ありまくりだが今はそれどころではない。

 

「早くイッセー達と合流しないと、聖剣は結構面倒みたいだからな。盾にはなるだろう」

 

既に魔を消滅する刃を受けてもびくともしないのは実証済み、後は自分が合流する事で皆の負担を少しでも軽くしてやるよう手を貸すべき。

 

 飛べないから走るしかない。ブロリーは一誠達のいる場所に向かって駆けだそうとするが……一度だけ振り返る。

 

「……そういやアイツ、自分の事をコカビエルって言ったか?」

 

今更ながらの疑問。しかし、今は優先すべき事はそれじゃない。まだ戦っているだろう一誠達に協力するべく、ブロリーは駆け出す。

 

 その背景に、半径数十キロにも及ぶ底の見えない大穴を空けておいて。

 

 

 

 

 

 




……次に、君達はコカビエルェと言う。

うん、やりすぎた。

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