悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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今回はバトルが長めなので幾つかに分けて投稿します。


life 27

 

 

 地球のグランドキャニオンを模して造られたフィールド。戦いの場としては広大過ぎるその空間で、幾つもの爆音が轟き、大地を震わせる力と力がぶつかりあっていた。

 

「ふんっ!」

 

 背中に十もの黒い翼を生やした男、堕天使の幹部コカビエルが宙を舞い、天空に手を掲げるとその手に巨大な光の槍を生成する。

 

従来の堕天使が使う光の槍と比べれば物干し竿と爪楊枝の差。圧倒的質量とそれに見合った威力の籠もったそれを、地面に佇むたった一人の人間に向かって投擲する。

 

眼前に迫るその巨大な槍を、男────ブロリーは避ける仕草など見せず。握りしめた手を広げ。

 

「ヌンッ!」

 

槍の先端部分を掴み取り、受け止めて見せたのだ。光の力を込められた巨大な槍の一撃、それを目にしたコカビエルは舌打ちを零す。

 

「返すぞ」

 

ブロリーは巨大な光の槍を持ち上げ、まるで槍投げの如く投げ返す。返された自身の槍をコカビエルは翼を広げ、高速移動で回避する。

 

「まさかたかが人間がここまでの力を持っているとは……見たところ神器の力でもなさそうだが……」

 

「………」

 

 見上げ、見下ろす形となる両者。コカビエルは規格外の力を持つブロリーに戦慄を覚え、また同時に関心し、そして震えていた。

 

「こんな事は初めてだぞ人間。己の肉体のみで戦うなど古の勇者でもなかなかできん芸当だ」

 

 賞賛。コカビエルは自分の下にある人間に惜しみない賞賛を与えた。

 

悪魔でもなければ天使でも、ましてや自分達の様な堕天使でもない、みかけはただの人間が古の大戦から生き延びている自分と“互角”に渡り合えているのだ。

 

魔王と戦うつもりでいた身としては、些か物足りなさを感じるが、それでもこれは予想外の事態だ。

 

 歴戦の強者であるコカビエルに気付かれない速さで近付き、そして地面に叩き伏せられる膂力を持つ人間。………いや、正しくは唯の人間では無いのだろう。

 

コカビエルがブロリーを人間呼ばわりするのは、それ以外に当てはまる言葉が見つからないから。

 

つまらなく、唯の余興と見なしていた今回の戦いだったが、それは思わぬ形として裏切られた。

 

「認めよう人間。貴様は強い、腕力だけなら俺をも凌ぐだろう………だが!」

 

 コカビエルは両手を広げ、空に無数の光の刃を顕現させる。

 

「貴様は、ここで終わりだ!」

 

降り注がれる光の雨。その一撃一撃は並の悪魔なら一発で消滅させる威力を秘めている。それらの中をブロリーは避け、或いはその剛腕で以て防ぎ、破壊する───その一方で。

 

(アーシア達、大丈夫か?)

 

ブロリーは目の前のコカビエルにではなく、遥か向こうで戦っているソーナ、リアス達の身を案じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんで聖剣使いの姉ちゃんがそっちにいるんだよ!?」

 

 地獄の番犬、ケルベロスの攻撃を避けながら俺は此方に聖剣らしき剣を向けているゼノヴィアに声を飛ばす。

 

だってそうだろう。本来ならエクスカリバーを壊す役目を担った彼女が奪った連中の側についてるんだよ!?

 

「無駄よイッセー。恐らく彼女は何らかの暗示にかかっているわ。此方から幾ら呼び掛けても応えることはないわ」

 

 あ、暗示? 操られているって事か? マジかよ! あんな信仰心の塊みたいな奴がそう簡単に暗示に掛けられるものなのかよ!?

 

だけど、確かに部長の言うとおり、ゼノヴィアの様子は普通ではなかった。此方に聖剣の切っ先を向けながらも敵意はまるで感じず、その虚ろな瞳はとても正気のものとは思えなかった。

 

「ギァァァォァッ!」

 

 遠吠えを発し、ケルベロスは後方で回復の支援をしていたアーシアに向かう─────って、やらせるかよ!

 

「やらせるかよ! 犬ッコロがぁぁぁっ!」

 

俺はブーステッド・ギアの力で身体能力を倍加させ、アーシアの救援に向かう。くそ! 間に合わねぇ!

 

「アーシア、逃げろ!」

 

俺はアーシに逃げるよう叫ぶが、まだ悪魔に成り立ての……いや、実戦が初めてのアーシアでは咄嗟に避ける事など出来る筈もなく。

 

「アーシアっ!」

 

 アーシアに地獄の番犬の牙が突き立てようとした─────瞬間。

 

ケルベロスの頭の一つが、血飛沫を撒き散らしながら宙を舞った。

 

「………え?」

 

突然の出来事に目を丸くさせるアーシア。しかし、目の前に立つ一人の少年を見ると途端に顔を綻ばせ。

 

「ゆ、祐斗先輩!」

 

我らの騎士の名を、満面の笑みで叫んだ。

 

この野郎、大遅刻をしただけじゃなくさり気なくオイシイ所を持っていきやがって!

 

「隙あり! 貰ったぜ!」

 

頭部の一つを切り飛ばされ、痛みに悶えた一瞬の隙を突いて、匙は手元から黒く細い触手らしきモノでケルベロスの胴体に張り付き、グルグルと巻き付いた。

 

ケルベロスは必死にもがいて振り解こうとするが、匙の放つ黒いラインから逃れる事はない。

 

更に、匙の手の甲に装着されているトカゲの舌ぎ淡い光を放ち始めると、それはケルベロスから匙の方へと流れていく。

 

「序でだ! テメェのその図体に蓄積されたエネルギー、いただくぜ!」

 

 ─────相手の動きを奪い、更には力も奪う。これが匙の神器、『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』か!

 

匙の神器は俺と同じドラゴン系統の神器である為、喩え初期状態は大したことなくても成長したときの爆発力は他系統の神器とは段違いに凶悪なのだという。

 

しかもその強度は生半可なものではなく、聖剣の一撃にも耐えうる頑強な防御力を誇っているらしい。

 

流石はソーナ会長の兵士。伊達に駒四つも消費してないってか!

 

『そういうお前はあまり活躍見せていないな。相棒』

 

 ウッサイよ! 分かってるから言わないで!

 

 

俺は頭の中で呆れた声を漏らすドライグを黙らせていると。

 

「よし、大分弱ってきたな。会長! リアス先輩! 宜しくお願いします!」

 

「えぇ、分かったわ!」

 

「イッセー!」

 

「了解ッス!」

 

 部長の言葉に従い、俺は籠手に譲渡の為の力を蓄える。籠手に填められた宝玉から光が点滅し、それが目標を倒せるまでに力が高まったと教えてくれる。

 

「準備完了! 会長、部長、いきますよ!」

 

『Transfer!』

 

 ドクン。

 

俺の体を通して、圧倒的な力の流れが会長と朱乃さんにいき渡ったのが感じる。そしてその刹那、二人の体から凄まじい魔力が漂う。両者とも溢れ出す力に驚いていた。

 

「これが、赤龍帝の力……」

 

「────いけるわ!」

 

 部長の不敵な笑みに会長も頷き、二人は同時にケルベロスに向かって飛び立った。

 

「ソーナ!」

 

「任せて!」

 

会長が天に手を翳すと、空気中に含まれる水分が見る見るうちに凝縮し、圧縮していく。

 

荒野の大地にとんでもなく強い水の力に、俺は驚きを露わにしていた。

 

会長の力の強さを察したのか、ケルベロスは逃げようと四肢に力を込めるが。

 

「逃がさないって、言ってんだろ!」

 

匙と、匙の神器がそれを許さない。

 

極限にまで圧縮された会長の水は、やがて一本の剣となり。

 

ドンッ!!

 

ケルベロスの胴体を一刀に両断してみせた。

 

て、てかやべぇぇぇっ!! 会長が水の刃を振り下ろした瞬間、ケルベロス処か地面を、そんでもって向こうの岩山まで両断しちまったぞ!?

 

た、単純な威力ならゼノヴィアが持ってた破壊の聖剣以上なんじゃ……。

 

そして、それを片手で壊したブロリーさん。───何だろう、不遇な扱いを受けているエクスカリバーに聖剣ェと言わずにはいられない。

 

見事に両断されたケルベロスはそのまま塵となり、俺達の前から完全に消滅した。

 

俺達はケルベロスを屠れるチャンスを造ってくれた木場の下へと駆け寄る。

 

「木場、遅かったじゃねぇか! トイレか?」

 

「イッセー君……僕は」

 

 木場の表情は暗かった。……多分、仲間より復讐を優先したのがコイツにそんな気分にさせているんだろう。

 

とは言え、頭の悪い俺ではなんて声を掛けて良いのか分からない。すると、俺達の後ろから部長が前に出て。

 

「……祐斗」

 

「部長、僕は……」

 

「お帰りなさい」

 

「…………え?」

 

お帰り。部長は優しく微笑むとそれだけを告げて木場から離れていく。

 

「祐斗先輩、先程は助けてくれてありがとうございます!」

 

「………来てくれるって、信じてました」

 

「待ってましたわよ」

 

アーシアと小猫ちゃん、そして朱乃さんもが木場の到着を喜び、歓迎していた。

 

「みんな、僕は……僕は……」

 

カタカタと、剣を握った木場の手が震えている。復讐に燃え、迷い、そして到着の遅れた自分に罰する事はなく、暖かく迎え入れてくれた部長達に、木場は多分……怖くなっていたんだと思う。

 

こんな自分勝手な僕を、まだ仲間だと思ってくれている……とか何とか。

 

「おい木場。なにしょぼくれてんだよ、折角のイケメンフェイスが台無しだぜ?」

 

「イッセー君……」

 

「お前の気持ちは、正直俺なんかではとても計れねぇ。ただの人間でしかなかった俺ではも辛い目にあった程度しか思えねぇ」

 

本当は、もっと声を高く叫びたかった筈だ。聖剣の為に生かされ、適合されなかったという理由だけで殺されて……その無念さは喩え悪魔となって生まれ変わった今でも変わらないだろう。

 

 何故自分達なんだ? 自分達がいったい何をした? 理不尽な理由で生かされ、理不尽な理由で殺されて……。

 

涙を流して、可能ならば神様に呪いの言葉を吐き続けて……そんな怨念にも近い感情が木場の心中で渦巻いていると思うと……やりきれなくて仕方ない。

 

だから。

 

「行こうぜ木場、もうすぐお前の悲願は叶う。そしたら、皆と一緒にカラオケ行こうぜ」

 

「………え?」

 

「松田、元浜、アーシア、小猫ちゃんも、皆でカラオケでバカ騒ぎをするんだ。きっと楽しいぜ」

 

「おい、俺は誘ってくれないのかよ?」

 

 俺の提案に匙も乗ってくる。向こうで部長達が羨ましそうにコッチを見てくるけど……すんません! あとで先輩達もお誘いしますんで!

 

「………いいのかい? 僕が、こんな僕なんかが……」

 

「応よ。それに、イケメンのお前を連れて歩けば可愛い女の子が向こうから近づいてくれるからな! 渡りに船って奴だ!」

 

そう、木場は学園きってのイケメンだからそこにいるだけで注目の的になる。そうすればコイツにお近づきになろうと可愛い女の子がわんさか来てくれるって寸法だ! 完璧だ。我が策ながら完璧過ぎる!

 

「……イッセーさん」

 

「イッセー、お前って奴は……」

 

あ、あれ? なにこの空気。なにこのやっちまった感のある空気は?

 

「途中までスッゴく良いこと言ってたのに……最低です」

 

アフン! さ、最低ですか小猫ちゃん、ど。どの辺りで止めておけば良かったのか教えてくれません?

 

「……ありがとう、イッセー君」

 

そう言って木場は少しは吹っ切れたのか、先程とは違った引き締まった顔付きとなり、部長達の前に出た。

 

「バルパー・ガリレイ。お前の聖剣に対する妄念はここまでだ。二度と僕の様な存在を生み出さない為にも、お前はここで斬る!」

 

 その表情は凛々しく、正に騎士そのものだった。

 

復讐に囚われすぎず、けれど確かな意志を持った俺達の騎士が戻ってきたのだ。

 

戦力は整った。後はゼノヴィアを正気に戻し、バルパーの野郎をぶっ飛ばすだけだ!

 

「勇ましいのは結構だが……時間だ」

 

 バルパーがそう言うと、魔方陣の中心に浮いていた聖剣が眩い光を放ち、一つの形を成していく。

 

光を放っていたのはほんの数秒、光は収まり、代わりに中心で佇んでいるのは一振りの聖剣だった。

 

「『天閃の聖剣』、『擬態の聖剣』、『透明の聖剣』、そして砕かれた『破壊の聖剣』。分かたれた七本の内の四本が遂にここに顕現された」

 

 青白いオーラを放つ聖剣。結構な距離があるのにその聖なるオーラは悪魔である俺の本能にヤバいと警邏をならしている。

 

「さて、舞台も整った事だ。そろそろこちらも本腰を入れるとしよう─────フリード」

 

聞きたくもないエセ神父の名前をバルパーが叫ぶと、背後から再び黒い空間が現れ。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 召喚されて俺、参上!」

 

見たくもなかったクソ神父と────。

 

「あれは、ケルベロス!」

 

「クソッ! もう一匹いやがったか!」

 

さっき葬った筈の番犬、ケルベロスがもう一体フリードと共に現れた。

 

「四本となった聖剣だ。振り回されるなよ?」

 

「オーキードーキー、任せてちょ! けどなんかスッゴいビリビリする。こんな気持ちで剣を握るなんて初めて……これが恋?」

 

魔方陣の中心に浮かんでいた聖剣を握り、うっとりとした表情を晒すフリード。相変わらすの変人ップリに反吐がでそうだぜ。

 

俺がクソ神父に嫌悪感を示している一方、今までこちらに剣先を向けるだけで動かなかったゼノヴィアに変化が現れる。

 

「さて、コレで役者は揃った。七本の内四つの力取り戻した聖剣エクスカリバー。そして人工なものとは違い、天然の聖剣使いであるゼノヴィアが持つ聖剣デュランダル。これらを前にして諸君等は何人生き残れるかな?」

 

聖剣エクスカリバーと聖剣デュランダル……うん、唯でさえ厄介な聖剣が更にもう一本増えちまった所か。

 

オマケにケルベロスのという犬も突いてきているし、ブロリーさんはコカビエルの相手で忙しそうだ。

 

けどな。

 

「良かったな木場、エクスカリバーだけじゃなくてデュランダルって聖剣も付いてきたぞ」

 

「そうだね。かなり厳しそうだけど……ま、がんばってみるよ」

 

「やる気を出すのは良いけど、ちゃんと私達に合わせなさいよ? 祐斗、でないと尻叩き千回じゃすまないわよ」

 

「あはは、それは怖いですね。ならその役目はイッセー君に譲りましょう」

 

「ちょ、俺はそんな特殊な性癖持ってねぇよ!? 何言ってんのお前!?」

 

「イッセー先輩は、私が担当します」

 

「まさかの小猫ちゃん参戦!?」

 

「蹴り上げます」

 

「蹴り!? まさかのローキック! 止めて、小猫ちゃんに蹴られたら俺のお尻が真っ二つに裂けちゃう!」

 

「元からでしょうに」

 

おお、まさかの会長までツッコミに参加してくれるとは!

 

そう、俺達は聖剣という悪魔には絶対的不利な武器を前に微塵も恐れてはいなかった。

 

そんな俺達の態度が気に入らないのか、フリードの額には幾つもの青筋が浮かび上がっており、今にも襲ってきそうだ。

 

「さて、エクスカリバーを破壊する序でに聖剣使いの女性も正気に戻す必要があるね」

 

「いざとなったら俺の洋服破壊で真っ裸にしてやるから安心しろ」

 

「何っ!? イッセー、お前そんな素敵な技を!?」

 

「………匙?」

 

 会長の眼光に押し黙り、萎縮する匙。こ、こぇぇ、会長のあの眼、聖剣より鋭く見えた。

 

「イッセー、後でケツバットね」

 

あうっ! いつの間にか体育会系なお姉さまから痛恨の宣言! ………ていうか、なんか部長、最近こういう時の愛の鞭が過激になってきてません? 主にライザーを倒した次の日辺りから。

 

「………いい加減にしろよ。この、クソ悪魔どもぉぉぉぉっ!!」

 

おっと、いつのまにか激昂したフリードが聖剣片手に突っ込んできている。同時にゼノヴィアもデュランダルを掲げて来ているし、いよいよ聖剣との正面衝突か!

 

いいぜ、こいよ! 頭にきてんのはコッチだって同じだ!

 

ブロリーさんがコカビエルと決着つける前に片付けてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、まさかここまで俺を楽しませてくれるとはな、面白いぞ人間!」

 

 嘗てない好敵手にコカビエルが感激に震えていた一方で。

 

(……ところでコイツ、誰?)

 

ブロリーは目の前の堕天使がコカビエルだとは欠片も気付いてはいなかった。

 

 

 




次回は木場視点をメインに進みたいと思います。

復讐を誓ったけどリアス達を裏切ることも出来ない木場の葛藤、上手くかけるようがんばります。

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